「へえ……綺麗なもんだな」
箱に入った色とりどりの和菓子はすりガラスのかけらか砕いた宝石のようだ。
ひとつ手に取り目の前で光に透かすと、子供の頃ただのガラスのかけらを宝物のように取っていたノスタルジックな感傷を思い起こさせる。
「これが最近話題になっている、食べられる宝石――琥珀糖だ」
土産にと持ってきてくれたフライングパピーの店主が説明してくれた。
一口齧ると表面はシャリ、と崩れ、中からぷるんとしたゼリーの食感が顔を出す。
「なるほど、すりガラスのようになっているのは表面の砂糖が結晶化しているのか」
「これはシンプルに昔ながらの寒天と砂糖しか使っていないが、リキュールやフルーツの果汁なんかで味付けする事もできる」
「味わいはシンプルだが食感が独特で面白いし、何より見た目も華やかだ――なるほど確かに映える」
店主が意外そうな表情をした。
「お前さんがそんな事を気にするとは思わなかったよ」
「いや、うちだって学生アルバイトや若いお客さんだっているから――」
「ああ、そうか。雑談でそういう話題も出るか」
本当は違うのだが、説明するのも気恥ずかしい。
そう、見た目が華やかな方がきっと、若い娘は喜んでくれる――それは異世界のひとでも同じだろうと思っただけだ。
「作り方も意外と簡単なんだ」
「へえ」
赤や黄色、青のグラデーションを描く琥珀糖の中から、青と黄が混ざり合って緑色に見える一かけを取る。
なんとなく手に取ったそれが、週に一度この店で働いてくれる働き者の異世界の少女の瞳の色に似ていると気付いて、頬に血が上るのを感じた。
「ん、どうした? 顔が赤いようだが……」
「なんでもない! そ、それより、簡単に作れると言ったか? よかったら作り方を教えてほしいんだが」
「それは構わないが……店で出すつもりなら、俺が作ってやろうか?」
「いや、気持ちはありがたいが――」
手にした菓子を見て、嬉しそうに喜んでくれる彼女の姿を思い浮かべる。
「自分で作りたいんだ」
――マスターは本当に凄い
給仕をクロさんに任せて洗い場に溜まっていた皿を洗いながら、魔法のような手際で料理が出来上がっていくのを見て、感心してしまう。
ひとつひとつのお料理の工程だけでも複雑なのに、それを複数同時にこなす事ができるのはマスターがとっても頭がいい証拠だ。
――前に尊敬の念を込めて言ってみたら、「ただの慣れだ」と笑っていたけれど……
人も魔族もドワーフもエルフも妖精も、お腹が満たされれば心も満たされる。それが美味しいものであったなら尚更で、こんな風にひとを幸せにする事のできるマスターは本当に凄いと、心から思う。
「アレッタさん、これ、頼む!」
「はい!」
出来上がった料理を運ぶ為、急いで洗い物の手を流してタオルで拭いた。
ここのお客さんはみんな自分の好物しか頼まないから、調理台に並ぶ皿を見れば誰に運ぶのかは一目で分かる。
店内は一番忙しい時間帯を少し過ぎているものの盛況で、クロさんもあちこちのテーブルへと往復していた。
「お待たせしました! メンチカツです!」
「ありがとう、アレッタ」
このお店のあだ名“メンチカツ”ことサラさんが、目を輝かせて皿を見る。
『アレッタ、お客様の会計をするから、ビールのおかわりをお願い』
クロさんが頭の中に直接話しかけてきて、一瞬だけびっくりしてから振り返って頷いた。
「分かりました!」
クロさんの話し方にはだいぶ慣れてきたけれど、急だとまだちょっとびっくりしてしまう。
サーバーからビールを注ぎ、ちらりとマスターを確認する。
料理を見る真剣な表情――目も、耳も、全ての感覚を研ぎ澄ませて料理に向き合うマスターの横顔はとても素敵だ。
――マスターみたいな大人の男性は、私みたいな子供は相手にしてくれないよね……
埒もない事を考え、胸にツキンと小さな――けれど鋭い痛みが走る。
――あ、あれ? なんだろ、これ……
胸の痛みの原因について考えようとした瞬間、「注文、いいかね」とお客さんに呼ばれ、反射的に振り返って笑顔を向けた。
「はい、只今伺います!」
その後は立て続けに注文が入り、考えていた事も胸の痛みも忙しさの中に埋没してしまった。
「……ありがとうございました」
