※この作品はR-18です。

淫臭村フィールドワーク〜ムチムチドスケベ欲求不満おんなばかりの田舎村を調査する〜   作:ユリイカ

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第6話「インタビュー」

 翌朝。桃香村での二日目を迎える。耀としては微睡みに任せて布団にくるまっていたい気持ちが大きいが、卒論のためにはそうも言っていられない。百花舞奉納まであと六日しかないのだ。その間に村人たちに聞き込みをしたり、史蹟を調べたりと、祭りの周辺情報を集めなければならなかった。

 ぼんやりとした眠気を振り払い、荷物を確認する。動きやすさを重視して、小ぶりなスリングバッグに貴重品だけ入れておく。フィールドワークは初めてだが、教授からはとりあえず会話するときに録音を取り、メモをすぐに書けばよいとだけしか教えられていなかった。

 

「おはようございます、結美さん」

「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」

 

 身支度を整えて食堂へ向かうと、白いエプロンを着けた結美が迎えた。邪気のない笑みは、昨夜の温泉での淫行をまったく感じさせない。民宿の純朴な女将そのものである。

 

「腹もいっぱいになりましたから、すぐに寝ちゃいました。今日から本腰を入れて調査を始めます」

「そっか。元々の目的はフィールドワークだったものね。じゃあ、朝からしっかり食べておかないと!」

 

 結美の料理の腕は、昨日のご馳走ですでに知っている。だが、テーブルに用意された朝食もキラキラと輝いて見える。炊き立ての白米は粒が立ち、焼き鮭は皮目がぷすぷすと油を滲ませている。手の込んだ小鉢がいくつも並んでいた。耀は彼女のまごころに感謝して、早速箸を手に取った。

 

「ふぅ、食った食った。……腹ごなしに歩かないと、ちょっと聞き込みどころじゃないな」

 

 すっかり膨らんだ腹をさすりながら、白樺荘を発つ耀。玲奈にも挨拶をしたかったが、彼女は遠方の高校に通うため朝早くに出ていってしまったという。昨夜の、意味深長な忠告が耳に残っていた。

 

「桃ねぇ」

 

 桃だけは食べてはならない。笙子に提示された五つの掟のうちの一つでもある。男子は桃を食べるべからず、と第一の項目に記されていた。

 耀は村の中心を貫く通りを歩きながら周囲を見渡す。ここまで運んでくれたタクシー運転手は特産らしいものは何もないと言っていた。たしかに、村の中に土産物屋のような、観光客を見据えた店は見当たらなかった。しかし村に入った時に車窓に流れ込む風から甘い香気を感じたのも事実なのだ。

 桃香村という名前もあからさまだ。何かしら、桃との関連がありそうな気がする。

 郷土資料館のような施設はないだろうか、などと首を捻りながら耀は当てもなく歩く。そうこうしていると、向こうから作業着姿の女性が歩いてきた。手には鍬を持っているあたり、これから畑に出るのだろう。

 

「おはようございます!」

 

 フィールドワークの基本は聞き込みだ。地元の人間からその土地の歴史やいわれを聞き出すことができれば、卒論の内容も充実する。邪な気持ちを胸の内に隠して声をかける。

 女性は耀の声に驚いた様子で立ち止まり、周囲を見渡して自分以外に人がいないことに気付く。

 

「お、おはようございます」

 

 若干困惑したような挨拶が返ってくる。村人が外部の人間に慣れていないのは、昨日すでに実感していた。耀はくじけそうな気持ちを抑えつつ、努めて笑顔で言葉を続ける。

 

「初めまして。昨日、この村に来た初瀬川と言います。この村の百花舞奉納について調べているんですが、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「はぁ……。私、ほとんど何も知りませんけど」

 

 警戒感がありありと伝わってくる。

 それでも耀はなんとかインタビューと録音の許可をもぎ取った。

 ちょうどよく路傍に長椅子が置かれており、そこに腰を据えることとなった。作業着姿で日光を遮るつばの広い野良帽子を被った女性は、30代の半ばといったところか。耀は地味な出立ちから想像しなかった美人に驚く。

 

「この村の方ってみんなお綺麗なんですね」

「うふふ。そんなお世辞を言われなくても、ちゃんと質問には答えますよ」

 

