「ここは……?」
白い…ただ一面が白に覆われた場所に正統王国のエリート、ミリンダ=ブランティー二は立っていた。自分が何故このような場所に居るのかが彼女には分からなかった。いや…その表現は正しくない、正確には何故
彼女は覚えている、アラスカの地で二人の戦友に
ゴゴゴゴゴ!
「ベイビーマグナム?…どうして」
駆動音の主はミリンダが搭乗していた正統王国の第一世代オブジェクトである”ベイビーマグナム”の物であった。ただ不思議な事に音がするまで彼女は背後で動く巨大な
「だれが動かしてるの…?」
ミリンダにとっては背後に現われた事よりも自分以外の誰かによってベイビーマグナムが動かされている事の方が問題だった。本来オブジェクトを操縦できるのは該当のオブジェクトに合わせて身体を調整されたエリートと呼ばれる者だけであり、仮に他のエリートが乗ったとしても専用に調整されていない限り操縦するのは不可能なはずであり、目の前のベイビーマグナムは前進しているだけだが確かに動かされている。ミリンダが見上げるくらいの位置まで来ると機体は停止し、上部の操縦席へ通じるハッチがひとりでに開いた。まるで
しかし、次の瞬間...
「…ふぇっ!?」
戦争の勝敗を左右するエリートとは思えない気の抜けた声を発してしまったミリンダだったが、彼女が驚くのも無理はない。
「…ふうっ」
「そっか...わたしはやっぱり...」
不思議と彼女に驚きは無かった、あの時のアラスカでの記憶は現実であるという事と自分を助けに来てくれた彼らに看取られて死んだ事を自然と受け入れる事が出来ていた。ミリンダは操縦席に座りながら自分の両手を眺めてみるが、特に透けているわけでは無く自分が幽霊になったという自覚は相変わらず薄いままだった。
するとコンソール前方のモニターに反応があり、ミリンダはすぐに画面を確認した。そこには三つの点が映っており、誰かが居る事を示していた。本来のベイビーマグナムなら対象の詳細を
=====================================================
周りの景色が白一色な為、距離が実感しにくいが最初の反応の地点には確実に近づいていた。対象の姿を確認しようとミリンダがモニターを見ていると、突然通信が入った。
???「久しぶりだな、お姫様」
「…フローレイティア?」
声の主はミリンダが生前よく知っている人物の物だった。フローレイティア=カピストラーノ少佐、ミリンダが所属する第37
ミリンダとしても同じ部隊で話す数少ない人物であり仲も良い。上官という立場からクウェンサー達ともよく会話するだけだったら良いのだが、彼らが彼女の
「ここに居るという事は…フローレイティアも…?」
質問の意図を察したのか彼女が答える。
「ああ、死んだよ。でも私自身てっきり戦場で死ぬものと思っていたんだが、恵まれた事に晩年は穏やかな余生を過ごす事が出来たよ。記憶は
苦笑していたフローレイティアの表情が変わりミリンダの目を見て話し始める。
「軍属から離れたからこそ言えるんだが、
深々とフローレイティアは頭を下げた。生前見た事無い態度の彼女の姿だったが、彼女が言うあの時というのはアラスカの戦いでミリンダを見捨てようとした事だろう。しかし、自軍のオブジェクトが破壊され敵軍のオブジェクトが健在という状況では最早打つ手は無い状況であり、ミリンダ自身もその決断を
「顔を上げてフローレイティア...あの時はわたしもあなたも仲間を守ろうとしただけ、だからわたしは後悔してないし、フローレイティアもあの時の判断で自分を責めるのはもうやめて」
「……ミリンダ」
その時のフローレイティアの表情は長年抱えていた心残りが晴れたような穏やかな顔をしていた。おそらく彼女の言っていた晩年もその事に苦しむ毎日だったのだろう、ミリンダとしても彼女にそのような
ミリンダは迷ったが、フローレイティアに自分の死後の事を尋ねた
