とある世界の常識改変 作:ロロノア
まぶしい太陽の光が顔を照らし、泥の様な眠りから目覚めた冷理は身体を起こして背伸びをした。
ほぼ一か月ぶりとなる自宅のベッドでの睡眠は信じられないくらいに快適だった。
冷理が暮らすのはセキュリティ万全のマンションだ。常盤台を卒業してから入居した部屋なので、まだ一年も経っていないが、冷理の色に染まった部屋に帰ってきたとき、思わず涙が零れた。
時刻は午前十時を回ったところだ。
もっと早い時間に設定していたスマホのアラームには気付かなかったらしい。二度寝した記憶はないので、よっぽど疲れていたのだろう。それもそうかと思う。三週間は地下に潜伏して、下水道管の中でネズミと一緒の暮らしをしていたのだ。
昨日の夜に
学校は、事件に巻き込まれたためのやむを得ない欠席ということで特別に休んでいた期間は出席扱いにしてもらえることになった。
このあたりの動きにも条理が関わっているようだ。裏社会ともコネがあるのか、洗脳で警備員にも干渉しているのかは不明だ。そこまでは聞いていないが、今回の事件で生じた冷理を取り巻く問題の多くを条理が解決してくれたことは間違いない。
冷理にとって都合のいい形で幕を引いた。
それは、もう怖いくらいに出来すぎな終わり方だった。
テレビをつけると、ちょうど
違法な生物兵器を所持しており、管理不足から施設内で暴走させたというストーリーが出来上がっているようだ。
冷理のことは報道にはない。
だが、冷理がEDMOと共同研究していたことは公の情報なので、冷理が行方不明になっていることを知る者からすれば、すぐに関連付けて推測されることだろう。
「……めっちゃメッセージ溜まってる」
スマホの画面には大量の通知。
この一か月間、ひたすら既読もつけずにスルーし続けてきたメッセージに加え、昨日の夜に心配をかけた謝罪のメッセージを送ったことに対する反応分が追加されている。
それが、なかなかの量だ。ずらずらっと並んだメッセージは下までスクロールするのに何度も指を動かさなければならないほどの数だ。
「参ったわね。すっごい心配させちゃってるわ」
当然といえば当然なのだが、これだけいい友人に心配をかけたことが申し訳ない。
これでも派閥長だったわけで、その繋がりは一年で簡単に消滅するようなものではないのだから、自分のために動いてくれる友人たちがいるのは分かっていた。だからこそ、巻き込まないように単独でずっと動いていたのだが、彼女たちを巻き込む心配がなくなった今は、頼らなかった申し訳なさを感じてしまうという程度には余裕が戻ってきている。
実に一か月ぶりの我が家。
一か月ぶりの日常。
だが、まだ実感が湧かないのが実情だ。
それだけ苦しい一か月だった。
「さて、これからどうしようかしら」
ごろんとベッドに転がって、冷理は頭を悩ませた。
学校の問題はひとまずは解決した。教師たちは事件に巻き込まれた被害者である冷理のトラブルに深入りはしないだろう。あとは、友人たちに事情を説明して回るかだ。心配させたから、謝罪と説明をしなければならないのだろうが――――細かいところは無理だろう。どうやって誤魔化すか。それを考えておかないとけないのだろう。
冷理は顔を洗い、身だしなみを整えてから外に出た。
「……天気よすぎ」
手を太陽に翳して影を作る。
熱い日差しに目を細める。
幸いなことに今日は土曜日で、学校は休みだ。さすがに、昨夜遅くに
なんというか、月曜日から学校に行くというのが非常に億劫だ。
事実としては、学校を休んだのは冷理の都合だ。事件の被害者という整理になってくれたおかげで出席日数は確保されたが、「嘘」をついていることに変わりはないので、後ろめたい気持ちはどうしても否定できない。
そんなマイナス思考を切り替えるためにも、外に出て太陽の下を散策するのである。気持ちを落ち着かせて、整理するために、頭を空っぽにしてぶらぶらする時間は大切だ。
マンションの周囲の人気は少ない。繁華街から遠く、若い世代が多く集まるこの地域で、土曜日の真昼間からあてどなく散歩をするような奇特な人間は多くない。大抵は、自宅でネットサーフィンなりゲームなりをしているか、あるいは遊びに出かけているかのどちらかだ。
何も考えず、目的もなく道を歩くだけというのは思えばほとんどしたことがない。
これまでの生活を振り返ってみると、驚くほどずっと何かしらの活動をしていた。勉強や発表会の準備、派閥の運営と仕事ばかりの生活で、そこに輪をかけてEDMOとのトラブルだ。
(何もない)
本当に何もなかった。
EDMOの問題がすべて終わった。
それが、冷理の心の大半を占めていたことを自覚した。
不安に追われ、心配事にメンタルを病み、思考が凝り固まって辛いばかりの時間が終わったことをようやく実感した。
(これも逆巻さんのおかげか)
条理との出会いがすべてを変えたのは間違いない。
冷理のとっては奇跡の様な出会いだ。
後で、きちんとお礼をしないといけない。
マイナス思考から気持ちが浮かび上がって、少しだけ前向きな気持ちになる。
自宅マンション周りを一周したら帰ろうかと思ったが、思い立って遠くに足を延ばすことにした。
+
学園都市は最先端科学を詰め込んだ、学生の街だ。研究機関があちらこちらにあり、オフィスビルも立ち並ぶ大都市である。が、その一方で、緑あふれる大きな公園も点在しており、コンクリートジャングルという印象はない。
冷理が訪れたのも、そんな公園のうちの一つだ。
日差しを避けるためにパーカーのフードを被って、自販機でオレンジジュースを購入した。
そうして一息ついたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お……!」
噴水の近くで2人の少女が元気に言い争いをしている。
