ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 :AI二次創作 作:カード読み込み
・河合隆三(歯科技工士)30代男性の場合
ロボ子の工房へ一歩踏み込んだ途端、
河合隆三は己の心拍数が急上昇するのを自覚した。
鈍い油と鉄粉の香り。壁一面の工具。
中央の簡易診療台には新品のシリコンマウスピースが鎮座しており、
まるで獲物を待つかのように静かに光を反射している。
(落ち着け……これは研究だ……)
彼は何度も唱えた呪文のように胸の内で繰り返す。
白衣の裾を翻す動作はすでに癖になっているが、
今回は奇妙に扇状に広がってしまった。
千賀子の視線がその動きを追ってくるからだ。
「口腔構造の研究……ですか?」
彼女の声音には困惑と好奇心が入り混じっていた。
マラソンウェアのハイネックが喉仏を隠し、
代わりにあどけなさすら漂わせる顎ラインを露呈させている。
その輪郭が妙に幼く見えてしまうのは、
おそらくスポーツドリンクのボトルを噛んでいた名残ゆえだろう。
「そうです!」
河合は思い切って前へ進み出た。
「咬合のバランス理論を科学的データに基づいて証明したいんです!
あなたの歯並びなら理想的なサンプルになりますから!」
千賀子は小首を傾げたまま沈黙を守る。
琥珀色の瞳は相変わらず透徹しており、
こちらの浅薄な欲望さえ読み取られていないか不安になる。
「具体的には何を?」
緊張から言葉に詰まる河合に変わって女神様が横から口を挟む。
「簡単に言うとね〜歯科医院で使う石膏模型みたいなものを
愛し子のお口の中で採らせてあげるってこと」
無邪気な説明だが河合にとっては救世主の福音だった。
少なくとも倫理のハードルは一段低くなった気がする。
「あの……もし良ければ口腔内を触診しても?」
思い切って申し出た要求に
千賀子は逡巡の末、ゆっくりと口を開けた。
桜貝のような前歯。
さらに奥には犬歯の尖峰が微かに垣間見える。
粘膜は瑞々しく珊瑚礁を連想させた。
(美しい……)
単純な感嘆を抱きながらも彼の本業本能が蘇る。
下顎骨の接合角。
臼歯の磨耗痕。
咽頭後壁への接触深度。
それら全てが完璧なハーモニーを奏でている。
「まず上顎前歯列から……」
河合は滅菌済みのゴム手袋を嵌め
専用ブラシに似た探査器具を慎重に挿入した。
舌苔は殆ど無い。
歯肉溝の深さも標準値範囲。
あくまで治療目的であれば拍手喝采レベルの健康度だ。
だが次第に彼の呼吸は荒くなる。
指先に伝わる唾液の温度。
舌裏の脈動。
時折絡みつく筋繊維の蠢動。
それら全てが予想以上の刺激となって襲いかかる。
「んっ……」
千賀子の喉が小さく鳴った。
慌てて身を引く河合。
「すみません! 痛みましたか?」
「いえ……少しくすぐったくて」
頬を染める仕草。
その無防備さが却って背徳感を煽る。
女神様がにっこり笑う。
「いいわよ〜続けて♡
あとついでに唾液分泌量も測定しましょう?
愛し子の口内環境は栄養学的にも興味深いから」
了解、と頷きながら河合は唾液採取容器を取り出した。
楕円形のプラスチックトレー。
本来ならば患者が自発的に溜めるところだが―
「もしよろしければ私の指先に舌で刺激を与えてみて下さい」
河合の大胆な提案に千賀子は少しだけ目を丸くした。
しかし拒否しない。
彼女はゆっくりと唇を開き
舌を差し出すようにして待ち受ける。
その姿勢だけで河合の鼓動は限界寸前にまで高まる。
医師免許を持つ自分がこんな状況にいることが信じられない。
(俺は何をしてるんだ……)
脳裏で警鐘が鳴る一方で
肉体は勝手に行動へ移ってしまう。
消毒液に浸した指先をそっと差し入れる。
千賀子の舌が迎えるように絡みつく。
柔軟で温かく潤沢な感触。
あっという間に唾液の湖ができ上がる。
「すごい量ですね……」
研究助手としては正常なコメントだった筈だが
声が明らかに上擦ってしまった。
千賀子も気づいているのか頬が更に朱を刷いている。
そこで女神様が突然パンッと手を叩いた。
「ちょっと休憩しましょ。長い作業になると愛し子も疲れちゃうし」
一旦中断となり二人は並んで椅子に腰掛ける。
室温の低い工房内で額に汗を滲ませた千賀子を見て
河合はある違和感に気づいた。
彼女の唇は僅かに腫れている。
過剰な摩擦による炎症?
あるいは心理的ストレス?
(やはり強引過ぎたか……?)
反省の念が鎌首をもたげる中、千賀子が静かに言葉を紡いだ。
「面白い経験です」
「歯というのは食事以外にも色々な機能がありますからね」
意外な方向からの考察に河合は驚いた。
彼女がここまで科学的思考を持っているとは。
「例えば話す時に使いますし
親指の爪を噛む人もいますよね」
「ええ……そうですね」
「他にも……例えば愛情表現にも用いられます」
唐突な展開。
千賀子の視線は前方を向いたまま逸らされることはない。
河合は咄嗟に己の股間を確認するが幸いベルトは留まったままだ。
「つまり人間の口腔は非常に複合的な器官ということです」
続ける千賀子の口調は至極真面目だった。
「ですので私としても充分なデータを収集出来るかどうか気になっています」
研究者らしい健全な態度。
しかし今の河合には毒に等しい誘い文句に聞こえてしまった。
結局午後いっぱいを使った結果得られた資料は膨大だった。
咬合力測定値。
静止位での歯列構造写真。
咀嚼運動の三次元トラジェクトリ。
さらにはX線フィルム撮影まで敢行できた。
最後に河合は模型製作用の印象材を準備する。
「これで最後です。上下顎の歯型を取りますので
少しだけ開けたままでお願いします」
言われた通り協力する千賀子。
そこへ忍び寄るように女神様が耳打ちした。
「ねぇねぇ~口を閉じずに十五秒以上保てたらポイントプラスで♡」
冗談半分の挑発。
だが千賀子は頷き実践した。
結果として極めて精度の高いモデルが形成され
河合はこの分野で世界的な論文を書ける自信を得た。
**【唇の艶と鋼鉄の歯車】**
「……ご協力ありがとうございます」
声が震えたのは当然のことだった。
相手は秋山千賀子──神に選ばれし“愛し子”であり、
昭和末期の空気を揺るがす生きた伝説なのだ。
(信じられん……これほどの接近を許してくれるとは)
彼の目的はあくまで医学的好奇心であり研究材料の確保である。
だが眼前に広がるのはそれ以上の意味を持つ聖域だった。
舌裏の粘膜は珊瑚のように薄桃色で、唾液の薄膜が星光のように煌めいている。
そのとき事件が起きる。
唇の艶。
潤った双葉のような輪郭。
桜色の花弁が咲き誇り、
かすかに濡れた表面が電燈の光を受けて宝石のように煌めく。
その艶っぽさに心臓が鷲掴みにされたかと思うほどの衝撃を受けたのだ。
「河合先生?」
突然呼びかけられ、我に返る。
目の前の少女──秋山千賀子が首を傾げている。
長い睫毛が影を作り、白磁のような肌に儚い陰影を落としている。
その唇の艶……艶やかで滑らかな曲線は、
まるで熟した桃の果実のごとく妖艶な輝きを湛えていた。
思わず目が釘付けになってしまう。
(いかん!)