「あの戦いの後、私達の部隊は解体されて隊員は全員別の部隊へ転属になったよ。軍を抜けた者も居たが、全員が共通してミリンダに感謝を述べていた…それだけは覚えていてくれ」
フローレイティアはここに居ない部隊員の代わりに礼を述べると、ミリンダが来た方向へと歩き出した。
「フローレイティア?」
「私はもう少しここに居るよ、顔馴染みがまだ生きているから彼らを見送るまでが指揮官としての最後の仕事だ。…また話せて嬉しかったよミリンダ姫」
ミリンダへ改めて感謝を伝えたフローレイティアは何かを思い出したのか足を止めて向き直る。
「そうそう、もしこの先で
「うっ…」
ミリンダは申し訳ない気持ちと共にそのように思ってくれていたお婆さんの思いが嬉しかった。その後、「また会いましょうお姫様…」と言い残したフローレイティアはミリンダが顔を上げた時にはその姿を消していた。
=====================================================
フローレイティアと別れたミリンダはベイビーマグナムに乗り込み次の座標に向かっていた。周りの風景は相変わらず白一色で
「こちらヘイヴィア、お姫様聞こえてるか?」
「こちらベイビーマグナム、久しぶりヘイヴィア」
通信してきたのはミリンダと同じ整備大隊所属のレーダー分析官、ヘイヴィア=ウィンチェルであった。普段の言動が感じさせないが先程会ったフローレイティア同様彼も貴族の出身であり、家の後を継ぐのに必要な
互いに通信で
「よお、元気だったか?…ってこの世界じゃ関係ない質問だったな」
「もしかしてヘイヴィアも?」
ミリンダが察した通りヘイヴィアも死後にこの世界に来ていたらしい、そしてフローレイティア同様この場所でミリンダを待っていたようだ。
フローレイティアとヘイヴィアの話を聞いているとミリンダが死んだ後も長い年数を生きていたようだが、その姿はミリンダが知っている当時のままでありどうやらこの世界の時間という概念は彼女が知っている物とは違うようである。
「あの爆乳…フローレイティアには会えたか?」
「うん…色々話をしたよ、私が死んだ後の事も…」
「そうか…」
そう言うとヘイヴィアはアラスカの戦いの後の事を少し教えてくれた。整備大隊が解体された後、武功を重ねたヘイヴィアは故郷で
「ただお姫様なら分かるだろ?あいつは馬鹿やってたあの時から変わっていない、お姫様が死ぬ原因となった戦争その物を無くそうと必死になっていただけなんだ。」
「うん知ってる、クウェンサーはそういう人だもの」
ヘイヴィアの言葉にミリンダも笑顔で頷く、会話の中に二人のクウェンサーに対する信頼があふれていた。
…ちなみにヘイヴィアによるとクウェンサー脱走後は何度も追手が差し向けられていたが、ヘイヴィアやフローレイティアが軍を欺くために追撃部隊として立候補し、死ぬギリギリまで彼を追い詰めて最後に脱出の手助けをして逃がしていたらしい。…当然攻撃を受けるクウェンサーからは何度も声にならない叫びや苦情が届いていたが彼らは全て笑いながら無視していたらしい、それが結果的に軍本部から元上司と元同僚へ疑いが向くのを防いでいたようだ。
その話をミリンダは少しだけクウェンサーを
======================================================
「正統王国には他にもオブジェクトがあったはずだけど、クウェンサーは大丈夫だったの?」
ミリンダはヘイヴィアに尋ねる。アラスカ戦の時は敵の設備を利用して上手くいったが、軍から離れた人間がオブジェクトの追撃から逃れる手段は無い。自国の情報を持っている脱走兵を正統王国は何が何でも逃がそうとはしないだろう、彼が悲惨な末路を辿らなかったかがミリンダには
「オブジェクトに対抗するにはオブジェクトしかないそれが今の戦争のセオリーだ。クウェンサーの奴どうやって