 耀は本心からの言葉だったが、女性は照れたように手を振る。有名な化粧品メーカーやファッションブランドの重鎮にも桃香村の出身者がいるという話もあり、血筋として美人が多いのだろうか。

 

「それじゃあ、まずは百花舞奉納についてお聞きしてもいいでしょうか。ご自身が参加なさったことは?」

「参加……。観覧だけなら、毎回していますよ」

 

 少し考え込んだのち、女性は答える。その反応を疑問に思った耀の表情を察して、付け加えた。

 

「奉納は村人から選ばれた巫女が行うんです」

「なるほど。祭りのメインはその奉納なんですね」

「……ええ」

 

 スマホの録音が機能しているか確かめながら、耀は女性の奥歯に物が挟まったような反応を怪訝に思う。百花舞奉納は巫女による踊りを神前に捧げるというものらしい。それならば、全国各地で似たようなものがあるだろう。

 この村のそれが秘祭と呼ばれる所以がわからない。

 

「お祭りは五年に一度とのことですが、前回はどのような感じだったんですか?」

「そうですね。……ここ最近は村の人も少なくなって、ずっと略式で執り行われていました」

「略式、ですか」

 

 たしかに桃香村は僻地にある小村だ。立派な道路が敷かれ、街頭も整備されているものの、絶対的な人口は少ない。これでは祭りを実施する負担も相応のものだろう。周辺のいくつかを省いた形式に変わっていくことも仕方がない。

 人口過疎化に伴う祭礼の簡素化、という副題で卒業論文を編むという可能性が、耀の脳裏をよぎった。だが、帽子の下から女性が色めいた視線を向けてきた。

 

「でも、若い人もいますし、まだまだ元気な人も多いですから。もしかしたら今年は正式な百花舞奉納ができるかもしれない、っていう話もあるんですよ」

「なるほど。それは確かに」

 

 思い当たるのは玲奈である。卒業間近とはいえ、まだ高校生の少女だ。しかも毎日町の方の高校まで自転車で通い、運動部に所属するほどアグレッシブだ。彼女が祭りを牽引してくれるなら、きっと良いものができる。

 

「正式な百花舞奉納は本当に久しぶりで、村の中でも体験していない人がほとんどなんです。最後の神前奉納を知ってるのは、笙子さんだけかしら」

「谷倉さんですか」

 

 ここで名前が出てきたのは、桃香村の村長であった。彼女も若々しく張りのある美貌だが、おそらく50代ではあるはずだ。百花舞奉納も略式となって久しいことが分かる。このままでは正式な祭りが失伝してしまうという恐れもあるはずだった。

 そんな笙子が、祭りを重要に思うのは当然のことだろう。本来の神聖なものを取り戻すため、外部の人間を拒みたいという気持ちもわかる。

 インタビュイーの女性は頬に手を添えて憂いを帯びた表情になる。彼女の視線の先には、村の奥にある谷倉家があった。

 

「あの時は笙子さん、大変だったみたいよ。プレッシャーもあっただろうし」

「プレッシャー?」

「あっ。ええと、巫女は重要なお役目だから、ね?」

 

 取り繕うような言葉は、耀の中の違和感を大きくする。

 何か隠されているような、誤魔化されているような、そんな気配があった。しかし、それを追及できるほど耀もインタビューに長けているわけではない。微妙なしこりを残しつつ、頷くほかなかった。

 

「そういえば、あなた。約束は守ってらっしゃる?」

「約束? あ、掟のことですか。えっと、はい。守ってます」

 

 不意打ちで逆に質問を投げかけられ、耀は驚きながらも頷く。昨夜、早速破ってしまったばかりだが、結美は二人だけの秘密だと言っていた。ここで自分が不用意なことを言わなければ、露呈することはない。

 それよりも、まさか笙子以外の村人からも掟の遵守を確かめられるとは思いもしなかった。

 

「そう。なら良かったわ」

 

 耀の返答を見て、女性はにこやかに笑う。

 その愛嬌のある表情にも、どこか裏があるような気がして、耀は無性に胸がざわつくのだった。

 

「今年の百花舞奉納はきっといいものになるわ。耀さんも楽しみにね」

 

 期待のこもった熱い瞳が、青年を貫く。

 女性はそう言い残して畑へと向かった。

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