ゾンビ世界で拠点を作って女の子ゾンビとイチャイチャするお話 作:フレキシブルコーギー
「ゲヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィィィィィィッ!!!!」
「ゲヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィィィィィィッ!!!!」
二体の咆哮が重なり合い工業地帯全体に響き渡った。
カケルの足が、一歩後退った。
あんな化け物を二体も。
さっき持てる全ての力と大量のクラフトポイントを消費して、やっとの思いで一体倒したばかりだというのに。
「もうクラフトポイントも1,000しか残ってない」
カケルは絶望に打ちひしがれていた。
特殊弾薬を大量に生成するポイントも、もうない。
体力も精神力も、すでに限界を超えている。
恐怖がカケルの心を支配する。
手足が震え呼吸が浅くなる。
──もう駄目だ。
「ユイ……絡新婦……」
カケルは呆然と、愛する二人の名前を呼んだ。
その声は自分でも驚くほど、弱々しく、か細かった。
「……!」
「ギッ!」
だが、その時。
カケルの両肩を、二つの小さな手が強く掴んだ。
ユイと絡新婦だ。
カケルは二人の顔を見上げた。
そこにあったのは、カケルが想像していたような、絶望の色ではなかった。
二人の目は諦めていなかった。
ユイの瞳には燃えるような闘志が宿っている。
絡新婦の目には全てを受け入れるかのような、深い覚悟が宿っている。
彼女たちはゾンビだ。
言葉を喋ることも複雑な感情を表現することもできないはずなのに。
だが、その瞳は何よりも雄弁にカケルに語りかけていた。
『まだ、終わっていない』
『私たちが、いる』
『あなたと、最後まで戦う』
「……!」
カケルは、ハッとした。
そうだ。俺は、一人じゃない。
カケルは怯える心に自ら喝を入れた。
恐怖で震えていた手で、ペインブリンガーを強く握りしめる。
そしてゆっくりと顔を上げ、夕日を背に迫り来る二体の巨大な化け物を、真っ直ぐに睨みつけた。
「そうだ」
カケルの口から、力強い声が漏れる。
「お前たちがいれば、俺は最後まで戦える」
絶望の淵から三つの魂が、再び立ち上がる。
ペインブリンガーを強く握りしめ、迫り来る二体の巨大な化け物を睨みつける。
その隣でユイはエンジェルストライクを構え、絡新婦は蜘蛛の脚をカシャリと鳴らし戦闘態勢を整えた。
だが、その時だった。
ズンッ……
「!?」
カケルは心臓を直接鷲掴みにされたかのような、壮絶な恐怖に襲われた。
それは二体の「貪り食う大蛆」が放つプレッシャーとは、明らかに質の違う、次元の異なるものだった。
魂の根源を揺さぶるような、絶対的な支配者の気配。
これは──上位種が放つ、圧倒的な圧──
「ユイ! 絡新婦!」
カケルは叫びながら、近くの崩れかけた建物の陰へと飛び込んだ。
二人も異常事態を即座に理解し、カケルに続く。
「ゲヒ……?」
「ゲヒヒ……?」
二体の貪り食う大蛆も動きを止めた。
自分たちよりもさらに上位の存在の出現に、戸惑っているかのように。
次の瞬間だった。
夕日に照らされた空から、一つの人影が羽のように音もなく、ふわりと舞い降りてきた。
「■■■■」
そこには、一人の、少女が立っていた。
腰まで届く長い銀色の髪が、夕日を受けて絹糸のように輝いている。
その髪は、風に揺られることもなく、まるで時が止まったかのように、静止していた。
少女の瞳は、深紅。
血のように紅く、だがその奥には人間の少女には決してあり得ない冷酷な知性と、全てを支配するかのような圧倒的な力が宿っていた。
少女は白いドレスのような服を纏っていた。
その裾には血飛沫のような赤い模様が複雑に施されている。
「──」
カケルは息を殺し、その少女を見つめる。
ユイと絡新婦も少女の存在に完全に気圧されていた。
「■■■■■……?」
少女が何かを呟く。
空気が、ひときわ重く沈む。音にならない音律が胸骨を震わせ、工業地帯の景色がわずかに滲んだ。
「!?」
銀髪の少女は白い指をそっと弾いた。たったそれだけ。
刹那、二体の貪り食う大蛆の巨体が同時に硬直する。皮膚の下で黒い亀裂が幾何学模様のように走り、見えない刃が内側から彫刻していくかのように節という節が静かに分解されはじめた。
低い唸りが地中から逆流する。重力が一拍、間違う。
バン、と音もなく膨らみ、そして――沈む。
「ゲ……ハ……」
「オォォォォ……」
二体の巨体は、崩落した。粉砕でも爆散でもない。輪郭だけを残して中身が剥ぎ取られるように、肉も骨も、腐食液すらも砂のようにサラサラと崩れ落ちていった。
