ゾンビ世界で拠点を作って女の子ゾンビとイチャイチャするお話 作:フレキシブルコーギー
上位種との遭遇という緊張を乗り越え、カケルとユイは目的地のデパートにたどり着いた。
ガラスが割れ、壁は蔦に覆われた巨大な建物。その一階の隅にある地下食品街へと続くエスカレーターの入り口は、不穏な空気を漂わせていた。
「なんだ、これは」
エスカレーターは停止しており、その周辺には乾燥して黒ずんだ肉片がそこかしこに転がっている。人間のものか、動物のものか、判別はつかない。
そして、壁や天井の隅には巨大な蜘蛛が巣を張ったかのように、白く粘着質の糸のようなものが張り巡らされていた。
「蜘蛛の巣……? まあ、打ち捨てられてから結構時間が経ったのかも…」
カケルはそう自分に言い聞かせたが、本能が警鐘を鳴らしていた。これはただの蜘蛛の巣ではない。もっとおぞましい何かの痕跡だ。
ライフルを構え、カケルは先に進む。ユイもエンジェルストライクを握りしめ、背後を警戒している。
停止したエスカレーターを慎重に下り、広大なデパ地下のフロアに足を踏み入れた。
薄暗い。
非常灯だけがかろうじて点灯しているが、その光は広大な空間のほんの一部しか照らしていない。
高級な総菜を並べていたであろうショーケースは空っぽで、床には商品だったものの残骸が散らばっている。
だが、おかしい。
「ゾンビが、いない」
これだけ広い地下空間だ。パンデミック発生時、多くの人々がここに逃げ込み、そしてゾンビと化したはずだ。
だが、一体も見当たらない。物音一つせず、不気味な静寂がフロアを支配していた。
「まあいい、とりあえず食材を探そう!」
カケルは一抹の不安を振り払い、目的を思い出した。
二人はバックパックを背負い直し、缶詰や保存食が置かれているであろう乾物コーナーを目指して、暗いデパ地下の奥へと探索を開始した。
カケルとユイは、慎重に暗い地下食品街を探索していった。
そして――
「……すごい」
カケルは、目を見張った。
乾物コーナーの一角に、手付かずで残されていた大量の食料品があったのだ。高級な瓶詰めの缶詰、真空パックされた和牛、賞味期限が長いレトルト食品、輸入物の高級チーズやワイン。
どれも、略奪を免れた宝の山だった。
「これだけあれば、暫くは贅沢できるな!高級なものも沢山ある!」
カケルとユイは、次々と食料をバックパックに詰め込んでいった。
缶詰、レトルト食品、乾燥パスタ、オリーブオイル――生活を大きく豊かにしてくれる品々だ。
だが、疑問が頭をよぎる。
「……どうして、こんなに食料が残っているんだろう。略奪されてもおかしくないのにな」
この場所は、デパートの地下。人々が食料を求めて略奪するはずの場所だ。
なのに、まるで誰も立ち入っていないかのように物資が手付かずで残っている。
その時だった。
「……ぁっ!!!!」
ユイが、何か声をあげた。
その声には、警告と恐怖が混じっていた。だが遅かった。
「!?」
カケルの足首に何かがぴたりと絡みついた。
冷たくて、ねっとりとして信じられないほど強靭な糸。鋼鉄のワイヤーのように、カケルの足首を締め上げた。
「なんだ!?」
次の瞬間、カケルの身体は地面から宙へと浮いた。
そして、ものすごい勢いで奥の部屋へと引きずり込まれていく!
バックパックが落ち、ライフルが手から離れる。
カケルは、必死に床をつかもうとするが、速度はあまりにも速い。周囲の景色が、ぼやけるほどの速度で後ろへと流れていく。
「くそっ!何が……!?」
数秒後、カケルは広い部屋へと引きずり込まれた。
ずぶっ!
背中が、何かに包まれた。
柔らかく、それでいて逃れられないほど強力な何かに。
「……っ!?」
カケルは、自分の身体が巨大な蜘蛛の巣のようなものに囚われていることに気づいた。
壁一面を覆うように張られた、白く粘着質の糸。それはカケルの四肢を絡め取り動きを完全に封じている。
「なんだ……ここは……?」
カケルは、必死に身をよじろうとするが、糸はますます絡みつき、身動きが取れなくなっていく。
そして、薄暗い部屋の奥からカサ……カサカサ……と。何かが、こちらへと近づいてくる音が聞こえた。
♢ ♢ ♢
【現在の状況】
現在地: デパート地下食品街の奥の部屋
カケルの状態: 巨大な蜘蛛の巣のようなものに囚われ、動けない
ユイの状況: カケルから離れた場所にいるが、状況は不明
装備: ライフルは落とした。牛刀は腰にある。
クラフトポイント: 795pt
時刻: 午前
緊急度: 最大!正体不明の何かが近づいている!
