葛の恋 Append patch -R-18版- 作:勉強サボ浪
いかないで
*
2026年10月。秋というには暑すぎると思っていたら、一気に寒くなった。異常気象、という言葉が日常になったのはいつ頃だろうか?
この寒さは七草はづきにとってはむしろ心地よい。恋人と一緒にいても体がベタつかず、蒸れない。……もっとも、彼ははづきの汗や体臭といったものを強く好むようで不満そうだが。
プロデューサーの部屋は一年前と比較してようやく生活の匂いというものが見えてきた。ドラマのセットを思わせるほど汚れが見えず半導体の工場を想起させるほど生命の息吹が聞こえない部屋は、はづきのために購入したであろう小型の卓上グリルとコンドームでようやく人間が生活ができる部屋になってきた。
時計を見る。朝の5時。2人が同時に今日を有給にしたのは、単純に今日はシネマデーだからで、しかし別に見たい映画が決まっている訳でもない。
昨晩は仕事から帰ったらすでに10時を超えていた。久しぶりの休日だというのにセックスをしなかったのは疲労でそれどころではないというのが一番の理由だが、恋人同士の時間が気まずいからという理由で快楽に耽るというのもどうなのだという――なんというか、今更すぎる反省をしたからである。
はづきは26歳で彼はそろそろ30歳。お互いどれだけ恋愛が苦手なのだ、結婚もしたというのにと海外映画のモザイクだらけの1シーンを見ながら自嘲したのは今年の5月である。
最後にヤッたのは7月だったか。レスとも飽きたとも言えるかもしれないが、最大の要因はアイドル業界の夏の忙しさと異常気象で自室でセックスする気が起きず、しかしラブホをセフレ時代のように頻繁に使うほど将来のことを無視できなかったことにある。
「……ねむ」
布団から抜け出す。2人で一緒の布団を使っていたから気づかなかったが、部屋の温度はかなり下がっているようで半袖半ズボンの寝間着は冬眠の時期だろう。冬の寝間着は何を持って来るべきか、いっそもちもちドラゴンの寝巻でもいいだろうかと暗闇の中で思案する。
「はづ――……」
「は~い。――すぐに戻りますから、我慢してくださいね~……」
暗闇のなかで夢心地の彼が自分の名前を呼んだ。あやすように声をかけて明かりなしで台所へ。
シンク上の蛍光灯の紐をつけてようやく光源を得るとやかんに入ったほうじ茶をコップに入れた。寝る前に沸かしたそれは未だ温かい。
朝ご飯を作ろうか、とよぎったがどうも眠たい。それに本来起きる時間からはほど遠く、今作っても冷めるだけである。
コップに口をつける。半分程度飲んで多く入れすぎたと少し後悔。捨てようかと悩んだがペタペタと足音が聞こえたからとりあえず行動を取り止める。
「あ、おはよ――う?」
朝の挨拶は返答もなく一瞬で宙ぶらりん。彼がはづきを無言で強引に抱きしめたからである。いきなりのことだったから驚く。持っていたコップを落とすヘマはしなかった。
彼の剃っていないひげが少し痛い。つよく抱きしめられて体がきしむ感覚は好きだが、こういうのは求めていない。
彼は無言のままはづきの頬を撫でて頤を――
「待って」
目前ではづきは彼の鼻の前に人差し指を立てることで制した。
「無言でキスしようとしないで。怖いから」
そう告げるとはづきは飲みかけのお茶を差し出した。彼は無言で少し悩んだ後に抱擁を解く。
「……どうしたの?」
お茶を飲み終えた彼にはづきは尋ねた。彼がここまで唐突に行動を起こすのは少し珍しい。……少しだけだが。こういうあからさまに甘える行動はセックスの時以外はあまり見られないのは事実である。
彼はややあった後に一言だけつぶやいた。
「……悪夢を見て」
「悪夢?」
「はづきと……もう会えなくなる夢」
「……え~」
少女漫画のヒロインか、と言いかけたが目の前の男の経歴や能力はそこら辺のネット小説の主人公よりも強い男だ。
それに夢なんて唐突なものである。むしろそんな夢を見たことで子供のように甘えようとする彼はとても愛おしいものだ。
はづきは彼を優しく抱きしめた。身長差のためつま先立ちをして且つ彼を強引に前かがみにさせるような体制になってしまったが、それでもはづきは彼をあやすように抱きしめ耳元でささやいた。
「現実の私は離れませんし、放しませんよ~。だって私はあなたのもので……あなたは私のものですから~」
七草はづきは彼を慕うアイドル達からその恋路を奪った。七草はづきは彼を過去から救う代わりに彼の人生に寄生することにした。
彼は七草はづきから他者を奪い彼自身に溺れさせた。彼は七草はづきを自己破滅型の奉仕欲から救い出した代わりに互いの不安を愛で管理するようになった。
結婚とはそういうことである。互いに相手を愛することは互いに相手に自分勝手な期待と欲を向けることであり、そういった意味では互いに見せびらかし他者に向けることはしないはづきと彼はマトモな夫婦だった。
「……うん。俺もはづきを放さない。……だから――」
彼の声が弱々しい。本当に弱っているのだろう。夢の中の自分は自殺でもしたのか? それとも別の幸せな七草はづきを見てしまったか?
