The Sky Blessing ~R-18 Edition~ 作:ella_coat
外からは島民たちが一日を終えて帰路につく微かな喧騒が聞こえてくるが、この拠点として借りている石造りの家屋の中だけは、まるで時間の流れが緩やかになったかのような奇妙な静寂に包み込まれていた。
室内に漂うのは、古びた木の匂いに混じって、どこか甘く、そして湿り気を帯びたむせ返るような香りの名残。それがつい先程まで、この家の中でどんなに熱を帯びた出来事が繰り広げられていたかを、雄弁に物語っていた。
アキシャのしなやかでたくましい腕の中には、気を失ってぐったりと身を預ける妹、エクアルの姿があった。
全身に巻かれた包帯の奥で、レクシエルとの死闘で負った深い傷が時折ピリッと痛む。だが、その痛みこそが自分の生きている証であり、こうして大切な妹の温もりを感じることのできる尊さを、アキシャに実感させていた。
あの絶望的な戦いの最中、茨に貫かれて意識を失った自分が、どれほどエクアルやラビリアに恐ろしい思いをさせてしまったのか。それを想えば、己の身の痛みなど些細なものだ。
腕の中に収まる妹の細い身体は、いつも身に纏っている黒と青のロングコートや、それを縁取る金色の装飾、そして清楚な青いスカートどころか、白いブラウスすら失っていた。今の彼女の肌を覆っているのは、淡い水色を基調とした下着のみである。
二つの膨らみの谷間にあしらわれた小さな白いリボンと、縁を彩る控えめなフリル。派手な装飾のない純真で可愛らしいその布地は、激しい快楽の波に揉まれたせいか無惨に乱れ、滑らかで美しい白い素肌を必要以上に晒してしまっていた。
アキシャは、腕の中で小さく上下する妹の胸元に視線を落とすと、不器用な手つきでその乱れた下着を直してやる。
ねじれて肌に食い込んでいた肩紐を指先でそっと引き戻し、ずり上がっていたショーツの縁を整える。その指に触れるエクアルの太ももや腹部の肌は、信じられないほどに火照っており、じわりと深い熱を放っていた。まるで、身体の芯で燃え上がった炎が、まだ完全に鎮火しきれずに燻っているかのようだ。
普段、誰に対しても大人しくて優しいお姉さんのように振る舞い、真面目で慎重派を気取っている妹の無防備な姿。
アキシャは小さく息をつき、そっとエクアルの顔を覗き込んだ。
エクアルの呼吸は、すっかり落ち着きを取り戻している。艷やかな黒髪は汗でわずかに額や頬に張り付いているが、その寝顔には苦痛や恐怖の欠片も存在しなかった。むしろ、全てを出し尽くし、極上の夢に微睡んでいるかのような、あどけなくも充足感に満ちた幸せそうな表情だった。
「全く、なにやってんだが……」
アキシャの口から、そんな言葉が漏れ落ちた。だが、その声音には怒りはなく、どこか柔らかく温かな響きが混じっていた。
戦いの場ではあんなにも冷静に水や氷の魔法を操り、姉の無鉄砲な行動を止めるストッパー役であるエクアルが、こんなにもとろけたような顔をして眠っている。その凄まじいギャップが、アキシャの胸の奥に不思議な感情を呼び起こしていた。
呆れると同時に、どうしようもなく愛おしい。
幼い頃からずっと守るべき対象であった妹の、本能に忠実になった素直な一面に触れたような気がして、アキシャの唇には自然と小さな微笑みが浮かんでいた。誰にも代えられない、アキシャにとって唯一の家族への深い愛情がそこにあった。
アキシャは腕の中の重みをもう一度愛おしむように抱え直すと、静かな足取りでリビングの床へと歩を進めた。
そこには、急拵えで作られた簡易的なベッドが敷かれている。
寝室のベッドほどではないが……柔らかで清潔なその場所に、アキシャはエクアルの身体をそっと下ろした。火照った背中がひんやりとしたシーツに触れ、エクアルの口から「ん……」と小さな寝息が漏れる。
その甘い吐息に一瞬だけ肩を揺らしたアキシャだったが、すぐに気を取り直して、傍らに用意されていた毛布をふわりと掛けた。冷えないように、それでいて火照った身体に熱がこもりすぎないように、首元まで丁寧に整えてやる。
「…………良い夢見ろよ」
窓から差し込む夕暮れのオレンジ色の光が、エクアルの穏やかな寝顔を優しく照らしている。
アキシャはしゃがみ込んだまま、汗で額に張り付いていたエクアルの黒髪を、指先でそっと梳いて払ってやった。
少しだけ湿り気を帯びた髪の柔らかな感触と、額から伝わる命の温もり。そのまま優しく頭を撫でてやると、エクアルの頭上から伸びた黒いウサ耳が、くすぐったそうにピクリと小さく動いた。
その反応は、かつて故郷で姉妹揃ってまどろんでいた頃の記憶と重なり、アキシャの胸をさらに温かく満たしていく。
愛らしいその動きに、アキシャは満足げに深く頷くと、ゆっくりと立ち上がった。
リビングの静寂の中、エクアルの規則正しい寝息だけが微かに響いている。その音を背中で聞きながら、アキシャは寝室へと戻るとドアをゆっくりと閉じた。
「さぁて……と、私が何を言いたいか…………分かってるよなぁ? ラビリア」
