※この作品はR-18です。

(完結済)元冒険者の俺、入り婿先の義理の娘に逆レイプされてしまう   作:埴輪庭

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⑧魔淫

 ◇◇◇

 

 叙勲の式典は二日目の夕刻に終わった。

 

 辺境伯ヴェルナーは七十をとうに過ぎた老爵なのだが、勲功を称える王の言葉に膝を折る所作にはまだ武人の芯が通っていた。式後の晩餐では各地から集まった貴族たちが互いに牽制し合う腹芸を繰り広げ、俺はその端のほうで黙々と肉を食っていた。

 

 こういう場は苦手だ。冒険者だった頃は迷宮の底で配給食を齧りながら仲間と馬鹿話をしていればよかった。今はフォークとナイフを使い分け、隣席の婦人にワインを注ぎ、笑いたくもない冗談に相槌を打たなければならない。

 

 晩餐が終わり、客間に戻ろうとした時だった。

 

「ウォーレン殿」

 

 呼び止めたのは辺境伯の護衛を務める女性だった。名をアリアンナ・ベルフォートという。歳の頃は三十半ば、赤銅色の髪を低い位置で一つに結び、碧い瞳には常に理知的な光が宿っている。護衛でありながら魔術師としても名を知られた才媛で、辺境伯の右腕としてこの地方の治安を支えている人物だ。

 

 出席者の名前を覚えるのは大変だったが、魔術師というのは中々珍しい存在なのでこの女性の事ははっきりと覚えていた。

 

「何か」

 

「少し、お時間をいただけますか。人目のない場所で」

 

 その低い声色でただごとではないとわかった。

 

 城の回廊の隅、燭台の光が届きにくい石壁の窪みに二人で立った。冬の夜気が窓の隙間から忍び込み、吐く息が白く煙る。

 

「単刀直入に申し上げます」

 

 アリアンナの碧い目が俺を見据えた。

 

「ウォーレン殿。あなたは何らかの呪術的干渉を受けていらっしゃる」

 

 俺の背筋が、一拍遅れて冷えた。

 

「……何だって?」

 

「晩餐の席であなたの周囲の魔力(マナ)の流れを観察しておりました。微弱ですが、外部から浸透した異質な魔力の残滓がある。あなたの体内の魔力と混ざり合い、鬩ぎ合っている。通常であれば気づかない程度ですが、あなたの場合は少し事情が異なります」

 

「事情?」

 

「あなたの内なる魔力(マナ)が、異常なほど強く抵抗している。まるで長年の戦闘で鍛え上げられた本能が、外敵を感知して自律的に排除しようとしているかのように」

 

 冒険者時代、毒も、呪いも、魔物の瘴気も、何百回と浴びてきた。その経験が俺を護っているということか。

 

「ただちに大事はないと見ております。あなたの魔力の抵抗が十分に強いからです。ですが」

 

 アリアンナが声を落とした。

 

「心当たりは、ございませんか」

 

 あった。

 

 あの匂いだ。甘い香り。花とも果実ともつかない、頭の芯を蕩かす匂い。トリシャの肌から立ち昇るあの匂い。あれに包まれると思考が鈍り、身体が燃え、理性の箍が外れる。薬でも毒でもない。あれこそが──彼女のいう呪術的干渉なのではないだろうか。

 

 だが、ここでそれを口にするわけにはいかない。

 

「……心当たり、というほどのものではありませんが」

 

 俺は少し考える振りをしてから言った。

 

「妻が先日、行商人から珍しい香を買いましてね。異国の品だとかで、焚くと妙な匂いがするのです。もしかするとあれが何か影響しているのかもしれません」

 

 アリアンナの眼差しが数秒、俺の顔に留まった。嘘を見抜こうとしているのか、それとも別の何かを読み取ろうとしているのか。

 

「そうですか。であれば使用を控えられた方がよろしいかと。念のため解呪の護符をお渡ししておきます」

 

 アリアンナは懐から薄い銀の板を取り出した。表面に微細な文様が刻まれている。

 

「これを肌身に着けていてください。呪術の干渉の浸透を緩和する効果があります」

 

「ありがとう」

 

 護符を受け取った。銀板がひやりと掌に冷たい。

 

 ◆

 

 翌朝、俺は予定を繰り上げて発った。

 

 式典三日目の社交会は辞退した。辺境伯には妻の体調不良を理由に詫びを入れたが、嘘だ。頭の中にはアリアンナの言葉だけがぐるぐると渦巻いていた。

 

 呪術的干渉。外部から浸透した異質な魔力。

 

 馬車の中で護符を握りしめながら考えた。

 

 しかし──なぜトリシャが? 