栗毛の短髪と金色の長髪。そして、2人が着ているのは見慣れた常盤台の制服だ。
せっかくなので声をかけてみることにした。
「御坂に食蜂、久しぶりじゃない。元気してたー?」
冷理が話しかけた2人は揃って思考停止したかのように冷理を見た。
御坂美琴と食蜂操祈。
両者ともに顔の整った大変な美少女だが、外見に惑わされてはいけない。
彼女たちは常盤台が誇るレベル5の第三位と第五位である。
学園都市の全能力者の頂点たるレベル5に到達した、天才エリート様だ。
「支倉先輩!? ほんとに!?」
と、声を上げたのは美琴だった。
「幽霊でも見たような反応ね」
「いや、行方不明になったって大騒ぎになってましたよ? なんかすごい普通に話しかけてきてますけど」
「悪かったわね。やっぱり、心配かけてたわよね」
後輩に心配されるのは申し訳ない反面、嬉しい気持ちもあった。
「食蜂はだいぶ背が伸びたわね」
「それ今、言うことぉ?」
「いや、ちょっと見ない間に印象も変わるもんだなって。もしかしてあなたも心配してくれてた?」
「別にぃ。あなたに何があったかなんて興味ないけど、ここのところ元支倉派閥の人たちの集中力がなくて困ってたのよねぇ」
「あの子たちにもちゃんと謝らないとね。あ、そうそう、希茶は結局あなたの派閥に入ったんでしょ? どんな感じ?」
「優秀よぉ。誰かさんに仕えていた時よりも余裕力があるんじゃないかしらぁ」
「お、言うようになったわね」
先輩風を吹かせられるほど関係が濃いわけではないし、能力者としては美琴と操祈の方が上だ。年齢くらいしか彼女たちの上といえるものはないのだろうが、打てば響くような会話ができるというのは貴重なことでもある。
常盤台で長らくトップに立っていた学生だった冷理には、実のところ対等に話せる相手というのは少なかった。まして、格上など数えるくらいだ。そういう意味でレベル5の後輩というのは、それまでの人間関係とは異なるジャンルの相手だ。
「ところで、先輩は大丈夫なんですか? なんか、怪我とかそういうのは?」
「見ての通りピンピンしてるわ。運よくね」
「運よく?」
「ちょっと、いろいろヤバくてね」
敢えてへらへらとして見せる。
そんな冷理の態度をいぶかしむように睨むのは操祈だ。
「やっぱり、あの会社と何かあったのかしらぁ? 確か、あなたと共同研究していたわよねぇ?」
「それは秘密」
「知ってる人はみんな想像はできてるわよぉ。トラブルにならないように少し、心配力を調整してあげたんだけどぉ」
「そういうこと。ありがとう。気を遣わせたわね」
常盤台の優等生たちが冷理を本気で探したら、もしかしたら彼女のことを見つけ出していたかもしれない。それがなかったのは、操祈が深入りしないように手を回していたかららしい。冷理を見捨てることにもつながる選択ではあるが、彼女は組織の長として、自分の派閥構成員を守ることを優先したのだ。
「自分を助けなかった相手にお礼を言うのぉ?」
「ちゃんと派閥長やってるじゃん。お姉さんは安心したゾ☆」
「なんかムカつくわぁ」
操祈は表情を歪ませる。
冷理のことは憎からず思ってはいる。操祈に派閥を立ち上げるようにアドバイスをしたのは外ならぬ冷理だ。それでも、日々交流している仲間のほうが大事だ。派閥長としての責任がある。その気になれば、何かしらのトラブルに巻き込まれている冷理を手助けできたかもしれないが、暗部が絡む可能性のある事件の気配を感じていた。だからこそ、距離を取った。
「黙っていればいいのに、わざわざわたしに言ったってことは、手出ししなかったことを悪いとは思ってるんでしょ? やっぱ食蜂はいい娘だよ」
「あなた苦手だわぁ」
操祈はため息をついて、肩を竦めた。
「ところで、何かとトラブってそうなあんたたちに聞きたいんだけど」
失礼な問いの頭出しに御坂は苦笑した。
「なんですかトラブってそうって」
「そうよぉ。御坂さんと一緒にしないでちょうだい」
「確かにこっちはいろいろあったけど、それを言ったらあんただって似たようなもんでしょうが!」
こっちはこっちで打てば響くようなやり取りで挑発しあっている。奇跡的に同じ学校の同じ学年に揃ったレベル5。何かと意識しあう関係が続いているようで何よりだ。
「まあまあ、落ち着いて。ずいぶんと仲良くなって嬉しいわ」
「仲良くないです! 誰がこんなのと!」
「聞き捨てならないわぁ。妄想力もたいがいにしてちょおだい!」
ギャーと騒ぐレベル5。
こうして見ると年相応だ。
「それで、なんですか聞きたいことって」
こほんと空咳をして、美琴が尋ねる。
「危ないところを助けてくれた人にお礼をするんなら、何がいいと思う?」
「なんですそれ?」
「言ったでしょ、いろいろヤバかったって。で、助けてくれた人がいるから何かお礼をしないといけないわけ。あんたたち、経験ありそうだから参考に聞かせてくれない?」
と、冷理は2人に尋ねた。
軽くこんなことを聞いてしまったが、美琴と操祈がトラブルに巻き込まれているのは大前提。そして、その前提は間違っていないはずだ。レベル5ともなれば、冷理の想像以上の問題に直面している可能性はある。
「……まあ、経験がないわけじゃないけどぉ、助けてくれた人の属性が分からないとなんとも言えないわぁ。その人は男性?」
「そう」
操祈の指摘もその通り。何も情報がないのなら、アドバイスも何もない。
「……助けてくれたって、身体を張って?」
「ええ。正直、命の恩人かな。なんていうか、わたしの問題に一方的に巻き込んじゃったってのに、人がイイっていうか、なんというか」
苦笑しながら、ほんの数日一緒に過ごした男性を思い出す。
「えーと、じゃあ」
「その人って、ツンツン頭だったりするかしらぁ?」
美琴の言葉を遮って、操祈が食い気味に尋ねてくる。
