※この作品はR-18です。

とある世界の常識改変   作:ロロノア

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第二話

 舌を絡ませあうキスをどれくらい続けたのか分からない。

 熱い吐息が交わらせ、混ざった唾液を嚥下する。

 興奮して粘度の上がった唾液が糸を引き、濡れた唇が艶やかに月光を反射する。

 

「は――――ぁ♡」

 

 呼吸すら忘れていたらしい。

 口を離して久しぶりの酸素が肺を満たす。クリアになる思考がこの異常性に気付くが、それもすぐに流れて消える。

 好感度を制御する自身の能力で、自分の心を狂わせてしまった。解除できるのは自分だけなのに、解除する気が起きないから何もできない。

 唐突に沸き上がった恋心と危機的状況により錯乱していたが、冷静に状況を分析する思考が戻ってきた。

 その上で、このままでもいいかと流されることを選んでしまった。

 なぜなら、気持ちがいいからだ。

 暗部の一員としても居場所がない海美にとって、もしかしたら今は久しぶりの安心できる時間だった。

 それが偽りの感情だったとしても、それを受け入れる下地ができていた。

 海美の能力と条理の能力が嚙み合って、海美の心は抜け出せないアリジゴクに囚われた。

 

「ここでやるか」

 

 と、条理は言った。

 

「ここで?」

「誰も見てないし、来ないだろ?」

「それは、どうかしら」

「暗部の人間がアジトにしてる部屋なんだから、その辺はばっちりじゃないの?」

 

 もちろん、そのとおりだ。

 まさか証拠になるようなものが残る部屋を選んだりはしない。

 この建物は電気もガスも水道も通っていないし、監視カメラもない。

 だが、だからといって完全に人の目がないとも言い切れない。

 

「あなたを引き取りに回収班が来る手はずになっているもの。ここにだって、暗部の人間は来るわ」

「そういうこと。じゃあ、こうしよう。『常識的にこの建物を意識しない』」

「……今、何かした?」

「まあ、夜に人様の建物に入ろうなんて、普通は思わないでしょ。そういう当たり前の感覚を強めにした。今、世の中の誰も俺たちがいるこの場所を意識しなくなった」

「でたらめなことを」

「海美の能力でも似たようなことはできるんじゃないか?」

 

 条理に自分の能力をしっかりと把握されている。確かに表面的な能力の概要は語ったが、応用部分まで読まれているとは。

 実際、海美に対する好感度を「興味なし」に設定することで、誰からも無視される透明人間化は可能だ。

 

「だから、ここでしても問題ないってわけ」

「どうしてもしたいの? ここで?」

「盛り上がるじゃん」

「変態ね」

 

 そう言いながら海美の口角が上がった。

 不快感はなく、期待感だけが胸の内で膨らんでいる。

 おかしいと理性が訴える。しかし、それを無視するに足る理由が明確に存在する。

 「恋人以上」の異性が自分を求めているのだ。これに応えたいと思うのは自然な反応だ。理性の声など、何のブレーキにもならない。人払いは今まさに済ませたばかりだ。行為を咎める外的要因すらも排除されたのだから、後は、身体を開くほかない。

 立ち上がった海美は自分でパンツを脱いだ。

 

「……何だか、恥ずかしい」

「こういう経験は?」

「ないわよ。こんなこと」

「処女?」

「悪い?」

「意外だなって」

「酷い人。わたし、そんなに軽い女じゃないのよ」

 

 海美の能力があれば肉体関係など持たずとも他者を篭絡することができるのだから、身体を売るような真似をする必要はない。話を聞いてお金をもらうというアルバイトはいい稼ぎにはなるが、その先には絶対に進まなかったし、そういった関係を求めてくる相手との「距離感」は入念に調整していたくらいだ。

