※この作品はR-18です。

君は湊友希那。   作:美肉。

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湊友希那保育園。①

 湊友希那保育園あおばら組には湊友希那という保育士が居た。

 この保育士友希那は聡明な友希那だった。保育士として最も基本的な報連相に加え、微妙な気遣いや経験を頼りにする姿勢は他の保育士から敬意を集めることとなり、また、誰が相手であっても物怖じせず意見を進言する様子には羨望がよく向けられた。

 保育士友希那は園児にもよく求められた。普段、友希那の態度には確かに何か威厳があるというか、重たい。小難しい雰囲気があるのだが、たった一度でも対話をするとそんな印象は間違いだったと思い知る。上から目線で論じるのではなく極めて同じ視線で立ち並び、共に考えたり意見を出し合うという接し方はむしろ園児にとって親しみやすいものだった。

 園児が何か失敗を恐れていれば友希那はその背をそっと押す。園児が何か物事を為せば友希那はそれ相応に褒めてくれる。

 悪戯が発覚するとそれもまた相応に叱り、けれど無作為に怒鳴ることや暴力に頼ることを友希那は絶対にしない。

 保育士友希那はあらゆる言動が適度だった。過度に褒めることも大袈裟に罰することもしなかった。そういったやり方が園児の自尊心を育てているのだが、行き過ぎたやる気に満ちている園児が一人居た。

 湊友希那保育園に通う彼は湊友希那を母親に持つ一人っ子だった。

 この母親友希那は強かな友希那だった。母親として、彼という息子を育てつつ、女として己を磨くこと、音楽家として鍛錬を続けることをやめていない。

 そんな生き様を間近でみつめる彼はまず己がこの人の息子であることを忘れた。

 ある晩に友希那を女として求め、彼女がそれを受け入れることで二人は男女として結ばれた。

 初夜を終えた友希那だったが態度に変化はなかった。『ただの母親』から『ママ彼女』へ昇格したわけだが、それでも彼は息子という側面を捨てたわけではなかった。二人には親子としての生活がまずあり、それが陽と共に終わるとついに男女になる。

 同じ人の、正反対に位置する別の顔が愛おしい。それをただ自分だけがみつけ、想い、舐めしゃぶることが嬉しい。

 そうして彼と友希那の逢瀬は重ねられてゆく。それでよかった。それでいいと彼も思っていた。しかしその脳裡に最近、それだけでは済まされない事態が発生した。

 保育士友希那のことが頭から離れない。

 保育園に入園してそれから最初に接して以降、保育士友希那は何か専属のように世話をしてくれる。もちろん友希那としてはただの仕事で、彼のことも、数ある園児の中の一人程度にしか思っていない。だが彼としては友希那の美しさがいつでも恋しい。あの薄紫の長髪、その合間から視える肌色に、保育士用エプロンやシャツに付属するにおいが愛らしい。

 それはもう男として避けられない事態であり、つまり彼は男として保育士の友希那に惚れている。

 彼と友希那は男児と保育士という関係性だったが彼はすでにこの保育士友希那のことを女としてみていた。

 彼は性に目覚めると同時に保育士友希那の女性的な色気についても理解しそこに夢中になっていた。

 自分はもう男として、後には戻れないなという気概は確かにある。けれどそれより、このいい女をどうにかものにしたいという意欲に満ち満ちている。

 彼は男児として友希那に対し無条件で欲情を示すことをしなかった。

 それは当然のことだった。いいや確かに、男児という立場を利用すれば、たとえば尻に触れたり胸を擦っても許される。そうして友希那の意識を自らに向かわせ、上手く懐に染み込みそのままねんごろ、湿った関係性をはじめることは容易のように思える。しかし彼はそうした『奥の手』を使わなかった。男として意中の相手を不必要に驚かせることはない。故に普段はただ一人の男児として、友希那も当然、そういう彼を世話する若い保育士として、二人は平和健全な関係を造っていた。

 彼は母親友希那のことも好き……。

 だってだって、ママはなんでも受け入れてくれる。僕が性に目覚めたきっかけもこの人だし、ママはどんな我が儘も検討してくれる。そうして許容してくれたり、折衷案を提示する。

 彼は友希那のそういう部分が好きだった。餓鬼だからといって適当にやり過ごさない姿勢が男児としては本当に嬉しい。ありがたいと思っている。だから、ずっとずっと、そのようにあってほしいと願っている。

 そして、そういう熱量と同じくらい保育士友希那のことも求めてみたいと思っている。

 彼の園児としての一日などすぐに過ぎてしまう。その中でどんな理由をでっち上げて、友希那に抱っこをしてもらうか、というところが、彼の今の最も真剣に検討すべき作戦だった。

 母親の友希那と保育士の友希那、そのどちらと結婚するか、なんて、勝手に悩んで過ごすことが彼の今の生き様だった。

 

 母親の朝とは忙しないものだった。

 誰よりもまず自分が先に起床し支度をある程度整える。朝食の準備も並行し、それから子供を起こすことになるのだがこれが厄介で、子によっては駄々をこねたり素直に起きてくれない。それでも母親に職務を放棄することは許されず、規定の時間までに子供を整えて保育園に送り出さなければならない。

 幼い子供を持つ母親にとって平日の朝とはまさしく戦いであり、段取り、というものが全ての勝敗を決することになる。

 そういう意味で、友希那という母親は優れているなと彼は思う。

 きっと、数時間も前から起床して家事を行い、けれど息子のことはぎりぎりの時間まで寝かせておいてくれる。それで余裕がないというわけでもなく、彼は起こされて、ちょっと駄々をこねても友希那は妙な顔をしない。それどころか上手く、寝起きの男児の調子を取り持ち支度完了まで導いてくれる。

 経験がものをいう、なんて評価すればそれまでだが、友希那の朝の段取りには経験以上のもの、つまり元々の素質というものを、それを受け取る身としてはひしひしと感じる。

 さらに、そういう少しの慌ただしさを経てもまだ余裕があるので、というか友希那がそれを用意してくれたので、彼と友希那は一瞬だけ、母と子から男女になる。

 現在、全ての準備が整った後に二人は寝室に入り浸り、彼はベッドへ腰掛け股間を意識する。友希那はというとそんな男の近くにしゃがみ込み、左右から迫る五指がズボンを下げてくれる。

 少し前、他でもない友希那自身が両手で丁寧に掃かせてくれたズボン、保育園の他のどんな園児にだって自慢ができる装いなのだが、そういうものを母親が自らぶち壊し、最奥、無防備に膨らむパンツにだって手を伸ばす。

 けれど今度は脱衣にまでは至らない。ゴムが巡る箇所に指を引っ掛けて少し下ろすとその隙間に口元を軽く差し込む。

「ママの熱、たくさん感じて……」

 朝一番、彼が股間で体験したものとは友希那の吐息だった。パンツにズボンと二重に塞がれ、その中で雄っぽく凝縮された熱気が溶けて、代わりに貴重な母親の息が溜まってゆく。生い茂る陰毛も、我慢ならない竿そのものも報われる。

 友希那はそれから二度、三度とふーふー癒して、十分にママの湿気が染み込むとパンツが完全に下がり、打ち出されたものを右手が抱擁してくれる。

「朝から、こんなに大きく……」

 息子の陰茎を握りつつ友希那は彼を睨んだ。

 いつもの控えめな、けれど力強い眼光に朝の挨拶をする。早朝から墓勃起をする息子について意見があるのか、しかしそんな態度の一方で、右手は竿の形に素直に従い上下運動を開始する。

 竿と素手が馴染むと友希那はより前かがみになる。竿の先端に口が迫るのたが、最初は吐息だけ。これは今から行うことが全て安全で、むしろ心地がいいのだと竿に教えている仕草だった。

 数度、そういうものを行うとついにあの肉厚が亀頭に触れ、彼は友希那の口粘膜が伸びて自分のものに被さったのか、それとも居心地のいいおむつに竿そのものがにゅるりと入りこんだのか、果たしてわからなくなる。

「あむ……」

 今の友希那の体勢は蹲踞だった。

 両足は膝関節を起点とし折りたたまれているため脛の上に太腿が何かこんもり溜まっている。

 そして口元は認めた男に付属している。

 引き伸ばされた頬肉は陰茎の形にちょうどよく密着し慰めてくれている。肌色の中に筋張ったものが浮かび上がり、けれど友希那の目元の部分はいつでも真剣な表情で彼のことを仰いでいる。

 彼はそんな友希那の様子を全て座って視ているだけでいい。一望し、目を合わせ、母親の巧みな舌の動きを、口腔粘膜と擦れ合う感覚を朝っぱらから受け取るだけでいい。

 これは友希那の母親としての実力と、それから彼が、そんな友希那の息子に終わらず恋人に昇格したという運のよさによるものだった。

 ベッドの上を視てみるとそこに陽光が、けれど窓枠が、その白色を十字に切って伸びている。

 口でヌいてほしい、と要望を出したのは彼だが、口と竿で遊び合うための時間を考慮しつつ、支度を完璧に仕上げるための手順を立案したのは友希那だった。彼はただ、そんな有能なママの素早い判断に従っただけ。

 さらに、それほど母親として優秀な友希那の恋人になったことについてもまた、彼自身の努力などなかった。

 強いていえば、彼は日々、友希那のことを性的に視ている事実をその友希那自身に暴露し続けた。あらゆる周囲の情景や過ぎてゆく物事を友希那との痴情に結び付け、いつでも友希那の口を、手を脇を胸を腰を足を、そして膣を、きっと美味だろうなと褒め続けた。彼が男児として友希那のそういう部分に直接触れる機会などほぼなかったし、友希那も最初は知らないふりを続けていた。悪戯好きな餓鬼のお遊びだとでも思ったのか。しかしそういう、するりと冷たい態度がむしろ彼の雄としての意識をより確かな硬さへ繰り上げる。

 猥談はさらに下劣なものへ至る代わりに彼も友希那への愛を隠さない。

 赤い薔薇があれば友希那のようだと語り、青い薔薇があれば友希那のようだと語った。

 適当ね、と受け流されると今度、困っていると打ち明けた。何か園内でいがみ合いがあるのか、と察して様子を変える友希那を愛おしく思い、またにこやかに、全部の薔薇が友希那みたいだと語った。

 さらに今度、夕暮れを指さしてあれも、と呟くと友希那がそれを制する。

 振り向き、橙色の光が藍色の影を引く母の顔を視ると口元が、いいや頬が、いや、その顔そのもの全てが雌一色に晴れ、太陽はあなたみたい、と口ずさむ。

 それから少しの間、子育てによりまた成長する母親の関係性を、太陽の光とそれにより元気よく育つ植物、つまり光合成になぞらえて語る友希那の声を聞き、そのうえで息子が太陽だと明言する母に誇らしさと小っ恥ずかしさを得て、そんなものも心地いい。母親はついに「本当に私でいいの?」などと口を割り、彼は言葉を返さない。ただ、チャンスをようやくものにしたという確信を元手に友希那を、大好きなママをベッドで圧し殺す。

 親子だからって、そんなことは関係ない。

 だって、彼は友希那を求めているし、友希那も彼を許している。そうした男女についていったいどんな人々が、あるいは権力が批判を向けられるだろう。

 そのように母と子は結ばれ、今日まで男女の関係が続いている。

 今、保育園への出発前に、いつものように口で相手をしてもらう。

 友希那が彼の陰茎を大きく頬張りいくつか頭を忙しなくする。それから唐突に浮き上がり、口が離れたと思ったら今度、その湿り気は睾丸に向かう。

 陰茎のさらに下部、何かだらしなく垂れているその箇所にママはわざわざ唇を伸ばしてくれている。肉厚なものが優しく、けれど外れることなく男児の肌肉に服従し、清掃でもするかのように啜ってゆく。またこの間、竿だって放置というわけではなく、代わりとして右手がぬちぬちと働いてくれる。