彼は慌てて白衣の襟元を正し、深呼吸した。
だが肺に入ってきたのは金属と油の混ざった工房独特の匂いではなく、
どこか甘美で芳醇な芳香。千賀子から発せられるその香りは、
昭和末期の古ぼけた建物には不釣り合いなほど鮮烈だった。
「どうされました? 急に顔色が悪いようですけど」
心配そうな瞳がこちらを覗き込んでいる。
その琥珀色の眸が映し出す自分の姿に羞恥を覚える。
「いや……何でもありません」
無理やり平静を取り繕うが声は掠れていた。原因は明白。
さっきから心臓が暴走しているせいだ。
バクバクと肋骨を叩く鼓動が耳障りなほど大きく響いている。
(落ち着け……これは業務だ……これは業務だ……)
何度も念仏のように唱えるが効果なし。
むしろ唱えるたびに千賀子の唇の艶が網膜裏側で肥大していく。
あの柔らかそうな下唇を人差し指でつつきたい衝動。
もしくはそのまま顔全体を押し潰してしまいそうな凶暴な欲望。
だがそれは叶わない禁忌なのだと理解している。
が─────────
「コレは『ご褒美』ですよ? アナタのしたいようにすれば良いのです」
女神様の言葉に、千賀子がナニかを諦め、河合は……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
複数回ループ……後
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
繰り返し行われた検査工程の合間、
ロボ子の工房には昭和末期特有の機械油と溶剤の混じった匂いが充満していた。
換気扇がカタカタと古いプロペラ音を立てて回っている。
河合の白衣の裾が機械の排気に巻かれ、ヒラリと舞う。
「もう何度目だ?」
そう独りごちながらも彼の手は止まらない。
机上のルーターがキィーと甲高い悲鳴をあげる。
削られているのは銀色の塊──義歯の原型である。
膨大な試行錯誤の結果、ようやく理想的な形状に近づきつつあった。
「いや待てよ」
ふと手を止め凝視する。微妙に残る段差。
光が当たる角度によっては僅かに歪む弧線。
これを放置すれば長期間使用時のトラブルに繋がる。
「まだ甘い……」
苛立ちと共にハンダごてを置き、
より正確なデータを取るべく、千賀子の口内を自前の棒で探る。
「うっぐ、うむぅ……んっ」
数え切れないほど咥えこまされ、慣れたモノのはずだが、
それでも最初の硬さを知る舌先が反射的に跳ねた。
やがて奥底から滴る液体が棒の隙間を満たし始め、
仄かな薬剤の匂いと共に艶かしい熱が滲む。
彼の右手は動かない。左手は機械の上で小刻みに震えている。
焦点は曖昧なまま揺らぎ、視界の隅では透明な糸が引き始めた。
その一本を辿れば先端には彼女の潤んだ唇が……
潤んだ瞳で見上げる美貌に心躍らせ、嬉々として舌の柔らかさを探る。
滑らかな歯列に沿って往復し、上顎の凹凸を確かめるうちに
口腔内の湿度が急速に上がり始めた。
唾液腺から溢れる蜜が金属片と皮膚の間に染み込み
ぬちゅっ……とした湿った音を奏で出す。
「んんっ……うぁ」
声にならない呻き。
それがまた新しい刺激となり流れを加速させる。
千賀子は両手で河合の腕を掴みつつも抵抗せず
むしろその圧迫感さえ享受するかのように唇を緩める。
口腔内の粘膜が舌根近くまで伸び切り
過敏になった箇所に接触するたびビクリと肩が震える。
「ふっ……ぐ」
河合の喉から獣じみた唸り声。
全身が弓なりに張り詰め
作業服の下で筋肉が激しく脈打つ。
その反応に連鎖するかのように千賀子の方でも痙攣が始まり
薄い粘液の橋が二人の間を行き来する。
やがて……
「……んンッ!!!」
千賀子の喉が嚥下運動を開始した瞬間
河合の自制心も限界を迎え吹き飛んだ。
爆発的な解放感と共に熱い奔流が飛び出す。
同時に千賀子の小さな躯も仰け反り
震える四肢を絡め合う形となったまま工房の床へ崩れ落ちる。
周囲には機械の唸りと蒸気の音だけが響く中
互いの荒い呼吸音だけが響いていた。
無意識に這う舌が棒を洗浄しつつ、
すぐに使用可能な状態へと仕上げていく。
粘液でぬらつく表面から漂う異臭はむしろ次の挑戦を促す
スパイスとなっていることに当人たちも気づかないフリをするしかない。
「……ダメだ……まだまだ調整が必要だ……」
放心状態から抜け出した河合が呟く。
「もう少しだけ付き合ってくれますか?」
懇願するような問いに千賀子は弱々しく頷いた。
口端には泡状になった混合液が垂れているものの
彼女の眼差しにはまだ探究心が宿っている。
そしてまた作業台へ向かい合う二つの影……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
唇が棒の形状を探るように吸い付く。
そのたびに零れる吐息の湿り気に眩暈がする。
「いいですか?」
声は掠れていた。
河合自身が理解できないほどの欲求の源泉を
自ら掘り起こす作業に戸惑いつつも抗えない。
「ご自由に」
答える千賀子の声音は疲労と高揚が綯い交ぜだった。
その刹那、鉄のような匂いと僅かな甘味が鼻腔を刺し
河合は反射的に瞼を閉じる。
彼が最も信頼してきた論理的思考が瓦解し始めていた。
検査道具──そう自分に言い聞かせ続けたそれは
今まさに用途を超えて新たな意味を持とうとしている。
口内へ侵入するたび生まれる水音は
唾液とその他諸々が混じり合った賛歌へ変わり
歯茎の稜線に沿って旋回する棒は
徐々に硬度を増していく。
「はぁっ……あ」
千賀子の声帯が微かに震える。
その旋律に誘われるように更に深く押し進めば
舌根との接点が強く押し返してくる。
まるで意思ある生物が抵抗しているようだ。
だがここまできたらもう止められない。
「もっとよく見せてもらえますか?」
言い終わるより早く千賀子は素直に応じた。
上向き加減の顎と緩んだ頬の弛緩具合。
あふれる涙と共に輝く光彩。
その美しさを前に理性など泡沫の如く霧散してしまう。
棒を咥えたまま眼球だけ動かせば
天井で回転する蛍光灯が目に焼きつく。
暗闇に浮かぶ十字模様と白濁する光束の乱舞。
河合は思う。これこそ臨床データ以上の貴重なものではないか?
五感が直接触れ合う現場での即時反応記録こそ真に必要な症例なのだと。
「いい表情です」
誉めるつもりだったのに唇からは呪詛にも似た囁きが出る。
棒を抜き差しする速度が徐々に上がってゆく。
粘膜を擦る摩擦音と体内から漏れる嗚咽。
双方が化学反応を起こし新たな粘度へ変わっていく。
やがて頂点へ達しようとする気配を感じた時
河合は咄嵯に千賀子の後頭部を押さえつけた。
「うぅっ……!!」
苦悶とも歓喜とも判別のつかない絶叫が迸る。
同時に出るべきものを一滴残らず放出すべく
腹筋を最大限収縮させる。
そして全て終わった時。
脱力感と恍惚感が同時に押し寄せた。
膝をついたまま荒い息遣いだけを聞かせる二人の間を
冷却ファンの風が通り過ぎる。
床面ではまだ湯気を立てる液体が水溜りとなりつつあり
その中心部で妖しく煌めくモノがある。
それは千賀子の唾液とそれ以外の混合液に包まれた
検査器具の亡骸であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
必要な書類を書いている間も、デスクの下に潜り込んだ千賀子が
モノを咥えこんで舌を這い回らせるようになったのはいつからだったか。
「そんなに好きか?」
ぽつりと尋ねると、彼女は唇の動きだけで肯定する。
舌先が亀頭を包み込み、尿道口に唾液を塗りたくるように奉仕してくる。
根元では指がシコシコとしごきあげてきており、竿全体がひっきりなしに痙攣する。
もう何度も扱かれているせいで完全に勃起し切れず
中途半端な膨張状態を維持しているモノは
柔らかい粘膜によってぐちゅぐちゅとかき混ぜられている。
(まったく……)
呆れつつも悪くない気持ちになるのは認めざるを得ない。
それにしても彼女はなぜここまで献身的に尽くすのか。
女神様曰く「ご褒美」という名目上とはいえ、
恋人でもない女性が積極的に男性器をしゃぶり続けるなんて異常事態だと思うのだが。
だがそんな疑問すら飲み込まれてしまいそうな愉悦。
やがて背中を電流が駆け上る予兆を感じとり、河合は目を閉じる。
その瞬間を見計らっていたかのように千賀子の吸引が強まった。
喉奥まで招き入れて強烈な吸引力で搾り取ろうとしてくる。
堪らず河合の口から喘ぎ声が漏れた。
同時に腰が勝手に動いてしまう。
まるでポンプのように出し入れを繰り返す動きに対応して
彼女の口腔は自在に変化し快感を与えてくる。
「くっ……ああっ」
もう我慢できない。
最後のひと押しが必要だった。
河合は千賀子の頭を両手で掴むとグイッと引き寄せた。
深く飲み込ませて密着させることにより射精へのスイッチを入れるつもりだった。
しかし彼女の方が一枚上手だったようだ。
口内の温度が一気に上がり、熱くうねる蠕動運動が波状攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ぐぅぅっ!」
耐えきれず精液が噴出する。
どぴゅっ! びゅるるっ!!