 だから、「制御不能の感情」には戸惑うし、流される。軽い女ではない海美にとって、今、この状況で異性を受け入れるというのは、重たい決断だ。――――海美は、少なくともそのように信じている。たとえそれが他者から見れば、盲目的になっているだけの軽率な行動なのだとしても、今、この瞬間の海美には違和感のない選択なのだ。

 

「……ふう、ん♡」

 

 海美の唇から愛らしい声が漏れ出る。

 条理の指が海美の秘所に触れたのだ。

 

「ワンピース上げて」

「ん……く……はあ……ぁ」

 

 あえて立たせたままで海美にワンピースの裾を持ち上げさせる。自分で自分の秘所を曝させた上で、手マンをする。

 海美の秘所はすでに濡れて、条理の指にしっかりと絡みついてくる。

 

「びしょびしょじゃん」

「言わな、いで……ふう、く……ぅ、んん♡」

「気持ちイイ?」

「……ん……ぁ……んん♡ あッ♡ あん♡」

 

 びくッ、びくッと海美の身体が震える。

 あっさりと条理は海美の弱点となる部分を発見した。いわゆるGスポットだ。温かい膣内に押し込んだ指を曲げて、ちょうど引っかかるところにある。これを引っ掻くようにこすってやると海美の膣肉が震えるのが伝わってくる。

 

「まって、それ、ん……く……ぁ……や、ぁ♡」

「踏ん張って。そのまま立ってろ」

「くぅ……あ、指……ヤバ……ぃ♡ んあ……あ、ふぐ、あ、はあ、あ、んあ♡ あ、あ、ああ♡」

 

 指を動かしているとくちゅくちゅと音が漏れ聞こえてくる。

 水分量が明らかに増えていて、雫が海美の太ももを伝っていく。

 快感で筋肉の動きが制御できず、膝ががくがくと震える海美を無理矢理立たせたまま手マンを続行する。海美はとろんとした表情で条理を見上げる。熱を帯びた瞳。頬に朱色が加わり、色っぽい。

 

「ん……んん♡ あ、んふ♡ ぅ……んん♡」

「海美、声を我慢するなよ」

「や――――だ、恥ずかし、い」

「ダメ。どうせ誰も来ないんだから、我慢するなよ」

「ん――――ぁ、はあ♡ あッ♡ あ、んあ♡ ああ♡ その指、ダメぇ♡」

「いいじゃん。その調子で声出せ」

「はあ、やぁ♡ あ、ああん♡ ん、んぁ♡ あ、声、止まんない♡ ぃぁ♡ あ、ああ♡」

 

 一度、声を上げてしまうとブレーキが利かなくなる。

 絶頂に向かう甘い誘惑には敵わない。

 痺れる快感が理性を溶かしてしまう。

 

「あ、ダメ、もうッ」

「いいよ。イケ、我慢禁止だ」

「ひぃ――――ぁ、ああ♡ イク♡ イキます♡ イクッ♡ イク♡ んあ――――はあぁあ♡」

 

 がっくん、と大きくのけぞった海美は反動でよろめき、デスクの上に尻もちをついた。

 オーガズムに達した衝撃で海美の思考が真っ白になった。

 

(嘘、信じられないくらい……気持ちよかった。あんなイキ方、初めて……) 

 

 能力の影響を無視しても、今までにないくらいの強烈な絶頂だった。

 あまりにも気持ちよくて、幸せの余韻が抜けていけない。

 

「じゃ、本番しようか」

 

 条理がズボンを下した。

 ペニスはすでに勃起している。

 

「あ……」

 

 本物の勃起ペニスを見たのは初めてだった。

 

(これが、男の人の……こんなに、なるの?)