 

 あの無垢な顔で、あの甘い声で俺を呪い続けていたのか。

 

 いや、違う。あの声は、あの目は俺を憎んでのものではない。ではなぜ──。

 

 わからない。わからないが、放っておけない。

 

 馬車の窓から見える風景が白く霞んでいた。冬霧だ。視界の悪い道を御者は慎重に進めている。俺は苛立ちを抑えながら座席の上で拳を握った。

 

 ガナッシュ邸に着いたのは夕刻だった。

 

 ◆

 

 玄関広間にエレオノーラの姿はなかった。

 

 出迎えたのはリュシアンだった。礼服姿のまま外套を脱ぐ俺の前に跪き、旅装の埃を払おうとする。

 

「エレオノーラはどこだ」

 

「奥様は──」

 

 リュシアンが一瞬、言い淀んだ。碧い瞳が僅かに揺れている。

 

「離れの館へ向かわれました」

 

 血の気が引いた。

 

「いつだ」

 

「昨日の昼過ぎでございます。お一人で向かわれ……それきり、お戻りになっておりません」

 

 昨日の昼過ぎ。俺がまだ王城にいた時分だ。それから丸一日、帰っていない。

 

「何故ついていかなかった」

 

「奥様が一人で良いと──」

 

 俺はリュシアンの言葉を最後まで聞かなかった。外套を床に放り出し、走った。

 

 ◆

 

 庭園を突っ切り、藤棚の下を駆け抜け、生垣の小径に入った。冬の夕闘が木々の間を橙色に染めている。息が白い。礼服のブーツが霜柱の張った地面を踏み砕く音が連なった。

 

 離れの館が見えると、匂いがした。

 

 あの匂いだ。あの甘い香り。だが以前とは比較にならない濃さだった。生垣の向こうから押し寄せてくるように、粘度のある甘さが空気を浸している。吸い込んだ瞬間、視界の端がちらりと歪んだ。

 

 護符がじくりと熱を持った。

 

 銀の板が胸元で微かに震えている。呪術的干渉の浸透を緩和する、とアリアンナは言っていた。それが反応しているということは、この匂いの正体が呪いであることの証左だ。

 

 俺は腰に佩いた儀礼用の長剣をちらりと見下ろした。

 

 実戦用ではない。刃は立ててある程度で、かつて振るっていた肉厚の剣とは比べ物にならない。だが斬れないわけではない。切っ先は鋭く、突けば人体を貫ける。

 

 いや、まて。

 

 何を考えている。

 

 何と戦う気だ。

 

 トリシャは俺の娘だ。血は繋がっていないが、この十年間──少なくとも俺にとっては守るべき家族だった。その娘に剣を向けるというのか? 

 

 そんな自問をするが、答えは無い。

 

 答えのないまま、俺は離れの館の扉を開けた。

 

 ◆

 

 甘い匂いが壁となって押し寄せた。

 

 護符が発する熱が強くなる。胸元で銀板がちりちりと肌を焼く。頭の芯が溶けかける。視界が揺らぐ。だが護符の力と、俺自身の魔力の抵抗が、辛うじて意識を繋ぎ止めていた。

 

 談話室は薄暗かった。窓は全て閉め切られ、蝋燭は消えている。書架の本が無造作に床に散乱し、長椅子のクッションがひっくり返っていた。争った痕か。

 

「トリシャ」

 

 声が掠れた。喉が緊張で締まっている。

 

「トリシャ、いるのか」

 

 返事はない。

 

 静寂の中に、微かな音が混じっていた。

 

 耳を澄ませると──これは。

 

 呻き声だ。

 

 くぐもった、喉の奥から絞り出すような声。苦痛なのか、それとも別の何かなのか判別がつかない。だがその声はこの手前からではなく、奥の──トリシャの寝室の方角から聞こえてくる。

 

 足を進めた。床に散った本を踏まないよう、しかし急ぎながら。廊下に出ると匂いはさらに濃くなった。空気そのものが甘い蜜に変わったかのように粘りつき、肺が重い。護符の熱が服越しにも焼けるようだ。