最後のお客さんが重い寸胴を軽々と抱えて帰っていき、扉に向けて深々とお辞儀をしていた身体を起こす。
「疲れたぁ~…」
ホッとして思わず口から出てしまうと、マスターは笑って「お疲れさん」と労ってくれた。
「賄い、作っておいたから食ってくれ」
「はい! ありがとうございます」
クロさんも、無表情の中にもどこか嬉しそうに頷いている。
厨房の作業台にはクロさんの為のチキンカレーと私とマスターの夕食が用意されていた。
「マスター、これは?」
「ドリア――ライスにソースとチーズをかけてオーブンで焼いた料理だ。今日はホワイトソースとミートソースが余ったんでな。皿の片側がシーフードドリア、もう片方がミートドリアだ」
「わあ、美味しそう!」
椅子に座ると、クロさんはもうスプーンを握り締めて一心不乱にカレーを食べ始めている。
食前の祈りを捧げ、熱々の深皿にスプーンを入れると、白いソースがたっぷりと絡んだライスがチーズを纏って糸を引いた。
「熱いから、気を付けてな」
「はい」
ふう、ふう、と息を吹きかけ、よく冷ましてからパクリと口に運ぶ。
「んー♡」
熱で溶けて軽く焦げ目のついたチーズの香ばしい香りと塩気の後に、濃厚な騎士のソースとゴロゴロと入ったシュライプなどの海の幸の旨味がライスと渾然一体となって押し寄せる。
「これ、すっごく美味しいです、マスター!」
「そうか、よかった」
「騎士のソース――ホワイトソースってライスにも合うんですね!」
「それは食文化と好みと調理によるだろうな。こっちの世界でもシチューをライスにかけるのはアリって人とナシって人はいるし。この皿の場合は、合うようにホワイトソースの方のライスには胡椒が利かせてあって、ミートドリアにはガーリックライスを合わせてあるから」
「そうなんですね!」
難しい事は分からなかったが、マスターのお料理は余った食材を組み合わせただけに見えてもちゃんと工夫されていて、とっても美味しいという事だけは分かった。
食べ進めると断面の色が変わり、ミートソースが顔を覗かせる。
「わあ、こっちも美味しい!」
賄いでミートソーススパゲティは食べた事があるが、オーブンで焼かれる事で適度に水分の抜けたミートソースは濃厚で、焦げたチーズと香ばしいガーリックライスとの相性も抜群だ。
「んん~♡」
「本当に美味しそうに食うよな、アレッタさんは」
「だって本当に美味しいですから! マスターのお料理はどれもみんな、美味しいです!」
力強く言うと、クロさんもうんうんと頷いて同意してくれた。
マスターは照れくさそうに笑う。
「そうか、二人ともありがとうな」
やがてお腹が満たされ満足の溜め息を吐いていると、マスターは立ち上がって調理台へ向かった。
「マスター、まだ何かするんですか?」
「ちょっと仕込んでおきたい食材があるから、明日ゆっくりする為に今日中にやっておこうと思って」
「お手伝いします!」
「いやいや、女の子が遅くなり過ぎるのはいけない――まあ、もう充分遅いんだが――とにかく、二人はもう帰りなさい」
「いえ、手伝わせてください! 少しでもマスターのお役に立ちたいんです!」
「だが……」
私と困った様子のマスターの姿を交互に見ていたクロさんは、少し首を傾げてからマスターに話しかけた。
『マスターが心配しているのは夜遅いから?』
「お、おう。深夜に女の子がひとり街を歩くのは危険だろう。それに雇用主として、これ以上残業させる事はできない」
「でもじゃあ、マスターはいつ休むんですか!」
「俺は別に――好きでやっている事だから……」
『なら、アレッタに私の加護を――悪意を持って害を為そうとする者から身を護る魔法をかけておくから、それならいい?』
思いがけない助け舟に、クロさんに笑顔を向ける。
「クロさん! ありがとうございます!」
『うん』
「ええ……」
マスターは少しの間言葉をなくしていたが、私とクロさんを見て“仕方がないな”とでも言うように溜め息を吐いてから、「まあちょうどいいか」と呟いた。
「……分かった。二人がそこまで言うなら、アレッタさんには今夜ここに泊まってもらって、明日仕込みを手伝ってもらう。それでいいか?」
「はい!」
「クロ、お前さんはどうする?」
ちらりとクロさんは私を見て、首を横に振った。
『私は帰る。邪魔したくないし』