 

 無知ではないが知識と経験は異なるものだ。

 ネットで転がっている動画を見ることはあるが、本物はやはり別物だ。まして、それがこれから自分の膣内に入ってくるというのだから、緊張するのも仕方ない。

 

「緊張してる?」

「……初めてだって、言ったでしょ」

 

 条理は海美の足を掴んで股を開かせた。

 ペニスが膣口に狙いを定めている。

 

「う……わぁ」

「海美、力抜けよ」

「や、優しくして」

「……もちろん」

 

 可愛らしい懇願に胸を高鳴らせた条理は下半身に血が偏っていくのが分かった。

 そして、しっかり濡らした膣内にペニスを押し込んでいく。

 

「ふぐぅうう♡」

 

 海美の膣内に入ってくるペニスの感覚に顔を歪めて耐えた。初めての痛みも愛する人と繋がった証そのものだった。

 

「は――――ふ……ぁ……すごい、入った、の?」

「ああ、入った。根本までしっかりね」

「あ……は……すご……これ、セック、う゛ぁ♡」

 

 海美が挿入の快感を味わっているところで条理が腰を振り始めた。 

 

「うあ、ん……はあ……はあ……はあ……ぁ……んん♡ 動いて、る♡ お腹の中で♡」

「締め付け、すごいな。膣内、あっつ……!」

「あ、ん……ああ! ふああ♡ あ、おっき、ぃ♡ ああん♡」

 

 連なる肉襞がカリ首に引っかかって強い快楽を生み出す。

 ローションにまみれた両手に愛撫されているかのようだ。

 本当に処女だったのかと疑いたくなるほど、海美の膣内はこなれているように思えた。

 あまりに気持ちがいいものだから腰が止まらず、馬鹿みたいに抽挿してしまう。

 

「はあ、はあ、んああ♡ はあん♡ あ、あ、んん♡ あ、あッ、イイ♡ すごい、イイわ♡ これがセックス♡ はあ、んあああ♡」

「海美の膣内、めっちゃイイ。ヤバ、もう射精しそう」

「射精って、あん♡ それ、膣内で、ん♡ あ、ふうぁ♡ あ、あ、初めて、なのに、中出しなんて、んん♡ あ、本当に、ダメ♡ 堕ち、ちゃう♡」

「堕ちていいぞ。このまま俺のものになれ海美」

「ひぃん――――♡ あ、い、ぁ、そんなこと、言わないでぇ♡」

 

 海美の思考はぐちゃぐちゃだ。快感と恐怖に全身が震える。が、そのまま瞬く間に快感が上回る。本能が目の前の男の精を受け入れたいと訴えている。

 海美の膣がペニスを圧迫して、締め上げる。

 ぎゅっと握りこむように肉竿を吸い上げることで強烈な快感が条理を喜ばせる。

 びしょびしょの膣内をほじくり返しながら、条理の腰の動きが加速する。力強くペニスを打ち込んで、海美の膣奥を何度も突く。

 

「ひぃ♡ んひぃ♡ あはぁ♡ あ、あ、あああ♡ き、気持ち、イイ♡ んひゃあ♡ 大きいの、奥まで来てる♡」

「射精感上がってきた。このまま射精するぞ」

「ああ、膣内で膨らんだ。今は、今はぁ♡」

「無理」

 

 ずぶん、と海美の膣奥にペニスを差し込んで、そのまま条理は射精する。

 

「は――――ひゃああああああああああああ♡」

 

 ドクドクッとペニスが脈打ち、海美の膣奥に精液を注ぎ込んだ。

 海美は強烈な快感に仰け反り、一緒に絶頂することとなった。

 

「あ、ひゃ……あ、んぐ……お腹、熱……ぃ」

 

 人生で初めての膣内射精を海美は幸福感とともに受け止めた。

 ペニスが引き抜かれた後の喪失感も初めてのことだ。

 雄に満たされていた膣内がひどく寂しく思えた。

 

「何、終わった感じにしてんの」

「へ?」

 

 余韻に浸っていたところで条理から声を掛けられる。

 

「俺はまだできるぞ。海美の膣内、めっちゃよかったからな」

 

 信じがたいことに条理のペニスはまだ勃起したままだった。

 

「お、男の子って、そんなにできるんだっけ?」

「他人は知らんけど、俺はできる。常識だろ」

 

