※この作品はR-18です。

君は湊友希那。   作:美肉。

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(後半)一日一緒。

 彼の起床は唐突だった。

 何か浮き上がるという心地ではなかった。彼の意識は、彼が眠っていることをわけもなく叱るように勢いよく浸透し眠気など吹き飛ばした。

 叱られる相手は友希那がいい……。

 起床して直後、最初に浮かぶ思考に彼は自ら苦笑した。

 まだ寝ていたいという心地は皆無だった。やりづらい瞼を数回震わせて身体を起こし、彼は周囲を見渡した。

 いったい、どれほどの時間眠っていたのだろう。

 現在、このリビングの壁掛け時計は昼を過ぎたところを示しているが、眠りに入った時間がわからないため睡眠時間もわからない。けれど深く、長く眠っていたわけではないらしい。時間もそうだが、窓から差し込む陽光も、周囲の雰囲気もまだまだ日中で、彼はそんなところにひとつ安心する。

 ちょっと休憩するつもりがしっかり寝てしまうなんて嫌だった。だって、せっかく友希那と一日を全て共有できるのだから、これほど密着して、それで許されているのだからその間の時間はできるだけ起きていたいし、友希那を体験しておきたい。

 彼は上体を起こして左を視た。この布団の上、もちろん友希那が近くに居る。彼という男のすぐ隣で歌姫は眠り姫へ至り、脱力した顔を披露してくれている。

 彼は次にリビング室内を見渡した。そこでひとつ異変を視た。

 それは布団から少し離れた位置、テーブルにあった。眠る前、というより口での触れ合いの前に、男女で脱ぎ捨てた衣類が全てたたまれて置かれている。さらに、散らかっていた周囲のものがある程度片付けられており、そういえば友希那は下着姿、それに、被さっていたこの毛布だって、眠る前に持ち出した記憶がない。

 二人で共に寝たつもりだったが友希那は密かに起きており、寝息を立てる彼の横でいそいそと清掃した。その後、少々疲労を感じる友希那は彼の隣にきちんと戻り、改めて眠った。だが瞼を閉じる寸前に彼の毛布が乱れているこを視て素手を差し出し、しっかりと手直してやる。

 まだまだ眠る友希那を横に、彼は自分が眠った後の友希那について妄想してみた。全ての行動は恋人の睡眠を邪魔せぬように慎重に行われ、それらは完遂した。

 母が密かに行った気遣いに男児として気付く時、その瞬間ほど、胸元が温かく潤む体験は他にない。

 彼はもう一度身体をベッドに落とした。友希那の横の位置に埋め、それから友希那の顔を観察しはじめた。

 本当に、穏やかに眠っている。

 きっとこのまま起こさずにいれば夜に目を覚ますだろう。そうして食事を取り、深夜、眠れずに困惑するという生活を彼は独りの時、いくつか経験した。それは昼夜逆転の危機であり、もちろん彼は友希那をそんなものに誘わない。だがこのまますぐに肩に触れ、起こしてしまうこともしない。

 今、この場には男の自由が敷かれている。それを楽しまない彼ではない。

 男だけが起床し、女は眠ったまま。それはつまりチャンスだった。彼は友希那の隣にさらに身体を進め、鼻先が触れるほど近くで眠り姫の顔を観察してみる。友希那の瞼はそれでも動かない。彼は友希那の顔の中で彼女の眉やまつ毛をじっと視た。形や本数を正確に視線で舐め取った。それでも友希那は目覚めなかった。そんなことが可笑しくて彼は口元を緩ませ、そしてそんな美形を前に、いくつかの友希那の顔を思い出してみる。

 たとえばライブの最中のあの勇ましさを思い出してみる。

 あんな血湧き肉躍る様子は、今の友希那の顔にはもちろん香っていない。

 また、性に乱れた様子を思い出してみる。

 それは音楽の最中ともまた異なる高揚が頬一面によく染みており、美しい顔面は美しいまま荒れ果てる。一度、絶頂をすると勢いを失い、気力を突き放してぼうっとする。

 ぼうっとしている友希那といえば、彼はそれを早朝によく視る。

 けれど、性の後の放心と起床直後の放心は全くの別物で、前者の目元には淫靡な色が浮く。それは同じく頂に達し、一度終息した男をままだだ狙っている態度であり、実際、彼はそれから何度も食べられてしまう。起床直後の友希那の頬にそのような熱気はもちろんない。ただぼうっと、髪も少しぼさぼさして、ただ風に揺れる花弁のように安らかにある。

 そして、就寝時の友希那。

 その友希那にはどんな生気も窺えない。寝息は立てているのだろうが、そういうものさえ、こうして頬に接近しなければ詳しくわからない。

 友希那は頬や口角で描くことができるあらゆる表現を喪失し、意識はここではない場所にある。

 そんな無防備な、だらしない姿を友希那は彼の横で披露している。表情を、顔を、身体そのものを彼の横で放棄している。それはひとつ信頼している証拠なのかもしれないが、今、友希那に対し卑しさを持ち出す彼に信頼で涙ぐむだけの余裕はなかった。

「ママ、可愛い……」

 呟いてみるが、それで友希那が起床することはない。

「ママ、愛してる」

 それから密かに告白をしてみると、もちろん友希那は起床しない。

「ママ愛してる。ゆきな、ママ、好きだよ……」

 本人が訊いていないところで飾り気のない言葉を使う。彼が想定していた以上に、その行為には快感がある。

 また彼の胸の位置に、何か湿った熱気がひとつ咲く。

「友希那、えっちしよ……」

 そうだ、寝ている間に仕込んでおこうか。

 眠りから覚めた男児は次に雄になる。

 彼はまず、毛布を優しく暴いて友希那を見渡した。現在友希那が着衣している下着とは白色の簡素なものであり、装飾はほぼなく、けれど布面積が極端に狭いという仕様でもない。最低限の布が用意されており、隠すべき箇所をしっかり守っている。

 また、友希那はそういう装いで仰向けにある。

 彼が眠る直前まで、友希那は男児に寄り添い男児を包むような体勢にあった。しかし今は異なっており、きっといくつか寝返りをした。そのため今の友希那は仰向けというか、この布団の上に身体の背面をどっしり落とし、逆に胸元や腹部を真上に開けている。

 下着によって乳房も股間もしっかり隠れているのだがその下着の色に近しい肌色もまた広く披露されている。

 ああこんなもの、男児として何もしないほうが不可能だった。彼は友希那の様子を確認した後、自らの身体を音を立てぬように慎重にするすると寄越し、友希那の太腿と太腿の間、股の近くに位置した。

 正座のような体勢になり彼は両手を伸ばした。指先が向かう先とは友希那の下着、そのショーツであり、人差し指がそれぞれゴム部分を摘まむ。彼はふと額を上げた。布団の上で友希那は眠っている。今、彼が密やかにショーツを脱がし、その先の事情について知見を得ようとしていることなどママは知らない。

 肌肉からゴム部分が浮き、慎重に、引き剥がすように彼はショーツを下げてみる。

 するとすぐに、何か繁茂したものと対面することになる。つまり友希那の股間そのものであり、入り口を飾るように陰毛がある。

 彼は生々しい友希那の肉に鼻頭を近づけた。

 具体的に彼が狙っている箇所とは友希那の子宮だった。

 この股間、今は下着によって閉ざされている入り口から進んで、さらに奥、下腹部の位置に潜む友希那最大の母性、女性という生物の根幹こそが子宮であり、そこには究極の母性がある。

 全ての男は好きな女性のその部分にいつでも帰りたいと思っている。

 この布団の上、彼は大股を造る友希那に差し込み、腹の部分の子宮が位置するその箇所をじっと視た。肌の上か、肉の上から視線だけで子宮を愛撫してみたい。ぐいぐいと熱烈に押し入って、子宮のにおいが鼻まで届いてほしい。

「あなた……」

 そうして数度、友希那の腹に顔を押し付けているとそれだけで友希那は目覚めたようだった。

 だが彼は友希那の子宮に向かうことをやめなかった。まるでまだ友希那は目覚めていない、気づかれていないという態度で顔面を揺らした。

「ねぇ、ちょっと」

 自分が何か後ろめたいことをしている自覚はあった。

 だって、眠っている相手に悪戯を仕掛けるだなんて人としておかしい。叱責されてしまうかもしれない。だが彼は我慢など不可能だった。鼻腔では吸音を続けており、友希那からなめらかな甘いものが流れてくる。そしめ友希那の肌から友希那の子宮のにおいを吊り上げた後、彼は顔を上げ、すぐに友希那を目と目を通わせる。

「おはよう」

 彼は何も知らぬという顔をした。そして思い出し、「いいにおいだった」などとほほ笑んでおく。

「まったく……」

 友希那は小さく呟いた後、少し浮かばせた首を布団にまた落とした。

 

 布団の上で身体を手放したことを彼は友希那からの許諾だと解釈した。

 それを貰った男はもう遠慮なんてしない。脱ぎかけだったショーツを完全に下ろし、隅に放置する。それですぐ屹立したものを取り出すのではなく、彼はまた膣口に向かって身体を落とし、顔そのもので向かってゆく。

 先ほど嗅覚で母性を探し当てようとしたこととほぼ同じで、その舌先はさっそく友希那の敏感な部分を弾いてみる。瞬時に友希那が反応してくれる。それは男としては嬉しいことだった。自分のちょっとした努力が、女体の中ではなんのきっかけにも成り果てていないことほど無気力を誘うこともない。口と入り口の孔の距離をより狭め、さらに舌で形をなぞってみると友希那は甘く肩を揺らす。

 細い女体はのけ反りながら甘い息を漏らしている。彼の舌先とそれから唇は女の入り口に触れている。彼は友希那を無視するようにさらにさらに口先を股の柔らかい奥へ差し込んだ。何度も何度も往復し、その形をなぞり上げていった。

「待って、あなたっ……」

 やんちゃな男児はむしろ母親が困る際の声を楽しんでいる。唇を突き合わせ、蕾の部分を丸ごと啜るように迫ってみるとまた友希那は不規則に揺れてくれる。そういう姿が美しい。垂れ出る蜜にも深みが増し、いよいよ最高潮といったところで彼は友希那から顔を上げた。

 それまで続いた不埒な歌が止まり、布団の上、すっかり汗を散らす友希那のほうが困惑している。

「どうして……」

 友希那の細い声を聞き、彼は何も合図せず泉に戻った。柔肉に寄り添い、普段、唇同士でそうするように激突してみると、一度引いたはずの熱気が友希那の中で再発する。

「ああっ……」

 破裂寸前というところで彼はまた顔を外した。友希那は突き飛ばされたかのようにがくがくと腰を震わせ、また彼に目配せをする。

 その混乱した眉が彼を愉快にさせている。

 指先を孔に落とし、湿り気の具合を視て彼はいよいよ自分のものを持ち出した。友希那も満身創痍にあるが彼だって限界で、その猛烈な欲望は汗ばんだ女体に対し強く露出する。

 布団の上、高尚な歌姫は二度のお預けにより細部までしとどに出来上がっており、その股部分を男が占領できる。

 友希那の顔の左右に手を置き、足を広げて細身を覆う。友希那は大きく呼吸をするだけで、彼は股間を落下させてゆく。

「んっ――」

 この絶景に辿り着くこと、それをいったい何人が、夢にみて妄想したのか彼は知らない。けれどとにかく、彼は自分が男としてこの絶景に行き着き、それでも飽き足らず恵みを求めること、さらにそれを許されていることに満足し、彼は友希那へ取り掛かる。

 十分に緩んだ友希那は彼の硬さを簡単に受け入れる。彼はそういった友希那について最初は慎重に探り、だが問題ないなと判断するとその途端、男児は勢いよく友希那に滑り込む。

 それは友希那という布団に寝そべるような心地だった。しかし、股間の部分はいかにも雄と雌らしく結合している。膣が明確に拓かれて、その奥に彼の先端が到着する。密度に関しては少しも余裕がなく、たるんでおらず、妃はいつでも厳しいまま雄を認めてくれる。

 また彼の竿が最後まで収納されると、布団の上で友希那の身体は何か広がってゆく。

 それは希少な骨董品を包んだ布が結びをほどかれ、四方に伸びてゆくような光景だった。

 擦り付けるように動いてみると、友希那のほうもそれに従うように体躯を少しくねらせてくる。胎内では連続する肉ひだが彼を押し、また受け入れてくれる。

 友希那は母親として彼のことを世話するのだが、こうして挿入したひと時のみ、そんな立場だって覆される。

 今日という日のこれまでは、基本的に友希那がママだった。つまり彼とは世話をされる側であり、生き物としては、ただ友希那に保護される弱いものでしかない。しかしこの瞬間、こうして男女で裸になって、秘密の部分を突き合わせ、まさか肉体的に結合を果たす。するとどうだろう。布団の上に敷かれるのはあの友希那のほうで、彼だって自身の本来の立ち位置を理解する。つまり自分とは、男児などではなく、子ではなく男であり、友希那を姦通してもいい。

 布団の上、のけ反るように首を廻し、すると鎖骨や肩の部分が浮き立ち、頬周辺にはへばり付いた髪型がある。

 それの、なんと淫らなことか。今まで懸命な母親だったあの友希那が、たった少し挿入を許した、それだけで雌に変貌するなんて。

 ある意味で目覚めだった。自身の力をまだ知らない男児が、実は自分とは母よりすっかり力が強く、しようと思えば友希那など組み敷くことができる。もちろん、今のこのまぐあいの中にそうした凌辱じみた気配はないが、朝、起こしてもらったり、歯磨きや食事の面倒をみてもらった彼女が、竿で頬を赤らめ、腰をずらすとそれだけで、喉から雅な声を出す。

 運動の中で彼の先端はより研ぎ澄まされ、その熱は友希那の内部の弱い部分をじわじわ責めてゆく。友希那の肌色の波の中を圧して泳いでいる。どこか秘密の部分にある友希那だけをひたすら目指している。

 この友希那はすでに籠絡寸前だが、堕ちるのなら二人同時に、互いを意識し互いの内部に溺れてしまいたい。胸元から、瞳の中へ、視線を送ってみると切羽詰まった友希那も同様に求めてくれる。二人は何を交わすこともなく、まず口を押し付け合い、互いに背を丸めて高め合う。

