その配信画面の裏側で、女神が愛に狂うとき。 作:あやりゆるゆれ
――「虚像」に執着する朋友が、崩れた境界により狂愛と悦楽に溶解するとき。
乾いたレンガ敷きの道を、二人の男が並んで歩いていた。
初夏の陽光が、片方の青年の健康的に焼けた肌を、さらに眩しく照らしている。
「でさ、合宿の買い出し、予算計算がマジでわけわかんなくて!」
その声は、キャンパスの穏やかな喧騒の中でもよく通った。
隣を歩く
華奢な体つき、細い首筋。
骨格にわずかに残る男性的な硬質さがなければ、周囲の女子学生よりもよほど儚げに見えるだろう。
「はは、翔らしい。どうせ頭使う前に筋肉で解決しようとしたんだろ」
幼馴染。
その言葉が定義するよりもずっと近く、彼らは互いの生活に溶け込んでいた。
互いの家に泊まり、一緒に温泉に入り、時には肩を並べてナンパに繰り出す。
翔は、結のその類稀な容姿を、風景の一部のように自然に受け入れていた。
(翔……)
親友として、翔の無邪気な体温を受け止める。
その距離感が心地良いと同時に、結の胸を締め付けた。
自分は、男の
もし、この真実を打ち明けてしまったら?
この温かい隣は、陽だまりの中の居場所は、跡形もなく消え失せてしまうかもしれない。
その恐怖が、結を「親友」という安全だが息苦しい檻に閉じ込めていた。
夜が更け、時計の針が十時を回る。
翔との他愛ないビデオ通話を終え、結は自室のドアに鍵をかけた。
空気の密度が変わる。
ベッドの上。
昨日、翔が置いていったままの、汗を吸った練習着が丸められていた。
結はそれをそっと拾い上げ、顔を埋める。
布地に染み込んだ、翔自身の匂い。
それだけでは、足りない。
心の奥底で疼く、この乾きは癒せない。
結は、秘密の営みを始めた。
自らの男性的な特徴には、あえて触れない。
意識のすべてを、下腹部の一点に集中させる。
部屋の隅、本棚の裏に隠していた冷たい道具を取り出し、ベッドに横たわった。
外部からの侵入。
それは、ゆっくりと、結の身体の形を内側から変えていく。
薄い皮膚の下、誰かの指先が、そっと押し当てているかのように。
力を入れて凹ませる腹筋の形とは違う。
空気を飲み込んだ膨張とも違う。
一点に集中した硬い熱が、結の下腹部に生まれ、ゆっくりと形を成していく。
「んぐ……っ、は……」
息が詰まる。
それは、女の子の甘い吐息とは似ても似つかない。
腹の底から抉られるような、喉の奥で潰れた濁点混じりの音。
自己を歪ませ、別の何かを創造する悦びだけが、そこにあった。
鏡に映る裸体。
下腹部は、まるで妊娠初期のように、ぽってりと丸みを帯びていた。
この、無理やり生み出した「受け入れる形」。
これこそが、結の性別への絶望と、翔へ向かう歪んだ執着が、唯一取り得た結晶だった。
この形を創り出す瞬間だけが、彼を満たした。
数十分後。
道具を片付け、腹部の張りがゆっくりと収まっていくと、結は全身の力を失い、床に散らばっていたゲーム雑誌へと顔を埋めた。
雑誌の隅、小さな特集記事が目に留まる。
――バ美肉(バーチャル美少女受肉)。
自身の性別を隠し、理想の女性アバターとして配信を行う文化――
(この、秘密のふくらみを、誰にも知られずに。翔の、理想の姿で……)
数日前、オタク友達に「結もバ美肉したら人気出そう」と笑われた言葉が、今、確かな光明となって結の心を貫いた。
ーーー
九十九結にとって、大河翔との日々は、世界を構成するデータベースそのものだった。
翔が好きな色。
彼が腹を抱えて笑うツボ。
熱心に見ているアニメの、どのヒロインのどんな仕草に惹かれているのか。
親友として蓄積してきた膨大なデータが今、結の指先で、あるべき「理想」へと変換されていく。