 下半身を露出した男に常識を語る資格があるかと思うが、その常識を操るという言が正しければ、無意味なツッコミだ。

 条理が海美の手を引いて立たせる。そのまま窓際に連れていく。

 

「ちょ……まさか」

「窓に手をつけ」

「ま、待って、さすがにそれは、見えるから」

 

 カーテンもない居ぬき物件だ。夜とはいえ雲一つない夜空には満月が登り、街灯が必要ないというくらいに明るい。

 

「ッ……」

 

 窓の外に複数の人影があった。上層から見下ろす形になっていて、向こうからもこちらが丸見えである。

 依頼者が派遣してきた回収班の人員だろう。条理の能力のおかげか、こちらにはまったく気を払っていないようだが、視線がこちらに向けば――――。

 

「これ、ダメよ……本当に」

「そう? でも、楽しそうだぞ」

「……ち、違、う゛♡」

 

 海美が突き出した尻を押さえて、条理はペニスを捻じ込む。膣肉を斜め下から抉り、突き上げる。背の低い海美に合わせるとどうしてもそういった体勢になってしまう。結果、深く海美の内側に突き刺さる。

 

「おひ♡ んおお♡」

 

 今までにない下品な声を漏らす海美。

 美しい整った顔が歪み、情けないアへ顔を曝した。

 

「えぐ、れた。お腹ぁ、だ、め、強い、勝て、ないぃ♡」

「ふぅ……じゃ、動くぞ」

「ひゃめ、へあッ、お、んおぉ♡ あああ♡」

 

 ばちゅ、ばちゅ、ばちゅと条理は力強く腰を叩きつけた。

 条理の抽挿はさっきまでとは異なる強さだ。体位が違うので角度も抽挿のしやすさも違うのだ。

 海美の膣内は出たり入ったりするペニスにすっかり夢中になっている。

 

「んぐ……ふぐ……んああ、すご、こんなこと、してる場合じゃないのに。外に人がいるのにぃ♡ はへ、男に抱かれて、気持ちよくなってる♡」

「もっと声出していいぞ。どうせ外には聞こえないんだし」

「ひぃ、お、おお♡ ダメ、許して♡ あん♡ あん♡ んおおおぉ♡ 聞かないで、お願い♡ 声、我慢できないのぉ♡ ああん♡ 気持ち、イイ♡ イイの♡」

 

 海美は快感で頭がおかしくなっている。

 愛する人に抱かれる幸福感はとても言葉で言い表せない。

 オナニーとは比較にならない快楽だ。

 窓におっぱいを押し付けて全身を外に曝す無様さ。それすらも海美の脳裏に快感を与えている。

 

「すごい感じてるな海美。これ、癖になるんじゃない?」

「やめて、もう止めて。こんなの癖になったら、ただの変態。あッ、あッ、んひゃ♡ 奥、突かないでぇ♡ 本当におかしくなるからぁ♡」

「もう認めたらどうだよ。こんなことして、おかしくなってないわけないでしょ?」

「あ――――んお゛、おおおおおおお♡」

 

 ごり……と最奥を抉った一撃に海美は喉を反らして呻いた。

 

(今までで、一番深い♡ 深すぎる♡ 入っちゃダメなところ、入る♡)

 

 海美は瞳が裏返った。歯を食いしばって絶頂を堪えたが、蓄積する快感は消えてなくならない。ずるずると引き抜かれた後、さらに刺突が襲ってくる。一回我慢できても、次の一撃が来る。これが繰り返される。落ち着くまで条理が待ってくれるはずがなく、リズミカルにガンガン突いてくるので意識が飛びそうになっている。

 

「はひ――――あ、んあ、くあぁ♡ は、はあ、ん、お、おおお♡」

「やっぱり、見てもらったほうが気持ちイイか? 能力、解除しちゃう?」

「ひ――――何それ、そんなことしたら」

 

