原作:呪術廻戦
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戦闘描写を書きたいが故の自己満短編なので細かな設定とかはありません。
ポルナレフ=3部戦終着後(全盛期)
ディアボロ=第5部戦終着後(全盛期?)
それは必然、あるいは単なる偶然だったのかもしれない。
神の手遊びとも言える程に、それは突然に訪れた。
「次はどこから襲って⋯⋯ここは?」
死に到達する事すら許されない攻撃、能力を受けたパッショーネのボス、ディアボロであったが、その途中に不思議な変化を感じた。
常日頃に襲ってくる痛みでもなければ死でもないそれに顔を傾げ、周囲を見渡す。
解剖室でもなければ橋の下の下水路でもなく、イタリアの道路ですらない。
夜、街灯、人っ子一人のいない道路に歩道。
"ここ"がどこかを探るのではなく、"ここ"が"どんな場所"なのかを探る為に点として情報を得る。ここがエジプトだろうと、今のディアボロにとっては大した意味を持たないからだ。
無限に死に続け、終わりはない。ならせめてチャンスを得たかもしれない今、それを掴もうと手を伸ばすべきであろう。
「ポルナレフ⋯⋯そうか。試練は流れ出る血を持って行われる。試練とは『過去』だ。過去に打ち勝つ事が、試練に打ち勝つことッ!!」
一心不乱に走り出した。目の前に見えた銀髪に向かってただ、足を動かした。
背中を向けている。ひいては肉体の所々に負傷の跡が見えるではないか。油断大敵、注意散漫、貫手で後ろから肝臓を貫くか、あるいは手刀でその首を跳ねてやるか。
はたまた、過去をなぞるように両足と片目を潰してやるか。
視力を奪った瞳が右目か左目か、当の本人はそんな事も覚えておらず、ただ気持ちが昂る様に体を動かす。
「──らァ!」
右手を貫手の形に手刀⋯⋯右側の首筋を狙い込むような形で風を切る。間違いない、この角度と速度ならば肉に食い込み、切断しうるはずだ。
おお、試練とはこうも容易いものか。一度は打ち破った過去だ。万全といえども、『下』は『下』なのだ。一度は崩れ落ちようとも、勝者は未来永劫に変わる事はない。
「『帝王』はこのディアボロだッ! 依然変わりなくッ!!」
勝利宣言と共に高々と声を上げる。血に濡れたスタンドの右手を埃を振り払うように宙にて振り回し、付着した血液を叩き落とす。しかし、振っても振っても血液が落ちない。何度も、何度でも、何度しても。
まあいい、試練は終えた。少し経てばこの空間からも開放されるはずだ。
「──まだDIOの残党がいやがったか!」
「なっ、は、確かに首を、叩き割ったはず⋯⋯手にも血が⋯⋯」
恐る恐るに右手に視線を移す。スタンドの方ではなく、本体である自分の右手だ。そこには問題なく同様に血液が付着していた。
──おかしい。スタンドで攻撃したのだから返り血はスタンドにのみ付着するはず。という事はこの手に着いている⋯⋯否。これは自分の右手から噴出している、己の物だ。
すんでのところで手刀を刃で弾かれたのだ。
「ごちゃごちゃうるせェ! くたばりッやがれ!」
瞬間、ポルナレフの声と共に金属類が弾かれたような音が鳴る。
短いながらも耳朶を打つ衝突音。否、その『抜刀』の音をディアボロは確かに
男としては似つかわしくないピンク色の長髪、その前髪が風になびくようにヒラヒラと蠢く。
あるいはそれは不自然に、まるで意図的に覆い隠すようにディアボロの視線に並び立っている。
未来を観測する第三の瞳。キング・クリムゾンの能力の一部である『エピタフ』によって音の正体を視たのだ。
戦いの前の兆し。あるいは戦いの火蓋を文字通りに切るように、細く長い刃──レイピアを回転させ、空を切らせて音を鳴らす。
その音はディアボロが鼓膜に拾った金属音が弾かれる音と同様の物であり、その正体はソニックブームを生むほどの素早さで解き放たれるシルバー・チャリオッツの刺突だった。
しかし、何度も言うようにディアボロがエピタフで視たのは金属類が弾かれる『だけ』の音だ。実際に回転させ、音を鳴らしているのは見た訳ではない。
過去にポルナレフに正体が見破られ、対峙した時にその予備動作を見ていたが故に予測、推測から分かっただけのもの。
されど、その刺突は着実にディアボロの額へと突き進む。が、
『──キング・クリムゾンッ!』
空が裂け、大地はヒビ割れと共に消失。
"刺突によって額を貫かれ、出血と共に死ぬ"といった本来起こりうる未来が能力の発動によって変化する。
キング・クリムゾンの発動中に限り、数十秒の現在、あるいは未来、そのどれもがディアボロの掌の上となる。
能力発動中、ディアボロは数十秒の間だけ自由に動き、自分にとって都合の悪いシナリオを除く事ができる。