 もはや、他に気配りをすることもない。女体はすでに貫かれており、突き進む男が場を支配する。男児だのママだのよく彼は所望するが、股間に組み上がるものはいつだって相応な雄であり、いつだって、友希那を狙って我慢を知らない。

 その瞬間、友希那もまた真の薔薇園へ旅立つことを経験する。

 動きを失くした彼はそれから、散りゆく花弁のように友希那へ着地し、息切れを起こす友希那もまた、汗ばんだ彼を包容した。

 

 眠る前、あれだけ口で戯れたのだから次はめいっぱい繋がりたい。

 そして今度は少し荒々しく、後ろからまぐわってみたい。

 枯れゆく陽光は橙色としてこのリビング室内にも差し込んでいる。色彩は布団の上に及び、寝具が湿っていることを教えてくれる。

 今、全裸の友希那は四つん這いのまま彼に尻を向けている。長い髪を右側に避け、すると尻から背筋、うなじまでの流れがよくわかる。彼は友希那の臀部を左右から握って腰を突き出した。亀頭は友希の奥まった不思議な泉をしかと捕えており、その正体を調べるかのようにすみやかにめり込んでゆく。

 胎内にて肉がうねっている。友希那のひだは恐ろしいほどに彼を食み、負かそうとしてくるのだが彼だって、そこに甘えるようなことはない。腰そのもので友希那の尻肉を軽く押し退け、温かい広場に雄で到着する。その結合は確かなもので、今まさに二人、共に満ちている。

 彼は、この背後から友希那に向かう体勢だと普段よりいくらか勇敢になる。だって、どんな男も愛する女の弱った姿を視てみたい。

 つまり、友希那を虐げたい。友希那を敷いてみたい。

 そんな下衆な欲求が真に彼を突き動かす。友希那の後端、二本の美脚のその内側、股の中にて彼は動いた。それは腰を振る、というより上向きに突き出すような動作であり、たった一度の駆動で友希那の背に新しい波が浮く。もうもうと舞う友希那の吐息が色濃く育つ。あの眩しい首筋がくたりと下に向く。毛髪もいくつか落下するように付き添って色香になる。

「可愛い、友希那……」

 得意の腰振りを友希那に披露する中で、彼は、人の身体とは楽器なのだと思う。

 今、四つん這いにある友希那の肉体はきっちり整っている。彼は日常の中でそんな友希那のあらゆる部位をじろじろ眺めて発情するのだが、竿が赴く箇所は毎回異なる。たとえばうなじの造りを追ってみたり、脇のへこみをみつめてみたり、腕の細さと足の細さをそれぞれ確かめてみたくなる。

 臀部には間違いのない魅力がある。腹の柔らかさを想っているとふと、そのすぐ上に備わる乳房に甘えてみたくなる。首筋は大好きで、肩の動きについても知っておきたい。

 このように、友希那の身体にはその部位ごとに違った味わいがあるのだが、全ての部位に違う楽しみ方がある。ただ単純に素手で触れたり、突いたり、嗅ぐだけではその部位の魅力を十分に楽しめない。いうならば特別な技術が必須であり、部位ごとに弱点があり、状況ごとにやり方がある。そうした複雑性、専門性を常に伴うこの仕組みについて、あのバイオリンやチェロ、ピアノといったクラシック系の楽器を連想しないことはない。

 彼はそんな貴重な友希那にもうたまらなくなって、しっかり挿入を続けたまま、その背中に自らの身体を折り重ねて動き続ける。

「んあっ――」

 温かい、なめらかな雌の肌色と男体が触れ合っている。ひとつ、ひとつと突き上げる度に柔らかい輪郭が震え、流れゆく髪型が少しずつ変化する。彼は後方から腕を伸ばし友希那の腹を抱き寄せた。それで膣を擦り上げると友希那の背が反り、けれど男の束縛はその程度で妃を許さない。

「友希那、友希那……」

 腰の動きが友希那を追い詰めている。彼の肩幅が、そのすぐ下の、姫君の狭い肩幅を覆い尽くしてへばり付いている。熱気の中に湿度が浮いて、その湿度もまた塗り替えてゆくように、男女はむわむわと盛り上がる。

 女の身体がクラシックな楽器であるというのなら、こんな男の肉体はロックシーンにの楽器のように思える。

 何か丈夫というか、荒々しく使うことが前提にある。気品というより力強さが印象として先行し、なんとなく、どこを叩いても大きな音が帰ってきそう。その太ましい存在感というか態度は、ロックを連想させる。

 素晴らしい演奏には素晴らしい演奏技術が必須である。それを磨くこと、また鍛錬の汗とは音楽家として美しいことである。二人の演奏はいよいよ最終局面に向かってゆく。やはりそちらへ最初に駆け出したのも男のほうで、彼の突き刺さる腰遣いに友希那だって熱を滾らせる。

 やがて訪れるフィナーレをより素晴らしいものに仕上げたい。男女の気持ちは相手の肉体を高め合い、やがて濃厚な絶頂に連れてゆく。

 その刹那、二人の中から動作が溶け消えた。

 彼は友希那へ腰をぴったり押し込みながら、友希那は彼の肩幅の中で、吐息を漏らしながら痙攣する。胎内では雄の先端と雌の真の入り口部分が密着し、彼は注入を続けている。

「ううう……」

 長い、長い射精だった。

 同時絶頂により完全にゆき果て、友希那は男体の下、潰されかけているような体勢ですっかりくたびれているのだが、彼は今までの交差で仕立て上げたものたちを一気に友希那へ排泄したい。友希那を抱き締める腕が引き締まり、男女は下半身で逢う。

 ママ、まだ待って、待ってて……。

 そんな、駄々をこねるような勢いで彼は友希那の背に頬ずりをする。ここぞとばかりに甘えたがりな気質を剥き出しに、それで腰をくいくいと狭め、広場に向かって飛沫を漏らす。

 弱っているから、どうしようもないからこのママに、友希那に受け入れてもらおうとする。

 彼は友希那が大好きだし、尊重もしたいのだが、今だけはそういう気遣いよりも、自分の射精の事情を優先したい。

「まだ、お漏らし残ってるから……」

 股間、その睾丸部分が、何か萎縮するように変動し、次々と熱気が持ち上がって放出されている。友希那野、このママの女の部分を真っ白に塗り潰している。

 それは、ああなんと幸福なことだろう。友希那の背中の上、そこにのしかかる男児は細い女体を懸命に抱き寄せて腰を軽く揺らしている。今まで、休むことなく竿を揉んでくれた膣のひだがまたもや彼を甘やかし、奥から粘液が持ち上がる。すぐに果て、その微細な絶頂も友希那の子宮が回収してくれる。精液が飛び込む度に友希那は小さく、ほんの少し身体を打ち上げている。彼はそれが嬉しくてより強く歌姫を抱き寄せた。腹部に巻き付けた腕を引き絞り、また頬ずりをしてみる。そこは、ちょうど友希那の背中が背中から肩関節に移り変わるであろう箇所で、彼はまた、干上がりかけている汗ばみを美味しく思いつつ腰を浮かばせる。

 友希那だって、下のほうでは十分に母親らしくて協力的だった。ぬちりと緩んだ孔と肉棒はその中でまた擦れ合い、ちょっとの刺激が皮切りとなって雄は決起する。

「ちょっと――」

 友希那がとびきり甘く叫ぶ。だがそんなもの、構うものか。すでにこの友希那の身体は彼のもので、他のどんな差し押さえも意味を持たない。ただ彼の発散されるべき性欲だけがあり、彼はそれを友希那を使って解消したい。

 息子が性的に満足するまで、母親がこの地から脱することを許可されない。

 

 そうして彼が存分に楽しんだ後、友希那はいよいよ母親らしく、悪戯好きの息子を咎める姿勢を示す。

「寝ているところを襲うだなんて……」

 布団に仰向けになる彼の股間に友希那は頭部で向かっていた。竿と唇が触れ合い、くたびれたものを持ち上げて軽く弄っている。布団の上でおとなしく、友希那に竿を預ける彼はこの歌姫のさらなる変化に驚いていた。

 先ほど、胡坐のままで横からしてもらった際の友希那はまさしく猫だった。その目つきは徹底的に卑しく、口元は情熱的、それで行為は淡々と進み、男のことを確実にひっ捕らえる。

 そういった先ほどの友希那に対し、今の友希那は大蛇だった。

 美しく火照った身体を布団へ下ろし、堂々みせつけ、優雅な態度で獲物に迫っている。何もせかせかとしていない。今、彼の両足は友希那の両腕によって優しく開けられており、獰猛な舌先が男を熱心に相手している。全ての所作に余裕があり、目つきを視ると、楽しんでいる雰囲気もある。つまり友希那は理解している。彼はもう何度も射精を繰り出しているため体力的にはくたくたで、後は飲み込まれるしかない。

 抗うだとか拒絶することなど彼には不可能で、いいや最初からそんなつもりは彼にはないが、とにかく股間は友希那の独壇場となり、細やかな舌遣いのみがある。

 そうした中で友希那は冷静に、彼の一連の行動について追求してくる。

「このおちんちん、いけない子に育ったのね」

「だって、ママが――」

「私を言い訳にしないで」

 語気を弾ませ、けれど口元はすぐに男に戻ってゆく。

「寝ている人になんの許可もなく、大事なところを触っちゃいけないの。それくらい、あなたでもわかるはずよ」

「うう、わかる」

「びっくりしてしまうし、人によっては、犯罪になってしまうわ」

「うん、でもママにしかしないよ。ママしか触らない」

「それなら、事前に触りたいって、伝えてほしかったわ」諭す声と同時に右手がするりと伸び、根本から数度、撫で上げてくる。「しっかり伝えてくれたら私だって、ちゃんと、構ってあげられるのに……」

 もう黄昏れ時、外に広がる光景は何か淡く、最期の灯火も途絶える寸前にある。橙色は今日を生きた人々の影をみつめ、伸び、間もなく夜が花開く。

 リビング窓からその光景を眺めつつ、彼は友希那の目元を眺めていた。あの猫の時より柔らかい目つき、その湿度は口元にだって付与されている。現在、行為をすっかり終えた男のものを友希那は自らの粘膜に迎え入れている。

 男女の体液がべっとり付着しているのだがそんなもの気にしない。というより、そうしたものたちを拭って、掃除をするかのように友希那はもごもご続いてくれる。

「これはお仕置きよ」

 ぴかぴかに育った亀頭を眼前に置き、わざわざ宣言して女豹は股間に戻ってゆく。柔らかい唇が触れ、亀頭の上を滑りながら開いて奥から舌が伸びてくる。流石に現役の歌姫なので、その唇も、いいや喉越しそのものが、暴れん坊を上手く押さえ込んでくれている。赤く凝縮した雄は確かに捕らえられ、それから吸い取られてしまう。

「ママっ、ごめんなさぁい」

「んふ」

 竿にとって専用の友希那の唇が何度も何度も前後している。頭部そのものが男の股の奥で猛烈に動き、続き、ぬるついた肉が竿表面の全域に密着している。歪んだ空気が弾ける連続の音が周囲に散っている。大量射精後だとそれだけで十分に心地がいいのだが、大蛇はそんな妥協のある快感だけを彼に許さない。

 次の瞬間、強烈な音と共に友希那の頭部が持ち上がり、その突き出た唇が、頬がびっしりと竿の形に敷かれてゆく。いいや頬肉だけではない、鼻のすぐ下の小さな部分もよく伸びており、また歌唱によって鍛え抜かれた肺活量は彼の奥底、行き場を失いかけている精液に呼び掛けている。

 友希那は額を沈ませ、口のみで彼のものを上向かせる。頬張った後に軽く啜ってくれるのだが、それは単純に陰茎をしゃぶるだけに留まらない。彼は何か自分の精神そのものが、この友希那の口の中へ引っ張られてゆくような心地を体験していた。

 こんな綺麗な蛇がいるものか……。

 独力ではなく、友希那野肺活量によって彼はまた精液を漏らした。それは友希那に引っこ抜かれた、という心地で腰さえ浮き上がっている。さらに彼は、そうして残ったものたちを噴き上げるだけでなく、この友希那の崩れた美貌とそれから粘膜の心地よさにより、また新しく精液を練って打ち上げている。亀頭に留まった友希那はそれを受け入れ、彼は歌姫の喉奥が大げさに起伏することを視た。

 ああこれは、そうだ大蛇ではない……。

 緩く、力強い射精が友希那の喉に語り掛けている。射精する度、友希那の肩幅が軽く揺れ、またその動きに呼応する形で長髪が跳ねたり、喉元がさっそく精液をもてなしてくれる。

 長髪とはこの布団の上に散らばっているものだが、その一本一本の、四方八方に向く様子が彼には優雅な蛇に視えてくる。

 そして友希那とは、そんな蛇たちを備え従える女王のように思える。

 つまり、メドゥーサ。

 そろりそろりと両手を伸ばし、慌てかけている男の腰を握って友希那はさらに精液を啜る。いつの間にか唇と竿の根本が接着しており、鋭い鼻息が陰毛を分けている。

 彼は、自分が瀕死の爬虫類としてこの友希那に、大蛇の女王に丸呑みに遭っていることをようやく知った。

 

 何か、盛り上がる心地がある。

 それは熱意だった。脳に、肢体に巡る強烈な熱意により彼は自然に立ち上がっている。それは精神的な決起であり、彼の身体を机に向かわせる。

 この個室の中、彼はパソコンを起動し執筆に取り掛かっている。

 しかし持ち上がったはずの熱意は数分もすると消えてしまった。

 まさか、熱意だとか決起などというものは嘘だったのか。それがあったらいいなという彼の中の願望が、まるでそれがあるかのように、それの輪郭だけを、彼の脳裡に呼び起こしたということなのだろうか。

 そんなこと、悲しい。もうひとつも進まない原稿を前に彼は自らの気力について落胆した。開いたままのノートパソコンを前に、椅子の上でぼうっと垂れた。

 稀に鼻の部分をウーンと鳴らしたが文章は浮かばなかった。

 彼はもうぺしゃんこだった。出すべきものを出し尽くした後の、窮屈で動くことなどできない心地、そうした重苦しいものたちが、大波のようにどこまでもどこまでも広がっている。ああ、一生このまま停滞だけなのではないか、などと彼は次に考えた。それもまた自然な思考だった。一切の変化がない現状は彼の中によくない妄想をもたらしてくる。