 そんな心遣いがなんとも気持ちいいじゃないか。

 ママだって、最初はあれだけ単調な口淫だった。こんなに口を窄めて、べっこり頬をへこませること、それをよしとし、披露してくれることなんてありえなかった。

 けれど今は違う。今やむしろ、この友希那のほうが肉棒の調子や好みを網羅し、使い分けて、口淫となれば必ずその柔らかい唇は竿に注力してくれる。

 友希那は彼のママとして、それほどまでに真剣に陰茎の面倒をみてくれているし、またそんなふうに、息子の股間についてひとつ案内ができてしまうほど回数を重ねてきた。

 ああこれは、そうだ――。

 よいママで賞、なんてものをでっち上げて友希那に渡したいな。

「賞?」

 ふと、実際に提案してみると友希那の動きが停止し外れた口で訪ねられる。

「うん!」

 と彼は元気よく首肯し、さらに解説する。

「友希那先生がね、よくやってくれるやつ!」

「そう」

 ママはそれだけ、短い返事をしただけで戻ってゆく。

 やっぱり母親の技術とは相当なもので、ぴくり、彼はついに友希那の口腔の内部にてもうお手上げだと示してしまう。けれど終わらない。蹲踞のまま彼を咥え込む友希那は、彼の発射と共に身体そのものを前に差し込んだ。両腕は腰をそれぞれ持つ、というわけではなくなんと、彼の背面に巡ってぎゅっと引き絞る。

「あうぁっ……!」

 本来、母親から子への抱擁とは純粋な愛情しかありえない。

 そこに性的なこと、淫らな思惑など少しも漂っていない。母が、ひたすらに我が子を愛し、肯定し、褒めてあげる。そういう熱烈な意欲が抱擁という行動を発揮させ、子は母親の濃厚な熱気によって己を獲得する。

 そうしたものが抱擁なのだが、それが発動する位置が股間では、いくら思いやりのある母と子であっても淫らになる。

 男性的に限界を迎えた彼は当たり前のように射精をし、友希那もまた当然、それを口で受け止める。自ら喉を献上するように顔そのものを彼へ押し込み、それだけでなく両腕を、彼の腰全体に巡らせて離さない。

 これもまた抱擁だった。しかし何か尊い、温かい、という印象など皆無で、母は性的に子を認め、子もまた性的に母を求める。互いは実は、すでに母でも子でもなく、真っ当な男女として、口腔内射精が続く。

 ママ許して、ママもう許してっ。この射精は、そんななさけない男児の最後のお願いなのだが、この友希那という母親はそれを考慮していない。彼が持つ精液、今まで、友希那の柔らかく熱された箇所でのみ生成されたそれらを友希那は堂々といただく。

 男体の腰、その位置に抱き着いたまま頬をへこませ、喉を一気に絞り上げる。何か、引きずり出されてゆくような心地が彼をさらに高ぶらせ、多大なものが流れてゆく。

 それも当たり前のことで、男の濃厚なものを受けた母親はそれからオンナになる。抱き締める相手とは子ではなく、男。今まさに、友希那と彼は親子でなく恋人関係のまま組み合わさり性的に続いてゆく。

「んぶ……」

 彼のものを全て咥え込み、腕まで廻して喉を鳴らす母親はまるで活発な少女のように息子を見上げている。弱点をみつけたというか、何か好機を得たかのようにまたはじまる。口腔内、すっかり奥にめり込む亀頭を友希那の舌先が掬い取り、鈴口の部分を刺激する。彼は反射的に身体を離そうとするが母親に敵うわけがない。

 ママ駄目っ、もう駄目なのっ!

 息子といえどこの部分はすでに発達し尽くしており、その力強さ、また味、粘っこい舌触りに友希那はすっかり身分を忘れる。

 この雄を一滴残らず自らに回収し吸収する。

 今の友希那の中にはそれしかなく、細胞の部分がそのように盛り立っている。

 やがて十数秒後、すっかり萎んだ竿が天国から戻ってくる。友希那の口元は最後まで、彼のそんなものに貼り付き淫らな音を立てている。そうして最後、亀頭から外れると竿は完全に下に向き、友希那も彼のシモの位置から立ち上がる。

「友希那先生というのは……」

 射精後の余韻に浸っていると友希那が口元を拭いつつ訊いてくる。

「その先生は、女の人かしら」

「うん。そうだけど」

 彼は平気な顔で肯定した。

「そう……」

 それから彼が奉仕に対する感想や感謝を口にする間もなく、友希那は母親らしく時計を睨んだ。

「時間ね……」

 彼に衣服を整えるように命じ、パンツ、それからズボンを持ち上げると送迎バスがやってくる。

「行きましょう」

 手を引き、一階に降りて玄関扉を開け歩く。車道にバスが止まっており、出入り口扉の向こう側に保育士の友希那が会釈をしている。

「おはよう。今日も綺麗な服装ね」

「マ、ママがやってくれたから……」

「あら、そうなの」保育士友希那はその場で視線を上向かせ、彼の後方を視る。「この年齢の子は少しやんちゃな子が多くて、大変のはずなのに……」

「ええ、そうよ」

 母親友希那は彼の肩に手を置き、身体を少し擦ってくれる。

「この子は優秀なの」

 彼は家が落とす影から道に出た。その瞬間に迷子になったような不安感に捕らわれるが、後方から聞こえる母親の声に振り返る。

「忘れものよ」

 いってきますのちゅーをして、湿った口のまま、彼は保育士友希那に挨拶をした。

 

 湊友希那保育園三者面談当日、彼は極度の緊張にあった。

 それは当然だった。誰だって面談という文言を聞けば己の肩幅が縮まったような心地を体験できるし、それが園児という身分ともなると極度に至る。また彼という個人としては、恋人としての関係を持つ母親友希那と、それから密かに恋慕を向ける保育士友希那が同じ席に存在し、まさか自分について語るなど警戒心が薄れるほうがおかしなことだった。

 それでも時間というものは平等に過ぎてゆく。それを残酷だと歌った作詞家もきっとどこかに居る。便所から出た彼は何か気を配るように廊下を見渡しながら歩き、別に誰かとそれらしい挨拶を交わしたり、いかにも、といった口ぶりで調子を訊ね合うこともせずあおばら組室内に入った。

 室内は片付けられていた。いつも、いつも他の園児が適当に放り出した玩具がある。けれど今は違った。そういう不真面目を一切許さない雰囲気が室内に満ち、ただ唯一、室内中央にテーブルとそれから椅子がある。

 出入り口に立つ彼はまず、振り返ってこっちを視る瞳と触れた。保育士の友希那先生だった。何か胸踊る彼は次に、その友希那の向こう側、室内の影を斜めに切る陽光に少し当たった薄紫を視る。

 それは母親の友希那の長髪だった。

 テーブルには四つの椅子があり、彼は歩いて保育士友希那の隣に座る。少し姿勢を正すとすぐに、隣で、面談についての説明がはじまる。

 彼はその説明について少しも耳を向けなかった。

 面談の概要や手順については事前に先生から聞かされていたし、そもそも今の彼はそんな、冷静に話を聞くことができる心地になかった。

 そうして椅子の上、そわそわとあちこち視ていると友希那の声がする。

「――大丈夫よ」

 白色の半袖シャツに長袖のジーパンを履き、その上から桃色のエプロンを着ている。胸元右側に『ゆきな』と書かれた名札があり、またその首元に整った長髪が流れている。

「三者面談、なんて難しい名前がついているけれど、ただ先生と、それからお母さんの三人でお話するだけよ」

 すぐ隣、少しでも視線を持ち上げると保育士友希那の顔が視える。その様子というか、容姿はやはり整っている。しっとり熟れた大人としての貫禄を湛えつつ、厳しすぎない目元に惚れ惚れする。何か強かというか、研磨された自信が香る部分は母親に似ているのだが、この保育士友希那と母親友希那には明確に違いがある。

 それは彼が、母親友希那と恋仲にあるからこそ察知できる差異であり、この保育士友希那は体臭が少し異なっている。

 一般的に、なんの特異でもない距離感だった。そうしてただ隣に居るだけなのに、彼の嗅覚は敏感に雌を察知している。

 横から流れてくるこの色香、ある程度、体力勝負を求められる保育士として、懸命に生きる女性の底力、どうしても拭えない可愛らしさ、それから積極的な発汗の味がほぼ均等に混ざり、その体臭は、彼の中から雄を引きずり出す。

「いつものあなたでいいの。私もお母さんも、そうあってほしいと思っているわ」

 ああ、駄目だ。ママじゃない女の人なのに……。

 だって、そんなふうに優しくされるともう、勘違いしてしまう。

 僕、この人のことが好きなんだ、などと股間が喜んで向かってしまう。

 彼だって、懸命に己を我慢した。友希那によく似た、けれど友希那と異なる雌に負けてはいけない。今すぐママに抱き着きたい。面談など中断し、ママだけを個室に呼び出したい。それであの腰辺りに手を添え抱き寄せたい。股間の様子をみてほしい。勘違いを起こしてしまいそうになる。この横から続く風味が、長い、つるんと調子のいい髪が、いつも真夜中、あるいは早朝に嗅ぐ、寝室と同じなのだと引っ張られてゆく。

「ねぇ、あなた――」

 前方から聞こえる友希那の声に彼は額を上げた。あおばら組の室内で、母親の友希那がじっとりと睨んでいる。

「聞いているの?」

「ああ、うん……」彼は椅子の上で戸惑った。「大丈夫、聞いてるよ、聞いてる」

「しっかりしてちょうだい。もう面談ははじまっているのよ?」

「ああ、うん……」

 すでに面談説明が終わり、面談本題に突入しているようだった。

「先生、すみません。この子、やっぱり集中していないようで……」

 彼の視界の中、大好きなママと大好きな先生が言葉を交わしている。彼はその微妙に揺れるまつ毛がそのうち、身を寄せ合うように触れてしまうのではないか、なんて薔薇の楽園を見守るように想ってみる。

 だがそういう妄想も、隣の友希那が戸惑った声を出したことで終幕した。

「あら……?」

 視界すぐ横の長髪が歪む。友希那の視線は彼のその、顔でも胴体でもない股間に向かう。彼は身を揺らした。そんな中途半端な誤魔化し方がより友希那の興味関心を育て上げ、視線の先に素手が伸びてしまう。

「あの――」

「これは何かしら」

 真白い素肌の五つの指がテーブルという影の中に突入する。友希那に迷いはなく、やがて彼の麓を少し擦ると金具を摘まむ。それは彼が履くズボンのもので、ジッパー開封音が鳴る。まずい。彼はこの時間そのものを止めたかった。巨大な時計を全身で妨害し、その運動を止めたかった。だが彼などというちっぽけな力、それがどれほど熱烈な意思の力であってもなんの効力も付与されない。友希那の細い指はズボンを割り、その奥に潜む、ママの下着を摘まみ上げる。

「ああっ、駄目っ!」

 詰め込まれたものがほぼ抜き出た時、彼は、待って待ってと追うように己を打ち上げることになる。その飛沫はテーブルに至り、静まった彼は目を見開くママを視た。

 

 射精が終われば男は現実を理解する。

 今度、現実に追われるというもので、彼の視線はすぐ前の、このテーブルの上さえまともにみつめることができない。

「これは大変なことよ」

「ご、ごめんなさい……」

 対面の席で母親友希那が鋭く 責する。腕を組み、うなだれる彼のことを睨んでいる。

 額を上げることなどできなかった。そうすればママの怖い目が待っているし、何よりテーブル中央に、そのママの下着がある。

 これは、私の下着だわ……。

 つい先ほど、そんなふうに面食らっていた友希那はすでに威厳を持ち直し、尖った面持ちにある。どちらにしろ色白で、健康的な美しい肌であることに変わりはないのだが、今はそんなことを気にしているわけにもいかない。