「髪型は、ショートボブ。少しだけ内巻きで……色は、薄いアッシュピンク。儚げで、どこか守ってあげたくなるような……」
モニターに映し出されたデザインシート。
結は囁きながら、自身の雰囲気を微かに残しつつ、翔の好みを完璧にトレースしたアバターを錬成していく。
――ユエル――。
それが、結が創り出した、翔の理想を体現する少女の名前だった。
アバターを組み上げる作業は、結にとって自己を解体する儀式でもあった。
ユエルという理想が完成に近づくほど、現実の自分自身が、この歪んだ心を隠すためだけの、無価値な容れ物になっていく気がした。
その焦燥と高揚が、結を夜の営みへと駆り立てた。
理想を創り上げる作業の合間。
椅子に座ったまま、彼は再び内側からの侵入を許し、変形を促す。
薄い皮膚を内側から押し上げる、局所的な張り。
それは、前回の行為よりも、わずかに大きく、より硬い存在感を増している。
「ご、……ぉ゛……っ」
喉が鳴る。
快感と、自己を歪める悦びが混じり合った、異様な呻き。
この「受け入れる形」が深まることだけが、結の精神を支え、翔の理想を体現するための、倒錯的な確信を与えた。
機材が揃い、アバターが動く。
ユエルとしてのテスト配信は、結の予想通り、初期から一定の注目を集めた。
活動を始めて数日後。
結は、キャンパスの昼休み、いつものように翔の隣で、さりげなく罠を仕掛けた。
「そういえば、この間サークルの奴らが話してたんだけど。最近、すごく可愛い個人勢のVtuberがいるらしいよ。ユエル、って名前だったかな」
親友の仮面をつけたまま、結は微笑んだ。
その笑みの裏には、背徳的な征服欲が、静かに、狂おしく渦巻いていた。
───
翌日の夕方、翔は興奮で顔を紅潮させていた。
「結! おい、マジかよ! ユエル! やばい、あの子、俺の好みドンピシャだ!」
翔は、ユエルのアバターが表示されたスマホの画面を結に突きつけるようにして、興奮冷めやらぬ様子で隣に腰を下ろした。
「あの声のトーン、ちょっと不安そうな顔、でも頑張ってる感じ! それに、俺が好きなジャンルのゲームを、ピンポイントでやってる! なんか俺の思考でも読んでんのかってくらい!」
(……完璧だ)
結の心臓が、歓喜に打ち震えた。
翔の無邪気な熱狂。
その熱が、結の歪んだ部分を直接刺激する。
配信中、ユエルとして、翔のコメントを拾う。「かけるくん、お疲れ様。無理はしないでね?」。
翔が画面の向こうで喜んでいるのがリアルタイムで分かる。
その支配的な悦楽が、内側からの異常な高揚感を煽った。
その高揚は、夜の営みを加速させた。
その夜。
翔は、結の部屋でソファに陣取り、ユエルのアーカイブを見ながら満足げに寝息を立て始めた。
結は、衝動的にバスルームの鏡の前に立つ。
翔の熱狂的な言葉。配信中に得た征服感。
二つが結びつき、身体の奥底から込み上げてくる熱に耐えられない。
道具が、再び内側を変形させていく。
腹部に生まれる、確かな張り。
それは、目視で確認できるほどに成長していた。
薄い皮膚を内側から押す感触は、以前よりも強く、硬い存在感を放っている。
「あ゛、……ぐ……ぅ……」
声が濁る。
快感と、歪んだ自己受容の喜び。
(翔の愛情を、この「形」が受け入れている。私は、彼の理想を宿したんだ)
翔がユエルに夢中になるほど、この秘密の張りは大きく、硬くなっていく。
結は、この身体の変化こそが、究極の背徳だと確信した。
狂気の連鎖は、ここから静かに加速していく。
夜が深まる。
翔が泊まりに来た夜は、結にとって最も危険な時間だった。
配信の成功と翔の熱狂を栄養にして、結はまた、自室で内側からの圧を生じさせていた。