しかし彼女を抱き返す力は金網に絡みついた葛のように決して離さないと主張している。相手を変形させても自身の欲望を相手にぶつけようと、普段の物腰柔らかい態度からは考えられなほど頑強にはづきの体を締め上げる。
強い力で抱きしめられ、肺が少ししか開かない。空気が胸から追い出され代わりに彼の強い愛情が充満する。
彼がはづきのうなじに鼻を寄せた。彼は自分の体臭が好きらしい。デパートで購入した少しだけ高級な香水よりも寝起きのうなじに溜まった汗と髪の匂いの混合気体が好みで、いつも少し恥ずかしい。どちらも自分なのに。
はづきの足の間に彼の膝が挿し込まれる。バランスが崩れそうになった彼女は彼の首にしがみつき、優しかった抱擁が情熱的な愛を求めるものになった。
彼の膝に支えられるようにはづきは股間を彼の太ももに押し付け、腰を彼のものと接触させる。
彼の熱と硬さがはづきの腹に触れた。
「……ふぅん? へぇ~……」
「……ごめん」
「まぁ最近ご無沙汰だったからね~。寝起きだからっていうのもあるんだろうけど……夫に悪夢を見させるほど我慢させるのも良くないかぁ」
「そういう意味ではなく――」
彼の言葉は人差し指で彼の唇を軽く押すことで止めた。
直接的な愛の交換はほぼ毎日やっている。彼はキスよりも、ソファの上ではづきを後ろから抱きしめるのが好きではづきは彼の膝の上で事務所よりもやや低くなった声で自分だけに取り留めのない話題を振られるのが好きだった。
愛も体もそれで満足だったが、欲は数か月間絶食だったわけだ。満腹を超えてもはやフォアグラ用のアヒルのように給餌されていた欲がよくも今の今まで耐えてくれたものだ。
はづきは彼の太ももに自らの性欲のよだれを押し付けた。
*
残った理性のひとかけらが服を床ではなくソファに置くことを選択した。しかし服が床に散らばった状態と、ソファの上で男女の寝巻や下着が絡み合っている状態は果たしてどちらが理性的だろうか。
全裸になったはづきがふと窓に視線を向ける。カーテン越しには光が見えない。日の出していないか、そこまで時間がたっていないか。
どうでもいいや。彼の膝の上で彼の頭を優しく撫でていたはづきは頭を開放して目を閉じる。彼の素肌の熱と彼女の素肌の熱が混ざりあう。彼が優しくキスをした。
愛撫である。欲ではなく、愛を確かめ合うための。しかし愛を確かめ合ったら次に求めるのは相手の欲だ。彼は唇を離し、はづきの首と耳の間を舐めた。ちゅぅ、とはづきの耳たぶを吸って情熱的な欲の音がはづきの理性をかき乱す。彼の幼児性を耳で感じながら、しかし掌では指を絡めて互いの指輪の冷たさを確認している。
……正直、舌で耳の穴をほじろうとするのは止めてほしい。膣が絆されるのは構わないが、耳穴にディープキスされると彼の吐息と唾液の粘度を音で感じて聴覚が彼の粘っこい欲じゃないと満足できなくなる。
「――ふぅ。……はづき、ちょっとのいて」
「はぁい。次はどこを食べられちゃうのかな~」
大して深刻に捉えていない、どちらかというと甘え4割甘やかし6割の感情ではづきは答えた。体中を舐められることは若干嫌だが、普段はプロデューサーとして様々なプロジェクトを動かし幾程の経済効果をもたらす彼が自分にだけは性欲を含めた感情をぶつけてくれる事実がなんとも心地よい。
はづきを膝からのかせた彼はベッドから降りて跪いた。次は下半身を味わいたいのだろう。自身の膝を折って、煽るように股を見せつけながら彼の顔面に足の甲を近づけて尋ねる。
「どっち?」
「そっちじゃない。……というか、さすがにネイル塗った爪先舐めるのは嫌かなぁ」