「邪魔?」
不思議そうな顔をするマスターを遮るように、慌ててクロさんの両手を握る。
「邪魔じゃないですよ!?」
シャワー室に入り、服を脱ぐ。
今朝身体を洗ったばかりなのに夜までシャワーを使うのはもったいないと思ったが、マスターが当然のようにタオルと替えの下着と寝巻を渡してきたので、つい受け取ってしまった。
温かな湯を浴びていると、汚れとともに一日の疲れが流れ落ちていく気がする。
――そっか……今夜はここで、マスターと二人きりなんだ……
そう考えた途端に急に緊張してきた。
サッと身体を流すだけのつもりだったのに、気付けば念入りに身体を洗っている自分がいる。
――まあ、万にひとつもマスターが私にそんな気を起こすはずはないって、分かっているのだけど……
それでも好きなひとには少しでも良く思われたい。
胸の内を諦めと期待が交互に入れ替わる忙しないシャワータイムを終え、私は寝巻を着て扉を開けた。
そわそわと、シャワー室から聞こえる水音に耳を澄ませる。
――これじゃまるで、ラブホテルで彼女のシャワーを待っているみたいだな……
いい歳して何をそんなに緊張しているんだと、自戒を込めて苦く笑う。
アレッタさんは純粋に俺を気遣って手伝ってくれようとしているだけだというのに。
変な期待を振り切るように頭を振ると、布団が一組しかない事に気が付いた。
アレッタさんには布団を使ってもらうとして、俺は店の椅子を並べて寝るか、と考えながら替えのシーツを持ってくる。
――女の子をオッサン臭い布団で寝させる訳にはいかないからな
シーツを変えてついでに軽く周囲を片付けていると、後ろでカタカタッとシャワー室の扉が開く音がした。
「マスター……シャワー、いただきました」
遠慮がちな声がし、振り返ると俺のパジャマの上だけを着たアレッタさんが立っていた。
サイズの大きいパジャマから細い手足が伸び、身体が泳いでいるのを見て、何とも言えない感情が湧き上がってくる。
「あ、ああ……」
「マスター?」
不思議そうに見つめるアレッタさんに、布団を指し示した。
「そうだ、アレッタさんはこの布団で寝てくれ。俺は店で寝るから、安心していい」
俺の言葉を聞いたアレッタさんが、焦ったように言う。
「そんな、マスターこそ疲れているのだし、お布団を使って寝てください! 私は床でだって平気ですから! それにわざわざお店に下りる必要だってないです!」
「いや、でも、若い女の子がこんなおっさんと同じ部屋にいちゃ、落ち着かないし眠れないだろう」
「マスターがお店で寝て私がお布団なんて、それこそ落ち着かないし眠れないです!」
気遣いのできるアレッタさんには耐えられない事なのかもしれないが、こればかりはこちらも譲れない。
と、真っ赤になったアレッタさんがもじもじしながら提案した。
「でしたら、あの、一緒に寝るというのはどうですか……?」
そんなやりとりの後、手早くシャワーを浴びた俺は、なぜか異世界の少女とひとつの布団に背中合わせで寝る事になってしまった。
――せめて、絶対に触れないようにしないと……
果たして今夜 俺は眠る事ができるんだろうかと訝しみながら、すぐ間近に感じるアレッタさんの息遣いを聞く。
規則正しく繰り返されるスウッと息を吸う音とフッと息の漏れる音を邪魔してしまう気がして、息を殺して彼女が眠りに落ちるのを待った。
変な気を起こさないよう、頭を切り替えて明日の事を考えてみる。
――フォンドヴォーを仕込むのに野菜の皮むきを手伝ってもらって、そのお礼としてアレを渡して……
「…………」
アレッタさんが身じろぎし、寝返りでも打ったのだろうかと思った瞬間、温かく柔らかな感触が背中に当たる。
「マスター……」
小さく呼ばれ、彼女もまた眠る事ができずにいたのだと分かった。
「アレッタさん? 眠れないのか? やはり俺がいたんじゃ――」
「マスターはやっぱり、私みたいな子供が相手ではそんな気は起きないですか?」
キュッとパジャマの背中を握る。
「そんな気って――こんなおっさんをからかうのはやめなさい」
「からかってません! 私、マスターの事が好きなんです!」
そう言ってアレッタさんは、想いが溢れてしまったようにすすり泣きながら何度も繰り返した。