 外にいる回収班に見られる。今、彼らは条理の死体を探しているはずだ。いや、血の一滴も現場にないのだから、爆殺は失敗したものだとすでに理解しているだろう。海美と連絡がつかないことも分かっているし、海美が用意した狙撃手のことも把握しているに違いない。つまり、海美の任務失敗は既成事実として伝わっている。

 

(もう終わり、だ。わたし、全部終わったぁ♡)

 

 暗部の仕事に失敗した挙句標的に篭絡されてイキ狂わされている。さらにはこのように露出狂に調教されて、窓の向こうに痴態を曝している。見られていないのをいいことに喘ぎまくり、あまつさえ、見られる可能性を想像して、イキそうになっている。

 

「わたし、変態。変態すぎる、あは♡ あはは♡ すごい、変態♡ んあ、あ♡ あ、イイ、イク♡ それ、気持ちイイ♡」

「それって何? チンポって言って」

「チンポ! チンポ好き、あなたのチンポ気持ちイイの♡ もっと、もっと突いて♡ 愛して♡ 膣内射精でイカせてぇ♡」

 

 蕩けた声音で誘惑する海美。

 絶望と快感に染まり切った瞳は理知的なかつての彼女を思わせるものではなく、すっかり娼婦まがいの堕落しきった雌のそれだ。

 そんな声音でおねだりされたら、条理のペニスは暴発必至だ。

 

「いいぞ、がっつり射精してやる」

 

 そう言うや全力で腰を叩きつける。

 

「んあ、んあ、ああん♡ イイ、イクイクイクのぉ♡ すごい、飛ぶ、飛んじゃう♡ あへ♡ んあ♡ あああ、もう、もう無理、イクぅううう♡」

「射精すぞ」

 

 どくん、と高鳴るペニスの鼓動が海美の膣深くで響く。

 マグマが噴き上がるように、大量の精液が吐き出された。

 ドクドクドクドクッ――――と、流れ出る精液の奔流が海美の女を溺れさせた。

 

「あ――――ひゃあ♡ ああああああああああああああああああああああああああああああああああ♡」

 

 舌を突き出して、唾液を垂らして海美は達した。

 子宮で精液を飲んでいる。

 その自覚ができるほどの大量射精。

 

「あ゛――――おほ、んおぉ♡ これ、射精……気持ちイイ♡ わたし……お、わったぁ♡」

 

 ずるずると海美は崩れ落ちていく。能力者としても女としても完全に敗北した瞬間だった。負けを認め、この男とペニスに降るほかないと本能が認めてしまった。

 

 

 

 +

 

 

 

「これから、どうするの?」

 

 一連の行為を終えてから海美が尋ねた。

 さっきまで激しく悶えていたとは思えないくらい落ち着いていた。

 しかし、敵意はもうない。彼女の精神は完全に堕ちていた。表面上は「普通」になったが、その瞳の奥にはドロドロとした情念の火が灯っている。

 

「知っての通り、あなた、暗部に狙われてるわよ。何をしたか知らないけど」

「俺だって知らないよ。勝手に仕掛けてくるんだから、そんなのに付き合って生活変えるのも馬鹿らしいだろ。だから普通に今までどおり生活するよ」

「他人を巻き込むかもしれないのに?」

「ま、俺身勝手だからね」

 

 基本的に非人間的な男だ。常識を語るくせに常識を改変できるから、根本的にまともではないのだ。女好きなのは間違いないが、本質はまるで理解できない。この意味の分からない危険性は、レベル5の危険人物たちに近しい理不尽さだ。

 

「海美はどうする?」

「どうって、行くとこなんて」

「なら、俺んところ来なよ」

「いいの?」

「ここまでシタからね。それに、俺んとこは安全圏だぞ。一応な」

 