その閉鎖的な空間のただ中で、アキシャはバキバキと両手の指の関節を鳴らしながら、一歩、また一歩と獲物を追い詰めるように歩みを進めた。彼女の顔には、まるで獰猛な肉食獣のような、そしてどうしようもなく楽しげな満面の笑みが貼り付いている。
琥珀色の鋭い視線の先にあるのは、部屋の中央に置かれた木製の背もたれ椅子だ。ほんの少し前まで、妹のエクアルが理性を溶かされ、快楽の底へと沈められていたまさにその特等席――そして今、そこに座らされているのは……その元凶であるラビリアだった。
彼女の両手首は、丈夫な布製のロープによって身体の前でしっかりと縛り上げられている。どこかに括り付けられている訳ではないが……アキシャの全身から放たれる圧倒的なプレッシャーの前に、逃げ出そうなどという無謀な考えは微塵も起こらないようだった。
ラビリアは気まずそうにピンク色の瞳を泳がせ、縛られた両手を膝の上でもじもじと動かしながら、ちらりと上目遣いでアキシャを見上げた。
「あはは……やり過ぎちゃってごめんねー? ほら、何でもするから、許してくれないかなー……?」
普段の気だるげな口調に、懇願するような媚びた甘さを混ぜてみるラビリア。だが、その声の震えにはどこか計算されたような響きが含まれており、完全な本心ではないことが透けて見えた。
アキシャはその小賢しい演技を鼻で笑い飛ばし、容赦のない声で叩きつける。
「駄目だ。エクアルの奴が気絶するなんて、よっぽどだぞ……」
そう言い捨てると、アキシャはドカッと音を立ててベッドの上に飛び乗ると、そのまま胡座をかいて座り込んだ。ベッドのスプリングが軋む音が、静かな部屋に重く響く。
腕を組み、眼下の幼馴染を睨みつける。ラビリアは肩をすくめ、シュンと項垂れてみせたが、その頭上の白いウサ耳は警戒するようにピンと立っていた。反省しているのは事実だろうが、どうにかしてこの窮地を脱しようと頭をフル回転させているのもまた事実だ。
アキシャはそんなラビリアの様子を観察しながら、ふと思い出したように自分のコートのポケットへと手を突っ込んだ。
「そう言えば、剣を教えてやった可愛いガキにこれ貰ったんだけどよー」
アキシャが取り出したのは、彼女の無骨な手には似つかわしくない、美しく精巧なガラス細工の砂時計だった。
滑らかな曲線を描く透明なガラス容器の中には、深い紺色を基調とした砂が詰められている。ただの砂ではない。光の加減によってキラキラと輝く金や銀の微小な粒が散りばめられており、まるで小瓶の中に星空を閉じ込めたかのような幻想的な美しさを放っていた。木製の枠組みにも繊細な彫刻が施されており、それが単なるおもちゃではないことを示している。
そして、それを見た瞬間にロマン好きなラビリアの瞳が、パァッと輝いた。
「わぁ……すごく綺麗な造りだねー。砂の粒子も均一だし、魔力の気配も……」
身を乗り出して拘束された手を伸ばしかけたラビリアだったが、アキシャのわざとらしい咳払いにはっと我に返り、慌てて背筋を伸ばして再びシュンとした態度に戻る。
アキシャは砂時計を目の高さに掲げ、星空のような砂の煌めきを眺めながら、意地悪く口角を吊り上げた。
「じゃあ、この砂時計の砂が全部落ちるまで……全身くすぐりの刑かなーっ」
その宣告を聞いた瞬間、ラビリアの顔からサッと血の気が引いた。
「えっ……む、無理無理無理! 絶対無理だってー!」
ラビリアは拘束された両手を振り回し、首を激しく横に振って精一杯の拒絶を示す。
彼女は自分自身が快感や刺激に対して決して鈍感ではないことを、これまでの経験から嫌というほど自覚していた。特にアキシャの容赦のない手つきで全身の急所を責め立てられれば、あっという間に呼吸もままならなくなり、無様な姿を晒すことになるのは火を見るより明らかだった。
アキシャはパニックに陥るラビリアを見下ろしながら、少しだけ思案するように顎に手を当てた。
(くすぐりの刑でも十分に懲りるとは思うが……)
アキシャの脳裏に、ふと数日前の記憶が鮮明に蘇ってきた。
自分が怪我でベッドに縛り付けられていた時、ラビリアの手によってウサ耳の付け根を責められ、声も出せないほどの未知の熱に浮かされたあの瞬間。屈辱と同時に、身体の奥底から湧き上がるような甘い痺れと、互いの肌が触れ合うことでしか得られない強烈な充足感。
あの時を機にアキシャは自分の欲望に素直になって、幼馴染という枠組みを……越えてしまった。
戦闘狂いな自分の中にも、そういったことへの興味が確実に存在している。そして、目の前で縛られている相棒の、いつもは飄々としている仮面を剥がし、あの日のようにとろけた表情をもう一度見てみたいという好奇心が、ふつふつと湧き上がってきていた。
「……それじゃあ」
アキシャはポツリと呟くと、自らの頬が僅かに上気して熱を帯びていくのを感じながら、真っ直ぐにラビリアのピンク色の瞳を見つめ返した。
「快楽責めの刑でも良いぞ?」
その予想外すぎる一言が放たれた瞬間、部屋の空気がピタリと止まった。
「え…………?」
ラビリアは間の抜けた声を漏らし、パチクリと何度も瞬きを繰り返す。
彼女の視線は、ベッドの上で胡座をかくアキシャの顔に釘付けになっていた。聞き間違いではないかと探るように、食い入るようにその表情を観察する。豪快で真っ直ぐなアキシャの口から、そんな背徳的な提案が飛び出してくるとは、夢にも思っていなかったのだ。