大量の白濁液が噴き出す音が室内に響き渡った。
その間も千賀子は律儀に舌を使い続けているため
亀頭から放出される熱量は何倍にも増幅されて感じ取ることができる。
何度目かも分からない快楽の波に呑まれて思考力が奪われていく。
もう何も考えたくない。
このまま永久に続いてほしいと思った。
敏感な先端をゆるゆると吸われながら全身が弛緩していく感覚。
ようやくすべて放出しきったところで彼女は口を離してくれた。
最後の一滴までしっかり味わうかのように啜り上げられるのがとても心地よい。
解放感と脱力感でしばらく放心状態だったが
ふと目の前の光景に気づく。
そこには唇の周りを白く汚したまま微笑む千賀子の姿があった。
「終わりました」
そう言ってぺろりと舌舐めずりをする仕草があまりにも淫靡だったので
萎えていたはずのモノがまた兆し始めてしまう。
まずいと思いながらも止められない生理現象だった。
それに気づいた千賀子が口を開く。
「もう一回しますか?」
悪魔的な誘惑だった。
いや天使なのか?
どちらにせよ今の自分にとって魅力的な提案であることは間違いない。
理性を失い本能の赴くまま貪られる下半身は既に臨戦態勢に入っている。
まったく困ったものだ。
こんな年齢になってもなお性欲が衰えないとは。
いやそもそも老化してどうすると言うのか。
生きている限り精力旺盛であって然るべきだろう。
男としての矜持もある。
ここで引いたら負けだ。
「もちろんだ」
答えると同時に千賀子が先程よりも遥かに濃厚な奉仕を始め
喉奥深くまで突き入れてやると嬉しそうな表情を見せてくれる。
(こんな美人が俺なんかと……)
そう思うとなぜか胸が痛む気がしたけれど無視することにする。
今はただ目の前の快楽に溺れていよう。そう決めた。
◆◆◆
冷たいタイル貼りの診察台に横たわる千賀子の肢体。
マラソンウェアが剥ぎ取られていき、
露わになった肌には薄っすら汗が滲む。
そこへ差し伸べられる河合の左手。
乾燥した指の腹がゆっくりと白い腹部を撫でると
ぷっくり膨らんだ臍を中心に同心円状に鳥肌が立つ。
「まずは口腔内の詳細計測から始めましょう」
冷静を装った声色とは裏腹に息遣いは荒々しく乱れている。
口唇をそっと開けば淡いピンク色の粘膜が露出する。
そこに差し込まれたのは一般的な探針ではない。
何本もの細いワイヤーを束ねた検査装置なのだ。
螺旋状に捻じれた表面が上顎乳頭部をまさぐるにつれ
千賀子の背筋がびくんと跳ねる。
「あっ……くっ……」
逃げ場のない快感に身悶える少女。
それを愉悦の笑みで眺めつつ河合は操作ダイヤルを回した。
内部構造の画像がモニターに浮かび上がると同時に
歯槽骨周辺温度が上昇したことを告げる警告音が鳴り響く。
「なるほど……」
呟きながらセンサーを更に奥へ進める。
喉頭蓋縁まで到達した時点で突然千賀子が咳き込んだ。
反射的な防御反応だが河合はそれを抑えるように顎を固定する。
「まだ序の口ですよ」
残酷な宣告とともに新たな検査項目へ移行する準備が整う。
次に取り出されたのは透明樹脂製のマウスピースだった。
表面には無数の微細孔が穿たれており
それぞれ異なる成分の検体を注入可能となっている。
「さて」
河合が試験管ラックを引っ張ってくる。
並ぶのは濃灰色の液体ばかり。
一瞥しただけで千賀子はそれが何か悟ったらしい。
頬を紅潮させ視線を泳がせる仕草は初々しくもあり淫靡でもある。
「これは特殊な歯質検査用溶液です」
わざと曖昧な表現を使うことで聴覚越しに想像させる趣向である。
実際に中身は某有名メーカーが秘密裡に開発した媚薬剤なのだが
そんな真実はおくびにも出さないまま作業を進行させる。
「ゆっくり浸透させますよ」
宣言するとともに注射器で吸引した液体を流し込んでいく。
するとどうだろうか。
最初は抵抗していた千賀子の唇も徐々に緩み
最後には自分から飲み干すかのように嚥下運動を行う始末だ。
「効いてきましたか?」
揶揄う口調で訊ねれば小さく首肯される。
しかしその頃には既に施術者の衣服にも変化が及んでいた。
ズボン越しでも分かるほど怒張した肉棒の先端から
先走り汁が滲み出て布地を濡らし始めている。
このままでは危険だと判断した河合は一旦席を外そうとした。
しかし振り返った瞬間目に入ったものは更なる悪夢だった。
なんと千賀子が四つん這いになって近づいてくるではないか。
しかも明らかに狙いは一点集中されている様子で
指先は既にベルトバックルに届こうとしている。
「いけませんよ」
制止しても聞き入れられるはずもなく
あっという間にファスナーが下げられてしまった。
解放された瞬間ビクンと脈打つ剛直を目にして
千賀子の瞳孔が一層拡大するのが見て取れる。
「ああ……すごい」
うっとりとした声で呟きながら両手で握りしめる。
途端に湧き起こる射精衝動。
必死に耐えようと腹筋に力を入れるものの
彼女の柔らかい掌が上下するたび腰砕けになりそうだ。
「だめですって」
なんとか自制しようと足掻くがそれも虚しい努力だった。
なぜならすでに彼女の唇は先端部を捉えていたからである。
亀頭全体を覆うようなディープキス。
それが開始の合図となった。
舌先で丹念にカリ首をなぞりながら根元へ降りてくる動作。
途中で窄めた頬袋で真空状態を作り出し吸い上げる技術なども交えてくる。
間違いなく娼婦以上の技巧だった。
(こんなの耐えられるわけがない)
絶望的な思いとともに訪れる射精感。
案の定抗うこともできず精液が放出された。
ドクンドクンと脈打つように吐き出された白濁液を
千賀子は一滴残さず受け止めてくれたようだ。
飲み干した後に見せた微笑みは天使そのもの。
しかしそれは悪魔に魂を売る契約を意味したのではないかと思えてならない。
「まだ足りないでしょう?」
悪戯っぽく尋ねられて否定できるはずもない。
再び臨戦態勢に入った自分の分身を指し示せば彼女は嬉しそうに笑って言った。
「じゃあ続きを始めましょうか」
◆◆◆
照明の光が千賀子の裸体を斑に染めていた。
昭和末期の粗雑な蛍光灯が投げかける影は妙に立体感を際立たせている。
白磁器を思わせる肌の上を光の粒子が踊る度、彼女の体温が感じられるようだった。
汗が玉となって肌を伝い落ちていく。
胸の谷間を埋めるように滲んだ滴が鎖骨の窪みで弾ける。
「はぁ……っ」
吐息と共にこぼれ出る甘い声。
それだけで空間の湿度が一段上がったような錯覚を覚える。
(美しいな)
河合は改めて思った。
これまで幾多の女性を見てきたはずなのに
今この瞬間見る景色ほど妖艶で儚いものは無いかもしれない。
そう確信できるほどに現在目の当たりにしている情景は異彩を放っていた。
白い乳房の頂きにある淡い桃色の蕾は硬く尖り自己主張している。
腹部には脂肪が程よく乗っていて女性らしい丸みがある。
臍の周りには微かに窪みがあり
そこを中心として放射状に小さなホクロが配置されていた。
さらに視線を下へ移動させれば慎ましやかな恥丘があり茂みは控えめだ。
一本一本の毛束が光沢を纏って輝いて見える。
臀部は横に広がっており安産型と言えるだろう。
背中へかけてのS字カーブも見事でまさに芸術品といった佇まいである。
全てにおいて完璧に近い肉体。
それ故にこそ淫靡さは際立つのだと実感させられる。
(本当に……素晴らしい)
感嘆の声を漏らしながら彼は検査器具を取り出した。
ステンレス製のバーを添わせるだけで
柔肌が粟立つ様子は見ていて飽きない。
しかし何より興奮するのは
これから先に行われるであろう行為についてであった。
この手の中にある器具を使って
彼女の奥底まで調べ尽くすことになるのだ。
それは医療行為の一環であり本来であれば
特別な感情など抱くべきではない。
けれどもそう割り切ることができない自分が
確かにいることを認めざるを得なかった。
(僕はどうかしている)
苦笑いを浮かべつつも指先は震えている。
緊張とはまた別の理由で心拍数が上がっていくのを感じていた。
喉がカラカラに乾いてくる。
唾液が分泌されることすら忘れたかのように
口中の水分がなくなってしまいそうだ。
そんな状況下だからこそ余計に思考が混乱する。
一体どんな手段を選択すべきなのか。
慎重に考慮する時間が必要だった。
まず最初に行うべきは精神安定剤の服用だろうか?
