◆
人生というのは随分と質の悪い三流喜劇だと思う。
少なくとも、僕の目の前で繰り広げられているこの茶番劇を見る限り、そうとしか思えないのだ。
僕の家の崩壊は実にあっけないものだった。
ある晴れた秋の日僕が学校から帰宅すると、テーブルの上には丁寧に淹れられたコーヒーと一枚のメモが置いてあった。
「好きな人ができました。探さないでください」
あまりにも陳腐で定型文すぎて、思わず吹き出してしまったくらいだ。
まるで昼のメロドラマのワンシーンである。
脚本家がいたらもう少しマシな台詞を考えるだろうに。
どうやら母さんは、近所のスーパーで知り合ったというどこにでもいるような冴えない中年男と駆け落ちしたらしい。
まったく趣味が悪い。どうせ不倫するなら石油王とかハリウッドスターとかもう少し夢のある相手を選べばいいものを。そうすれば僕たちも慰謝料で左うちわの生活ができたかもしれないのに。
まあそんな甲斐性のある男が母さんを選ぶはずもないか。
母さんは美人だったが、それ以上に夢見がちな人だった。
そんな母さんが安月給のサラリーマンである父さんを選んだのは、人生最大の誤算だったのかもしれない。
そしてその誤算に気づいた時、母さんは迷わず僕たちを捨てたのだ。
実に潔い決断である。
感心するほかはない。
残されたのは僕と父さん。
男二人きりのむさ苦しい生活が始まったわけだ。
ちなみに父さんの様子はといえば酷いものだ。毎日会社から帰ってくると、リビングのソファに座り込み虚空を見つめるのである。
話しかければ返事はするし、日常生活に支障はない。
でも僕は父さんの静けさが不気味でならなかった。
嵐の前の静けさに思えてしかたなかったのだ。
そしてその予感は、最悪の形で的中した。
◆
一週間後、父さんは壊れた。
それはもう絵に描いたような壊れ方だった。
会社を無断欠勤し、昼間から酒浸りになる。
安物のウイスキーのボトルが次々と空になっていく。
そして夜になると、決まって始まるのが母さんへの恨み節だ。
「あの女……よくも俺を裏切ったな!」
真夜中に響き渡る絶叫。
そして壁を殴り家具を蹴飛ばす音。
家の中は荒れ放題になった。
洗濯物は山積みになり、台所には洗い物が溢れかえっている。
まるで台風が通過した後のようだ。
いや台風はまだ通過していない。
現在進行形で僕たちの頭上に居座っているのだ。
僕はそんな父さんを冷めた目で見つめていた。
可哀想だとは思わない。
むしろ滑稽だった。
あんな女のためにどうしてそこまで自分を貶めることができるのか、僕には理解できなかったからだ。
愛というのは実に厄介な代物である。
人の理性をいとも簡単に破壊してしまうのだから。
やがて父さんの狂気は僕に向けられるようになった。
当然の成り行きだろう。
他に怒りをぶつける相手がいなかったのだから。
最初は些細なことで怒鳴り散らす程度だった。
だが次第にエスカレートしていく。
ある夜、僕は些細なことで父さんに殴られた。
頬が熱くなり口の中に血の味が広がった。
僕は黙って父さんを見つめた。
父さんはハッと我に返ったような顔をしてそれからまたすぐに虚ろな目に戻る。
「お前が……お前が悪いんだ」
そう言って父さんはよろよろと自分の部屋に戻っていった。
僕は鏡を見て腫れ上がった自分の顔を確認した。
やれやれと僕は思う。
これが僕の日常だ。
狂った父親と二人きりの出口のない日常。
いつまでこんな生活が続くのだろうか。
僕は深くため息をついた。
◆
そんなある日、決定的な夜がやってきた。
その夜も父さんは酷く酔って帰ってきた。
玄関のドアが乱暴に開く音がして、僕はリビングのソファで読んでいた本から顔を上げる。
時計は深夜の零時を回っていた。
「ただいま……」
呂律の回らない声が聞こえる。
父さんは靴も脱がずにドタドタとリビングに入ってくる。
強烈な酒の匂いが鼻をついた。
「……おかえり」
僕は短く答えた。
関わりたくなかった。今日は帰ってこないと思っていたのに……。早く自分の部屋に戻りたかった。
でも父さんは僕の前に立つと、じっと僕の顔を見下ろした。
その目は焦点が合っておらずどこか遠くを見ているようだった。
しばらくの沈黙。
そして父さんが口を開いた。
「……有希子」
それは母さんの名前だった。
僕は眉をひそめた。
また始まったか。
僕は母さんに似ているとよく言われた。
