日本ベースの少しずれた世界で2度目の先生 作:sasahara
「ごめんヒナ、2回目がお部屋デートになるとは」
「大丈夫。お互い監視の目は多い方だし、そういう意味では私の方も外デートは準備が出来ていないから」
今のヒナは、3時間の予定を開けてアコ行政官の目を外してもらうだけでも大変らしい。
「そんなになるまで何もしてあげられなくてごめんね」
「先生は悪くない。仕事と同じで、増えていく監視と行動制限を、私が面倒がって放置していたせいだから...。大丈夫、私の周囲を囲っていた内外の諜報機関は、来週までには全部排除するから」
ヒナの目が鋭くなっていた。
「...ほどほどにしてあげてね」
「諜報員達が大人しく引いてくれれば」
ヒナの目は鋭いままだった。諜報員の皆さんの無事を祈る。
私が居を構えているのは、郊外の防音がしっかりした古いが頑丈なマンションの一室だ。
「先生、こんなところに住んでいたのね。どうして見つけられなかったのかしら」
「実はヴェリタスと交渉して、条件付きで匿ってもらっているんだ」
「あのミレニアムのヴェリタスに? 先生は何処にでも伝手があるわね。納得した。それなら確かに、ゲヘナの諜報部でも追えないはずだわ。でも交換条件って?」
「実は、そのことをいつ説明しようかと思っていたんだけれど...」
私は意を決して、ヒナに謝るつもりで話す。
普通、お部屋デートで男女に何も起こらないはずはないのは、お互い事前にわかっているからだ。
「室内の声は全部筒抜けなんだ」
「...わかったわ」
だから今日は大人しいお部屋デートにしよう、と切り出す前にヒナがかぶせてくる。
そもそもヒナ、今日は絶対エッチするつもりで来てるものな。
ヒナがエッチ好きだからということではなく(いやエッチ好きでもあるのだが)、甘えるのが大好きなヒナが、ラブラブいちゃいちゃエッチで存分に甘えられる機会を、我慢できるはずがない。
とはいえ前回のアコ行政官のことがあったとはいえ、見知らぬヴェリタスに嬌声を聞かれる覚悟を即座に決められるとは、さすがに想定していなかった。
「...先生から見て、私って性欲強いかしら? こんな破廉恥な娘は嫌い? きっとこういうのを、がっつきすぎ、って言うのよね」
「ヒナがエッチなら、予め知ってて引き返せないところまで説明しなかった私なんかは性欲魔人の呼び名がお似合いだよ」
いや、複数の生徒に手を出している男が性欲魔人でなくて何なのか、と言われたら反論できないが。
「いいの。知ってて、先生と関係しているのだし。この前の約束、ずっと期待してた」
「落胆はさせないよ」
と、言ったそばからドアの鍵が開いていることに気づく。
...連絡なく勝手に部屋に上がっている娘の心当たりは数多あれど、こういう不用心なことをする娘の心当たりは1人しかいない。
「ごめんヒナ」
「またブッキング? 先客がいるのね?」
男として最低ながら、そう。
「仕方がないわ。先生がたくさん慕われるのはよく知ってる」
そこで怒ったりせず一歩引いてしまうヒナがいじらしい。
ヒナを優先したいのは山々だが、ここで捕まえておかないとつぎ何時見つけられるかわからない。
まして彼女は、見つけても身柄確保が難しい実力者であるし。
「ヒナ、重ねて申し訳ないけれど手伝ってほしい。ヒナにしか頼めないことなんだ」
と言うと、ヒナは機嫌を損ねるどころかパッと表情を明るくする。
「何でも頼って。私が先生の役に立てるのなら嬉しい」
「実は、室内に居るのはホシノなんだ。作戦は...」
私が簡単な説明をするだけで、ヒナはすべて理解してくれる。
「わかった」
そう言うと、ヒナはスッと私の隣を抜けて、無音で部屋に入って。
小さな騒音のあと、ヒナは言った。
「無力化した」
...。
「ヒナちゃん投入はズルくないかな先生!?」
「偶然なんだって。それに、捕まえておかないとホシノだけ一方的に話してこっちの話は聞かずに逃げちゃうから」
ホシノ本人はというと、お気に入りのモップみたいな寝袋の上からグルグルに縛られている。
『前のホシノ』と同じ枕に加えて、何故かは知らないがエビフライの寝袋が『こちらのホシノ』のお気に入りらしい。
それにしても、あんな逃げ出し方をしておいて、家で寝て待っていたとは『良い性格』をしている。
「...ホシノ、あなた先生の家に自分用の寝袋を常備させているの?」
「ヒナちゃんも歯ブラシとか置いたらいいんだよ」
「ゲヘナ自慢の拷問室で、油鍋に投げ込んで本当にこんがりサクサクなフライになるまで揚げてもいいのよ?」
「すみませんでした」
ヒナは、ホシノの寝具が私の部屋に常備されていたという事実に、珍しく少しイラついているようだった。
「ヒナ、ホシノにはお仕置きしたいんだ。でも今日はヒナとイチャイチャもしたい。それで考えたんだけれど」
私はヒナに作戦を伝える。
「...そんなのただの、『私の』八つ当たりの言い訳だわ」
「そうかなぁ。いつも抑圧しているヒナの本音、ホシノにぶつけていいんだよ? ホシノとヒナの関係はこの程度でこじれるほどヤワじゃないと思う。それに、ヒナが頑張ってるあいだ、ホシノは私と半同棲してたの、本当はムカついてるんでしょ?」