 海美は苦笑して首肯した。

 いずれにしても行先のない彼女には願ってもない話だ。

 暗部の仕事をしくじったうえに、レベル5の後ろ盾もない状況だ。口封じをされるか、いいように使いつぶされるのがオチだ。それなら、愛する人の元にいたほうがずっといい。

 かくして海美は条理の手を取った。

 

 

 

 +

 

 

 

 

「そういうわけで、めでたしめでたし~~~~わーすごーい……て、そんなわけないでしょ! 何ちゃっかり他の女引っ掻けて来てるんですか!?」

 

 マンションに戻ると白衣を着た黒髪の女が騒いでいた。

 彼女は木原唯一。

 自他ともに認めるマッドサイエンティストの一人であり、学園都市の暗部に関わる一人だ。

 暗部にも二通りある。

 海美のような依頼を受けて動く実行部隊と実行部隊に指示を出す権力者。彼女はどちらかというと後者に当たる。敵にすれば恐ろしく、味方だとしても信用のならない人物だ。そんな女が条理に縋り付いて子どものように駄々をこねている。学園都市の研究者には、頭のねじがおかしくなっている人物も少なくない。これは、そういう生き物だと思ってみていればいいのだ、と海美は学んでいた。

 

「条理君のピンチに裏から手を回してあげたわたしを放って、こんな仕打ち酷い~~~~。せっかく条理君に手ぇ出したヤツ潰してきてあげたのに~~~~」

「そうなの? ありがとう。それで、なんで俺は狙われてたんだ?」

「え…………さあ?」

「唯一ちゃん?」

 

 足に縋り付いてくる唯一を見下ろして条理は尋ねた。唯一はそっと目を反らして、あからさまなごまかしモードに入っている。

 

「……唯一ちゃん。心当たりあるんでしょ」

「……あーはい、そうです。わたしのせいでした。でも逆恨みなのよぉ。別にわたしが何かしたってわけじゃないの。ただ、コンペでわたしに負けたヤツがわたしの研究対象のあなたをごにょごにょしようとしてたの。でも大丈夫。もう二度と外に出られないようにしたからぁ」

 

 何をしたのかということは聞かないようにした。唯一は木原の一員だ。根本的に人でなしなので、おそらくはろくでもない末路を辿ったのだろう。

 

「ちょっと待って、あの人死んだの?」

 

 と、口を出したのは条理と唯一のやり取りを眺めていた海美だった。

 今のは、海美にとっては聞き捨てならない発言だった。

 

「人聞きの悪いこと言わないで。そんな簡単に殺したりしないわよ」

「再起不能にはしたってわけね」

 

 それを聞くと少し安心だ。

 仕事を失敗したことには変わりなく、いずれにしても海美には命の危険があった。

 

「ええ、そうよ。だから、あなたも自分の家に帰って大丈夫。あなたへの依頼もなかったことになってるから」

「あら、そう。ありがとう。おかげで心置きなく条理と同棲できるわ」

「は……? 呼び捨て? なぁにこの小娘、彼女面? しかも同棲ですって?」

「恋人以上の関係なんだから、それくらいおかしくないでしょう。わたし、住むところないし」

「それはあなただけの設定でしょ。脳内設定を現実に当てはめるものじゃないわよねぇ。というか、住むところないのは完全にあなたの事情ですよね!?」

「それはそれ。でもわたしのためだけってわけじゃないわ。条理ってば、ものすごくわたしを求めてくれたもの」

「……は?」

「一番深いところに、いっぱいもらったわ」

「……へえ、まあ、条理君も男の子ですからぁ、行きずりエッチしちゃうこともあるでしょうけど。ちゃんと避妊したんでしょうね?」

「……さあ、どうかしら」

 

 バチバチとした火花が散る。物理的には見えなくても、おそらくは何かしらの見えないものが弾けている。

 暗部の女が二人も出入りするマンション。

 それだけで、かなりのスリルのある物件になってしまった。

 条理は不穏な気配を醸し出す女たちを尻目に、テレビの電源を入れていつも通りにだらけ始めたのだった。

 

 

 

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