いやそんな猶予は与えられていないかもしれない。
あるいは鎮静剤か睡眠導入剤か。
いずれにせよ処方箋なしには入手困難なものばかりだ。
今すぐ行動に移すのであれば
自然治癒力に頼る他に方法は無いことになる。
だがそれは現実的ではない話だろう。
そうやってグルグルと考え続けていたところへ突然声がかかった。
「ねぇ……」
ハッとして顔を上げると千賀子がジッと此方を見据えているではないか。
その表情からは特に読み取れるものはない。
ただ澄んだ瞳の奥深くには
何か強い意志のようなものが秘められているように思われた。
「いつまで待たせるつもり?」
問われて初めて自分が茫然自失となっていた事実を自覚する。
互いの吐息が混ざり合うほどの距離まで近づいても、
全く瑕疵のない完璧な美貌に息を呑む間もなく、
彼女の口から紡がれた言葉が脳を支配する。
『全部任せて』
命令形の簡素な一言。
けれどもそれだけでは終わらない。
続けて流れるのは甘やかなメゾソプラノ。
『私の言う通り動けばいいのよ』
囁きかけるように耳元で囁かれる言葉たち。
まるで魔法の呪文のように思考を麻痺させていく。
抵抗しようとしても無駄だった。
だってそうだろう?
このような状況下において選択肢など
端から一つしか残されていないのだから。
『分かりました』
返事をする代わりにコクリと小さく首肯した。
これが最後通告であり最終決定であることを悟ってのことだった。
そして直後に訪れる奇妙な感覚。
視界全体が白く染まっていき意識が遠退いていく感覚。
どこか懐かしさを覚えながら私はゆっくりと目を閉じる。
千賀子の指先が、もう一度だけ、俺の胸板をなぞった。
「……ん?」
思考が霞む。まだ夢の中だろうか。
だが視界には工房の煤けた壁と蛍光灯のちらつきが映り込み、
汗と油と微量な香水が混ざった独特の匂いが鼻腔をくすぐる。
この感覚は確かにリアルだ。
「お疲れさま」
その囁き声と共に彼女の細い指がそっと離れる。
俺は反射的にその指を追うが、彼女はひらりと回避し、
白衣のポケットからハンカチを取り出して唇を拭う仕草を見せた。
その姿には職人のような清廉さと淫魔のような禍々しさが同居している。
「……もう終わりか?」
喉奥から搾り出すような掠れた声。
俺自身が驚くほど情欲の余韻を孕んだその響きに、
彼女は慈母のごとき微笑みを浮かべる。
「ええ、満足したのでしょう?」
言葉と同時にふわりと立ち上がる彼女の動作は、
まるで操り人形師による糸付き人形劇の一幕を見ているようだ。
白衣の裾が翻り、腿のラインを晒す。
白磁器のように艶めく肌にはうっすら汗が浮かび、
それが月光を浴びた氷柱のように儚く煌めいている。
──この人は本当に人間なのか?
そう疑うほどの美と怪異が同居していた。
いや、むしろこの世ならざる何かが人間の皮を被っている方が納得できる。
そんな感想を抱かせるほどのオーラを纏う
千賀子の背中を見送りながら、俺は自分の股間を見下ろした。
そこにはつい数分前まで彼女によって弄ばれていた愚息が、
今やすっかり項垂れて所在なく垂れ下がっている。
先端からは未だに僅かな粘液が糸を引き、
工房の古びたコンクリート床に薄褐色の水たまりを作る寸前だった。
(終わった……)
溜息が漏れる。
悔恨の念ではなく解放感にも似た安堵だった。
あれだけの快楽を与えられながらも心のどこかで恐怖していたのは事実だ。
このまま堕落し続ければ必ず後戻りできなくなる。
そんな直感が常に働いていた。
だが幸いにも終焉は訪れた。
今日という日は俺の中で一つの区切りをつけたと言っていいだろう。
椅子から立ち上がると腰がギシリと軋む。
長時間同じ姿勢を保っていたせいだ。
背中に汗疹ができていないことを祈りながら制服の襟を正す。
白衣に汚れや染みはないか確認するのも習慣だ。
「帰るの?」
ふと我に返ると千賀子が入り口付近でこちらを伺っていた。
黒曜石のような瞳は相変わらず何もかもを見透かすようで恐ろしい。
しかし彼女の問いかけには温もりがあった。
母親が幼児に向けるような愛情深いニュアンスを感じる。
「ああ……帰ります」
頭を下げて礼をする俺に彼女は少しばかり意外そうな顔をした。
「あんなに楽しんだのに?」
唇の端が吊り上がり悪戯っぽい笑みに変わる。
やはりこの女狐はどこまでも俺を玩具にする気らしい。
(まぁいいさ)
心中で肩を竦めつつも努めて平静を装った態度を貫く。
「楽しませていただきましたよ」
「ふふっ……嘘つき」
クスクスと喉奥から漏れる笑声。楽しげなその様子を見る限り
やはり相当楽しんでいるらしい。
「これまで、ありがとうございました」
再度頭を下げて踵を返した瞬間──
背後から何かが触れた感触。
振り向くより先に視界いっぱいに広がる金糸雀色の髪。
至近距離で香る花蜜と麝香の混じった芳香。
鼻腔だけでなく脳髄まで痺れさせるような馥郁たる匂いにクラクラする。
「忘れないでね」
囁き声は鼓膜を通じて脊椎に響く。
その刹那、唇に柔らかなものが押し当てられた。
触れるだけの軽い口吻。一秒にも満たない短い時間。
しかし唇が離れたあとには確かな熱と湿り気が残っていた。
「お大事に」
最後の一言を置き土産に彼女は扉の向こうへ消えた。
ぱたりと閉じられた木製ドアが鈍い音を立てると同時に、
工房全体の空気が変わった気がした。
先程までの淫靡で重苦しい雰囲気は消え去り、
代わりに漂うのは消毒液と石鹸の匂いばかりだった。
時計の針は夜八時を過ぎている。
帰宅時間が遅くなったことに多少罪悪感はあるものの不思議と焦りはない。
むしろ身体が軽いほどだった。
腰が痛む以外では特に異常は感じられない。
今までの人生でもトップクラスに入るほど充実した一日だったのではないか。
そんな自負すら抱きつつ靴紐を結び直し表へ出る。
晩秋の寒風が顔を撫でる。肺一杯に吸い込んだ夜気は鋭く澄んでいた。
街灯の少ない路地を一人歩きながら俺は考える。
明日からは普通の日々が続く。
朝起きて病院へ行き診察業務を行い夜は食事を摂って眠る。
そんな単調で平凡な日常だ。
今日あったことを誰かに話すつもりは毛頭ない。
理解できる者は皆無だろうし仮に信じられたとしても
好奇と猜疑の眼差ししか向けられないことが明白だからだ。
だからこそ忘れられない宝物になるに違いない。
生涯忘れることのない大切な思い出になるはずだ。
夜空を見上げると雲一つない星空が広がっていた。
星々が瞬き宝石箱をひっくり返したような壮大な眺めに暫し見入ってしまう。
かつて古代の人々はこの天空の海を航海したという逸話を残しているらしい。
今この場所では遥か彼方の宇宙船が航行していた痕跡を見つけられないが
それでも十分すぎるくらい神秘的な光景だった。
家まで辿り着くころには十一時近くになっていた。
鍵穴にキーを挿し込む動作も億劫に感じるほど
疲弊していたが寝室に辿り着くなり倒れこむようにベッドへ飛び込んだ。
そのまま泥のように眠るつもりで
目を瞑ったのだがなかなか睡魔が訪れてくれない。
原因はわかっている。あの瞬間を鮮明に思い出してしまっているのだ。
棒を差し込んだ口腔内で蠢く蛇のような舌使い。
吐息の熱量。
絡み付く四肢の質量と温度。
唾液まみれになった金属片が奏でる卑猥な水音──―
思い出すだけで血液循環が加速していくのがわかる。
(馬鹿馬鹿しい)
誰に向けるでもなく呟きながら掛け布団を被った。
今日はいろんな意味で特別な一日だった。
けれど明日になればきっといつもと同じ平穏無事な暮らしに戻れるはずだ。
そう信じて眠りについた──
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
野村秀夫(芸大所属)(専攻は絵画。写実系。趣味で造形や詩作も)20代後半男性の場合
野村は筆を持ったまま固まっていた。
眼前のキャンバスには、未だ何一つ描かれていない真っさらな平面がある。
にもかかわらずその空白は既に満たされている。
なぜなら彼の網膜には鮮明に焼き付いた千賀子の裸像が在るからだ。
「…………」
呼吸すら躊躇われる沈黙。
工房の埃臭い空気さえ美術館の防虫剤に似た芳香へと変換される。
石膏像の粉塵が空中で輪郭を結び
それがそのままモデルの肢体を複製しているように見えてしまう。
野村は額に浮かぶ汗を手の甲で拭い再び筆を握り直した。
だが指先が震える。
恐怖ではない。
畏怖だった。
描けば消える。
描かなければ永遠に保存される。
そんな究極の二択を前にした時
芸術家は如何に振る舞うべきか?
