ゾンビ世界で拠点を作って女の子ゾンビとイチャイチャするお話 作:フレキシブルコーギー
カケルの号令とともに、三人は動いた。
シュンッ!
ユイがスピードブースターを最大出力で起動させる。
その動きは人間の域を超えていた。重力を無視するかのように壁を蹴り、空中で方向転換し、人間には不可能な軌道で貪り食う大蛆の巨体の周囲を、縦横無尽に駆け巡る。
「グギィィィィッ!!」
大蛆は目まぐるしい動きに翻弄され、ユイを捉えようと巨体を振り回す。
ユイはツインダガーで、大蛆の外皮を次々と斬りつけ、主に攻撃を引き受ける役割を担う。
一方、絡新婦は建物の壁を蜘蛛の脚で駆け上がり、高所を確保しながら、大蛆の周囲を何度も旋回していた。
シュルルルルルルルルルッ……
糸を出しているがが、それは攻撃ではない。
絡新婦は工業地帯に散乱する鉄骨、パイプ、コンテナ、そして大蛆自身の巨体にベノムウェブで強化された毒糸を複雑な幾何学模様を描くように、張り巡らせていく。
──まるで、巨大な蜘蛛の巣を編むかのように。
「まだだ……まだ、もっと気を引くんだ! 絡新婦の準備が終わるまで!」
カケルはペインブリンガーの引き金を引き続けた。
通常弾では大蛆の硬質外皮を貫けない。
だがその衝撃は、確実に大蛆の注意を引きつける。
「ゲヒヒヒヒィィィィィッ!!」
大蛆は三人を同時に相手にし、狂ったように暴れ回る。
腐食液が無差別に撒き散らされ巨体が振り回され、周囲の建物が次々と崩壊していく。
カケルとユイは間一髪でその攻撃を躱し続ける。
一瞬でも気を抜けば、即死は免れない。
だが、二人は絡新婦を信じて時間を稼ぎ続けた。
そして――
「ギギギィィッ!!!」
絡新婦の咆哮が戦場に響き渡った。
準備完了の合図だ。
カケルは声を聞いた瞬間、即座に行動を切り替えた。
「ユイ、距離を取れ!」
カケルの叫びを聞いたユイ、一気に大蛆から飛び退き、カケルの元へと駆け戻る。
そして絡新婦が動いた。
工場の屋上から蜘蛛の下半身で勢いよく跳躍し、張り巡らせた糸の中心――大蛆の巨体の真上へと飛び降りる。
そして同時に、全ての糸を一気に引き絞った。
「ギィィィッ!!」
シュルルルルルルルルルルルルッ!!!
工業地帯全体に張り巡らされた無数の糸が一斉に収縮する。
巨大な網に捕らえられた獲物のように貪り食う大蛆の巨体が、あらゆる方向から糸によって拘束されていく。
「グギィィィィィィィッ!?」
大蛆は驚異的な怪力で糸を引きちぎろうとする。
だが絡新婦の毒糸は、ベノムウェブで強化され、さらに無数に重ね合わされることで強度を何倍にも高めていた。
更に糸に含まれた麻痺毒が、大蛆の巨体に浸透し、その動きを徐々に鈍らせていく。
ユイがカケルの肩を叩いた。
その瞳には揺るぎない決意が宿っている。
カケルは頷いた。
そしてペインブリンガーを構え、完全に動きを止めた大蛆の顔面をスコープで捉えた。
カケルは絡新婦の糸の罠に完全に拘束され、動きを止めた貪り食う大蛆の顔面を、ペインブリンガーのスコープで捉えた。
そして、クラフトメニューを展開する。
「さっきは一発だから一瞬で再生された。今度は十発くれてやる……!」
カケルはクラフトメニューから、特殊弾薬を連続で選択する。
『★特殊弾薬(対上位種)×10 – 1,500pt』
『クラフト実行!』
【残りポイント: 1,000pt】
カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ……
ペインブリンガーの薬室が次々と開き、赤黒い不気味な輝きを放つ弾丸が光と共に連続で生成され自動で装填されていく。
弾倉には死と破壊の象徴たる、十発の特殊弾薬が詰め込まれた。
カケルは強くペインブリンガーを握りしめる。
絡新婦の罠は長くは持たない。
この一瞬に、全てを叩き込む。
カケルは引き金を引いた。
一発、また一発と、赤黒い軌跡を描く特殊弾薬が、大蛆の顔面、そして巨体へと、次々と吸い込まれていく。
「ゲァァァァァァーッ!?!?!?!?!?」
一発目が顔面を貫き、重力爆発を起こす。
二発目が爆発で露出した脳髄を粉砕する。
三発目が首の関節部を破壊する。
四発目、五発目、六発目が、巨体の中心部を次々と貫き、内部から爆発させる。
七発目、八発目、九発目が、残る関節部を全て破壊し尽くす。
そして、最後の十発目が、大蛆の巨体の中心――心臓があるであろう場所へと、正確に撃ち込まれた。
その瞬間。
巨大な重力爆発が大蛆の身体全体を飲み込んだ。
空間が歪み光が屈折し、あらゆるものが、中心へと引き寄せられる。
そして次の瞬間、圧縮された重力エネルギーが一気に解放された。
貪り食う大蛆の顔も、身体も、巨大な芋虫の姿も、全てが爆発に飲み込まれ粉々に吹き飛んだ。
