日本ベースの少しずれた世界で2度目の先生 作:sasahara
「なっ、何よぉ、これぇっ……!?」
セリカちゃんの悲鳴が、砂嵐の吹き荒れる戦場に響き渡る。
私たちの視線の先、砂塵の向こうから現れた巨躯は、事前の情報とは明らかに一線を画していた。
『報告します! 敵熱源、予測されていた「Hard」ではありません! クラス……「Extreme」です!!』
アヤネちゃんからの報告が、アビドス対策委員会の一同に絶望を突きつける。
あまりにも格上の存在。まともに立ち向かえば、一瞬で消し飛ばされる。
「……先生、おじさんが『着替える』時間を、少しだけでいいから稼げないかな?」
私は、いつもの飄々とした笑みを無理やり張り付かせたまま、隣に立つ先生を見上げた。
その言葉の裏にある決意に気づいたのか、先生は一瞬だけ躊躇うように視線を彷徨わせ——そして、すべてを受け入れるような、いつもの大人の笑顔を浮かべた。
「……責任は、私が負うからね」
その返答に、私の胸がドサリと重くなる。
それは、私が初めて見る先生の反応。
『大人のカード』すら通用しないこの異常な状況において、万能の救世主ではない、ただの「一人の人間」としての教師の限界を、嫌というほど理解させられる。
(先生でも——無理ってことか)
先生は、自分が指揮を引き受けさえすれば、この後に起きる惨劇のすべてが『自分の責任』になると知っている。大人の論理で、生徒たちを何人かでも生き残らせるために、誰かの死を引き受ける覚悟を決めてしまったのだ。
これから起こる、アビドスのみんなの痛みや苦しみ。
それを全部、あの細い背中に背負わせるというのか。
(そんなこと、絶対にさせない)
私が馬鹿だった。
みんなと一緒に戦おう、今度こそ仲間を信じよう、なんて綺麗事を思ったのが間違いだったんだ。
やっぱり、最初から私一人が犠牲になって、全部解決すればよかったんだ。
幸い、私の間違いは今からでも最小限に正すことができる。
その結果として、先生に私という「教え子の死」の消えない傷を背負わせることになってしまったとしても。
「せめて、タンクとして時間を稼いで、みんなを逃がす……!」
きっと先生なら、私の死を乗り越えて前へ進んでくれる。
いや、進んでくれなきゃ困る。
(——私(生徒)がそれを望むなら。先生は、私なんかのことは綺麗さっぱり忘れて、先へ行ってくれるよね?)
「「「先輩っ……!!」」」
背後から仲間たちの叫びが聞こえる。
どうして、逃げてくれないの。
どうして、先生まで前に飛び出してくるの。
私なんかを庇ったって、何の意味もないのに。
小鳥遊ホシノという存在に、そんな価値なんて、これっぽっちもないのに。
「ホシノ——!」
先生が何かを叫ぼうとした。
きっと、私の歪んだ自己評価を否定するための言葉。けれど、それを紡ぐための時間は、ビナーの咆哮によって無慈悲に塗りつぶされる。
時間が足りない。すべてが手遅れになる——はずだった。
「——わたしのお婿さんに、何させてるの?」
その可憐で、ひどく冷徹な声が響いた瞬間。
ホシノは反射的に、声の主ではなく「空」へと視線を走らせていた。
直感があった。
天から、この戦場すべてを圧殺するような、致命的な一撃が降ってくるという確信。
それは、美しい紫色の彗星だった。
真昼の砂漠が瞬時に暗闇へと反転するほどの、圧倒的な光を放つ質量。
目を閉じる猶予すら与えず、ソレは大地へと到達した。
視覚、聴覚、五感のすべてが真っ白に塗りつぶされる。
衝撃のあまり、正気を取り戻すまでの記憶が数秒ほど完全に消し飛んだ。
ハッと息を吹き返し、目を開ける。
そこにあったのは——先ほどまでビナーが君臨していた場所に穿たれた、巨大なクレーターだった。
足元すれすれまで巻き込みながらも、自分たちが傷一つなく生きていることの理屈が通らない。それほど破壊的な質量攻撃。
時間を歪め、因果を捻じ曲げる。
この世界において、それは星の軌道すら変えるほどの「圧倒的な質量」だけが持ちうる特権。
相性属性などという戦術論すら、絶対法則の前には無意味と化す。
この宇宙で、最も特別で、最も理不尽なお姫様。
美園ミカは、砂漠のど真ん中に佇んでいた。
その爪先は砂に汚れることすらなく、青い夜を覆い尽くすオーロラのような存在感を放ちながら、アビドスの生徒たちの前に君臨している。
その腕には、衝撃で気を失った先生が「お姫様抱っこ」されていた。
両手が完全に塞がっている状態だが、彼女にとっては、そんなものは手枷にすらならない。
「あなたたちが戦うのも、死ぬのも自由だけれどさ」
ミカは、ただ淡々と、当然の事実を告げるように言葉を紡ぐ。
「生徒のものなら、死でも何でも、先生は背負っちゃうヒトなんだよ。……だから」
狂おしいほどの独占欲を孕んだ瞳が、静かに一同を射抜いた。
「私より重いものを、先生に背負わせることは許さない」
圧倒的なプレッシャーの前に、アビドスの生徒たちの視線が自然と一箇所に集まる。
この理不尽な怪物を前に、辛うじて盾を構えていられる、唯一の「タンク」へ。
ホシノは、呆れたように、けれどどこか救われたように息を吐き、自嘲気味に呟いた。
「……星をも砕くお姫様の登場だ。おじさんには、ちょっと荷が重いよ」
自分が好きじゃないホシノ解釈、俺が仲間を信じたせいだ構文を添えて
パロでは緩和しきれないシリアス解釈では?
最強重装タンクホシノを砕くお姫様登場