「よく言うな~。首に耳、へそに指先に二の腕背中あとは……さすがにお尻の穴までやろうとしたのはドン引きしたからね? いつか私の体を3日洗わせないで腐ったブルーチーズまで発酵させるんじゃないか、心配で」
「ははっ。はづきのナカはいっつもそんな感じだよ」
ナカって何? と問い詰めようとした瞬間彼女の脚、というよりもふとももに彼が唇を這わし始めたことで回答を得た。膣の中ね。確かにひどい味だとは聞く。
彼は決してはづきにフェラチオをさせようとはしない。
これまでの数人の元彼氏との経験で何度かやったが、正直男根の味はひどく精液ののど越しは悪くなにが楽しいのか分からない。世の中のAV女優というのは大変だと強く実感した覚えがある。
そんな話をしたのかしていないのか――正直覚えていないのだが、彼はフェラをさせない。一度性器にある発がん物質の話を大真面目にされて一度セックスの予定がお流れになる程度には。
ただ彼の心情はなんとなく推理はできる。自分はベッドや椅子に座って恋人は跪いて自分の股の間に顔をうずめて尿を出す部分を舐める光景は、AVによって一般化されてきているとはいえ傍から見れば性暴力の現場である。いち芸能関係者としてのリスク管理の結果かもしれない。……はづきも事務員とはいえ芸能関係者であるため、リスクヘッジになっているとは思えないが。
(まぁ良いか。別にわたし、舐めフェチじゃないし)
恋人だからって別に彼のちんこを舐めたいとは思っていないから不満ではない。
むしろこうやって自分の股間に顔をうずめ足の付け根の間にある汗の跡や愛液を必死で舐めとろうとする彼の姿が非常に可愛らしく見えてきて庇護欲が高まるのだ。
だからはづきはその欲に忠実に、彼の頭を子犬のように撫でる。
「おいしいですか~? 七草はづきのおまんこのナ・カ・は」
「あんまりおいしくないです」
「え~? じゃあ何で舐めるんです……?」
あまりにも早い即答に本気で心配になったはづきが尋ねると「そりゃぁ……」と彼が口を動かした。
ふくらはぎの内側、ちょっとの痛み。彼が少しだけはづきの内股を甘噛みしたのだ。いきなりの事に彼の頭をなでていた指が少しだけ硬直し、脳に甘い刺激が響く。
「んっ……――ちょっとぉ~?」
「こうやると、はづきは表情をころころ変えてとても可愛いから」
「いやだからってそれェっ――!?」
はづきが口答えしようとしたが一瞬で思考が快楽で溶けて舌がもつれた。彼がクリトリスを舌で押し、唇でキスするかのように刺激したからだ。
まだ私とディープキスしてないくせに私のクリにはするとはどういうことだと文句を言いかけたけど、彼の舌が標的をはづきのホトに変えてかき回したせいで嫉妬がすぐに快楽の鍋に溶け込んでしまった。
愛液が啜られさらに子宮が新たな刺激のために愛液を出そうと躍起になっているのを感じる。ある程度しか整えられていない陰毛の叢が彼の指によって整えられる様を見てひどく恥ずかしくなっているのを感じた。
「したの――ォッ……う、……くぅ………」
しかし下の毛を触らないでと言ったら次にいたずらされるのは太ももか下腹部である。太ももをすりすりと撫でられるのも無視できない快感だが、日常での後ろからのハグのときにポルチオ開発の意図を感じ取っていたのも無視できない。最近では彼の手がおなかを触ることに少し意識を持っていかれることをはづきは自覚している。
だから何も言えない。微弱ながらも確実な快楽に膣内が耕され、自分の悦楽に染まる顔を上目遣いで見られることばかりしか感じ取れない。
