ゾンビ世界で拠点を作って女の子ゾンビとイチャイチャするお話 作:フレキシブルコーギー
「――なんだ!?」
カケルは、反射的に身構えた。
爆発音。それも、かなり近い。モールの外、おそらく駐車場の方向から聞こえてきた。何かが爆発したのだ。
ユイも、バットを握り直し、警戒態勢に入った。
「……まずいな」
爆発音の後には――
「ギャアアアアッ!」
「グルルルルッ!」
複数のゾンビの呻き声が聞こえ始めた。
爆発音に引き寄せられたのだろう。ゾンビたちが、モールへと集まってきている。
「くそっ……」
カケルは、窓へと駆け寄った。
「取り敢えず、何が起きたのか見るしかない……!」
もしかしたら、生存者が戦っているのかもしれない。あるいは、何か別の脅威が現れたのか。カケルは、慎重に窓の隙間から外を覗き込んだ。
そして――その光景を目にした瞬間、カケルは息を呑んだ。
「!?」
モールの駐車場に、異様な存在が立っていた。
それは、男のゾンビだった。
だが、普通のゾンビとは明らかに違う。身長は180cmほど。痩せぎすの体型で、黒いスーツを完璧に着こなしている。
そして、頭には――シルクハットが被られていた。
顔は腐敗が進み、頬の肉が一部剥がれ落ちている。だが、その瞳には、明確な知性の光が宿っていた。
他のゾンビのような虚ろさはない。冷徹で、計算高く、そして――圧倒的な殺意を放っている。
──カケルの鑑定能力が、自動的に発動した。
【異形ゾンビのステータス】
基本情報
名前: 不明
称号: 爆発紳士
派閥: 腐り王女派
累計殺害人数: 2792人
概要: 腐り王女派閥の幹部。特殊能力『爆破操作』を持つ。知性と理性を保持した上位種ゾンビ。人間だけでなく敵対する派閥のゾンビも無慈悲に殺戮する。極めて危険。
「な、なんだ……これは……」
カケルは、表示された情報に戦慄した。
見たこともないステータス。称号、派閥、殺害人数――そして、『上位種ゾンビ』という言葉。
カケルの鑑定能力が、今まで見たことのない情報を提示している。
「なんなんだ、あいつは……」
窓の外では、爆発紳士が悠然と駐車場を歩いていた。
その周囲には、複数のゾンビが彷徨っている。普通のゾンビたちだ。だが――爆発紳士は、それらに目もくれず、ただ手を振った。
その瞬間――
ドォンッ!と、ゾンビの一体が内側から爆発した。
「っ!?」
血と肉片が、四方八方に飛び散る。
爆発したゾンビは、跡形もなく消し飛んだ。爆発紳士は、何の感情も浮かべず、次のゾンビへと手を向けた。
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
次々と、ゾンビたちが爆発していく。
風船を潰すかのように、簡単に。爆発紳士の周囲には、血の海と肉片の山が広がっていく。
「なんで……ゾンビが、ゾンビを殺してるんだ……?」
カケルの理解を超えた光景だった。
ゾンビは、人間を襲う存在だ。それが常識だった。だが、目の前の爆発紳士は、同じゾンビを殺している。
しかも、何の躊躇もなく。まるで、邪魔な虫を潰すかのように。
「派閥……?腐り王女派……?」
カケルは、鑑定で表示された情報を反芻した。
派閥。それは、ゾンビたちが組織化されているということを意味する。『腐り王女派』という名前から推測すると、その頂点には『腐り王女』と呼ばれる存在がいるのだろう。
そして、この爆発紳士は、その派閥の幹部。
「まさか……ゾンビの世界にも、勢力争いがあるのか……?」
カケルの背筋に、冷たい汗が流れた。
もしそうだとしたら、この世界はカケルが思っていたよりも遥かに複雑で、遥かに危険だ。
ただ生き延びるだけではなく、ゾンビたちの派閥争いに巻き込まれる可能性もある。
「くそ……」
そして、爆発紳士が動きを止めた。
彼は、ゆっくりとモールの方を向いた。
その視線が窓の方へと向けられる。
「――っ!」
カケルは、反射的に身を引いた。
見られた。いや、もしかしたらまだ気づかれていないかもしれない。だが、このままここにいるのは危険だ。
