18と言っても、少ししかありませんが⋯⋯。
朝の光が、まだ冷たい空気の中に散っていた。
東の森の奥、北の国との境に近い場所。
冬の気配はあるが、吐く息はまだ白くない。
ネロは薄手のコートの裾を押さえながら、足元の霜を踏んだ。
サクッ、という音と共に霜が割れる。
「少し、冷えるな。」
その呟きに応えるように、枝の先で小鳥が鳴いた。
ネロの手には、ハーブがいくつか入った小さな網籠と、紙切れ。
紙切れには残りわずかなハーブが書いてあり、ほとんどがここの森で取れるものだった。
残りわずかなハーブを見て、ネロはため息を落とした。
「足りない分、少しでも増やしておかないとな⋯⋯。
先生とかヒースに頼むのも悪いしな。」
そう呟きながら屈み込んだネロは、指先で土を払うとそこに小さな葉が芽を出していた。
白く細い葉が、露に濡れて光っている。
ネロはそれを丁寧に根を残し、摘み取った。
風が、背後の枝葉を揺らす。
ネロはなにかの気配に気づいて顔を上げる。
鳥か、獣か、それとも魔物か。
しかし、森は静まり返っていた。
「⋯⋯気のせい、か。」
再び視線を足元へ戻す。
その瞬間、空気が僅かに揺らいだ。
冷たい北の風とは違う、圧のような、何かが近づく気配。
「っ⋯⋯!」
反射的に魔力を展開しようとするが、遅かった。
ぬるぬるとした触手のようなものに、腕を掴まれ、喉元を抑えられ、魔法陣が描かれる前にその光が霧散する。
鋭い冷気のような力が、ぬるぬると身体を縛りつける。
「⋯⋯ミ、ス⋯⋯ラ、⋯⋯。」
地面に膝をついたネロの身体に、微かな震えが走る。
魔力を構築する回路が焼き切れたような痛み。
それでも、ネロは歯を食いしばり、もう一度ミスラの名前を呼んだ。
呼んだところで、来ないとわかっていても。
「⋯⋯ミ、⋯⋯ス⋯⋯⋯ラ⋯⋯。」
声は掠れ震え、まともに出せなかった。
見えない触手の本体に引きずり込まれるように、ネロの瞳の光が吸い込まれていく。
そして、ネロの身体は静かに抵抗を無くしていく。
森の霧がそれを包み、すべてを隠すように漂う。
残されたのは、草に散らばった網籠の中身のハーブと、銀色のナイフだけだった。
♦♦♦♦♦
「⋯⋯?」
ネロが目を覚ましたのは、洞窟のような場所だった。
そこでは触手が蠢き、裸体のネロの魔力を吸い上げるように身体を這っている。
目覚めたのに気付いた触手が、ぬるぬると艶めかしく動きながら、ネロの乳首をいたぶる。
すでに硬い粒と成り果てたそれは、触手の動き1つ1つに敏感に反応する。
「んっあっ、ああぁ♡
や、め、やあぁ、ああぁぁ♡
んひっ!?♡
し、下はぁ⋯⋯!」
すでに触手に縛られ身動きできない脚の間でそそり立つそれは、先端を触手の粘液で濡らし、触手が擦るたびに敏感に反応する。
「い、やだっ♡やめ、ああぁぁっ♡
ひぅっ⋯⋯や、吸わないでっ、一緒に吸わないでくれっ⋯⋯♡」
嫌なのに、快楽にどんどん追い詰められていって、いつしかミスラの名前を子供のように呼ぶようになったネロ。
「ミスラッ、ミスラッ⋯⋯どこ、⋯⋯行ったんだよっ⋯⋯。
や、ん、♡ 中は⋯⋯っ。」
それをよく思わなかったのか、太く肥大化した触手がネロのをこじ開け、中へ挿入していく。
それと同時に、ネロの周囲に球体状に触手の壁が貼られる。
「やめっ、ろっ⋯⋯♡。
ミスラ、ミスラッ⋯⋯んぐっ、ん、んぅ⋯⋯♡」
ミスラの名を叫んだネロの口に触手がねじ込まれる。
そして、伸ばした手が飲み込まれる直前、誰かがその手を掴む。
その手はブチュッブチッブチッと触手を引き裂きながら、ネロの手を引っ張る。
「ネロ!!あなた、こんなところにいたんですか!」
そのまま手元に引き寄せられ、腕の中に抱かれる。
「⋯⋯ミ、んぐっ⋯⋯。」
「喋らないでください。今からこの触手を消し飛ばします。」
直後、ふわりと宙に浮いたかと思うと、ドゥンッと音を立てて何かがガラガラッと崩れる音が、洞窟内に響く。
触手は奇妙な音を立てながら潰れていき、最後は洞窟だったであろう場所は更地へと変わっていた。
それを一瞥したミスラは、ネロを抱えて空間の扉を開いた。
その扉の先では目を丸くしたフィガロと、咄嗟にミチルの両目と両耳を隠すレノックス。
「わあ!?レノさん、なんで僕の目を隠すんですか!」
「ミスラ⋯⋯と、ネロ?」
「⋯⋯北と東の境目で、ネロが触手に襲われていたんですよ。
医者なのに、わからないんですか?」
「⋯⋯とにかくネロを診よう。
ミスラ、ネロを俺のベッドに寝かせてくれ。
それと、ミチルを連れて今すぐ部屋に帰れ。ミチルの教育に悪い。」
「わかりました。」
そしてミスラは空間の扉をレノックスの背後に開き、2人まとめて引きずり込む。
フィガロは魔法を唱えてネロの身体についた粘液を綺麗にし、寝間着を着せる。
ネロの目は虚ろだった。
そんなネロに、フィガロは声をかける。
「⋯⋯診察が終わったら、すぐにミスラに引き渡すよ。
それでいいね?ネロ。」
「⋯⋯ああ。」
フィガロはネロに聴診器を当てながら問診し、問題はないことを伝える。
そしてミスラの名前を口にする。
「なんですか。」
「ネロの診察が終わったから、引き渡すよ。」
「そうですか。」
ミスラはネロを抱きかかえると、眉1つ動かさず、空間の扉をくぐっていった。
フィガロはそれを見送り、ため息をこぼした。