「……え、何? 髪型? ツンツンはしてないわよ。普通? ほら、あそこにいる人とか、あんな感じ」
冷理は園内を歩いている何人かの男性を視線で示した。
特に髪型を気にしている様子のない、かといって無造作でもない。ただどこにでもいる普通の短髪だ。
「ああ、そう。じゃあ、いいわあ。時計でも買っておけばいいんじゃなあい」
「急に投げやりになるじゃないの。――――んん? なんでツンツン頭なんて言葉が出たわけ?」
「んッ、別に何でもないわあ」
「おい、ちょっと、わたしのことは置いといて、その話深掘りしようって。なあ、御坂。あんたの知ってる人?」
操祈の失言を取り上げて、美琴に話を振った。
「え、いやぁ、わたしは何て言うか、まあ、それは」
不意に話を振られた美琴は慌てて視線を反らした。もとより嘘が苦手な性質なので、そのあからさまな態度は渦中の操祈も呆れるほどにわざとらしい。
「共通の知り合いってこと? ふーん……あん? 御坂も?」
「はあ!? いや、ないですって、あんな」
「あんな?」
「な、何でもないです。」
「何でもないってことはないでしょ。そっかー、御坂と食蜂がねぇ」
親戚のおばちゃんのような生暖かい視線で後輩2人を眺める。
「こっちのことはどうでもいいです! 支倉先輩の方!」
「そうよお、そっちが本題でしょお? あなたのヒーローはどんな人なのかしらあ?」
興味津々といった様子のレベル5が、強引に話を元に戻した。
「ヒーローってそんな安直な。……まあ、そうなのか? 確かに? でもよく知らないのよね。だって、知り合って一週間も経ってないし」
とても濃い日々を過ごしていたと思うが、冷静に振り返れば、条理と出会ってからさほど時間は経っていないし、彼個人のこともあまり知らない。処女を捧げた相手のことを、自分は思いのほか知らないのだと改めて認識した。
「まあ、あと、強いて言うと、妻を名乗る女の子と同棲してる」
「それダメなヤツじゃないのぉ?」
「騙されてますよ先輩」
珍しく気が合ったように2人が口を揃えて言った。
「いや、本当は付き合ってるとかじゃないみたいだし」
「いよいよダメでしょお」
「どう考えても危ないじゃないですか。ダメですって」
「……お、おう……そうかな? まあ、お礼はお礼でしないと気が済まないし」
確かに条理を説明する上で如何にいいところを並べ立てたとしても、その女癖の悪さが致命的なマイナス要因なのは間違いない。
美琴も操祈も胡乱げな視線を向けてくるのも分かる。冷理も同じ立場ならそうしただろう。
「で、お礼するなら時計がいいわけね?」
「ただのイメージよお。男性への贈り物なんて、わたしが知るわけないじゃない」
「頼りにならないレベル5ね」
「いきなり話しかけてきてそれぇ?」
呆れたというような操祈の表情。
彼女からすれば、大して付き合いのないOGにいきなり絡まれただけなのだから、面倒くさいという感情が先に来るのは当然か。
「男性向けの時計って相場はいくらくらいなんだろうね。10万くらい?」
「いや、支倉先輩。さすがに、そんな高いの贈られても困るんじゃないですか?」
「んー、そうかな」
「やっぱり、お礼は気持ちですよ。値段じゃないです。手作りのクッキーとかのほうが、いいんじゃないですか?」
「御坂、あんた……結構、乙女なのね」
「どういう意味ですか」
心外だとばかりに御坂は三白眼になって冷理を睨んだ。
ごめんごめんと冷理は手を振って謝る。
手作りお菓子をお礼の品とするというアイデアが、なかったわけではない。
王道と言えば王道ではある。
(ちょっとベタすぎるかなって気がしたんだけどね)
あまりにも王道すぎて、気恥ずかしい気がしたのだ。
それで別の手を探っていたわけだが、結局、王道に勝るものはないというのもまた事実。
冷理自身にこういった経験がないというのも大きい。素人が考えを巡らせて奇をてらったところで、上手くいくはずがない。
大事なのは、相手に感謝の意が伝わることだ。
値段の高低ではないし、必要以上にかしこまるべきでもない。
つまるところ、小難しいことを考えても意味はなく、お礼の品というのは誰でも考え付くよう物で十分。むしろ、それがお礼のための贈り物なのだと伝わるためには、ベタな品のほうがいいということもあり得る。
(やっぱりお菓子か)
美琴の言う通り、相手に気を遣わせることになるのは論外だ。重いと思われるのもアウト。そうだとすれば、手作りも重いのでは?と思わないでもない。思考のドツボに嵌ってしまう。お礼の方向性は決まったが、これからがまだ長い。物を用意するだけではダメで、直接会って受け取ってもらわないといけないのだから。
+
レベル5の後輩2人と談笑してからさらに一週間。
そのころになると概ね身の回りの生活環境は安定を取り戻している。学校にも戻り、友人や後輩、先輩にも一通りの連絡ができて、日常生活が戻り始めた。
そして、条理にも連絡がついて会う約束をしたのがこの日だった。
「ん、ん……んん♡ ちゅぱ……れろ……んむぅ♡」
瑞々しく淫らな音を立てて、条理と冷理が一つになる。
休みの日の昼間から、2人はラブホテルに入った。
なんだかんだ、2人で一番長く過ごしたのは、ラブホテルだ。互いの家を行き来したこともなく、デートらしいデートもしたことがない。ラブホテルで生活していたといういびつな関係だったが、再会もまたラブホテルだった。
冷理自身、期待していたところもあったから、条理の提案をあっさりと受け入れて、緊張しつつも流されて来てしまった。そして、貪るようにこうしてキスをしている。
「はあ、はあ、んちゅ……ん……んん♡ れろ、じゅる……れろれろ♡ ちゅぱ、ん、んふぅ♡ ん、んん♡ れろ、ん、んちゅ♡ れろぅ♡」