ヘイヴィアがそういう結論に至るが、彼の複雑そうな表情から見ても情報同盟のオブジェクトとの戦いに良い思い出が無いであろうことはミリンダにも分かった。それよりも彼女には聞かなければならない事があった。
「…ねえヘイヴィア?確か情報同盟のエリートは
「……やべっ」
ヘイヴィアが気づいた時にはすでに遅く、ミリンダから怒気を含んだ気配が発せられていた。まるでオブジェクトの主砲を目の前で突き付けられているような感覚だった。
クウェンサーが情報同盟の
「ごめんヘイヴィア…わたしちょっと用事が出来たから先に行くね?」
「おっおぅ…またな、お姫様…」
ミリンダの圧に押されてヘイヴィアは引きつった表情で見送るしかできなかった。
ベイビーマグナムに乗り込む直前、ミリンダは振り返り
「ありがとうヘイヴィア、会えてうれしかった」
そう言うとベイビーマグナムに乗り込み物凄い速度でその場を離れていった。
残されたヘイヴィアは手を振りながら彼女を見送ると、「悪い...クウェンサー」と心の中で謝った。
=====================================================
白い平原をベイビーマグナムが駆け抜ける。残る座標はあと一つ、そこに居るであろう人物に会う為にミリンダはアクセルを踏み込んでいく。そして…
「あっ…」
ミリンダが息を吞む。そこには以前と同じ姿をした金髪の青年クウェンサー=バーボタージュが立っていた。
「お姫様!」
「クウェンサー!」
お互いにアラスカ戦以来の再会だった。この世界では二人が経験した時間の感覚も違っているが、数十年ぶりの再会である事をを感じさせない様子で整備大隊に居た時の様に名前を呼び合っていた。
二人とも気持ちが落ち着いてくると、クウェンサー側から見たベイビーマグナムの挙動がどうもおかしかった。……
「えと…お姫様?」
「ねえクウェンサー…わたしに言う事があるんじゃない?」
「なっ…何の事か…」
ドオオオンッ!!
ベイビーマグナムの主砲がクウェンサーの後方に向かって放たれた、爆風の余波がクウェンサーの背後に吹き荒れている。
「もしかして…ヘイヴィアかフローレイティアさんに会った?」
「ふたりとも元気だったよ、特にヘイヴィアは
((あいつ~!!))
クウェンサーはこの状況の
「聞いてくれお姫様!情報同盟のエリートとは目的が合致して共闘していただけなんだ。決してやましい気持ちがあっての行動じゃない!」
「…でも
「まあ…そうなんだけど」
ガチャンッ!!
主砲が再びクウェンサーの方を向く
「本当に誤解なんだ!お姫様」
「えぇ…クウェンサーあなたの事を誤解していた…」
主砲の内部から弾を装填する音が聞こえる…「ヤバい!お姫様なら撃ちかねない!」
クウェンサーは覚悟を決めて彼女へ
「俺はミリンダ=ブランティー二の死を無意味にしたく無かった!それだけなんだ!」
「えっ…」
思わぬ回答にベイビーマグナムの動きが止まる。さらにクウェンサーは続ける
「お姫様が死んだ後の正統王国の対応は
クウェンサーの言葉をミリンダは黙って聞いていた。自分達エリートとはそういう存在だ、彼女自身がそうだったように世界中でエリートは国の代表として殺し殺されを繰り返しているだろう。しかし、それは変えられない現実だと彼女は思っていたが…
「
=====================================================
「本気でおっしゃってますの?クウェンサー」
生前の彼の隣には小柄な少女が座っていた。彼女は”元”情報同盟で第二世代オブジェクトである”ガトリング033”を操縦するエリートだった。本名は不詳だが特徴的な笑い方から”おほほ”と呼ばれている少女である。
クウェンサーは軍を抜けた後、ある軍事作戦に潜入していたがそこで不利となった事で情報同盟から切り捨てられそうになった彼女を救った。この事がきっかけで彼女はオブジェクトと共に情報同盟から逃げ出したが、彼女を