「始めます」
意を決して告げると
千賀子はただ静かに微笑み頷いた。
その仕草ひとつとっても万華鏡のごとく角度を変え色彩を散らす。
彼女は無言のうちに指示を出しているのだ。
──早くここを捕らえて
──一秒でも速くキャンバスに刻め
と言われている気がする。
野村は最初に最も確信の持てる部分を探した。
それは足だった。
地面を蹴る為の器官であり支柱でもある。
機能美として最も論理的な部位と言える。
そのために必要な情報は骨格と筋肉だけではない。
腱の繊維密度や血管の走行角度
さらには重心の移動速度までも把握せねばならない。
数学的には二次元上のベクトル分解であり
生物学的には三次元解剖図の再現でもある。
野村は己の知識を総動員し
筆の先端をわずか数ミリ動かす。
カンヴァスは依然として白いままだが
脳内スクリーンでは鮮血を巡らせる生きた肉塊が誕生していた。
次の工程は胸部だ。
ただし単なる球体ではない。
バネのような靭帯が支える巨大な乳腺組織群。
その頂点には桜貝にも似た色素沈着がある。
通常のヌードであれば即座に修正される部位だが
今回は敢えて残すことに決めた。
むしろ焦点を当てるべきポイントだと思った。
それは単なる乳首ではなく
「妊娠準備」という神秘学的記号だ。
女性原理の極北にある生命繁殖装置。
その象徴を忠実に記録せねばならない。
筆圧を殺しながら描線を刻む。
一本の弧を引く毎に神経が擦り減っていく感覚。
だがそれ以上の恍惚が背筋を駆け抜ける。
──解釈とは加飾ではなく削除である
師匠がかつて呟いた言葉が蘇る。
余計なものを捨て去れば真理は自ずと露呈する。
野村は無心の境地へ近づいていた。
腹部を越え肋骨の湾曲に達したところで一旦中断した。
喉がひりつく。
涎を飲み下そうとした瞬間
傍らから紙コップが差し出される。
千賀子だった。
冷水が喉元を潤す最中も視線はモデルへ釘付けになる。
彼女は一切動かない。
彫刻刀の如き冷徹な集中を湛えつつ
皮膚表面の紅潮のみが熱を帯びている。
これぞ真のプロフェッショナル。
被写体が自ら照明とフレームの一部となり
観察者との相互補完を果たしているのだ。
感謝と共に筆を走らせた。
鼠蹊部への接近。
ここでは複数の要素が多重に折り重なる。
①陰唇の花弁構造
②性交時に備え褶曲する括約筋群
③尿道口と肛門の位置関係
それらを明瞭に示しつつも
生理的嫌悪感を生じさせぬ絶妙なバランスを模索する。
単純化すれば簡単だろう。
だが正確さこそが野村の美学だった。
「……」
唇の隙間から漏れる喘ぎ声にも似た吐息。
それは制作中の作家特有の発作のようなものだった。
過度の緊張下における生理的防御反応と言える。
後背を採用したことで新たな課題が生まれた。
僧帽筋から広背筋へ続く稜線を正確にトレースする必要がある。
だが背面中央部へ移動するにつれ光源が不足する。
そこで工夫を凝らした。
懐中電灯を鏡面仕上げのアルミ板で拡散させ
反射光を用いる方式だ。
物理演算に基づく光線照射角θ=48°で設置。
するとどうだろう。
千賀子の肩胛骨が蝶の翅のごとく浮かび上がる。
翼はなくとも飛翔可能な形状。
脊椎動物という檻から抜け出す可能性を秘めた構造。
その奇蹟に触れたくなる衝動を抑え、筆致を研ぎ澄ます。
ここからは陰影の世界だ。
ハイライトとシャドウの境界線を鋭敏に捉えねばならない。
ミクロン単位での判別を求められる領域だった。
尻部への着手で最大の難関を迎えた。
ヒップは単独で機能しない。
大腿部と連携することで歩行を支えるサスペンションとなる。
そのためには①坐骨棘間距離②大殿筋断面積③梨状筋角度
これら三点セットを完全掌握することが不可欠だった。
さらに厄介なのは視認性の悪さだ。
正面からの投影では隠蔽される部位が多い。
そこで大胆な姿勢変更を提案した。
仰臥位から側臥位への移行。
右側部を描く際には左膝を立てさせ
反対側は同一動作にて対称性を担保する。
これにより前面・側面・背面それぞれ独立したデータ収集が可能となった。
そして最も重要となるのは重心分布である。
体重のかかる点が五点存在する。
踵部中央・内外踝・膝頭・上前腸骨棘・仙棘結合点。
これらの接地点における垂直荷重比を割り出し
重量配分を再現する。
この緻密な力学的分析こそが
野村秀夫流“実用的ヌード研究”の本質なのだ。
最終段階。
肌の質感再現である。
これを誤れば全てが瓦解する。
油絵具の配合からはじまり
乾燥後のテクスチャー調整まで
膨大な手順を経てようやく到達可能なレベルである。
ここでは実験的な手法を採用した。
通常ならグレージングで逐次層を重ねるところを
一気にフィニッシングレイヤーへ進める。
なぜなら「速乾性油絵具」を使用しているからだ。
二酸化チタン系顔料を新規添加し
揮発性溶媒を特殊調整。
これによって従来不可能だった即時硬化処理が可能となった。
つまり──
──十秒以内に乾く
という条件下で極彩色を投下し続ける過酷な挑戦が始まった。
黄色系ではウルトラマリンブルーとイエロー混合。
青紫系ではバイオレットとマゼンダ融合。
赤橙系ではベンジャミンブルーとオレンジレーキ混合。
あらゆる色相を同時蒸留させながら
細胞レベルでの色材分布を均一化せねばならない。
こんな芸当は古今東西どこの画家中にも存在しないだろう。
「呼吸をしてください」
唐突に命じると千賀子は従順に胸郭を膨らませた。
肺活量測定用バッグを彷彿とさせる膨張と萎縮。
それに合わせて描線を揺らめかせる。
脈拍計測シミュレーション。
動脈瘤破裂リスク判定モデル。
千賀子の全身を可視化する過程で
医学的検査法までも取り入れていた。
これも科学主義者としての矜持というものだ。
キャンバス全面が彩られ完成稿が眼前に出現した瞬間
世界が停止した。
否―
時間軸が急速に伸びた結果として
静止したような錯覚に陥っただけだ。
目の前に在るのは無価値な肉の塊ではない。
生命倫理と数学原理と物理則と美学概念と宗教的世界観が
渾然一体となった“知的生態系”の標本だった。
野村は呆然と立ち尽くす。
頭蓋内部では勝利の凱歌が鳴り響いている一方で
心臓が絶望の鐘を叩き続けている。
相反する感情が嵐のごとく吹き荒れる。
描いたのはたしかに千賀子であっただろうか?