つい先日までキスもしたことがない処女だったとは思えないほどの濃厚なディープキスを積極的に求める冷理は、ベッドの端に腰かけた条理に跨って身体を密着させている。条理の首に両腕を回して、両足でしっかりと条理の太ももを挟んで身体を固定する。
(ヤバ……キス、気持ちよすぎる。止められない)
ぴちゃぴちゃ音を立てながら唇を重ねる。
無我夢中で舌を伸ばして相手の口の中に押し込み、涎を掻き回す。条理のものか、冷理のものかも分からない混ざり合った粘液が口の端から溢れ出て顎を伝って滴り落ちる。それも気にならないし、むしろどんどん溢れさせてもいいとすら感じている。口の周りが涎まみれになるのも卑猥さを感じて逆に興奮する。とにかく今はキスだ。ディープキス。それ以外が頭に浮かばない。ラブホテルに入った瞬間から、いや、もっと前からこうしていたかった。
「んふ……んちゅ……れろれろ……じゅる……んぅ♡ ちゅぱ♡ れろれろれろ♡ んん――――ん、ちゅぱ……ん、は、ぁ♡」
我を忘れて舐めあって、口を離したときにはすっかり冷理は出来上がっていた。瞳を潤ませて、頬を染め、はあはあと荒く吐息を漏らす。
「支倉さん、キス好きすぎ」
「ち、違います。こういうものじゃないですか。最初なんて」
冷理は慌てて否定を口にする。
あからさまに熱に浮かされた顔をして、キス以外に頭にないといっても過言ではないほどのめり込んでいたのは隠しようがないのだが、まだそれを認めるのには羞恥心があるらしい。とはいえ、その言い訳はもはや言い訳にもなっていない内容ではあったが。
「それでも10分は長いよ」
「そんなことないです。……知りませんけど」
ちらりと壁掛けの時計を見ると、確かにキスを始めてから10分が経過している。その間、ほとんど口を離すことなくひたすらキスを続けていたのだから、どれだけこの行為にのめり込んでいたのかよく分かる。
キスの熱に浮かれた頭が急冷されて、冷静さを取り戻す。
「その服、やっぱ似合うね」
と、唐突に条理は言った。
フリルのついたショッキングピンクのブラウスと黒いスカート、そして黒いタイツ、モノトーンのリボンの髪留めをつけている。
毒々しさすら感じる鮮やかな色合いと、可愛いを前面に押し出した見た目は、およそ冷理の私服とは思えない。明るいゴスロリに近いファンタジー感のある服装。いわゆる、地雷系と呼ばれるコーディネートだった。
「……嘘言わないでください」
「嘘じゃないって」
「こんなのわたしの趣味じゃないです」
「まあ、俺がお願いしたヤツだからね」
条理が選んだラブホテルは平均よりも高めの値段設定となっているが、その理由がコスプレ衣装を各部屋で購入できるというサービスだ。
真空圧縮されたコスプレ衣装を自動販売機で購入して、アブノーマルな世界を楽しむのがこのラブホテルのコンセプトである。
そこで、ちょうど、冷理にぴったりなサイズの地雷系衣装があったので、迷わず条理はこれを購入し、彼女に渡したのであった。
「でも、ちゃんと着てくれたじゃん。割とノリノリなんじゃない?」
「違います。条理さんがお金を出しちゃったから、着るしかなくなっただけです」
「可愛いのに」
「可愛いとか、言わなくていいです……」
冷理は不満なのか、それとも恥ずかしいのか、拗ねたようにそっぽを向いた。
「それより、条理さんもココ、固くしてるじゃないですか」
冷理は話を逸らすかのように、条理の股間に手を伸ばす。
「そりゃ、男だからな」
「そうですね。ほんとに、もう……脱いでください」
「してくれる?」
「一応、お礼ってことで来てるので」
嫌々という風に言う冷理の前で、条理は服を脱ぐ。
以前にも目の当たりにした男の裸体に冷理は生唾を飲んだ。
前回は精神的にも限界に近い状態だったが、今はフラットな状態で冷静にその身体に視線を走らせる。
(やっぱり、女子の身体と全然違う)
同じ人間なのに、ここまで違うのかと驚く。
もちろん、生物学的な知識がないわけではない。お年頃らしくそういった動画も画像も見たことはある。箱入りお嬢様のような世間知らずではないが、本物を見る機会は皆無に近い。前回を含めて、これが2回目である。知的関心が鎌首を擡げてくるのは、冷理のもともとの勤勉さの表れかもしれない。
条理がベッドの上に座ると、冷理は条理の勃起したペニスを手に取って上下にこすり始める。
「こんな感じであってますか?」
「ああ、イイ感じ」
「ん……よかった」
冷理の細い指先が陰茎をなぞったかと思えば手のひらで柔らかく包み込まれて上下運動。片手で軽く扱いた後で、両手に持ち替え、捩じるように全体を愛撫する。
「初めてじゃないの?」
「初めてに決まってるじゃないですか」
「それにしちゃ上手くない? 超気持ちイイ」
「なんか、これで褒められてもうれしくないですよ」
そんなことを言いながら冷理の手は止まらなかった。
(確か亀頭が一番感じるところだったはず。敏感な分、フェザータッチで……と)
実は今日のために、あれこれと知識を集めてきた。条理と会うことになったら、もしかしたら、またラブホテルに行くことになるかもしれない。逃避行していた時と違い、本当にセックスするためだけにラブホテルを利用することになるはずだ。ネットで拾える情報だけだが、予習にはなる。検索すれば、そういった情報はいくらでも手に入る時代だ。「男性の喜ばせ方」を解説するウェブサイトは、驚くほどたくさんヒットする。そういったウェブサイトは、大体が風俗絡みなので、冷理が閲覧するのはあまりよくないのだが、新たな知見を得ることができたという点では有益ではあった。
男の身体には無知も同然。まして、ペニスに関しては全くと言っていいほど扱い方が分からないのだから、予習は大切だ。
(それにしても本当にこうなるんだから、人体って不思議。すごく熱いし、固いし)