「あなた、勝手に持ち出したの?」

「ご、ごめんなさい……」

 発音と共に肩幅が窮屈になってゆく。罪悪感とそれから羞恥心、その両方が体温ではない不思議な熱気として身体を這い、意識が追い込まれてゆく。

 けれど母親の叱責は止まらず、より鋭い部分へ言及する。

「隠すわけにもいかないから、おちんちんのところに詰め込んだのね」

「いやっ、違う」

「違う?」

 友希那の眉がぴくりと上向いた。同時になんの細工もない長髪が揺れ、奥まった位置で眼光が引き締まる。

「あの、お、お守りに……」

「お守り?」

 それはどういうことかしら、とより強く、深く、母親の声が波のように彼を打つ。

「だって、今日のお話がちょっと、怖かったから。だからママのパンツ、お守りにしようって……」

「あなた、ふざけているの?」

「違うよ。そんなんじゃない。ママのにおいがあれば、落ち着けるかなって、本当に……」次第に語気が弱く縮み、やがて彼はただぽつりと呟いた。「ごめんなさい」

「謝ればいいと思っているのね」

「そんな……」

 なんだか、口を開ければ開けるほど、時間が過ぎれば過ぎるほど、ただそれだけで、そんなもので苦しく追い込まれているような気がする。

 それは彼にとって何より恐ろしいことだった。眼前、あの優しい母親が地獄を管理する女帝に視える。また、そういう態度を他でもないママその人が行うことが、彼にとって凄まじい意味を発揮している。裏切られた。そんなふうに勝手に思ってしまうし、今までのママがどこかに行ってしまうような気がする。

 いかないで……。

 このまま話が妙な方向に突入し、いつの間にか母と子の密かな男女の関係が暴露されてしまうのではないか。

 彼は唐突にそのように妄想した。

 それはありえない妄想だった。起きるはずのない未来だった。しかし彼の脳裡はすでに、そういったおかしな妄想がまるで今後発生する事実だと確信し、その後の己の立場について落胆するところまで崩れていた。

「あなたは本当に――」

「お母さん、少し待ってください」

 ついに声を上げたのは彼の隣、そこに座る保育士友希那だった。母親の声が一度停止し、すると先生は理路整然とした佇まいで口を開く。

「彼は、それだけお母さんのことを愛していたのよ」

「あ、愛……?」

「そうよ。彼にとって、今日の面談は確かに修羅場なのかもしれない。もしそうだとしたら、しっかり成功させるため、普通じゃないお守りは必須。そういうものにお母さん、あなたが選ばれた」

 ママによく似た、柔らかそうな唇が最小限だが愛おしい。

「無断で下着を持ち出したことは、確かにいけないことだと思うわ。けれど、彼だって不安だったのよ。そしてその不安を、自分でどうにかしようと考えた。他の誰でもない母親に、守ってほしいと強く求めた。それは母親として、誇らしいことではないかしら」

 姿勢がなんとも凛々しい。そんなふうに友希那の姿を視ていると、母親の猛火も癒えてゆく。

「……そうね。少し、冷静じゃなかったわ。ごめんなさい」

「ぼ、僕もごめんなさい」

「やり方は間違っていたけれど、私や先生に、心配をかけたくなかったのね」

 強く頷き、すると友希那の目元に安らぎが戻ってくる。息子としてひとつ安心をしていると、それから友希那はテーブル中央をみつめた。中央に乗るものとはもちろんそんなママの下着なのだが、その神聖な三角形の衣類には異質な部分が含まれている。

 そしてこの母親友希那は、そんな部分について見事なほど直球な追求をする。

「使ったのね」

 今度のそれは感情的なものではなく、いうならば刑事のように計算された尋問だった。

「ん、んと……」

「この下着、妙に濡れているというか、ぬめぬめしているのはあなたの精液が原因でしょう?」

 容疑者が揺らいだことを皮切りに女刑事の追求は進む。

「ここにくる時、少し遅れていたけれど、それは、トイレかどこかでシコシコやっていたからなのね?」

「ええと……」

 まさしくその通りで、まるで脳内を読み取られているかのような時間だった。たじろいだ後、彼はすぐ隣の先生に助け舟を出すのだが、彼女もまた妙な興味関心で彼に質問をしてくる。

「シコシコしたの? それとも、していないの?」

「あの……」

「はっきりしてちょうだい」

 母親の冷静な一手が彼の最後の部分を弾き飛ばした。

「し、しました……」

「何をしたのかしら」

「ま。ママのおパンツ勝手に持ち出して、トイレでシコシコしてました!」

 彼はもうそれだけを言い残したかった。だがその身体は少しも泡になって溶けたりせず、むしろ末端まで燃え盛り、象徴のように陰茎が上向きに張っていた。

 

 それから面談は通常通り続いた。

 話題になることとは当然彼のことだった。彼が一人の男児として、園内でどのように生活し、どのような態度にあるのか保育士友希那が母親友希那へ話した。そこに偽りや誇張された表現はひとつもなく、ママは彼が食事やおやつの際にたくさん食べることに呆れ、積極的に運動することを褒めた。

 会話はよく続き、けれど二人とも脱線をしなかった。三十分ほど話し込み、何か示し合わせたわけもなくお開きとなった。

「今日は、どうもありがとうございました」

 母と子、揃って頭を軽く下げ、立ち去ろうとした時に保育士友希那の右手が上がる。

「もしもまた、いやらしい考えが抑えられなくなったら、その時はまず先生に話して」

「う、うん」

 そんなことむしろお願いしたいくらいだった。彼は何より急き、強く頷いたがその横で硬い声がする。

「いいえ」

 それは母親のものだった。彼の右手を握る友希那はほぼ無表情のまま、しかし口ぶりだけは明らかに威勢をよくして続ける。

「そういう気持ちが我慢できなくなったとしたら、まず私に話すべきよ」

「あら、お母さんはこういう問題に疎いのだと思っていたわ」

「疎い?」ママの眉が跳ね上がることがみなくてもわかる。「そんなこと、ありえないわ。私は母親よ。母親は、息子のことならなんでも把握しているし、一緒に悩むべきもののはずよ」

「その悩みがえっちな悩みだったとしても、同じことが言えるのかしら」

「当然よ」

 何か険悪な空気感のまま数秒無言の時間が続き、やがて母親友希那のほうが、彼の手をきゅっと握り直してまた会釈する。

「失礼します」

 その際、彼は母親の横顔をみつめていた。つい数秒前の、あんな少々過激なやり取りなんてどこにもない表情だった。また、何より目が寄る部分とは頭髪で、上から下へ、淀みなく流れる薄い紫の長いもの、それもまた、なんの気がかりもないという様子でただ稀に、友希那の動きで微細に揺れるばかり。

「いくわよ」

「うん」

 おとなしい目つきも相まって、健康的な近寄りがたい湿度がすぐ横に生まれている。

 極めて整然とした態度であり好ましい。いいや先ほどの、勇ましい様子だってもちろん愛おしい。とにかく、こんな人を恋人という側面で消費している自分について、やっぱり誇らしくなる。

 そうして保育園を出るのだが、これは少し非日常だった。通常、保育園に関する送り迎えは専用のバスが行い、彼がこのママと顔を合わせるのはそのバスに乗ったり降りる時だけ。しかし現在は異なり、保育園の敷地を親子二人で跨ぎ、まずは徒歩でゆく。バス停に入り乗車し、いくつか越すと自宅の近くで、降り、また少し歩いてようやく帰宅完了となる。

 手洗いうがいを済ませてさて自由だと肩を緩くする彼を母親は上着も脱がずに寝室に導いた。

「マ、ママ……?」

「着ている服を全て脱いで、それからそこに四つん這いになって」

「え?」

 なんだ、何を喋ったんだ?

 彼は困惑と同時に周囲を視たが、別に友希那以外に声を発して良そうな存在などなかった。

 ただ隣、友希那のみが真剣な目つきで彼を視ていた。

「ほじほじをするわ。だからはやくすっぽんぽんになって、ママにお尻を向けて」

「な、なんで――」

「聞こえなかったのかしら」

 彼が肩を揺らし、それを追うように友希那の毛先たちも揺れる。

「ケツ穴をこっちに向けろ、と言ったのよ」

 ママから執行官へ豹変した友希那はもう彼のどんな汚れも厭わない。

 

 縛られているというか、自由のない状況とはあらゆる意味を彼に付与する。

 たとえばそれは理不尽な心地、この縛りというものが嫌で、どうにか終わらせたい。できることなら脱したい。そういう、強烈な嫌悪を不自由に感じる。

 だがその一方で、縛りとは己の身に楽しさをもたらすことがある。

 これをしてはいけない、あれは駄目、それをしたら罰を与える。そのように、あらゆる角度から制約を設け、ひとつでも踏み外せば個人の尊厳そのものが消滅する。つまり縛り、不自由を与えている相手が明確に存在し、その相手を彼自身が好いている時、その縛りは極楽になる。

 今、彼は友希那の黒色のベッドの上に全裸になって乗っていた。

 四つん這い、という形を彼はもちろん知っている。というより、ベッドという舞台の上で直立することのほうが不自然で、命令がなくともそれになる。

 しかし現在、彼はあらゆる衣類を取り除かれてしまっている。

 まずひとつ、何を着ることも彼は許されていない。そして次に、四つん這いではない体勢を取ることを許されていない。そして最後に彼は、ベッドの近くでしゃがむ友希那へ尻を向けて逸らすことを許されていない。

 彼の尻の全容は気高きママに摂られている。

 男の尻なんて、女のそれと比べると形が歪んでいる。女のようにふっくらと、丸っこい様子にはない。そういう歪な肉塊を友希那はやがて両手で掴み、少し左右に引き伸ばす。本当に軽い動作で、だが彼は自身の真ん中の部分が伸びてゆくことを体験する。真ん中、という部分とはつまり尻穴で、友希那が素手を動かすとその箇所がなんだか寒くなる。

 けれどそういった不安な心地も報われる。

 間もなくして友希那の口先が入港し尻穴一体が圧倒的な湿度を受ける。

 男の急所といえば股間が挙げられるが、その部分だけが弱いとは限らない。

 たとえば彼は友希那から乳首における開発を受け、その左右の部分がすっかり弱点になっているし、そういう特殊な訓練がなくとも、男子なら尻穴くらいは弱弱しい。その部分もまた堅牢ということも想像しづらく、実際に彼は、自身の尻穴に友希那の舌が触れるだけで飛び上がる。

 だが、縛りがある。

 今の彼に四つん這い以外の形は認められていない。つまり尻肉をかき分けて入りこむ友希那のことを振りほどいたり、後方確認をしたり、無理やり立ち上がることをしてはいけない。

 故に彼はただ、まるで処女のように声を上げながら友希那の舌が尻穴内部に進入することを体験するしかなかった。

 尻穴、その道中は彼にも把握できない密度でうねりうねりと造られており、また友希那の舌先は勇敢にある。不潔な印象がどうしても先行する尻の事情などまるで知らぬという態度で縮こまった穴は開拓され続けている。

 四方八方の壁を擦って突き進む。そんな舌の態度に引っ張られてゆくように友希那の身体そのものが彼に向かって軽く倒れ、尻に迫る顔についても顎先が少し先行する。

 彼の尻へ舌を差し出し受け持つような体勢であり、尻を掴む左右の素手についても力が漲る。五つの指がめいっぱいに広げられている。けっして痛いというわけではないが、指の腹そのものが肉に押し込まれている心地で、これもまた不自由さを増長させている。