残ったのは、円形に磨かれたような地面の窪みと、風にさらわれる灰色の塵だけ。
いとも簡単に──本当に、指先一つであの大蛆が死んだ。
「……」
カケルは言葉を失った。喉が上下するのに息が出ない。
ユイは一歩も動けず小刻みに震える。
絡新婦は蜘蛛脚を硬直させたまま、じっと少女の背中に視線を貼り付ける。
自分たちが全てを賭けてやっと倒した化け物が、たった一呼吸で無に帰された――その現実が脳の理解を追い越していく。
少女は微動だにしない。白いドレスの裾が、遅れて吹き抜ける風にわずかに揺れただけだった。深紅の瞳が、塵と化した跡を一瞥する。
そこに勝利の色も、高揚も、哀れみもない。ただ、結果を確認した。そんな静かな眼差し。
遠くで崩れた鉄骨が一枚、乾いた音を立てて倒れる。
カケルは崩れかけた建物の壁に背を押し付け、必死に自分の荒い息を殺した。
隣ではユイと絡新婦も、圧倒的な存在感を前に完全に気配を消している。
心臓が警鐘のように激しく鳴り響く。
恐怖が脳の芯を痺れさせる。
だが、カケルは震える手でペインブリンガーを握りしめ、恐怖を無理やりねじ伏せた。
カケルは、建物の隙間から、銀髪の少女へと意識を集中させる。
「──鑑定」
【少女ゾンビのステータス】
名前: 不明
称号: 敬虔なる抹消者
派閥: 終末の聖女派
累計殺害人数: 2635人
概要: 「終末の聖女」を崇拝する派閥の幹部。物理的な破壊ではなく、対象の存在そのものを「無かったこと」にするという特殊能力を持つ。誰かを探しているようだ。
「……っ!」
カケルは鑑定結果を見て、息を呑んだ。
累計殺害人数、2635人。
戦うことすら、許されない存在だ。そう……爆発紳士や臓物食らいの騎士のように。
少女はキョロキョロと何かを探しているようだ。
そして数秒後。
少女は背を向け、破壊された工業地帯の奥へと音もなく歩き去っていく。
「……」
カケルはその場に座り込み、大きく息を吐き出した。
全身、汗でぐっしょりと濡れている。
助かった。
鑑定では彼女は誰かを探している、という文言があった。
今はそれを最優先して、俺たちのこと気付かなかったのかもしれない。
「はぁ……はぁ……」
カケルは屈辱と安堵の入り混じった感情に、ただ唇を噛みしめることしかできなかった。
♢ ♢ ♢
【現在の状況】
現在地: 工業地帯
探索部隊: カケル、ユイ、絡新婦(上位種との遭遇により、疲労困憊、精神的ショック)
新たな存在: 銀髪の少女(立ち去る)
クラフトポイント: 7,000pt
時刻: 夕暮れ
物語の進展: 銀髪の少女の正体は、上位種「敬虔なる抹消者」。少女はカケルたちに興味を示さず、どこかへと立ち去った
♢ ♢ ♢
夕闇が、血のように空を染め上げていた。
学校へと帰る三人の足取りは、鉛のように重かった。誰も、何一つ言葉を発しない。荒い呼吸と引きずるような足音だけが、廃墟の街に虚しく響いていた。
教室のドアを開けると、見慣れたはずの光景が知らない場所のように感じられた。
カケルは背負っていたペインブリンガーを床に下ろすと、そのままソファーに崩れ落ちるように座り込んだ。
「疲れた」
絞り出すような声が、静まり返った教室に落ちる。
目を閉じると、今日の出来事が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。
工業地帯での、無数のゾンビとの戦い。
突如として現れた、中位種「貪り食う大蛆」。
死闘の末に十発もの特殊弾薬を叩き込んで、ようやく手にした血と硝煙の匂いがする勝利。
そして――
銀色の髪をなびかせ、全てを無に帰した、あの少女の姿。
ゾクッ……
カケルの背筋を氷の指がなぞるような、強烈な悪寒が駆け抜けた。
全身の毛が逆立ち、胃の腑が冷たい水で満たされたかのように、重く沈む。
恐怖が、こみあげてきた。
それは戦いの最中に感じるような、アドレナリンを伴う興奮とは全く違う。
もっと根源的で、絶対的な、死の予感。
そして、不安。
「勘違い、してたんだ……」
カケルは力なく自嘲した。
新しい武器を手に入れ、拠点を強化し、仲間が増え――自分は、この世界で生きていける。大切なものを、守り抜ける。
そんな風にいつの間にか無敵だと勘違いしていた。
だが、現実はどうだ。
今日自分たちが死力を尽くして、ようやく倒した一体の「貪り食う大蛆」。
あの少女はそれを指先一つで、二体も塵を払うかのように消滅させた。
中位種にすら勝てるのがやっとだったというのに、上位種にはどうやって勝ったらいいんだ?