そして絶頂までの道のりを八合まで、といったところで彼ははづきの性器から口を離した。あと少し、というところで尻切れトンボになってはづきはひどく不満顔。
「――っ、んっ……相変わらず、口攻めが好きですね~、あなた?」
「じゃあ最後は――」
「待って」
きっとはづきが途中から口が寂しくなっていることに気づいていたのだろう。身を乗り出して顔を近づけてきた彼を手で制した。
「確かにわたしのまんこでわたしが出した愛液だけど、そんな状態のあなたとキスしたくない。せめて口ゆすいで」
「あー……ごめん、たしかに。じゃあちょっと待ってて」
はづきの主張は間違っていなかったが少し盛り上がりを下げる言葉であった。しかしそんな主張をすぐに受け入れてくれるのが彼の良いところであった。
*
洗面台から戻ってきた彼に言葉なしではづきはディープキスをかました。自分の愛液を舐めるのは嫌だけど、この男の唾液は遠慮なく受け付けるのはなぜだろうと先ほどまでなめられていた場所を少し気にする。
彼の左手が自分の尻に、右手が自分の右脇に向かっていくのを感じた。彼が自分の体を撫でまわしているという事実に歓喜してはづきは首に腕を回して体を密着させる。
はづきの乳房が彼の胸板につぶされた。確かな弾力と決して小さくない体積を持つそれが簡単に形をゆがませる。はづきの子宮を覆う筋肉と程よい脂肪と皮が、これから自分を快楽で塗りつぶす男根と密着する。様々な体細胞越しに子宮が彼を受け入れる覚悟を決めたところではづきは唇を離した。彼はまだやりたそうだったが、寒い早朝のベッドのある部屋でずっと裸で立ったまま深いキスをしてると風邪をひく。
「今日はどうする……? 立つ? 座る? バック、正常、対面――なんでもいいよ」
「バック……かなぁ」
「珍しい……。いつも正面でキスしながらが好きなのに」
「はづきの顔が見たいけど……今日は全力で、はづきに甘えたい。はづきを抱きたい」
「――もぅ」
ぎゅ、と強く抱きしめられる。ここまで情熱的に求められると、恥ずかしいではないか。嬉しいではないか。
「そういえばゴムは?」
「残ってるやつが……」
彼はベッドシェルフの引き出しを出すと風邪薬や絆創膏と一緒に原色の箱が3箱。なんでそんなに溜め込んでいたのかと思ったが、何度も愛撫の後にゴムを買いにドラッグストアへのデートを繰り返したらストックを持つようになるか。
使用期限はまだ過ぎていない。
「つけてあげようか?」
「いやさすがに……」
いそいそと包みを開け始めた彼。はづきはベッドにうつぶせになって寝る。外はかなり明るくなったようで、カーテン越しでも光が見えた。
「じゃあ行きますね……」
「はぁい、いつでもどうぞ~」
言葉の重さ的には一緒に家具を運ぶ程度の軽さである。しかし確かにはづきのぐずついた膣に彼の男根がゆっくり侵入する。んっ……と彼は少しだけ声を漏らしながらも大して抵抗も無しにはづきの子宮口に亀頭が触れた。
「――だい、じょうぶですか……?」
「私は大丈夫ですよ~」
彼はセックスはそんなに上手くない。2人のセックスは派手な音がしない。彼に身をゆだねると基本的に現在の状態でまったく腰を引かないどころかさらに押し付けるため、膣内はまったく動きが変わらずただただ尻を押されて体と接触するシーツが擦れてズレる。
子宮口はずっと鈴口と隔てる精液溜まりとちゅっちゅっとイチャイチャしてるくせに膣壁にはまったく刺激が来ないため性欲があんまり発散されない。
だから体は別の刺激を求める。
「――はづき、抱きしめてもいい……?」
「抱きしめるなんて言わず、圧し掛かってほしいなー……」
「じゃあ……いくね」
