女性の性欲が病気とされた19世紀。性欲を発散できずヒステリー症状が出た女性が、医師にバイブレーターでマッサージしてもらうという実際に行われていたオーガズムによるヒステリー治療を小説化しました。
室内は薄暗く、重厚なカーテンが外光を柔らかく遮っていた。
壁には本棚が並び、革表紙の医学書や解剖図が整然と置かれている。
私を診察する女性医師は、きちんと白衣を着て、眼鏡の奥の瞳は穏やかだが、どこか鋭い観察眼を隠している。
ここに来るまでの道のりは長かった。
19世紀後半、家族の目や世間の常識に縛られ、女性の性欲は病的とされる時代。
私は幼い頃から、胸の奥に湧き上がる熱や、下腹部の奥の微細な疼きを、声を出すことも、手で慰めることも許されず、必死に我慢してきた。
家族の前で性的な感覚を意識することは恥ずかしいことであり、禁忌であった。
しかし、抑え続けてきた性欲は、とうとう限界に達した。動悸が激しく、胸が圧迫され、息が荒くなる。
手足が震え、涙がこぼれそうになる。
家族の前で声を出さず、理性で押さえつけることはもはや不可能だった。
私はヒステリーの症状を呈し、ようやく医師の元へ連れて来られたのだ。
「今日は少しお疲れのご様子ですね。では、こちらで横になってください」
医師は柔らかな声で促した。
診察台の上に身を委ねると、シーツのひんやりとした感触が肌に触れ、心臓の鼓動がさらに早まる。
医師は優しく私の手を取り、手のひらで指先の微細な動きまで確かめるように触れた。
「緊張していますか? 深呼吸をしましょう」
囁きながら、医師の手は肩や腕に触れ、血の巡りを確かめるように撫でられる。
その指の感触に、知らず体が緊張とともに少し柔らかくなっていくのを感じた。
そして、医師は慎重に私の下着の縁に手をかけて下ろし、太ももの内側を優しく撫でる。
皮膚の温度が手のひらで伝わり、熱を帯びた反応が身体の奥からこみ上げるのを感じる。
「リラックスしてください」
医師は声をかけ、医療用具のトレイに手を伸ばした。
そこには、特殊な器具が置かれていた。
19世紀の最新医療器具、振動機能のついた器具——バイブレーターだ。
医師はその先端に少量の潤滑油を塗り、私の皮膚に軽く触れさせる。
冷たい金属の感触に最初は小さく身体を引くが、すぐに微細な振動が皮膚を伝わり、身体の奥がじんわりと熱くなる。
「少し刺激しますね……」
医師の声は落ち着いていて、命令というよりも導くような口調だった。
その瞬間、器具の微細な振動が、股間の敏感な部分に伝わる。
息が浅くなり、手足が自然に硬直する。
胸の奥から熱が滲み出し、下腹部の中心が小さく跳ねるように疼く。
「んっ……あ……だめっ、そこ……っ」
思わず声が漏れる。
振動が増すたび、身体の奥から熱と快感が波のように押し寄せ、息を呑む。
「あぁ……あっ、あ……」
吐息が小さく震え、腰が自然に浮く感覚に身体が応える。手がシーツを強く握りしめ、熱を押さえきれない衝動が膨らむ。
医師は反応を観察するかのように、動きを微調整し、私が最も心地よく感じるポイントを探る。
振動が皮膚を伝わるたび、身体の奥がじんわりと熱くなり、骨盤の内側がきゅっと締まる感覚が広がる。
「はっ……はぁっ……あっ、あっ……」
息が断続的に漏れ、声にならない喘ぎが胸の奥で震える。
医師はその反応を静かに見守り、必要に応じて器具の速度や角度を調整する。
そして、ついに絶頂の波が押し寄せる。
「うっ、んっ……あぁっ……!」
声が微かに漏れ、背中と腰が器具に吸い付くように跳ねる。
全身が小刻みに痙攣するように震えた。
私が落ち着きを取り戻すと、そっと器具を離した。
だが、体の奥にはまだ満足できない余韻が残っていた。
『もう一度……お願いしても……?』と、声にならない祈りを目で送る。
医師は優しく微笑み応じる。
「構いません、もう一度しますね」
再び器具を手に取り、私の体に触れる。
その感触に、抑えてきた欲望が再び呼び覚まされ、今度はさらに強い波が何度も押し寄せる。
「あぁっ……だめっ、もう……っ、んっ……」
声が抑えきれず、息が断続的に漏れ出す。
腰が勝手に器具に押し当てられ、身体が熱で溶けるように反応する。
手足が勝手に小刻みに震え、胸の奥がひきつるように締め付けられる。
二度目の絶頂は、一度目よりも深く、身体の奥底まで響き渡った。
「んっ……あぁっ……あっ……」
全身の神経が震え、吐息と声が入り混じる。
震え、吐息、熱の奔流——全てが一体となり、私はようやく抑え込んできた性欲を解放しきれた。
医師は静かに観察しつつ、私の余韻を優しく包み込むように手を添え、治療は穏やかに終わった。
「よく頑張りましたね」
微笑む医師。
恥ずかしさと同時に、不思議な安堵感が体中に広がる。
振動の余韻がまだ残る下腹部をそっと手で押さえ下着を上げながら、私はこの“治療”が、自分の身体にとって避けがたいものであったことを認めざるを得なかった。
医師に治療を受け終え、余韻がまだ身体に残る中、私はそっと息を整えながら視線を床に落とした。
まだ熱の残る下腹部に手をあて、胸の奥がじんわりと高鳴るのを感じる。
この快感を、もう手放したくない——そんな思いが自然と胸に湧き上がった。
「……あの……お願いが、あるんです……」
私は小さく声を絞り出すように、医師に言った。
「どうしました? 言ってごらんなさい」
医師は優しくうなずき、私を安心させるように声を落とす。
私は手を握りしめ、少し震える声で続ける。
「私……この治療を、もう……手放せないんです……。身体が……あの感覚を覚えてしまって……。だから……できれば、週に一度くらい……定期的に受けられるように、お願いする手紙を、父に書きたいんです……」
「なるほど……よく分かりました。無理に押し付けるのではなく、きちんと説明できるように書きましょうね。あなたが正直に、でも穏やかに伝えることが大切です」
医師は静かに微笑み、そっと私の肩に手を置いた。
「……でも、どう書けば……恥ずかしくて……」
私は、まだ赤く染まる頬を少し隠すように手で顔を押さえた。
医師は優しい声で励ましてくれる。
「恥ずかしいのは当然です。でもあなたの体に必要な治療であり、医療的な正当性があることを伝えれば大丈夫。例えばこう書き始めるのはどうでしょう——
お父様へ
私は最近、心身の不調があり、医師の治療を受けることで症状が改善してまいりました。
この治療は身体に必要なもので、健康維持のためにも、定期的に受けさせていただけるようお願い申し上げます。
週に一度、医師の指導の下で受けることを希望いたします。
安心して見守っていただけると幸いです。」
医師は少し微笑んで付け加える。
「あなたの気持ち——快感や体の変化のことは、あえて直接書く必要はありません。“心身の不調の改善”として書けば、父上も安心されるでしょう」
「……はい……わかりました。ありがとうございます……」
私は小さく息をつき、声を震わせながらも頷いた。
医師はそっと手を握り、私の緊張をほぐすように言う。「これであなたも安心して治療を続けられますね。次回から週に一度、定期的に受けることができますよ」
私はまだ微かに身体の余韻を感じながら、期待に胸を膨らませた。