ゾンビ世界で拠点を作って女の子ゾンビとイチャイチャするお話 作:フレキシブルコーギー
「ゲヒヒヒヒヒィィィィー!!!!」
貪り食う大蛆が悍ましい雄叫びを上げた。
それは地獄の底から響いてくるような、聞く者の正気を削り取る不快な音だった。
巨大な老人の顔が、醜悪な喜びに歪む。
ズリズリズリズリズリズリズリズリッ!!!
巨大な芋虫の身体が地面を削りながら、カケルたちに向かって迫り来る。
進路上にある工場、コンテナ、鉄骨――全てのものが、まるで紙くずのように、いとも簡単に踏み潰されていく。
「くっ……!」
カケルは圧倒的な破壊力を前に、一瞬、恐怖で足がすくみそうになった。
だが、背後には守るべき二人がいる。
「戦闘開始だ!」
カケルは絶望を振り払うように叫び、ペインブリンガーを構えた。
戦闘用強化スーツが、彼の身体能力を限界まで引き上げる。
「ユイはエンジェルストライクで、奴の顔面を狙え! 絡新婦は援護と奴の足止めを!」
カケルの的確な指示が、戦場に響き渡る。
「まずは、俺が奴の注意を引きつける!」
カケルはペインブリンガーの引き金を引いた。
青い光を放つ対ゾンビ用の弾丸が雨のように、貪り食う大蛆の巨大な顔面へと降り注ぐ。
だが――
弾丸は皺だらけの皮膚に弾かれ、甲高い音を立てるだけだった。
硬質外皮。防御力は、ペインブリンガーの通常弾では貫けない。
「ゲヒ……?」
大蛆は、顔面に当たる弾丸を小石でも投げつけられたかのように鬱陶しそうに見ていた。そして虚ろな目がカケルを捉えた。
「こっちを向いたな!」
「……ぁぅ!」
ユイが動いた。
スピードブースターを起動させた彼女は弾丸のように飛び出し、大蛆に向かって一直線に突撃する。
手には、対中位種用に開発された最強の打撃武器――エンジェルストライクが握られていた。
「ぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!」
ユイは雄叫びを上げ、エンジェルストライクを大きく振りかぶる。
狙いは巨大な老人の顔面。
一方、絡新婦は巨大な工場の屋上へと駆け上がる。
彼女は口からベノムウェブで強化された毒糸を放ち、大蛆の巨体を覆い尽くすかのように糸の網を張り巡らせていく。
「ギギー!!」
シュルルルルルルルルルッ!
「ゲヒヒ?」
大蛆は絡みついてくる糸を、気にも留めない様子だ。
「ぅぁぁぁ!!!!」
ユイのエンジェルストライクが、貪り食う大蛆の巨大な顔面へと迫る。
だが一撃が叩き込まれる寸前、大蛆の醜悪な老人の顔が大きく歪んだ。
「ゲヒ……!」
だらしなく開かれた口から緑色に輝く液体が、ユイに向かって吐き出された。
腐食液噴射だ。
「……っ!」
ユイはスピードブースターを最大出力で起動させ、空中で軌道を変えて弾丸のように飛び退いた。
間一髪。
ユイは攻撃を回避することには成功したが、体勢を崩され顔面への攻撃は失敗に終わった。
そしてユイを狙った腐食液は、そのまま背後にあった小さな倉庫に着弾した。
ジュウウウウウウウウウウウウウッ!!!
鉄骨の倉庫が一瞬で溶け落ちていく。
中に隠れていた数体のゾンビは悲鳴を上げる間もなく、腐食液に飲み込まれ肉も骨すらも残さず完全に消滅した。
「なんて威力だ……!」
カケルはその光景に戦慄した。
あれに一滴でも触れれば即死は免れない。
「ギギッ!」
その時、工場の屋上に陣取っていた絡新婦が動いた。
大蛆がユイに注意を向けている一瞬の隙。
絡新婦は糸刃生成装置を起動。
ベノムウェブで強化された毒糸を、無数の鋭い刃へと変え、大蛆の巨体へと放った。
シュルシュルシュルシュルシュルッ!