巨大な閃光が工業地帯を照らし出し、爆風が周囲の建物を薙ぎ倒していく。
「みんな……!掴まれ……!」
「ん……!」
「ギィ……!」
カケルは、ユイと絡新婦を庇うように抱きしめ、爆風から身を守った。
そして――
静寂が戦場を支配した。
ゆっくりと顔を上げ、周囲を確認する。
煙が晴れ視界が開ける。
そこにはもはや貪り食う大蛆の姿はなかった。
残っているのは無数の腐敗した肉片と、緑色の体液だけ。
「……やった、のか?」
カケルは恐る恐る呟いた。
数秒、数十秒が経過する。
だがあの驚異的な再生能力はもう発動しなかった。
──中位種「貪り食う大蛆」は、完全に消滅した。
「……やったぞ!」
カケルは、絶叫した。
そして、ユイと絡新婦を強く抱きしめる。
「……!」
「ギギッ!」
ユイと絡新婦もカケルに抱きつき喜びを全身で表現した。
絶望的な戦いはついに終わった。
三人の完璧な連携と諦めない心が中位種を打ち倒したのだ。
【中位種「貪り食う大蛆」撃破報酬: +3,000pt】
【増幅器による倍増: 3,000pt → 6,000pt】
【クラフトポイント: 1,000pt → 7,000pt】
♢ ♢ ♢
【現在の状況】
現在地: 工業地帯(戦闘終了)
探索部隊: カケル、ユイ、絡新婦(勝利、疲労困憊)
敵: 中位種「貪り食う大蛆」(完全消滅)
クラフトポイント: 7,000pt
時刻: 夕方
物語の進展: カケルは特殊弾薬を十発連続で叩き込み、巨大な重力爆発を起こして中位種を完全に消滅させた。絶望的な戦いに勝利し、三人は抱き合って喜びを分かち合う。
♢ ♢ ♢
「また中位種撃破でポイントが入ってる……。それに増幅器で増えるのも妙だけど……まあいい」
カケルはシステムからの報酬を確認しながら、軽く肩をすくめた。
フェロモン増幅器がなぜセックス以外まで増幅するのかは謎だが、今は考えても仕方がない。
三人工業地帯を慎重に探索し始めた。
「あの化け物のせいで、見通しは良くなったな」
カケルは周囲を見渡しながら呟いた。
大蛆が暴れ回った結果建物の多くは崩壊し、視界を遮るものは少なくなっている。
だが、それは同時に――
「物資も破壊されてしまったか……勿体ない」
カケルは溶けた倉庫や、粉々になったコンテナを見つめ、残念そうに首を振った。
鉄骨、電子部品、化学薬品――多くの貴重な物資が、戦闘の余波で失われてしまった。
それでも三人は残された物資を集め、使えるものを確認していく。
ユイはエンジェルストライクを肩に担ぎ、絡新婦は周囲を警戒しながら、カケルの指示に従って動いている。
そしてカケルは歩きながら考えていた。
「あの化け物は、とんでもない強さだった。狼や絡新婦よりもかなり強い」
商店街で戦った腐肉食らいの狼。
累計殺害人数は、241人だった。
そして、今倒した貪り食う大蛆。
累計殺害人数は、869人。
その差は、およそ3倍以上。
戦闘における強さの差はそれ以上だ。
「累計殺害人数が強さと関係があるのかもしれない……」
カケルはそう結論付けた。
それならば今後鑑定した際にその数値を見れば敵の脅威度をある程度予測できる。
「気をつけないと」
そう思った、その時だった。
「……!?」
──カケルの目が、遠くの光景を捉えた。
崩壊した工場の向こう側。二つの、巨大な影が、ゆっくりと動いている。
ズリズリ、ズリズリ……
忌まわしい音。
何か巨大で重いものを引きずるような、不気味な音。
三人が遠くを見ると、貪り食う大蛆と全く同じ姿をした巨大な化け物がこちらに向かってくるのが見えた。
──それも、二体。
「……うそだろ」
カケルの口から乾いた声が漏れた。
今、やっとの思いで倒したばかりだというのに。
あれと同じものが。二体も。
ユイも絡新婦も呆然と立ち尽くす。
瞳から先ほどまでの勝利の輝きは消えていた。
クラフトポイントも残りわずかだ。
そして体力も精神力も、もはや限界に近い。
だが二体の化け物は、そんなこちらの事情を考慮してくれるはずもなかった。
醜悪な老人の顔は明確にカケルたちを捉え、巨体で真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
「ゲヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィィィィィィッ!!!!」
「ゲヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィィィィィィッ!!!!」
二体の咆哮が重なり合い工業地帯全体に響き渡った。
逃げ場はない。
勝機もない。
カケルたちは圧倒的な絶望を前に、立ち尽くすしかなかった。