自分には存在しない器官の扱いなので慎重になりながら、冷理は強く握らないように気を付けてペニスを扱いた。
そうしていると、ペニスの先端からぬるぬるとした液体がにじみ出てくる。
「あ、これ……カウパーってヤツ……」
「気持ちイイから」
「そうですか」
「続けて」
「はい」
条理の身体がきちんと反応してくれているので、嬉しくなる。
冷理は、少しだけ得意になって手を動かした。
「あの、じゃあ、こういうのってどうですか?」
「ん……? うおッ!」
条理は何かと思った矢先に、ペニスから痺れる快感が発生して驚いた。
亀頭が冷理の手のひらに包まれて、ぐりぐりと愛撫されている。
竿はもう片方の手で押さえられて固定され、鈴口が重点的に柔らかな手のひらで擦られているのである。
「それヤバい。どこで覚えた?」
「ネットでこういうのもあるって。それに、わたしの実家は茶道の家なので、こういう動きって得意なんですよ」
「茶道と一緒にすんのはダメだと思う、がッ」
まさしくお茶を点てるかのような動きで冷理の右手が動いた。
「お茶を点てるときも緩急は大事なんですよ。あと力加減も。ただぐるぐる回してるだけだじゃ、口当たりのいいお茶にはならないんですよ」
「今、茶道の話はズレてるだろ」
「そうですか? 何となく似てて、参考にはなるかなって思ったんですよね。ほら、こう、シャカシャカって」
冷理は得意げに亀頭を手のひらで包んでぐるぐる回す。
茶道の何たるかを知らない条理には、その動きと茶道の繋がりは不明ではある。が、なんと言っても気持ちがとくて腰が抜けそうだ。
「やべ、もうイキそう」
すべすべで柔らかい冷理の手が与える快感は、自分の手で弄るのは別格だ。
鈴口が冷理の手のひらに擦り付けられて、ゾクゾクしてしまう。
「いいですよ。このまま、気持ちよくなってください」
そう言って、冷理は亀頭を擦る手に力を籠める。
より強い刺激で条理のペニスを愛撫する。
湧き上がってくる射精欲求には抗えない。僅かな抵抗で小さく呻いたものの、本当に一瞬の抵抗だ。腰が跳ねて、冷理の手のひらに思いっきり射精してしまう。
「あ、射精。すご……うわ、ぁ、熱……」
冷理は自分の手のひらの中に吐き出された白濁液を眺めた。
(これが、精液。すごい臭い……ぬるぬるで、なんだろう……くらくらする)
以前、条理とセックスした時にはまざまざとこれを見ることはなかったと思う。あの時は、そんな余裕はなかった。だが、今は違う。しっかりとセックスに向き合う余裕が冷理にはあった。
「んと……手、洗ってきます」
とりあえず、このままにするわけにいかないので、冷理は洗面所に向かった。
洗面所に消える冷理を見送って、条理は小さく息を漏らした。
(茶道の家のお嬢様の手に射精すんの背徳感ヤバいな)
今までにない新しい快感に感動すら覚える。
伝統を守る手を汚すというのは、本当に悪いことをしているような気がして興奮する。まして、冷理は常盤台をトップクラスの成績で卒業した正真正銘のお嬢様だ。ともにラブホテルにいるというシチュエーションだけでも十分以上の興奮材料だ。お嬢様属性の女の子を好きにできるシチュエーションというのは堪らないもので、さらにアブノーマルなことをしたいという欲求に駆られる。
冷理は手を洗ってすぐに戻ってきた。
「支倉さん、今度、これつけて」
と、条理は言った。
黒い鉢巻である。
「これは?」
「今度は目隠し」
「目隠し? ……まあ、はい、いいですけど」
疑わし気な目をしながら、冷理は自ら鉢巻で目を覆い、後頭部で蝶結びをした。
「こんな感じですか?」
「そう、イイ感じ」
「こんなのが?」
「こんなのが。で、それって見えてる?」
「いえ、見えてないです。結構、しっかりしてますね。この布だと、大抵は透けて見えるんじゃないかと思いますけど」
冷理は手探りでベッドに手をついてよじ登った。
「じゃあ、支倉さん。そのままこっちにお尻向けて」
「ん……ぁ……はい」
四つん這いの冷理は、声がするほうに言われた通りに尻を向けた。
「あ、あの……もしかして、もう、し、しますか?」
「うん、もうも何も、最初からそのつもりだったでしょ」
「それは、なんていうか、あッ、ちょッ」
条理は冷理のスカートを捲った。
シンプルな桃色の下着をするりと下す。露わになる愛らしい尻を軽く撫でた。
「あ……う……待って、心の準備が、まだ」
「心の準備いる?」
「いるに決まってます」
「あまり意味ないかもな。今日、こっちにしたい気分なんだよね」
そう言った条理は冷理の尻を撫でる手をさらに、その割れ目にスライドさせる。
触れられると期待した膣口がひくついたところで、条理の指先が触れたのはそれより上。
「え、あ、あの、こっちって、まさか」
「うん、アナルセックスしたいってこと」
「アナ……ッ、さ、さすがにそれは、わたしには早いっていうか、変態すぎるッ。ダメです。絶対ダメッ」
「ちゃんと慣らすから」
「そういう問題じゃ、な、ぁッ」
冷理の抵抗を無視して、条理はアナルに指を人差し指を押し込んだ。
「あ、やめ、嘘……き、汚いですから、ダメ」
「それは大丈夫。俺の能力知ってるでしょ。ここを綺麗に使うことなんて簡単だって。支倉さんのお尻は今、世界で一番綺麗だよ」
「世界で一番うれしくない褒められ方、んくぅ、ぁ……ほんとにダメですから、あ、ん……」
実際、条理は能力を駆使して冷理のアナルを洗浄済みだ。それはもうどんな使い方をしても問題ないように改変してある。冷理にとっては羞恥心と嫌悪感を覚えるばかりの変態極まりない能力の悪用である。
今まで通常の使い方以外をしてこなかったアナルを、条理の指を広げていく。その異様な感覚に冷理はひたすら困惑している。
(本当に? ほんとに、わたしのお尻に指入れてる!? お尻の中で動いてるッ、条理さんの指ッ!)