それはいわば、テレビのスキップ機能のような物であり──、
「再びッ! 崩れ落ちろォォォォオオ! ウラァァァ!」
再始動する時の流れと共に、ポルナレフの背後へと現れるディアボロ。
放たれた刺突は空振り、ポルナレフ視点では目の前の敵が突如といなくなる形となる。
実際は時を消し飛ばし、その最中で背後に回り込んだだけではあるが、重要なのは『どう見えたか』ではない。
現状、ポルナレフが死角を取られ、今度は貫手などという甘い攻撃ではなく、強く握られた右拳がポルナレフの心臓を狙い定めているということ。
厳密には攻撃は既に放たれ、通常では振り返る事は愚か、回避すら行う事はできない。
故にディアボロは確信した。己の勝利、試練の看破を。
右拳が背中の左側、心臓の真裏部分に触れる。指、手首、腕にかけて衝撃が伝わり、命中の意をディアボロへと伝える。
勝利の匂いが色強くディアボロの嗅覚を刺激させる。
打撃と共に全身の力が抜け、最適な体制で攻撃は続行されるが──。
「は、キング──」
手応えの消失。目標の姿が見当たらず、打撃は空振り。
僅かでも隙を無くし、更なる追撃に備えるために能力発動を試みるが、
「──しッ!」
「ぐふ⋯⋯ム、ゾン」
背後をとったにも拘わらず、シルバー・チャリオッツの攻撃は同様に背後から放たれていた。
真っ直ぐに放たれた直線の刺突。着弾の瞬間、首筋を抉り取るように高速で振動する刃。
うなじから貫通し、喉仏から顔を出すレイピアの穂先には生物の体を貫いたと思えるほどの血液の付着が存在しない。
そのレイピアは水分を、あるいは炎を弾く特殊な性質であるから故だ。しかし、今のディアボロにとってそのような情報はどうでもいい。
重要なのは少しでも能力発動が遅れていたらバックリと喉を裂かれていたという事だろう。
「カス、が⋯⋯一旦、離れ、なくては」
ゆっくりと前へ歩く事によって突き刺さっている刃の手から抜け出し、貫通した事によって空いたその穴から垂れ流れる血液を手で抑える。
もっとも、時を消し飛ばしている最中では自分の血液、それを止血する手段はない。
時飛ばしを終えた直後、その時に少しでも血を残さぬよう、隠密の意味でも自然と手が伸びた結果だ。
ともあれ、キング・クリムゾンで消し飛ばせる秒数は最大で数十秒。
下水路に繋がっているマンホールか、或いは道端に放置されている車か。
能力発動中ではその明確な位置は愚か、地形があるか否かすら分からない。
ここにおいて時飛ばしの弱点である『地形の視認』が逃亡の隔たりとなって邪魔している訳だ。
「くっ、時よ! 再始動しろ!」
5秒の消し飛ばしを元に歩いた飛距離、僅か12歩。
短いながらも稼いだ距離は依然、シルバー・チャリオッツの射程距離から逃れられていない。が、
「
銀色の甲冑を街灯の光に輝かせて、刃を振るうべくその身を前方へと走らせる。
同時に声を上げるはキング・クリムゾンであり、その時飛ばしの能力は変わらず、使用可能のままである。
──時飛ばしの最大秒数は多く見積って15秒。ゲームで言うところ、キング・クリムゾンの能力は回数制ではなくゲージ制。つまるところ残り10秒の時飛ばしを行える。
「ッら!」
瞬間、背後に出していたスタンドによって地面を蹴り飛ばす。
左足に力を込め、発勁のような形で発せられた衝撃はスタンドを強く、上空へと跳躍させる。スタンドの射程距離に釣られ、本体であるディアボロもまた、飛び上がるスタンドと共に宙を舞う。
シルバー・チャリオッツの刃が届くまで、追撃が放たれるまでおよそ3秒の猶予。エジプトの路地裏街、そこに並び立つアパートの数々で1部屋だけ鍵をかけず、ベランダをがら空きにしていた個室があった。
ディアボロにとって鍵があるかどうかはどうでもよかったものの、人がいない可能性が高ければ高いほどに優位を取れるといったところだろう。
「くたばりやがれェ!」
ベランダから見て地面である部分へと指をかける瞬間、鞭のようにしなり、鋭く肉をこ削ぎ落とす一撃が放たれる。
そのまま行けば間違いなくディアボロの背中をぐちゃぐちゃに破壊していたが──、
「キング・クリムゾン!」
3度目の時飛ばし。持続可能秒数は余裕を持っての10秒だ。
能力発動中、意味を無くすが故に喉を抑えていた片方の手も空く。
ポルナレフ視点ではベランダへ逃亡しようと、あるいは迎え撃とうとしているように見えるのだろう。しかし、ディアボロは敵前逃亡などという醜い事は決して行わない。
重要なのは『結果』であり、その過程は大切ではない事をディアボロは知っている。どのような行いをし、どんな状況に陥ったとしても最後に丸く収まれば、自分にとって都合よく終えればなんら問題ないと、そう思っている。
その反面、心から溢れ出す感情に嘘をつけない。圧倒的な闘争心⋯⋯目の前にいる敵を殺したいと思う狩猟心。