 彼は離島の砂浜に立ち尽くし、藍色の海面が清らかに続いていることを細い目つきで眺めるように自分のこれからについて思考した。

 そこに希望はなかった。変動や昇華というものはありえなかった。ただ同じ、この強烈な硬い海面だけがある。才能などないのではないか、特徴など幻想なのではないか、彼はそんな可能性ばかりを自らの脳裡で自然に認めていた。それが現状において最も不利益で無駄だという客観的な思考こそが、最も彼の気心を落ち込ませていた。

 意味がないのではないか、彼はまたそのように思った。それもまた頷くことができる思考だった。意味がないのならやめてしまおうか、彼はさらに思考した。けれど全てを止めることを意識すればするほど、身体は震えて歯列が強張った。

 こんなことをしているといつか友希那に捨てられるような気がする。

 そんなことは嫌だった。それは理性的な思考ではなかった。彼の脳裡に友希那に捨てられるという一滴が垂れ落ちた瞬間、彼はそのやってくるかもしれない未来を打ち消したいと強く願っていた。

 とにかく仕上げなくてはいけない。完成度はいい。ひとまず作品と呼称して人にみせることができるまで、その体裁を整えなくてはいけない。

 だがそうして焦ると、その焦燥は思考の歯車に絡まってくる。

 椅子の上にて彼は身体を突き飛ばした。あらゆる関節が適当に倒れ、口が半開きのまま放置されている。瞳は遠いものだけを、それをようやく薄く視認できている。ただそれだけだった。

 別の色が彼を左右から、後方から流れて包み込んだ。

「友希那……」

 たった一瞬だった。女の色香がふわりと舞い、背後から、彼はどこかに飛ばされる前に友希那によって守られる。

「ここに居たのね」

 友希那の両手は彼の肩をそれぞれ握り、するりと前方に流れて胸元を持ち、それも追えると次に、男体の表面を這いずって彼の頬を擦る。右耳すぐ近くに口が置かれ、彼は適当な位置に数回接吻を受けた。

「ご飯ができたわ」

 友希那の声の次に彼は額を上げた。壁掛け時計は確かにいい時間を指している。

「ママのご飯?」

「そうよ。私が料理したわ」

 それにしても、おかしい。たった数分作業をしただけのつもりだったが、こんなに時間が経過していたか。

「夕食にしましょう」

「うん」

 彼は椅子から立ち上がり、友希那の手を握った。

「今は、私のものよ……」

 息子を連れて部屋を出る際、母親は暗闇に向かって呟いた。

 

 夕食は友希那が用意した。

 普段、音楽家として外で仕事をし、生活費を稼ぐことが多い友希那はあまり家事について詳しくないが、それでも料理は滞りなく進んだ。

 ダイニングテーブルに四つの椅子が備えられており、今、彼の対面の位置に友希那が座っている。外、空の中には夜が順調に咲き乱れており、このリビング室内照明の白色が頼もしい。

「それじゃあ、いただきましょうか」

 いただきます、と二人で声を重ねた後に、さっそく手元に取り掛かる。しかし友希那の動きに反して彼の手つきはすぐに止まった。

 温かい食事を前に彼はつい先ほどの友希那について考える。

 エプロンを装備しキッチンを動く。その度に尻が軽く揺れ、ひとつにまとめられた長髪もその毛先が空気を撫でている。だが友希那は、そんな髪型の事情について詳しく察知することはなく料理を続けている。当然だった。だって今、友希那は母親なのだから。食事だって一人ではなく、彼という息子を背後に待たせている。髪型にいちいち気を配っている暇などなく、故に素早い所作がキッチンから求められている。

 そんな様子の友希那だってもちろん愛らしい。

 料理に関してある程度知見を持つ女の背中には、他など寄せ付けない気迫が宿り、そういうものを男は美貌だと認識する。

 友希那は普段、音楽家として外で稼いできてくれる。料理とは彼の仕事であり、故に友希那は料理に慣れていない。今日一日を過ごすため、彼は事前に少しの指導を友希那に行ったのだが、料理中に何か不備があれば彼が出動する手筈だった。布団の上で赤子として食事完成を待つ彼が男児を止め、助け船を出すことになっていた。

 しかしそんな必要もなく友希那は一人で料理を仕上げてくれた。

 あなたの教え方がよかったの、などとママは男児に向かって口を緩ませる。しかし彼は、友希那が自分のために慎重に料理をしてくれたのだと理解していた。

 彼には男児のままでいてほしい。母と子という今日一日の役割を、少しも崩さぬまま最後まで過ごしたい。いいや過ごすべきである、という気概を友希那は持ち、それが不慣れな料理をものにした勝因なのだと彼は考えている。

 とすると、この料理の隠し味とは友希那の愛情なのか……。

 今、このテーブルに広がるあらゆる料理は友希那の愛情そのものだった。たった一度の失敗も許されない、それは友希那が普段から行う音楽的な挑戦に類似しており、今回だって彼の期待を凌駕している。

 そういうものを自らの手で食べることもまた美徳のはずだが、彼はもう少しだけ、その部分に友希那を混入したい。

「あの」

 友希那の声により彼は顔を上げた。眼前に友希那が居る。今しがた、大きな勝負を終えたはずのママが視ている。

「ごめんなさい、やっぱり、不出来だったかしら。こんなに大がかりな料理は、経験がなくて……」

「んん、違うの……」彼は湿っぽい口ぶりでカトラリーを置き、自分の皿を少しだけ友希那に向けた。「ママに、食べさせてもらいたくって」

 友希那の瞳から悲観的なものが消え、代わりに席を立ち、親子は隣合わせて食事を再開する。

 

 食後の片付けについてもちろん彼は手を出さなかった。

 今日の友希那は彼のママなので、家事は全て友希那が行う。ダイニングテーブルから立ちキッチンに向かい、二人の皿やカトラリーを相手に右往左往する母の背を、小さな背に通う特異な薄紫の一本の束を、彼は座ったまま眺めていた。

 いやはやそれにしても。友希那はこういう髪型だってよく似合う。

 統率が敷かれているかのようになめらかな長髪がヘアゴムによってまとめられている。集合した毛髪はそういう束になり、太いまま下向きに垂れている。頭部に関する情報量が一気に減り、また印象としても何か、優雅というより軽やかに思える。

 友希那の所作、身体そのものの動きによってポニーテールは飛び跳ねる。敏感な反応は普段の友希那にはあまり現れないものであり、目新しく、少し不思議なものだな、なんて思う。

 またそうした髪型に加え、この立ち姿にも不思議な魅力がある。

 白一色のシャツにデニムの長いズボン、午前中に着ていた、あのワンピースもよかったけれど今、これほど簡素な服装に友希那は身を包み、それで行う作業も音楽ではない、極めて家庭的な、一般的な食器洗いであり、そのうえで歌姫のことを考えてみるとこの服装、ただの後ろ姿にだって、とてつもない味が付属する。

 女の忙しない尻を向こうに、男はテーブルについたまま垂れている。

 そんな光景を世間が視たらきっと批難が殺到するだろうし、またその女という人が、あの歌姫、湊友希那だと知ったら最後、誹謗中傷が飛び交うだろう。

 誰だって、高貴な態度で自分を魅了した人にせこせこ家事などしてほしくない。家事など家政婦にでも任せる日々であってほしい。白い陶器で紅茶を造って、ひと口啜って息をついていてほしい。

 そんなものは似合っていないと誰もが首を縦に振るはずだが、友希那は今、彼のために従事してくれている。

 それは当然だった。

 だって、ママだもん。確かに友希那は歌姫であり、高貴な人柄も持っているけど、誰もが羨望を向ける人だけど、そんなもの息子からすると関係ない。そんなものの前にこの友希那は、僕のママだから。僕の前では外の雰囲気なんて、仕事なんて知らないふりをして、とにかく友希那は僕の世話をする。そういう態度は子を持つ母親として当然というか、子がそれを求めることも当然だった。けれど僕は、当然だ、なんてふんぞり返って傲慢に過ごさない。だって嬉しい。大好きなママが音楽よりも、こんなに一生懸命に僕のため、家事をして、それだけじゃない、あらゆる気遣いを僕にだけみせてくれる。

 それは恵まれているし、とにかく、友希那がママでよかった。

 ああしかし、これほど禁忌なものもないなと彼はまた考えた。

 姫としての立場を忘れた友希那は極めて家庭的なのだが、男として、気になってしまうのはその背丈にある。この絶妙な肩の位置、それに細身で、足も両腕も、腹部だって薄っすら小さい。

 幼妻、などという言葉が彼の脳裡に常に浮かんでいる。

 友希那はすでに高校を卒業しているが、もし出会う時期がもっとはやかったとしたら、この姿にさらなる危険な価値が付属する。

 日中は制服を着て授業を受け、音楽的な活動を行いつつ、家に居る男のことを考える。玄関をくぐると高校生でもバンドガールでもなくママに変身し、家事をやったり、男を相手に女として尽くしてくれる。

 湊友希那という人間のあらゆる要素が彼の欲望により裏返り、背徳的な要素として男を刺激する。そんなものを禁忌と呼ばずに、いったいどんな女のことを禁忌だと語るのだろう。まだ口の中に食事と、そこに混ざる友希那の唾液の味が残っているのだが、彼は追加のデザートとしてこの果実を楽しむことにする。

 いいや、不可能だ……。

 流し台から響く少し激しい冷水の音、それの合間に食器の音が重なって、友希那の息遣いさえ耳にする。

 それを前に我慢することなどさっさと忘れ、男児は愛おしいママに背後から忍び寄る。

 もちろん驚かせるなんてことはしない。最初、指先が触れる前にまず「ねぇママ」と呟くことで自身の存在を明らかにし、それから極上の幼い肩に絡まってゆく。

「少しくらい、待てないのかしら」

 現在、彼はシャツもズボンもしっかり着ているが、その中心、股間部分はあらゆる装いを否定するかのように必死に上擦っている。

「駄目よ。洗い物がまだ、残っているわ」

 後頭部でひとつに結ばれ、一本、するりと伸びる長髪が揺れて視線が触れ合う。

 彼はそれでも友希那の背後に密着し、これがまた小さい、肩を触って、膨らんだ腰をくいくい押し付けてみる。身体と身体は最初から粘っこい密着状態にあるのだが、その中で腰のみがさらに友希那に接近し、尻肉を持ち上げるように動いてそれから、小刻みに震える。

 友希那の後方で、お前で発情したんだぞ、と懸命に示す雄がある。友希那はもちろん尻でそれを知るが、まるで気にしていない様子で食器洗いを続ける。

「まったく……」

 ああ、この我が儘を淡々と、適度に片手間に受け流す態度がママっぽい。

 それになんだかそうした口ぶりが、あるいは心構えそのものが、サマになってきているようにも思える。

 後ろから迫り、腕を伸ばした男の五指たちはよいよ友希那の乳房に取り掛かる。

 エプロン、それからシャツを着用しているその様子の上から女体を掴み、少し強く腕を引き絞る。友希那へ寄りかかるというか、倒れ込むように全身を幼い背中一面に擦り付け、股間は変わらず尻を、そして鼻先は、ポニーテールを撫でながらうなじの適当な位置につく。

 女性として、なんにも脱いでいない時から胸を揉まれることは避けたいことらしい。

 詳しくはないが、ブラジャーが歪んだり、破損することがあるらしい。そもそも痛いし、服だって、シワになったり崩れてしまうことがある。故に世の女性たちは、まだ脱いですらない時間から胸をまさぐる男を嫌い、密かに批判しているらしい。

 すると今日、今まさに彼がしていることとは最悪の行動に違いない。まさか後ろから飛び込んで、そのままなんにも合図せず胸を揉むなんて。

 下着の事情など、服の事情など知ったことか、そんなことより胸だ、おっぱいだ、と強情に迫って柔肉を探検する。その後、友希那からどんな鋭い目つきで詰め寄られるかなど考えず、煩悩に脳を浸している。

 しかし、今日は大丈夫。

 だってこの友希那、今日に限ってはブラジャーというものを着衣していない。それだけではない。今の友希那の服装とは簡素なものであり、崩れるだとか、シワになるならないという事情を気にする必要もあまりない。

 むしろ、汚れてしまうこと、壊れてしまうことを前提とした服装であり、そんな友希那は珍しい。彼女は普段の衣類だって、たとえ家から一歩も外に出ない日であってもこだわりを発揮する。金額ひとつで服が語れるわけではないが、必然的に高額になることも多くあるのだが、今の友希那はそうしたこだわりを放棄し、徹底的に簡素なものに努めている。

 そうした服装の意味だって、もちろんママ。女性ではなく、ママになる。男児の世話をするのだから、高い服など着ていられない。こだわりなど発揮している場合ではない。

 ママを行うことを考えた際、取り返しのつかない汚れを受けても、物理的に服が破けても構わないような服装に友希那は行き着いた。つまり、普段のあの服装を彼の欲望が、性癖がねじ曲げた。友希那の女性的なこだわりの部分を彼の男が上塗りし、ある意味で強制している。

 もちろん、彼としても意識的に友希那の服を汚すつもりなどないし、破くだとか、穴を開けるなんてありえない。けれど、発生するかしないか、というところではなく、そのようないかにも本物のママらしい配慮を心掛けている、という事実自体が今日の催しの完成度を高めることになる。

「友希那、いいにおいする……」

 そうして作業中の友希那の柔らかさを堪能する彼だが、次第に鼻先がいいものに触れる。

「いいにおい……」

 大きな男児を背負いながら、それでも作業を続ける友希那を彼は嗅ぐ。

「うふん」

 また、こうして近づいてみてわかることだが、蛇口から流れる冷水の音がそれなりに大きい、他の音を断絶するほどのざらついた音で、食器同士の激突する音が遠く、けれど二人の声だけは敏感に触れ合う。

「友希那、いつもいいにおいするから好きなの……」

「においだなんて」友希那の語気が少し沈み、また口元が浮く。「前々から思っていたのだけれど、人の頭のにおいなんて、いいものだとは思えないわ」

「ううん」

 彼はそんな言葉さえ香しく想う。勢いよく吸引し、それから猛烈に硬くある股間を押し込んでおく。対する友希那はひとつも変わらない態度で食器洗いを続けている。まるで彼という男など認識していない顔つきだが、たとえば耳元にふうと息をかけてみると肩は揺れるし、胸元に廻した腕をより盛んにするると腰が強張る。