数秒の硬直の後、ラビリアは気を取り直すように小さく息を吐き、少し目を細めて探りを入れるような笑みを浮かべた。
「ふーん……アキシャでも、やっぱりそういうのが気になるー?」
どこか茶化すような、余裕を装った声色。普段のアキシャであれば顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、強引に誤魔化すところだろうとラビリアは踏んでいた。
しかし、アキシャは慌てる素振りすら見せなかった。
「あ…………当たり前、だろ?」
アキシャは少しだけ照れたように視線を逸らしたが、琥珀色の瞳から一切の迷いを消し去ると、真剣な眼差しでラビリアを見つめながら答えた。
「私だって……興味がないわけじゃねーし」
その言葉には、一切の虚飾がなかった。大切な人たちを守るために最強の戦士であり続けようとする彼女に秘められた、年相応の少女としての真っ直ぐな好奇心と、ラビリアという大切な相手だからこそ抱く欲求。それを恥じることなく、真正面から叩きつけてきたのだ。
その破壊力は――ラビリアの想像を遥かに超えていた。
「そっ、かー…………」
ラビリアの口から、力のない声が漏れる。
彼女の白い頬が、みるみるうちに沸騰したように真っ赤に染まっていく。普段はどんなことにも動じず、マイペースに相手を翻弄する彼女が、完全にペースを崩されていた。
頭上の白いウサ耳が、隠しきれない照れと動揺を示すように、ピコピコと慌ただしく揺れ動く。ラビリアはたまらず視線を逸らし、自分の膝の上で拘束されている両手を見つめることしかできなくなった。
アキシャは、完全に照れきっている相棒の姿を見て、喉の奥でククッと笑い声を漏らす。彼女はベッドから軽やかに飛び降りると、音もなくラビリアの目の前まで歩み寄った。
そして、逃げ場を失って俯くラビリアの顔を覗き込み、その柔らかい頬を両手でガシッと掴む。
「ふにゃー! なにふんのー!(なにすんのー!)」
アキシャが容赦なく頬を横にむにーっと引っ張ると、ラビリアの口から情けない悲鳴が飛び出した。
アキシャの指先から伝わってくるのは、ひんやりとした外気とは対照的な、ラビリアの肌の熱い体温だ。弾力のある柔らかな肉を弄びながら、アキシャは至近距離で楽しそうに笑いかける。
「ほら、どっちのお仕置きが良いか、早く選びやがれ!」
「うぇー……?」
頬を引っ張られたままの不格好な顔で、ラビリアは潤んだ瞳を彷徨わせ、真剣に思考を巡らせた。
ずっと全身をくすぐられるのは、想像しただけでも発狂しそうになるほど恐ろしい。しかし、もう一方を選べば、自分がどうなってしまうのか分からないという別の恐怖がある。先ほどのエクアルが、理性を完全に手放してだらしなく快感に溺れていた姿が脳裏にフラッシュバックする。
だが、恐怖よりも勝ったのは……ロマンを求める一人の少女としての探究心だった。
こんなにも自分の欲求に対して真っ直ぐで、素直な姿を晒しているアキシャ。彼女の不器用で、それでいて熱を帯びた手が自分をどう責め立てるのか。それを見届けずに逃げることなど、ラビリアの好奇心が許さなかったのだ。
「ずっと、くすぐられるのは……」
ラビリアは引っ張られた頬のせいで舌足らずになりながらも、上目遣いでアキシャの琥珀色の瞳を見つめ返し、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「やっぱり……嫌、かなー」
それは、遠回しでありながらも、確かな選択宣言だった。
その答えを聞いた瞬間、アキシャは満足げにラビリアの頬から手を離し、ニッと白い歯を見せて獰猛に笑ってみせた。
「んじゃ、決まりだな」
※※※
夕闇が完全に夜の帳へと溶け込み、交易島の拠点に設けられた寝室は、ベッドサイドに置かれたランプの温かなオレンジ色の光だけが支配する閉鎖的な空間へと変貌していた。
窓の外から聞こえていた島民たちの生活音もすっかりと途絶え、静まり返った部屋の中で微かに響くのは、布が擦れる音と、少しだけ乱れたラビリア自身の呼吸音だけだった。
アキシャは、身に纏っていたロングコートを無造作に脱ぎ捨てると、エクアルが普段使っているベッドの足元へと乱雑に放り投げた。その躊躇いのない振る舞いは……彼女の中に渦巻く隠しきれない熱と、これから始まる「お仕置き」への本気度が痛いほどに伝わってくるようで、ラビリアの胸の奥で心臓が警鐘を鳴らすようにドクンと跳ねた。
そして、ラビリア自身の姿もまた、日常のそれとは決定的に異なっていた。
彼女が普段から愛用している、清潔感のある白いブラウスは既にアキシャの手によって手際よく剥ぎ取られ、床のどこかへと追いやられている。
今、彼女の華奢な上半身を覆っているのは、ラビリア自身が密かにこだわりを持って手作りした、大人びた艶やかな黒を基調とするブラジャーのみであった。サイドに細いリボンがあしらわれ、精緻なレースが縁を彩るその下着は、彼女の透き通るような白い肌の美しさを残酷なほどに際立たせている。下半身はいつもの灰色のミニスカートを穿いたままであったが、上半身がほぼ無防備に晒されているという事実が、ランプの薄暗い光の中でも否応なしに羞恥心を煽り立てていた。