運命などという陳腐な物が存在し、こうしてまた、忌々しい敵と合わせているのならば望むところだ。
「『キング・クリムゾン』の能力の中ではこの世の時間は消し飛び⋯⋯そして全ての人間はこの時間の中で動いた足跡を覚えていないッ!」
流れ出る時間が濃密な程に肉体の鼓動を突き動かす。
ゆったりとした空間の動きがディアボロの体を包み込み、その動きに逆らうようにして歩を歩ませる。
ベランダの地面部分を掴んでいた左手を離し、全身から力を抜いて地面へと着地する。
あるいは消し飛ばされている時の中ではそれは地面と言えないのかもしれない。しかし、確実に地に足をつけたのだ。
『空の雲はちぎれ飛んだ事に気づかず! 燃えた炎は消えた瞬間を炎自身さえ認識しない!』
ゆっくりと振り返り、ポルナレフの方向を見る。残された時間は6秒前後と言った所だろう。しかし、焦らずにゆっくりと時間をかけて振り向き、枝に擬態した昆虫を逃さぬように観察するかのように、動きを最小限にして目の前の敵を、一人の男を目に入れる。
「『結果』だけだ!! この世には『結果』だけが残る!! 時間の消し飛んだ世界では『動き』は全て無意味となるのだッ!」
よく見れば目の前の男⋯⋯ポルナレフが放った攻撃はあのままでは確実に自分の心臓を潰していたであろう軌道を描いているではないか。
残り3秒とちょっと。一歩、また一歩とポルナレフの方へと歩き、その動きをじっくりと瞳に入れ、脳に焼き付ける。
それに付け加え、攻撃こそ尖鋭ながらも、その顔に浮かべる表情は酷く焦っている物だ。まるで、何者との戦闘に終えた直後に、残党が残っていた時のような驚きの表情だ。
あるいは目の前の敵を倒す事だけに集中し、その体を酷使しているかのような、酷く疲労しているような表情だ。
「そしてこの私だけがこの『動き』に対応できる!!お前がどう『動く』か、全て見えるッ! これがキング・クリムゾンの『能力』だッ!」
残り1秒。ディアボロは心の中で思った。勝利を掴むのは常に『挑戦者』であると。
過去の行いで戦う事となった自分の失態を、あるいは日常の中から飛び出してきた弾丸に対して背を向けること、それ即ち『逃走者』なのだ。
試練には必ず、犠牲者が伴い、その結果で勝者が決まるのだ。
ディアボロよ、試練へ挑戦し、打ち勝つのだ。
「時よ再始動しろォォ! そしてッ! 今一度! 地獄へ堕ちろ!」
今度は背後からではなく前方からの攻撃だ。しかし、今までのようにただ惚けて立ちながら、攻撃を放つだけではない。
斬撃を解き放つシルバー・チャリオッツに視界を遮られているポルナレフの足元に隠れるよう、しゃがみこみながらの攻撃だ。
突如と目の前から敵が消えれば、先刻のように背後にいると予想がつくだろう。
故にこの死角を利用し、無防備なポルナレフの腹を搔っ捌く。
貫手を突き刺し、貫通した肉体を縦に引き裂いてやろう。
「──らァァ!」
ずぶり。今度こそ貫手が命中した。手に広がる温もりと地面に垂れ落ちる液体の音。
骨の間を通り抜けた際の手に感じる空洞な感触⋯⋯今度こそ攻撃は直撃した。
手の感触からして位置は腸より若干の下。このまま上へと腕を振るえば確実に殺せる。力を入れ、いざ引き裂かんばかりに──。
「──ぶ、ふぅ、ぁ」
右脇腹から感じる刃物の冷たさ。体から漏れ出す温もりの正体は血液、そしてその原因は刃による切断だろう。
ディアボロはこの時、時飛ばしの力を過信してエピタフを扱っておらず、この未来を視る事ができなかった。
勝利を確信してしまったが故の失態。敗北とは常に、己のミスによって招かれる物だ。
「甲冑を外したスタンドッ! シルバー・チャリオッツ!」
「がふ、貴様ぁ!!!」
右手で脇腹を抑え、痛みを耐えながら即座に上を見る。
どうやら自分は激痛に耐え兼ね、膝から崩れ落ちたらしい。
歪んだ視界のせいか否か、そこには数体にも増えたシルバー・チャリオッツの姿があった。
そして心做しか、ポルナレフの手首から血液が滴っているように見えて、
「時を操る力、か。やっぱし、DIOの残党だな。やれ、俺もそう鬼じゃねぇからな。一思いに一閃だ」
どうやらこの男は自分の能力をその一片でも把握してしまったらしい。
頭の片隅で覚えていたものの、確かにこの男は血液の流れによって自分を陥れかけた事があった。
それは車椅子が生活に必要となるほどの肉体欠損であってさえも、闘争心を失わぬ強者の精神で、
「キング・クリム──」
「チャリオッツ!」
決して挫ける事のない『鋼の精神』である事を頭に据えながら、いつの日かまた、訪れるチャンスを前に。
「カ、スが」
宙に浮かぶ感覚と共に目に入る首なしの胴体。それが自分の体だと遅くながらも知って、紅の悪魔はループから外れたのだった。