その、指で押されたような硬い張りは、もはや薄いTシャツ越しでも、触れればはっきりと分かるほどになっている。
それは、結にとっての悦楽であり、翔への愛を歪んだ形で証明する、秘密の
「お゛……ほ、……ぅ……」
喉の奥から絞り出す声は、自己破壊的な歓喜に満ちていた。
リビングでは、翔がソファで寝入っている。イヤホンからは、ユエルのアーカイブ動画が微かに漏れていた。
結は、そっとリビングへ向かう。
翔の寝顔。無防備な背中。
「なぁ、結」
翔は目を開けることなく、結の気配に気づいて低い声を出した。
「ユエルにならさ、俺が一番抱えてる悩み、全部話せるんだよな。誰にも言えない夢とか、弱さとか。結には……親友には、ちょっと言いにくいことでも、あいつになら言えちゃうんだ」
ユエルにしか話していないはずの個人的な悩みを、親友である結に、無自覚に語りかける。
結は、すべてを知っている。その事実が、結の全身を支配的な高揚感で打ち震わせた。
翔が完全に眠りに落ちたのを、呼吸の深さで確認する。
衝動が、結を突き動かした。
自分の腹部にある、この熱を持った張り。これを、翔の無防備な身体に触れさせたい。
結は、そっと翔の横に、横向きに寝転がった。
そして、道具によって生み出した下腹部の硬い張りを、眠っている翔の服の上から、無防備な背中に、そっと、熱を込めて押し当てた。
薄いシャツと、肌。二人の間に、結の歪んだ熱が介在する。
(感じて、翔。これは、お前が愛する私自身の熱だ)
翔は、その硬さと熱に無意識に反応した。
「ん……」
低く、甘い呻きが喉の奥から漏れる。
翔は、結の腹部の張りを感じながら、無意識に寝返りを打った。彼は目を覚さない。
ただ、結の歪みを、その熱を、無意識に受け入れた。
その微かな反応が、結の精神を完全に解き放った。
(受け入れた……彼は、ユエルと結が融合したこの私を受け入れている)
親友の枠を超えた、歪んだ関係は、この「接触」から、不可逆的に加速していく。
───
あの夜から、結の行動は変わった。
秘密の張りが翔の身体に触れた瞬間から、結は、自室での孤独な営みに、以前ほどの必要性を感じなくなっていた。
(翔からの、無意識の承認が、私を満たしてくれる)
仮想空間のユエルと、現実の結の境界線が、日常の会話の中で溶け始めた。
大学のラウンジ。
翔はまた、ユエルのアーカイブを見ながら、興奮気味に語りかける。
「ユエルが言ってたんだ。『頑張りすぎはだめだよ。頑張るのは、私だけでいいの』って。なんかさ、めっちゃ可愛いんだよ、結。俺の気持ち、全部わかってくれてるみたいでさ」
(その言葉は、お前が深夜に送ってきたDMに対して、私がユエルとして返した言葉だろ)
心臓が高鳴る。
翔がユエルの言葉を金科玉条のように受け入れている。
その事実に、言いようのない支配的な征服感を覚えた。
これは、内側から身体を変形させる行為を省略できるほどの、新たな快楽だった。
結の快感の性質が「自己完結」から「他者支配」へと移行していく。
その変化は、日常の言動に滲み出た。
「翔、そのコーヒー、もう熱いのはダメですよ。飲みすぎは胃に悪いですから」
翔は一瞬きょとんとした顔をした。
結の声は、いつもの親友のトーン。
だが、語尾の「ダメですよ」という一言には、ユエルの、甘くも有無を言わせない躾の響きが混ざっていた。
「……なんだよ、その言い方。……でも、なんか、結に言われると、やたら説得力あるんだよな」
翔は照れたようにはにかんだ。
その日から、結の口調には、ユエルの甘く、少し儚げなイントネーションが頻繁に混ざるようになった。半ば故意に。
「翔、今日は無理しないで早く帰ってね」
「もう、いい子にしてなきゃ」
