宇宙時代の百合カップルが男を挟みこんで妊娠するまで 作:白き飯
人が宇宙に進出して数世紀。
広大な開拓地を得た人類は黄金の時代を築き上げ……種として失敗した。
惑星に植民すればするほど。人が増えれば増えるほど、多種多様な惑星で構成された連合国家、惑星連合を敵対視する者が多くなり、宇宙は割れてしまった。
しかしそれも終わりかけている話だ。
「……」
(ようやく終わるのかな……)
数十人が乗り込んでいる大気圏突入艇の中で、一人の青年が自分の人生と戦争を考える。
戦時広告ではなく客観的な事実として、欲深な独裁者を生み出した辺境の星々は独立を宣言。それだけならまだしも、周辺惑星に軍事侵攻を開始し、宇宙は長い戦乱の世を迎えてしまった。
しかもである。
(周りの人たちは戦闘調整されてるのに、よく生きてるなあ僕)
古代に極東区と呼ばれた地域の遺伝子ルーツを持つ黒髪黒目の青年ケントが、兵士とは思えない柔和な顔に苦笑という感情を宿す。
長引いた戦乱は人々から理性を奪い去り、遺伝子という領域に手を出してしまった。
基礎的な免疫力や肉体の頑強さといった程度ではなく、明らかに踏み込んではならない場所に手を突っ込み兵士を戦闘生命体に変えたのだ。
ただ、ケントも戦闘生命体……という話ではない。
(戦後はどうなるんだろうなあ……なんか人口ピラミッドがヤバいって話を聞いたけど……)
両陣営は最初から総力戦の有様で、ケントは強制的に軍へ入れられた。そして戦闘処置を施されていない捨て駒や数合わせとして扱われたのだが、運がいいのか悪いのか今でも最前線にいた。
しかしそれはケントに限った話で、戦闘調整されていない男性は様々な戦場で散り、戦後の人口がかなり危うくなるだろう。
(遺伝子調整でなんとかするつもりとか聞いたけど、本当に大丈夫なのかな?)
噂話程度だが、政府は人口問題も遺伝子調整された者達でなんとかしようと考えている。と聞いたことがあるケントだったが、前線で戦闘調整人間と相対している彼はかなり懐疑的だった。
彼の周囲にいる大柄な遺伝子調整人間は戦うためのあらゆる機能を向上させられているが、特化し過ぎて他に面で柔軟性が無い。
勿論、繁殖に特化した遺伝子調整人間なら生殖活動も問題ないだろうが、尖り過ぎた個体が環境の変化に適応できないのも多々ある話で、単に遺伝子をどうこうすればいいだけの話とは思えなかった。
『降下開始!』
そんな兵士には関係のない思考は、スピーカーの音で切り替わる。
文明と兵器がどれだけ発達しても、歩兵の仕事がなくなることはついになく、衛星軌道上に浮かんでいた宇宙船から次々に大気圏突入艇が解き放たれた。
(頑張って生き残ろう)
将来の話も過去の思いでも関係ない。
今はただ生き残るために戦う兵士になったケントは、小銃の感触を確かめながら、地上への降下に備えた。
そしてやはり運が良かったのだろう……。
「お、終わったぁ……」
見るも無残に焼け爛れた星の上でケントはなんとか生き残り、終戦を迎えることが出来たのだった。
が。
彼の人生はこれからがある意味で本番だった。
「冷凍睡眠命令……ですか?」
「うむ」
終戦後暫くして上官に呼び出されたケントは、自分に下された命令に首を傾げた。
「腹を割って話すが、政府の主導する人口回復計画は危うい。君もそう思わないか?」
「まあ……多少は……」
かなりざっくりとした中年上官の言葉にケントも頷かざるを得なかった。
戦争が終わりまともな人口統計が算出されると政府は青褪めた。
驚くを通り越して恐怖を感じる程に成人男性が減少していたことを突きつけられた政府は、やはり遺伝的な調整で解決しようとした。
しかし戦後、柔軟性が欠片もない戦闘調整人間の扱いに四苦八苦していた軍は、この方針に危機感を覚えたらしい。
「それで自分が冷凍睡眠に選ばれたのは……」
「政府も一応の予備として、天然の遺伝子を確保したいのだ。期間は……百年程度だと思う。それだけあれば、遺伝政策の成果がはっきりする筈だ」
「そんなにですか?」
「最初は上手くいっているように見えて、人間全員に遺伝調整を施せばいいではないかと思った。もしくは全員でなくても、結局血が入り混じって調整人間の遺伝子が全ての人間に流れたとしよう。その後、長い目で見れば生殖能力が衰えた。男か女のどちらか一方しか生まれない。という事態が起これば取り返しがつかなくなる。だから最悪の場合は、一緒に冷凍睡眠されてた女のケツを並べてやりまくれ」