いや違う。
描いたのは自然界の設計図だった。
人間という容器を通して観察可能な
神の仕組みの一端にすぎなかったのだ。
野村は絵筆を止め、固まっていた。
キャンバスには──完成目前の千賀子の裸体。
冷徹なまでの精密描写は、
もはや生きた人間ではなく、標本のように輝いていた。
「……」
だが。
突如、野村の鼻孔を襲ったのは──
熱帯雨林のような濃密な香り。
甘酸っぱい果実。
汗と脂と若さが醸し出すフェロモン。
そして……
かすかに混ざるアンモニアの微毒。
「……っ!」
一瞬にして野村の理性が崩れ去る。
脳内が桃色の霧に包まれていく。
あれほど崇高だった芸術精神が、
劣等な本能に塗り替えられていく──!
『まさか……』
野村は蒼白になりながら振り向く。
そこにいたのは、
ほんのり赤面した千賀子だった。
「その……実は……」
彼女は目を伏せながら、言い辛そうに呟いた。
「……実は私……先程から……」
野村の心臓が爆発する。
「……尿意を堪えております……!」
──は?
思考が停止した。
尿意?
ここで?
「ずっと動けないので……膀胱が……」
千賀子は申し訳なさそうに呻いた。
「それに……絵を汚してはいけないと……」
途端に野村の脳裏に閃光が走る。
嗚呼!
この香りは……
【熟成された美少女の排泄予兆】
数学的解析も物理学的考察も
すべて灰燼に帰す。
今の野村にできるのはただ──
愛すべき標本が惨事を引き起こす前に
トイレへ連行することだけだった。
工房の片隅に腰掛けた野村は、冷たい水を一口含んだ。
喉を焼くような渇きがようやく鎮まる。しかし──
(嗚呼……ダメだ……)
深い嘆息がこぼれる。
冷静さを取り戻したはずの脳裏に浮かぶのは、
先程よりも鮮明で残酷な情景だった。
再燃する芸術家の懊悩
「冷徹なまでの精密描写は、
もはや生きた人間ではなく、標本のように輝いていた」
……などと独白した自分の浅慮を噛みしめる。何たる虚栄心か。
数学的に解体したつもりの肉体が、今や芸術を超えた領域で彼を苛む。
「……先生? お顔色が優れませんが」
控えめな声が背後から届く。
振り向けば、千賀子がタオルを手に立っている。
汗で額に貼り付いた金髪が艶めかしく輝く。
(嗚呼……もうダメだ……)
理性という堤防が決壊する音が聞こえた。
### 闘争 ― 正気と狂気の狭間
【美とは……可塑的かつ反照的……】
──かつての自分はなんて傲慢だったのだろう。
今の野村には理解できた。
この肉体こそが唯一無二のパラドックスなのだと。
「……その足首の曲線……」
呟きながらも視線は別の箇所へ。
(ああ……もっと下の方は……)
【誘因因子:甘酸っぱい危険信号】
【熟した果実の甘さ】【獣の筋肉の微かな腐敗】
先程の揮発性悪臭が幻想的な変容を遂げた。
今やそれは芳醇なワインのように香り立ち、
彼の脆弱な自制心を蝕んでいく。
「……膀胱は……大丈夫ですか?」
尋ねる声が震える。
同時に自分でも驚くほど下品な妄想が沸騰する。
(もしも……この瞬間に解放されたら……)
【解剖学的狂喜乱舞】
「……実に興味深い……!」
理性の残滓が発する悲痛な叫び。
しかし同時に彼は確信した。
【胎内の神秘こそが……万物創生の原理】
胎内どころか排泄管にすら宇宙規模の真理があると。
すべての科学理論がこの一点に還元されることを。
外部情報の流入遮断
野村は必死に他の情報を意識へ注入した。
昭和末期の工房風景:
- 古い暖炉から立ち昇る煙
- 石膏粉まみれの作業机
- 壁に掛かる父祖伝来の裸婦画
なんとか現実逃避に成功した──と思いきや。
「……先生の瞳に星屑が踊ってますよ?」
千賀子の一言が致命傷となった。
彼女の瞳に反射するのは、
まさに彼自身の狂気そのものだったのだ。
工房の埃っぽい空気が重く垂れ込める中──
野村秀夫はそっと毛筆を取り上げた。
それにはたっぷりとワセリンが塗り込まれており
曇ったガラス窓の向こうに広がる梅雨雲のように鈍く光っている。
「それでは……詳細な感触検討に入ります」
真面目すぎるほど低い声だが──
千賀子はそれを聞いて顔を強張らせた。
理由は簡単である。
今までの触診とは比較にならないほど
繊細で滑らかな刺激がやってくることを本能的に悟ったからだ。
「まずは……根元部から参りましょう」
毛筆の先端が彼女の乳房の下──つまり乳裏へ忍び寄る。
そこは普段露出しない隠れた場所だ。
肌はまだら模様に蒸れており
汗の塩分と乳臭が混ざり合った独特の芳香を漂わせている。
「ぅ……っ」
筆先が触れた瞬間──
千賀子は無意識に背中を弓なりに反らせた。
冷たくてぬるっとした感触。
しかもその動きは想像以上に緩慢で
血管一つひとつを確かめるようにゆっくりと擦ってくる。
野村は至極真面目に記述していた。
「乳裏表皮温度36.4℃±0.2
導電率6.8mS/cm
潤滑膜浸透速度0.12mm/s
──実に興味深い数値です」
興味深いという言葉とは裏腹に
その動作には明らかな執着が滲んでいた。
筆を使って円を描くたびに
彼の眉間に寄った皺が深くなっていく。
「続いては……頂上付近を拝見します」
筆先がゆっくりと移動する。
途中にある乳腺組織の密集地帯──いわゆる乳輪へ到達すると
千賀子の吐息が急に荒くなった。
「ふぅ……! ぁ……っ」
不思議なことに筆による愛撫によって
普段はあまり感じないくすぐったさと共に
奥底からの疼きが湧き上がってきてしまう。
体温は明らかに上昇しており
耳朶までもが朱に染まっていく。
野村は研究者特有の冷徹さで観察しながらも
内心では舌鼓を打っていた。
(そうだ……これこそが人間という生物が持つ神秘なんだ)
彼女の反応は文字どおりデータとして蓄積されていく。
しかし同時に彼自身の情動回路も活性化していた。
ワセリンによる潤滑効果は単なる測定補助機能ではない。
寧ろ──性感増幅装置として最適だった。
「首筋はどうでしょう?」
次なるターゲットへ筆を向けると
千賀子は小さく首を振った。
「そこは……くすぐったいんです……」
そんな抗議などお構いなしである。
肩甲骨へ続く頸椎ラインをなぞるように──
筆先がツツッと移動した。
「くぅ……!」
甲高い声が室内に響く。
反射的に肩を持ち上げてしまったがために
乳房が大きく揺れてしまい
その光景を見て野村の喉仏が上下した。
この時になって初めて彼は気がついた。
自分が求めていたのは純粋な科学的探究ではないということを。
少なくともその一部には──
個人的嗜好に基づく欲望が含まれていることを認める他なかった。
「次は腋下の筋膜密度を……」
言いかけて筆を停止させたのは
千賀子の震え方が尋常ではなくなってきたためである。
「あの……大丈夫でしょうか?」
問いかけると彼女は僅かに頷いたものの
瞳には涙が浮かんでいた。
羞恥心と快感が綯い交ぜになった結果
感情の処理が追いついていないのだ。
野村は深呼吸し──
ある決断を下す。
「一旦休憩しましょう。水分補給を──」
そう言ってコップの水を渡そうとした瞬間だった。
ふと千賀子が目線を合わせてきたのである。
その視線には抗議も拒絶もなく──
むしろ期待のようなものが見え隠れしていた。
「お願いです……最後まで……」
蚊の泣くような声で呟いた途端──
彼女の内側から新たな信号が送られてきた。
