日本ベースの少しずれた世界で2度目の先生 作:sasahara
目が覚めると、獣耳JKに背負われていた。
微かに汗の浮いたうなじから良い匂いが香ってくる。
やめてくれ、それは(先生を辞めた今の)私には効く。
「えっと、どういう状況?」
「ん、先生を誘拐した」
わかっていたが、誘拐犯はシロコで間違いなかった。
「何故だろう、先生とは初めて会った気がしない」
「...へえ、私はそう言われたのは初めてだよ」
「きっと私たちは相性がいい。アビドスのみんなもきっと気が合う。だから先生には戦闘の『指導』を頼みたい」
指揮ではなく、ね。
少なくとも『この世界』ではアビドスが借金漬けになっていることはあり得ないから接触はしていなかった。
だが『先生』を誘拐してでも確保する必要がある状況にはあるらしい。
「すまないが、事情があって『先生』は少し前に辞めたんだ」
「知ってる。辞めてない『先生』は不足していて取り合い。だから適任。あなたを選んだ理由のひとつでもある」
----
さて、どこから説明したものか(?)。
まず私は『先生』として2周めの人生を歩んでいる。
先程のシロコの発言は置いておくと、前回から記憶を引き継いでいるのは私だけ。
そしてこの世界は、前の世界(キヴォトス。アロナが呼んでいたところのいわゆるBlueArchive世界)と人物はほぼ同じだが、テクスチャが少し違っており、いろいろなことがズレている。
JKが銃を持っている、生徒にヘイローがある、獣耳や翼が生えている、という生徒のアトリビュートは変わらない。
違うのは、この世界は『現代日本』準拠かつ野良ロボット襲撃の危機に晒されており、学園は野良ロボットと戦えるヘイロー持ちの特別なJKを集めたクランを指す、というところだ。
そしてこの世界のアビドスだが、日本政府が定めている防衛線の後退により、鳥取砂丘アビドスチームはリソース提供を打ち切られて解散の危機に瀕している。
そしてアビドスチーム喫緊の課題は、日本政府が諦めたことで増援が得られなくなった状況で、どうやって鳥取を防衛するか。
そこでアビドスが考えたのが、今いる戦闘員だけでも可能な戦力強化をすること。
つまり『育成』だ。
「だから先生を誘拐した」
シロコは後ろ暗さの欠片もなく、これで問題解決、とばかりに言い切った。
「さすがシロコちゃんです!」
「確かに戦闘指導できる教員の不足がアビドス解散の理由ですが...」
正確には理由のうちの一つでしかなく、教員を補填できたら解決、というわけではない。
資金と法的処理の問題は、アビドスではアヤネが引き受けて問題はあれど大過なくやれているらしい。
しかもここは鳥取ではなく東京郊外にアビドスが持つ拠点。関東での演習参加や遠征討伐に必要な資材置き場兼仮宿らしいが、こういう施設を維持できるくらいは、この世界のアビドスには基盤があるということだ。
今更だが、現代日本ベースかつJK縛りで学園をひとつ捌けるアヤネが居ても返せなかった借金って、カイザーが学生相手にキヴォトスで如何に無茶苦茶やってたのか実感されて、居た堪れない。
それに、この場にセリカとホシノがいないのは気になる。
それでも見知った顔の近況に触れて、どうにも感傷的になってしまう。
...いや、『ホシノはともかく』、セリカがいないのは何故?
「アヤネ、アビドスのメンバーはこれで全員?」
「ええとですね、あと1人...いえ2人います。もうそろそろ帰ってくる頃かと」
などと言っているうちに廊下から足音がして、やがてドアが開くと。
「アヤネちゃん、セリカちゃんを捕まえてきたよ! 今日こそ説得してうちのチームに入ってもらおう!」
見慣れた顔に聞き慣れた声、ただし溌剌と気合が入っており、先輩らしい威厳を感じさせる。
「ホシノ先輩、丁度いい。私も『先生』を誘拐してきた。このメンバーでアビドス新チームを発足する」
「アヤネ、ホシノさんを止めてよぉ! 毎回毎回こっちの予定も都合も聞かずに連れ出すんだから! ホシノさんも、あんまりしつこいとそのうち誘拐だって警察に訴えますよ!」
「シロコちゃん私はセリカちゃんに任意同行してもらっただけで誘拐したわけじゃ......うへ?」
「......やあ」
「せっ、先生!?」
たっぷり3秒固まったあと、ホシノは逃げ出した。
残った生徒たちも、未知の出来事だという様子でポカンとしていた。
「...アヤネ、ホシノさんのさっきの『うへ?』って何?」
「さあ?」
よろしくおねがいします