 その痙攣が、すでに漲っている彼のものを喜ばせることとなり、彼は深く友希那へ向かう。

 後端にある餓鬼がどれだけ卑猥にちょっかいをかけたとしても、気丈な母親は仕事を続ける。そんな部分に彼は友希那のママとしての強かさをよく感じる。

「友希那のにおいすき、友希那ママの汗のにおい……」

「あ、汗……」

「うん」と呟きながら彼は鼻先をより深い位置に進める。「いいにおい……」

「においのケアは、しっかりしているはずよ」

 流石に女性として、汗だのにおいだの、それが好きだのと強く言及されると恥ずかしいのか。

 だがもちろん彼は友希那のそういう部分に興味を向ける。そうして少し、また意地の悪い声を出す。

「それでもすきなの。友希那のにおい、可愛いから……」

 愛する女性の体臭が可愛い。

 彼は、強引な両親によって設定されたお見合いで相手の人に真剣に惚れるように友希那の体臭を会ってからすぐ気に入っていた。

「んふ、ん、友希那ママのにおいと結婚する」

「それは……」友希那の作業の手が止まり、数秒後、口先が彼に向く。「浮気になるわね」

「ええ――」

 思わぬ反撃を受け、彼はびくりと眉を上げた。

「い、いや、違うよ」

「何が違うのかしら」

 うなじから離れて友希那の横顔を視る。左側、視線をちらりと送るママの瞳に軽やかな笑みが浮かんでいる。

「あ、あの、あの……」

 彼は友希那に抱き着いたまま視線を迷わせ、あくせくと弁明を考える。

「友希那と結婚するっ。で、でも、でも友希那のにおいとも結婚するっ。それから友希那のおっぱいとも結婚して、友希那の脇と、あと髪もすきだから結婚するっ」

「意味がわからないわ」

「だ、だって、友希那すきだもん。だから、ママとたくさん結婚する……」

 流し台の前に二人、それも手伝いなどを行わず、駄々をこねて、構ってもらうだけ。

 ああ、こうしたやりとりをしていると、本当の親子のように思えてくる。

 この友希那の腹の中で誕生し、ぐんぐんと成長する赤子が羨ましい。だって、この世に生を受け、最初に肌で触れるものが友希那の内側なんて大変なことだろう。その羨望はさっそく嫉妬の領域に到達し、友希那に張り巡らされた指先たちは、いよいよ下部に向かう。

 友希那に後ろからしがみつく彼の十本の触手は左右から、友希那の中で最も卑しく神秘的、女性的な部分を撫でて求めてゆく。

 人間として瀕死に至った彼はもう、目の前の友希那について性的な価値しか見出せない。何か紳士的に考慮したり尊重することなど不可能で、自分自身さえ支配されている。

 こうなると限界まで突っ走るか、別の誰かに引っ叩かれることで冷静さを取り戻すしかない。暴走した男を受け入れる女など限られているのだが、しかし彼にはそういう相手が居る。

「あなたはいい子だから、待つこともできるはずよ」

 食器洗いを中断し、彼のものをズボンの上から撫で伏せる。そんな友希那は確かに彼の母親だった。寵愛を受けたことで雄は一応の満足を感じ、またこの先、すぐに構ってもらえることに安心して今度はにたにたと揺れはじめた。

「これが終わったら、次は二人でお風呂に入りましょう」

「うんっ、お風呂行くっ。お風呂でえっちする」

「あそこは身体を洗う場所よ」

「うう。か、身体も洗うよぉ。でもえっちする。ママとえっち」

 彼は、飼い主に尻尾を振る大型犬のようにふりふりと、友希那が目配せするまで腰を押し付けた。食器洗いを手伝うことはしなかった。今回の彼は手伝うことさえしない。そんな思考さえ捨てた、ただ甘えるだけの餓鬼だった。

「……長く入っているとのぼせてしまうから、ほどほどにするのよ?」

「うん。ママとお風呂、友希那とえっちするっ」

 彼はさらに緩んだ声を発し、それから友希那の胸周りに腕を廻す。作業の邪魔にならぬよう、両脇からそれぞれ腕を伸ばして乳房、腹部をエプロンごと拘束してやる。最も膨らんだ中心の箇所は友希那の尻肉に割り込み、彼はやはりゆさゆさと細かく擦った。

 彼の様子は確かに大型犬に酷似している。

 大げさな尻尾の向く先が適当な宙ではなく、その飼い主、極上の雌だということ以外がよく似ていた。

 

 それから食器洗いを終えてエプロンを取った友希那は彼を見上げた。

「お待たせ。それじゃあ、お風呂に――」

 しかし彼はここぞとばかりに顔を歪ませた。

「……ヤだ」

 リビング内に唐突に尖った声が響いた。少しの間があり、目元を険しくする友希那が彼の顔をじっと視る。

「ど、どうして?」

「ヤだっ!」

 しかし彼は、またもやそんなふうに突っ撥ねてみる。もちろん、風呂に入らないなど、それも友希那との入浴を拒否するなんてありえないことなのだが、これもまたひとつ、男児としての趣向であり、友希那だってそれについてすぐに理解してくれる。

 テーブルを横に、立ち尽くす彼に対し友希那は真剣な顔を向け、何か逡巡した後に優しい声を発した。

「ねぇ、どうしてお風呂が嫌なの?」

 この瞬間、なんとしてでも入浴をさせたいママと、風呂になど入りたくない男児の拮抗がはじまる。

「何か理由があるのなら、私に話してほしいわ」

「うう……」

「お風呂、やーやなの?」

 至極冷静な語気だった。友希那は彼の両肩を掴み、少し屈むように表情を覗き込む。

 彼から視ると、まずやはり胸元が強調されているように視えるし、それから長い髪がいくつか、つるりと落ちて視える。

「ママ……」

 その色香を追うように呟くと、次の瞬間にするりと女体が入ってくる。対面に位置していた小さき母は彼の右手側に落ち着き、左手が股間へ伸びてゆく。

 あの食器洗いの最中から、どうしようもないほど膨張している男のものを、友希那ママが下側から保つように握ってくれる。

「大丈夫。私がすぐ傍についているわ。なにも、怖がる必要なんてないのよ」

 至近距離でママの声がする。温かい、優しく染み渡る声、そういうものが男児の頑固な意識の部分を溶かしてくれる。ただ彼が緩やかになるのではない。崩れて、弱くほどける彼のことをすぐ近く、友希那が支えて導いてくれている。

 女体が柔らかく男に添うと、彼もまた腕を伸ばし、友希那を掴み取る。友希那の掌握も強まって二人、密着したまま目と目が合う。

「このまま浴室まで、一緒にいきましょう」

「うん……」

 そうして今、ようやく彼と友希那は浴室へ歩み出した。

 

 今日の彼は赤ちゃんであるため入浴時にも身体の清掃は友希那が施す。

 また、彼は友希那へタオルやスポンジの使用禁止を要求した。今日に限って友希那がこの浴室内で使用できる道具とはシャワーとそれから、自分自身の腕や手のみであり、献身的なママはそうした状況でも変わらず彼のことを清掃してくれる。

 泡だらけの両腕が男体を巡ってゆく。最初は両腕を包み込み、次に肩部分を労うように揉んで胸元を擦り、腹部を一周すると股間にも泡を付与し、太腿から脛にかけてまでしっかり素手で拭ってゆく。この間、彼は浴室内の椅子に座ったままだった。友希那はそんな彼の眼前で腰を落し、閉じた両足は床へ、膝部分とつま先のみが触れた慎ましい体勢で彼に仕えている。まるで痴漢のような手つきで彼のあらゆる箇所を擦り、全てに泡を行き届かせるとシャワーを起動し優しく流していった。

「熱くないかしら?」

「大丈夫。ちょうどいいよ」

「よかったわ。すぐに終わるから、じっとしているのよ?」

「うん!」

 彼はやはり座ったままで、友希那は右手に左手にシャワーを、右手は男体にある。流れ出る湯を頼りに今度は泡を洗い落としている。彼は自身の身体の隅々にまで友希那の素手が通い、その細い指先が腕の輪郭や、腹部の形に肩の起伏、脇の深い位置までしっかり撫でてくれていることを体験していた。泡を拭い落とすのならシャワーを使うだけで十分のはずだが、友希那はそんな妥協はしない。またその触手たちが泡だけでなく、何か精神的な凝り固まったものたちも、優しく洗い落としてくれていることを感じ取っていた。

 身体の清掃が終わった後、友希那は次に彼の背後に立ちシャンプーを素手に垂らした。

 白色の粘液だったそれらはすぐに泡立ち友希那の素手をまたもこもこと包む。彼はそれを音だけで聞いて待っていた。

 間もなく準備が完了したことを友希那の声が告げ、次の瞬間に彼は湿った頭部を洗ってもらう。

「痒いところがあるのなら、なるべくはやく教えてちょうだい」

 柔らか泡が頭髪を包み、頭皮のことも、友希那の指先が揉んで介抱してくれる。彼は座ったまま、後方に立つ友希那に頭部のことを任せている。泡たちは友希那の両手によって常にこねくり廻されており、その腫れぼったい音が耳のすぐ近くで聞こえる。

「さっき……」友希那の声が浴室内によく反響する。「あれだけイヤイヤしていたのに、おとなしいのね」

 泡立つ音の合間であっても、友希那の声はしっかり聞こえる。薄く舞うこの湯煙に似た様子で立ち込め、やがて余韻を残し溶けてゆく。

 彼は「ああ、あれは……」などとひとつ思い直して、するとなんだか頬がカッと熱くなる。

「ママに頭、洗ってもらってるから……」

 後方にて友希那は男の頭を洗い続けている。溺愛を持つ母親は自らの身体の清掃より、男児の清潔感を優先してくれている。

「いいのよ、あなたは赤ちゃんだから。ママになら、たくさん甘えて、けれど駄々をこねることだって、別に構わないわ」

 この間、彼はやはり座ったままだった。男児であるのなら当たり前のことであり、座っている彼の周囲あちこちで、母親が体勢そのものを変えながら真摯に身体を洗ってくれる。

「それじゃあ、流すわね」

 友希那の五つの左右の指が離れてゆく。次にシャワーが起動し、先ほどと同じ力加減で洗い流されてゆく。また彼が可愛いなと感じたこととして、友希那はシャワーの熱を彼の身体に与える瞬間「熱いわよ」とひと言注意を置いた後にかけてくれる。

「熱くなかったかしら」

「うん。大丈夫」

 シャワーが終わり、ママが後方から移動する。ぐっしょり湿った彼の髪型に指を伸ばし、目元に垂れ下がるものを丁寧に避けて二人は目と目が合う。

「ちゃんと綺麗になったみたいね」

 浴室内にて二人、彼は椅子に座ったまま、友希那は膝立ちのような恰好なのだが、この若い母親は胴体を反らせるように彼を見上げている。目と目が触れ合い、彼は友希那の頬に貼り付く数本の毛先だったり、きっと今の自分のように、ぺたんと湿った束を愛おしく視ている。

 しかし友希那の中でそういったもの以外に、彼には視るべきものがある。

 この湯煙と、それから温かい水滴で誇張された肌色の胸元、細く造られた腹と、さらに下部、美しいだけではなく何か生々しい、女が露呈する深い部分について男児は目を鋭くさせる。

「あの、ママ……」

 そもそも最愛のママを前に、よく平然と会話を続けられたものだ。

 などと彼は自分自身に妙に感心する。

 今、友希那の前で立ち上がりつつある自分のものについても、お風呂の途中だからといって、戒めるつもりはない。むしろここまでよく耐えた、だからもういい、というより仕方がない、そんな気概で彼は、男体の中心の屹立を眼前の友希那に当たり前にみせつけている。

「ママ、あの――」

 彼が額を持ち上げるより先に友希那の右手が伸び、彼はまず確保される。

「大丈夫よ」

 友希那の指が竿の上で動いてくれる。憤りを感じる亀頭が安らかに管理され、またその近く、溜まった皮の部分が後退して溝が覗く。

「あなたのここも、ママがしっかり、綺麗にしてあげるわ」

 その部分があらわになった時、この浴室に、清潔ではないにおいが立ち込める。

 

 それから彼も友希那も体勢を変えた。

 彼は友希那の指示により椅子から立ち、今度はすぐ横、浴槽のふちの部分に尻を預ける体勢になった。これはほぼ直立で、たが突っ立っているという感覚はない。なぜなら体重、というより重心を浴槽に向かって預けているからであり、そんな彼に対し友希那は跪いていた。

 熱気立つ浴室内にて男女は当然どちらも全裸であり、そうした中で女が腰を落すとなるとそのツンとした鼻先はどうなるのか。尻が乗り上げ、そこを起点にラクにする男は顎を下げて眺めているが、女の美顔の前に自分の薄汚い部分が聳えている。

 さて、これから友希那はどのようにママをしてくれるのだろう。

 大王にでもなったつもりか、股間にぶら下がるものをさらに強固に友希那へ示していると歌姫の単独ライブがはじまる。右手が持ち上がり竿を握り、何度か上下に緩く動くとさっそく、その専用マイクは変形を友希那へみせる。

「ああっ」

 屹立した彼の竿、その皮の部分が友希那の指の動きによってずるりと後退し、やがて溝の部分を明らかにする。そこは完璧に皮に被さって視えなかったというほどではないが、確かに奥へ隠れていた箇所であり、暴かれたものを友希那はまじまじとみつめている。

「これは……」

 恥垢だった。

 粘膜の桃色の中に異質な黄ばんだものがある。彼の、つまり雄の汚れそのものが垢として発現し隠された溝の部分に蓄積されている。

 ママにばれちゃった……。

 友希那はこの瞬間、彼のそういった事情とついに対面している。歌姫にしてはおとなしい、両足共々揃えて彼へ跪く、そんな体勢で、肩に長髪がへばり付いて何か歪むことさえ気にせず、それより男の恥垢を視ている。

