未来から来た美少女猫型ロボットとくだらなくておげれつなお話をする 作:じしんえる
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時間を超えると、そこは狭い部屋だった。
あのー、ここが未来の鬼ごっこの舞台? なんか狭いんだけど。6畳より少し大きい程度じゃないの? しかも俺達二人しかいないし。
「せっかちですねえ。ここはいわばスタート地点です。今回、タロウさんは鬼なので、専用の場所から始まります」
え、俺、鬼なの? てか、いつの間に決まったんだよ。ルールはともかく、ここがどういう場所なのかちっともわからないのに?
「大丈夫です。初心者に親切な設計になっていますから。まずはこの服を着てください」
と彼女は言う。
まあ、初心者に親切ならいいんだけど。でも、『この服』ったって、どこにあるんだ? 周りを俺が見渡していると、ぺたんと何かをドラ子が貼り付けてきた。なんだこれ、湿布?
と思ったら、その湿布がどんどん広がり、俺の全身を包んでいく。うわ、なんだこれ?
「未来の宇宙服です。貼るだけで、すぐ着られるんですよ」
そうドラ子が言う間にも、どんどん服は広がっていく。凄い、特撮の変身シーンみたいだ。僅か数秒で、俺の身体は宇宙服に包み込まれてしまった。こりゃ便利だなあ。頭からつま先まですっぽりだ。
でも、なんか色々と変な部品? みたいなものがついている。特に背中。パイプみたいなのが何本か背中から生えている。なんだよ、これ。邪魔だろ。
「空気の調節孔です。そこから空気を取り入れたり、排出したりするんです。熱も交換できるので、エアコンの役割も果たしますよ」
ああそういうこと。でも、宇宙服って言ったよな? 室内で遊ぶんだったら不要なんじゃないの。
「順番が前後しましたが、ここは既に宇宙船の中です。大体の部屋は空気が管理されていますが、場合によってはそうでない場所もあります。そこでも快適に過ごすためです。それに、もしも宇宙に飛び出してしまった場合の安全装置でもあります」
それなら確かに必要だな。生身で宇宙に……なんて想像したくないし。
って聞き流しかけたけど。今もう船内にいるの? ……という割には、この部屋。なんか、物置みたい。ある程度整理はされているけど、雑多な道具が棚に置かれている。それでいて薄暗い。パッと見の印象は、どこかの会社にある倉庫って感じ。
壁の一角に目を向けると、大きなスライドドアが見えた。ここから通路に出られるんだろう。
「時代が変わっても、部屋や船に求められる機能はそう様変わりしませんよ。お察しの通り、ここは船の倉庫の一つですし。
それと、その宇宙服……スーツですね。それの説明もしますね。鬼専用の、特別なものなんです」
へえ、鬼専用ね。まあ背中の色々だったり、他にも気になるものもあるし。特別ってのは分かる。それで、どんな機能があるんだ?
「生体センサがあります。これで、他の参加者の位置がある程度分かるんですよ」
えっ、そんな公式チートみたいな。鬼が他の奴らの居場所を知れたら、遊びにならないんじゃないの。
「一度言いましたけど、この宇宙船、タンカー船くらいの大きさがあるんですよ。これくらい下駄を鬼に履かせないと、面白くならないんです」
そうだった、そうだった。鬼って俺だけなんだろ? それならこれくらいは手助けしてもらわないと困るよな。でも、どうやってそんな便利機能を使えるんだ? スーツはツルツルしてるばかりで、ボタンも何もないぞ。電子パネルとか?
「一度、気配を探ってみてくれませんか。こればかりは肌で分かってもらうしかないですし」
ロボットにしてはファジィなこと言うなあ。しかし、気配を探れなんて言われても。ニュータイプじゃあるまいし。とにかく聴覚や触覚を、俺は強く意識してみた。
……あっ、分かる! なんか遠くに、小さい光だったり暖かさ? みたいなものを感じる。
「それが他の参加者ですね。つまり対戦相手です。タロウさんは、それに向かっていけばOKです。今は遠いので反応も小さいですが、近づけばもっと強く、分かりやすくなりますよ」
へええ、便利なもんだな。早い話、レーダーか。
そういえばさ、この変な形のヘルメットはなんなんだ? 後頭部から急に後ろに伸びてるし。独特なデザインしてるけど、何の役に立つの?