さらにラビリアの心を不安にさせているのは、彼女の両手首の拘束だった。先程まで身体の前で縛られていたはずの布製のロープは、いつの間にか寝室の天井付近に渡された丈夫な梁から吊り下げられる形へと変更されていた。
決して痛みを伴うほどきつく縛られているわけではない。ベッドの上に問題なく座れるし、腕の関節が悲鳴を上げるような無理な張力もかかってはいない。だが、両腕を頭上に固定され、完全に自由を奪われているという状況そのものが、逃げ場のない無力感をラビリアの身体に強制的に刷り込んでくるのだ。
少し身じろぎをするだけで、手首に巻かれたロープがギシッと軋む音を立て、肩から胸にかけての筋肉が不自然に引き伸ばされる。そのたびに、黒いレースに包まれた二つの膨らみが強調されるように持ち上がり、否が応でも自分の身体がどのような状態にあるのかを自覚させられた。
ラビリアは、頭上に伸びた自分の腕と、それを縛るロープを恨めしそうに見上げると、潤んだピンク色の瞳をアキシャへと向けた。
「これは……外してくれないのー……?」
少しだけ不安そうな、それでいてどこか甘えるような声色で尋ねてみる。エクアルのように縛られた状態で責められることに特別な喜びを見出すような嗜好は、ラビリアにはない。むしろ、状況をコントロールできないことへの根源的な恐怖が、彼女の背筋を冷たく撫でていた。
しかし、アキシャはそんなラビリアの懇願を、獰猛な笑みと共に一刀両断する。
「お仕置きから、逃げられないようにな!」
その声には、一切の妥協を許さないという断固たる意志が込められていた。アキシャの琥珀色の瞳は、ぼんやりと部屋を照らすランプの光を反射して肉食獣のように妖しく輝いており、これから獲物をどう調理してやろうかと品定めするような熱を帯びている。
ラビリアは観念したように小さくため息をつき、頭上の白いウサ耳を力なくへにゃっと倒した。逃げ場はどこにもない。自らの好奇心に負けてこの選択肢を選んだ以上、これから訪れる未知の快感と羞恥の波を、縛られたまま全身で受け止めるしかないのだろう。
アキシャは、手にした美しいガラス細工の砂時計をゆっくりと逆さにすると、ベッドサイドの小さなテーブルの上へと優しく置いた。
サラサラと、極めて微かな音を立てて、深い紺色に金銀の粒子が混ざり合った星空のような砂が、くびれを通って下のガラス球へと落ち始める。その幻想的な煌めきは、これから始まる特別な時間を静かに刻み始める。
「それじゃ……始めるか」
少しだけ緊張を含んだ、しかし確かな期待に震える声でそう宣言すると、アキシャはゆっくりとした動作でベッドの上へと上がってきた。
布団が重みで沈み込み、ギシッと音が鳴る。その振動がラビリアの足元から伝わり、全身の産毛が総毛立つような感覚を覚えた。アキシャがどこから触れてくるのか、何をされるのか。視覚以外の感覚が極限まで研ぎ澄まされ、空気が肌に触れる微かな流れさえもが過敏に感じられる。
次の瞬間、ラビリアの背後に回ったアキシャが、後ろからギュッと力強く彼女の身体を抱きしめた。
「ひゃっ……!」
いきなり敏感な場所を責め立てられると身構えていたラビリアは、予想に反した少し強引で優しい抱擁に、ピクリと身体を大きく震わせた。
背中越しに伝わってくるのは、アキシャのしなやかで健康的な身体の感触。そして、レクシエルとの死闘で負った傷を覆う、少しざらついた包帯の感触だった。だが、それ以上にラビリアの心を強く打ったのは、背中に押し当てられたアキシャの柔らかな胸の感触と、ドクンドクンと力強く脈打つ彼女の心臓の鼓動だった。
常に前線で剣を振るうアキシャの、命の熱が直接肌から流れ込んでくる。その確かな温もりに包まれると、先程まで張り詰めていたラビリアの緊張が、春の陽光を浴びた雪のように溶け出していくのが分かった。
どうしようもなく安心する。この世で最も信頼できて……背中を預けられる親友に抱かれているという事実が、拘束されている恐怖を甘い安堵へと塗り替えていく。
だが、素直にそれを認めるのは少し癪だったラビリアは、背中越しに伝わる体温を確かめながら、ちょっとからかうような声色を装って口を開いた。
「アキシャの身体、冷たいよー?」
「……うるせーな! 別に良いだろ」
すぐに返ってきたのは、普段と何ら変わらない、少し乱暴で照れ隠しを含んだアキシャの言葉だった。こういう「えっち」な行為に対して積極的な姿勢を見せているという一点を除けば、彼女はいつもの豪快で不器用なアキシャのままである。それが分かった瞬間、ラビリアの口元には自然と柔らかな微笑みが浮かんでいた。
互いの体温が混じり合い、部屋の少し冷たい空気が二人の間だけ熱を帯びていく。
静寂の中で、アキシャの呼吸が少しずつ荒くなっていくのが背中越しに伝わってくる。彼女自身も、これからの行為に対して緊張し、そして興奮しているのだろう。
ふと、アキシャの右手がラビリアの肩を滑り降り、そっと彼女の顎へと添えられた。