 そこに羞恥を得るのは彼だった。

 もしかしたらこのまま、友希那にだって嫌われちゃうかも……。

 男としての汚い場所、本当に、本当に不潔な部分が今まさに愛する女性の前にある。それは何か、自分の不甲斐ない部分が露呈しているような気がする。肩身の部分が狭くなり、腹の部分が寒くなる。脳が干上がって落ち着かないのだが、しかし竿だけは立派に元気なもので、この男児は垢を付着させたまま、友希那のことをふりふりと待っている。

 いいや、こんなものいけない。いくらママだからって、こんなものを相手にしていいわけがない。

 そうした理性により彼は腰を浮かばせるが友希那の右手がすかさずその場に留めた。

「どこに行くの?」

「だ、だって洗わないと。ボディソープとか……」

「ボディソープ?」と友希那の目元が鋭くなる。「そんなもの使わないわ。あなたのおちんちんの汚れが、市販品で取れるとは思えないもの」

 それじゃあ、どうするの、と訊ねるより先に友希那は口元を絞った。何か窄めているような様子でやがて異音が聞こえてくる。それは友希那の口から鳴るものだった。目元は平然と、ただ軽く膨らんだ頬が二つとも、左右に小刻みに震えている。

 彼は、友希那の口腔内部で新鮮な唾液がさらに混ぜ込まれて濃厚に育てられてゆくことを想った。

 当然、友希那の口の中のあらゆる情報も湿度だって外気というものを知らない。乾燥を知らず、常に友希那という熱気で満ちている。いうならばこの浴室と同じ状況であり、そんな場所でさらにしつこく舌先が駆け巡り、頬肉が揺れて粘液が仕立て上げられている。

 それは、そんなもの、きっとこの世のどんな液体より高貴な意味合いが付属する。

 重たい液体同士が激突し、より高い鮮度の友希那へ昇華する音だけが数秒間連続している。

 いいやそれにしたって、普段、大勢を魅了するため細かくこだわったり、とにかく鍛錬を続けているような友希那の口、そういうものを使ってこんな破廉恥なことをしてもいいのだろうか。彼は軽く頬を膨らませ、嬉々として唾液を練り上げている友希那に対し恍惚と、けれど何か引き裂かれてゆくようなぞくりとした味を飲む。目と目を合わせて、その運動がまた少し経過した後、友希那はふと右手を持ち出し口元に添える。それは受け皿のような役割を果たし、友希那は自らの手のひらの中に自らの唾液を垂らしはじめる。

「んれぇ……」

 軽く顎を引き口先を突き出すと舌が伸び、口腔粘膜の奥から透明な唾液が垂れ出てくる。それはつい先ほどまで、友希那の温かい基地の中で入念に肉に包まれていたものたちで、手のひらに触れるとその五指は、すぐに彼に向かってくる。

「あなたは私の赤ちゃんなのよ」

 指もだが、それよりまず唾液たちが、みっちり竿に触れて馴染んでゆく。

 そうした中で手首を起点に友希那は動き、その細やかな所作の先、指たちが優しく溝に向かって次に、彼は友希那の素手を竿で知る。

「大切な場所を洗うのなら、母親の、ママの唾液が一番のはずでしょう?」

 他へ唾液がこぼれてしまわぬように慎重に、だが狙いが定まると一気に五指は絡まって、指の腹の部分で拭われる。

 友希那は顔そのものをさらに沈ませた。ほぼ直立状態にある彼の前、歌姫の胴体は少し奇妙な変形をみせる。つまり前傾姿勢なのだが、薄い身体の肌色はさらに狭まり、首元や鎖骨の形が浮き出てくる。頬に居座るいくつかの髪の束が、汗か湯か、わからないが、光沢を乗せている頬の上に竿の影が伸びてゆく。

 十分に用意された口腔で友希那は彼の睾丸部分を頬張っている。

 男にとって貴重な箇所がぬるく包まれている。揺蕩う優しい体験に至る。そのぬくもりとの正体とは友希那の唾液であり、それとさらに、口腔粘膜によって清掃されている。

 普段、力強く歌を歌う友希那の舌先が搾精のため懸命に働いている。

 そうしたは中で彼が注目したのは友希那の外見的な特徴だった。

 現在、男の前に跪く友希那は意図的に彼の内側に潜り込んでいる。屹立する竿を握り、そのさらに下部の位置に口元を添え、上擦らせながら頬張っている。巨大な竿が歌姫の額にまで影を伸ばし、その口元の大部分は男の陰毛と触れ合っている。

「友希那……」

 彼は視ていた。あの、水面から口を出して餌を食む鯉の如く、必死にむしゃぶりついているなんて。それが、世間で歌姫と語られる女性なのだから本当に背徳的で、これは大漁、友希那は極めて真面目なまま、男の睾丸を咥えている。

 今、この強烈な友希那のおかげで睾丸で精子が生成されているのだが、その運動は友希那の唾液や舌先が切り盛りしてくれている。

 男の、悪臭の源とも呼べる怪奇な位置に歌姫が付いてきてくれている。その希少な口は男を肯定することにのみ使用され、目つきは、ステージでみせる際と変わらない。

 こんなもの、思わず、尻の穴までひくひくと浮いてしまう。

 けれどそんな腰の起伏は友希那に捕まり、より狭まってゆく。口腔、舌が蠢き、睾丸のどちらかが丁寧に持ち上げられたり、むしろ弾かれるだけで彼は竿を震わせる。ああこんなこと、歌姫にやらせていいのだろうか。そういう反応に友希那もまた取り掛かり、肉棒は唾液まみれのまま素手によって確保されている。

「気持ちいい……」

「よかったわ。こうして唾液を使えば、あなたはより興奮して、ローションの節約にもなる。お互いにとって、徳しかないわね」

 もう、ずっと唾液を使いましょうか、などと友希那は調子よくほほ笑んでいる。

 いったい、ローションの節約が友希那にどのような恩恵をもたらすのか彼は想像ができなかった。しかしよかった。そんなことどうでもいい。それより今、ただ股間の部分のみが友希那に包まれて安心する。

 男の竿の形状なんてもちろんピンと真っ直ぐ伸びやかにある。

 けれど、実は具体的にはそうではない。男体の特異な部分、股間を起点とし上向く、まさに竿と誰もが呼称するその部位だが、歪な輪郭が通っているし、特に先端部分、亀頭と呼ばれる箇所とそうではない箇所には溝がある。

 実は少しも、真っ直ぐではない。でこぼこと起伏があるし、こんもり肥えて、女を待っているのだが、その溝の位置に垢が溜まる。

 そうした箇所、全ての領域に友希那の細い指が通う。

 友希那の両手に包まれて、よく混ぜられた唾液が巡っている。常に移ろう十本の指、それぞれは複雑に動き、摩擦はその運動を少しも邪魔していなかった。それもまた唾液のおかげであり、友希那の指先は着地からすぐに彼の隅々までを知る。

 恥垢が、拭い取られてゆく……。

 それはまさに保育だった。実際に、何か詰まったものが拭われてゆくようなそういう感覚がある。友希那の指先がそれを運んで新しく塗りたくってくれている。また彼は、友希那の指に自分のそれがこんもりと乗ったり、それで絵の具のように軽く引き伸ばされていることを視て、はじめて恥垢を実感する。

 こんなものが隠れていたなんて、と驚いて、それが捲り取られてゆくことに快感を得る。対する友希那はそれほど眉を動かさず、むしろ懸命に彼の恥垢を採取している。

 完全に集中しているのだが、彼はそういう友希那について覚えがある。

 それは作曲の作業中、バンドのためか、また別の仕事なのか彼にはわからないのだが、目的のため精神的に際立ち、とにかく作家としての思考を加速させるあの目つき、あの態度に今の様子はよく似ている。

 作曲をする友希那とはまさしく真剣勝負にある。他など、さっさと踏み潰し、少し残酷に、蹴飛ばしたとしても理想を狙って完璧に続く。

 そうした様子と今、男の股間の前で披露される様子は類似しており、けれど今は、何か生み出すのではなくただ彼から汚れを没収している。

 あの健全そうな歌姫が、わざわざ長髪を揺らしてまでまさぐるものがただの男のカスだなんて。

 友希那のそんな姿に彼は悪趣味な笑みをこぼすのだが、そうした態度も友希那に竿を握り込まれて潰される。

「駄目よ。じたばたしないで……」

 その人差し指の先端に薄い黄色のものが溜まり、友希那はそれをおもむろに口に運んだ。彼が止めるだとかそういう時間はなかった。指を咥え、先端を舌に押し付けて友希那は指を抜いた。人差し指の上には当然何もなかった。彼から拭い取ったものを、さらに舌先が回収している。味わっている。友希那はすでに穏やかそうに目元を閉じて、少しすると咀嚼が開始される。

 あんな黄ばんだ男の垢を、噛み締めてしまって、潰して、口の中まで浸透し、それで飲み干してしまう。

 そんなことをされてしまっては、男はもう逆らえない。

 なんというか心が、いいやきっと性欲が、この女性を自分の生涯の主だと強く求めてしまう。

 つまり、『チンカス食い』とは契約の儀式であり、今まさに二人の間でそれは完了した。

 

 それから今度、友希那にしては口先に迷いが浮かぶ。

「あの、少し、お願いがあるのだけれど……」

「ええ?」

 彼が眉を歪ませた途端に友希那は目を逸らし、鎖骨の部分がいたたまれなくなる。

「今日は、後ろから……」

「後ろ、じゃあ、立ちバック?」

 訊き返してみると、友希那は何も喋らずコクンと求めてくる。

 そうした姫君の頼みを断るなんてありえない。

 頬の部分にさらに可愛いものが浮かんでいる。すると彼はどうしてなのか、唐突にこの友希那のことがママではなく、等身大の恋人に視えてくる。

 彼は、電車内で席を譲るようにその場を退き、友希那が浴槽ふち部分に両手を置く。彼に対し背を向ける位置関係になるのだが、肌色というより髪の色が目立っている。

 濡れた長髪が肌に巡って卑しい。彼はもはや、何か合図もなく全身全霊で友希那に向かう。まず両手でこの細い女体を握って抱き留める。それからさっそく腰を落し、弾頭は期待している。先ほどの恥垢清掃によってもう溢れ出てしまいそうなイチモツを、隠し込むように挿入する。

 これ以上、何も拭えないほどぴかぴかに清掃された亀頭、それは彼にとっての勲章であり、股間のその位置に、友希那の唾液を大切に備えておくこと、それこそが喜びである。

 友希那の胎内、熟れた肉を押し流すように拓いてため息、肉欲が波のように竿を締め付け、小さき歌姫を食らう男はsのまま、すぐさま居住まいを正す。

「入って、くる……」

 腰、そのものを尻肉へびっしり受け渡すと今度、絶妙な変化を現すのは友希那のほうだった。

 浴槽のふち部分を握る細腕に珍しく力が宿り、さらに両足部分が、少しずつだが確実に広がっている。後端の男に応えてくれるような様子が小さな体躯に巡っており、肌色が突っ張っている。結合した臀部が少し低い位置に落ち、背ものけ反って肩が震えている。

 胎内、肉壁をこつこつと突くように蠢いてみるとそれだけで、さらに卑しい呼吸が彼を導いてくれる。

 彼は、そんな声をもっと聴きたいから、この二人きりの、よく反響するライブステージで友希那を鳴り響かせたいから、だから両手で腰を握って生き急ぐ。

 立ったまま結合しているため彼が友希那へ送り込む腰遣いは少し荒々しい。腰そのもので尻を叩くような様子にあり、そうして獰猛に沈んでみると、友希那の得意な肉ひだもまた男の形を意識する。

 彼の滑走に友希那だって自分を高ぶらせている。この湯煙の中で喘ぎ声だけが鮮明で、互いに終盤に至る瞬間、彼は密かに企みを準備する。

「ああ、イ――」

 溢れんばかりの友希那の声が響くと同時に彼は腰の動きを一斉に停止させた。

 すると当然、彼と繋がる友希那へ巡る炎も癒えてしまう。高みに向かうあらゆる意識、その細胞が唐突に落ち込み、行き場のない欲求ががくがくと楽しそう。数秒静止すると彼はまた、消えない煙草を擦り付けるように友希那へ亀頭を伸ばしてみる。

 二人の中で熱が再出発を果たす。切羽詰まった様子で尻がひと段階落ちるのは友希那のほうで、妃はいよいよ花開きたいとせがんでくるのだが彼はその誘いに乗らない。頃合いをみてまた動きを止め、ただ女の中に熱を滞在させる。

「ね、ねぇ、どうして……」

 彼はすかさず口角を上げる。

「何が?」

「何って、こんな――」

 友希那の口を封じるように、彼は一瞬だけ腰を大きく持ち上げてやる。美しい肩が本当に猫のように飛び上がり、けれど彼はそこでまた盛りを止めてしまう。

 陰茎は、胎内にてみっちり保たれており、友希那は彼に捕まったまま前のめりに息を漏らしている。腰と尻は完璧に重なっており、友希那の頭髪、濡れ細まったいくつもの束が宙にあって揺れている。

「ねぇ、いやよ、こんなものっ……」

「嫌って、何が?」

「だから、こんな……」

「ちゃんと言わないと、わかんないよ」

 彼は友希那の腰を撫ぜ、そこから連なる少し歪んだ背筋を眺めていた。

 今、友希那と彼は同じ方向に身体を向けたまま繋がっている。この体勢とは友希那の要望であり、彼はそこに従っただけ。ある意味で、彼は友希那の奴隷であり、友希那とは一人の男を従え、自らの願いを叶える選ばれた女王である。

 しかし、そんな友希那は落とし穴に落ちてしまった。

 自ら従え、招き入れたはずの男がその途端に胎内で権力を持ち、ただ一度の絶頂の有無さえ支配されている。

「こんなの、赤ちゃんじゃないわ……」

 そのひと言に彼は眉を持ち上げ、一斉に身体を倒す。胸板と雌の小さな背中が密着し、腕はいつもの位置に置く。

「悪い男児はママを驚かせたい」

「そんなの、理不尽だわ……」

「いいや、ママが可愛いのがいけない」

 囁き、それから右耳を軽く食んでみると、腕の中で友希那はまた震えている。浴槽のふち部分にあった素手が、彼に向かったり、また戻ったり、あちこちに安定しない様子を彼は見守っている。