♢ ♢ ♢
カケルは、自身を捕らえた粘着質の糸から逃れようと必死にもがいていた。だが、糸は身体に食い込み、びくともしない。
カサカサ……カサカサササ……。
薄暗い部屋の奥から、何かが這いずるような、無数の乾いた脚が床を擦るような音が聞こえてくる。
その音に導かれるように、カケルは周囲を見渡した。そして、自分の置かれた状況の悍ましさに、息を呑んだ。
「こ、これは……」
部屋の壁や天井には、カケルを捕らえているのと同じ、白く濁った蜘蛛の巣のようなものが、おびただしい数、張り巡らされている。そして、その巣には、夥しい数の「獲物」が囚われていた。
ある者は、人間だった。衣服は破れ、その身体は腹部から胸部にかけてごっそりと肉を食い荒らされている。内臓は引きずり出され、床に散らばり、黒く変色していた。その目は大きく見開かれ、絶望と恐怖の色を浮かべたまま、永遠にその表情を固定されている。
またある者は、ゾンビだった。手足が不自然な方向に折れ曲がり、頭部が潰されている。だが、それは捕らえられる前の抵抗の痕跡だろう。彼らの身体もまた、所々を鋭い何かで抉り取られ、体液を啜り尽くされたかのように、ひどく萎んでいた。
そして、最もおぞましいのは、ミイラ化した無数の死体だった。
人間もゾンビも、区別なく、全身を糸で繭のようにぐるぐる巻きにされている。その姿はまるで、巨大な白い蛹のようだ。
糸の隙間から覗く肌は、水分を完全に失って乾燥し、茶色く変色している。栄養を全て吸い尽くされ、ただの出涸らしとなって、巣の飾りとして吊るされていた。
ここは捕食者の巣。そして食糧の貯蔵庫だ。
「……!」
あまりの悍ましさに、カケルは全身を硬直させた。胃の奥から、酸っぱいものがこみ上げてくる。
だが、そのすぐにもっと強烈な戦慄が、背筋を駆け上った。
「ギ……ギギ……」
天井から、甲高い、軋むような音が聞こえた。
カケルが顔を上げると――それ、がいた。
上半身は、信じられないほど美しい女の姿だった。
長く艶やかな黒髪、透き通るように白い肌、官能的な曲線を描く裸の乳房。その顔立ちは、ぞっとするほど整っている。
だが、その下半身は──
巨大な黒々とした蜘蛛の胴体だった。
八本の鋭い剛毛に覆われた脚が、天井に張り付いている。腹部はグロテスクに膨れ上がり、不気味に脈打っていた。
上半身は絶世の美女、下半身は悪夢の怪物。
アンバランスで冒涜的な姿をした女ゾンビが天井を這いながら、ゆっくりとカケルの真上へと移動してきていた。
カケルは、天井から迫りくる冒涜的な存在を前に、全身の血が凍りつくのを感じた。
美しい女の上半身と、おぞましい蜘蛛の下半身。そのキメラは、ゆっくりと、しかし確実に、巣に囚われた獲物であるカケルの真上へと移動してくる。
その時、カケルの鑑定能力が強制的に発動した。
脳内に、直接情報が流れ込んでくる。
【中位種ゾンビのステータス】
名前: 不明
称号: 淫猥なる絡新婦
派閥: 脳吸い夫人派
累計殺害人数: 626人
概要: 中位種ゾンビ。生前の強い嫉妬心と独占欲が、パンデミックを介して歪んだ形で具現化した存在。美しい上半身で獲物(特に男性)を誘惑し、下半身の蜘蛛の能力で捕らえて巣へと引きずり込む。派閥盟主・脳吸い夫人の配下であり、獲物の肉体は自分が食べて、脳は夫人に献上している。
特殊能力
鋼鉄の糸: 粘着性と強度を自在に操れる糸を吐き出す。一度捕らえられると、人間の力で引きちぎることは不可能に近い。
溶解性の消化液: 獲物を糸で絡め取った後、体外から消化液を注入し、内部をドロドロに溶かして啜る。
麻痺毒を持つ牙: 上半身の口内にある牙には、獲物を動けなくする強力な神経毒が含まれている。
高速機動: 天井や壁を自在に這い回り、見た目に反して極めて俊敏に動く。
弱点