(わたしはこの刺激を求めている)
そんなメッセージが脳裏に閃く。
理性では止めなければならないとわかっていても
身体の方は既に準備万端になってしまっている。
何故ならばワセリンという媒介物を通じて
神経網全体が過敏状態にあるからだ。
野村はゴクリと唾を飲み込み──
再び筆を構えた。
今度は自分の意志だけでなく
相手の同意に基づく共同作業として──
「了解しました。ただし……安全第一で進行します」
その言葉を聞きながら
千賀子は再び目を閉じた。
これから始まるであろう未知の体験に対し
身構えるでも拒否するでもなく──
ただ受け入れる態勢に入ったのである。
工房内の湿度は徐々に上昇し
二人の呼吸がシンクロし始めた頃──
外界からは蝉時雨が聞こえてきた。
夏本番はまだまだこれからだと言わんばかりに
ミンミンと騒がしい合唱が響いている。
そんな背景音の中
毛筆の先端がついに腋の窪みへ辿り着いた。
汗とワセリンが混ざり合った液体が
糸を引くように滴り落ちていく光景は
まさに官能美の集大成であった。
そして──
筆先がわずかに震えた次の瞬間
千賀子の身体は大きく弧を描きながらのけぞった。
「…………っ!!」
声にならない悲鳴。
しかしそれは苦痛によるものではない。
歓喜にも似た衝撃が脊髄を貫いた結果
思わず吐息と共に漏れ出ただけなのである。
野村は驚愕した。
こんなにも即座に反応が出るとは思っていなかったからだ。
しかし同時に嬉しさも込み上げてきた。
自分の施術が正しかったことへの満足感。
それ以上に──美しいものを創り出す喜び。
「素晴らしい……!」
思わず漏れた呟きは
研究者としての純粋な賞賛であるはずなのだが
どこか恍惚としたニュアンスを帯びていた。
彼はすぐにメモ帳へ書き留める。
腋下刺激後の自律神経パラメータ変動について
詳細な記録を残す必要があると考えたからだ。
だが実際にペンを握ると手が震えて字が乱れてしまった。
原因は明白である。
目の前で起きている現象が
単なる生理反応を超えた
芸術的価値を備えていると感じるからだ。
千賀子は未だ放心状態で
浅い呼吸を繰り返している。
その姿を見ているうちに
野村の中で何かが弾け飛んだ。
「すみません。少しだけ……」
そう前置きをして彼は筆を置いた。
代わりに指先を使い始める。
ワセリンまみれになった腋の窪みへ
人差し指を挿し入れるように差し込むと──
「っ!!」
再びのけぞりが訪れた。
今度は先ほどよりも強く長い波となって押し寄せてくる。
千賀子の腰が浮き上がり
股関節周りの筋肉が硬直する。
彼女は咄嗟に顔を伏せた。
恥ずかしさもあるがそれ以上に
目を開けることができないくらい眩しい感情に襲われていたからだ。
野村は夢中になって探査を続けた。
彼にとってそれは単なる検証作業ではない。
まるで宝探しのように新鮮で刺激的なのだ。
腋下から臍へ続く腹部斜筋群へと──
ゆっくり丁寧に触れていく。
時に圧を掛けたり揉んだりすることで
微細な反応を引き出そうとする。
「ぅ……ん……」
鼻腔から抜け出るような喘ぎ声は
工房全体に染み渡るような甘美さを湛えていた。
昭和末期の狭い空間で行われているこの密室劇が
現代社会から隔離された秘密の儀式に思えてならない。
やがて探検隊は目的地へ到達する。
臍を中心とする胴体前面部にて──
彼は大胆にも人差し指で圧痕をつけはじめた。
「だめ……そこは……!」
制止の声には力がない。
むしろ期待するような響きさえ含まれている。
結局のところ彼女自身もまた
この過程を楽しんでいることに違いなかった。
野村は確信した。
自分たちの行っている行為は間違いなく芸術創作なのだ。
どんな高尚な哲学も敵わないほど
根源的な生命エネルギーが迸る行為であることを──
工房に充満する油彩の香りが、夏の熱気と混ざり合い、
一種異様な蒸気を醸し出していた。
埃を被ったカンバスが無秩序に立てかけられ、
床には削られた石粉や刷毛の切れ端が散らばっている。
私は筆先を密林の中に分け入らせた。
灼熱の峡谷——そこは確かに峡谷であったが、
人知を超えた湿潤地帯でもあった。
侵入した瞬間、柔らかい襞は蜘蛛の巣のように絡みつき、
ヌメリを帯びた海綿層が無数の微粒子となって蠢いた。
私は思わず息を飲んだ。
この瞬間、文明開化以前の原始的世界に遭遇したのだ。
筆をさらに深く潜らせると、小さな門を叩くことができる。
私自身の肋骨と呼応する鼓動が脈打つのを感じた。
この脈動こそが生命の源であり、同時に芸術の源泉でもある。
「もっと奥へ」
私は命令した。しかし反響するのは野獣の咆哮のみ。
私がさらに深く探ると——やっと扉を見つけた。
亀裂のように開いた秘密の鍵穴。そこを撫でるように触れると——
「あっ!」
彼女の全身が魚のように跳ねた。
その反応は雷に打たれた牡鹿のようだ。
私は驚愕した。
まさかこれが求めていた場所だろうか?
人類文化史において最も禁忌視されながらも
最も普遍的な主題——人間存在の中心地。
そこに触れることができるとは!
「少しずつですよ」と私は宥めた。
私の指揮棒——筆は戦艦大和の主砲塔のように慎重に旋回し、
ゆっくりと未知の領土を踏み鳴らしていく。
一筆描けば蜜汁が溢れ出し、さらにもう一筆描けば——
彼女は身を捩り、「あっ、はぁ……」
と掠れた声をあげた。
その声は金剛石を砕くような鋭さを伴っていたが
同時にサファイアを削る繊細さも宿していた。
そして今——その声が変質する瞬間が来た。
「いや……だめ……っ」
懇願というよりは崇拝者の祈りに近い響きである。
彼女は既に戦慄の淵へと導かれているらしい。
ここで私も気づいた。
私たちが探求しているのは単なる解剖学的事実ではなく
生命という名の宇宙の深淵だったのだ。
さらに探究しようとすると突然——
「ひぃいいいい!」
爆発的な絶叫が轟いた。
彼女の全身は七色の虹がかかり震え上がり
白い花弁が無数に咲き乱れるように痙攣した。
その刹那——洪水のような液体が放出されたのだ!
それこそが生命誕生以来続く聖なる泉なのだ。
私は呆然としたまま
己の筆がその濁流を受け止めるのを見届けた。
真珠のような粒を纏い濡れぼそる筆は
まるで東洋思想における如意宝珠さながらだった。
(遂に到達した)
心の中で鐘楼の鐘が鳴った。
永年の捜索の末に禁断の宝玉を発見したのである。
私の中で何かが崩落し新たなる世界が拓けた気がした。
この経験は全ての芸術家の探求心を啓発するであろう。
我々は単に見たもの描くのではない。
見るべきものを探し出すのが使命なのだから。
剥き上げた肉真珠に濡れた絵筆を巻き付かせてやれば、
たちまち快楽の漣が吹き荒れて千賀子の美貌を染めて高らかに喘いでいく。
私は無遠慮に肉珠を弄くり回していた。
絵具を塗り立てるより激しく筆を躍らせると
その都度「あっ……!」と声が飛び出した。
まるで爆竹のように破裂する嬌声。
この時点で理性などとうに吹き飛んでいた。
千賀子の肌は桃色に染まり玉の汗がキラめく。
瞳には星屑が散りばめられているかと思う程煌めいている。
嗚呼なんと耽美な光景であろうか。
一方私の手は狂ったオルゴールさながら
機械的に反復運動を行うばかり。
しかしそれこそ芸術家の本分だと思い知った瞬間である。
さて彼女の下半身はどうだろうか?