翔はそれを違和感なく受け入れた。
「お前に言われると、なんか素直に聞いちゃうんだよな」と笑う。
そして、翔は、結の腰に、しばらく大きな体温を伴って手を留めた。親友としてのスキンシップとしては、深すぎる接触。
結は、この身体的な接触が、翔の無意識の「ユエルへの愛情表現」の現れだと直感した。
(身体が、ユエルを求めている)
結は、抵抗しなかった。むしろ、腰に置かれた手に、そっと体重を預ける。
翔の体温と、強靭な筋肉の感触。
現実での支配と接触。
それが、かつての秘密の営みと同じ精神的な満足を自分に与えている。
狂った関係は、精神と肉体の両面から、深く加速していく。
───
結の心は、より露悪的な欲望へと突き動かされていた。
(翔に、もっと私を意識させたい。私の言葉で動く、従順な人形に)
ある日の昼食時。
翔がいつものように大盛りのカレーを注文しようとした時、結はピシャリと言い放った。
「だめですよ、翔」
声は優しかったが、その語尾には、配信中のユエルが視聴者に使う、厳しくも甘い「躾」の響きが確かにあった。
「え、なんでだよ? 腹減ってんだって」
「知っています。でも、あなたは最近、夜更かしが多い。ユエルも言っていたでしょう? ……体調を整えるのも、大事なことだって。カレーは重すぎます。今日は、身体に優しいものを選んで」
翔は、ユエルの配信で聞いた言葉を、結自身の口から突きつけられたことに驚き、そして、なぜか納得した。
「はは、マジかよ。……でも、なんか……お前にそう言われると、ちゃんと聞かなきゃいけない気がするんだよな。ユエルじゃなくて、お前に」
翔は、ヘルシーな野菜スープセットに変更した。
結は、その瞬間の、言いようのない支配的な征服感に打ち震えた。
翔の行動が、私の言葉で動いた。
その快感は、結の異常な露出衝動を加速させた。
内側からの変形行為は行っていなかったが、あの「張り」への執着は消えない。
結は、その「秘密の形」を、薄着やタイトな服で意図的に強調し、翔の前に出ることを求めるようになった。
「どうせ気づくはずがない」という全能感と、「もしかしたら、気づいてほしい」という背徳的な願望。
その日、二人は古本屋へ行った。
結は、白く薄いTシャツを選んだ。
わずかに体を緊張させ、下腹部が薄い布の下で、かすかに形を浮かび上がらせるように調整していた。
「結、なんか今日、服薄くね? ていうかさ、結って……なんか、色っぽいよな」
古本を漁りながら、翔が言った。
「え……何言ってんだよ、急に」
翔は、結の薄着や、布の下に隠された微細な張りを、結の「色気」として誤認していた。
「いや、マジで。ユエルもなんか儚げで色っぽいけど、結もなんか、最近、そういう雰囲気あるじゃん? なんだろ、お前、いい女でもできたか?」
結は、翔が自分の歪みを「魅力」として受け取っていることに、究極の背徳的な喜びを見出した。
翔の鈍感さが、結の倒錯的な行動を、完全に承認してしまっている。
結は、その事実を確かめるように、そっと腰を伸ばした。薄いTシャツの下で、張りがわずかに強調される。
快感は、支配と、露出と、翔の無自覚な肯定の螺旋を描きながら、深く、結の精神を侵食していく。
ーーー
日常での支配的な快感だけでは満たされない。
(この秘密の張りを、誰にも見られない部屋の中だけでなく、翔と一緒にいる公の場に晒したい。これがお前への、究極の愛の公開だ)
その日の夕方、翔が「コンビニにアイス買いに行くぞ」と誘ってきた。
結は、これを絶好の機会と捉えた。
部屋で一人、結は儀式を始めた。
腹部に、内側からの圧を生じさせる。
しかしその張りは、これまでのどの時点よりも、明らかに大きく、不自然なほどの硬さを帯びていた。
