学校2日目、授業初日ということもあってか、昨日より教室がにぎやかさを増している。教室前方にはまだ先生が来ていないが、すでに席について談笑する生徒たちの姿もちらほらと見える。
そして、僕の隣の席には――。
「おはよう、荒清くん。昨日はよく眠れた?」
「お、おはよう堀北さん」
軽く微笑む堀北さん。その笑顔に思わず心臓が高鳴る。
「昨日は……その、いろいろとありがとう」
僕は改めてお礼を告げる。
「気にしないで。私は自分がしたいと思ってしただけだから。でもね、もしお礼をしたいって言うなら……」
そう言いながら、堀北さんはふいに視線を外して間を置いた。そして、期待も込めたような口調で続けた。
「私とお昼、一緒に食べてくれないかしら?」
「……え?」
「ダメかしら?」
「う、ううん!全然ダメじゃない!むしろ僕なんかでいいのかなって……」
「荒清くんだからいいのよ」
「そ、そう……なんだ。じゃあ、うん。僕でよければぜひ!」
「ありがとう。それじゃ、今日のお昼に声をかけるわ」
そう言うと、堀北さんは再び前に向き直った。それを見て、僕も慌てて前を見る。しかしつい視線が横に流れ、彼女の横顔をそっと盗み見てしまう。
(やっぱり……堀北さんって……)
昨日から感じていた気持ちが確信に変わる。そして、その確信を改めて心の中でつぶやいた。
(堀北さん、やっぱり……美人だ!)
誰が見ても認めるだろう。そんな美人の隣の席になれた僕は、男として非常に幸運だったと思う。この学校生活が楽しくなる予感をひしひしと感じるのだった。
(これから3年間、楽しく過ごせたらいいな……)
淡い期待を胸に迎えた昼休み。約束通り一緒に昼食をとれることを楽しみにしつつ待っていると――。
「荒清くん、お昼行きましょう」
「うん!行こうか!」
彼女に促され立ち上がり、一緒に教室を出た。そして二人で歩きながら食堂へ向かう途中、その広さと整然とした雰囲気に軽く感嘆する。
「へえ、ここが食堂かあ。学校の中とは思えないくらい広くてきれいだね」
「そうね。衛生面や安全面にも配慮されているから、生徒もよく利用しているわ」
会話しながら食券機へと近づく。堀北さんがふと尋ねた。
「荒清くん、何か食べたいものある?」
「えっと……特にないかな。なので堀北さんにお任せするよ」
「わかったわ」
簡単なやり取りの後、それぞれ料理を選びトレーを手に空いている席を探す。ほどなくして見つけた2席に向かい合う形で座ると、昼食を口に運び始めた。
「美味しいね、堀北さん」
「そうね」
そんな何気ない会話を交わす中、不意に疑問がわいて口をつく。
「ところでさ、どうして僕なんかと? 昨日初めて会ったばかりなのに……誘ってくれて本当に嬉しかったけどさ」
僕の問いに堀北さんは少し考えるような表情を見せ、落ち着いた声で答えた。
「確かに普通はそう思うわよね。でも、それはね……私が荒清くんに興味を持ったから……かしら」
「えっ?」
昨日、堀北さんと話して改めて思った。この人ともっと仲良くなりたい、と。自分から誰かを食事に誘うなんて初めてのことだったから、最初はかなり緊張していた。でも、いざ堀北さんと言葉を交わしてみると、その緊張も自然と消えていった。
堀北さんの言葉を受け取って、胸がじんわり温まるのを感じた。それと同時に心の奥から喜びが湧いてきた。堀北さんが僕を友達として認めてくれた、そんな確信がそこで生まれたんだ。
「ありがとう、堀北さん。僕も堀北さんと仲良くなりたい」
そう伝えると、彼女は優しく微笑んでくれて、「これからよろしくね」と言葉を返してくれた。お互いに自然な笑顔がこぼれる中、僕らはその後も色々なことを話して楽しい昼食の時間を過ごした。
昼食が終わった後、教室に戻るため廊下を歩きながら、気づけばさっきまで一緒だった堀北さんのことを考えていた。美しくて聡明で、どこか気高い雰囲気を纏っている……改めてすごい人だなぁと思わずにはいられない。そんなことをぼんやり思っていた時だった。
ふいに背後から名前が呼ばれ、振り向くとクラスメイトの櫛田さんが立っていた。
「あれ、櫛田さん?どうしたの?」
問いかけると、彼女はなんだか照れくさそうな表情を浮かべ、一瞬視線を逸らしたあと、こちらを見つめ直してニコリと笑った。そしてこう言った。
「荒清くんがいたから、声かけちゃった!」
明るく弾けたような笑顔に思わずドキッとする。そんな動揺を表に出さないように気をつけながら、自然体を装って返事をする。
「そ、そうなんだね。何か僕に用でもあるの?」
彼女は一拍置いてから少し躊躇いがちに言葉を続けた。
「実はね……私と連絡先、交換してもらえない?」
恥ずかしそうに、けれど真剣な目でこちらを伺う櫛田さん。その姿勢に少し焦りながらも答えた。
「いいよ!全然OKだよ!むしろ嬉しいくらい!」
その返事に彼女の顔がパッと明るくなり、とても嬉しそうな笑顔が咲く。
「本当!?よかったぁ!」
そうして僕は櫛田さんと連絡先を交換することになった。彼女が楽しげに手を振りながら去って行くのを見送り、教室へ戻るためにまた歩き出す。そして、自分の席に着きながら今日の出来事を思い返していた。
堀北さんとも距離が縮まったし、クラスメイトの櫛田さんとも繋がれた。これからもっと色んな人と仲良くなれる気がする。そんな未来を想像すると、不思議なくらい自然な笑みが浮かんでしまうのだった。