戦士とは思えないほど綺麗な指先が、ラビリアの滑らかな肌に触れる。そのまま優しい力でクイッと顔を横に向けさせられると、ラビリアの視界の端に、少しだけ頬を紅潮させたアキシャの横顔が映り込んだ。
有無を言わさず、アキシャはラビリアの唇に自らの唇を重ね合わせる。
「んっ……」
それは、ただ触れ合うだけの軽いものではなかった。
アキシャの熱い舌が、躊躇うことなくラビリアの唇を割り開いて侵入してくる。少し強引だけど……相手を気遣いつつも、存在を噛みしめようとする深い口付け。ラビリアもまた、吊り下げられた両腕の不自由さを忘れ、首を傾けてその熱烈なキスを迎え入れた。
ちゅ、くちゅ……と、唾液が絡み合う生々しい水音が、静かな寝室に反響する。
アキシャの舌がラビリアの口の内をゆっくりと這い回り、互いの熱を交換し合う。息継ぎの隙間すら与えないほどの濃厚な接触に、ラビリアの頭の芯がじんわりと痺れ始めた。アキシャから香る、微かな汗と石鹸の匂い、そして彼女自身が仄かに香らせる匂いが混ざり合って――
そしてそれは、ラビリアの鼻腔をくすぐり、理性をじっくりと甘く溶かしていく。
アキシャの積極的で貪るようなキスを受け入れているうちに、ラビリアの心の中にあった僅かな抵抗感すらも完全に消え去り、心から大切と思っている相手に求められているという至上の幸福感だけが身体を満たしていった。
やがて、長いキスの果てに互いの唇が名残惜しそうに離れると、二人の間に銀色の糸が引き、すぐにぷつりと切れて消えた。
「はぁ……っ、ん……」
ラビリアの顔はすっかりと熱を帯び、ピンク色の瞳はとろけたように潤んでいた。口元をだらしなく緩ませ、キスの余韻に浸りながらぼんやりと虚空を見つめる。
頭上の耳も力が抜け、だらりと垂れ下がっていた。思考がぼやけ、ただ背中から伝わるアキシャの体温だけが世界の全てのように感じられる。
そんな心地よい微睡みの中、ラビリアはふと、自身の胸元が不自然に涼しくなっていることに気がついた。
「あっ……」
小さく声が漏れる。視線を落とすと、いつの間にかアキシャの器用な指先によって、黒いブラジャーのカップ部分が上側へとずり上げられていた。
精緻なレースの布地から無防備にこぼれ落ちた、白い二つの膨らみ。その先端にある柔らかな突起が、寝室の少し冷たい夜気に晒され、微かに身震いするように引き締まっている。吊り上げられた腕のせいで胸が張り出していることもあり、その無防備な姿はあまりにも扇情的だった。
自分が徐々に脱がされつつあるという事実に、ラビリアの鼓動が再び早鐘を打ち始める。
アキシャは、ラビリアの耳元で低く甘い声で囁いた。
「ちょっとこれ、借りるぞー」
アキシャの手がベッドサイドのテーブルへと伸び、そこにあった小さなガラスの小瓶を手に取った。それは、少し前にラビリア自身がエクアルを責め立てる際に使用した、あの粘度の高いローションの入った小瓶だった。
「えー、いきなりー……?」
ラビリアは頬をさらに赤く染めながら、少し困惑したような声を上げた。
こういった道具を使われるのはもっと先だと思っていたし、何より自分の用意したもので自分が責められるという構図が、妙な羞恥心を掻き立てる。
しかし、その声色には本気の拒絶はなく、むしろこれから何が起こるのかという期待が色濃く混じっていた。満更ではない自分の本心に、ラビリア自身も少しだけ呆れてしまう。
アキシャは小瓶の蓋を開けると、とろりとした透明な液体を自らの指先にたっぷりと取った。そして、背後から腕を回し、ラビリアの無防備に晒された白い胸へと、その液体をゆっくりと塗り広げていった。
「ひゃっ……!」
生温かい肌に、冷たいローションが触れた瞬間、ラビリアの身体がビクンと大きく跳ねた。
粘り気のある液体が、アキシャの指先によって胸の柔らかな曲面へと薄く引き伸ばされていく。ヌルリとした感触が肌を滑り、摩擦をなくしていく。
「どうだ? 冷たくないか?」
アキシャが気遣うように耳元で尋ねる。その吐息が背筋に甘い電流を走らせた。
ラビリアはコクリと小さく頷いた。ローションの冷たさは最初だけで、アキシャの指の体温と自身の肌の熱によって、すぐに心地よい温かさへと変わっていく。
自身の鼓動が次第に限界を超えて早くなっていくのを感じながら、ラビリアはできるだけ全身の力を抜き、背後のアキシャへと体重を預けた。普段からマッサージや悪戯などで責め側に回ることが多いラビリアにとって、こうして受け身の状態で他者に全身を委ねる経験は少なく、心の中ではとてつもなく緊張していた。
しかし……その緊張を悟られないように、あえて脱力してアキシャにもたれかかる。
アキシャは、ローションで滑りの良くなったラビリアの胸を、両手で包み込むようにして優しく揉み始めた。
手のひら全体を使い、胸の柔らかな脂肪を外側から内側へと寄せるように撫で回す。指先が鎖骨の下から胸の付け根へと滑り、円を描くように滑らかに動く。
その手つきには、かつて初めて二人が肌を重ね合わせた時に見せたような、あの不器用なぎこちなさは微塵も存在しなかった。まるで長年この身体を触り慣れているかのように、ラビリアがどこを触られれば安心し、どこを撫でられれば心地よいのかを熟知しているような、自然な手練れ感があった。