 

 寝室の扉は半開きだった。

 

 隙間から橙色の光が漏れている。蝋燭か、暖炉か。

 

 呻き声が、はっきりと聞こえた。女の声だ。トリシャの声ではない。もっと低い、もっと──聞き覚えのある声。

 

 ──エレオノーラ。

 

 俺は扉を押し開けた。

 

 ◆

 

 最初に目に入ったのは蝋燭だった。

 

 十を超える数が寝室のあちこちに立てられ、揺れる炎が壁と天井に異様な影を踊らせている。その光の中に、ベッドがあった。

 

 エレオノーラが横たわっていた。

 

 知らない女かと思った。それほどに、そこにいる人間が俺の知るエレオノーラという女性と結びつかなかった。

 

 全裸だった。蜂蜜色の髪が枕の上に散り、汗で額に貼りついている。両の手首がベッドの柵に布地で固く縛りつけられ、白い腕が頭上で交差している。足首も同様に、ベッドの左右の脚に別々に固定されていた。大の字に──いや、磔だ。まるで罪人を架刑に処すかのように、四肢を引き伸ばされた格好で動けなくされている。

 

 白い肌が蝋燭の光を受けて異様に生々しく光っていた。脂汗だ。全身が汗に濡れている。胸が激しく上下し、口は半開きで涎の糸が顎を伝い、紫の瞳は焦点が合わずに天井の一点を見つめている。

 

 その間に立っていたのは、トリシャだった。

 

 白い寝巻きの裾が揺れている。金色の髪が腰まで流れ、蝋燭の光を吸い込んで琥珀のように輝いていた。背中を向けた姿勢で、ベッドの縁に腰掛けたエレオノーラの両脚の間に位置している。

 

 その右手が握っているものを見た瞬間、俺の思考が止まった。

 

 張り型だった。

 

 形状は男性器を模している。だが、常軌を逸した大きさだった。握った拳の太さがすっぽり収まるほどの直径があり、長さは前腕の半ばにまで達している。色は黒。漆のような光沢を帯びた、まるで雄馬のそれを忠実に再現したかのような造形だった。亀頭の形状まで精密に刻まれ、幹には浮き上がった血管の紋様が走っている。素材は硬質の革か、あるいは何かの魔道具か。いずれにせよ、人間の女性の体内に収まる寸法ではない。

 

 その先端が、エレオノーラの股間に消えていた。

 

 太腿の内側を伝い落ちる液体が、シーツに黒い染みを広げている。透明な分泌液と、それとは別の色の混じった液体。

 

「あら」

 

 トリシャが振り返った。

 

 赤い瞳。

 

 青い虹彩の面影は消え去り、虹彩の全域が赤く発光していた。蝋燭の炎よりもなお鮮烈な赤。その瞳に照らされた少女の顔は、恐ろしいほどに美しかった。

 

「お父様、来てしまいましたのね」

 

 声は穏やかだった。まるで予期していなかった来客を迎えるかのような、軽やかな調子。

 

「少々お待ちくださいな。今もう少しで──」

 

 トリシャの右手が動いた。

 

 黒い張り型を握り直し、引いて、

 

 叩き込んだ。

 

 ずぶりと。

 

 一息に。

 

 エレオノーラの身体がベッドの上で弓なりに跳ね上がった。四肢を縛る布が軋み、ベッドの木枠がめきりと鳴った。白い腹が痙攣し、肋骨の浮いた胸郭が限界まで膨らんだ。

 

 そして、絶叫した。

 

「あ゛ぎゃぁあああああッッ!!!」

 

 声と呼ぶにはあまりに野蛮な、どちらかというと獣の咆哮に近い音だった。壁に反響し、蝋燭の炎が一斉にはためき、俺の鼓膜を殴打する。

 

 エレオノーラの紫の瞳が一瞬だけ俺を捉えた。

 

 助けを求めていたのか。絶望を訴えていたのか。それとも──見られたことへの屈辱か。

 

 わからなかった。わかる前に、その瞳は白目を剥いて裏返った。

 

 トリシャが俺を見つめていた。赤い瞳が蝋燭の光を映して揺れている。唇の端が、うっすらと弧を描いていた。

 

「ごめんなさいね、お父様。お母様ったら、うるさくって」

 

 甘い声だ。

 

 俺の足は──動かない。

 

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