「それは先ほどのレーダー機能を担っています。他にも、衝撃を吸収してくれます」
そうなのか。触ってみると、表面こそプニプニしながらも、しっかりとした硬さ。変な形だけどね。首を振っても肩にはぶつからないし、かぶりも振れる。重さも感じないし、邪魔にはならない。
それと、この手袋。スーツがそのまま伸びてくれたものだけど。俺の手には大きすぎるし、変に指も長くないか? サイズ間違えてるんじゃないの。加えて、指が六本もある。未来人って、遺伝子が変異でもしたの。
「それも理由があります。試してもらった方が早いですね。その辺の壁に触れてみてください」
と彼女に言われ、そのまま俺は言う通りにする。
あれ? 変わった感触だ。力が込めやすい。滑りもない。
「そのまま登れますよ」
えっ、ほんと? そんなどこかのクモヒーローみたいに? やってみると、本当にスルスルと壁をよじ登れてしまった。
ワッ、凄い! 手だけじゃなく肘や膝、壁に触れる場所が簡単にくっついてしまった。それでいて、体をしっかりと支えてくれる。離れたい時には簡単に離れられる。もしかして、と思って天井に進んでみたら、そのままこちらにも張り付いてしまった。こりゃたまげた! 縦横無尽じゃんか。
「スーツが筋力補助機能も有していますから、疲れないでしょ? 指が六本に増えているのも、補助のためです。床、壁、天井。どこでも行けますよ。それに、走っても疲れにくいですし」
へええ。なんて便利なんだろう。
「せっかく有酸素運動しても、すぐ疲れて止めてしまっては効果も下がりますし。何より、続ける意欲がなくなっちゃいますからね。このスーツを着れば、楽に運動を続けられます。さらに、この鬼ごっこで楽しく運動できると」
うーむ、いかにも未来的だなあ。これなら楽しめそうだな。俺は小さい頃足が遅かったから、一度鬼になったら最後だったよねアハハ……やめようこの話。辛くなるだけだし。
「それと、尻尾のおかげでバランスも崩さないでしょ? 独特のスーツですが、しっかりと着た人を助けてくれますよ」
そういえば生えてたね。こっちも変に長いし、邪魔っけに思えたけど。俺の意識に応じて、柔軟に動いてくれる。思った以上に高性能だな、これ。
「じゃあ早速ですが、試合開始しちゃいますか。他の皆さん、お待ちですし」
えっ、いきなり!? 地方ルールとか無い? そりゃ幼少期に慣れ親しんだから、ある程度は肌でわかるとはいえ。
「やりながら説明しますよ、そのうち慣れます。じゃ、そこの通風口に入ってください。それで試合開始です」
通風口? と、天井の一角に狭い入り口が見えた。ああ、これか。でも、何だってそんなところから? この目の前のドアを通れば良いんでないの。……開かないけど。
「それもルールの一つです。鬼であるタロウさんは、鍵のかかったドアを通れません。そのため、通風口を使って移動する必要があります」
へええ、これもルールの一つなの。
「せっかく壁も天井も移動できるんですから、それを活かすルールにしないと。鍵を持った参加者が開け閉めすることで、逃げ役の戦略性が出るんですよ。鬼の移動経路を制限できますからね」
なるほど。面倒と思ったけど、まあ合理的かも。鬼が圧倒的に有利じゃ遊びにならないし、逃げ役にもある程度有利なところがないとダメだよな。ゲーム作りって、難しいね。
そんなら、と天井に這って登り、俺は通風口に入った。……興味深い仕組みではあるんだけど。何だか、ゴキブリみたいで嫌だなあ。
通風口の中は真っ暗だった。でも夜目が効くのか、先まで見渡せる。これもスーツの機能なんだろう。
にしても、すっごく埃っぽい。未来の宇宙船だと聞いてワクワクしていたのに、こんな生々しい現実見せられてガッカリだ。結局、見えないところは汚いままなのか。未来のお掃除ロボットはここまで掃除してくれないの?
「元は輸送船でしたからね。それを娯楽用に、改装しただけなんです。その辺は我慢してください。それに、マスク機能も付いてますから。息は辛くないでしょ」
コストの問題かあ。未来でも資本主義は生き延びているのかな。それに、ドラ子の言う通り呼吸は楽だ。手袋の張り付き具合もちょうど良くて、狭い通風口内を簡単に移動できる。
さっきから感じ取っていた逃げ役の光が、少し散らばっているのに気づいた。おっ、あっちも始めた感じかな?
「お察しの通りです。逃げ役にも勝利条件が用意されているので、行動し始めましたね」
えっ、勝利条件? そんなのあるの?
「はい、道中で説明しようと思っていました。
逃げ役は、ある決められた作業をこなす必要があります。全員が鬼に捕まる前に全てこなしたら、逃げ役の勝ち。作業を完遂される前に、鬼が逃げ役を全員捕まえれば鬼の勝ちです」
逃げ役に作業? 何だってそんなことしないといけないんだ? 小さい頃の鬼ごっこでは、そんなルールなかったけど。
「小さい頃は『飽きたらやめる』『疲れたらやめる』とか、そういう曖昧なルールだったでしょ。それじゃあ、やめ時がうまく決められないじゃないですか。ずっと逃げ続けるのも、ずっと追いかけ続けるのも疲れますし。締め切りがあって、人間さんは本気を出せるものですから」
それもそうだ。必要なルールなんだな。その辺も現代的……いや未来的か。
よっし分かった。負けてばっかだったけど、小さい頃にやり慣れた遊びだ。久方ぶりに、全力で取り組もう。
そう意気込んで俺は通風口の中を素早く移動した。