狙いは硬質外皮に覆われていない、関節部。
巨大な芋虫の身体の、節と節の間。比較的柔らかい部分を糸の刃が狙う。
「グギィィィィィィィィィィィィッ!?」
糸の刃が大蛆の関節部に深く食い込み、肉を切り裂いた。
巨体が苦痛にのたうち回る。
大蛆が体勢を崩したその隙をユイは見逃さなかった。
エンジェルストライクを渾身の力で振り抜き、絡新婦が傷をつけた関節部の一つに、追撃のホームランを叩き込んだ。
鈍い破壊音と共に、大蛆の巨大な節の一つが完全に粉砕された。
「ゲヒヒヒヒヒィィィィィィィィィィィッ!!!」
大蛆がこれまでで一番の苦痛に満ちた咆哮を上げる。
巨体がバランスを崩し、大きく傾いた。
「この調子だ! 二人とも、攻撃を緩めるな!」
カケルの檄が飛ぶ。
最強の中位種の一角「貪り食う大蛆」。
その攻略の糸口が、今、確実に見えた。
──かに見えた。
グチュグチュグチュグチュ……
「っ!?再生能力か!」
カケルは信じられない光景を目にした。
粉砕されたはずの関節部が早送り映像のように、みるみるうちに再生していく。
肉が盛り上がり外皮が形成され、わずか数秒で傷は完全に塞がってしまった。
「ゲヒヒヒヒヒ……」
貪り食う大蛆の老人の顔が嘲笑うかのように歪む。
そして怒りを爆発させるかのように、暴れ始めた。
「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
巨大な芋虫の身体がのたうち回る。
巨体が周囲の建物を子供のおもちゃのように、次々と薙ぎ倒していく。
「危ない!」
カケルは、ユイと絡新婦を庇うように、その場から飛び退いた。
先ほどまで立っていた場所に大蛆の巨体が叩きつけられ、地面が大きく陥没する。
ブシャアアアアアアアアアアアッ!!!
無差別に腐食液が撒き散らされる。
鉄骨が溶けコンクリートが蒸発し、工業地帯は地獄絵図と化していた。
カケルたちは間一髪でその攻撃を回避し続ける。
ユイはスピードブースターで縦横無尽に駆け回り、絡新婦は壁を伝って高所を移動する。
だが、攻撃の糸口が掴めない。
「なんて強さだ……!?」
カケルは息を呑んだ。
圧倒的な破壊力そして驚異的な再生能力。
これが中位種だというのか。
だが、絶望している暇はない。
カケルはペインブリンガーを構え直し、戦況を冷静に分析する。
(再生能力があれほど高いとなると、半端な攻撃は意味がない。一撃、顔面を破壊するしかない……!)
その時カケルの脳裏に、一つのアイテムが浮かんだ。
これまでに何匹も中位種を屠ってきた切り札。
「……やるしかないか」
カケルはペインブリンガーを構えながら、クラフトメニューを瞬時に展開した。
そのリストの中から、一つのアイテムを選択する。
『★特殊弾薬(対上位種)×1 – 150pt』
『クラフト実行!』
【残りポイント: 2,500pt】
ペインブリンガーの薬室が開き、赤黒い不気味な輝きを放つ一発の弾丸が光と共に生成され、自動で装填された。
「二人とも、奴の気を引いてくれ! 一瞬でいい!」
カケルは暴れ回る大蛆の攻撃を避けながら、二人に指示を出した。
「……!」
「ギギッ!」
二人はカケルの指示に即座に従った。
ユイはスピードブースターをさらに加速させ、大蛆の巨体の周りを、もはや残像しか見えないほどの速度で駆け巡る。
ツインダガーで大蛆の外皮を絶え間なく斬りつけ、注意を自分へと引きつける。
絡新婦は工場のパイプラインを伝い、大蛆の死角へと回り込む。
そしてベノムウェブで強化された粘着性の高い毒糸を、大蛆の巨大な顔面へと次々と放っていく。
「ゲヒヒヒヒィィィィィィッ!?」
顔面に絡みつく糸の不快感に、大蛆はついに怒りを爆発させた。
巨大な頭部をめちゃくちゃに振り回し、ユイと絡新婦を叩き潰そうと暴れ狂う。
そして、その一瞬。
暴れ狂った大蛆の巨体が、バランスを崩し、複雑に絡み合ったパイプラインと鉄骨の山へと突っ込んだ。
巨体が自らが破壊した瓦礫に絡め取られ、一瞬だけ、動きが止まった。