ラビリアは、そのあまりにも洗練された指の動きに内心で不思議に思いつつも、そんな疑問はどうでも良くなるほどの深いリラックス状態へと沈み込んでいった。アキシャが自分の身体を大切に、壊れ物を扱うように愛撫してくれているという事実が、何よりも嬉しかったのだ。
「お前……脱力しすぎだろ」
ふと、アキシャがラビリアの肩に自分の顎を乗せ、少しだけムッとしたような、拗ねたような声を出した。
一方でラビリアも、肩に乗せられたアキシャの顎の重みを感じながら、恥ずかしさを隠すようにふふっと微笑んだ。
「気持ちいい証拠だよー」
そう言って、わざとらしく身体をすり寄せる。
アキシャは「お仕置き……なんだけどなぁ」と不満げに呟きながらも、その手は止めることなく、むしろより一層の熱を込めてラビリアの胸を揉みしだき続けた。
胸の付け根のラインを親指でなぞり、時には手のひら全体で下から支えるように包み込んで、重さを確かめるように持ち上げる。ローションの水分が肌に馴染み、くちゅ……ちゅる……という水音が静かな寝室に微かに響き始める。
アキシャの温かく、そして力強くて優しい手つきに、ラビリアの身体の奥底で、確かな性的な疼きが生まれ始めていた。
胸を揉まれるたびに、下腹部がキュンと締め付けられ、熱い血が巡っていくのが分かる。吊り上げられた腕のせいで逃げ場のない身体は、与えられる快感を全てスポンジのように吸収していく。
「んっ……あ……」
無意識のうちに、ラビリアの口から甘い吐息が漏れ始めた。
だが、アキシャの愛撫はあくまで周囲の柔らかな肉を揉みほぐしているだけ……それでもここまでとろけてしまっているのはきっと、ラビリア自身の感情が昂ぶっている証拠なのだろう。
暫くすると、アキシャの指先が、胸の膨らみの頂点に近づき、乳輪の辺りを触れ始めた。
しかし、意図的かは分からないが、アキシャは一番敏感な突起だけは、しっかりと避けるようにして指を動かしていた。乳輪の外周を指の腹でゆっくりと円を描くようになぞり、時折トントンと周囲の肌を軽く突いてみせる。
先端が外気に晒されて硬く引き締まり、今か今かと触れられるのを待ちわびているというのに、アキシャの指はそこを掠めすらしない。
その焦れったい愛撫に、ラビリアの頭の中にもどかしさが募り始める。
(アキシャのくせに……変なところだけ器用なんだから……)
ラビリアは目を閉じ、呼吸を整えようとするが、寸止めされ続ける快感が逆に神経を過敏にさせていく。
自分が仕掛ける側であれば楽しいだろうが、いざこうして焦らされる側となると、これほどまでに理性を削られるものなのか。だが、ここで「そこじゃない」と求めてしまえば、アキシャの思惑通りになってしまうことになる。
ラビリアの中に、妙な対抗心が燃え上がった。焦らしに屈して堪るかという意地が、彼女の唇を固く結ばせる。
「気持ちいい……よな?」
耳元で、アキシャが若干自信なさげな声で尋ねてきた。その声色から察するに……彼女もどうすれば良いのか、あまり分かっていないのだろうか? それとも……ラビリアを油断させるための罠なのか。
ラビリアは、内心で激しく葛藤しながらも、震えそうになる声を必死に抑え込んで答えた。
「うん、大丈夫ー……」
平然を装って答えたつもりだったが、その声は微かに上擦っていた。
縛られた両腕の先で指がギュッと握り込まれ、ベッドの上で投げ出されている両脚が、もじもじと落ち着きなく擦り合わせられる。身体の芯に溜まった熱の行き場がなくなり、下着の中がじわりと湿り気を帯び始めているのが自分でも分かった。
アキシャが単にこういう繊細な行為に慣れていないだけで、偶然焦らされているだけかもしれない。そんな僅かな可能性に賭け、ラビリアは必死に快感の波をやり過ごそうと耐え続けた。
「じゃあ……こういうのは、どうだ?」
アキシャの声が、少しだけ悪戯っぽい響きを帯びた。
次の瞬間、乳輪の周囲をなぞっていたアキシャの指が動きを変えた。指の腹ではなく、爪の先をほんの少しだけ立てて、乳輪の敏感な皮膚をカリカリと軽く引っ掻くように刺激し始めたのだ。
「ひゃぅっ……!」
予想外の鋭い刺激に、ラビリアの口から可愛らしい悲鳴が飛び出した。
痛くはない。だが、爪先が繊細な皮膚を擦る感触は、指の腹で撫でられるのとは全く異なる、鋭利で直接的な快感を脳髄に叩き込んできた。ゾクゾクとするような痺れが胸から背筋へと走り、腰がビクンと跳ねる。
確かに気持ちいい。頭の芯が溶けそうになるほど気持ちいいのだが、それでもアキシャの爪先は、中央で硬く尖りきっている乳首だけは、見事に避けて周囲を蹂躙し続けるのだ。
そこじゃない。一番触ってほしいのはそこじゃないのに。
ラビリアは目をギュッと固く閉じ、唇を噛み締めて内心で激しく突っ込んだ。
間違いない。アキシャは絶対に分かっていてやっている。自分がどこを触られたがっているのかを知った上で、あえて外堀だけを埋めて、自分から懇願するのを待っているのだ。
戦闘においては一直線に突っ込んでいくアキシャが、こんな絡め手を使ってくるなんて。