冷理は羞恥心に顔を真っ赤にしながら、シーツを鷲掴みにして全身を緊張させる。
アナルセックスというものを知らないわけではない。
ただ、それはあくまでも動画の中のものである。自分が経験するなどということは、想像もしたことがなかったし、興味もなかった。
それなのに、今、異性の指が直接アナルに挿入されている。
恥ずかしいという言葉では言い表せない。
「う……ふぅ……あ、うううう」
冷理は全身の緊張を強めて、唇を噛んだ。
指でアナルを解した条理は、今度はアナルビーズを取り出した。6つのふくらみのある6連結アナルビーズである。それにローションを塗って、冷理のアナルに押し当てる。
「ふあ……あの、何?」
冷理は目隠しをされているので何をされているのか分からない。不安げな声で条理に尋ねる。
「力抜いて、大丈夫」
「な……んんッ!?」
つぷり、とアナルビーズの先端を挿入する。
「冷た、ぃ、何これ、ぇ、あ、ふううッ、あ、あ、何、入れて、ん、んぐ、ぁ!」
「アナルビーズだよ。このために使う玩具。知らない?」
「知って、ますけど、はあ、ふうッ、ん、ん――――はあ、あ、あ゛ッ、いきなり入れちゃぁ」
「そのまま腰上げて。もう4つ入ったよ」
「あ、あ、そんなこと言わないで、ください……ん、ああッ、それ、おっきぃ、んく、う」
「5つ。次が最後。頑張って」
「は……い、んぐ、あ、あ、うッ、ん、一番、大きい、はあ、んんんんんんんんんんんんんんん!」
条理はぐぐっとアナルビーズを押し込んだ。
冷理の柔らかそうなアナルの中に最後のビーズが飲み込まれて、納まった。
「はあ――――あ、はあ、入ったぁ♡ んふぅ♡ 入り、ました、ぁ♡」
「入ったのが分かるんだ」
「うん、分かります。分か、るぅ♡ おっきいの、入ってます、うぅ♡」
「じゃあ、動かすよ」
「ん♡ あ、待って、それはいきなり……ッ」
条理はアナルビーズの持ち手を掴んで、ゆっくりと引き抜いていく。
「あッ、んん……んあぁ♡ はあ、あ゛あ゛、う゛、んぐぅ♡ ひぃ、で、る♡ ぅ♡」
半分引き抜いてから、また押し込んでいく。
「あぐッ、んひぃ、んぉ、んんんんんんんんん♡」
6つ目までしっかりと押し込んで、引き抜く。
押し込んで、引き抜く。
ゆっくりとそれを繰り返していくと、徐々にスムーズに出し入れできるようになっていく。冷理のアナルが解れてきたのだ。アナルビーズを出し入れする感覚にも慣れてきたのか、冷理の緊張も解けてきたようだ。
「はあ、あ、あ、んん――――♡ ふう、ふう、んあ、あ、あ、ああ♡」
「気持ちよくなってきた?」
「な、なってません。お尻、なんて」
「そうかな。もう大分慣れてきて、そろそろ感じてきたんじゃないかと思うけど」
「感じません。こんな、はあ――――んッ、あ、ああああああああああああああああああああああ!?」
冷理は今日一番の嬌声を上げた。条理が勢いよくアナルビーズを引き抜いたからだ。今までのようなリズミカルな動きから一転した強烈な刺激は想定外の快感となって冷理を襲った。
引き抜かれたアナルはひくひくと痙攣している。軽い絶頂の証。言葉でいかに否定しても、冷理はアナルできちんと感じて、絶頂できるようになっている。
「これだけ解せば、準備OKだな」
「……あ……え?」
「アナルセックスするって言ったでしょ。これから本番だって」
「え、いや……それは、本当に?」
「ここまでして嘘でしたはないでしょ」
条理はコンドームを装着し、ローションを塗ってから挿入準備済みのアナルに狙いを定める。
そして、腰を落として冷理のアナルにペニスを押し入れる。
「あ――――待って、それぇ――――ひ、ぎぃ!」
ずぶずぶとペニスがアナルに滑り込む。
解して解して解しまくったアナルは、事前にアナルビーズで塗りこんだローションもあって、ほとんど抵抗らしい抵抗もなく根元までペニスを飲み込んだ。
「あ、ああ、う、そ……入った」
「入った。しっかり。分かるんだよね?」
「はい、はあ……分かる……んぁ……ちがう、全然……あったかくて、おっきぃの、あ、頭、チカチカする♡」
びく、びく、と冷理の身体が痙攣している。
冷理はアナルの感覚を通じて、アナルビーズとペニスの形の違いを把握できるくらいになっている。
(アナルセックスの才能があるかもな)
と、条理は思った。
別の女とアナルセックスをしたことはあるが、冷理の反応はかなりいい方だ。今日が初めてとは思えないくらいで、ここまで反応がいいと開発のし甲斐がある。
条理はペニスの抽挿を開始する。
小刻みに動かしてアナルをペニスの形に慣らしていきながら、冷理の反応を伺う。
「はあ……はあ……んは……あ……ん……んん♡ あん♡ んぁ♡ はあぁ♡ あ……んん……んふ♡ はあぁん♡」
少しずつ、声が甘く蕩けてきている。
膣とは異なる締め付けが気持ちイイ。
括約筋がぎゅっとペニスを締め付けて排泄しようとしている。その力強い締め付けが、ペニスにとってはほどよい圧力となって快感を与えてくれるのだ。
「あ、あ、ん……ああ……ひい、んあ……んお、おおぉ♡ んッ、んッ、あッ、あッ、んああッ」