「げ、下品ですよ……」
「それで?」
「兵士ですから、命令とあれば従います」
「礼を言う」
尋ねたケントはそこまで危機感を抱いているのかと戦慄しながら、軍人として命令を受け入れた。
まだ人々が星に囚われている時代の感性なら、百年の冷凍睡眠は長いように思えるが、宇宙時代ともなればその程度の年月は許容範囲だ。
それ故にケントも別に悲壮感を抱いてないが、懸念もあると言えばあった。
「起きたら人類滅亡してるとかは勘弁してくださいよ」
「政府に言ってくれ」
「はあ……」
冗談のような口調ながらも真剣に言っているケントに、上官は肩を竦めるしかなかった。
ここまで大掛かりなことをしている事態なのだから、最悪の場合は本当に冷凍睡眠から目覚めると、周囲で一緒に寝ていた者達しかいない。なんてことが起こりかねないのだ。
しかしそれをどうにかする手段などケントにはなく、彼は弄られていない遺伝子を保管する計画の参加者となり……。
(ば、場違い……)
非常に肩身が狭い思いをしていた。
纏められて集まった男女は美男美女が多いどころか全員がそのカテゴリーと言ってもよく、普通程度の顔立ちでしかないケントはかなり浮いていた。
しかも貧しい生まれで軍に入るしか選択肢が無かった彼と違い、若者達は育ちもいいようで……軍服を着ているケントをあからさまに嘲笑していた。
「軍人だって?」
「野蛮人が何で参加者側にいるんだ?」
「あの人、軍人よ」
「人殺しがいるだなんて怖いわ……」
年若い若者達がケントを軽んじる。
人口比が歪になる大戦争でも、特権階級というものは維持されるもので、戦争など自分には関係ないと思い込める人間もある程度いる。
そんな育ちがいい者にすれば軍人など小間使いに過ぎず、自分達の近くにいることすら不快感を覚える存在だ。
ではなぜそんな上流階級の人間が冷凍睡眠が伴う計画に参加しているかというと……単純な話だ。
戦傷が著しくトラウマを負っている軍人は適していないが、末期戦じみた戦いで無事なものは殆どいない。そのため戦争とは無関係だった若者を選ぶしかないが、一握りの特権階級は最長で百年の冷凍睡眠計画に参加する筈もなく、ここにいるのは上流階級でもかなり下の方の生まれだった。
「貴方はこちらです」
「分かりました」
そんな人間達の視線に困っていたケントだったが、係員の促しに従い別室に連れていかれる。
(ええ……こんな型番の冷凍睡眠装置とかあった? ひょっとして僕、新型の実験体?)
庶民どころか最底辺の人間に相応しい扱いというべきか。
その部屋に鎮座されていた冷凍睡眠装置は一般的な型とは違い、悪い意味でケントは特別扱いを受けていた。
なにせ白衣を着用した研究員や、作業服の作業員が細かな調整をしている様子は、冷凍睡眠装置のデーターを集めてやろうという思惑が透けて見え、ケントは内心でうんざりした。
「この中へ」
「はい」
(兵士なんてなるもんじゃないよホント……)
ケントは言われるがまま、ベッドとカプセルを合体させたような装置に寝転がると、戦争で歪み果てた兵士の扱いに嘆く。
だがどんなに文句を言ったところで、身寄りがなく生きていくために入隊するしかなかった彼に選択肢などない。
(起きたら多少、兵士の扱いが良くなってることを祈ろう)
装置の蓋が締まるのを見届けたケントは、薄れゆく意識の中で起きたらマシな人生を送れることを祈った。
その人生は……天国でもあり、ある意味で地獄だったが。
「おはようございます」
声が聞こえた。
冷凍睡眠中は当然意識がなく、ついさっき眠りについたつもりのケントは、天上の女神に呼びかけられているのではと錯覚し、うっすらと瞼を持ち上げる。
実際、そこには女神が二人いた。
腰まで流れる金の髪。慈母を思わせる青い瞳。瑞々しい唇。輝く白い肌に、突き出た豊かな胸。更にはきゅっと引き締まったくびれのモデル体型。
もう一方は肩の辺りで揺れる銀にも白にも見える髪。気が強そうに細められた赤い瞳。艶やかな褐色の肌に、丁度いい塩梅の胸とスタイル。
なにもかもが正反対の女神だが完璧な調和も感じさせ、二人で一つといった表現がぴったりで、その間に挟まる者は神だって許さないだろう。
「おはようございます男性様」
(へ??????????)
ただし、金の女神に男性様と呼ばれたケントの脳内は疑問が溢れた。