「──いける!」
カケルは、その千載一遇の好機を見逃さなかった。
ペインブリンガーのスコープを覗き込み、ホログラフィックサイトが、大蛆の弱点――醜悪な老人の顔面を、正確にロックする。
「撃つ!」
カケルは迷いなく引き金を引いた。
ペインブリンガーがこれまでとは比較にならない轟音を響かせる。
銃口から放たれたのは、赤黒い不気味な輝きを放つ一発の弾丸。
それは意思を持っているかのように空気を裂き、赤黒い軌跡を撒き散らしながら、貪り食う大蛆の巨大な顔面へと、真っ直ぐに吸い込まれていく。
「ゲヒ……?」
大蛆の老人のような顔が何が起こったのか理解できない、という表情で固まった。
そして、次の瞬間――
弾丸が顔面に着弾した瞬間、空間が歪んだ。
重力爆発。
特殊弾薬に込められた、圧縮された重力エネルギーが、一気に解放され、大蛆の顔半分を内側から外側へと風船が破裂するかのように、完膚なきまでに吹き飛ばした。
「ゲェェェェェェェッ!!!!!!」
腐敗した肉片と、緑色の体液が、周囲に飛び散る。
大蛆の顔面の左半分は、完全に消滅し、骨と腐った脳髄が、むき出しになっていた。
「やった!」
カケルは、思わず拳を握りしめた。
巨大な芋虫の身体が、糸の切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。
地響きが起こり、周囲に大量の埃が舞い上がる。
「……!」
「ギギッ!」
ユイと絡新婦も、安堵の表情を浮かべ、カケルの元へと駆け寄った。
激しい戦いは、ついに終わったのだ。
「ふぅ……なんとか、やったな」
カケルは、大きく息を吐き出し、崩れ落ちた大蛆の巨体を見つめた。
だが――
グチュ……グチュグチュグチュグチュ……
「……え?」
カケルの耳に不気味な音が聞こえてきた。
それは肉がうごめくような、生々しい音だった。
「まさか」
カケルは、信じたくない思いで、大蛆の顔面を見つめた。
そして――
ドクン、ドクン、ドクン……
吹き飛ばされたはずの顔面がみるみるうちに再生していく。
肉が盛り上がり、骨が形成され、皮膚が覆い、そして、あのおぞましい老人の顔が、完全に元通りになっていく。
「ゲヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィッ!!!!」
大蛆は再び咆哮を上げた。
そして、巨体を再び起き上がらせる。
「そんな……!」
カケルは絶望に近い感情を覚えた。
あれだけの一撃を受けて、それでも再生するというのか。
「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
再生を果たした貪り食う大蛆は、激しい怒りと共に暴れ回った。
巨体が振り回されるたび、周囲の建物が粉々に破壊されていく。
カケル、ユイ、絡新婦の三人は、間一髪でその攻撃を躱し続けた。
だが、それも限界が近い。体力は削られ、集中力も途切れ始めている。
「撤退するか……!?」
カケルの脳裏に、その選択肢が浮かんだ。
だが、次の瞬間それを打ち消す。
「いや、駄目だ。あいつは俺たちを追ってくる。あの化け物を学校に連れて行くわけにはいかない!」
学校にはユイと絡新婦以外にも、57体の仲間たちがいる。
彼女たちをこの怪物に曝すわけにはいかない。
「では、どうすれば──」
カケルが絶望的な状況の中で思考を巡らせた、その時。
「……!」
「ギギッ!」
ユイと絡新婦と、目が合った。
その瞬間不思議な感覚がカケルを包み込んだ。
言葉なんて何一つ交わしていない。
彼女たちは言葉を喋ることすらできない。
だが、それでも。
カケルには分かった。
ユイの瞳に宿る、揺るぎない決意。
絡新婦の目に映る、深い覚悟。
彼女たちはこの場でカケルと共に戦い抜くと、そう決めているのだ。
「ありがとう」
カケルは静かに呟いた。
そして、ペインブリンガーを強く握りしめる。
「──みんな、力を貸してくれ!! 全火力で奴を討伐する……!」
カケルの檄が戦場に響き渡る。