特に目元がそっくりだと。
父さんは僕を母さんと勘違いしているのだ。
「違うよ父さん。僕だよ、春だ」
ああ、僕の名前は春という。春に生まれたから春。安直ここに極まれり。でもこの名前は結構気に入っている。母さんが名付けてくれたらしいけれど、あの人が残したモノの中で、名前は数少ない嬉しいモノだったりする。
ともあれ、僕は立ち上がろうとした。こんな酔っ払いにかかずらっていたくない。
でもその瞬間、父さんの太い腕が僕の肩を掴んだ。
万力のような力だった。
「有希子……どこに行ってたんだ。心配したんだぞ」
父さんの息が僕の顔にかかる。
酒と何か酸っぱいものが混じったような不快な臭いだった。
吐き気がする。
「離してよ父さん。酔っ払いすぎだよ」
僕は父さんの手を振り払おうとしたがびくともしない。
「寂しかったんだぞ……俺を一人にするなよ」
父さんはそう言うと、僕を力任せに抱きしめた。
「ちょっ……苦しいって!」
僕はもがいたが、父さんの腕はさらに強く僕を締め付ける。
まるで巨大な蛇に巻き付かれたかのようだ。
父さんの体温が薄いTシャツ越しに伝わってくる。
異様な熱さだった。
恐怖と嫌悪感が背筋を駆け上がった。
これはまずい。
本能が最大限の警鐘を鳴らしていた。
父さんは僕の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
無精髭が肌に当たりチクチクと痛む。
「ああ……有希子だ。お前の匂いだ」
父さんが恍惚とした声で呟く。
背筋がゾッとした。
気持ち悪い。
でもそれ以上に、僕は本能的に危機感を覚えた。
「やめろよ!」
僕は渾身の力を込めて父さんを突き飛ばそうとした。
だが父さんは僕を抱きしめたまま、ソファに倒れ込む。
僕が下敷きになる形だ。
「うぐっ……」
重い。
息が詰まる。
父さんは僕の上に覆いかぶさると僕の顔を覗き込んだ。
その目は欲望でギラついていた。
狂気を孕んだ獣のような目だった。
「有希子……綺麗になったな」
そう言って父さんは僕の唇にキスをしてきた。
◆
「んっ……!」
僕は顔を背けようとしたが、父さんの大きな手が僕の後頭部を掴んで固定している。
動かせない。
生温かく分厚い感触が唇を塞ぐ。
父さんの唇は乾いていてひび割れていた。
ウイスキーの苦い味がした。
父さんの舌が僕の唇をこじ開けようと蠢く。
僕は必死に抵抗した。
歯を食いしばり舌の侵入を拒む。
でも父さんは構わず僕の唇を貪り続けた。
下唇を強く吸われそして甘噛みされる。
「うぇっ……!」
その気色悪さに思わず呻き、口が開いた瞬間──ぬるりとした肉塊が口内に侵入してきた。
「んんっ……!」
父さんの舌が僕の舌を絡め取り、口内を蹂躙する。
歯茎をなぞり上顎を擦り上げる。
酒臭い唾液が流れ込んできて、僕はパニックになりかけた。
理性が「逃げろ」と叫んでいるのに──
僕の頭を抑える父さんの目が、目が。
酷く濁っている。息子を見る目をしていない。ぎらついた、獣の様な目だった。僕は怖くなって、動けなくなってしまう。
それをいいことに、父さんは僕の服の中に手を滑り込ませてくる。
汗で湿った冷たい指先が僕の素肌に触れると──
「ひっ……」
思わず声が漏れた。
父さんの指は僕の背中をゆっくりと這い回った。
一本の線を描くように背骨をなぞっていく。
その軌跡に沿ってぞわぞわと鳥肌が立つ。
そしてその手は僕の胸へと移動して、乳首を親指と人差し指が摘んだ。
「やっ……!」
カリカリと爪で引っ掻くような刺激に思わず声が漏れてしまう。
「気持ちいいか? 有希子……」
いうなり、今度は強く捻り上げてくる。
「いだっ……やめ……」
痛みと同時に甘い痺れが全身を駆け巡った。
だめだ。
感じてはいけない。
こんなことあってはならない。
父親に乳首をいじられて感じる息子? ──最悪だ。
「有希子……感じてるのか?」
父さんが耳元で囁いた。
違う。
僕は有希子じゃない。
僕は男だ。
なのにどうしてこんなことをされなければならないのか。
理不尽だと思った。
でもさらに理不尽な事に、父さんの手が僕のズボンの中に伸びてきた。
「やめてよ……!」
僕は足をバタつかせたが、父さんの体重で押さえつけられていてうまく動かせない。
父さんは僕のスウェットパンツと下着をまとめて乱暴に引きずり下ろした。
