宇宙時代の百合カップルが男を挟みこんで妊娠するまで 作:白き飯
(なんというか……なんだろうなあ)
ケントが目覚めて数日。パニックを起こさないように情報を小出しにされていた彼だが、大まかなことがある程度伝えられると、哀愁や悲しさとは若干違う困惑を抱いた。
(今いる人類は男が極僅かで殆ど女性。僕は尊い存在……ねえ)
身寄りがなく戦場生活が長いケントは、あの人に会えないまま未来で一人ぼっちだ! という感情はなく、それどころか丁重すぎる扱いに対する戸惑いの方が大きい。
ただ、完全に自分が生まれ育った時代の愛着が無い訳でもない。
「その、ステーションから収容した物品の確認とかできます?」
「はい男性様。案内させていただきます」
「あ、いえ。艦長の手を煩わせるつもりはなくて」
「ご安心ください。ステーションの調査をしている間は船も止まっていますし、すぐに連絡を取れる体制です。それに男性様のご要望に応えるのは、艦長として最も大事な任務になります」
「は、はあ……」
ケントは日課の挨拶に来ていたエルザに相談した。
極々当たり前の発想というべきか、自分が眠っていたステーション。つまり未来で孤立したケントは、同じ時代に存在した機材が気になり、それを一目確認したいと思った。
しかし艦長であるエルザを案内係にする訳にはいかず、誰か他の人間にお願いしようとしたのだが、大きな認識の差がある。
エルザにすれば男性であるケントの案内は最高責任者の役目で、他の者には荷が重い任務なのだ。
「じゃあ……お願いしますエルザさん」
「はい。ご案内させていただきます」
迷ったケントだが、恐らく最初で最後の我儘になるだろうと思い、エルザの好意に甘えることにした。
「あ、男性様よ」
「きゃっ。目が合っちゃった!」
ただ、その道中でケントは、今まで体験したことが無いむず痒さを感じる。
艦内で遭遇するのは誰も彼もが見目麗しい美女、美少女かつ、やはり真っ白なボディースーツが体のラインをもろに浮き上がらせているのだ。
きゅっとした腰の括れだけならまだしも、胸の小さな膨らみも、たわわに実った巨峰もはっきり分かってしまう。
そんな女性陣がケントの顔を見ると喜んだり、顔を赤くしているものだから、彼はどうしたらいいか分からなくなってしまう。
(女性経験がない訳じゃないけど……)
ケントだって女との性交経験はあるが、それは戦場で出会った女兵士と一夜だけの関係を結んだ話になる。
そのためベッド以外での女の扱いは全く分からず、あしらい方なんて身に着けている筈が無かった。
「こちらがステーションの物品を回収しているエリアになります」
そんな風にケントが戸惑っていても足は動くため、エルザと無言のルナに促されるまま、かなり広々としたエリアに足を踏み入れた。
そこは宇宙空間と艦内を、特殊なエネルギー障壁が隔てている空間で、いちいちハッチの開閉をすることなく小型艇が乗り降りできる区画だ。
ついでに述べると艦の運営に必要な最低限度の人員以外はこの場に集まって作業しているため、夥しい女の群れがいた。
(ステーション……壊れてるなあ……)
ケントは異様な雰囲気を察する前に、エネルギー障壁の向こうに見えるステーションに哀愁を感じた。
彼の体感では数時間前に訪れたステーションは、今や何の輝きも宿しておらず、所々が崩壊している様は、眠っていた長い歳月を感じさせるものだ。
「少し回収された物を見ても構いませんか?」
「はい」
ケントがエルザに確認を取る。
作業の邪魔になるのは百も承知だが、この機会を逃せば次は訪れないだろう。
(バッテリー。僕の冷凍睡眠装置。それに高周波ブレード? 戦時の武器を保管してたのか……)
物品が溢れている区画を見て回ったケントは、武器の類があることに苦笑しかけた。
戦争で溢れかえった武器をどうするのかという問題は彼にも聞こえていて、どうやらとりあえず押し込んでしまえと、ステーションに保管されていたものがあるらしい。
「どうされました?」
「あ、いえ。馴染みの物があるなと思って」
エルザは歩きながら僅かな見物に留めていたケントが、足を止めてじっくり観察していた物に注意を向ける。