「...先生ズルい。私だって本当は、先生を独り占めしたくて胸が苦しいのに」
「つらい思いをさせてごめんねヒナ。今日は私とヒナのイチャラブ、ホシノに見せつけながら気持ちよくなろうね」
「本当に先生は、女の子を利用するのが上手すぎる。こんなのぜんぶ先生に都合がいいことなのに、そのぶん以上に幸せにされてしまうのがわかってるから、逆らえない」
ちゅっちゅ、とヒナと軽く前菜のキスをしてから、ホシノに向き直る。
「じゃあホシノ、眼の前で3時間くらいヒナと愛し合うから、そこで見ていてね」
「ホシノ、そういうことだから」
「う、うへ〜、先生はともかく、ヒナちゃんが何時の間にかとんでもない変態さんになっちゃってるよぉ!」
狼狽するホシノだったが、もうそこから無視プレイは始まっている。
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「今はそんなことで叱られている場合ではないんです」
コタマの真剣な表情に、ヴェリタスの全員が向き直る。
ヴェリタスのいつもの日常...誰かが発案して全員で何処かのサーバをハッキングし部長にバレて、いま叱れている真っ最中...だったのだが。
「先生が連れ込みの生徒さんと部屋でエッチを始めています。ライブ音声ですよ。絶対に生で聴かないと!」
「デジタルだから生とか関係ないでしょ」
冷めたことを言うマキだって、自分のヘッドホンを押さえてこちらの会話には意識がほとんど向いていない。
今回の主犯として一番前で起こられていたハレがチヒロに懇願する。
「部長、話は後できちんと聞くから。今だけはお願い。...ね?」
「......まあ、今どれだけ叱っても全員上の空よね」
コタマが無言で差し出す予備のヘッドホンを、チヒロも受け取った。
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3時間後。
......結果として、ヒナはアコに続けて、ホシノの脳を破壊した。
「ウッ、ウッ(滂沱の涙)、スベテオハナシシマス...」
ホシノ(エビフライ)は、後悔以外の感情を失い反省の言葉と涙だけを流すマシンと化していた。
気持ちよく搾り取られた私とツヤツヤしたヒナは玄関先で別れの挨拶を交わす。
「じゃあ先生、次はショッピングデート、楽しみにしてる」
「うん。今日破ったタイツはそのとき必ず弁償する」
「もう女の子の使用済みタイツをしゃぶったりしたらダメよ」
「...ホシノの説得に協力してくれてありがとうね、ヒナ」
「! 次は許さないから。ヴェリタスにも連絡をとって、先生がこれ以上不衛生なエッチをしないか監視してもらわないと」
「衛生的ならいいんだ...」
そのヴェリタスはこのやりとりも聴いていると思う。
ヴェリタスのみんなが今からヒナ襲来に怯えていないか、ちょっとだけ心配だ。
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ヒナが帰ったあと、すっかり素直になったホシノの縄を解き、カタコトが治るまであやしてから、事情を確認した。
「ホシノ、この世界ではアビドスには関わらないって言ってたよね」
「うん、そのつもりだったんだけどさ...」
「別に責めるつもりはないよ、むしろ良いことだと思う。でも私に秘密にしてたし、逃げたから」
「言い出しづらくて...」
「しかも、1~2年生くらいの『キヴォトスの』ホシノ自身を演じてるよね?」
「! だってアビドスの危機に颯爽と現れた不登校の先輩が、『うへ〜』とか言ってるお昼寝とおサボりが好きな自称おじさんじゃあ、後輩が付いてこないよ! 頼り甲斐が無い先輩と思われたらアビドス復興どころじゃないって!」
だからホシノは頼り甲斐のある先輩を演じ、また戦いの中で強さを見せて、アビドスをまとめてトレーニングをしたりしていたらしい。
「ほらおじさん、戦い『だけ』ならこれ以上なく強いからさ、重要戦力を担って発言力拡大するのはいくらでもできるし簡単なんだよね」
「それは自負なの? 自虐なの?」
「ごめんおじさんが悪かったよ先生!」
私だけが『前の世界』の記憶を持つのに、何故ホシノが『前の世界』のことを知っているのか。
ホシノに前の世界の記憶はないのだが、この世界でホシノの瞳には『前の世界の自分の記憶を見る能力』があったのだ。
結果として、この世界のユメ先輩は助かっている。
ただ、記憶と共にアビドス面々に散々迷惑をかけた思い出や繰り返した深い反省の気持ちまで流れ込んできてしまったものだから、ホシノはユメ先輩を含めたアビドスとの関わりを避けるようになってしまっていたのだった。
まるで、前の世界のもう1人のシロコみたいに。
現在のホシノはアビドスでは幽霊部員、というか不登校の先輩みたいな扱いになっているはずだった。
...まあ本当のところ、本人には言わないが、いずれこうなるとは思っていた。
あの『情が深すぎる女』であるホシノが、アビドスとの縁を切れるはずがない。