下半身が露わになる。
冷たい空気が肌に触れ、羞恥心で顔が熱くなった。
そして父さんも脱ぎだし、自分のズボンを自身のアレを取り出す。
それは赤黒く怒張して、なんというか……見ているだけでも気分が悪くなる。
それに……
──なんだよあれ、大きすぎるだろ……
僕とは全然比較にもならないサイズだ。一回りどころか、二回りは違うんじゃないだろうか。
僕は目を逸らしたかった。
でも父さんは僕の足を開かせ、その間に割り込んできた。
そしてその先端を──
「だめだって……やめてよッ……やめろ!!」
そんなところに入るはずがない。
「力を抜け……有希子」
父さんが囁く。
その声がさらに僕の恐怖を煽った。
父さんは唾液を手に取り僕の入り口と自身のアレに塗りたくった。
そして一気に腰を突き出した。
「あ゛っ……!」
激痛が走った。
体が内側から引き裂かれるような痛み。
熱い異物が無理やり体内に侵入してくる感覚。
「いだい……抜いて……!」
僕は涙目で訴えた。
だが父さんは動きを止めない。
「きついな……」
父さんは低く唸ると、さらに奥深くへと突き進んできた。
「はあっ……はあっ……」
息が荒くなる。
痛い。
苦しい。
しかし父さんが腰を動かし始めると、その痛みが次第に変化していくのを感じた。
父さんのアレが僕の体内の特定の場所を擦るたびに、背骨を電撃が駆け上がるのだ。
「ああっ……んくっ……!」
僕の声を聞いた父さんの動きが一段と激しくなる。
この感覚はなんだろう。なんというか、大のほうをするときの感覚に似ている。気持ちいいというわけじゃない。なのに、なのにッ……!
「う、おおおおおッ!」
父さんが低く唸り声を上げると、僕の奥に生暖かい何かが流れ込んでくる感覚がする。
「……っ!」
父さんは僕の上に覆いかぶさったまま荒い息を繰り返していた。
◆
どれくらい時間が経っただろうか。僕は父さんに組み敷かれたまま、ぼんやりとしていた。
父さんのペニスは僕の中に挿し込まれたままだ。
それにしても、なんでこんな事になったんだろうか。
正直父さんにはムカついている。でも、父さんだけが悪いわけじゃないと思う。
元はといえば母さん──あの女が出て行ったのが悪いんだ。
ただ離婚しただけなら、父さんもこんなふうにはならなかったんじゃないだろうか。
でもあの女は最悪の形で父さんを、僕を裏切った。
そんな事を考えていると、ふと父さんが身動ぎをした。
そしてゆっくりと僕の中からアレを引き抜く。
その瞬間僕の体内からどろりとした液体が溢れ出てソファを汚した。
父さんは僕の上から退くと僕の顔を覗き込む。
その目はさっきまでの狂気の色は消え、正気に戻っていた。
ここ最近は余り見たことがない、“いつもの父さん”の目だ。
そして──僕の顔を見た瞬間、父さんの表情が凍りついた。
「春……?」
父さんの声は震えていた。
自分が何をしたのかを理解したようだった。
「俺は……俺はなんてことを……」
父さんは顔を覆いその場に座り込んだ。
そして子供のように泣きじゃくり始める。
「すまない……本当にすまない……許してくれ……」
僕は何も言えなかった。
ただぐったりとソファに横たわり、父さんの嗚咽を聞いていた。
僕はなんだかとても疲れてしまった。
「もう、いいよ。もうこんな事しないでね」
そういって、僕は浴室へと向かった。
立ち上がった拍子に垂れた、父さんの精子は見ないふりをして。
◆
翌朝、僕たちは何事もなかったかのように振る舞った。
父さんは昨夜のことを覚えていないふりをしていたのか、それとも本当に覚えていないのか僕には分からなかった。
でもそれから少なくとも数日くらいは平穏無事に一日一日が過ぎて行った。
父さんは酔っぱらって帰ってくることはなくなったし、受け答えもまともだ。
正直、このまま平和に過ごしていけるんじゃないか──そんな風に思ったこともある。
そう、そんな平穏な日々は長くは続かなかったのだ。
また酒に溺れ、僕に当たり散らす日々が戻ってきたのだ。
ちょっとしたことでも暴力を振るわれる。
それだけではない。
夜は夜で、
そしてひとしきり僕を嬲ったあと、正気に戻って泣いて謝って。
数日後はまたもとに戻って、僕を犯す。
正直いって勘弁してほしい。
いっそ家出でもしようかなどと考えたこともあったけれど、もしそうしたとして、父さんはどうなるだろうか?
