(完結済)元冒険者の俺、入り婿先の義理の娘に逆レイプされてしまう 作:埴輪庭
◇◇◇
朝が来た。
蝋燭は全て燃え尽きていた。東向きの窓から射し込む白い光が、汚れたシーツの上の三人を照らしている。汗と蜜と精液の匂いが部屋の隅々まで染みつき、冬の朝の冷気と混じり合って、奇妙に甘ったるい空気を作っている。
ウォーレンが最初に目を覚ました。
右腕の下にトリシャがいる。金色の髪が腕に絡みつき、少女は胎児のように丸まって、ウォーレンの脇腹に額を押しつけて眠っている。
左肩の上にエレオノーラがいた。蜂蜜色の髪が男の胸を覆い、豊満な身体が密着している。鬱血した手首の痕が朝日に照らされて痛々しいが、寝顔は穏やかだった。十年間、夫の隣でこんな顔で眠ったことがあっただろうか。
ウォーレンは天井を見上げた。
離れの館の天井は、本邸のそれより低い。染みの一つ一つが見える距離で、蜘蛛の巣が隅にかかっている。冒険者時代、野営地のテントの天井を見上げた朝と、少しだけ似ていた。
ここから先、どうするのか──そんな事を想う。
これまでしたことのすべてについて、魅了のせいだと言い訳はできる。だがあの後──魅了が解けた後に、自分の意志で二人を抱いた。
義理とはいえ、娘を抱き続けたなど、世間が知れば終わる。爵位も、名誉も、全てだ。
だが。
右腕の下で、トリシャが寝返りを打った。小さな身体がぎゅうとウォーレンの脇腹に押しつけられ、寝言のような息が漏れる。
「……おとうさま」
左肩の上で、エレオノーラの指がぴくりと動いた。無意識に、夫の胸の傷跡を指先でなぞっている。
ウォーレンは目を閉じた。
まあいい、と男は思った。冒険者上がりの、品も学もない男だ。世間体を気にして生きてこられた人生ではない。
守るべきものが、腕の中にある。それで十分だとウォーレンは小さくため息をついた。
◆
「トリシャ。今日から本邸に戻りなさい」
離れでの朝食後、エレオノーラが言った。食後の薬草茶を啜りながら、何でもないことのように。
トリシャの手が止まった。カップを持ったまま、青い瞳がエレオノーラを見上げる。
「……本当に?」
「本当よ。もう離れに閉じ込めておく理由はないわ。あなたの力の使い方は──」
エレオノーラが言葉を切り、紫の瞳でトリシャを見つめた。
「あなた自身が、いちばんよく理解したでしょう。悪用してはだめよ?」
トリシャは長い沈黙の後に頷いた。目の縁が赤い。泣きそうな顔を必死に堪えている。
「はい……お母様」
「ただし条件があるわ」
「条件?」
「魅了を自分の意志で制御する訓練。私が教える。同じ力を持つ母親として」
トリシャの目が見開かれた。そして──今度は堪えきれずに、涙が零れた。
「……はい」
ウォーレンは黙って茶を飲んでいた。口を挟む隙はなかったし、挟む必要もなかった。母と娘の問題は、母と娘が解決する。冒険者上がりの男に出る幕はない。
ただ、少しだけ──口元が緩んでいた。
◆
本邸に戻ったのは昼前だった。
三人が揃って正面玄関から入ったとき、真っ先に駆けつけたのはセバスチャンだった。この日は本邸にいたのだ。老執事の目が驚愕で見開かれ、次に安堵に変わり、最後にトリシャの姿を認めて──何かを理解したように、深く頭を下げた。
「お嬢様。おかえりなさいませ」
「……ただいま。セバスチャン」
トリシャの声が震えた。この屋敷で、セバスチャンだけは離れに食事を届けてくれていた。十年間、一日も欠かさず。
老執事の目に光るものがあったが、セバスチャンはそれを見せまいとして眼鏡の位置を直した。
「お嬢様のお部屋を整えますので、少々お待ちを」
「ありがとう」
ウォーレンが振り返った。
回廊の奥に、リュシアンが立っている。碧い瞳。端正な顔。従者の制服を着崩すことなく、姿勢よく佇んでいる。だがその顔に浮かんでいるのは──困惑と、怒りと、そして何より、嫉妬だった。
エレオノーラが昨夜から離れにいたことを、リュシアンは知っている。ウォーレンが帰宅してすぐ離れに向かったことも。そして今、三人が揃って戻ってきた。エレオノーラの手首に残る拘束の痕。乱れた髪。ウォーレンの大きな手がエレオノーラの腰に自然に添えられているのを、リュシアンの碧い瞳が捉えている。
エレオノーラはもうリュシアンへの魅了を切っている。
だがリュシアンの中にあるものは消えていなかった。
エレオノーラの魅了は、トリシャのそれとは性質が違う。トリシャの赤い瞳が人間の意志を根こそぎ奪い取る強制力だとすれば、エレオノーラの紫の瞳は元々そこにあるものを増幅する力であった。好意があれば恋に、敬意があれば崇拝に、嫌悪があれば憎悪に。