「あなたはこれからも、ずっと私の傍に居るのよ」

 ふと、顔を上げた友希那が呟いた。

「他のところに行くなんて、ありえない。そんなこと、当然ママとして許さないし、そもそもそうならないように、徹底的に私のにおいを染み込ませておくわ」

 なんて破廉恥な文言だろう。そんな精悍とした宣言を終え、また友希那は彼の尻に沈む。またほじほじされちゃう。彼は多大な期待でぬるついた穴をひくひく上擦らせている。

 だが友希那は強引な開拓を開始しなかった。そうではなく今度は、穴を覆い塞ぐように舌の表面を尻穴そのものへ押し付け舐る。

 眼前にしゃがんだ友希那を待機させ、その顔面に射精することを彼は今まで何度も行った。

 その際の精液とはほぼ全て友希那の頬に回収される。最初はそのように自由気ままにぶちまけるだけだったが、次第に友希那に変化が現れる。男児の前に跪くママは開口し舌を突き出し、彼にそこを使えと提案する。彼という相手に自らの口元、その全てを許してくれる。完全な受け皿、ティッシュに等しい存在と成り果て、男の自由だけを尊重する。

 今、そのような彼専用の舌先を友希那は駆使し彼の尻穴を塞いで撫でている。

 目的は穴のふちの部分、尻という部位の中で唐突に、穴のためにきゅっと引き絞られて少し分厚いその箇所を大胆に舐め上げている。尻穴付近と舌表面が優しく擦れ、唾液によりさらに潤滑してゆく。

「まだ誰のにおいもない場所に、私のことを練り込んでおく。その必要があることを、今日の面談で一番よく理解したの……」

 女性とは、色恋沙汰について男より嗅覚が優れているとよく耳にする。

 つまり、泥棒猫の出現により敏感なのは女のほうで、その存在の探知だけでなく、対処や、時には陥れることもすぐに考える。

 そこに躊躇が生まれないことこそが女の強さであり、確かに友希那はそういった気質がより強そうだと納得できる。

 だが、そうだとしても……。

「ママなしではまともに生きることができない。そんな状態まであなたを仕込んでみせるわ」

 私のにおいを染み込ませる、こんな気合で最初に行うことが尻穴を執拗に舐ることなんて、それは流石に素っ頓狂というか、どういうことなのだろう。

 面談の際の、あの下着の件に関するお仕置きなのか。

 だとするとこれはあまりにも彼にとって都合がいいことだった。

 だって、大好きなママの下着を自由に使用し、それを叱られたとはいえその次に尻穴を舐られている。あの場での 責だって考え方を変えてみると、むしろ何か心地いいというか、そういう被虐的な味がしないわけでもない。

 おかしい。

 これでは面談のあの時から今まで、彼の好きなことしか発生していない。それでこの母親はしっかりと男児を躾けているつもりになっているのだから、彼からすると少し見当違いで、もちろんその様子も可愛らしい。尻に敷かれているというか、尻にめり込むこの蠕動も、的確に彼の弱点をほじり尽くしより深く開拓する。

 ああ、まさしく調教。

 今、この場を支配しているのはママであり、その舌先は穴そのものに集中する。

「覚悟して」

 何かほじくり出すような動きがあって、それからついに舌の全容がにゅるりと入ってくる。

 ああ、ついに……。

 今まで密かに貴重だと、大切なものだと取っておいたハジメテが、男における貞操が奪われた。

 それも、ママに。

 今まさに男児の後端に就く友希那ママは傍若無人で、彼というか弱い雄の都合など知らない。ただ己の中に滾る欲求を満たすことだけに集中しているというか、ある意味それに捕らわれている。とにかく冷静な状態ではなく、そんな執着心が舌の動きに現れている。

 少しでも多く。より奥へ、奥へ舌を詰めておく。

 先ほど、たっぷりと穴周辺をほぐしたため舌はすんなり内部に入っていた。

 男の胎内とも呼べるその狭い道を友希那の熱気が駆け抜けて拡張し、彼女が居座るだけの空間が男の中にぽっかり造られている。そんな異常事態に彼の身体そのものが反応しないわけもなく、じたばた暴れたり、穴から入ってくるものに抵抗するのだが、そういうものだってママが制御する。彼の尻を握る左右の手に新しい力が入り、友希那は固定しながら啜る。

 それは確かに母親らしい友希那の態度で彼に対抗手段はない。

 幼い彼にはこの世間について知らないことのほうが多かった。

 だがそんな彼でも唯一、完璧に理解し今後一切揺らがないであろう事実があった。

 友希那ママは相当な美女である。

 まず、顔面の造りがいい。輪郭も、人が視て心地よく感じるその最適の曲線で、目や鼻、口元に顎の具合も清潔感がある。肌は極端な色白とも荒々しい褐色とも違う。もちろんどんな色だって、相応に味がありみつめる価値があるが、彼が個人的に惹かれる色は肌色より少し白色っぽい薄味で、友希那はまるで彼の要望に応えている。

 そうした黄金比とも呼べる顔つきを持つ友希那だが、彼女を美女だと称する理由はそれだけではない。

 つまり態度、落ち着いた様子で物事を見極め、正しいこと、間違いを的確に判断し導いてくれる。それでいて完璧というわけではなく、苦手な家事や悩むこと、そういう欠点を補うために挑戦したいと勇むことも十分にある。

 そんな性格も相まって、友希那は究極の美女として存在を勝ち取っているわけだが、それほどの人が今、己への評価を捨てるように男の尻に立ち向かっている。

 だってまだ、上着すら脱いでいない。この寒い季節にぴったりな、紺色の分厚いコートという装いさえどこにも置かず、長袖ごと持ち上げて、尻を掴んでその唇、舌先にて彼を咀嚼してくれる。

 大きな動きに合わせて唾液が垂れている。それはぽつぽつとシーツを湿らせる程度のものではなかった。尻穴と舌、男女が擦れ合う度にその間の位置から膜のようにゆったり下へ向かい、それらはこの寝具や友希那の衣類を湿らせる。

 コートの下、上半身には白色のフリルがついたものを、下半身は薄紫の緩いスカートを履き、唾液はそんな衣類に適当に居場所を造る。

 友希那は本気で彼を責めている。彼の秘境の部分を自ら汚し、独占したい。そうした気概は彼の小さな抵抗を虚しく打ち負かし、暴れる舌に合わせて陰茎がクククと浮いてくる。友希那の猛攻は続き、やがて乾いた布面積より湿った部分が多くなった時に彼は、己の理性が己の部分から溢れこぼれることを意識する。

「イくぅ――」

 真っ黒なベッドの上、四つん這いのまま彼はどうすることもできない。ただその寝具に向かって竿だけをピンと張り、膨張し、震えながら、濁ったものたちを解き放つ。

 そういう雄について友希那は肯定するかのように舌先をうねらせるばかりだった。尻穴内部、その肉壁をぐいぐいと押す度に竿がのけ反って射精が唸り、さらに友希那は口そのもので大袈裟に吸い付いてくる。

「……こんなところかしら」

 いくつもの細い糸がある。尻穴から伸びる唾液の糸が空中、緩く弧を描き友希那の口へ、さながら飼い犬リードのように触れている。

 けふ、と軽く息をつく友希那により彼は自由を取り戻すが、尻穴を拭くだとか、清掃の手伝いに移行するより先に、別の命令をママより受ける。

「仰向けになって。じっとしていて」

 コートもフリルもスカートも、リボンも床に落とした友希那の目元の気配は変わっていない。あの面談の最中の、なんとも真面目そうな、だが正確に物事を射貫く、そんな目つきは夕暮れの光に負けていない。

 その視線は溶けゆく太陽のことも、それを受ける雲のことも見上げていない。屋内という影に位置する彼の屹立を、友希那の静謐な視線は離さない。

 

 友希那の寝室という場所でベッドの上に二人は居る。

 窓から視る空では夜がはじまりかけている。小規模な橙色の灯りのみが室内にある。寝具の上、彼は仰向けに動いていないがそんなものに逆らう部分がひとつある。

 尻穴を舐られたことで陰茎は極地に立たされていた。

 仰向けになって、というママの命令に反抗するかのようにそこだけ特異に形が突出し必死に粋がっている。

 これは、自らの力を過信する餓鬼に違いない。

 そしてそのテの若々しい息吹には一度、身の丈というものを教え込む必要がある。眼前の強き母はもちろんそのつもりにある。

 彼から視た右手側、男児の様子を控え、友希那はついに身体を起こす。片足を軽く上げて彼の真上を通り過ぎ、馬乗りになって股間が触れ合って沈んでゆく。

 そんな中で彼は、この友希那もすでに準備万端であることを知る。友希那のそれは濡れ滴り、弾力に関しても十二分に富んでいる。そんなものが所定の位置に降りてきて、男をじっとりと包み込む。

 粋がるだけのいたずらっ子が、ついに捕まった……。

 染み込ませるだの、一緒に居るだの、さっきから友希那はなんだか小難しい。だがそんな態度と異なり、友希那の膣は実に素直で簡単な様子にある。だって胎内、その最奥の部分でママは、さっそく彼に向けて子宮の入り口まで下ろしてくれている。

 愛されている、そう確信しないなんてありえないし、そういうものを股間にひたと備えつつ、けれど表情には立派に落ち着いた女がある。やはり、この友希那という人には得があるというか、取り揃えられている安心感がある。

 そうして、この密やかな家族団らんは順調にはじまってゆく。

 まずはゆったりそれらしく、上下、上下に動くだけ。彼は何もしない。身体の上、小さな背丈のママが、あちこちの関節をたたんで男に挑む、その頑張る様子を眺めるだけでいい。

 友希那はそれから左右に揺れはじめ、次第にその動き方に自信がついてくる。

 前のめりで垂れた髪が邪魔をして詳しく視えないが、その表情にも勝ち気な色がある。

 たとえば、憑依型、などと分類される役者がある。

 これはつまり己に渡された役に己自身がまず沈み込み、役そのものが自らだと思い込む。

 そうして自身の演技の中に普通ではない怪物的な味を出す。得体の知れない底深さ、演技とそうではない部分の境界線が溶け、わからなくなる不安定な感覚がむしろ魅力となり、人を飽きさせない。誰にも真似できないし、またそうした演技を観たものは素晴らしさと共に恐怖する。

 そうしたものを、彼は友希那にも感じる時がある。

 現在、騎乗位という組み合わせで二人は母と子の宿命から必死に逃亡している。

 何か冷静に男女について語ったり、母親として諭すこともある。

 だがその後、さてそれでは、と行為がはじまると、友希那の顔つきはすっかり変化する。そういうスイッチが押し込まれたかのように一斉に過激に変ってゆく。

 男などあっという間に蹴散らしてしまう。彼はもう命令に従うしかなく、そうした猛火の中で友希那もまた乱れてゆく。腰をくねらせ、首を垂らして髪型が揺れている。この藍色の室内で、最小限の照明の光を受けつつ細かく弾ける無数の毛先が、あるいはその集団が、彼だけに用意された星々のように思える。

 多くの人は今、空に浮かぶ日没とそれから夜について想いを馳せる。それがこの世のどんな情景より美しいと心から考える。

 だがそんな中、そういったものから少し外れたこの一室にて、彼だけだが、自分だけの流星群を堪能する。

 だがこちらも、しこしこと気持ちよくなるだけではいられない。

 女が上で、男が下、そんな今の立場で男が逆転できる可能性とはたったひとつで、それは射精の瞬間だけ。

 男女共々、最後の最後で感極まるその一瞬、友希那は身に迫る快感に抗えない。たとえ男の上を取っていたとしてもたじたじに震え、その間際に男は己を発揮する。

 友希那が星々に成り果てると同時、彼はそこに乱入する花火になる。

「イくっ!」

 彼は友希那の若々しい部分に我が儘な種を注ぎ込む。友希那という極地に誰よりも先に到達しそこを雄らしく濁らせてゆく。快感に酔う友希那の表面にさらなる蒸気が浮かび上がって、長髪が陽炎のように揺れている。それが静まるまでの少しの間、彼は優越感に浸る。