今よりもっと壊れちゃったりして。
そういう人間が最終的に何を選ぶかは容易に想像できる。
僕は“今の父さん”は大嫌いだけれど、父さんという存在そのものが嫌いなわけじゃない。
むしろ、ただ一人の親として、出来る限り大切にしたいとも思っている。
でも、父さんの心を癒してあげる、気を紛らわしてあげるにしても、どうすれば──
数日間僕は悩みに悩んだ。
そして、一つの結論を出した。
──あの夜のように僕が「有希子」になれば父さんはまた昔の父さんに戻ってくれるかもしれない
と。
それが歪んだ考えだということは分かっていた。
しかし、僕にはそれしか方法が思いつかなかったのである。
僕たちはもうたった二人の親子なのだから。
◆
ある休日の午後、僕は意を決して母さんの部屋に入った。
父さんは仕事に行っていて留守だ。
母さんの部屋には、置いていった化粧品や洋服がそのまま残されていた。
僕は鏡の前に座りおそるおそるファンデーションを手に取った。
ネットで調べた通りに、化粧を施していく。
一応メイクのやり方を調べたのだ。
メイクが進んでいくにつれて、鏡の中の自分は次第に母さんの面影を帯び始めていた。
最後に母さんがお気に入りだった白いレースのネグリジェを着てみる。
サイズは少し大きかったが、それがかえって艶めかしさを増しているように見えた。
鏡に映る自分の姿を見て僕は息を呑んだ。
母さんにとてもよく似ている。母さんも僕と同じくらいのミディアムヘアだった。少し冷たそうな顔立ちで、目じりがやや細い。
僕は満足して頷いた。
これで準備は整った。
その夜、父さんはいつものように酔っ払って帰ってきた。
多分、この後は僕の部屋にやってきて僕を犯すのだろう。散々嬲られているうちになんというか、
普段なら父さんが来るのを戦々恐々として待っているのだが、今夜は違う。
僕はこの日、しっかり準備をしたうえで父さんを待っていた。
◆
ややあって。
父さんが寝室に入ってくる気配がする。
そして僕の姿を見た瞬間、父さんは息を呑んだ。
「有希子……?」
父さんは目を見開いて僕を見つめている。
その目には驚きと、そして歓喜の色が浮かんでいた。
「おかえりなさい、あなた」
僕はできるだけ母さんに似せた甘い声で言った。
父さんは夢遊病者のように僕に近づいてくる。
そしてベッドサイドに立つと、震える手で僕の頬に触れた。
「本当に……お前なのか? 夢じゃないのか?」
父さんが尋ねる。
「ええ。そうよ。帰ってきたの」
僕は微笑んで答えた。
父さんは僕を力強く抱きしめた。
「会いたかった……会いたかったぞ!」
父さんはそう叫ぶと、僕の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
僕は父さんの頭を優しく撫でてやった。
しばらくして父さんは落ち着きを取り戻した。
そして僕の顔を覗き込むと──
「有希子……いいだろう?」
父さんが尋ねる。
その声は掠れていた。
僕は何も言わずに父さんのネクタイに手をかけた。
そしてゆっくりとそれを解いていく。
これが僕の答えだった。
◆
僕は父さんのワイシャツのボタンを一つずつ外していく。
露わになった胸板に、僕はそっと口づけをした。
父さんの身体がビクリと反応する。
僕はさらに下へと移動し父さんのベルトを外した。
そしてズボンと下着を一緒に下ろす。露わになった父さんの性器は、まるで僕を待ち構えていたかのように硬くそそり立っている。
僕はそれを手に取り、その感触を確かめるように優しく握った。
熱く脈打っている。
そしてゆっくりと顔を近づけ、その先端にキスをした。
舌を這わせその輪郭をなぞると、口の中にむわりと男の匂いが広がった。
「おお……」
父さんが呻きにも似た声をあげる。
僕は黙って父さんの性器をゆっくりと口に含んだ。
まずは先端だけを。
そして舌と唇を使って、そこを執拗に愛撫する。
亀頭を舐め裏筋をなぞる。
チュッ、チュッと音を立てながら吸い上げると、父さんの腰がビクンと跳ねた。
僕はさらに深く喉の奥まで咥え込んだ。
息が詰まりそうになるが構わなかった。