 この浴室内に誰か別の人間など当然存在していない。つまり二人きりで、完全に個人的な部分にある。そんな中、友希那は普段の歌姫という立場や、あの燐然と披露する様子ではなく、股を開いて尻を突き出す体勢をみせびらかしている。

 普段、あれほど高貴だ、大切だ、尊い、と崇めている相手にめいっぱいの欲情を注ぐ。その結果として友希那は、誰もがよく知るあの態度を捨て、男が繰り出す波に正しく反応するしかない。

「可愛いよ、友希那……」

 ああやはり、股間の位置に女性を持つというのは嬉しい。

 今、もしも友希那が本当の雌の仔猫だとしたら、可愛い尻尾が宙をくねくねと泳いで主張しているのだろう。

「ねぇママ、どうしてほしいの?」

「どうって……」

「ほら言ってよ」彼は密着したまま腰を揺らした。「何がほしいの」

 ひとつ、悪癖に目覚めた男児はそうなるともう、ママのことを徹底的に追い詰めたい。

「ほしい……」

「なにがほしいの、友希那」

 腕を腰から前に伸ばし、乳房の部分を覆ってみる。すると友希那もこれに応えてくれる。右手のみが持ち上がり、男の素手をさらに上から擦ってくれる。

「ほしいわ、あなたが。あなたのものを、ちょうだい……」

 幼い探求心と、それから雄としての欲求が均等にしつこく絡み合う。女から視て、そんなものほど厄介な相手はまず居ない。

 彼はそこを上手く理解したうえで自らその領域に達し、今まさに絶対的だった母親を陥落してみせた。その事実を、何よりまずママ本人、友希那に知らしめるため腰の動きを加速させ、女体の奥の炎に呼び掛ける。

「ああぁ……」

 もう手加減だとか、なんだか舌なめずりをすることはない。後に続くのはただ一直線に駆け抜けることだけであり、そこには彼も、友希那も居る。

 たった二人のやり取りが粘ついたまま続き、彼は男としての頂点を突き出す。友希那と二人、その果ての部分に昇り詰める。

「また、くるっ……」

 強靭な腕の中で絶頂を最初にみせたのは友希那だった。限界まで熱された膣から刺激が響き渡り、身体そのものが狭まっている。そういうものを彼はまず腕で体験し、股間で味わい、数度、友希那を無視して突き進み、そうして彼もまた、友希那を追いかけ廻すように開花する。

 

 友希那の身体を抱き締め、腰をゆっくり下げてゆく。

 胎内、連鎖する友希那の肉ひだは射精後の陰茎を最後まで見送ってくれる。にゅるり、にゅるりと舐りながら通過し、亀頭が脱するとその瞬間に友希那はまた深々しい息を吐いてくたびれる。何か芯が抜けたような身振りであり、それは彼の竿も同様、下向きに垂れたその表面は、ただ艶やかな男女で満ちている。

 抜き出した竿を軽く保持して彼は表面を友希那の尻に乗せた。そのまま竿を動かし、擦るようにして自らの陰茎に付着する粘液を友希那の尻で拭き取った。

 それから彼は湯に浸かり、友希那は自らの身体の清掃を開始した。

 赤ちゃんを湯の中に長く放置することなど母親としてありえない。というより母親からすると何か不安で、故に清掃の手つきに素早いものがある。彼は浴槽のふちに手を置き、自分の『ママ』が身体を洗う様子を眺めていた。

 彼はママが身体を洗う光景を湯の中で視ることが好きだった。

 そもそも身体の清掃とは、女子のそれは、何か神秘的に思える。

 普段、髪型にしても衣類にしても、下着でさえ、何かどうにも複雑にある女性が全てを脱し、最後に残る肌色を貴重そうに撫でている。そこには日々を生きる自分への労りと、それから次の、つまり明日を生きるための慰めが感じられる。

 どんな浴室だって、女性が使えば神域の泉になる。白色の泡や透明な流水も女性の味方をし、それらは女体そのものにある、最も脆い美しさをさらにわかりやすく輝かせる。

 するとやはり、男とは探求者なのだと彼は思う。

 この泉を目撃したこと、またその泉を泉たらしめる首謀者と、裸を許したことについて身近に、けれどしかと、誉れに想う必要がある。

 そうして友希那はまず全身を入念に泡で包み、それからシャワーを起動する。優しい湯は泡を押し流し、まるで脱衣のように、白色の中から肌色が覗くと彼は、湯の中で固唾を強く下すことになる。

 あの柔肉を、僕は全て内側から網羅した。いつものこと、毎日のことだが僕は友希那の全域を、己の竿ひとつで踏破した。

 などと密かに嗤っていると友希那はシャワーをきゅっと締め、みせつけるように入浴する。浴槽の水面が持ち上がり、いくつか波が過ぎてゆく。彼は、豪勢に広がる料理ではなく、料理を運んできてくれた仲居の体つきに目が向かってしまうような姿勢で友希那の乳房をじろじろ楽しんでいた。

 だってついさっき、浴槽の中から視ていた美貌が今は眼前に降りてきてくれている。

 友希那が湯の中に入ってきたのだから、そんなこと当たり前のことなのだが、それでも彼はどうしても、そこについて特別な香りを意識する。丁寧に清められた友希那なのだから。彼は今まで、友希那がそうして慎ましく、身体の隅々まで確かめるように洗うことを視ていたのだから。

 そういう友希那が指先、触れることができる位置にまで居るだなんて、それは何か、叶うはずのない夢が叶ったような気がする。それにいいにおいもする。

「――そんなに気になるのかしら」

 入浴して真っ先に乳房を揉みしだく彼に友希那は平気な顔つきを向けていた。

「ああ」

 いやいやそんなの、当たり前じゃないか、だって友希那の胸なのだから。ママの胸は好き。ママのおっぱいが一番いい。

 彼はそのように弁明しつつ、またそうした文言が実は、ママ、おっぱい触っていいかな、という許諾を求めるひと言で、しかし返答など聞かず彼は動き出す。

 飛沫を上げながら飛び出る両腕が乳房に向かい、両手それぞれ到着する。普段、彼と友希那の二人で入浴となると彼が浴槽の壁に背を預け、友希那がさらにそこに肩を寄せ、男が女を、後ろから抱き締めているような体勢で温かく浸るのだが、今は違う。今は二人、顔と顔を突き合わせるように向かい合っており、彼はわざわざ両手を使って実りに夢中になっている。

「自分の胸について?」

 そういえば気になって、何気なく訊ねてみると友希那の口元が少し歪む。

「別に……」

「大きいとか小さいとか、考えたことないの?」

「いいえ」

 今度は友希那は即答し、胸元を探る彼を視ている。

「特別、何か考えたことはないわ。あなたがよく揉んでいる、くらいかしら」

「可愛いおっぱい……」

 顔を上げると友希那は別種の赤色で頬が慌てていた。彼はすぐ近くでその様子を眺めている。今、友希那の髪型は普段のそれと異なっている。あれほど長い髪は後端の位置にまとめ上げられており、首周りがなんともすっきり、露出した首筋が綺麗で、突っ張る肌色の上に選ばれた水滴がいくつか乗っている。さらに彼は、そのような首から続く胸部の流れのようなものにもまた視線を通わせる。

「いやらしいわ……」

 すると友希那はそんな彼の視線を察知したのか、また震えた声と共に肩を揺らす。その所作についてもさらにさらに可愛い。男を愉快に迷わせるだけ魅力が十二分にあり、彼は友希那を抱き寄せた。

「ちょっと……」

 友希那の身体が愛おしい。そうだ、どんな部位というわけではない、身体については、その全部が最愛だと真剣に感じ取ることができる。普段、それほど露出しない首筋から肩までの流れが眼前にあり、腕を敷き締めると肌色が狭まっている。

 きっと、ライブステージのライトさえこのうなじの様子をよく知らない。彼はそんな場所に誰より先に口を落とし、少し舐めてみる。鎖骨の位置に溜まった水滴全てを飲んでみる。そうして顔を上げ、自分の唾液でてかてかと乱れたその箇所に湯を垂らしてみる。

「変な趣味ね……」

「それは、友希那だって」

「私が?」

 友希那の眉がひときわ強く打ち上がる。

 彼はその様相に差し込むように自身の語気を高ぶらせた。

「さっきだって、自分から体位を指定してきた」

「それは……」

 すると友希那の、その瞳から勢いが喪われてゆくことを彼は視た。何かまずい部分というか、図星のところを突かれたらしく友希那は視線を迷わせて、さっそく彼はその耳元の位置に口を近づける。

 自分から視て右手側、友希那の左頬に吐息を当てるように添えてやる。

「後ろからなんて、いやらしい」

「そ、それはっ」

「変な趣味だねぇ、友希那……」

 さらにさらに、しつこく粘っこく追求してみると、いよいよ友希那は開き直って喉を硬くする。

「あ、あなただって。あの程度のことくらい、普段からしているわ」

「でも、今日は君が提案してきた」

「それは……」友希那の目元がまた薄まり、次に首筋が起伏する。「あなたのせいよ」

 彼はその小声を逃さない。友希那の肩をより強く抱き、覗き込むように瞳を視る。

「僕のせい?」

「そうよ」友希那は即答した。「あなたは毎日、毎回、妙な企みばかりするわ」

「だから、自分も変態さんになっちゃったんだ」

 返答の代わりに水面がピシャリと弾かれる。いくつか水滴が散り、そのひとつが、彼の頬に平手打ちのように触れる。

 なんとも新しく、また可愛らしいビンタだが、これならもっと受けておきたい。

「でも――」

 彼がすぐ横でにやついていると、友希那はそれからさらに肩を揺らす。

 何か真面目な湿度を口元から感じ、彼は黙っておく。

 すると友希那はその予想通りに、どこでもない箇所を視て呟いた。

「あなたが相手なら、いくらでもみせていい。今は、そんなふうに思う時があるの」

 友希那は平然と打ち明けるが、その発言が男にとってどれだけ嬉しいことか。

「不思議だと、自分でも驚いているわ。けれど、その……」

 まさしく、彼は男としてこの世に誕生したこと、それそのものを誇りなのだと確信し、さらに自分の今までの卑猥な全ての行動が、友希那にとって華々しい変化をもたらしたのだということに安心した。

 友希那を卑猥に歪めたい。それは彼女の恋人になった誰もがきっと最初に思う。だって、これほど美しい外見に、意思の強い性格と、それから性的に無知で閉ざされた価値なのだから。それを前にして、己の色を受け渡したいと誰でも悪辣に考えてしまう。

 けれど彼はそこに加えて、友希那の中の、友希那らしさを潰したくない。大きな部分はいつもの友希那なのだけれど、その細部で彼という男の影や色味が浮き出ている、そんなものがいい。故に、友希那を相手にする際は微妙な力加減が必要になる。それは友希那がそれほど純白に近い女であるということの証明で、なんでも簡単に歪曲させることができる。彼は、そういった全ての計画がちょうどよく成就したのだと実感している。

 などとひとつ考えていると、この湯の中、友希那もまた決心したかのように顔を上げた。

「あなたが私をママと呼ぶこと、最初は理解できていなかったけれど、今なら少し、わかる気がするの。だって、好きな人には、自分がしてほしいことをしてほしいものだから」

 それから視線が彼に向かい、二人は近くでみつめ合う。

「ああ、もちろん……」

 今、二人はもう抱き合っていなかった。流石に彼のほうから離れ、けれど二人でしっかり湯に浸かる。肩と肩は狭く、それらは蹲るようにおとなしい。

 ああ、そういえばこの友希那の髪型、何か不思議だ……。

 ゆったりと時間が経過している。その中で、彼はぽつりと思い出したかのように友希那の髪型について思考した。

 あれだけ長い髪は現在、後頭部にひとつ束ねられている。友希那はこの湯に浸かる前、腰にまで至る長いものをたった二本の腕、十本の指で丁寧に巻き取り整えていた。

 その様子を彼は横で眺めているのだが、これが手品にならない理由がわからない。

 ああ女性とは、あんな芸当をほぼ義務として日々行っているのだろうか。

 そう考えると、男が思い描く女など本当に幻想でしかない。

 事実の女とはもっと険しい。男とは比べものにならない厳しい日々を強要されている。綺麗なことは当たり前、そのうえで衣服を着飾り、ちょっとでも歪みがあると男からはもちろん、同じ女も庇うことをしない。いったい、どんな陰口で遊ばれているのか、想像するだけで寒々しく近づきたくない。

 だがそれでも、多くの女はあらゆる厳しさを涼しい顔で毎日続け、さらに男どもに夢を与えている。

 たとえば社会的に成功していたり、何か富を得ていたり、地位を持つ男でさえ、女については幻想を向けている。それは世の女が、自身に課せられた鍛錬の様子を基本的に外へ示さず、ただ結果のみを周囲に与えているからであり、男は踊らされている。まさしく偉業、そこにはもちろん美しさ、可憐なものがあるのだが、それと同等の逞しさが常にある。

 そういった部分に、男は結局、女には敵わない理由があるのだと彼には思える。

「友希那は、凄いな……」

 彼は、友希那に向かって身体を倒し、けれど溺れてしまわぬように、そうして、友希那という大きな波に飲み込まれてゆく。

 

 入浴後の行動には男女で大きな違いが出る。

 男であるのならすぐにバスタオルで身体を拭き、それからパジャマを着る。だけでいい。今日の彼についてはバスタオル清掃に関しても友希那が行い、またパジャマについても明確に寝間着ではなく、ただ就寝に適した薄い造りの上下を友希那の手引きにより着衣する。

 そこに特別なことはなかった。男児であるため全ての工程を友希那ママが主導してくれることは当たり前、けれどそんな当然の対応にありがたみを感じつつ、彼は男の寝具など最低限でいいと納得しているところがある。

 対する女、友希那は少し異なっている。

 浴室を出た後、彼についてひと通り終えた後に身体をバスタオルで数周する。これは男と同じだった。けれど友希那には長い長い髪がある。こんな美しいものをただ拭くだけで済ませるわけにはいかず、身体の水滴を全て拭うと次にドライヤーがはじまる。

