※本作品の登場キャラクターはすべて成人です
※作品内のすべての行為は、両当事者の同意のもとで行われる特別な演出です
「くそ!くそ!」
とある鎮守府に、ひとりの男が汚い声で怒りをぶちまける。
年は四十代、身長は平均くらい、ブルドッグのようなたるんでいる頬がまったく愛嬌を感じられない、生え際は大幅後退している額によく汗をかいたことは悩みの種。
職業の関係、多少筋肉が付いているが、贅肉が多いため少し肥満体に見える。とてもじゃないけど、女性に好かれる外見ではない。
男は元々陸軍に所属する整備士だが、この前人事部からの転属命令によって鎮守府に転属した。
むさ苦しい、男所帯の陸軍とは違って、人類の共通の敵──深海棲艦と戦うための鎮守府は、それらと対抗する力を持つ特別な存在……艦娘と呼ぶ女性達を中心に構成された組織である。
彼女達は強いだけじゃなく、もう一つわかりやすい特徴がある──それは誰一人も例外なく、全員は見目麗しい美女、美少女、美幼女である。
そしてそんな強く美しい女性達が集まる鎮守府、男にとってはまるでパラダイスのような場所。
今まで風俗店で己の欲望を発散するが、これからはそれをする必要なく、新しい仕事場所で美しい同僚達と親睦を深め、好感度を稼ぎ、ゆくゆくは肉体関係に持ち込み、自分だけのハーレムを築き上げる。
……と、人事命令を受けた日から下心だらけの邪な考えは、転属の初日で砕けてしまった。
この鎮守府の位置は前線から離れるため、激しい戦こそないものの、小さい競り合いは一週に……時に一日に何度も起これる。そのため艦娘達はいつも怠らなく出撃、演習、もちろん休憩も挟む毎日を過す。
当然ながら、戦いに怪我や、装備の損傷はつきもの。そして装備が損傷したら修理が必要になる。そこで整備士の出番だ。
艤装の修理や整備は主に工作艦の明石とお手伝の夕張が務めるけど、大勢の艦娘の装備に、たった二人だけではとても回らない、必然的に整備士にも手伝いさせる形になる。
そしてそれは、あの男にとって地獄のような日々の始まりなのだ。
陸軍にいた頃では、深海棲艦との戦いにほぼ無縁の生活を送り、加えて本人は怠け者で、それなりの立場があるだから、常に隙きを見てサボりや手抜き作業を行い、可能な限り怠惰を満喫する。だからここの生活には馴染まない。
初日から知らない装備の修理を手伝わされ、部品の整理や点検、弾薬の補充、さらに倉庫の清掃や諸々雑務まで……一日の作業量は陸軍のところに比べて軽く数倍を超えている。サボりたいでもいつも周りが人目につく、何処にでも怠けることはできない。
しかも陸軍の階級は関係ないと言わんばかりに、男はここでは新人同然の扱いを受け、大した階級はなく、陸軍にいたなら必ず男に畏敬の念を抱いたことになる整備部の女兵士、しかも年下の彼女達に先輩風を吹かせて、働かせる。
が、そこまではまだいい──いや、男にとって良くないけど、まだギリギリ我慢できる。一番耐え難いのは、自分の身に一つの色恋話も降らないことだ。
「せっかく女だらけの場所に転属したのだ、いい話、エロい話は1つや2つあってもいいだろう!」
と男はそう憤慨しているが、原因は自身にある。いつも女性達に無遠慮な視線を投げまくって、ことごとく口説きをかけまくる。その結果、女達に避けられ、疎まれ、あまつさえ面と向かって「近寄るな!」と堂々と拒絶される。
いわば自業自得である。
しかしそれを自覚しないまま、己に降りかかる不運を全て他人のせいにした男は自分の行いに反省の色が見えない。例え今日みたいに一人で工場の清掃と後始末に指示されたら、みっともなく地団駄を踏みながら悪態をつく。
「俺は陸軍にいた頃では結構な地位についていたぞ!こんな俺を新人みたいにこき使ってやがって……!しかも相手はたかが乳臭い小娘たち……やつらは年上者への敬意も払わないのか!まったく社会経験が足りないぞ!大体女ごときは男の仕事に首を突っ込むな、メスならメスらしく男に媚びろう……」
と、不満や私欲を垂れ流しつつも、男はちゃんと指示通り工場の清掃を行う。その姿はある意味哀れにも見える。
そんな哀れな男に、一つの機縁が訪ねてきた。
「ん?……なんだこれは?」
掃除の途中うっかり木箱にぶつかり、その上に置くたくさん用途不明な機械から、一つ小さいものは男の足元に落としてしまった。
手に取って見ると、それは手のひらサイズの直方体にボタンとレンズがついてるだけ、子供のおもちゃと思うほどデザインが極めてシンプルのものである。
「ふん、どうせ鎮守府のメスガキ共に遊ぶために作ったものだろう?そんな暇あったらもっと仕事しろ!これだから女は……」
ここでも小言を欠かさない男はあまり深く考えず、拾ったものを箱に戻そうとするとき、不意に背後から声をかけられた。
「あ──!それ触っちゃダメ──!」
「うお!?」
びっくりした男は思わず声の元へ振り向け、手がついポチッとボタンを押して、レンズからレーザーのような光が射出、声の主──ピンクの長い髪に、セーラー服を着ている女性に当たってしまった。
「しまっ………………あ………………」
「あ、明石さん!?俺サボってないぞ!このおもちゃが落ちたから拾えただけ、決してサボったわけでは……明石さん?」
一人でいるときはあれだけ陰口を利くなのに、人前では基本立場が上の人間に媚びる、小心者の男は真っ先に自分が怠けていないことを弁明するが、途中からは女性の異変に気づいた。
レーザーに撃たれた女性──工作艦明石の表情は顔から剝げ落ち、エメラルド色の瞳は光が失う、体の力が抜け、両手はだらんと垂れ下がる、まるで人形みたいに生気の欠片も感じられない。
「明石さん?聞こえますか、明石さん──?」
「はい……聞こえます……」
返事は貰えるが、抑揚のない話し方に、男はますます困惑を募らせる。
「いや、待てよ、もしかして……」
そこで男はある可能性を思いつき、試しに幾つの質問を明石に投げ、それらは全部返事される、さらにHな質問も投げてくると、またもや返事が貰える。
これで確信を得た男の口元は、いやらしく歪んだ。
「こりゃいいもの手に入れたな、くくく……」
この瞬間から、男にとって地獄な日々が一変して、砕けたはずの妄想の内容と同じパラダイスライフへ変わってしまった。