そうして頭を上下させ父さんの性器をしゃぶり続ける。
時には舌を絡ませ、時には頬を擦り付けるように。
父さんは僕の頭を掴み腰を突き出す。
その動きは次第に激しさを増していった。
僕の口の中を父さんの性器が往復する。
「もう……我慢できない……出すぞ!」
父さんが喘ぐように言う。
僕は父さんの性器を口から離し、ゆっくりと立ち上がった。
そして──
「こっちへ来て」
四つん這いになり父さんを誘った。下は履いていない。きっと、お尻の穴が丸見えだろう。
父さんは僕の後ろに回ると、僕のお尻を両手で掴んだ。
──こうして広げられるのはさすがに恥ずかしいな。
「入れるぞ……」
父さんが言う。僕はこくりと頷いた。
すると父さんはゆっくりと、自分の性器を僕の中に挿入してくる。
「んんっ……」
あの夜の記憶が蘇る。
だが今度は痛みよりも、心地よい圧迫感の方が強かった。
まあそれに、あれから何度も何度も父さんのペニスを受け入れている。正直認めたくはないけれど、
父さんは僕の腰を掴むと、ゆっくりと動かし始めた。
僕のお尻の中を熱い肉塊が往復する。
ああ、擦れて──少しだけ、気持ちがいい。
「いいか? 有希子、気持ちいいかッ?」
父さんがどこか切羽詰まった様な声できいてくる。
「ああっ……気持ちいい……気持ちいいわ、あなた」
僕も父さんの妄想につきあって、母さんになりきって答えてあげた。
実際に悪くはないのだ。父さんのアレが僕の体内の敏感な部分を的確に突いてくる。
まるで本当に女になったかのような、いや。
父さんが求める「有希子」になったかのような。
「有希子……最高だ……!」
父さんが叫ぶ。
「あなた……私も……!」
僕は応えた。
やがて、父さんは僕の奥深くに熱いものを注ぎ込んだ。
お尻を洗浄する時のほうがよほど刺激としては大きいけれど、それでも僕は震えるほど気持ちが良かった。
それは多分、肉体的な刺激云々の問題じゃなくて、実の父親から犯されているという背徳感──つまり、精神的なものが影響しているのだろう。
父さんは僕の中にペニスを挿し込んだまま動かない。
いつもの事だ。僕もかなり疲れてしまっているから動く気になれない。父さんに犯されるようになって分かった事だけれど、成人男性に犯されるっていうのはとても体力を消耗するのだ。
そうして僕らは繋がったまま、そのまま動かなかった。
汗の匂いと体温が混ざり合う。
体内に残る生温かい液体の感触が僕たちの繋がりを証明しているかのようだった。
やがて父さんがゆっくりと僕の中からペニスを引き抜いた。
じゅぷ、という泡立った音とともに、僕のお尻の穴から生暖かいものがたれてくる。
父さんは僕の髪を撫でながら呟いた。
「すまない……」
また謝罪の言葉だった。
父さんは泣いていた。
静かに嗚咽を漏らしながら。
「俺は……お前にこんなことをさせて……父親失格だ」
父さんは自嘲気味に言った。
その目は完全に正気に戻り、僕を「息子」として認識していた。
僕はゆっくりと身体を起こし、父さんの顔を見つめた。
そして少しずつ唇を近づけていく。
最初は僕からのキス。
次は、父さんからのキス。
「いいんだよ、父さん」
ひとしきりお互いの唇を貪ったあと、僕は優しく語りかける。
父さんは戸惑った表情で僕を見た。
「お互いたった一人の家族じゃん。また“母さん”に逢いたくなったら僕に言ってよ」
僕はそう言って、父さんのペニスに手を伸ばした。
「まだ元気だね」
僕は悪戯っぽく笑った。
そして──顔を近づけて、ゆっくりと口に含んだ。
父さんの表情は見えない。驚いているのだろうか? それとも──
やがて、頭を優しく撫でる父さんの手の感触がする。
温かかい手だった。
久しぶりに感じる父さんの温もりだった。
窓の外では夜が明け始めていた。
──随分長く犯されていたんだなぁ
いや、と僕は少し考える。
犯されていたのは、これまでの話だ。
これからは、
だって僕は、もう父さんとセックスをすることに抵抗はないから。
父さんのペニスをしゃぶっているうちにも、窓の外はどんどん明るくなっていく。
新しい一日が始まるのだ。
僕と父さんの、新しい人生が。
(了)