ラビリアの身体が、快感ともどかしさでプルプルと小刻みに震え始める。拘束された腕が軋み、息はすっかりと荒くなっていた。
「プルプルしているけど……大丈夫か?」
背後から、アキシャの心配そうな、それでいてどこか優越感を含んだ声が降ってくる。
その声を聞いた瞬間、ラビリアの中で張り詰めていた意地の糸が、ぷつりと音を立てて切れた。限界まで膨らみきった風船に針を刺されたように、隠し通そうとしていた本音が、とろけた思考の隙間から溢れ出してしまう。
「もうちょっと……激しい方が、好き、かもー……」
涙目になりながら、声色を震わせて絞り出したその言葉は、事実上の敗北宣言だった。もっと本命を責めてほしいという、遠回しな懇願。
しかし、アキシャはラビリアの言葉を文字通りに受け取ったのか、あるいはさらに焦らすつもりなのか、意地悪な行動に出た。
「こんな感じか?」
アキシャは、爪先で乳輪をカリカリと引っ掻く速度を、一気に跳ね上げたのだ。
チリチリとした鋭い快感が、局所的に、そして連続して襲いかかってくる。ローションの滑りも手伝って、その刺激は滑らかでありながらも強烈だった。
だが、当然ながら最も敏感な中心部分は完全に放置されたままである。周囲だけが異常なまでに過敏になり、中心の空虚さが耐え難い飢餓感となってラビリアを狂わせていく。
「あぁっ……! んっ、くぅ……っ!」
ラビリアの口から、もはや隠しきれない嬌声が連続して漏れ出す。
拘束された手首を引っ張ろうとして力が入り、僅かに腰が浮きそうになる。快感の波に翻弄され、頭の中がチカチカと白く明滅していく。
「そうじゃ……なくて……っ!」
焦れったさに耐えきれなくなり、ラビリアはついに涙声で直接的な本音を叫んでしまった。
もっと真ん中を、一番硬くなっているところを触ってほしい。その思いが、プライドを完全に打ち砕いた。
「あー、もしかして……」
ラビリアの悲痛な叫びを聞いたアキシャは、いつも通りの落ち着いた声色のまま、ふと指の動きをピタリと止めた。
急に刺激が消え、ラビリアが安堵と物足りなさで息を吸い込んだ、その刹那。
アキシャは間髪を容れずに、今まで放置し続けてきた両方の乳首の先端を、親指と人差し指で挟み込み、キュッと強く摘み上げたのだ。
「ふにゃーっ!?」
溜まりに溜まっていた焦燥感が限界に達していたところに、急所への痛恨撃。明らかな不意打ちに、ラビリアの口から甲高い悲鳴が弾け飛んだ。
それは、普段アキシャに頬をむにーっと引っ張られた時に出す情けない声とは似て非なるもの。その裏に含まれる熱量と快感の度合いは次元が違っていた。
脳天を突き抜けるような強烈な電流が全身を駆け巡り、目の前に火花が散る。摘み上げられた乳首から放射状に広がる快楽の波が、ラビリアの理性を消し飛ばさんとしていた。
「こういうのが、良かったかー?」
背後から、アキシャのとぼけたような声が聞こえる。
ラビリアは快感の余韻でビクビクと痙攣しながら、若干涙目になりつつ、背後にいるはずのアキシャに向けて精一杯のジト目を向けようとした。だが、背後から抱きしめられている状態でアキシャの顔は見えず、その睨みは虚空を彷徨うだけだった。
アキシャの指先は、摘んだ乳首を離すことなく、今度はコリコリと転がすようにして執拗に責め立て始めた。
今まで極限まで焦らされただけあって、乳首の感度は異常なまでに跳ね上がっていた。アキシャの少し荒れた指先が擦れるたびに、火傷しそうなほどの熱い快感が脳髄を焦がしていく。
自分で自分の身体を慰めるのとは全く違う。他者の、それも大好きな親友の意思によってもたらされる予測不能な刺激は、ラビリアの身体を底なしの泥沼へと引きずり込んでいく。
意図に反して、ラビリアの口からはだらしない、甘ったるい声がとめどなく溢れ出し続けた。
「あ、あぁっ……! アキシャ……すごいっ、それぇ……!」
責められるたびに、身体の芯から力が抜け落ちていく。吊り下げられた腕がなければ、そのままベッドの海へと溶けて沈んでしまいそうなほどの脱力感。下着の中はすでに自身の蜜でぐっしょりと濡れそぼっているだろう。
ラビリアが完全に快感の波に溺れ、呼吸も絶え絶えになっていた頃。ふと、アキシャは乳首を責めていた指を止め、ラビリアの背中から身体を離した。
急な温度の喪失にラビリアがぼんやりと目を開けると、ベッドの上を移動してきたアキシャが、ラビリアの正面へと回り込んでくるのが見えた。
乱れた自分の姿を正面から見られるという羞恥心に、ラビリアは反射的に顔を背けそうになった。だが、視界に映ったアキシャの顔を見て、その動きはピタリと止まった。
アキシャの顔や耳もまた……茹で上がったように真っ赤に染まっていたのだ。
そして、獲物を貪ろうとするような先程までの不敵な笑みは消え去り、そこには年相応の少女らしい、恥じらいとはにかみが混ざり合った、不器用な表情があった。
「……やっぱり、私には向いてねぇよ、こういうの……」
アキシャは、自分の顔の熱さを誤魔化すように片手で額を抑えながら、自嘲気味に呟いた。