対峙した瞬間に殺されるビジョンしか浮かばない。
あの少女がもしカケルたちに気付いていたら。
今頃、自分たちは、あの二体の大蛆と同じように、存在ごと「抹消」されていただろう。
「……」
カケルは、自分の両手を見つめた。
ガタガタと、震えが止まらない。
守る? 誰を? どうやって?もし、上位種がここに攻めてきたら?いや、巨大中位種が三体攻めてきただけでも太刀打ちできないかもしれない。
この手は、あまりにも無力だ。
その時、わりと左右から温かい感触がカケルの肩を包み込んだ。
「……!」
ユイと絡新婦だった。
二人は何も言わずにカケルの両側に、そっと寄り添っていた。
ユイはカケルの震える手に、自分の手を重ねる。
絡新婦は豊満な身体で、カケルの背中を優しく支える。
言葉はない。
だが、その温もりとすぐそばにある確かな存在感がカケルの凍てついた心を少しずつ溶かしていく。
そうだ。
俺はまだ生きている。
そして、この腕の中には守るべき温もりがある。
カケルは二人の身体を強く抱きしめた。
恐怖は消えない。
絶望もすぐそこにある。
だけど……今はただこの温もりだけを。
感じていたい……。
その夜――
カケルはキングサイズのベッドにぐったりと横たわっていた。
夕食もシャワーも全てが機械的で、心ここにあらずだった。
頭の中を支配しているのは、上位種という脅威だけ。
どれだけ強くなっても、どれだけ拠点を強化しても。あの存在たちの前では全てが無意味だ。
そんな絶望がカケルの心を、冷たい泥のように重く沈めていた。
そして暗闇の中で、一人目を閉じる。
その時だった。
スッ……
左右から柔らかく温かい感触がカケルの身体に触れた。
「……ん?」
カケルはゆっくりと目を開ける。
薄暗い部屋の中で二つの影が、すぐそばにいた。
ユイと絡新婦だ。
二人はカケルを挟むように、ベッドに寄り添っていた。
ユイは小さく華奢な身体をカケルの胸に押し付け、じっと心配そうな瞳で見つめている。
絡新婦は豊満な胸でカケルの腕を優しく包み込み、黒髪をカケルの頬に這わせている。
「二人とも」
カケルは力なく名前を呼んだ。
二人は何も言わなかった。
だが瞳が全てを語っていた。
ユイがそっとカケルの唇に自分の唇を重ねた。
柔らかく甘い、優しいキス。
それは慰めであり愛情であり、そして──誘惑。
「……んっ」
絡新婦もカケルの首筋に熱い吐息を吹きかけながら、白く細い指でカケルのシャツのボタンを一つ、また一つと外していく。
二人はカケルを性的に慰めようとしている。
その優しさが、その温もりがカケルの凍てついた心を少しずつ溶かしていく。
「……ありがとう」
カケルはそう呟き、二人を強く抱きしめた。
今夜だけはこの温もりに全てを委ねようと、そう決めた。
恐怖も絶望も、全て忘れて──