彼の腕がうつぶせのはづきのからだと布団の間に強引に入り込んだ。まるで昆虫の交尾のようにはづきを背中の上から抱きしめ、のしかかる。
あぁ、重い! 彼の体重は当然ながらはづきよりも重く、はづきに彼の体の重さが直に伝わる。さらに彼の腕がはづきをつかんで離さない。彼女が離れることを拒否している。
重い、苦しい、少し痛い。――うれしい。
彼が私を求めてくれる。強く抱きしめてくれる。私の体は彼との共有資産であり、逃れないことを教える。束縛による苦痛が、執着による抱擁がはづきの体を満たしてくれる。
体に刻まれる彼の愛ははづきにとって性的な刺激よりもずっと雄弁に彼女の体を満足させた。
「も~、重いし苦しいなぁ~。……もうちょっと強く抱きしめて。あと……脚も絡めないと、どこかに歩いて行っちゃうよ?」
「それは……ダメ」
そう言うと彼は彼女の左脚に両脚を絡めて一切動けなくなくした。これ以上強く抱きしめられないと判断したのか、彼は背を曲げてはづきの肩に歯を立ててちゅうちゅうと吸いながら、さらに腰の突き上げが強くなったのを感じる。
ゴムをしているのに、彼の腰ははづきの子宮に精液を流し込むこんで孕ますことしか考えていない。
「――はづき」
「な、何ですか~?」
「どこにも行かないで。俺だけ見て」
耳元でささやかれる。顔を向けると彼の顔が文字通り眼前にあった。何も言わせたくないと言わんばかりにはづきの口をふさいだ。
後背位はとてもキスしにくい。唇を合わせられるのは彼とはづきの身長差がかなり大きいからであり、それでもぎりぎりの距離だ。だから浅ましく舌を突き出して互いの唾液の味を確かめ合った。いつも通り、他人の唾液なんて美味しくはないが愛おしい。零れてシーツに垂れたものですら勿体ないと感じてしまう。
舌を絡めあうときに一番の快感を感じるのは、互いが未練を残して離れる時だ。互いの舌を引き抜くときに感じる表面の舌乳頭のざらつきの擦れあい、そして唾液の橋が消えないように互いの動きが止まるときがとても好きだった。
「――ふぅ。……今日はなんだか情熱的だね」
はづきの両手は手持無沙汰で、ディープキスを終えてもなおはづきの目頭のちかくにキスをするはづきの頭を撫でた。……意外と難しい。成人男性にのしかかれている状態で肩が正常に動くはずもない。
(本当に……どんな悪夢を見たの?)
台所で聞いた悪夢。子供の見るような夢でそこまで感情を露にするなんて思ってもみなかった。
「どこにも行かないよ、**」
優しく、優しく、諭すように、宥めるようにはづきは言った。
頭を撫でられながらも腰を押し込みはづきに欲をぶつけていた彼の唇に優しくキスをした。唇を離して彼の顔を見ると虚を突かれたような顔をしていた。
しかし驚いたような顔をしていた彼だが抱きしめる力ははづきのことを考えないほどつよく締め上げ、手首をさらにつよく握った。
「あっ……あぁー……」
「もう射精しちゃったんですか?」
「はい……さっきの言葉が、嬉しくって……油断しちゃって……」
「ふふっ、もぅ~」
早めに射精してしまい子犬のように申し訳ない表情をした彼がとても愛おしい。愛の言葉を囁いて安心して、油断してしまうところが可愛い。本当は抱きしめちゃいたいけど、抑えつけられているからキスしちゃう。
そして膣の中の圧迫感が薄まってくると、自分の体が結構悲鳴をあげていることをようやく自覚し始めた。
「……痛い」
「あ、ごめん。離れるから」
引き抜かれる感覚が一番の快感だった。独占欲が暴走して痛いほど抱きしめられ、ずっとキスされて恋人としては非常に愛されているのにセックスとしての快感がほとんど無いというのはどういうことだ?