触れると、皮膚が強く張り詰め、熱を持っているのがわかる。
これは、結の狂気が成長した証だった。
「ひ……っ、ぐ……」
喉の奥で潰れる声。快感と、自己を歪める悦び。
結は、体の線がはっきり出る、生成りのタイトなTシャツを選んだ。
張りが薄い布の下で、かすかに、しかし確実に形を浮かび上がらせるように。
二人は並んで、コンビニへと向かう。
タイトなTシャツの下で、結の腹部はわずかに、しかし確実に歪な膨らみを帯びていた。
交差点の信号待ち。
隣に立つ翔は、スマホでユエルの配信予定を確認している。彼の視線は、結の腹部へは一瞬たりとも向かわない。
「ユエルさ、最近、声が甘えっぽくなったよな。それもまた可愛くていいんだけどさ」
結は、公衆の面前で、この異常な形を晒している事実に、究極の背徳的な快感を覚える。
こんなに露悪的な姿を晒しているのに、この人は気づかない。
気づかないことで、結の歪みは完全に「親友・結」の日常の枠内に組み込まれてしまった。
コンビニの蛍光灯の下、結はアイスの陳列棚の前で、そっと腹部に手を触れた。
指先に伝わる、硬い皮膚の感触。
その時、翔が屈託なく笑いかけ、結の背中に手を回した。
「結、これ美味そうじゃん! 半分こするか!」
翔の体温が、熱を帯びた腹部と交わる。
この瞬間、結は、止めどない悦楽を見出した。
しかし、この究極の露出と承認の快感すら、結の深い渇きを完全に満たすには至らない。
結は、翔が選んだアイスを手に取りながら、心の中で囁いた。
(次は、お前を内側へ、受け入れたい)
それは、より物質的な境界の崩壊への、切実な予兆だった。
ーーー
究極の露出をもってしても満たされなかった渇きは、より物質的な領域へと移行した。
翔の存在そのものを、自分の中に取り込みたい。
その日、二人はゲームをしていた。初夏に差し掛かり、翔は大量の汗をかいていた。
額や首筋の汗を豪快に拭き取ったスポーツタオルが、部屋の隅に放り投げられる。
「あー、喉乾いた。結、冷蔵庫の麦茶、もう一本持ってきてくれね?」
結は、部屋の隅に落ちた、翔の汗が染み込んだタオルを見た瞬間、全身に痺れが走った。
(翔の、体液……)
結は、無意識にそのタオルを拾い上げる。翔に気づかないよう、タオルの汗が濃く染み込んだ端を、そっと、自らの唇に押し当てた。
「んっ……!」
塩気と、翔自身の濃い体臭。生々しい匂いと味。
結の全身が、異常な快感に支配された。それは、腹部に張りを生じさせる営みと、全く同じ熱を伴っていた。
(翔が、私の中に入った。境界線が、消えた)
結が麦茶のペットボトルを手にリビングへ戻ると、翔はそれを一気に飲み干し、結にもう一本のペットボトルを差し出した。
「お前も飲めよ。これ、冷えてて美味いぞ」
翔が直接口をつけた、飲みかけのペットボトル。
飲み口には、彼の唾液が微かに付着している。
結の心臓が激しく鼓動した。
これは、翔からの、無意識の献身。
自分の歪んだ欲望を、翔が「愛の交換」として承認してくれている。
結は、震える手でそれを受け取り、翔が口をつけた、その同じ場所に、自分の唇を合わせた。
口内に広がるのは、翔の唾液、体温、そして、翔自身の存在の、生々しい感触。
ゲームが終わり、部屋の照明を落とす。
翔が、結の隣に寝転がりながら、暗闇の中で囁いた。
「なぁ、結。俺さ、最近、結のこと見てると、なんか……抱きしめたいって思うんだよな」
その言葉は、親友の枠を完全に超えていた。
結の歪んだ執着と、翔の無自覚な欲望が合致し、境界線が踏み破られたことを示していた。
結は、暗闇の中で、翔の大きな手に、自分の華奢な指を絡めた。
「……いいよ、翔」