 彼は風呂上りの友希那がドライヤーを使用し髪を乾かす姿を眺める時間が好きだった。

 浴室、浴槽ふち部分に手を置いて身体を洗う友希那を眺めている時と同じ、それを自分が手伝うことも十分に、もちろん楽しいのだがやはり、眺めているほうが好ましい。

 また、この髪を乾かすという行為にだって技術があるらしい。

 それは彼が一方的に友希那を眺めている中で発見したことだった。つまり友希那が握るドライヤーの、どの機能をどんなふうに駆使し、髪のどの部分をどのように、どんな手順で整えておくか、というところで明日の女が決定する。

 彼は、友希那とこうして住まいを共にするまでドライヤーに温かい風と冷たい風が機能として存在することさえ知らなかった。

 さらに彼は、ソファーに座って髪を乾かす友希那を眺めているとひとつ想うところがある。

 彼が、自らの中で友希那へ最初に感じた印象とは音楽以外に関心がない、という程度のものだった。

 そういう女の人なんだ、と納得していた。友希那のバンドの他のメンバーや、活動を視る他のファン、さらにまた別の音楽的関係者たちも一度はそのように考えたことがあるらしく、それこそが湊友希那の本質である、なとど大胆に語る者も居る。

 だが彼は、こうして友希那と生活をしていると、意外にも友希那の女の子をみつけることがそれなりにあった。

 たとえば衣服だって、本当に関心がないのなら適当なものでいい。彼が寝具に関心を向けないように用途に一応適していればそれでいい。髪型だって、乾かす作業は明らかに重労働で、面倒だと一度でも感じたのなら短くすればそれで済む。

 しかし友希那はそんなことをしない。むしろ、衣類にはゴシック系という統一感がいつでもあるし、髪だって長いものにこだわっているように思える。

 それが無意識的なことなのか、それとも意識していることなのか、というところについて彼は知らなかった。少なくとも友希那とは完全な音楽マシーンなどではなく、そんな程度に収まる女ではなく、あらゆる箇所にしっとりとした女があり、そうした要素は輝く個性としていつでも彼の理性を狙っている。

 ああ、それにしてもあのドライヤーが不思議だな……。

 本当に、あんなものから熱風など出ているのだろうか……。

 彼は少し妄想した。ドライヤーというものは小さい。友希那が片手で握って動かせるほどのものであり、そんな道具の中に熱風を発生させられるほどの機械など、本当に組み込まれているのかと気になってしまうし、さらにその機械とやらは、本当にこの世のあらゆる女性の髪を乾かすに値するほど柔らかい熱を生成できるものなのかと目を向けてしまう。

 しかし世の女性は必ずドライヤーを持っている。別に友希那だけじゃない。風呂上りには全ての女性がそれを頼りに髪を撫でている。

 つまりドライヤーにはそれ相応の信頼が募られているということであり、となると一層、その中身が気になる。

 友希那が使用するドライヤーの中に男として楽しんだ後ティッシュを仕込むとどうだろう。

 もちろん機械に干渉しないように最大限配慮をし、そうしてくしゃくしゃに丸めたティッシュを詰め込む。ティッシュとは男の汁、つまり精液が染み込んでおり、そんなものが含まれたドライヤーはスイッチを入れられると普段通りに熱を生成するが、すぐ近くに迫る雄を含んで風を友希那へ放出する。

 彼は想像した。そんなものを頼りに自身の髪を必死に乾かす友希那は少し滑稽だし、ドライヤーを少しも疑わない部分が小さくって、ああ愛おしい。

 そうして考えているとドライヤーの音が止まった。風を受けて揺れる髪も収まり、そこに友希那の指が通う、何か整えた後にパジャマ姿の姫は立ち上がる。彼もそれに応じて腰を上げ、友希那が向かってくることを視る。

 友希那のパジャマはまたワンピース型のものだった。どんな極寒地帯で取り出しても独特の熱と輝きを持っているような、そういう色、というかふんわりと柔らかい形をしている。

「歯磨きの時間よ」

 彼は、そんな母親に連れられて洗面台に向かった。

 

 親子で並んで歯磨きができるだなんて愛されている証拠だと思う。

 さらにそれが朝の身支度ではなく、夜の、何か余裕のある中での歯磨きだと最高だと彼は思う。

 朝とはお互いに、まだ意識が覚醒していないこともあるし、そうなると歯磨きをしよう、という能動的な感覚はなく、なんとなく成り行きで二人並んでいるだけ、ということも想定できる。

 けれど、今は違う。

 二人、一日を駆け抜けた最後に意図して立ち並び、ジャコジャコと口を清掃する。そんな行為は互いに相手を認めているというか、許していないと成立しない。

 だからこそ彼は、こうして隣で友希那も一緒に、歯を磨いてくれていることにさえ喜びを得る。

 友希那が洗面台に口の中のものを落とし、冷水で濯いだ後に彼も同じようにした。これで歯磨きは完了だが、彼と友希那の特別な親子には他にない工程がある。

「ほら、みせて」

「んへぇ」

 友希那の合図により彼は右を向いて口を開ける。今しがた清掃が終わった口腔内に友希那の鼻先が入りこむ。天井に照明があり、その光によって友希那の鼻先、頬の部分に彼の上顎の形が引き伸ばされてゆく。

 そうして彼は自分の耳に最も近い位置で友希那の鼻呼吸を聞いた。口の中をくまなく探すような動きで、短い吸引が何度も続く。彼は身体を揺らしてしまいそうになった。こんなに懸命に嗅がれると流石に恥ずかしい。

 きっと、スカートの中に顔を突っ込んで観察される瞬間とはこんなふうに熱が込み上がる。

 適当な妄想をしているとやがて友希那の顔が外れ、彼は口を閉じた。

「あなた、わざと適当にしているのね」

「そ、そうかな……」とはぐらかしてみると友希那の右手が持ち上がり、彼はその人差し指に眉間を軽く突かれる。痛みなどは皆無で、肌を揉まれたような感触に彼はにやける。

 対する友希那はそんな彼にため息を吐いた。

「私に、叱られたいのね」

「い、いいやぁ、別に……」

 弁明するが、自分の立場が危うく狭まるこの体験ににやけることが止まらない。

「困った人……」友希那は乾いたばかりの毛先を揺らした。「いいえ、赤ちゃんだったわね」

 次に右手が伸びて彼は友希那に頬を擦ってもらう。ママは長袖だが、袖の部分は緩く垂れている。その中から細い肌色が伸び、彼は素手の中に頬を預けてみる。

 いつも、必ず隠す首元は解放されており、優しいパジャマの襟が花弁のように囲っている。

「いいわよ、仕上げは私がやってあげる」

 少し下に位置する友希那の瞳を視るとそこにはすっかり和らいだ聖母が居る。

 そんな女性に連れられて彼はリビングに至りそのソファーに身体を落とす。隣に友希那が座り、太腿の上に誘導される。

 すっかり清められ、さらにほかほかと熱の残る友希那の膝枕に彼は一番乗りをする。このリビングで照明はしっかり機能しているのだが、友希那の背丈がそれを遮り、洗ったばかりのおとなしい髪型の影が彼に映される。

 そうして歯ブラシが差し出され、彼は口の中をみせつける。間もなく友希那の目元が険しくなり、知らない力で歯列が磨かれる。

「やっぱり、全然綺麗になっていないわ」

 彼の口を覗き込み、母親は少し強い語気を出す。何か言い訳をしたいところだが口元は押えられているため発音はできない。ただ黙っていると、少しして友希那の左手が伸びてくる。

 現在、彼はソファーに座る友希那の右側から身体を落とし、頭部を預けている。友希那は右手に歯ブラシを持ち、それで彼の尻拭いをしている。

 その中で左手がふと起動し、その素手は彼の頭部を持つ。

「こうして擦ってあげるから、おとなしく待っていて」

 歯磨き中に彼がちょっかいをかけることを危惧しているのか、友希那はそのように前もって男児をあやす。

 だが流石に口の中に異物があるので、暴れたり、ママを驚かせようという予定は彼にはなかった。

 それでも友希那の中で彼とはそういう男児であり、故にその可能性を潰している。これで今は我慢をして、と先手を打つ態度が手慣れたママっぽいし、そういう対処をまだまだ若い友希那が熟知している事実が愛おしい。さらに、こうして少し片手間に素手で黙らされていることに関して、彼としてはなんとも心地がいい。

 最初は左上の列を撫で、それから反対側、そこから下部に向かい、また反対側の列をなぞる。

 そうした友希那の仕事を彼は口そのもので意識する。無言で、男の口の面倒さえみる友希那を、彼もまた何もせずみつめていた。

 仕上げはお母さん、という言葉がふと彼の脳裡に浮かぶ。また、友希那がそうした家庭的な態度に準じる度、彼はやはり歌姫としての彼女を考える。

 こうして頭部を預け、口の中まで任せる相手が普段はマイクを手に、大勢の観客を魅了している。

 現在のようにとにかく身近で、慎重だけれど凛とした姿と比較すると、すぐにギャップがあるというか、そこに付随する温度の差について彼は毎回のように真剣に検討してしまう。

 だが、彼が真に注目している部分とは実はそのギャップではなく、そのギャップについて友希那本人がなんとも感じていないらしい、という部分だった。

 歌姫として大勢を相手にする友希那も、個人として男の母親役を務める友希那も、どちらも同じ。二種類の顔には凄まじい落差があるはずだが、友希那自身はその移り変わりについて平然としている。

 歌を歌うことも、母親になることも当たり前のこととして解釈し、続ける。二種類の友希那についてどちらも好ましく想う彼は、友希那のそういった態度にこそ最大の魅力を感じている。

「奥の部分、まだまだ汚れているわ……」

 呟き、同時に首元が揺れて小さな頭部が狭まってくる。肩にかかった長いものがすとんと落ち、また額の部分の前髪が、そういう暖簾のように少し浮く。彼がどきりとするのは髪そのものというより、髪によりできる額の影で、友希那の落ち着いた表所に儚い風が吹く。

 何か目つきにも、慈しんでいるような湿度が浮かんでいる。それを見上げるだけの彼は、何がなんでもこれを密かに独占しておきたいと欲に駆られる。

 ああ、仕上げはお母さんのあのシーンで友希那と二人、揃って出演してみたい……。

「ほら、できたわよ」

 友希那の額が腕と共に彼から持ち上がる。こうしてママによる仕上げは完了し、二人はまた洗面台に向かった。

「ぐちゅぐちゅぺー、しっかりするのよ」

 友希那の言葉に導かれ、彼は口を濯いだ。白い洗面台に冷水を落とすとすかさず、「いい子ね」と友希那がほほ笑んでくれる。顔を持ち上げ、道具を片付けると友希那の両手が伸び、彼は頬を左右から掴まれる。

「ほら、こっちに――」

 少々強引な友希那により首が前のめりに動く。互いに突き出しているような体勢で口腔内と鼻頭が出会い、彼はまた口臭を確認される。

 耳に近い位置で友希那の呼吸を聞き、上がってゆくと頬の熱も離れてゆく。

「しっかり磨かれているみたいね」

 というふうに頷く友希那に彼はたまらず抱き着いてしまう。全身で女体に埋まり、腕を腰の部分に伸ばして巻き付けると友希那をみつめる。

「ご褒美ほしい……」

 呟いてみると友希那の胸が浮き、また頬が包まれる。間もなくして友希那の顎先が少し伸び、開口されると彼はその中に鼻を差し込んだ。

 はー、と低まった音がする。それは友希那が口臭を強く漏らす音で、口の奥から温かい甘いような深みのあるものが漂ってくる。彼はすかさず、勢いのある鼻呼吸をする。

 鼻で吸引すると途端に脳の奥が冷え、同時に身体の細い血行そのものが、カッと膨らむように熱を帯びる。

「んふ……」

 友希那の、におい。

「いいにおい……」

 入浴とさらに歯磨きを終えて清潔だが、それでもまだまだ香しい。唾液の濃い風味があり、それらは彼の鼻孔から肺、脳に作用しても薄まらず、においとして形を保って居てくれる。

 それから顔を上げ、口を閉じる友希那にまた彼は強く抱擁し、それから親子二人で寝室に向かう。歩きはじめる直前、友希那の指先が彼の左手を絡め取ってしかと結ばれる。そうして親子、廊下を歩いてゆく。

 就寝前、男児のことを母親が連れて歩くだなんて当たり前のことだった。

 廊下を渡り、友希那の個室に二人で入る。ベッドは整えられており、扉が閉まると同時に彼はひとつ特異な要求をママから受ける。

「それじゃあ、着てもらったところ悪いのだけれど、それ、全部脱いでちょうだい」

 彼はその指示にも、その指示を、平然と向けるママにも唖然とし、けれど股間は期待に満ちて、ただ友希那を待っていた。

 

 真に愛し合う母と子にとって就寝とは、時に残酷な意味を寄越すことがある。

 それまでママの色香にたっぷり包まれ、触れ合ってきた男児はここで一度ママと別れることになる。

 しかし、そういった最中にだって彼は友希那を感じることができる。つまりは添い寝であり、深い眠りの中で彼は好きなだけ女体をまさぐることがよくある。

 今日という日の最後を締めくくる行為もきっとその添い寝なのだろう、なんて彼は期待していた。

 だがどうやら、この聖母たる友希那はそれより少し上質な、彼の期待を飛び越えた催しをひとつ企画しているらしい。

 入浴後、パジャマを脱ぐ横で友希那は寝具を確認している。

 ここは友希那の自室で、毛布を捲ると当然シーツの色が覗き、マットレスの形もわかる。枕は二つではなく、大きなものがひとつ置かれている。全て黒色か灰色に染まっており、静かな雰囲気がある。

 今からこの中に二人で入り、眠りに沈んでゆく……。

 そんな妄想を少しでも脳裡に浮かばせると彼は、もう堪らなくなって身体が震える。

 就寝というある意味での別れにおいて、すぐ近くに友希那の熱があることは安心感に直結し、またそれをいつでも抱き寄せたり、パジャマに顔面を突っ込んだり、胸元に居座ってみたり、足を絡めてより埋まることを許されているなんて特権だとしか思えない。

「できたかしら」

 そうして浮かれながら脱衣を完了すると友希那の声がする。彼は指定された通りに下着さえ脱いだが友希那の装いは変わっていない。彼女の想定だとそれが正しいらしく、歌姫はするすると寝具に入ってゆく。