不満を表すようにはづきは起き上がって彼と横並びに座って彼の前腕に頭をこすり付ける。
「痛いのに、そこまで気持ちよくなかった~。あなた私を孕ませるために子宮とばっかり楽しむんだから。もうちょっと、腰を引いたりとか……」
「すまん……。ちゃんと心がけるから……」
「はいはい、いつでも練習に付き合ってあげるから恋人を悦ばすためのセックスの方法、学んでいきましょうね~」
そう言ってはづきはベッドシェルフのティッシュを一枚抜いて、彼の生殖器からコンドームを引く抜く。射精後で賢者な彼はゴムの処理をするはづきの様子を熱心に見ていたが彼女はいたってなんの感慨深くもなくそれをゴミ箱に捨てた。
*
「まだイケますか?」
「え、あぁ……うん。そうだな」
「ん~……声に積極性がありませんね。本当はヤリたく無いんじゃないんですか~?」
「そんなことは……! まだヤリたい! はづきとセックスしたい!」
ちょっとしたからかいだったのだが、結構真面目に捉えられたのか彼ははづきの手を取ってまでそんなことを言った。
子供みたい。そんな感想を抱きながら「じゃあそこで仰向けになってくださいね~」となだめるように言う。「うん……」と正直にベッドに寝っ転がった彼がさらに子供に見えてはづきは母親にされたように頭をなでて彼に覆いかぶさろうとした。
「え、はづき!? まだゴムしてない……!」
驚いたのは彼だ。起き上がろうとする彼の肩を全体重をかけて制する。
「そんな気分じゃないって言ったら、許してくれる?」
「いやいや! そんな成り行きで……!」
気分で妊娠させられるか、との彼が言う言葉はひどく正しい。家族計画なんて考えていないが、新婚1年も経っていないうえにこんな場当たり的に中出しをするのは非常識だ。
でも、である。
「子供作っちゃったら、わたしはどこにも行きませんよ?」
「いやそうだけど……子供が出来たら恋人らしいことできなくなるなぁって」
苦しい言い訳だなぁ。はづきはそう感じる。
だって彼の寂しがりやな男の象徴はすでに天井を指している。ガチガチなそれをなだめるようにはづきはそれを押しつぶすように上に跨った。愛液でべちゃべちゃな女の口が幹を濡らして制圧する。
「子供が生まれたら、デートもセックスもスキンシップもしないつもり?」
「いや、するけど……! でも――ほら、将来のこととか……!」
「お金の貯えもあるし……良くも悪くも出費も減ったし……それに私もう26だからね? 子供産んでもおかしくないし、にちかにせがまれてるし……」
「そんな、クリスマスプレゼントじゃないんだぞ……!」
にちかが求めているのは大家族のほうで、はづきとプロデューサーの間の子供を欲しがっている訳ではない。たしかに何度か揶揄われているが……それを使って妊娠の言い訳にはならないだろう。出汁にされるにちかが可哀そうだ。
しかしはづきはそんなことに罪悪感を感じずに彼に聞く。
「あんなにも私の子宮にお預けさせておいて、ですか~? 毎回毎回、私の要望も聞かずに孕め~孕め~ってゴム越しなのにずーっと腰を押し付けるくせに?」
「それは……!」
「………夫婦なのに奥さんに期待させるだけ期待させて? あなた専用のおまんことあなたの子供を産むための子宮と、あなたと家族になりたい七草はづきがいるのに……ですか?」
深刻な話ではない。はづきは性欲が溜まって煽られて、しかし相手が何もしてくれないことに拗ねているだけである。若干イラついて、詰めるようにマウントポジションで彼を上から見下ろしながら尋ねているだけだ。問答無用で挿入れてないだけはづきは正気である。
でもそんなことを言われたら彼は断れない。
「……意地の悪いことを言う」
「ダメだったよね。ごめん、すぐに――」
「いや……そこまで言われて本当に身を引けるほど情けない真似はできないよ」
はづきは頑固だし、セックス好きだからさ。そんなことを言わなければはづきも素直に喜べたのだが。
「――腹たつなぁ~……。自分は満足したからって、飄々としちゃって」
「ははっ、ごめん。だから最終的な判断は任せるよ」