それは鞘に収納された高周波ブレードで、優男のケントには不釣り合いなものだった。
「馴染み……ですか?」
「はい」
首を傾げそうになったエルザは、回収されたばかりのケントの体が傷一つないことを知っている。
それに今現在の彼は終戦と長い冷凍睡眠のせいで衰えきっており、とてもではないが兵士には見えない体つきだった。
「昔はこれでも兵士だったんですよ」
「え?」
哀愁漂うケントの顔から突然表情が抜け落ち、すっと目が細められたことで、エルザだけではなく仏頂面だったルナも困惑の声を漏らした。
シャリンと涼やかな音と共にブレードが鞘から解き放たれ、両手にそれぞれ携えた二刀流の形になったケントは、手首をくるりと回し重さを確認する。
それと同時にパチンと音が弾け、宇宙区間を隔てていたエネルギー障壁から何かが飛び出した。
人型だ。ただし、手、足、胴、首、頭。様々な個所からケーブルが飛び出て、漏れた電流の火花が飛び出している。そしてヘルメット状の頭部が辺りを見回し、鈍く光る金属で構成された四肢が跳ね、適当な獲物に狙いを定めた。
軽快な身のこなしは随分としなやかで、ロボットだとは思えない。なにせステーションに配備されていた殺人機械だ。
戦争最終盤に投入された軍用兵器は、手首にあたる部分から鋭いナイフを伸ばし、外見はどんなに美しかろうが、肉の塊でしかない生物に差別なく襲い掛かった。
「い、や」
緊急時の生物は、周囲の景色がゆっくり見えるとよく言われているが、それと同じようなことが区画にいた女達に起きた。
特に障壁の一番近くで作業していた船員は、自身の頭部に迫る刃を認識することはできても、肉体は全くそれに追従できず、そのまま凶刃が肉体に埋まる。
前に光が煌めいた。
「……」
熱はない。気迫はない。
ただ冷徹な光を瞳に宿したケントが刃を振るうと、殺人兵器の腕が肘から断たれる。
殺人兵器も負けてはいない。痛みが存在しない機械は即座にターゲットをケントに変え、残された腕のナイフで彼の頸動脈を狙う。
問題もない。
人口が歪になる程の戦争を生き残り、単なる歩兵なのに戦闘用に調整された者達の中に放り込まれ、結局は終戦まで生き延びた兵士がケントだ。
そしてこの程度の兵器など戦時には掃いて捨てるほどいたのだから、今更問題にはならなかった。
殺人兵器の繰り出した死の刃を、瞬き一つしない目で認識し、僅かに頭を逸らすだけで回避したケントは、殺人兵器の動力源である胸のコアにブレードを滑らせて貫く。
もう一度、バチンとエネルギー障壁が突破された。
それを確認したケントは突入した角度、勢いで着地地点を予測し駆ける。
よりにもよって艦の最高責任者、エルザのすぐ目の前だ。
「エルザ様!」
ルナが慌てて庇おうとしたが全てが遅かった。
ルナの艶やかな褐色の肌が血に塗れる前に。
エルザの豊かな胸が切り裂かれる前に。
後ろから追いついたケントのブレードが機械兵器のコアを突き刺し、物言わぬ人型が床に倒れ伏した。
「あ……」
気が抜けたのか、ぺたんと尻もちをついたエルザとルナは、機械兵器を見下ろすケントの目を覗き込んでしまう。
戦い、戦い、戦い続けてなお心を壊していない強い男、雄の眼差し。冷徹な兵士でありながら、匂い立つような男の獣性を感じ取った雌ができるのは、股を濡らして受け入れる準備を整えるだけだ。
しかしケントは、生存本能と雌の本能に従っているエルザとルナを気遣うことなく、くるりと振り向きエネルギー障壁に歩を進める。
今度の歪んだ音は三回。三機の殺人機械が紛れ込んだが、所詮は壊れかけている廃品に過ぎない。
相変わらず瞬きをしないケントが軽やかに動くだけで、殺人機械の攻撃は全く当たらず、逆に次々と長い稼働時間を終わらせていく。
「……ふー」
最後の一機を破壊したケントは、後続が途絶えたことでくるりと肩を回し息を吐く。
戦争で活躍し過ぎ、一時は暗殺すら企まれたが、付き合いの長い上官が冷凍睡眠装置送りにすることでなんとか守られた兵士は、自身が鈍り過ぎていることにうんざりしながら、守り切った周囲の女たちを確認する。
言い方は悪いが、雌にとって自分を守ってくれた実績のある雄は、これ以上のない生殖の対象だった。