××月01日
朝。
観測対象である早瀬ユウカは不機嫌だった。
彼女は嘘がつけない分かりやすい性格をしている。
それは明らかに私に話を聞いて欲しいことがあるような態度だった。
「どうしたの、ユウカちゃん?」
「聞いてよ、ノア。私、今日、シャーレの当番なの」
「そうなんですね。でも、それが何か問題でも?」
もちろん、私は彼女のスケジュールを全て把握している。
そして、彼女が不機嫌な理由まで予測はついているのだが、私は話の聞き役に回る。
「問題も問題!問題大有りよ!あの先生ったら……」
「先生がどうかしたの?」
「いつも私のことを……舐め回すように見てくるの! セクハラが過ぎるわ」
「気のせい……ってことはないんですか?」
私の言葉を受け、早瀬ユウカは「やれやれ」といったポーズをとる。
「私も最初はそう思ったのよ……。でも、明らかに勘違いではなかったわ!」
少し呼吸を整えて、早瀬ユウカは改めて語り始める。
「時々……いや、かなりの頻度で、私の胸やお尻、太ももあたりで視線が止まることがあるのよ。もしかしてたまたまかな、私が意識過剰なだけかもしれない。何回もそう思おうとした。けれど、やっぱり違った! 先日、当番の時に先生は……私のスカートの中をじーっと見ていたのよ」
「そんな……」
私は驚いたふりをして目を丸くしてみせる。
すでに私は、先生と早瀬ユウカのやり取りも遠隔ドローンによってリアルタイムで監視していた。
「私がシャーレのデスクで一緒に書類チェックしてる時、向かいのデスク辺りで先生が書類を落としたようなの。拾うためにかがんだ、そこまではいいんだけど……。拾い終わってもなかなか立ち上がる様子がない。おかしいと思ったら、ちょうど私の足元が見える位置で、こちらを見ていたのよ」
「それは完全に黒ですね……」
「えっ!? 何でその時に履いていた私の下着の色を知っているの!?」
「え……?」
これは私も想定していなかった発言だった。
私は毎日、早瀬ユウカがどんな下着を着用しているかも記録しているが、まさか彼女自身から暴露してくるなんて。
恥ずかしがり屋の彼女においては非常に稀有な機会だ。
「あ……!違う違う!」
早瀬ユウカは顔を真っ赤にして、両手で顔を覆った。
まるで熱があるかのように。
彼女の反応はいつ見ても面白く、観測対象としては優秀だ。
「えーっと……ノア。今のは忘れて。お願いだから……」
「善処します」
早瀬ユウカも私の完全記憶のことを知っている。
それでもなお『忘れてくれ』などという発言……よっぽど焦っていると言わざるを得ない。
「とにかく、あの先生の視線は本当にねちっこいの!ねっちょり、べったり、まとわりつくような視線で、もう全身の毛穴がざわつく感じなのよ」
「本当に困りものですね」
「もし直接的なことをしてきたら、訴えてやるんだから!」
恥ずかしさからか怒りからか分からない血圧上昇っぷりで、熱弁を続けていた。
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