宇宙時代の百合カップルが男を挟みこんで妊娠するまで 作:白き飯
新天地を目指す超巨大宇宙船、揺り籠級とも呼称される物体の船内では話題が尽きない。
「そろそろ私達も人工授精をする時期だねー」
「人工授精は三人でしようよ」
「あんた、前に別のことでそんなこと言った時は抜け駆けしたじゃない!」
「私達はどうする?」
「も、もうちょっと心構えの時間が欲しいかなーって……」
目の覚めるような美女、美少女達が奇妙な会話をしながら船内を歩く。
姿もまたおかしい。
体のラインがもろに出る白いボディースを着用し、小ぶりな胸の女性ならともかく、巨峰とも言える立派なものを持っている女は、恥ずかしがることもなくぶるんぶるんと揺らしているではないか。
「ルナ、手配が終わったわ。もうすぐ私とルナの遺伝子を掛け合わせた赤ちゃんがお腹に宿るの」
「光栄ですエルザ様」
船内のシャワールームで熱が籠った眼差しを交わす女性達がいた。
一人は金髪碧眼でスタイルが素晴らしいエルザという名の女性。
もう一人は白髪にも見える銀髪赤目で、褐色の肌が艶めかしいルナという名の女性。
グラビアモデルも裸足で逃げ出すエルザはこの船の艦長で、体と胸のバランスが何もかも丁度いいルナは恋人同士だった。
しかし、遺伝子を掛け合わせた赤ちゃんがお腹に宿るとはどういうことだろう。
これは言葉通り、互いの遺伝子を掛け合わせた受精卵をお腹に宿し、女性同士による妊娠と出産を行う計画があるらしい。
現在、船内の女性は全て出産適齢期で、船員の人口を維持するため女性同士による遺伝子妊娠を行う時期だった。
こんなことをしているのは、船内に男性が皆無で、女性と女性が恋人になるしかない環境のせいだが、彼女達はそれを当たり前だと捉えており、中には複数の恋人がいる恋愛強者だっていた。
(このまま何も起こらないでほしいのだけど……)
共にシャワーを浴び終えたエルザが体をタオルで拭きながら、この宇宙船と自身の未来を考える。
彼女とルナの付き合いは長く、物心ついた時から一緒にいた仲だ。
そこから一緒に育ち、いつしか愛も育んだ二人は晴れて恋仲になったが、ルナがエルザを様付で呼んだ通り、中々の身分差があった。
それに船内の未来も決して明るいとは言えず、彼女が恋人との関係を含め不安に思うのは無理もない環境なのだ。
「ところで船内は妊娠の話題でいっぱいね。ルナも聞かれる?」
「盛り上がり過ぎです。一人で食堂に行けば必ず聞かれます」
「私の妊娠出産は話題としては十分だものね」
「艦長の妊娠出産は神聖なものです。食事中の話題にするのは少々問題かと」
「ふふ」
気分を変えるようにエルザが船内の騒ぎについて持ち出すと、お堅い雰囲気を醸し出しているルナが、同僚達に苦言を呈した。
女神のようなエルザはこの船の艦長で最上位の存在だ。それ故にこそ船員達のゴシップの的になりやすく、今現在はルナと彼女の遺伝子を掛け合わせた妊娠の予定が話題になっていた。
『エルザ様緊急事態です! 至急ブリッジまで!』
「いったいなにが⁉」
「分かりませんが急ぎましょう!」
風変りだが日常の会話を楽しんでいたエルザは、急に響いた艦内スピーカーの声に驚き、ルナに促され艦の司令部に向かう。
「惑星連合崩壊前のステーションを発見しました。ひょっとするとなにか価値のある遺物が見つかるかもしれません」
「データの照合が終わりました。大戦後期の大型空母で、戦争終結後は維持に困り様々なステーションに回収された型です」
様々な機械の光が煌めく艦橋に足を踏み入れたエルザは船員からの報告を受ける。