常に豪快で、ガサツで、無鉄砲な戦士という「仮面」を被り続けてきた彼女。エクアルやラビリアを守るために「最強の姉」であり続けようとするその強さの裏で、性的なことへの欲求や興味に素直になること自体に、彼女は全く慣れていないのだ。
無理をして余裕ぶって、手練れのように振る舞ってみたものの、限界が来てボロが出てしまった。そんな自分自身への呆れと照れ隠しが、その言葉には詰まっていた。
ラビリアは、そんなアキシャの不器用すぎる告白を聞いて、胸の奥がきゅっと締め付けられるような愛おしさを覚えた。
アキシャは、少しだけ潤んだ琥珀色の瞳をラビリアへと向けると、絞り出すように言葉を続けた。
「それでも……偶にはこうやって『素直』になっても良いのかなって……思ったんだよな」
顔を真っ赤に紅潮させたまま、アキシャは両腕を広げ、今度は正面からラビリアの身体をギューッと力強く抱きしめた。
胸と胸が押し付けられ、ローションの滑りと相まって密着する。アキシャの激しい心音が、ラビリアの心臓に直接響いてくる。その抱擁には、技巧も焦らしもない。ただ純粋な愛情と、不器用な情熱だけが込められていた。
ラビリアは、吊り下げられた腕のせいで抱き返すことはできなかったが、アキシャの背中に顔を埋め、その力強い温もりを全身で受け止めた。
「そうだねー。確かにアキシャらしくないけど…………そういうアキシャも、私は嫌いじゃないよー?」
ラビリアの口から、心からの本音がこぼれ落ちる。
いつも強がっている親友が、自分の前でだけ見せてくれる弱さと素直さ。それが何よりも嬉しくて、愛おしかった。
暫くの間、二人は言葉を交わすことなく、ただ静かに互いの体温と鼓動を確かめ合っていた。部屋の中には、ランプの光と、二人の落ち着きを取り戻しつつある呼吸音だけが満ちている。
だが、このまま甘い雰囲気で終わらせるラビリアではなかった。
十分にアキシャの温もりを堪能したラビリアは、少しだけ目を細め、ピンク色の瞳に悪戯っぽい光を宿した。
彼女は、自分を抱きしめているアキシャの肩越しに顔を少しだけ動かし、彼女のウサ耳の付け根――かつて自分が発見した、アキシャの最大の弱点へと唇を近づけた。
そして、ピンと張った白い耳の根元に向けて、ふーっと意図的に温かい息を吹きかけたのだ。
「ひゃうっ!?」
その瞬間、静寂の寝室にアキシャの裏返った悲鳴が響き渡った。
最も敏感な急所への不意打ちの刺激に、アキシャの身体はビクンと大きく跳ね上がり、反射的にラビリアから飛び退いてベッドの上を後ずさった。
耳を両手で必死に抑え込みながら、顔を真っ赤にしてラビリアを睨みつける。
「お前、やりやがったな……?」
アキシャの琥珀色の瞳に、羞恥と怒りが混ざり合った炎が灯る。せっかくの甘い雰囲気をぶち壊されたことへの抗議と、反撃されたことへの悔しさが滲み出ていた。
ラビリアは、拘束されたままの状態で、ジト目を向けながらべーっと少しだけ舌を出してみせた。
「相変わらずだねー。隙だらけだよー?」
完全に小悪魔の顔で煽り立てるラビリア。
アキシャはギリッと歯を食いしばり、獰猛な笑みを再び顔に貼り付けた。
「んなことやるなら、この後手加減しねぇからな……?」
売り言葉に買い言葉。アキシャも本気でやり返す気満々で、再びラビリアへと歩み寄ろうとする。
ラビリアはさらなる煽りの言葉を口にしようとしたが、ふと、アキシャの背後、ベッドサイドのテーブルに置かれた砂時計へと視線が向かい――ギョッと息を呑んだ。
てっきり、先程までの濃密な時間で、砂はもう半分くらいは落ちているだろうと勝手に思い込んでいたのだ。
しかし、ランプの光に照らされて星空のように美しく煌めくその砂は、半分どころか……上のガラス球にたっぷりと残ったままで、下の球には五分の一も落ちていなかったのだ。
「えっ……ちょっと待って、この砂時計長くない!?」
ラビリアの口から、素の驚きの声が飛び出した。
アキシャは足を止め、振り返って砂時計をちらりと見やると、頭をポリポリと掻きながら答えた。
「ああ、これか? なんでも、星空の様にゆっくりと動く感じを表現したかったらしいぞ。あの可愛いガキが夜の星々を見ながら……頑張って作ったんだってな」
その事実を知らされ、ラビリアの顔から再びスッと血の気が引いていく。
あの濃密な焦らしと快感の時間が、まだ五分の一も経過していないというのか。
「もしかして……終わるまでずっと、このまま縛られたまま……?」
半笑い状態のラビリアが震える声で尋ねると、アキシャは悪魔のように満面の笑みを浮かべ、コクコクと深く頷いてみせた。
そして、アキシャはベッドの上に立ちふさがり、逃げ場のないラビリアを見下ろしながら、ドスの効いた声で言い放った。
「んじゃ、ここからが本番だな」
その死刑宣告にも等しい言葉を聞き、ラビリアは頭上のウサ耳を完全にぺたんと伏せさせた。
これからの途方もない時間、あの素直で容赦のない親友の手によって、自分がどれほどまでに理性を溶かされ、快感の沼へと沈められていくのか。
(これは流石に……まずい、かもー……)
拘束された両腕が微かに震えるのを感じながら、ラビリアは迫り来る甘い絶望の予感に、ただ目をギュッと固く閉じることしかできなかったのだった。