「あの、やっぱり――」

「駄目よ」

 そうしたママに彼は口元を迷わせるが、友希那はそれさえ粛清するように目元を真剣にする。

「今日一日、様々なことをしたけれど、今さらあなたの趣味を、あなたが否定するだなんて、そんなこと、私が許さないわ」

 正直なところ、彼は意図がまだ読めていなかった。

 だって、僕だけ全裸で、けれどママはしっかりパジャマを着ているなんて、それはどういうことなのだろう。この友希那がいったい、これから何をするのか、狙いがわからないし、けれど大いに期待してしまう。

 ベッドに入った友希那はその分厚い毛布をぺらりと捲った。

 毛布とマットレスのその間、光の届かない奥から覗く、見慣れた女体と彼は目を合わせることになる。

 彼からすると、それが友希那が隠し持つ、豊潤な餌のように視える。

 この、艷やかに曲線を描く部位は臀部だろうか、背丈が低く、胸元も控えめな友希那だがその箇所はふっくら、輪郭は寝具の中でよく熟れており、パジャマという優しい衣類が被さっていることでむしろ卑しく目立っている。

「ほら、おいで……」

 歌唱でもない部分で、友希那の声色がこれほど優しく変化することがあるのか。

 彼はベッドを前に、友希那を前に、そういう正しい手順のように理性を床に置いた。そうして友希那の声に、友希那の、視えない温かい素手に背を押されて閉じ込められてしまうかのように、ママのすぐ隣に戻ってゆく。

「ほら、もっとこっちに。近づかないと一緒に眠れないわ」

「う、うんっ……」

 友希那は彼を歓迎した。さっそく背を撫で、肩を擦り、彼が落ちてしまわないように、毛布を持ち上げ中に誘う。

 柔い、柔らかい友希那の肉体とそれから仄かな体臭が溶けた熱を、ママは毛布で操って彼は抱擁される。

 そうした内部で、彼は友希那を嗅ぐしかない。

 友希那という空気を吸って友希那を吐いていた。息を吸い込むと友希那が巡って、放出する空気も友希那、やってくる空気も友希那に満ちている。十分な友希那の色香が空気中に染み込んでおり呼吸が楽しい。

 皮膚に友希那という熱気が触れ、どんどん、肺の中に友希那が充満し色濃くなる。自身の中の寒気、その奥まった部分まで丁寧にほどいてもらって、代わりとして、濃厚な友希那が迫ってくる。

 彼は自分を虚脱させ、肢体そのもので友希那を揉む。するとママも応えてくれる。友希那だって、彼の背中のほうまで腕を流し、するとあのパジャマの緩やかな造りが少し歪む。長い髪型が懐の位置まで垂れ、それからママは、男の角張った肉体を褒めるように撫でてくれる。

「ふふ、近いわね」

 天国。

 彼は脳裡で、そんな単語がふと浮き上がる心地を得た。ほぼ衝動的な思考で意識が追いついていない。

 彼の雄は目の前の天国を逃さない。だってだって、こんなに密着していると股間の部分がまず先行し、友希那の表面をつんつんすることになる。呼吸をし、鼻先も、ああこれは友希那の体臭だな、などと勘付いて猛烈になる。呼吸、呼吸の度に身体が引き締まり、内側の、何か細胞の部分が武者震いに煩くなる。

「凄く、硬くなっているわ」

 次の瞬間、荒波を泳ぐ鮎を鷲掴みにするように、友希那の素手が股間を掌握した。

 毛布の中にて、その居場所をようやく確立させた彼のものはついに友希那に捕まった。これは右手だろうか。彼は友希那の左に居るが、友希那のほうから寄り添い、そして毛布の中で素手が大胆になる。

「もう寝るはずなのに、なんだか震えているわ……」

 五指と竿は逢瀬をし、彼でも予測できない蠢きが次々と発揮される。だって視えない。今、彼は友希那の手引きにより肩まで毛布を施してもらっている。そんな中で友希那のほうが彼へ寄り添い、パジャマの肩は裸体の肩と擦れ合う。女の素手が泳ぎ、男の硬いものが奪われてしまう。

 操縦権を剥奪された男にはもう何もできず、ただ「友希那……」と愛する者の名を口にするしかないのだが、その最後の砦さえ歌姫は堕としにかかる。

 この寝そべったまま、飛び込むように細い首が少し男へ持ち上がり、口元に被さる。たった数秒、小さな頭部は大勢の長髪を引き連れて持ち上がるが、口が自由になると次は毛布の中、竿を引き絞る五指が強烈になって、彼はやはり「友希那……」と口ずさむ。

「おやすみなさいのちゅーが、まだだったわね」

 そうして友希那は再び彼に落下する。その瞬間、添い寝の形が母と子から、男女のものにすり替わる。

 ただ横に並び、身体を脱力させ、時おり互いの様子を確認するだけだった。だが今は、寝具の中で身体をラクにする男に女が乗り上げる。適当に開かれた両足部分に太腿が触れ、股の部分に差し込まれる。腹部同士が擦れながら、胸部が胸板の上で少し潰れる。髪型が優しく崩壊し、どこかから飛び出た毛先が男の首元、あるいは鼻孔のすぐ近くを通り過ぎる。

 自分の身近に男児を置き、見守るような様子だった友希那は今度、男に乗り、男の急所を雌の特徴で押さえて媚びを売る。そうして雄の様子を窺い、ついに耳元で卑猥な勧誘を彼は受け取ることになる。

「出せ」

 撫ぜれている竿の部分が一斉に、友希那に向かって搾り取られてゆく。極地に至った彼は己を留めようと必死だが友希那の重量には敵わない。

 そうして彼は、友希那との個人的な部分の中で、粘ついたものをまき散らすことになる。瞬時に友希那の唇が、その唾液や舌が射精について褒めてくれる。

 しかし股間、毛布で隠れて確認不可能なその部分ではきっと、彼の予想より大胆な雄が披露されている。毛布の中で、吐き出したものはまずその毛布に激突し、染み込み、また飛沫は、友希那のパジャマにだって迷惑をかけている。彼女の丸みを帯びた下半身に精液が垂れ、友希那の動きによりどこかにこぼれてゆく。そうして精液は薄く、だが毛布内部の全域に広がって悪臭が立ち込める。

 毛布の中で二人きり、射精後の余韻で放心状態にあると友希那が、胸板に頬ずりをしながら彼を覗く。

「どうかしら。私のベッドも、パジャマも全部、身勝手に汚した感想は」

 ベッドに身を置く彼は動かず、友希那が表面で奉仕を続ける。射精したばかりの竿はその卓越した技術によりまた立ち上がり、周囲の適当な粘液と共にしごかれる。

「それじゃあ」友希那の口元が耳に伸びてくる。「お射精、しましょうか」

「でも、毛布が汚れちゃうよ……」

「構わないわ。だってそんなものより、あなたが気持ちよくなることのほうが大切よ」

「そ、そんなっ――」

 彼は鼻先をツンと震わせた。ほぼ頭上の位置に友希那の顔がある。いつの間にか男体は友希那の懐に収まっており、友希那に見下ろされている。

 こんなこと、いいのだろうか。

 一度極楽な射精を終えた一方で、彼は戸惑いを得ていた。しかし眼前、いいやこの、身体を取り囲む全ての要素、つまり友希那がすぐ近くでにこやかにある。

「だってあなたは、こうしてあげないと眠れないでしょう?」

 このママはすっかり、僕の好みも、それに添う覚悟も備えているというのか。

「あなたは赤ちゃんだから、母親である私にしっかり密着して、たくさんお漏らし射精、していいのよ」

 いつも、美しい友希那のことを僕が独占したいと願っていた。しかし今、むしろ友希那のほうがそういう、湿った、二人きりの関係性を要求し、よしとしている。

 そういう最後のひと言が、彼の中の少しの戸惑いさえ拭ってくれる。本当に幸福なことだ、と自覚しながら、彼は友希那のすぐ近くで湿ってゆく。

 それは最初のものとは異なっていた。最初のものはいうならば不意に出た。けれど今度は違っている。今度のものは明確に、この寝具と、それから友希那を汚そうと勢いに乗っている。

 そうしてこの中、射精することを前提に造られていない部分に、たっぷり雄をまき散らす。

 今の彼は何も着衣していない。対する友希那はパジャマを着衣している。彼のものを受け止める相手とは、友希那のパジャマとシーツに毛布、また友希那の肉体そのものしかない。

 さらに、友希那はそういうものをとっくに許可し、彼に促している。

 今日一日、舐め尽くされた竿は恩返しといわんばかりに毛布を、パジャマを汚して駄目にしている。あらゆる観点から不道徳的だと判断できるこの状況だが、最も不利益を得るはずの相手からそれを推奨され、より意欲的に次の射精に繋がる。

 つまり、ママが視ているから。だからもっと、もっともっとカッコいい射精をしたい。

 自分が放つ放物線が、あるいは飛沫がどこに向かうのか、そういうことさえ彼は詳しく考えず、ただ放出することだけ、それに伴う快感だけを友希那に包まれて体験する。

「いい子ね……」

 すぐ横の友希那は射精を終えた彼に抱き着いて、さっそく、労うように彼を撫でた。

 彼は真の意味で身も心も許された絶頂に到達している。精液はローションの代わりを演じ、彼は自身の男体の上にて、この友希那の太腿や足先が、あるいはそこに備わるパジャマの湿った布の質感が、ぬちぬち、ぬちぬちと転がることを体験する。それもまた心地いい。その甘いような、けれど香ばしいようなものに発情が止まらない。

 このまま、友希那に握り込まれたまま、彼はもう一度ベッドの中で白く漏らしておく。正真正銘のマーキングだった。そうして友希那に、ベッドにだって、僕のにおいを塗り込んでおく。

「……変態ね」

 そんな粘液を友希那は、つるんと際立った肢体でさらにかき混ぜる。そうして二人のにおいは毛布の中で、音を立てつつ深みを増す。

 

 もう、この一日が終わる。

 毛布の中で好き勝手に暴れた後、そういう体力も失くした彼はぽつりと思う。

 この一日が終わるということは、友希那はもう、ママではなくなるということ。対する彼も、友希那の赤ちゃんではなくなってしまう。

 もちろんこれからの性行為でも彼は、きっと友希那にママを求めるし、友希那だって、それに応えてくれる。だが、今日という一日の家の様子、赤ちゃんと化した男を世話するだけのこの空間、時間、雰囲気はもう終わる。日常的にママになってくれる友希那のことも見納めになる。

 それは最初から決められたことだった。彼だって本当に赤子ではない。故にその、やがて到達する事実について知っていたし、身構えていたのだが、実際にそういう瞬間を前にすると流石に寂しくなってしまう。

 今、毛布の中で重なり合う彼と友希那だが、彼はママの胸元に隠しておくように欠伸をする。ふわ、と喉の部分が鳴って、思わず口角から唾液が垂れる。

「んっ……」

 そうしていると友希那が、可愛いママの口元が寄り、とろんと垂れる男のものを舐め取ってくれる。本当にママみたいだ、そんなわけがないのに彼は、この人に最初から育てられたことを薄ら脳裡で思い付く。

「今日、楽しかった……」

「よかったわ」

 ベッドの上、毛布の中、友希那のすぐ近くでママに抱き寄せられたまま、彼は煙を浮かばせるように呟いていた。

「あなたが楽しめるように、気持ちよくなれるように、そういう一日だったから」

「でも、寂しいよ」

「寂しい?」

「終わっちゃうからさ、もう……」

 そうだこんなものも、眠ってしまえば終わってしまう。

 彼は友希那の口元に向かった。胸中にふと花開く、こんな寂しさを踏み潰してほしい。ママは応えてくれる。二人はこのぬるついた寝具の中、男が下側で女が上側、重なり合うように接吻する。

 たっぷり十分、互いの粘膜を擦った後に、毛布の中で友希那の右手が蠢いて、彼の股間に被さって留まる。左手、というより左腕は彼に添っており、頭部を撫ぜたり、額を擦ったり指遊びが少し芳しい。

 流石にもう、彼に立ち上がる力はないが、友希那だって、それは期待していない。

 友希那の素手は彼のことをゆっくり掌握し、撫ぜてみたり、まるで鼓動のように、トントンと軽く、なだめてくれる。

「終わるのなら、またはじめればいいだけよ」

「ま、また……?」

「ええ。こういうことをまだ、何度でも」

 それは本当に母親が、眠れぬ男児を気遣うような動きだった。両手だけではない。この独特なぬるつきを纏う毛布の中で女体と男体は密着し、彼はあやしてもらっている。何か、調子が整う。急所に触れるこの刺激を起点とし、身体そのものが、精神も、ゆったり落ち着いて均一になる。

 それはもちろん性的に心地いいのだが、彼としてはそれ以上に何か、肯定されているような感覚がある。

 他のどこでもない、真っ先の雄の急所に手を添えて、優しく撫でてくれるなんて。

 勃起そのものを嫌悪し、よいものとしない人だってそれなりに居る。確かに、個人的な欲求だけで勝手に持ち上がる竿に、何か不純な香りがしないわけではない。けれどこの友希那は、そうした雄の最も基本的な仕組み、そのものを撫でている。

 友希那の風味が充満するこの中で、竿にさらに専用の掛け布団が施されている。

 勃起してもいい、硬くなってもいい、大きいままでもいい。そんなふうに教えてくれているというか、そんなふうに、友希那に撫でてもらっているから、もうなんでも、安心できるような気がする。

 そんな充実感の中で、けれど彼は、ふと自分の小説について思い出してしまう。

 それは余計な思考だった。なんだか、急に現実に引き戻されたというか、冷水を顔面に投げつけられたという心地がする。

 だがもうそろそろ、現実のことが必要だ……。

 彼の小説への思考は拭い消えないものだった。その思考は、実はどんな性行為中であっても途切れることはなく彼の中を巡ってくる。もはや呪いで、生き様で、けれど最近は、あまり書けていなくて……。

「大丈夫」

 友希那の声、それから頬を擦られて、彼は自分の胸中を無意識に吐露したことを自覚した。

 そんな不意の態度さえ友希那は一生懸命に抱擁してくれる。この愛情深さが彼を引き寄せ、そうして今がある。

「あなたなら、できるわ」

「そうだと、いいけど……」

 柔らかいものに温められる中、彼は密かに、嗚呼聖母、と呟いておく。

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