火: 巣も本体も、炎に対して極端に弱い。
腹部(下半身): 蜘蛛の腹部は比較的装甲が薄く、大きなダメージを与えると動きが鈍る。
「くっ……!」
──化け物。
カケルは、流れ込んできた情報を理解し、戦慄した。そう表現する以外にない。
絡新婦はカケルの真上で動きを止めると、美しい顔を近づけてきた。
陶器のように白い肌、血のように赤い唇。唇が歪み、悍ましい笑みを形作る。
そして、その白い手がカケルの身体にそっと這わされた。
巣の糸で拘束された胸、腹、そして股間。冷たい指先が肌の上をなぞる。
だが、その瞳は今までカケルが見てきた女ゾンビたちのものとは全く違っていた。
そこに宿るのは欲望でもカケルを伴侶として求めるものではない。
獲物を前にした捕食者の、冷徹な殺意と食欲の眼だった。
「俺の能力が……効いていないのか……!?」
カケルは愕然とした。
上半身の見た目は、紛れもなく「女」だ。だが、彼女たちを無条件で魅了するはずの、カケルの特殊なフェロモンが一切機能していない。
彼女はカケルを交尾の相手ではなく、「餌」として見ている。
(下位種と違って、中位種には効かないのかもしれない……!)
自分の力が万能ではないという事実。そして、その力が通用しない相手に、今絶体絶命の状況で捕らえられているという現実。
絡新婦は、カケルの絶望を嘲笑うかのように、その美しい顔をさらに近づける。
そして唇がゆっくりと開かれた。
絡新婦の美しい唇が、ゆっくりと開かれた。
た牙が二本、毒々しく光っている。神経毒を持つ牙。それがカケルの首筋へと、今まさに突き刺さろうとしていた。
「くそっ……!」
カケルは、全身の力を振り絞って糸から脱出しようとするが、びくともしない。
このままでは――
その時だった。
「あぁぁぁああああっ!!!」
部屋の入り口から、鋭い雄叫びが響き渡った。
ユイだ。
カケルを追って、この部屋までたどり着いていたのだ。彼女は、愛する者が今まさに殺されようとしている光景を目の当たりにし、理性のすべてを振り捨てて突撃してきた。
その手には、黒とピンクのエンジェルストライクが握られている。
ユイは、助走をつけて、バットを全力で横薙ぎに振り抜いた。
ガキィィィンッ!!と、金属音にも似た、衝撃音が鳴り響いた。
エンジェルストライクが、絡新婦の美しい顔面に直撃する。
「ギィィィィィッ!?」
絡新婦の身体が、横向きに吹き飛んだ。
カケルに牙を突き立てる寸前だった上半身が、壁へと激突し、蜘蛛の下半身が天井から剥がれ落ちる。
そして――
ブチッ、ブチッ、ブチチチッ!
カケルを拘束していた糸が、絡新婦の移動とともに引っ張られ、次々と千切れていく。
カケルの身体は、重力に従って地面へと落下した。
「ぐっ……!」
背中から地面に叩きつけられ、一瞬息が止まる。だが、カケルは歯を食いしばって立ち上がった。
まだ糸が身体に絡みついているが、動けないほどではない。
「ユイ……!助かった……!」
ユイは、カケルの前に立ち、エンジェルストライクを構えている。
その背中は、いつにも増して頼もしく見えた。
一方、絡新婦は――
「ギ、ギギィィィッ!」
壁に叩きつけられた場所から、ゆっくりと起き上がった。
不意打ちでダメージを負ったが、まだ戦闘能力は十分に残っているようだ。
そして赤い瞳は――食事を邪魔された怒りの炎で、燃え上がっていた。
視線はユイへと注がれている。獲物を横取りした小娘に対する、激しい敵意。
「……ギギギギ」
絡新婦は、ゆっくりと壁を這い、再び戦闘体勢に入った。
八本の脚が、床と壁を器用に捉え、いつでも攻撃できるよう身構えている。
カケルは、腰に差していた牛刀を抜いた。
ユイは、エンジェルストライクを両手で握りしめている。
絡新婦とカケル・ユイ。
三者は静かに対峙した──。