「体制崩壊前のステーションがこれだけきちんと残っているなんて……」
エルザが映し出されたモニターを見上げると、あちこちが崩れているものの、原形を保っている重厚な人工物が宙に浮かんでいた。
それは新たな入植のため、多くの人員を内包している揺り籠級すらも凌ぐ規模で、これを調査するのは一日二日どころか下手をすると年単位が必要だ。
「最初の調査隊を編成します」
そんな超巨大建造物の調査をエルザは命じる。
過去の栄光に縋りついている人類にとって、漂流している科学技術の結晶はなんとしても回収したい物と化しているため、揺り籠級の人員は慌ただしく移動し始めた。
しかし、調査員自体は素人という他ない。
「惑星連合崩壊前のステーションを見つけるとか、私達って表彰とか勲章もんでしょ」
「ねー」
「無駄口叩かないでちゃんと調査してよ」
宇宙用の作業服すらやたらと体のラインが出ている、見目麗しい美女、美少女達が次々とステーションに乗り込み、かつての栄華の証を探索する。
「わあ凄い……あちこち崩れてるけど、それでもちゃんとした原型を保ってるなん……」
「データは吸い出せそう?」
「うん! 問題ないよ!」
様々な女性達が、恋人や仲間と話しながらも作業を続けていたが、思いもよらない情報が飛び込むことになる!
「そ、そんな嘘⁉」
「どうしたの?」
残されたデータを収集していた美少女が悲鳴を上げると、周囲の人間の気を引いてしまう。
「こ、こ、ここ! 冷凍睡眠装置が沢山ある!」
「嘘でしょ⁉」
「本気で言ってるの⁉」
「崩壊前の人間ってこと⁉」
「間違いないよ!」
その情報を得た女性達が絶叫する。
極々稀に何百年も前の冷凍睡眠装置から目覚めた人間はいるが、そういった大事件は一人か二人の話だ。しかしデータに残されている冷凍睡眠中の人員は千人単位で、まさしく世紀の大事件と言っていい。
「落ち着いて! 慎重に確認しましょう!」
「う、うん!」
そんな大事件に巻き込まれた女性達は、急いでステーションの冷凍睡眠装置を確認するため駆けだす。
しかし……いい話ばかりではない。
「そ、そんな!」
「あ、ああ……」
「なんてこと……!」
彼女達が目撃したのは冷凍された人間ではない。
夥しい装置の中で転がる、腐敗なんて段階をとっくに過ぎた骨だ。
「う、嘘よ……」
「こんなこと!」
特に女性達はデータを照らしわせて、最重要の人間たちが寝ていた筈の装置を一つ一つ確認したが、その度に絶望に襲われ涙すら流してしまう。
「ぐすっ……」
そして調査隊全員で確認して全員死亡の結論が出ると、次々にへたり込んでしまう。
「待って、もう一つ別の場所にあるみたい。しかもデータによると特別仕様だからひょっとすると……!」
だがまだ希望は残されていたようだ。
あちこちが壊れているデータだったが、特別に設計された最新型の冷凍睡眠装置が別室に安置されているらしく、女性達は僅かな希望に縋り移動する。
「あ、あ、あああ!」
その希望は正しく形になった。
灯っている電子機器の光。確かに起動している冷凍睡眠装置。
しかも。
「中にいるのは男性様よ!」
女性達が歓喜の言葉を迸らせる。
もうお分かりだろう。
末期戦。歪な人口ピラミッドと男女比。遺伝子政策の失敗。そこへ襲った流行り病など、様々な要因が重なった結果ケントが所属していた軍どころか政府が崩壊。
絶滅とは言わないが極端に減った男性を称える文化が根付いた女性たちは、異性に対する行為を神聖なる奉仕と考えるようになった。
目が覚めたケントが半ばタイムスリップした時代は、そんな男にとって天国とも地獄とも言える環境だったのだ。