 自らの身体の上で、あの友希那が痴態を披露し何も喋らない。

 普段、彼女を母と頼る彼からすると、そんな状況だけで珍しいし、そんな生粋の乙女のような背恰好のくせ、胎内にはたんまりと雄を持つという不純な事実も愛おしい。

 しかし彼は知らなかった。

 男の絶頂、つまり射精とは使い捨てのようなものだった。その場の熱気が一度放出されると後は下り坂、そこから、たとえばまた再起するためには相応のきかっけが必須になる。

 けれど、女は違う。一度の絶頂が残り火としていつまでも身体を温め、むしろ次、再戦のための活力となる。

「おちんちんがまたこんなに大きくなったら、必ず私に報告して」

 そうして燃え盛る友希那は彼に乗ったまま上体を倒した。女の影が膨らんで彼という子を一気に覆う。股間は結合したまま、友希那の身体そのものが倒れて彼を圧し、柔らかい餅のように二人居座る

 そういう中で友希那の口元がまず右耳近くに触れて吐息が盛り上がる。

「勃起したことを、私以外の誰にも喋っては駄目よ。そのまま、なるべくはやい段階で私のところにきて。私に教えてほしいの。どれくらい勃起したのか、みせてほしいの」

 冷静な口ぶりとは裏腹に臀部、ずっぷりと彼を咥え込んだ友希那のそれは軽く揺れながら整ってゆく。

「みせてくれたら、そのお礼になんでもしてあげる」

「な、なんでも……」

「そうよ。甘やかすことも、あなたが私を汚すことも、どちらでも、何でも、自由にしていいわ」

 下敷きの彼はいよいよ身動きが取れなくなり、口元に柔らかい熱を得る。

 この舌先もまた賢しいというか強かで、彼を尊重しつつ獰猛に、全て舐めしゃぶる。

「だから、いいわね。もう、私に言う通りにして……」

 一度口を離した後に友希那はまた彼に口づけをする。唾液そのものを強引に彼へ流し込んでいる。彼は口を合わせたまま友希那の唾液を積極的に飲み干した。量が増し、友希那の中に居座るものが使命感を取り戻す。

 それを待ちわびていたかのように友希那の尻が浮き、どっちんと打ち込まれる。一度、二度と続く動きにより寝具そのものが少し軋み、けれど友希那は口づけを続けたまま動きを加速させる。

 これは、こんなもの、強姦と同じではないか……。

 夕暮れが遠い中、誰も知らない一室で子が母に食べられる。男児といえど母には敵わず、甘い粘膜を受け入れるしかない。

 また、次第に彼が理解したこととして、友希那は足をほぼ動かしていない。

 あの、男体を跨ぐため左右に広がる両足は今は折りたたまれており、美脚を利用して臀部が動いている。胎内にてひだが右往左往している。尻が持ち上がると竿を搾り、下ると楽しげに揉んでくれる。友希那の上半身が男体のそれにぴったり触れていることは理解できるため、今の友希那は尻のみを男の表面でへこつかせている。

 行き場を失くした長髪が彼の周囲に散り、友希那は両肩を握って接吻し続けている。

 これだって、最初は理性が溶けた女強姦犯のそれだと彼は解釈していたが、なんとも滑稽な臀部の動きを知ると照れ隠しのように思えてくる。

「愛しているわ」

 花火のように、宙に至った男は次に星々に逢う。薄紫の星たちはその逢瀬を見守っており、まさしく降参だというように彼はまた白いものを打ち上げる。

「僕も……」

 ああ、だけれど。

 これほど安心する射精も、他にはない……。

「大好きだ……」

 みっちり合わさる男女のオウトツに温かいものが噴き荒れている。開花のような力強さなのだが、その実態は強かな母に負けた息子がある。

 だが男として、彼は役目を果たしている。

 自ら放ったおたまじゃくしは友希那の新鮮な部分を泳ぎ、いそいそと卵を目指している。

 まだ夕暮れも、それを裏切る美徳についても知らない子たちが、ママのところで根強く震えている。

 

 粘ついた火炎が治まると男女は就寝に向かう。

 もっとも、その下り坂について彼は男女の間で少し違いがあるなとよく思う。

 男として、その坂はなんだか急斜面に造られている。つまり男とは一度でも満足のいく絶頂を経験すると落ちる際も止まらない。実際に今、ベッドに寝そべる彼の身体はなんだか気怠いし、たとえば尿意を催しても立ち上がりたくない。

 対する女、友希那は異なるような気がする。

 まず、満足するまでの絶頂の回数から違う。女は自らが納得するまで何度も絶頂を求め、それが五回、いいや十回に及ぶ際もある。

 それで互いに満足し、いざ眠ろうという際も女には男と違う部分がある。

 行為は行為で、就寝は就寝、というようにきっぱり区別する男と違って、女はその熱を持ち越すことがある。さながら豪勢なドレスのように後尾にそれを引きずり、すぐ横のくたびれた男にちょっかいをかけてみたり、まだまだ軽い愛撫を続けてくることがある。

 男によっては、女のそういう部分に鬱陶しさを感じてしまい、そこから関係そのものが破綻する場合もあるらしい。

 だが彼としては、いつまでもいつまでも指を擦ったり、長い毛先を摘んで筆のように走らせたり、頬を胸板に、ひたと合わせてくる友希那が可愛くってどうしようもない。

 大きな、けれどスリムな猫を一匹、手元に置いているような心地がする。

 左側に寝そべり、身体を寄せてくる友希那に対し彼も額を差し向けた。すると友希那の素手が適当なところを撫ぜてくれる。彼は胸元の中から友希那の腰の部分を視た。女体とは素晴らしい。どれだけ本人にそのつもりがなくとも、ただ寝そべるだけで腰の部分は常にふっくら、蠱惑的に造られる。

 そして決め付けは、この子守唄。

 母親の友希那は行為後に歌を聴かせてくれることが多かった。

 別に彼がそういう要望を出したわけではない。また友希那のほうも、歌を聴かせてあげる、なんて宣言したわけではない。どんなきっかけかも忘れた。けれどこうして、行為の後に友希那が歌い、それを聴いた彼が胸元に顔を埋めて眠りにつく。そういう流れがいつしか、二人の間のいつもの日々として定着した。

 女とは母親になると、教えられたわけもなく子守唄を体得し我が子に披露する。友希那もそのひとつなのだが、しかしこのママの美声は格別だと彼は思う。他になんの楽器もなく、誰かの合いの手などというものも当然ない。ただ友希那がしっとりと、少し細い雰囲気で歌う、それだけが続き、それこそが彼に眠気を誘発させる。

 もちろん、他の誰にも聴かせたくないし、友希那には、心の底から意欲的に歌い続けてほしい。

 あなたのためだけの歌、というものでいつでも眠りにつきたいなと彼は思う。

 そこに何か我が儘というか、自己中心的なことをしている、という感覚はなかった。

 当たり前だった。だって、僕はママの息子なのだから。母の歌を願う子のどこが不純なのだろう。

 ああ、眠い。すぐ隣でママの歌声が続いている。彼はそこに頬ずりをするように意識を落としてゆく。身体、そのものが揺蕩い友希那を求めている。自分の中、その空いている部分に友希那が注ぎ込まれてようやく安心する。

「おやすみなさい」

 歌が途切れ、リップサービスが甘く香る。それからまた歌が再開し、だが彼のほうが、青い薔薇から遠ざかる。

 

 その日は大雨が降っていた。

 朝からどしゃ降りで、天気予報では昼に止むということだった。しかし誰だって天気予報のことなんて信じていない。そんな態度に天候もヘソを曲げたのか、大粒の嫌がらせはこの湊友希那保育園送迎バスが出発する時間になっても続いた。

 雨がまるで霧のように散布し続けるこの街をバスで進むことには危険が伴い、またそんな危険に少なくない園児を関わらせることは誰だって避けたい。そうしてバスの出発は今日に限り中止となり、また園児については一旦園内で待機、すると、母親の腕の中が恋しく泣き出す園児の顔に満足したのか、天候も機嫌を直し、大雨が一時的に穏やかになる。これを好機とみなし多くの親は園児を迎えに参上するが、その中に彼の母親、つまり友希那の姿はなかった。

 やはり、仕事との兼ね合いなのだろうか。保育園に半ば閉じ込められたような状況の中、彼はそうして想像することしかできなかった。もしかしたら、ママもママで身動きが取れず、収録現場や音楽事務所の中で、息子の身を案じているのかもしれない。そんなふうに妄想をするとそれだけでまた胸中が狭まるが、想いは結局想いでしかなく、どれだけ念じても空は晴れないし、友希那は迎えにきてくれない。

 窓硝子の向こう側、広がる空が薄暗い。大雨の影響も相まって、何か断絶されているというか、このあおばら組室内という空間が人類最後の部分であり、もう世界に自分以外の、誰も居ない。なんて妄想も今だけは鮮明に駆け巡る。

 様子を視ているとただそれだけで、絶海を見渡す船乗りになった心地になる。身を包むのはまさしく濁流のような、圧倒的な孤独感で、室内照明の強い光がむしろ寒々しい。屋根か窓か、時おり揺らいで、聞いたことのない音が鳴る。さらに時間についても、すでに園児が園内に居ないはずの時間に突入しており、その特別感待遇の心地が若干の恐怖心をかき立てる。

「大丈夫よ」

 だが、彼は落胆していなかった。

 もちろん、愛する友希那と会えないこと、互いに、自らの声で無事だと伝えることができないことについて気がかりだったが、どうにもならない不安感に潰されることはなかった。

 だって、友希那先生が居る。

「お母さんが来るまで、いつまでも隣に居るわ。だから、安心して」

 隣には薄桃色のエプロンを着衣し、白色の半袖シャツ、引き締まった長ズボンを着る保育士友希那が居てくれる。

「本当にいいの?」

「ええ、もちろん」

 彼が低い声で訊ねてみると、友希那は変わらず柔らかいまま肯定してくれる。

「でも先生も、お仕事、まだあるでしょ?」

 少し上擦って質問してみると、友希那の腕が伸びてくる。素手が頭部に乗り、軽く撫ぜてもらえる。

「あなたが気にすることではないわ。それに、こうしてあなたと共に居ること、それが保育士の一番大切な仕事よ」

「わぁ、すごい……」

「凄いのはあなたも同じよ。お母さんが居なくて、心細いはずなのに……」

 友希那先生の右手が持ち上がり、彼は撫でてもらう。

「強い子ね」

「えへへぇ!」

 全ての園児が母親の腕で安心感を得る中で彼はあおばら組の室内を貸し切りにしている。

 ここは陸地と断絶された孤島などではなく、友希那に密かに想いを寄せる彼を視た天のものが、特別に用意した個室、なんでも許されるVIP待遇を想ってみると、もう雨などどうでもよく、彼は何か期待だけを寄越してしまう。

「それで、次は何をしましょうか……。流石にもう、トランプもUNOも、やり尽くしてしまったけれど……」

 期待、などというものはもちろん彼だけが盛り上がる勘違いのことだった。

 この保育士友希那にそのようなケはひとつもない。彼女はいい女だし、彼という園児のこともよく思っている。それくらいは彼にだって察知できる。だがそれだけだった。なんだかこの前、あの面談の際に特殊な関わり合いがひとつあったがそこから奇妙に発展することもなく、二人の関係性はそのまま続いている。