「好き――好きです、マスター……マスターが好きです――…」
背中にすがりつくように触れる手が震えているのを感じ、横っ面を殴られたように呆然としてしまう。
――俺は今まで何を見ていたんだ――
真っ直ぐな微笑みは感謝からくるものだと思っていた。
明るく真面目でよく働く、異世界の少女。
雇い主としての立場を逸脱してはいけないと、彼女への好意がこれ以上深くならないように押し留めようとしてきた。
けれどアレッタさんは勇気を振り絞って想いを告げてくれた。その気持ちに応えないのは男の恥だ。
布団から起き上がり、涙を流すアレッタさんの肩に手を置く。
「ありがとう。俺も――俺も、アレッタさんが好きだ」
口に出してみて改めて、こんなにも気持ちを伝える事が恥ずかしく、そして勇気がいる事なのだと気付かされる。
「前に言ってくれただろ――“国や種族を越えて人を笑顔にするマスターの料理は凄い”って。あの言葉、本当に嬉しかったんだ」
照れくさくて鼻の頭を掻く俺に、アレッタさんは泣き笑いで首に腕を回して抱きついた。
首筋の甘い香りと肌の温もり、押し付けられる身体の柔らかな感触に、長い事忘れていた人に触れる喜びが湧いてくる。
「本当は伝えるつもりはなかったんだがな。伝える事で今のままでいられなくなるのが怖かった。七日に一度しか会えないこの機会を、アレッタさんに会える日をなくしたくなかった。アレッタさんは若いし、可愛いから、俺に好かれてるなんて知ったら迷惑だろうと思っていた」
「そんな! 迷惑なはずありません! マスターはとっても素敵です!」
「そ、そうか。ありがとう」
アレッタさんは俺の手を取ると、指先に唇で触れた。
「この手が、魔法みたいに美味しい料理を作って、たくさんの人を笑顔にしているんですね」
愛おしそうに指や手の平に小さなキスをたくさんし、頬を摺り寄せる。
「温かくて、頼もしくて――この手に触れてもらえたらどんなに幸せだろうって、ずっと思っていました……」
深夜。
好意を伝え合い、想いの通じた相手と同じ布団に入ってこんなセリフを言われ、冷静でいられる男がいるだろうか?
心臓が早鐘を打ち始め、出た言葉は微かにかすれていた。
「いいのか? 眠らせてやれなくなるぞ」
いいのか、などと言っておきながら、イヤだと言われてももう止められないだろうと自分でも分かっている。
瞳を潤ませたアレッタさんが微笑んだ。
「マスターになら……何をされても構いません……♡」
そう言って彼女は目を閉じて、顔を上げた。
こんなにも素直に唇を差し出されては、男として応えない訳にはいかない。
そっと顎を持ち上げ、唇を重ねた。
「……ん……♡」
柔らかく温かな感触は瑞々しく、本当にこんなおっさんがキスなんてしてもいいのかと罪悪感さえ覚えてしまう。
しばらくして唇を離すと、幸せそうに微笑んだアレッタさんがクスクスと笑った。
「マスターのお髭、くすぐったい……♡」
「す、すまん」
「いいえ、マスターにキスしてもらえるなんて、私、今とっても幸せです……♡」
その言葉で理性という名のタガに亀裂の入った音がする。
「アレッタさん……次は大人のキスをしようか」
「大人の? それって……?」
「唇を軽く開いて――俺がする通りにしてごらん」
再び重ねた唇から舌を差し込み、口内を優しく舐め回すと、初めは驚いて硬くなっていたアレッタさんも少しずつ舌で応え始めた。
――ヤバい……勃っちまいそうだ……
久方ぶりの深く繋がるキスに身体中の血が悦びで沸き立ち、下半身へと集中していく。
――嘘だろ……思春期のガキじゃあるまいし……
アレッタさんに気持ち悪いと思われないよう、鼻息が荒くならないように気を付けながら舌を絡ませ合っていると、急に彼女がクタリとこちらに身体を預けてきた。
「アレッタさん?」
「ます…たぁ……♡」
軽く乱れた息遣いに、口の端から顎に垂れた唾液の跡。
とろけそうな潤んだ瞳と目が合った瞬間、理性のタガが弾け飛んだ。
「アレッタさん……!」
グイッと布団に彼女を押し倒す。
待っていたかのように、アレッタさんは両腕を伸ばして俺を抱き寄せた。
スベスベとした太ももに触れ、パジャマの裾をたぐると、信じられない事実に気が付く。
「……え?」
――まさか――はいて、ない?