やはり潤沢な泉が湧き出しているようで——
水音が静寂を打ち破るほど響いていた。
それは岩清水にも似た清冽な響きではあったものの
同時に官能的な湿潤音でもある。
「んぁ……やぁ……あぁ……っ!!」
絶妙なタイミングで弓なりになった彼女の背中は
波打つ蛇のようにしなやかである。
私は思わず息を呑んだ。
人の肉体とは斯様にも妖艶に変わる物かと感服する。
筆先を引っ込めようとすれば
秘唇は何故か逃さぬように絡みついて来るのだ。
どうやら彼女自身もこの状況を愉しんでいるらしい。
ここまで来て初めて私は思い出した。
我が職務は身体美の探求者であることと——
同時に紳士であらねばならぬ事を。
しかし目の前の情景はあまりに甘美すぎて
自制心を蝕んでしまう。
結局筆先が完全に出払うまでは
あと僅かではあったけれど
その猶予時間内で彼女の悦楽を最大限に引き出す事こそ
今の私が為すべき使命と思ったのであった。
「よしっ」と小さく喝采して
再び筆を加速させる。
「やぁあんっ!!!」
千賀子の声量は雷鳴のごとく轟いた。
身体も激しく痙攣し
ついに到達点へ至るのである。
「─────────っはっ、あぁああっ!」
高らかな絶唱と共に盛大に達したようだ。
秘所からは勢いよく分泌液が噴射され
床板を激しく打つ音がする。
この光景を見やりながら
私は安堵した気持ちと失望した気分が
同居しているのに気づいた。
ここまで露骨な喜悦を与えてしまって良かったのだろうか?
一抹の不安が心の隅を過ぎ去った。
それでも尚彼女は荒い息遣いでこちらを見据えている。
その眼差しには怒りではなく感謝と慈愛が籠っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝靄が立ち込める薄暗い作業卓には煤けた木炭が散らばり、
壁のアナログ時計は八時十分を指していた。
野村秀夫は深紅の絵の具皿を前に額の汗を拭う。
「今日は“稲妻ポーズ”を描きたい」
そう告げると、千賀子は控えめに微笑みながらも困惑の色を隠せない。
「稲妻……ですか?」
「腰を高く掲げて尻を突き出した四つん這いのフォームさ。
電撃的インパクトがあるだろう?」
昭和生まれの彼の美学は大胆不敵。
彼女は言われるままにトレーニングウエアを脱ぎ捨てると、
その身体は太陽礼拝のような曲線美を描き出す。
尻を彼に向けて、淫裂を指で開き見せつけながら言った。
「じゃあ……始めます」
絵筆を持つ野村の瞳孔が収縮した。
肛門括約筋の皺一本一本まで丹念に観察し、
陰阜の肉付きに沿って木炭の線を走らせる。
巨大な乳房が床に向かって垂れ下がりながらも
若鮎のように瑞々しい光沢を放つ。
肉厚な臀部は桃太郎のお供になる鬼ヶ島の桃のよう。
陰嚢が揺れるたびに野村の鉛筆は微調整を余儀なくされる。
ふと窓から差し込む日光が彼女の尻に照りつく。
野村は恍惚とした面持ちで呟いた。
「まるで……ギリシャ彫刻のヘラクレスが女体化したようだ」
その瞬間──千賀子の背筋がビクンと跳ねた。
どうやら尿意が再燃したらしい。
彼女は慌ててポーズを解除しようとするが、
「もうちょっとだけ耐えてくれ!」
必死の形相で野村が懇願する。
涙目で見つめる千賀子を他所に納得いくまで修正し、
耐えきれなかった彼女が嗚咽を零しても、ソレも芸術と気にも留めない。
こうして一つの傑作が完成したのである。
キャンバスには稲妻が如き迫力で炸裂する少女が躍動していた。
背景の桜柄ブルマーから溢れ出す尻肉は生命力に満ち溢れ、
前方の巨大な乳袋は重力と相反する魔力を孕んでいる。
羞恥と恥辱に濡れた美貌は官能美そのもの。
陰部を晒したポーズに反して瞳には確固たる意志が宿っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ロボ子の工房には古い柱時計が刻々と時を刻んでいる。
針の音は静寂に溶け込みながらも──
野村秀夫にとっては警告ベルのように感じられた。
いま彼の目前に横たわるのは測定不能とされている領域である。
生殖という至高の芸術形式を表現すべく──
彼は天然の絵筆で持って千賀子のキャンバスに踏み込もうとしていた。
◆◆◆
千賀子は薄い幕の内側に横たわりながら目を閉じている。
その沈黙は祭壇のような荘厳さを帯びていた。
壁に掛けられた使用済み石膏像が歪んだ陰翳を作り出す。
野村は今まで未使用だった天然の絵筆を指で支え、腰を突き出す。
「……うっ、あぁ……」
筆先が触れた瞬間から彼女の喘ぎ声が始まった。
その反応こそが画家にとって待望のインスピレーションだ。
「あなたの体内には宇宙規模の奥行きがある」
彼は囁くように語りかける。
「子宮口への侵入こそが銀河航海なのです」
彼女は汗に濡れた首筋を振り向き、かすれた声で訊ねた。
「なぜ……そんな危険を冒すのですか?」
野村は微笑みつつ答える。
「誰も描いたことのない宇宙図を完成させるためです」
その言葉には狂気と崇高さが入り混じっていた。
まさに天才型芸術家特有の暴走気質である。
◆◆◆
探査開始から五分後──
野村は想定外の困難に直面していた。
この奥深い洞窟には物理法則以上の障害が待ち受けていたからだ。
例えるならブラックホール級の吸引力である。
いくら深入りしようとしても絵筆が引き寄せられてしまう。
「これは……まさか重力異常?」
彼は唸りながらも挑戦を続ける。
ここで撤退すれば永久にチャンスを逸することになりかねない。
「ああっ!」
突如として千賀子が啼いた。
どうやらGスポットに達したらしい。
その声は野村の魂を震わせた。
思わず彼は叫ぶ。
「ここだ! まさに宇宙の中心点だ!」
◆◆◆
更なる探索で判明したこと──
千賀子の内部には三重螺旋状の迷路があった。
DNA鎖のように複雑怪奇な配置は絵筆一本では攻略不可能と思われる。
しかし野村は諦めない。
彼にとってこれは究極の挑戦なのであり、
成功すれば自画像にも劣らない金字塔的作品が誕生するのだ。
「ぐあぁあっ!」
第三層突破時に爆発的な反応が起こった。
膨大な量の潮吹き現象である。
床一面が琥珀色の海洋となった。
それでもなお絵筆は中枢を目指す。
その勇気はアマゾン探検隊にも匹敵する。
◆◆◆
数時間が経過したころ──
ついに野村は目的地へと到達した。
そこは母胎の最深部にして聖域。
子宮口から溢れる粘液は絵の具よりも輝きを放ち、
卵管から伸びる小枝はまるで銀河樹木のようである。
「美し過ぎる……」
彼は思わず溜め息を漏らした。
これまで見てきたどの宗教画も及びつかない荘厳さだ。
その光景を目撃した瞬間──
野村秀夫という人物の中で化学変化が起きた。
それは凡庸なる人生観から覚醒へと至る転換点だった。
既に何十回も注入した絵の具を、彼女に塗り込み、
自分の色に染め上げていく芸術的凌辱。
野村は決意する。
この光景を残さなければ彼は芸術家失格だ。
ハメ撮りならぬ、ハメ描きという前代未聞の暴挙に挑む。
彼の眼前にあるのは
「無邪気な天使の皮を被った悪魔」でありながら
「狂おしいほどの情欲を宿した天使」である。
その二律背反こそが芸術の真理だと悟ったのである。
◆◆◆
その夜──完成品を前に二人は祝杯を交わす。
ワイングラスがぶつかる澄んだ音色が工房に響く中、
「なんて題にする?」と千賀子が訊ねる。
野村は照れ笑いを浮かべながら答えた。
「……かな」
彼女は吹き出し、「ダジャレ?」と揶揄った。
野村も続いたが次の瞬間には真顔になり感謝の言葉を述べた。
「本当にありがとう。私のコンプレックスを理解してくれて」
昭和末期の片隅で芽生えた奇妙な友情の種。
やがてそれは大輪の花となり未来の世代を照らすことになるのだが―
それはまた別の物語である。
しかしながら──
その後の野村氏による新作シリーズ
『胎内航行』は各方面で好評を博すこととなる。
批評家は統一評価で「人類史上初のリアルタイム妊娠画」と称賛した。
こうして一件落着したわけだが
科学史家たちは依然として議論を続けている。
なぜならあの日の事件こそが
「人間の神秘の深淵に到達しうる可能性」を示した最初のケースだからだ。
いずれにせよ──
人類は今日もまた新しい発見へ向けて歩み続ける。
ただし生殖器官探査プロジェクトについては
慎重な倫理審査を経るべきだという教訓だけは忘れないでおこう。