 それが当たり前だし、それが普通のことだった。

 もちろん彼はその当たり前、普通について男として不満だったし、そういう部分には落胆する。そして、期待し、落胆するという一連の部分そのものがママへの裏切り行為であり、またその裏切りという炎に、新しい燃料が投下されてしまう。

「ごめんなさい、少し――」

 保育士として、友希那が所持する仕事専用の携帯に一報が入る。相手について彼が正確に知ることはないが、先生のその口ぶりから、電話の向こうにママが居ることなどすぐわかる。二人はいくつかの会話を重ね、その後、先生の口ぶりに強いものが浮く。

「大丈夫です。任せてもらって、問題ありません」

 この友希那という女性の特徴として、明確な断言というものがある。

 彼女の中にどれだけの算段が立てられているのか、これについても彼が知ることは不可能に近い。だが友希那は時おり、相手の不安感さえ吹き飛ばすほどの、それほど爽快な断言を打つことがある。

 というより、できないことはできないとはっきり伝えてくれる。

 友希那という女性の中に中途半端な報告はありえない。それは彼女が己の力量を常に理解していることと、また己の実力に自信を持っていることが深く関係しており、そんな態度を前にすると彼は薔薇とは自らを理解し開花するのだなと納得する。

 多くの花はきっと自らの花弁の色さえ知らず花開く。故に道の隅だとか、そういうささやかな場所によくある。けれど薔薇は違う。何か堂々たる風格というか、そこにあるだけで他を圧倒する、そんな強さを最初から己の中で理解している。故にあれほど巍然した振る舞いで花弁をみせつけ、どんな場でも自らを主役にする。薔薇の前では、どれほど美しい存在もただ薔薇を引き立てる要素のひとつ染まるしかない。そうして薔薇そのものだって、さらなる高みへ到達し、枯れ朽ちるまで示し続ける。そこには己を理解し尽くした繊細さと、それを隠すほど分厚い自信が備わっている。友希那とは、そんな薔薇によく似た気質を持ち、それでいて彼のような、小石に似た存在に注意してくれる。

 薔薇と唯一異なり、そういった小さきものに対する慈愛も持ち合わせる。そんな友希那とはまさしく女神か、それとも聖母で、今ようやく、携帯電話を終えて彼を視る。

「今日は、私の家に泊まりましょうか」

 全てを赦す天使であっても、有無をいわせない時はあるらしい。

 

 彼が予想した通りだった。

 保育士友希那の電話口の相手は母親友希那で、曰くお迎えは困難だという。

 母親が園児の迎えに参上できないとは由々しき事態だが、そこで慌てる母親ではないし、それは先生もまた同じだった。極めて冷静な状況共有が行われ、結論として今日は、彼については保育士友希那の自宅に預かるという運びになった。

「――そういうわけなのだけれど、あなたはいいかしら?」

 彼に対し友希那はしゃがみ込み、つまり視線を合わせて、それから訊ねてくれる。いくらか余裕のあるエプロンが身体に添って少し歪んで、また下半身の、なんとも女性的な肉付きが後端に突き出ている。

「もちろんだよ、先生」

 友希那が現在着用している白いシャツは首元が大きく開いている。つまり、そこから覗き込むと素肌がよく視えるわけだが、肩から続く鎖骨の形や、そこに惑わされる長髪の流れとそれから、そういう男からするとなんとも魅力的な部分を何も気にしていないらしい友希那の態度を前に、彼はひとまずママの熱が恋しいことを忘れてみる。

 全ての物事が急速に決定され、自宅よりよっぽど近い地域に位置する保育士友希那の家に彼は転がり込んだ。

「お邪魔します……」

 玄関を通り、まず彼はリビング、ではなく洗面所に通された。曰く、濡れた衣類を処理するためで、戸惑っている彼を横に友希那は衣類を淡々と脱ぎはじめてしまう。

「下着も、代える必要がありそうね……」

 自ら脱いだものたちに一応触れ、その具合を確かめると洗濯機に後を任せてゆく。

 そうしてさっぱり、下着姿に変身した友希那は次に彼に視線を送り声も向ける。

「あなたは大丈夫かしら」

「え、僕……?」

 顎先を持ち上げるとすぐ前に友希那が立っている。ちょうど、天井に設置された円形の照明が天使の輪のように視え、光を受ける友希那のことがさらに巨大に思える。

「濡れている服は全て脱いで、お風呂も、必要なら使って構わないわ」

「う、うん。でも大丈夫だよ。僕はそんな、濡れてないし」

「駄目よ。そのまま放置していたら、冷えて風邪を引いてしまうわ。しっかり洗って、今日は温かく過ごすのよ」

「でも――」

 実際のところ、彼自身は大丈夫だった。

 けれど彼の下のほう、股間はそうではない。今、猛烈な意欲により硬直した彼のものはパンツの中でピンと張り、身の程もわきまえず、友希那へ先んじている。

 いいや、そんな緊急事態だけであるのなら、まだどうにでも、いくらでも誤魔化す手立てはある。力強く生きる男とは、不意な勃起を即興でやり過ごす術をいくつも蓄えてる。幼いとはいえ彼も同様で、このまま事態が続くのなら勃起くらい、なんでもないことだった。

 しかし今は、友希那が居る。

 彼が密かに、湿った憧れを向け続けるその人が目の前に実在し、雨で濡れた、などという理由で衣類を自ら取り除いている。

 車で運転していたはずなのに、どうしてそんな、薄着になるまで脱がなければいけないのか。幼い彼にはさっぱりわからないが、いいやそんなことどうでもいい。現在友希那は真っ白なブラジャーにショーツだけ、ワンピースもタイツも全部濡れて、だから脱いで、さっぱりしたまま餓鬼の前に立っている。

「あら……」

 そんな姿が、というより、そういう立ち振る舞いから仄かに香る酸っぱいものたちが、彼を普通ではない部分に誘う。

「これは……」

 やはり、身体の中で目立つのか、彼の前に立つ友希那の視線はそこに集中する。右手が伸び、反り立つものを下から取る。指先が、上向くものを撫ぜながら登り、最後、その先端部分を輪の形が包んでくれる。

「大きく、硬くなっているわ……」

 口元が縮み、代わりに大きな目が丸く離れない。

 ああもう駄目だ。彼は自分の中で発生するこの熱気を正しく制御する術を失い、その暴れる意欲は友希那その人に向かう。

「きゃっ――」

 倒れ込むように抱き着いてみると友希那は軽い悲鳴を上げた。彼はそれでも離れなかった。むしろ友希那の内側に身体を隠したい。ここは太腿か、それとも股間か、わからないがとにかく、ぐいぐい、ぐいぐいと身体を擦り落とし続ける。

「ちょっと……」

 友希那の両手が背を擦り、彼は恋焦がれた人に顔を向ける。

「あなた……」

 彼はここで用意していた台詞を持ち上げる。

「ママのせいでおっきくなっちゃったの……」

 それは彼が、友希那という保育士をみつけてからずっと妄想し、温め、いつか必ず伝えようと意気込んでいた言葉だった。

 もう何度も、それを伝える場面を妄想し、夜はそれで占められた。そんな言葉を今、ようやく向けることができる。それもただ発言するだけではない。言葉と共に、こうして身体を寄せ、その勃起をみせつけている。

 大雨が世界を覆う夕暮れ時の脱衣所にて、濡れ細った男は女体に抱き着き求愛する。

 さてこの友希那は、どのように答えてくれるのか。

 そんなふうに待ってみると、最初に友希那のはっきりとした声が響く。

「私は、あなたのママじゃないのよ?」

「でも――」

「それに、あなたのママはちゃんと居るはずよ」

 友希那の声に呼応して、脳裡で母親の顔が浮かび上がる。

 しかし今、彼の股間で立ち上がる情熱はこの友希那に向いている。

「でも、先生のこと好き、好きだもんっ!」

 抱き着いたまま、その友希那に向かって真意を打ち明けると次の瞬間、ようやく出てきた新芽を摘み取るような口づけが触れる。

「んむっ……!」

 愛する友希那、ママ、大好きな友希那との大切な、繊細な、思い出の場所のはずなのに、そういう唇に保育士友希那が被さって、むしゃぶりついて、彼は男を攫われてしまう。

 大人の女性に射貫かれて、少しよろめいた。だがそういうものこそ友希那が保持してくれる。背中に廻った両手はやがて頭部を包み、唇は、いくつか軽く息継ぎをしながら接吻を続ける。

 ああ、今まさに、母親友希那とのあらゆる思い出が濯ぎ落されている。

 そして代わりに、友希那先生の味付けが流れ込んで、塗り込まれてしまう。

「先生のどこが好きなのか、言ってみて」

 少し持ち上がった後、友希那は誘うように訊ねてくる。

「返答によっては特別に、あなたのママになってもいいわ」

 下着姿の保育士友希那、その両腕が彼の肩幅を包んで視線が通う。そうした中で彼は勢い付き、友希那に向かって熱気を告白する。

「腰付きえっち、顔も可愛いし、い、いいにおいする……」

 その語気は段々と失速し、やがて溶けるように消えてそれから、彼は友希那の胸元に頬を預けることになる。

「いいにおい、いいにおいだから好きっ……」

 また呟きながら、彼も友希那へ腕を伸ばす。その手は背中を摩り、尻を擦ってぎゅっと、好みの女を股間により近く抱き寄せる。

 その人から、次に発せられる言葉は彼にとって悪い報せそのものだった。

「駄目ね……」

 重たい吐息が抜けてゆく。至近距離の友希那が遠く、大きく視えるが彼は諦めず口走る。

「全部丸っこくて、可愛いの。ぷにぷにしてて、でも細くて、甘いにおいする。だからすきっ、友希那すき、友希那だいすきなの……」

「変態以外の印象がないわ」

「そ、そんな……」

 突き出るべき箇所がそれぞれしっかり突出し、だがその形通りの厳つい気配はない。柔らかく、またその形というよりも、身体の中でその部位に行き着くまでの曲線、そうだ、流動、それを上手く発言に乗せたと思ったのだが、幼い故に正確に、満足いく口説き文句は出せなかったらしい。

「あなたはただ、自分の欲望を打ち明けただけ。そんな下心丸出しの口説き文句で、大人の女が振り向くと思わないで」

「や、やだ、そんな、友希那っ、ヤダ……」

 腰そのものを友希那へ上擦らせつつ、さらに強く震えてみる。

「友希那、お嫁さんになって、ゆきな、ママになって。妻、妻になってぇっ……」

 彼はもう必死だった。それがどれだけ卑猥で滑稽だとしても今の彼には関係ない。自分で考え付くあらゆる女性を褒める言葉を連呼し、友希那へアピール、気を引いて、できることならこっちを向いてほしい、どこにも行ってほしくないと。

「ママいかないで……」

 最後、彼は友希那へ顔を埋めて、誰のことも視ず呟いた。

「えっちなことは……」

 という友希那の囁き声に、彼はすぐに額を上げることになる。

「何……?」

「えっちなことは、どれくらい知っているのかしら」

「えと、ママと……」

 そこまで口にして彼はハッと目を開く。そうだいけない。ママとの、母親友希那との関係性は禁断のものであり、どんな他者にも話してはいけない。

 しかし彼の意識は口より少し遅かった。留めたつもりだったが友希那には、先ほどのひと言で全て把握されてしまう。

「やっぱりあなたたち、そういう関係性だったのね」

「いや、違う――」

「いいのよ、別に」

 友希那の語気と、それから彼を抱き締める腕が力む。

「けれどあなた、恋人が居るのに他の女の人に惚れてしまうなんて、それは裏切り行為じゃないかしら」

「うう、でも、でも――」

 友希那の色香に包まれたまま、彼はただ股間の部分を確かなものにする。やはり友希那には敵わない。納得のいく敗北感に順じ、たっぷり肥えた先端部分がいよいよ光沢を帯びる。