アレッタさんが抱きつく腕にギュッと力を込めて、耳元に囁いた。
「汚しちゃうと思って、下着、着けませんでした」
可愛くて、可愛過ぎて、どうにかなりそうな衝動のままに耳を優しく噛む。
「悪い娘だ」
耳の穴に舌を捻じ込むように舐め回し、太ももの内側の熱さを楽しむように撫で回すと、やがてそわそわとアレッタさんが膝を合わせ始めたので、女性の身体で一番柔らかく繊細な場所へと手を滑り込ませた。
「っああ♡」
柔らかな肉ひだを指で広げると、トロリと熱い愛液がこぼれ落ちる。
触れる度にクチ、クチュ、と水っぽい音を立て、探り当てた膣穴は指先さえ入るのか疑わしいほどに小さい。
「指、入れるぞ」
「はい……んっ♡ マスターの指、太くてゴツゴツしていて――ドキドキします♡」
ゆっくりと挿入した指は一本だけだったが、それでもキツかった。
今夜は挿入までするのは難しいかもしれない、と考えていると、アレッタさんが俺を呼ぶ。
「マスター……私は大丈夫ですから、最後までシてください♡ 私、マスターに気持ちよくなって欲しいんです」
「こら、二人で気持ちよくなれなくちゃ意味ないだろう。それに――」
「それに?」
「ひとを喜ばせる為にこの仕事について、そのおかげでアレッタさんにも出会えたのに、自分ひとり気持ちよくなって満足できるはずないだろ?」
アレッタさんがふふ、と笑う。
「……そうですね。マスターらしいです」
「少しずつ慣らしていこう。指増やすぞ」
「はい♡」
焦るな、と自分に言い聞かせながら彼女の身体中に口づけし、じっくりと膣内を弄ってやる。
やがてアレッタさんは、こらえられないように甘い吐息と喘ぎを漏らし始めた。
「マ、マスター……私、淫魔の血が流れているのでしょうか……?」
「どうしたんだ、急に?」
「だってマスターが触れるだけで凄く幸せで、凄く気持ちいいんです」
それは膣の反応からも分かった。
熱い愛液が後から後から溢れてきて手首にまで伝い、抜かないでほしいとすがるように指を締め付けてくる。
「お願いします、マスター……身体の芯が熱くて、お腹の奥がジンジンしておかしくなりそう……早くマスターの、ください♡」
「本当に大丈夫か?」
こくり、とアレッタさんが頷いた。
前戯に時間かけた為、はち切れそうになっているパジャマと下着を脱ぐ。
ここまでガチガチに勃起したのはどのくらいぶりだろうかと下半身を見下ろした時、大切な事に気が付いた。
――と、そうだ。ゴムがない――…
まさか今夜こんな事になるとは思っていなかったし、恋愛事からも遠ざかって久しい為、避妊具の準備などない。
けれど性欲に負けて相手を傷つけるような事は絶対にしたくないし、もし妊娠するような事があれば責任は取るつもりだ。
「アレッタさん、膣内で射精はしないから、安心してくれ」
「…………はい」
向こうのひとには意味が分からなかったのか、アレッタさんが首を傾げて曖昧に微笑む。
――まあ、俺が気をつければいいだけの話だしな
陰茎にたっぷりと愛液を纏わせ、しっかりと指で慣らした事で口を開けた膣口に亀頭を当てた。
「……アレッタさん、力を抜いて――…」
マスターの身体が迫ったと思うと硬い肉棒がグッと押し込まれ、さっきまで指が入れられていた穴の奥へと挿入されていく。
「ッあ――♡」
――痛い、けど……幸せ――♡
引き裂かれるような痛みは初めのうちだけで、無理させまいと動かずにいてくれるマスターの気遣いに愛しさが止まらない。
