未来から来た美少女猫型ロボットとくだらなくておげれつなお話をする 作:じしんえる
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どれくらい時間が経ったんだろう。ここはどこだよ。暗いし、狭いし。
ハッと俺は気づいた。そうだそうだ、宇宙船で鬼ごっこしてたんだった。もうその船は無いけど。多分、母船の自爆の衝撃で、気を失ったんだ。
にしても、凄い衝撃だったなあ。ドラ子の奴、あんなところに一人残ってろって俺に言ったのかよ。このスーツ、本当にあんな爆発に耐えられるの? 多機能なのはわかったし感心してるけど、とてもそこまでは信用できないぞ。
それで、この脱出艇。やっぱり狭いなあ。さっさと見つけてもらって、早く帰りたい。
俺は部屋の中をゴソゴソする。すると、壁の一つがほんの少し開いた。は? 何これ。壁の隙間に手をかける。開いた。
アッ! 目の前に、ホテルみたいな部屋が広がっている。
なんだよ、俺が入り込んでたのは脱出艇の通気口だったのか。急いでて確かめる暇なんてなかったし、間違っちゃったんだな。でも、これなら待つのも楽勝だ。ドラ子が、このスーツには栄養もあるなんて言ってたし。しばらく連絡がなければ、寝て待てばいいか。
一安心して通気口から抜け出すと、そばに美女が一人いた。恐ろしい形相で。
うわ、びっくりした! そういやそうだ、最後の一人が同乗してたんだっけ。いや、正確にはルールの穴をついて、無理やり俺が乗り込んだんだけど。
ごめんなさい、インチキしたのは謝ります。俺の負けですから。どうかお許しください。
と俺は、手をついて謝罪。未来でも、この謝罪って通用するんだろうか? でも美女は鬼気迫る表情のまま。
ええ、なんでそんなに怒るのさ。もしかしてこの船、どこかの冷血で慈悲もない方程式みたいに、完全一人用とか? すみません、そういうのよくわからないんで。付き添いのロボットに相談してもいいですか? って、通信が切れてるんだっけ。
それに、なんで下着姿なの? 身体のボリュームも相まって、物凄く魅力的だけど。表情がね……。怖すぎるよ。折角の美人が台無しだよ。そんな親の仇みたいな視線向けられてもなあ。
気づくと、美女が何かの操作をした。壁のスイッチを押したようだ。よく見れば、変な小部屋に彼女が入っていた。透明なガラスか何かで遮られていて、気づかなかった。なんだろうこの部屋?
直後、背後から物凄い力。
えっ!? 引っ張られてる!? というか、空気が抜けていってる!? 思わずそばのものに手を伸ばす。しかし一手遅かった。身体は宙に浮き上がってしまった。
まずい! 宇宙の藻屑なんて勘弁だぞ! 必死にもがいて、なんとか何かを掴めた。よく見たらエアロック。その縁をすんでのところで掴んでいた。もう下半身は宇宙に放り出されている。
オイオイ、冗談じゃないぞ! せっかく無事脱出できたのに、こんな仕打ちあるか! このねーちゃん、どこまでルール厳守したいんだよ!
というか、この鬼ごっこ! ルールが変に融通きかないのは何でなんだよ! そりゃ途中抜けは悪質だけど、船を爆発させることもないだろ! それにこういう鬼の勝ちが薄い状況なら、降参もアリだろ! 昔子供の頃通った考えが、一切合切無効になるのなんておかしいよ!!
それにドラ子! 大事なことは事前に説明しろー!!
俺は焦りと怒りのあまり、とにかく思いつく限りの対象に憎悪を向けた。残念ながら、スーツの力でもエアロックに掴まり続けるのは無理だった。手先が滑り、俺はあえなく宇宙に放り出される。
ギャアッ、誰かー助けて!!
しかし、宇宙では俺の悲鳴は誰にも聞こえない。
俺は意識が遠のくのを感じた。
◆
目が覚めると、自宅の見慣れた天井だった。
「ああ、おはようございます。よく休めましたか?」
傍にはドラ子。
ってそれどころじゃない! 船は爆発したし、脱出できたけど俺は宇宙に放り出されたし! あのねーちゃん酷すぎるだろ! 一体いつになったら俺は家に戻れるんだ!?