 それは彼が、好みの女性とひどく密着した際に必ず分泌される透明な粘液のことだった。我慢汁、あるいはカウパー汁というもので、色はないがにおいがある。男のにおいなんてどんなものであれ悪臭に違いないが、このカウパー汁は精液に敵うほど深々と鼻に刺さる。

 今、彼はパンツ一丁にあるが股間はもっこり栄えている。頂の部分だけがじんわり湿って、それでさらに、友希那に向かって腰を動かす。

「先生のこともママにするっ、ママにしたいのっ!」

 惚れた友希那にしがみつき、腰を振って懇願する。

 しかしそういう熱量とは別に、彼の脳裡に負けていない一人が居る。

 薄紫の長い髪が腰の部分にまで至る。淀みのない瞳は黄金色に近く、何よりその均一になめらかな肌色に安心感を覚える。

「ママ……」

 この人だ、と決めて捧げた友希那ママが居る。

「あなたはママのこと、大好きなのね」

 ママとの事情を、あの禁断の男女関係を先生に話したことなどもちろんない。秘密の関係のこと以外であっても、詳しい家庭事情を喋った記憶そのものがない。しかしそれでも、何か漏れ出てしまうほど親子二人の絆は激しいものなのか。彼は少し驚きつつ、そんな事態に何か居心地のよさを感じる。

「あなたからの好意、というより性欲かしら、そういうものは、いつでも感じていたの」

 彼としては恋慕のつもりなのだが、性欲なんていわれてしまって、けれど確かに、大人の女の人からすれば男児の欲求など全て性欲由来なのか。

「あなたたちは相思相愛だった。けれどあなたは、別の人に好意を向けた」

 現実が、彼のことを大きく包み込む。今、男児より背の高い友希那がその身体で彼へ影を落とし、彼は問われる。

「選ぶべきだと思うの」

「え、選ぶ……」

「ママじゃなくて、私が好きだってしっかり告白して。それさえしてくれたらこの大きなもの、今から私が、お母さんに代わってお世話してあげる。けれどこのまま何も言わないのなら、おちんちんはおしまい。みなかったことにするわ」

 おしまい、だの、みなかったことにする、という文言というか、発音がぶっきらぼうで寂しい。言葉でそのように示すのではなく何かいやいやと喉を鳴らすと、友希那の右太腿が持ち上がり股間を下から摩られる。

 それをされてしまっては、男は下手に暴れることさえできなくなる。

「選んで。私か、それともママか。どちらがいいのか、どちらを取るのか」

 友希那の唇が近づいてくる。

「どちらのオンナを自分のものにするのか、正直に答えなさい」

 そうか。

 彼はそこでようやく理解した。

 つまり、これは友希那が用意した罠なのだ。今、何か成り行きで二人抱き締め合っているのではない。あおばら組から、自宅に行くと誘導したその時から、この保育士友希那は今の状況を視ていたし、目指していた。そうして自宅の中、彼に油断を披露し惹きつけ、すっかり屹立したものを握って選択を迫る。

 そんなことをしたところで、先生にどのような利益があるのか。彼にはよくわからない。とにかく友希那は彼とママという、禁断の親子関係に切り込んでいきたいと画策している。

 彼に選択の余地などなかった。

 だってだって、こんなにしっとり抱擁を許してもらって、汚れたところの世話係にまで名乗り出てもらっては、男の思考力など皆無になる。

 それは彼が園児だから、という理由ではない。大企業の計算高い専務であっても、社長の椅子を狙う秘書であっても、女の色香を武器に脅迫されては意味がない。そうした中で男が理解できることとはたったひとつしかない。

 おちんちんを握ってくれたこの人は、ママなんだ。

 硬く上向き、悪臭と熱を放つ陰茎をそれでも許し、握り、最終の部分まで付き添ってくれる。それがどんな態度であれ、竿に対し喜びを与えてくれる相手はきっと、この人は、心の部分まで許してくれる相手なのだ。

 男はいつでもそんなふうに勘違いを必ず起こして沈み込む。

 手玉に取られ、自由に、操られているというのになぜか、自分を選んでくれた、などと相手について愚かにときめいて尻尾を振るう。

「好きっ、好きですっ……」

 呟いてその刹那、発言を取り囲むように友希那の身体が倒れ込んでくる。

「誰が、好きなのかしら」

「友希那すき、すきなのっ」

 彼はもう即答し、それから腰を持ち上げて友希那にすり寄った。母親の調教などあっさり瓦解し、今の彼は自分の血縁にない、新品の女に無我夢中だった。

「ママより好き?」

「好き、大好きなのっ」

 ママごめんっ。

 でも、でも……!

「せんせぇのこと好きっ、好きなのっ」

 持っていたもの全部、没収されちゃう……。

 でも、よかった。それでよかった。だって彼の脳裡にはもう、愛しいママのことなど皆無だった。希薄だった。そんなものは一旦、一旦、今だけはどうでもいい。

 それよりも今は、このそそり立つものをしかと受け止めてくれる友希那がいい。

「ママより好き、ママより先生、友希那せんせぇがいい!」

 そうして恋文を受け取ってもらうかのように、男の股間、竿そのものを握ってもらう。

 

 普段、何か鉄壁というか、ガードが硬い女であればあるほど、その装いを自ら降ろしてしまう様子には価値が付属する。

 そうして差し出された雌の酸味を、肉厚そのものを受け取らない男などない。

 現在、いくらか緩くおとなしい雨空を向こうに、一人の女と一匹の男児が寝室に閉じ籠る。柔らかい寝具に女体が磔刑にある。

 けれど罪人はどこだろう。この女性も、雨雲だって罪はない。いいやひとつある。この寝具、本来指の先さえ触れることなどありえない、そういう男児がどういうわけか、まるで本来の使用者のような態度でマットレスを歪ませ、敷かれた友希那を上から視ている。

 今、彼の欲望はついに友希那の内部に入門し、無事に受け入れてもらっている。

 あの憧れを、何度も願って、その度に不相応かと挫折して、それでもまた盛り上がるような、そういう相手とついに、なんの邪魔もなく触れ合っている

 挿入に至るまでの道のりを考えると、現在ようやく報われた、という心地で、彼はその楽園の手触りを思ってみる。

 友希那の内部は温かくって、柔らかい。何十にも連なる肉ひだは、入ってきた彼のことを少し厳しく押さえつけ、すでにその形に添いはじめている。まさに極楽であり、何もかも全て新鮮なまま彼をもてなしてくれている。

 友希那を完全に独占し、もう他など一切、寄せ付けない。そんな意思を示すため、彼は友希那の胎内その奥で射精に至る。排泄は長々と続き、やがて行為はひと段落を得る。

 ふう、と息を落ち着かせていると次にむくり、と肌色が起き上がる。

「次は私の番よ」

 愛しい、可愛い友希那の肩幅が、消耗しているというのに影を造り、彼はあっという間にベッドに敷かれてしまう。

 今まで、全裸の友希那が貼り付いていた白色の寝具に今度は、彼が磔刑に遭う。逃れることは不可能で、さっそく友希那が腰の部分に馬乗りになる。けれどまだ挿入はしない。細い右手、その人差し指と親指が繋がって輪が生まれ、そういうものが彼の竿の、その首のような部分にぴたりと絡まる。

 それから友希那は軽やかな手つきで動き、竿に刺激を与えてくれる。勃起した彼のものを、それからさらに慣らすようにいくつか揺れると、彼の中の硬さも真剣なものになってくる。

 勢い余って溢れ出てしまいそう、という具合で腰を跳ね上げると友希那の手が離れ、代わりのように腰が近づいてくる。

 年上女性の膣口はすでに完備にあり、友希那は両足を大きく開いて、男児はまた胎内に入場する。すかさず女体が彼に被さり、男体は、あの窓から差す少しの光や、雨模様さえ、もう眺めることができなくなる。

 今、彼が視認するものとは友希那の肌色のみ。股間の部分で浮き沈みする尻は寝具そのものに小刻みな影響を与えており、彼はそれを撫でてみる。すると友希那も何かお返しのように彼の頭部を擦り、彼は憧れの保育士先生、その人の首筋の酸っぱいものを嗅ぐ。

 そうした中で友希那の猛撃は続き、彼も高ぶってゆく。もはや園児と先生、二人して留まることなど無視をして、間もなくすると友希那先生が、トドメといわんばかりに強く腰を突き落す。

「んっ……!」

 そうして二人、重なり密着し合ったまんまで再び果ててゆく。

 獰猛な、元気な射精は当然友希那の膣が全て回収し、彼は彼女の手の中で強張ることになる。あまりにも強い快感によって痙攣するしかないのだが、そうした排泄の途中であっても友希那は彼の頭を、いいやそれ以外の、肩や頬も、あらゆる箇所をゆったり撫でて、終わるまで待ってくれる。彼の射精だって、ただ一度打ち上げるだけというものではない。そもそも友希那の膣の実力が高いし、こうして好きな女に抱き締められて、許されながら行う射精が一度で終わるわけがない。

 男体の中、腰部分のみが上向きに何度も跳ねて友希那に積極的になり、どこまでも遠く、遠くまで友希那のことを白く濁らせる。

 そうして、盛んな男児はひとつの盛り上がりを終え、後は浮遊のように下り坂、というものなのだが、その中で友希那が動き出す。

 射精直後、それは男が最も弱る瞬間なのだが、この友希那はそういう時こそ強く身体を発揮する。彼のものを胎内に留めたまま、女豹は男の胸板に倒れ込んで尻のみを軽く揺らす。

 胎内、ひだに包まれたままの竿が撫で廻されている。すでに二度、強烈なものを執行して縮みはじめている彼だが、こうして甘えられると嬉しい。

 友希那の身体が浮き上がり、それから彼は天井と室内の様子、さらに久しく、窓から覗く夜の色を視て最後、己の身体のすぐ上の光景に惚れ惚れする。

 晴天に雨雲が襲来するように、多大な湿気を含んだ友希那の唇が男のそれに当てはまる。

 それは誘いではなかった。これは一種の命令だ。だって何の文句もなく、ただ唇と舌、それから唾液を相手に寄越すなんて強引じゃないか。

 そうして彼は頭を寝具に預けたまま友希那と唇を交わすのだが、特徴的な事として友希那は、下手に唇が潰れたとしても口づけを止めない。

 丁寧な仕事を普段から心掛け、園児だったり、保護者との関係性について真剣に検討するあの友希那なのだが、こうした接吻の時ばかりは雌に成り果て、彼は貪り食われるしかない。

 いいや、それよりも友希那という堅実な人でさえ、時には野生的な部分を解放し、魔性に満ちることがある。そうした発見を得た、というだけで男としては嬉しいし、それでなくとも、友希那の唇は美味しい。

 なんだろう、ただ柔らかいだけでない。口腔内部で舌先や、唇を押し込むとそれだけ押し返ってくる。つまり弾力に富んでいるということであり、またその粘膜には常に、友希那だけの独特の風味がある。

 友希那の味、それはつまり唾液であり、その味付けは、この世のどこにも存在していない。

 友希那の口の中、その部分にのみたんまりと蓄積され、熱され、潤沢に整っている。それはまさしく極上の蜜であり、彼が真に追い求めている美食そのものであり、たった一度でもそれを吸い出してしまうともう、取りつかれてしまう。