現在、クウェンサー陣営はどの国にも属さず対外的にはテロリストとして各国の軍事施設を破壊する活動を行なっていた。そして、彼が次に狙いを定めたのは
「もう決めたんだ、次は
安全国とは各国が非戦闘地域と定めたエリアで、戦争中であっても住んでいる国民にとっては戦いはモニター越しの出来事であり、現代のクリーンな戦争による
当然、非戦闘地域を他国が狙えば他の国から報復として制裁されるので作戦立案でもまず話題に挙がらないような場所であるが…
「もちろん人命を奪うつもりは無いさ、ただ今後の作戦地域は限りなく安全国の
「そうやって世界中を巻き込んで戦争の是非を問い、国民に反戦の意識を広めるという事ですわね?」
クウェンサーの理想は夢物語に近い、戦争をビジネスにするような輩も居る以上、上手くいく保証はないだろう。だがそんな理想を実現しようとする彼を彼女は信じる事に決めた、不可能だと思われていた人の手によるオブジェクトの破壊を成し遂げた彼なら出来るかもしれない。そう思わせる魅力を彼は持っており、おほほ自身もそんなクウェンサーに惹かれていた。
「そろそろ時間だ行こう!」
「おほほ、了解しましたわ」
実は彼女にはもう一つ目的がある。
作戦の合間に彼は時折同じ部隊に居たというエリートからのメールを読んでいる。その表情は彼女が見た事の無い悲しげな表情をしていた。
(おほほ…必ず私に振り向かせて見せますわ)
そう決意して彼女は彼の後を追いかけていった。
====================================================
話を聞き終えたミリンダは少しの沈黙の後、ベイビーマグナムを降りて彼の前に立つ
「すごいね…クウェンサーは」
目の前の敵と戦うだけだった自分と違って彼はエリートを含めた世界中の人間を助けようと頑張っていた。何よりミリンダとの約束を彼が覚えていてくれた事がとても嬉しかった。
エリートは戦争の消耗品でしかなくいずれ忘れ去られるだろう事は理解していた。しかし、好きになった人にまで忘れられる事がミリンダにとっては一番の恐怖であった。その心残りは彼の言葉で雪の様に解けていくのが分かった。すると、それを察したようにミリンダの背後から音がする
「ベイビーマグナム…」
彼女と苦楽を共にした相棒が白い光となって消えていく光景が目の前に広がっていた。まるでミリンダを送り届ける事が最後の使命だったかのようにその役目を終えようとしていた。
「…ありがとう」
二人は敬礼し、部隊の危機を何度も救った第一世代オブジェクトの最期を光と共に見送った。
=====================================================
ベイビーマグナムが光となって消えると同時にこの世界にも同じ現象が現われ始めていた。
「どうやらお迎えの時間みたいだな…」
「うん…そうだね」
消えゆく世界を眺めながら二人は最後に話をしていた。
このまま消えてあの世に行ったらもう彼とは会えないのだろうか?そんな疑問が浮かんだミリンダは最後に勇気を出してクウェンサーの前に立ち
「クウェンサー!わたしあなたの事が…!」
言い終わる前にクウェンサーがミリンダを抱きしめる
「それは俺から先に言わせてくれ」
そして、二人は言葉を交わす…その表情は涙と嬉しさで満たされた表情だった。
二人の後ろから
彼らの先行きを照らすように光が全員を包み始める。
もし、あの時何かが違っていたらわたしは彼らと同じ戦場に立って違う人生を歩めたかもしれない。
でもそれは
「ねえクウェンサー」
「んっ?」
「……大好き!」
そして、彼らは再会を信じて光の向こうへ旅立っていった。
何とか書き終わりました!初めての作品でしたが世の中の小説家の皆さんの凄さを実感しています。色々と
(ミリンダ姫可愛いので、皆さんが知るきっかけになれたら嬉しいです)