ドラ子の肩を掴んでガクガクと揺らす。
「落ち着いてください。ここがあなたの家ですよ」
そう言われて気づいた。確かに。周りは見慣れた風景。自室のベッドに寝かされていたようだ。
「脱出艇に乗り込んでくれたのが、助かりました。ある程度位置が追えて、すぐ見つけられましたよ。自爆後のバラバラ船の中で、捜索せずに済みました」
ああ、なんだ。そういうこと。にしてもすっごくビックリしたなあ。未来も宇宙も初体験だけど、まさか宇宙空間に捨て置かれるなんてなあ。あのあと気絶したのも、無理ないよ。
「ああ、気を失っていたのはスーツの機能ですよ。救出される可能性を少しでも高めるため、自動的に意識レベルを下げるんです。身体のエネルギー節約にもなりますし」
あのさあ、そういうことは早く言えって。今回何回言わせたと思ってんだ! 無事ということに気づいたら、沸々と怒りが湧いてきたぞ。
「もう、無事帰ってこれたんだから結果オーライじゃないですか。それに、埋め合わせはするって言いましたし」
終わりよければすべてよし、とは言うけどさ。その過程によっちゃ限度があるぞ。
とにかく、その埋め合わせとやらを教えてもらおうか。内容次第で、もう一度堪忍袋の緒が切れるぞ。金か?
「下品だなあ。『何でもお金で解決できる』なんて考えていないでしょうね。『私貧乏人ですよ』と白状してるようなものですから、それ」
今、説教と皮肉はいらないんだよ!! お前、どこまで俺を怒らせたいんだ!!
「はいはい、じゃあそのまま腹ばいに寝てください。都合よくベッドにいますし」
は? お前、もしかして。金じゃなくって、そんな直接的な……。
「どこまでも下品だなあ。マッサージするんですよ、マッサージ。運動後の休息は重要ですからね」
はあ!? あの死を目前にした脱出劇のお詫びが、マッサージだあ!? ちっとも釣り合ってねえぞ!
俺の頭にはさっきから血が上りっぱなしだ。
「落ち着いてください。寝起きなのに、身体もびっくりしますよ。未来のロボットなので、技術は保証しますから」
そのロボットの誘導で俺は死にかけたんだぞ!! そんな語り口で信用できるかよ!!
でもドラ子の言う通り、俺の身体には力が入らない。どれだけ眠ってたかも分からないし、寝起きなのも事実だ。元気なのは、頭だけ。でもその頭も少し重たい。腹立たしいが、しばらく休んだ方が良さそうなのは本当だ。
ドラ子は遠慮なく俺の体を寝転がし、腹ばいにさせる。すぐさま体を揉み始めた。
お。何だよ、お前。結構うまいじゃねえかよ……。
「そのまま寝てください。もう少し休んだ方がいいですよ」
宇宙にさえ、行かなけりゃ、こんなことにもならなかったのに……。その文句は言葉にはならず、俺の頭の中で行き場をなくし、忘れ去られた。
「……それと、悪いお知らせがあります…………」
薄れゆく意識の中、ドラ子が話しかけてくる。なんだよ、せっかく気持ちのいいマッサージだなあ、って感心してたのに。そういう嫌な報告は、意識がはっきりしてる時にしてくれよ。身体が脱力してるせいで、やはり思いは言葉にならない。ただ俺は聞くだけだ。
「……ちょっと、移動する年代を間違えたみたいです。目当ての時代の、少し前になっていました…………鬼ごっこが娯楽化する、少し前ですね……」
……何? 間違えた? ……悪い予感を頭が察知する。意識をなんとか繋ぎ止めようと俺は努めるが、マッサージがまるで麻酔のように、その努力を無益なものにしてゆく。
……それで、少し前? それって、どういうことだ……。
ドラ子から語られる情報から、これはただごとではないと察する。
「…………あの宇宙船、……ただの貨物船だったみたいです。もちろん、鬼ごっことは無関係で…………私たちが介入したのがきっかけで……未来で鬼ごっこが流行ったみたいですね…………」
そう言ったきり、ドラ子は黙った。
もしも意識がはっきりしていたら、俺の形相は険しくなっていただろう。つまり、あれは遊びじゃなかった。俺のやったことは……。俺の残った理性が、事態の重大さを把握していく。にもかかわらず、眠気が全てを台無しにする。
この会話は夢だったのだろうか? ことの重大さを確かめる前に、俺の意識は完全に沈み込んでしまった。
もっと抜きどころを増やして濃密にしたかったです。