 友希那の味に、理性でなく雄として魅了される。そこが多少独特な風味に溢れていたとしても、いいやだからこそ常駐したくなる。

 つまり彼は、友希那の唾液に敗北している。

 男女二人、口づけとは向かい合って相手に入ってゆくことだが、その後に、どちらが先に相手の懐に堕ちてゆくのか、それは二人の技量の差により決定される。そして今まさに、彼は友希那の技の全てに敗北している。

 ああ、なんだかこれでは、僕が襲われているような……。

 友希那を啜り、また友希那に啜り尽くされた彼は力を失くし、けれど股間はまだまだ盛り上がっている。

 奪われてしまう。これから青少年として生き、認めた誰か、カノジョへ身体を許して、じっくりどろどろ貴重に、使って消費し失くしてゆくはずの貞操が、こんなに強烈で卑しい、魅力的な女の人、友希那に脅かされてしまう。

 口と口で繋がったまま、繋ぎ留められたままで男児は、女と共に夜を深くする。

 

 射精が終わって男はようやく冷静になる。

 というより、冷静に現実を視ることができるようになる。そして男とは何度も現実を視ている。その際に絶望したり、反省したり、次へ活かそうと教訓じみた意識を持つが、そんなひとつひとつの経験などすっかり無視してまた射精する。

 彼についても同様で、その場の性欲に身を任せ、ママではない女性と禁断の部分に至ってしまった。

 男とは成長しない生き物である、なんて、またここでひとつ教訓を得たふりをしてみるが、事態は深刻なところにある。母親と恋仲にあるうえで、全く無関係の人と性的に触れ合った。今度のこれは、流石にどんな言い訳も通用しない。

 叱責か、幻滅か、相手が居るとはいえ、惚れた女にそんな態度で迫られると落ち込んでしまう。きっと数日は落ち込んでしまうだろう。

 そのように萎れていると友希那の声がして彼は顔を起こす。次の瞬間、このベッドの上でまた花が咲く。

 怒られると思っていたところに口づけをされてしまっては、諦めかけていた恋心も再燃する。

 保育士という身分の友希那は寝そべったまま、彼に向かって身体を流し、顎先は彼の口元を射貫く。もう、どちらがしたかもわからない動きに相手が添い、結果として友希那の肩から数本の毛先がつるりと落ちてゆく。口と口が連結し、酸素の欠乏が終わりの合図になる。二人は離れ、だが尾を引くように友希那の両手が彼の肩にある。

「あ、あなたからもしてほしいのだけれど……」

 男を虐げるほど乱れた友希那が今度は叱られたようにおとなしい。それにしてもいったい、何について言及しているのだろう。友希那の瞳の奥を探ってみると口元、互いのそれの間に透明なものが繋がっていることを視る。唾液の糸で、それから友希那の瞳をまた視ると、張本人は目を逸らす。

「鈍い人……」

 それから唐突に頬を赤らめるのだから、彼はなんだか困惑する。

「だって、これから愛人になるのだから……」

「アイジン」

 彼が喉を立たせると友希那もまた表情を持ち直し、きゅっと肩が保たれる。

「当然よ。だって、あなたには恋人が居るのだから。この関係は周囲には絶対秘密で、つまり私たちはこれから、愛人関係になるの」

「そんな……」

 許されるのか、そんなこと。

 男としての人生の中で、ありえなかったことが今まさに発生している。この現状こそがまず幻なのではないか。そのように不安に至る彼の頬を、眼前、保育士友希那は左手で擦ってくれる。

 そうした熱気に彼はもちろん嬉しく思うのだが、ふと気を緩ませるとその奥に、よく見知った顔が浮かぶ。

 友希那。

「でも、ママは……」

「大丈夫」

 彼が額を上げるとそれの同時、友希那は彼を引き入れように抱き締める。

「お母さんには、何も喋らなくていいのよ」

 友希那という柔肉の中、練り込まれた女を彼は嗅ぐ。

「これは、先生とあなただけの秘密のこと……」

 信頼しているわ、という最後のひと言を頼りに彼は友希那の胸元で決起する。優しく額を上げ、顎先が彼女の柔らかいものに向かい、そうして唇同士が真剣交際のように逢う。

 よぉし、わかった。

 彼は自分の中で、股間が手に余る熱量に浮かされた際、駆け込む相手として友希那先生を指定した。

 だって、秘密の中で男女になることも、きっと楽しいだろう。

 

 園児であるのなら保育士から最大限、世話をしてもらえる。

 たとえば昼食を食べさせてもらったり、昼寝の際に添い寝をしてもらうことも当たり前、必要なら便所に付き添い、放尿する瞬間を見守ってもらう。

 だが、入浴なんてどんな園児もしてもらえない。保育士がどれだけ園児を大切に想っていたとしても、また園児が、どれだけ特定の保育士を愛していようがそんなことは発生しない。

 すると、これはどういうことなのだろう。彼は男児としてこの保育士友希那の自宅に足を踏み入れ、まず性的に混ざり合った。その果てに愛人としての契約を結び、それから入浴、食事、添い寝まで行った。

 これほど、日々のあらゆる部分に友希那が混入した日もない。保育士と男児という密接な、しかし絶対にその領域を出ない、脱することがないと保障されてしまっている関係から二人、逸脱して夜を共にしている。

 こんなこと、許されるのだろうか。

 そこには男児という身分としての罪悪感の他に、母親友希那への罪悪もある。つまりは恋人を家に放置しているという状態で愛人に逢っている。家と家の間は大きな雨により断絶されており、もちろん身動きなど取れない。

 奇妙なほど、ここに居る理由が出来上がっている。

 そんな事実によって己を誤魔化し、とにかくその日、彼は友希那先生を味わった。

 そうして、早朝に至る。

 何もかもが白い空間で彼は目覚めた。少しして、すぐ近くに窓があり、陽光が差し込んで輝いていることを知る。レースカーテンがあり、寝具についても白色が吹かれている。周囲を見渡し、あの己以外を揺るがす凶悪な豪雨がすっかりどこかに消えたことを知り、まどろんでいると隣が不自然に蠢く。

「あなた……」

 愛人が居る。

 陽光をたっぷり身に受けて、たった少しでも動いてみるとその髪が、シーツの上で流れて変わる。形が変わると当然、光を反射するその色合いも変化して、そういう情景が眩しい寝室の中、すぐ隣の位置で披露されている。

 ぼうっと、友希那のことを視ているとその鼻先がこちらに向く。やがて両手が持ち上がり頬の適当な位置を掴み、目元が薄っすら、誇張された唇が迫ってくる。

 それでも彼が何も動かずに居ると友希那の目元がぱっちり開花しふと訊ねてくる。

「するのでしょう?」

「するって、何を……」

「お、おはようのちゅー……」

 この陽光の中でよく視える赤面が遅れて咲く。

「愛人とはそういうものだと解釈しているのだけれど、違っていたかしら」

 もちろん合っている。意欲的に友希那へ身を乗り出すと、今度は友希那がじっと止まる。

「それじゃあ、舌を突き出して、私を突き刺すように」

 命令通りにしてみると友希那の頬に満足げなものが浮く。

「いいわよ、そのまま、じっとしていて……」

 それから友希那もまた突き出してくるのだが、それは彼同様に舌ではない。顔面、しっとり閉じられた唇を前に出し、やがて彼の舌先がそれに触れる。

 触れた位置、それを起点とし友希那は自らの唇を彼の舌に押し込んだ。舌はひしゃげ、彼は友希那の唇を舐めることになる。友希那はそのまま唇を押し込みつつ顔を揺すった。

 それは友希那が、差し出された彼の舌に自らの唇を擦り付けているというものだった。

 まるで仔猫が、すでに認めた飼い主に対し、身体そのものを寄越して甘えるように友希那は彼へ口づけをする。

 早朝というと何か神聖な雰囲気を予感するが、起床後すぐの人間の口とはそれほどのものではない。とすると今の友希那は、そういったものを彼の舌を使って清掃しているという具合で、確かに少しすると離れてゆく。乾いた男の唾液を口周りに備えたまま次に友希那は舌を突き出し、彼に同じことをするように命じる。

 それを拒否する彼ではなく、伸ばされた友希那の舌先に向かって唇を差し出す。やがて柔らかいものが触れ、より深く押し込んで顔を揺らす。口元にあるものを友希那へ撒くというかまんべんなく託す。乾いた女の唾液によりぬちぬちと少し湿り、離れると確かに嬉しくなる。

 まだ、名も知らぬ小鳥が鳴くような純白の時間の中、早朝の香ばしさを交換こする。

 わざわざ役割を決め、順番に行うところがいかにも恋人っぽいなと思いつつ、そういうものに彼はもちろん友希那のほうが積極的で口と口が離れた後、ずうっとにまにま、みつめてくる。

「おはよう」

「うん。おはよう」

 二人だけの透明な橋にだって光は差す。

 そうして起床した友希那はすぐさま保育士になった。まず彼と共に食事を済ませ、それから母親と連絡を取った。以外なことに、友希那ママはすぐ迎えにくるということだった。保育士友希那はそれについて「あなたが心配なのね」とほほ笑んだが、彼としては愛欲に起因する気配を嗅がずにはいられない。

「おはようございます」

 正午にぎりぎり突入せぬまま、母親は友希那の自宅に到着した。何か焦っているのでは、なんて彼は危惧したが実際はそうではなく、ママはいつもの静謐な美貌に優れている。先生とママはいくつか会話をし、やがて彼は手を引かれて家を後にする。

「また、保育園で――」

 手と手で会釈をし、それを扉が断つ。友希那ママ曰く、帰宅はバスで、正午のうちに自宅の三和土を踏むことになる。

「ただいま……」

 なんだか、猛烈に久しいような気がする。それにこれは、朝帰り、というものだと呼べるのか。

 そんなふうに勝手に考えているとすぐ隣、友希那ママが彼の肩を握る。会話をする間もなくママは息子のことを壁に押し付け、しゃがみ込みながらそのズボンを下ろしてしまう。

 別にベルトなどない腰周りはすぐにラクになり、次に彼は、もっこり肥える股間に愛するママの鼻頭が優しくめり込むことを視る。

 帰路をゆき、家に入った二人を追うように空に伸びる陽光が窓から視える。まだ部屋の照明さえ灯っていないので、影と光の斜めの直線が家具を切って通過する。

 そんな中、彼は壁に背を預け、股間の部分で友希那が廻っている。その鼻頭はまだ格納されている竿を撫ぜつつ、友希那自身の強烈な鼻呼吸の音が浮き沈みする。

「においがする……」

 何か、卑しい。腰の部分で美しい顔が少しひしゃげ、それでも本人は気にせず呼吸に徹している。その空気には彼の雄としての香ばしさが十分に乗っているはずで、そんなものを嗅ぐママの頬は赤く、暴れる長髪がいくつか貼り付いている。

 くっきりと形造られた鼻先がめり込み、それだけで彼は嬉しくなる。

「精液のにおい、あなた、先生の家でしたのね……」

 それから遅れて、瞼が開き瞳が打ち上がる。日差しから少しだけずれた、隠れた場所で黄金色が彼を射貫き、また薄紫も、汗ばみを絡めつつより淫らに充満する。

 立ち上がると同時、友希那は彼のパンツを剥いた。それは完全な脱衣ではなく、一応、竿の部分のみが露出するような形に仕立て、また自身のスカートをその場に突き飛ばす。

 普段、何がというわけでもなく絶対的に拓かれない友希那の股が彼に向かって大きく開き、湿った部分同士が触れ合う寸前になる。彼はこの、友希那という女体が巨大になって迫ることを体験し、後方は壁で逃げられない。熱く湿った衣類とそれから、歪んだ長髪、出来立ての香ばしさが全ての感覚を包み、腰の位置に何か降りてくる。

「するわよ」

 母親の強烈な宣言と共に、彼は高ぶった部分で女と逢う。

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