「だから、挿入れるね」
「えっ」
駄々っ子を宥めるように優しく言った彼のあからさまな懐柔策は、その言葉に非常に腹が立ったはづきは腰を浮かせて自由になった彼の勃起したちんこを無遠慮に自身の膣内に挿入させた。
ひどく熱い。ずっと焦らされていただけの子宮が、ようやく彼に貪ることができる。
「え、あ、待っ――」
「うるさい」
まずはキスで黙らせる。仰向けで慌てて身を起そうとしている彼に体重をかけ、ディープキスで思考をかき乱してようやく彼を制圧することができた。
体温が高くなる。外気が冷たいので後ろ手に布団を被る。世界が彼とはづきだけになる。
キスしながらでは、唇を重ねながらでは腰を動かせない。だから絡めあった舌を抜いた。
「あなたは私のもの。そしてベッドには私とあなたしかいない。なのにあなたはいつもいつもまだ見えもしない未来ばっかり見て常識ばっかり言って、腹が立つ」
肉欲のままにはづきは腰を動かす。ぬぷり、ぐちゅり。愛液が混ざり合う。彼のごつごつとした男根が、血管とカリ傘がはづきの膣壁を擦ってようやくはづきは自分の満足できる快感を得た。
でもまだ足りない。私は彼の精液が欲しい。
「いつもインテリっぽく頭のいいことばかり言って、私ばっかり性欲狂いみたいじゃん」
「そんなことは――」
「黙ってって言った」
性欲狂いなのは自覚している。でも、だ。
でも七草はづきは、彼が自分に依存してくれることを望んでいる。彼がそれを望んでいないことも知っている。
なのに彼は夢の七草はづきがいなくなるのが嫌だといった。夢の中の七草はづきを求めていた。
腹立たしいことだ。彼の夢の中で私はあなたを見捨てる人間だったのか?
「夢の中でも、私はあなたと一緒にいるから……だから、私にもっと依存して……もっと私にあなたの欲を見せて」
「はづき……」
呆けたような表情の彼がひどく腹立たしい。だからギリギリまで腰を上げて勢いよく落とした。彼がうめく。はづきが喘ぐ。
彼の胸板に寝そべった状態で行われるダンスはひどくみっともないだろう。ゴムなしのため射精欲を必死に我慢している彼が愛おしかった。
声が、息がどんどん短くなっていく。
「はづき……そろそろ、まずいから――」
「だめ、離さない。あなたが、私のお腹にびゅ~って射精して、私を孕ませて、私の子供を抱きかかえるまで、離さない」
あれ、私なんでこんなこと言ってるんだろう。少し拗ねて彼をおろおろさせるだけの目論見だったのに、なんでこんな重いこと言ってるんだろう。
私はただ……あなたを奪われたくないだけなのに。
「はづき」
「……なに――っ」
腰を必死に動かして浅ましく彼に精液を強請るはづきは彼が自分の唇をゆっくりなでる感触に動きを止めた。浮いていた腰が動作を停止した。
彼の乾燥して皮膚が分厚い親指が彼女の唇をゆっくりなぞる。布団の中の2人だけの世界で彼の表情は見えないが、彼の優しさが自分から仕掛けたフレンチキスの何倍も気持ち良い。
だから彼が浮いていた彼女の腰を力で押さえつけ、彼の男根がはづきの膣内に強引に収まって、膣中で精液が放たれた。
「え、あ、ア――んン~~~ッ!?」
彼が普段の性行為で行わない、彼の感情が露になった乱暴な行動ではづきは絶頂した。子宮が彼の欲望と愛を受け止め、快感が止まらない。
「や、あ、あ~………」
ぐちゃりと彼の男根を咥えこんだままはづきは彼の胸の上に倒れこんだ。ぐちゃりという音とともに彼の汗とはづきの涙が混ざりあう。ただ愛のぶつけ合いをしていただけの2人よりも何十倍も上等な性の営みの音だ。
絶頂の快楽と浅ましく腰を振っていた反動からか、はづきはどんどん眠気に襲われていった。
「……はづき、大好きだよ。絶対離さないから、絶対離れないで」
彼の愛の言葉ともはづきの身勝手な発言への文句への怨嗟とも聞こえる言葉とともにはづきの体がぎぅと、抱きしめられる。その温かさが好きで思わず言ってしまった。
「私も、大好きだよ……」
*
とりあえず今日の反省点は「思い付きで行動しない」になるだろう。