その声は、ユエルの甘さと、結の切実さが混ざり合った、定義不能な愛の囁きだった。
二人の狂った関係は、ついに、互いの身体を求め合う、深く倒錯した領域へと沈んでいく。
───
翔からの「抱きしめたい」という要求は、二人の関係を不可逆的な領域へと押しやった。
それは、支配と服従、そして歪んだ快感に基づいた肉体関係の始まりだった。
翔は、結の華奢な身体を「ユエル」の延長線として求め、結は、翔の無自覚な愛情を、異常な支配の快感として受け取った。
結の身体には、もはやユエルという虚像は必要なかった。
ただ、翔の愛を「受け入れる」ための器だけが存在した。
翔との行為の後、結は、衝動的に自室に戻った。
秘密の道具を手に取り、再びあの営みを開始する。
それは、これまでの自己慰撫とは、全く意味が違っていた。
道具と、結の集中によって、腹部に張りが生まれる。
その張りは、これまでのどの時点よりも大きく、不自然なほどの硬さを帯びていた。
触れると、皮膚が強く張り詰め、内側から熱を持っている。
「あ゛、……ぁ……っ、……は……っ」
喘ぎ声が、快感と、倒錯的な自己肯定で震えた。
(翔との愛を、私が受け入れた。翔が、私の中に満ちたんだ)
結は、翔との肉体関係を、歪んだ「受容の儀式」として昇華させた。
この最大級の張こそが、彼らの狂った愛が確かに現実のものであることの証明であり、結の執着の到達点だった。
結の精神的な支配は、さらに深まる。
翔は、結からの支配的な愛情と、肉体関係によって、自己肯定感が極限まで満たされた。
彼は、結なしでは生きられないほどの精神的な依存に陥り、大学の講義や友人との予定よりも、結とユエルとの時間を優先するようになった。
「ユエルさ、今日の配信でさ、俺だけが分かるサイン出してくれたんだ。俺、ユエルに愛されてるんだよな」
翔は、抱き合った後、結の耳元で囁いた。
結は、ユエルとしての配信内容を、翔との夜の行為や日常の調教と完全に連動させていた。
ユエルと結が一つになった全能感に、結は深く酔いしれた。
二人の異常な関係が深まるにつれ、周囲の友人や社会的な関係は希薄になった。
二人は、支配と服従、そして秘密の張りが支配するこの倒錯的な世界こそが、自分たちの「真実の愛」の形だと信じ、外界から孤立していく。
───
二人の愛は、もはや社会の常識が入り込む余地のない、二人だけの狂った世界となっていた。
結は、翔との肉体関係の中で、常に満たされない欲望を抱えていた。
それは、この異常な張りを、翔との行為の最中に晒し、「受容の証」として究極の承認を得たいという、狂気の願望だった。
ある夜、結は決意した。
翔との行為の最中、結は静かに、しかし決然と秘密の道具に手を伸ばした。
道具と、結の集中によって、腹部に張りが生じ始める。
その張りは、これまでのどの儀式よりも大きく、不自然なほどの硬さを帯びていた。薄い皮膚が張り詰め、内側から熱を帯びる。
翔は、その異常な変化に、一瞬だけ動きを止めた。
「結……これ、どうしたんだ?」
その声に驚愕が混じる。
だが、その戸惑いはすぐに、結がユエルとして与えてきた絶大な愛の支配力によって上書きされた。
結は、潤んだ瞳で翔を見つめた。
「ねぇ、翔。怖がらないで。これは、私が、あなたを受け入れた証だよ。私には、これしかないの」
その声は、ユエルの甘さと、結自身の切実な狂気が混ざった、究極の愛の囁きだった。
翔の戸惑いは完全に消えた。
彼の目には、結の腹部の張りが、「ユエルからの究極の愛の証明」として映っていた。
翔は、その張りに、そっと大きな手を添えた。
彼の指先が、不自然な硬さを優しく撫でる。
「ああ……お前は、こんなにも俺を愛してくれていたのか。結……お前は、俺の全てだ」