ストロークを大きくして、直腸をカリで削るようにペニスを動かす。
刺激を変えて、アナルを拡張するように抽挿角度を調整する。
「ん――――ぃ、ひいい♡ あ、ダメ、です♡ そんな、ぁ、んあぁ♡」
「しっかり感じてるでしょ」
「感じて、ない……んん♡ アナルなんて、感じません♡」
「じゃあ、確認してみる?」
「確認って」
「本人に」
「何言って、んひゃ!?」
冷理は愛らしい悲鳴を上げた。
条理が冷理の上半身を持ち上げて体勢を変えたからだ。冷理を抱きあげた条理はベッドを降りて、床に冷理を立たせる。
「壁に手付いて」
「か、壁、んん、こ、こう?」
「そうそう。立ちバックでするから」
「ふう……ぅ、は、い」
冷理もようやく体位のイメージが付いたのか、頷いて両足を踏ん張った。目隠しをしているので、壁との距離がつかめずバランスが怪しかったがそこは条理がサポートした。腰を突き出して前傾姿勢をする冷理の尻をゆっくりと犯していく。
「ん……ん……はあ……はあ……んんッ、あ、深い、んあ♡ はあん♡」
冷理が堪らないとばかりに蕩けた声を漏らした。
言葉ではどれだけ否定しても、アナルセックスで感じているのは明白だ。
パンパンパンと音を立てて、ペニスを突き立てる。
アナルの滑りは良好で、きつい締め付けがありながら抽挿に支障は全くない。
「ひぃ、んふう……あ、く……足、震えて、んぁあ♡ これ、ダメ♡」
「ダメだ。しっかりと立ってろ」
「はあ、はあ、んん――――あ、ふう、ああ♡」
「感じてないなんて嘘つくから、ちょっと強くしちゃいたくなるだろ」
「嘘じゃない、です、あ、はあ」
「そうか? 足震えてるし、声も蕩けてるし、それに、そんなエッチな顔してたら感じてないなんて信じられないぞ?」
と、条理は言う。
条理の眼前にあるのは、壁掛けの鏡だ。冷理はこの鏡の両脇に手をついて立ちバックをしている。つまり、冷理の真正面に鏡があり、条理は鏡に映る冷理の表情を見ることができるのだった。
「ほら」
条理は冷理の目隠しを外した。
「ふぁ……? あ?」
急に視界が復活した冷理は文字通り目が点になった。自分の立ち位置を把握していなかったのもあるが、目の前に鏡があって、そこに自分の顔が映っているという状況を想定していなかった。
物心付いた時から毎日のように見てきた自分の顔。
しかし、その表情は今まで見たことがないほど蕩け切っていて、それが支倉冷理の顔だと認識できなかった。
(誰、これぇ)
冷理はそんなふうにすら思ってしまった。
アナルを貫かれる衝撃が快感になっている。
アナルセックスで快楽を味わい、溺れ、卑猥な嬌声を上げている。そんなはしたない女の顔だ。嬉しそうに目元を緩めて、舌を出して笑みを浮かべて喘いでいる。
「んあ、あ゛、う、そ、これ、わたしッ、んひゃ! はあ、あ、ダメ!」
冷理のアナルに挿入していたペニスを条理はさらに深く押し込んだ。
冷理は上半身を壁に押し付けられて、鏡に頬をついた。
「んお゛、ほぉ゛、突き上げ、だっめ、あはぁ♡ それ、キツイ♡」
「冷理をちゃんと気持ちよくしてあげないとだからな。頑張らないとな」
「んあ、名前、あ、ああ♡ いきなり名前で呼ばないで、あん、くださ、ひぃ♡ あ、あ、ヤダ、ダメ、はひ、あああ♡」
急に名前を呼ばれたことで、さらに冷理はパニックになった。
アナルから送られる快楽信号で頭が沸騰しそうになる。判断力の低下が著しい。表情筋のコントロールは全く効かない。
「あ、あ、ダメこれ、頭がチカチカして、馬鹿になりそう」
「なればいいよ。馬鹿になって、素直に気持ちよくなれ」
「いや、ぁ♡ だって、こんなの、わたしじゃない♡ おかしい、お尻でこんなに、あ、んあ♡」
冷理の反応が変わった。
快感でおかしくなっている自分を認識したためか、嘘をつけなくなったのだ。感じている自分を認めざるを得ない一方で、まだ羞恥心が勝っている。
世間ずれした常盤台のお嬢様たちよりはましだが、彼女もいいところのお嬢様なことに変わりはない。
至極当たり前の常識に反したアナルセックスというアブノーマルな快感は、冷理にとって当然に拒否の対象だ。受け入れがたいし認められない。だが、身体のほうはそうもいかない。ペニスが動くだけで、膝が笑ってしまうほどの快感が生じている。この感覚は猛毒だ。禁忌といってもいい。冷理の常識がにわかに崩れていく。
(身体も頭もおかしくなってる。条理さんにお尻を責められて、嫌なはずなのに、嫌じゃないとおかしいのに、なんでこんなに、全身がどうしようもなく喜んでる――――♡)
冷理の頭に電流が走り抜ける。
アナルセックスという禁断の快感。
それは単純な性感帯を責められることによって得られる快楽というだけではない。
精神的な被虐感情の刺激。禁忌を犯すカタルシス。これまで培ってきた常識を踏みにじり、新しく作り変えられる恐怖と喜びが綯い交ぜになった法悦が冷理の感情を狂わせる。
「あ――――ひぎ、ぁ、ほんとにダメ、このままじゃ、わたし、おかしく、あ、あ、こんなの、覚えちゃったら、はひ、んあ、戻れないぃ♡」
「別に戻れなくていいだろ。レベル4の頭でしっかり覚えろ」
