ゾンビ世界で拠点を作って女の子ゾンビとイチャイチャするお話 作:フレキシブルコーギー
カケルは荒い息を整えながら少女の瞳を見つめた。
「ありがとう」
言葉が通じるかどうかは分からない。
だが、彼は心からそう告げた。命を救われたのだ。たとえ相手が理性を失ったゾンビであっても、感謝の言葉を口にしないわけにはいかなかった。
少女は、じっとカケルを見つめている。虚ろな瞳に、かすかな光が揺れた気がした。
「まさか、ゾンビが俺を守ってくれるなんて」
カケルは呟きながら、喉元を擦った。まだヒリヒリと痛む。男ゾンビに首を絞められた痕が、赤く残っているだろう。今までも、女のゾンビたちは彼を襲わなかった。だが、それはただ「襲わない」だけ。助けてくれたことなど、一度もなかった。
「もしかして……俺の体質も、強化されてるのか……?」
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
女ゾンビを惹きつけ、彼女たちに「守られる」ような力。まるで、フェロモンのような、目に見えない何か。それが、この少女を動かしたのだろうか。
だとしたら、この能力は思っていたよりも、遥かに有用かもしれない。
だが、今はそれを考えている場合ではなかった。
バックヤードの奥から、再び呻き声が聞こえ始めている。男ゾンビの断末魔が、他の個体を呼び寄せたのだろう。
「ここは、まずい。早く出よう」
カケルは床に転がっていた段ボール箱をいくつか開け、中身を素早く確認した。
幸いなことに、未開封のミネラルウォーターのケースと、レトルトカレーのパックが見つかった。それらをバックパックに詰め込む。
「取り合えず帰るか」
コンビニを出て、カケルは息を潜めながら来た道を引き返した。
背後では、店内からゾンビたちの呻き声が響き始めている。複数だ。間に合った。もう少し遅ければ、完全に囲まれていただろう。
住宅街へ戻る道すがら、カケルはちらりと後ろを振り返った。
セーラー服の少女ゾンビは、やはりついてきていた。数メートル後ろを、彼の影のように。返り血で汚れたブラウス、乱れたスカート、栗色の髪を風に揺らしながら、歩きながらゆっくりとただひたすらにカケルを追っている。
「……なんで、ずっとついてくるんだ?」
答えは返ってこない。
ただ、少女の虚ろな瞳が、じっとカケルを捉え続けていた。
やがて、カケルは無事に拠点である郊外の一軒家へと辿り着いた。
玄関前で立ち止まり、バリケードにしていた本棚をずらして扉を開ける。安堵のため息がこぼれた。生きて帰れた。物資も手に入れた。今日は、上出来だ。
だが、家の中に入ろうとしたその時、カケルは気づいた。
「……え?」
セーラー服の少女が、玄関の前に立っていた。
彼女は、カケルが家の中に入るのを、じっと見つめている。小さな手が、おずおずと扉の縁に触れた。
「おい……まさか、ここまでついてくるつもりか?」
カケルは困惑した。
ゾンビを家の中に入れる。そんなこと、考えたこともなかった。いや、彼女は自分を助けてくれた。敵意はない。それは分かっている。
だが、ゾンビはゾンビだ。本当に、家の中に入れて大丈夫なのか?
少女は、カケルの顔を見上げた。
その瞳には、哀しげな光が宿っている。置いていかれることを、恐れているのだろうか。
「……ぁ……」
か細い声が、唇から漏れた。
カケルは、迷った。
彼女を外に置いていくか。それとも、中に入れるか。
♢ ♢ ♢
【現在の状況】
現在地: 拠点(郊外の一軒家)玄関前
拠点: 郊外の一軒家
お嫁さんゾンビ: 0人
保有物資: バックパック(缶詰×5、水×4本、カップ麺×3、ミネラルウォーター×1ケース、レトルトカレー×数個)、牛刀×1
玄関前: セーラー服の少女ゾンビ(愛情度★☆☆☆☆)
♢ ♢ ♢
カケルは、深く息を吐いた。
そして、扉を大きく開けた。
「……入れ。頼むから、暴れないでくれよ」
命を救ってくれた恩人――いや、恩ゾンビを見捨てることなど、できるはずがなかった。
少女は、カケルの言葉に反応するかのように、おぼつかない足取りで玄関の中へと入ってきた。セーラー服の裾が、床を擦る音がする。カケルは扉を閉め、再び本棚でバリケードを作った。
「とりあえず、リビングに来い」
少女を促し、カケルは廊下を抜けてリビングへと向かった。
窓から差し込む灰色の光が、部屋をぼんやりと照らしている。ソファには埃が積もり、テーブルの上には数日前に読んだ古い雑誌が置かれたままだった。
彼はバックパックを床に下ろし、中から缶詰とカップ麺を取り出した。
「腹減ったな」
今日は命がけの探索だった。空腹が、身体を蝕んでいる。カケルは手に取ったカップ麺の蓋を開け、粉末スープを振りかけた。
本来ならお湯を沸かすべきだが、ガスも電気も止まっている今、そんな贅沢は望めない。
「冷たいカップ麺……贅沢は言ってられないな」
ペットボトルの水を注ぎ、しばらく待つ。麺が水を吸い、ふやけていくのを待ちながら、カケルはソファに腰を下ろした。
疲労が、どっと押し寄せてくる。少女ゾンビは、リビングの入口に立ったまま、じっとこちらを見つめていた。
やがて、適当な時間が経ったと判断し、カケルはカップ麺を手に取った。
フォークで麺をすくい上げ、口に運ぶ。冷たい。味は薄い。だが、これでも十分だ。空腹を満たすには。
ズルズルと音を立てて、麺をすする。
その時、視線を感じた。
顔を上げると、少女ゾンビがすぐ目の前に立っていた。
いつの間にか、ソファの正面まで近づいていたのだ。虚ろな瞳が、カケルの手元――カップ麺を、じっと見つめている。
いや、違う。カケルの顔を、見ているのだ。食べる仕草を、凝視している。
「お前も、一緒に食いたいのか?」
カケルは、ふとそう尋ねた。
ゾンビが人間の食べ物を口にするかどうかは分からない。だが、彼女は自分を助けてくれた。ならば、少しくらい分けてやってもいいだろう。そんな気持ちが、自然と湧き上がってきた。
その瞬間だった。
「――ぁ……!」
少女ゾンビが、突然身を乗り出してきた。
カケルが驚く間もなく、彼女の身体が一気にソファへと倒れ込んでくる。細い腕が、カケルの肩に回され、柔らかい重みが胸板に押し付けられた。
「うわっ、ちょ――!」
カップ麺がぐらりと傾ぎ、水が少しこぼれた。
カケルは反射的に身体を後ろに引こうとしたが、ソファの背もたれが邪魔をして逃げ場がない。そして、目の前には――
少女ゾンビの顔が、すぐそこにあった。
栗色の髪が、カケルの頬に触れる。
乾いていたはずの唇が、わずかに開き、熱っぽい吐息がかかる。虚ろだった瞳が、今は潤んで、妖しい光を帯びていた。彼女の小さな胸が、カケルの胸に押し付けられ、セーラー服越しにその柔らかさが伝わってくる。
「……っ、おい、何を――」
言葉が続かなかった。
少女の顔が、さらに近づいてきたのだ。その唇が、カケルの唇へと迫る。甘酸っぱい匂い。思春期特有の、少女の体臭。それが、鼻腔をくすぐった。
カケルの心臓が、激しく脈打ち始めた。
彼女は、食べ物が欲しいのではなかった。違う。彼女が求めていたのは――