翔は、結の腹部の異常な張りを、深く、優しく愛撫した。
この瞬間、翔は「結の歪み=ユエルの理想」だと完全に承認した。究極の倒錯的な愛が完成した瞬間だった。
結は、現実で翔からの究極の承認を得たことで、ユエルという仮面がもはや必要ないと悟る。
二人は、大学や友人との関係を断ち切った。
ユエルの配信は、静かに停止された。
結は、翔の胸に顔を埋めながら囁いた。
「ねぇ、翔。この張り、私があなたを受け入れた証だよ。ずっと、私だけを見てね。この秘密を、二人だけのものにしよう」
翔は、結の腹部の張りを抱きしめながら、深く囁き返した。
「ああ、お前だけだ。俺の理想のユエル……いや、結。永遠に、このままだ」
二人は、名前も性別も、そして肉体の真実も関係ない。
ただ、お互いの倒錯的な欲望を満し合う、狂愛の深淵へと、永遠に沈んでいく。
───終───
─
──
───
季節が幾度か巡った。
九十九結と大河翔は、外界との接触を完全に絶ち、二人だけの閉ざされた部屋の中で暮らしている。
窓の外の光は、二人がかつていた世界の喧騒を伝えるが、もはや結と翔には関係のない、遠い幻だった。
この部屋の中の全ては、結の「支配」と翔の「従順」、そして二人の間の歪んだ愛の営みが支配していた。
結の腹部の張りは、もはや結一人の秘密の営みではなかった。
それは、翔との愛の営み、そして翔が結を愛撫する際の、恒常的な必須条件となっていた。
ある日の午後。
外界の光が、カーテンの隙間から細く差し込む。
結はベッドに横たわる。翔は、結の隣に静かに座っていた。
彼らの間には、結が隠し持っていた秘密の道具が置かれている。
翔は、結の腹部を優しく撫でた。
「結、今日は、どれくらい入れる? もっと、俺を受け入れてくれるか?」
その声には、親友の無邪気さも、ユエルへの熱狂もなかった。
あるのは、結の歪みを維持することに全てを懸ける、自覚的な倒錯だけだった。
結は、潤んだ瞳で翔を見つめる。
「ん……翔が、そうしてくれるなら。全部……全部、私の中に入れて。翔が望む、最大の愛を私に頂戴」
翔は道具を手に取り、結の身体を支えた。
翔の手によって、道具が結の体内に、さらに深く、確実に侵入していく。
結の腹部は、急速に、そして異常な硬さをもって変形した。
それは、もはや妊娠初期の丸みなどではない。内側から強く、無理やり押し広げられたような、最大の張りを帯びる。
「(翔、)……っ、……ご、……っ! もっと……飲み込む……っ!」
結の喘ぎ声は、快感と、自己を歪める悦びで濁り、腹部の奥から異様な呻きとなる。
その張りは、翔の手が加わることで、薄い皮膚が張り詰め、触れると弾力すら感じるほどの硬さを保っていた。
翔は、結の額に汗が滲むのを見ながら、愛おしそうに囁いた。
「いい子だ、結。お前は、俺の愛を全部受け入れた。見てみろ、お前の愛が、こんなに膨らんでいる」
翔は、自らの手で最大級に膨らませた張りに顔を埋める。
結の身体を異常な状態に保つことこそが、翔にとっての愛の証であり、結を繋ぎとめる唯一の方法だった。
結は、翔の髪を撫でながら、窓の外の光景を一瞥した。
かつていた世界。
結の精神は、もはや男でも女でも、結でもユエルでもなかった。
ただ、この張りが消えたら、翔の愛も消えるという恐怖と、翔が創り出し続けるこの異常な幸福への依存だけが残っていた。
結は、腹部に顔を埋める翔に、そっと囁いた。
「翔……。私たちの愛は、永遠にここにあるよ。ずっと、私だけを見て」
二人は、名前も性別も、社会的な境界線も、そして肉体の真実も関係ない。
ただ、お互いの倒錯的な欲望を、限りなく深く満し合う、狂愛の深淵へと、永遠に沈んでいくのだった。