初めて見た男のひとの硬く勃起した陰茎は、禍々しい形と大きさがまるで魔物のようで少し怖かったけれど、マスターが私に欲情してくれている証なのだと思うと嬉しいと感じるとともにゾクゾクと不思議な感覚が背筋を震わせた。
その太くて長い欲望の塊が自分を貫き、いつもは頼もしいマスターのオスの顔を見た事があるのは私だけなのだと思うと、胸の奥から喜びが溢れてくる。
「だいぶ馴染んできたみたいだが――アレッタさん、どうだ? まだ痛むか?」
「いいえ、マスター♡ もう平気です♡」
嘘ではなかった。むしろ膣がマスターの形を覚え、早く滅茶苦茶にされたい、子種が欲しいと待ち望んでいた。
「私の身体で、いっぱい気持ちよくなってください♡」
「ああ……一緒に、な」
ゆっくりと腰を動かし始めたマスターの陰茎は、しっかりと時間を置いて馴染ませたせいで引き抜かれる時は膣壁がついていってしまいそうになり、腰を打ち付けられると奥に嵌り込んで子宮を押し上げる。
「マスター♡ マスター♡ 奥好き♡ マスターのが奥に当たるの気持ちいい♡」
「俺も――アレッタさんの中、奥に引き込むようにうねって、痙攣して、気持ちいいっ!」
――生、ヤバい! ――こんなの長く持たないぞ!
必死に腰を振るさまは傍から見たらさぞ滑稽だろうが、久しぶりに感じる、想うひとと肌を重ねてひとつになる悦びに腰が止められない。
「あっ♡ あぅ♡ あんっ♡ んあっ♡」
甘い声を上げるアレッタさんをもっと乱れさせたくて下品に腰をグラインドさせると、突く度に目の前で縦横無尽に揺れる乳房がたまらなく淫らで、ゾクゾクと身体が痺れた。
小さな男のプライドが先にアレッタさんをイカせなくてはと、かろうじて残る理性が膣の外に射精しなければと囁く。
オーガズムに導く為にクリトリスに手を伸ばして愛液纏わせた指先でぷりぷりと弄ると、彼女の腰が浮き、中がギュンと締まった。
「あぁッ!? や――そこ触るのダメです! 腰が勝手に動いちゃう……!」
「良さそうだな」
勃起しきったクリを指二本で挟んで潰しつつ彼女の奥を求めて陰茎を捻じ込むと、その度に部屋にパン、パン、と肌が打ち付けられる音が響き、アレッタさんが耐え切れないようにガクガクと仰け反る。
「気持ちいいっ! おかしくなる♡ もうおかしくなるッ♡ マスター♡ マスタぁッ♡♡♡」
オーガズムの強烈な痙攣と締め付けに導かれ、俺も射精にしそうになるのをすんでのところで堪えた。
なんとか耐え切り、抜く為に身体を離そうとした瞬間、アレッタさんが脚をこちらの腰に回して引き寄せる。
「!? アレッタさん!?」
突然の大好きホールドに戸惑い、焦って声を上げると、彼女は涙をいっぱいに溜めた目で微笑んだ。
「出してください、マスター♡」
「いや、しかし――」
すでに陰茎の半ばまで精液が昇ってきている状態にもう一刻の猶予もなく、少しでも刺激を加えたら爆発しそうだ。
「男のひとは奥に出したがるものだって聞いた事があります♡ きっと気持ちいいですよ♡」
アレッタさんはあろう事か腰に巻き付けた脚に力を入れてグイッと奥まで挿入し直すと、飲み込むような動きで膣を動かし始める。しかも子宮口が亀頭に吸い付いて、離さない。
「出して♡ マスター♡ ビューって奥にいっぱい、精液出して♡」
こんなに可愛いおねだりをされて、断れる男がいるんだろうか?