はづきは彼の一度だけの乱雑でノイズだらけの責めと精液の暖かさによって絶頂できたが、そのあとずっと繋がっていたため陰唇は痛みが残った。彼は不慣れと運動不足な体での性交で体がガクガクに。おまけに終わった後に気絶するように眠ってしまったためお互い無理な体勢で寝ていたためか体が痛み、現在時刻は14時。
「あ~……気持ちよかった……」
でも彼が射精をしてくれたことができたことがはづきは嬉しかった。
「……はづきは、さ」
ここは湯船の中。何も食べていないが空腹を感じないことを良いことに一緒に風呂に入ってピロートークの代わりをする。当たり前のようにはづきは彼の足の間に座って尻を押し付け、彼は彼女の裸の彼女を抱きしめていた。
「性欲と愛の区別は付けたほうが良いんじゃないのか?」
「……初めてそんなこと言われた」
その言葉に「そうかな……」と一瞬思考する。……愛はあるがにちかに性欲を向けたことは一度もないはずだが。
「性欲、というよりも孕みたいから生セックスしたがったようなこと言ってたからさ」
「……あなたに言われたくない。いっつもあんなに奥ばっかり抑えるくせに」
「今日とこれまでの違いって中に射精したかどうかだろ」
「いや今日は……今日は――……あー……」
それはあなたががんばって腰を動かして膣をいじめてくれたから、と言いかけたが――どうだろうか。正直彼が私の膣中に射精してくれたから、というのが一番強い気がする。
「――いや、でもあなたが私に精液出してくれたことが……うれしくって」
「………子供ほしかったのか、そんなに」
「あなたは……自分の感情をあまり出さないから、イライラしちゃって……」
「無茶苦茶スキンシップしてるのに?」
彼が拗ねたように言ってはづきの胸に触った。嫌がらせのつもりなのだろうか。
「俺、はづきのこと好きだよ。好きだからいっぱい触りたい。いろんな部分を触りたい。舐めたい。味を知りたい」
「私は夫に食べられそうで怖い」
……もしかして彼は自分のことを砂糖菓子だと思っているのだろうか。そして彼にむさぼられる程度なら構わないと思い始めた自分が少し怖い。
「でもね……いくら恋人の責めが下手くそだからって、精液を寄越さなきゃ愛はない――は嫌だよ」
「うん……ごめん」
あれはたしかにひどい言葉だった。
「でもね、私怖い。あなたがそうじゃないって言っても……あなたの愛が欲しい」
「焦りすぎだよ」
「でも、私はアイドルの皆さんから恋を奪った張本人だよ? 浮気されても……」
「……人聞きが悪いな」
彼は嫌そうに、不満げに言った。胸を揉むのをやめてはづきをさらに強く抱きしめた。
「私があなたから離れる悪夢――なんて見る人に言われてもなぁ~……。夢の中でもずっと一緒にいて。あなたはずっと私とイチャイチャする夢だけ見てたらいいの」
「随分と……わがまま」
「だって私、あなただけのお姫様だから」
自分でも適当なこと言ってるなぁと思いながらはづきは彼の体に身を預けた。
彼の力強い力が自分の体に絡みつき、彼好みのように歪む未来を幻視する。腹が膨らんだ未来の自分はきっと幸せだろうと思えた。
「……そういえば、はづき。ついに中出ししてしまったんだが――大丈夫だろうか」
「子供ができるのは、不満?」
「そうではなく……」
「大丈夫、安心して。どこまで信じられるかは分からないけど、生理周期的に今日は大丈夫ですよ~」
「よかった……。じゃあ社長にも迷惑にはならないわけだ」
「……いきなり浮気?」
「……なんで社長に嫉妬するんだ」
彼のあきれたような声と彼女の頭をなでる行為がひどく幸せだった。
どうも、勉強サボ浪です。
パラコレはづきのおかげでR-18を初めて書きました。……ここまで書いてわかったんですが、私エッチな小説書くの苦手すぎる……!
まっとうないちゃらぶだけを書くつもりだったんです。信じてください。なんでこんなシリアスになってんだ
おかげで蛇足のせいでスランプになってたのがもっと酷いことになりましたよ。
いろいろ言いたいこと、このシリーズの反省点とかあるんですが明日も仕事なので寝ます。
次回更新はありえないと思ってください。