ユイがカケルの袖を引いた。
彼女も危険を察知しているようだ。早く逃げよう、と訴えかけているかのように。
「……」
♢ ♢ ♢
【現在の状況】
現在地: モール内・(衣料品店)窓際
拠点: 郊外の一軒家(監視カメラ設置済み、簡易シャワー室完成)
お嫁さんゾンビ: 0人
保有物資: 大幅に増加(医薬品多数、食料品多数、水多数、衛生用品多数)
同行者: 元セーラー服の少女ゾンビ・ユイ(愛情度★★★☆☆、武器:改良型バット、服装:黒パーカー+グレースウェットパンツ+スニーカー)
状況: モール駐車場に『爆発紳士』が出現。ゾンビを殺戮している。カケルの存在に気づきかけている
クラフトポイント: 130pt(残り)
時刻: 朝
♢ ♢ ♢
カケルは、窓の外の光景を凝視した。
爆発紳士の周囲に、大量のゾンビが群がっていく。
駐車場から、道路から、建物の陰から――数十体、いや、数百体のゾンビたちが、爆発紳士へと殺到していく。凄まじい数だ。普通なら、圧倒されるはずだった。
だが、爆発紳士は動じなかった。
彼は、ゆっくりと右手を上げた。
そして――指を、ぱちんと鳴らした。
パチンッ
その瞬間――駐車場全体が、爆発に包まれた。
無数の爆発が、連鎖的に発生する。ゾンビたちが次々と内側から弾け飛んでいく。
血と肉片が、噴水のように宙を舞う。轟音が、空気を震わせ、モール全体に響き渡る。
そして――数秒後、静寂が訪れた。
駐車場には、もはや一体のゾンビも残っていなかった。
血の海と、無数の肉片だけが、そこに広がっていた。数百体のゾンビが、たった一度の指鳴らしで全滅したのだ。
「……嘘だろ」
カケルは、言葉を失った。
なんという力だ。
自分たちは、ゾンビ一体を倒すのにも苦労している。命がけの戦いを繰り返し、ようやく生き延びている。
それなのに、あのゾンビは――指を鳴らしただけで、数百体を一瞬で殺した。
「逃げるぞ、ユイ!」
カケルはもはや躊躇しなかった。
ユイの手を掴み、店から飛び出す。モールの一階へと駆け下り、出口へと向かう。周囲では、爆発音に引き寄せられたゾンビたちが徘徊し始めていた。
「邪魔だ……!」
カケルは、牛刀を抜き、迫ってくるゾンビの首を斬りつけた。
黒い血が飛び散り、ゾンビが崩れ落ちる。だが、すぐに次のゾンビが迫ってくる。
「っ、ユイ!」
「……ぁ!」
ユイが、改良型バットを振り抜いた。
バキィッ――!
釘の付いたバットが、ゾンビの頭部を叩き潰す。
軽量化された素材のおかげで、ユイの華奢な腕でも十分な威力が出ている。一撃でゾンビの頭蓋が砕け、脳が飛び散る。
「よし、その調子だ!」
二人は、協力してゾンビを蹴散らしながら、出口へと向かった。
カケルが前方を切り開き、ユイが後方を守る。息の合った連携。何度も共に戦ってきた成果だ。
やがて、出口が見えてきた。
「もうすぐだ……!」
カケルは、最後のゾンビを斬り伏せ、出口へと飛び出した。
ユイも、その後に続く。二人は、モールの外へと脱出した。
朝の冷たい空気が、肌を刺す。
自由だ。逃げ切った――
だが。
「……」
カケルの足が、止まった。
目の前に、誰かが立っていた。
黒いスーツ。シルクハット。腐敗した顔。知性を宿した瞳。
――爆発紳士が、無言で立ちふさがっていた。
「っ……!」
カケルの背筋に、冷たい汗が流れた。
いつの間に。どうやって。そんな疑問は、意味をなさなかった。目の前の現実だけが、圧倒的な恐怖としてカケルを襲う。
爆発紳士は、カケルとユイをじっと見つめていた。
その瞳には、何の感情も浮かんでいない。ただ、冷徹に――獲物を観察するかのように。
「……」
沈黙が、流れた。
カケルは、牛刀を握る手に力を込めた。
だが、それが何の意味も持たないことは分かっていた。指を鳴らすだけで数百体を殺せる存在に、この牛刀が通用するはずがない。
ユイも、バットを構えている。
だが、その身体は震えていた。本能が、危険を察知しているのだ。
そして、爆発紳士が――口を開いた。
「■■■■■■■……?」
掠れた、低い声だった。