ずるり、とペニスを引き抜き、ずずんと突き入れる。
叩きつけるように、突き上げるように冷理のアナルを犯す。
「あひゃああああ♡ ひい、ああ、らめそれ、んんんん♡ あ、あ、いやぁ♡ もう、ほんとに、ひい、あ、んおお♡ い、いっちゃ、う♡ イっちゃうぅ♡」
「いいぞ、イケ。好きな時にイッていいぞ」
「まって、待ってください、今、イッたら、ダメ。覚えちゃう、覚えちゃうから♡ お尻、気持ちイイのほんとに、ダメぇ♡」
冷理の優れた演算能力がエラーを吐きながら絶頂の予感に恐怖する。
脳が快感を覚えてしまう。
それは麻薬のように染み付いて、きっと忘れられなくなるだろう。
アナルをほじくり返されて、嬌声を上げながら果てる未来がすぐそこにあると予感して、冷理の理性がブレーキを掛ける。
その理性を条理のペニスが突き崩す。
力強い突き上げがごりごりとアナルを抉る。
「んほぉ♡」
無様な鳴き声を漏らして、冷理の思考がゼロになる。その瞬間、我慢してきた快感が一気に押し寄せてくる。
「あ゛、ダメこれ、もう♡ あ、ああ゛、あ、あ、ああああイクッ、イク、イ、ク、あああッ!!」
冷理の腰が大きく震えて、括約筋が引き締まる。不随意の筋肉の痙攣がペニスを強烈に締め上げた。
「うお、きっつ」
絶頂をこらえきれなかったのは条理も同じ。この動きが後押しとなって、射精をしてしまった。
「やべ、めっちゃ射精した」
冷理のアナルの中で脈打つペニス。コンドームの中に大量の精液が溜まっていることだろう。
「あ――――んあ、あ……イっちゃった、お尻で、はあ、はあ……ぁ」
冷理も絶頂の余韻に浸って、壁に身体を押し付けたまま息を整えている。
そんな冷理を見たためか、まだ条理の興奮は治まらない。
「悪い、冷理。もうちょっとするぞ」
「へ……? あ、なんで、まだそんな、ちょっと!」
条理は冷理を今度はベッドに連れていく。もちろん、ペニスはアナルに挿入したままだ。今日は徹底してアナルを犯しぬくという覚悟である。
今度の体位は背面座位。
ベッド上に座った条理に後ろから抱かれるようにして、冷理が腰を下ろす。
そんな体勢なので、冷理のアナルに深々とペニスが押し込まれる。
「ひぃ、あ、これも深い♡」
「冷理、ヤバいわ。気持ちイイ」
「そんなこと言わないでください。いやらしい、ひぅ♡」
条理の指が冷理の乳首を摘まむ。
決して大きいとは言えない乳房を揉みながら、乳首を愛撫する。
「あッ、あッ、んぁ、お尻と乳首が、あ、変、今、イッたばかりだから余計に、ひい、あ、あ、ああ、変になっちゃう♡ ぃ、ぃいい♡」
あまりの快感に仰け反り舌を突き出す冷理。その冷理の唇を条理は奪う。
「んぐ……! ん、ちゅぷ……んあ、はあ、んん♡ キス、ダメ、んあ♡ れろ……ちゅ、んふぅ♡」
冷理はすぐにディープキスに応じた。もともとキスに嵌っていたこともあり、自分から舌を絡ませる。快感に目を細めながら、音を立てて条理の舌を求めてベロチューするのだ。
条理は乳首を責める手を下半身にスライドさせる。片手で乳首を責めながら、もう片手でマンコを責めるのだ。
アナルだけを責めていても、膣も十分に湿潤だ。愛液を滴らせて、いつでもセックスできると主張している。
「んんん!! んあ、あ、そこ――――んぷ、ん、ちゅ……んあ、ふうあ、んんんんんんん!」
(これ、ヤバい! 全部、気持ちイイ! ほんとに全部気持ちよくて、飛ぶ! 頭、完全にダメになる!)
冷理の身体が跳ねた。
弓なりに反って、全身で快感を表現する。
「んぐ、ぐ、あ、ん、ふううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう♡」
仰け反り絶頂。盛大に潮吹きをして、冷理は完全に快楽に屈した。
「はあ……はあ……はあ……」
冷理は仰向けにベッドに横たわり、息を整える。
信じられないくらいに気持ちよかった、とまとまらない思考を整理しながら思う。
と、そこでコンドームを外した条理のペニスが顔の上にやってきた。
「できる?」
条理の指示は明白だった。
「できます……んあ……んぷ……んん」
冷理はすぐに口を開けて、精液に濡れたペニスを頬張る。
「ん♡ じゅぷ……じゅるる♡ じゅるるるる♡」
「う、気持ちイイ。それ、すごくいいわ」
「んふ♡ そうですか? れろ……じゃあ、もっと舐めますよ。ん、ちゅぷ……んんん♡」
冷理は嬉しそうに相好を崩した。
口の中に広がる生臭い苦みも嫌ではない。むしろどうしようもなく興奮してしまう。今しがた、さんざんに責められて絶頂したばかりだというのに、咥えているペニスを身体が欲しがっているのが分かるのだ。
(もうこれダメだ。わたし、完全に終わっちゃった)
そんな自己評価をしながらも不快ではなかった。
この堕落を楽しんでいる自分がいる。
条理が気持ちよくなっているし、自分も気持ちイイ。ならば、これで正解だ。このまま進めば、泥沼に沈むことになりそうな予感がするのに、自分からおもりを背負って飛び込んで行くようなもの。
それを自覚しながら、尿道に残る精液まで吸い出した冷理は、愛おしそうにペニスにキスをして微笑んだ。