リュシアンには元々、エレオノーラへの好意があった。美しい主人への憧れ。それを紫の力が恋慕に膨らませた。そして同時に、ウォーレンへの微かな蔑みもあった。粗野な冒険者上がり。名門の妻に相応しくない男。それを紫の力が侮蔑に育てた。
魅了が解けても、膨らんだ感情は元の大きさには戻らない。種が芽吹き、根を張ってしまった後では──切り株が残る。
リュシアンの碧い瞳に、ウォーレンは憎悪の残滓を見た。
子供っぽいことだと自覚はあった。
だが十年間、この男の態度にウォーレンも思うところがなかったわけではない。従者でありながら主人を見下す視線。エレオノーラの傍にいるときだけ生き生きとする碧い瞳。そして何より──妻の身体に、この男が触れていたという事実。
ウォーレンはエレオノーラの腰を引き寄せた。
「あなた?」
エレオノーラが怪訝な顔を向ける。ウォーレンは答えない。代わりに妻の顎を手で持ち上げ──回廊の真ん中で、リュシアンの目の前で──唇を重ねた。
深く。
エレオノーラの目が見開かれる。だがすぐに紫の瞳が閉じられ、夫のキスを受け入れた。舌が絡み合い、唾液の糸が二人の唇の間に光る。ウォーレンの大きな手がエレオノーラの腰から尻に滑り降り、ドレスの上から豊満な尻肉を鷲掴みにする。
「んっ……♡ あなた、ここでっ……」
「ここでだ」
ウォーレンの声が低い。エレオノーラの耳元に囁く。
「見せてやる」
エレオノーラの紫の瞳がちらりとリュシアンを見た。回廊の奥で立ち尽くしている若い従者の──蒼白な顔を。
エレオノーラの唇が──微かに、笑みを刻んだ。
「……ええ。いいわ」
もう一度キスが重なる。今度はエレオノーラから。夫の首に腕を回し、豊満な胸を傷だらけの胸板に押しつけ、背伸びをして唇を合わせる。ちゅっ、ちゅぷっ、と音がして、ウォーレンの手がドレスの裾を捲り上げ始めた。
「旦那様……」
リュシアンの声が掠れた。碧い瞳が揺れている。
「何をなさっているのですか」
ウォーレンの手がエレオノーラのドレスの裾を腰まで捲り上げる。下着の上から妻の尻を掴み、ぐにりと揉みしだく。エレオノーラが甘い声を漏らした。
「あっ……♡ そんなに乱暴に……♡」
「リュシアン」
ウォーレンが振り返らずに言った。
「お前は解雇だ。今日中に荷造りをして出ていけ」
リュシアンの顔が歪んだ。
「そんな──奥様、奥様はお許しに──」
「私は」
エレオノーラの声が響いた。ウォーレンの腕の中から、紫の瞳でリュシアンを見つめる。
「夫の判断に従うわ」
その一言が、リュシアンの足元から何かを崩した。
碧い瞳から光が消えた。顔が蝋のように白くなり、唇が微かに震える。だが言葉は出てこない。膨らまされた恋慕も、育てられた侮蔑も、この瞬間に意味を失った。
従者は一歩後退り、もう一歩後退り──そして踵を返した。
背中が回廊の闇に消えていく。
エレオノーラがウォーレンの胸に顔を埋めた。
「……子供っぽいひと」
「自覚はある」
「でも」
紫の瞳が上目遣いでウォーレンを見上げる。
「嬉しかった」
ウォーレンの大きな手が、妻の蜂蜜色の髪をそっと撫でた。
◆
回廊の反対側の柱の陰で、トリシャが両手で口を押さえていた。
青い瞳が丸く見開かれ、顔が真っ赤に紅潮している。
そして誰にも聞こえない声量でぼそぼそと呟いた。
「……えっち」と。
セバスチャンが背後に立っていた。老執事は何も聞かなかった顔で、眼鏡の位置を直した。
「お嬢様。お部屋の準備が整いました」
「……ありがとう、セバスチャン」
トリシャは柱の陰から出て、セバスチャンの後に続いた。本邸の階段を上がり、二階の廊下を歩く。十年ぶりの景色。壁紙の色も、窓から見える庭の樹も、記憶の中とは少しだけ違っている。木は大きくなり、壁紙は褪せている。
用意された部屋は、かつてトリシャが使っていた子供部屋ではなかった。東棟の角部屋。大人の女性に相応しい、広くて明るい部屋。窓からは庭の薔薇が見える。
「この部屋は……」
「奥様がお選びになりました。朝日が入る部屋がよいでしょうと」
トリシャは窓辺に立った。朝の光が金色の髪を透かし、青い瞳に庭の緑が映る。
十年間、離れの館の小さな窓からしか外を見なかった。
ここから見る空は随分と広い。
「……いいお部屋ね」
声が震えた。
セバスチャンが静かに退室し、扉が閉まる。
トリシャは窓枠に額を預けた。ガラス越しの冬の冷気が心地よかった。
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(了)
(了)