日本ベースの少しずれた世界で2度目の先生 作:sasahara
「反省しないヒトだね、小鳥遊ホシノという生徒は」
セイアの呆れ口調は、ミカやナギサへ向けるような親しげな皮肉ではなかった。面白さを理解できない大道芸でも見た後のような、心底からの感嘆、あるいは困惑に近いものだった。
「うん、だから今はアビドスの子たちにたっぷり説教されてるの。毎回あんなに怒られてるのに全然変わらないなんて、ある意味『本質』って怖いよね」
ミカが苦笑混じりに応じる。
「ミカ。先生を救援するためだけに、トリニティの阻止線を力ずくで粉砕して飛び出していった君が言えた義理では……。まあ、いい。私のように『本質』を完全に捨て去ることになるよりは、ずっと健全だろう」
セイアは、この世界における自身の『本質』をすでに失っている。
それは単に能力を喪失したというレベルの話ではない。例えるなら、不慮の事故によって脳に障害が残り、人格そのものが変貌してしまったかのような——アイデンティティそのものを残酷に切除される手術を経たかのような、決定的な喪失だった。
私の内心の暗い思考が、そのまま表情に出てしまっていたのだろう。
セイアはふっと表情を和らげ、おどけたように肩をすくめた。
「先生、今の百合園セイアは、破天荒で調子乗りなパーソナリティということでね。『今は』これでいいではないか」
「まあ、目を覚ます前の、理屈をこねくり回して鬱陶しいだけだったセイアちゃんよりは、今の方がマシじゃない? べつに、今のセイアちゃんが鬱陶しくないわけじゃないけどさ」
ミカの容赦のない突っ込みに、私はどう反応すべきか困ってしまう。
その様子に気づいたミカは、私の顔を盗み見て、いたずらっぽく笑うとそのまま口を閉じた。
ミカは私の前で、ただの『お姫様』ではない、泥臭い自分を見せることを覚えた。そしてその後、余計なことを言わない『お口チャック』のスキルも追加で習得したのだ。
「それにしても、先生」
セイアがティーカップを静かに置き、じっと私を見つめてくる。
「戻ってくるのであれば、身を隠すときと同じように、せめて私くらいには事前に連絡をしてほしかったな」
「! ミカ、君まさか先生が消えることを予め知っていたのか!? 先生、君もいったい何を考えて——」
そこまで一気に糾弾しかけたセイアだったが、すぐに言葉を濁し、ため息をついた。
「……いや、ミカにだけは連絡を入れておいたというのは、大人の判断としては正しい。先生が無言で消えたりすれば、ミカがこのキヴォトスで何を仕出かすか、分かったものではないからね」
「みんなには、事前に言ったら絶対に引き留められると思ったんだ」
私がそう弁解すると、セイアは眉をひそめて声を尖らせた。
「当たり前だ! 君が私たち生徒にとってどれだけ重要な存在か……。いや、確かに引き留めてしまっていただろうが、それにしてもだ。先生と私の『関係』であっても事後連絡のみというのは、正直に言って傷ついたよ」
つう、と、セイアは細い指先でティーカップのふちを滑らせる。
その視線には、かつての予知夢の聖女としての厳格さはなく、ひどく湿った熱が籠もっていた。
「生徒としてではなく。ひとりの女性としてね」
「……うん」
「『うん』ではない」
セイアの冷ややかなツッコミに、私は視線を落とす。
「愛想を尽かされても、仕方がないとは思っているよ」
「ずいぶんとずるい言い方をするではないか。私が君から離れられるとでも思っているのかい?」
セイアの声が、一段と低く、艶を帯びたものに変わる。
「獣の神秘に頭を支配された状態のこの私に、雄を股に咥え込む下劣な喜びを教え込んでおいて……今さら、私の自由意志で関係を解消しろと? 私が異常なまでに初恋に一途な少女でなければ、今頃ティーパーティの権威は、私の不潔なスキャンダルで完全に失墜していただろうね」
部屋の中に、重苦しい沈黙が流れる。
その静寂を破ったのは、呆れたようなミカの声だった。
「……セイアちゃんの言うこと自体はぐうの音も出ないほど真っ当だけどさ。Web会議で毎週決まった時間に、遠隔相互オナニーしてた間柄で言うセリフじゃなくない?」
「ミカ。視覚と聴覚だけでは到底足りないのだ。愛する人と肌を触れ合わせたいと思うのは、生き物として当然の欲求だろう?」
「それはわかるけど……」
「で、だ」
セイアは再び私に向き直り、ジト目を向ける。
「そんな肉欲本位な私が、先生を今すぐ押し倒すよりも優先すべき事情がある。今回こそはそれを解決しておきたいのだが、先生、当然心当たりはあるのだろうね?」
「……ナギサのことだよね」
私の言葉に、セイアはジト目を崩さず、隣のミカは「うんうん」と深く頷いた。
「確かにね。私やセイアちゃんとはそんな深い関係を持っておいて、ナギちゃんのことだけほったらかしなのは、さすがに良くないよ、先生」
「あの頃の『先生』という立場ならまだ理解もできたが……今はもう教師ではないというのだから、なおさら言い訳は通用しないよ」
二人の追及を受け、私は小さく息を吐き出し、覚悟を決めて切り出した。
「セイア、ミカ。ナギサに、会わせてもらえるかな?」
その言葉に対して、セイアの対応は辛辣で、ミカの対応はどこまでも寛容だった。
「君がそれを望むなら、いつでも会えたはずさ。昔も、そして今も変わらずにね」
「ふふ、その言葉を待ってたよ、先生」
ホシノに引き続き、ちょっとセイアのシリアス解釈含む回
角川ホラーの『アリス』パロなんて気づいてくれるヒトがいるのかどうか
いやセイアは元からああいうパーソナリティだったと思うよ?
水着セイアはインパクトありましたからね...まさか通常衣装の8倍のわんぱくが含まれているとは