「中出しをねだるなんて、本当に悪い娘だ」
「悪い娘は嫌いですか?」
「いや――最高に可愛いよ」
ぎちぎちに締め上げていた尿道口を緩めた途端、熱い塊が昇ってきて彼女の奥に目掛けて精液が噴き出し、流し込まれていく。
「ふぅ! ぐううぅッ!!」
我慢し過ぎたせいか久しぶりだからか、射精がなかなか治まらない。
ドク、ドク、と音を立てて胎の奥へと解放する快感に、下半身が溶けそうだ。
「マスター……♡」
アレッタさんに呼ばれて顔を上げると、すがるように頭を掻き抱かれる。
「分かりますか、マスター……私の奥が、マスターに注いでもらえて嬉しいって震えているのが――♡」
「あ、ああ」
やがて出し切って萎えた陰茎が、にゅぽん、と彼女の膣から抜けた。
アレッタさんに抱き締められたまま賢者タイムに突入し、幸せな気持ちと同時に後悔が押し寄せる。
――いくら同意を得ていたとはいえ、性行為が初めての相手に無責任に中出ししてしまった――…
いい大人が、理性を振り切って欲望のままに振る舞ってしまった事実に眩暈がしそうだった。
起き上がり、彼女の手を握る。
「アレッタさん!」
「は、はい」
「もし子供ができたら、ちゃんと責任は取るから! 安心してほしい」
んー、とアレッタさんが考える素振りをした。
「……それって子供ができなかったら、責任は取らないという事ですか?」
「え!? そ、そんな意味では――」
慌てる俺に、彼女はくすりと笑う。
「冗談です。マスターがそんなひとじゃないって分かっていますから。今夜の事は優しいマスターが断れないって知っていて私が無理矢理にした結果です。むしろマスターの方が騙されたと言ってもいいくらいで……」
「そんな訳ないだろう! 責任のある大人として俺がきちんとしなければいけなかったのに――いや、今はこんな事を言っても仕方がないか……」
「……あ」
アレッタさんが急に太ももを押さえるようにして、顔を赤らめた。
「ど、どうした?」
「溢れて――垂れてきてしまいました」
見れば膣穴から白濁液がドロリと垂れ、布団にこぼれ落ちている。
「せっかくマスターに注いでもらったのに……」
残念そうに言うアレッタさんに、慌ててシャワーを浴びてくるように勧めた。
――あれ? マスターがいない……
簡単に身体を流してシャワー室から出ると、部屋には誰もいなかった。
かなり汚してしまった床や布団はマスターが綺麗に拭き取り、シーツも替えてくれたようだ。
どこへ行ったんだろうと思いながら見回していると、食品倉庫にしている部屋の方からマスターが何かを持って入ってくる。
「あ、マスター♡ シャワー終わりました」
「ああ」
マスターは照れくさそうに頭を掻いてから、思い切ったように手にしていたものを差し出した。
「アレッタさん、これをもらってくれるか?」
渡された瓶を見て、思わず歓声を上げてしまう。
「わあ――綺麗!」
ガラス瓶の中には、表面が微かに白っぽく曇った透明感のある緑色のかけらが詰められている。
「これは磨かれる前の宝石ですか? とっても綺麗です!」
「琥珀糖――砂糖でできた菓子だ」
「お菓子!? これ、食べられるんですか!?」
驚きで瓶を明かりに透かすようにうっとりと眺めていると、マスターが今度は鼻の頭を掻いて言った。
「アレッタさんの綺麗な緑色の瞳に似せて、俺が作ってみた」
「ええ? マスターが作ったんですか!?」
「その……アレッタさんに喜んでもらいたくて、な」
「私の――為に?」
マスターが作るお料理を食べると、お腹が満たされるのと同時にぽかぽかするのを感じる。
だけど今、手にある瓶に詰められた宝石のようなお菓子は、マスターが私の為に――マスターが私を想って作ってくれた“特別”で、その事実がどんな財宝を手に入れるより胸の奥を満たしてくれた。
「嬉しい……とっても嬉しいです!」
「よかったよ、喜んでもらえて」
心底ホッとしたように息を吐くマスターが愛おしくてたまらない。
「大好きです、マスター♡ 私を恋人に――ずっと傍にいさせてもらえますか?」
「もちろん」
嬉しくて、思わずマスターの胸に飛び込んだ。
「私、あの時思い切って扉を開けて――マスターに出会えて、本当に幸せです♡ 夢みたい……♡」
マスターは私を抱き締め、照れたように笑う。
「俺もまさか、角の生えた恋人ができるとは夢にも思わなかったよ」
大人なマスターと一生懸命なアレッタはとってもお似合いだと思うのです(*´ω`*)
ちなみに私はシチューにご飯はあり派です!
昔はありえんと思っていましたが、やってみたら美味しかった(≧▽≦)ウマー
味変で、途中で粗挽き胡椒をふるのもオススメです!