ゾンビ世界で拠点を作って女の子ゾンビとイチャイチャするお話 作:フレキシブルコーギー
「薬局に行こう。医薬品は絶対に必要だ」
怪我をした時、病気になった時、薬がなければ命に関わる。それに、ドラッグストアなら食料品や日用品も置いてあるはずだ。一石二鳥だ。
カケルは薬局の看板を目指して歩き出した。
少女ゾンビも、無言で後をついてくる。バットを肩に担ぎ、時折周囲を警戒するような素振りを見せる。彼女なりに、カケルを守ろうとしているのだろう。
大通りを進むと、車の残骸が散乱している光景が広がった。
衝突した跡、ドアが開いたままの車、ひっくり返ったバイク。パンデミック初期の混乱が、そのまま凍りついたような光景だ。カケルは慎重に、それらを避けながら進んでいく。
やがて、目的地が見えてきた。
見慣れた黄色い看板が、灰色の空の下で色褪せて見える。
店の入口のガラスは割れており、中は薄暗い。だが、まだ物資が残っている可能性は高い。
「よし……」
カケルは牛刀の柄を握り、警戒しながら店へと近づいた。
割れたガラスを踏まないよう、慎重に店内へと足を踏み入れる。薄暗い店内には、倒れた商品棚と、床に散乱した商品が見える。消毒液のボトル、絆創膏の箱、風邪薬のパッケージ。
略奪の痕跡はあるが、まだ使えそうなものが残っている。
「これは……使えるな」
カケルは床に落ちている消毒液のボトルを拾い上げた。
未開封だ。バックパックに詰め込む。次に、鎮痛剤の箱を見つけ、それも回収。包帯、ガーゼ、絆創膏――全て貴重な物資だ。
少女ゾンビも、店内に入ってきた。
彼女は何が役に立つのか分からないようで、ただカケルの近くをうろうろしている。時折、商品を手に取っては、首を傾げて置き直す。その仕草が、どこか微笑ましかった。
「お前は見張りを頼む。何かあったら教えてくれ」
カケルがそう言うと、少女は入口の方へと向かった。
バットを握り、外の様子を窺っている。彼女なりに、役割を理解したようだ。
カケルは店の奥へと進んだ。
バックヤードに、まだ在庫が残っているかもしれない。棚の向こう側に、『従業員専用』と書かれた扉が見える。そこへ向かおうとした、その時だった。
「――ガアアアアァァッ!!」
突然、背後から絶叫が響いた。
カケルは反射的に振り返る。店の奥、倒れた棚の陰から、何かが飛び出してきた。
男のゾンビだ。
両手を前に伸ばし、飢えた獣のようにカケルへと突進してくる。
「くそっ!」
カケルは咄嗟に牛刀を抜き、構えた。
だが、男ゾンビの突進は速い。あっという間に距離が詰まる。カケルが反応する間もなく、男の腕が彼の肩を掴んだ。
「ぐっ……!」
力が強い。引き寄せられ、男の口が首元へと迫ってくる。
腐臭が鼻をつく。このままでは――
その瞬間だった。
ガッ!
鈍い音とともに、男ゾンビの頭部に何かが叩き込まれた。
男の身体がよろめき、カケルを掴んでいた手の力が緩む。顔を上げると、そこには。
少女ゾンビが、金属バットを振り上げた姿があった。
「……ぁ……!」
彼女は、もう一度バットを振り下ろした。
ゴッ! 男ゾンビの後頭部に、再び一撃。男の身体がぐらりと傾ぐ。だが、まだ倒れない。男は少女の方へと向き直り、腕を伸ばそうとした。
「させるか!」
カケルは、その隙を逃さなかった。
牛刀を握り直し、男ゾンビの脇腹へと突き刺す。ズブリ、と刃が肉を貫く感触。黒ずんだ血が溢れ出す。男が呻き声を上げた。
「もう一発だ!」
カケルは刃を引き抜き、今度は首元を狙った。
横薙ぎに振り抜いた刃が、男の首筋を切り裂く。ドス黒い血が噴き出し、男の身体がついに崩れ落ちた。ドサリと床に倒れ、もう動かない。
「はぁ……はぁ……!」
カケルは荒い息をつきながら、刃についた血を床に擦り付けて拭った。心臓が激しく脈打っている。危なかった。少女が助けてくれなければ、噛まれていたかもしれない。
「……助かった」
カケルは、少女ゾンビの方を振り返った。
彼女はバットを握ったまま、じっとカケルを見つめている。その虚ろな瞳に、わずかな心配の色が浮かんでいるように見えた。
「お前のおかげだ。ありがとう」
少女は、小さく頷くような仕草を見せた。
♢ ♢ ♢
【現在の状況】
現在地: ドラッグストア(マツモトキヨシ)店内
拠点: 郊外の一軒家
お嫁さんゾンビ: 0人
保有物資: 保有物資: バックパック、牛刀×1、家に多少の物資
同行者: セーラー服の少女ゾンビ(愛情度★★☆☆☆、武器:金属バット)
状況: 男ゾンビを撃退
♢ ♢ ♢
カケルは、牛刀を腰に差し直すと、少女ゾンビの元へと歩み寄った。
「お前、本当に助けてくれたな」
そう言いながら、カケルはそっと手を伸ばし、少女の頭に触れた。
栗色の髪が、指の間をすり抜けていく。柔らかく、少し冷たいが、決して不快な感触ではない。
カケルは優しく、彼女の頭を撫でた。
「ありがとう。お前がいてくれて、本当に良かった」
少女は、じっとカケルを見上げている。
相変わらず瞳の焦点は合っておらず、表情もほとんど変わらない。ゾンビらしく、感情を読み取ることは難しい。だが――小さな身体が、わずかに震えた気がした。
「……ぁ……」
喉の奥から、小さな吐息が漏れる。
それは、呻き声というよりも、何か温かいものを感じたような、穏やかな音だった。
少女は、カケルに撫でられることを、嫌がっていない。むしろ、その手に身を委ねるように、わずかに頭を傾けた。
「気持ちは伝わった……かもな」
カケルは、ふっと微笑んだ。
言葉が通じなくても、理性がなくても、触れ合うことで何かが伝わる。……のかもしれない。
「よし、じゃあ物資を回収するぞ」
カケルは少女の頭から手を離し、再び店内を見回した。
まだ使える薬や食料が残っているはずだ。徹底的に探索しよう。
カケルは、棚の間を丁寧に歩き回った。
まず、医薬品コーナーから――風邪薬、胃腸薬、解熱剤、目薬、湿布。
全てバックパックに詰め込む。次に、衛生用品コーナー。マスク、消毒用アルコール、ティッシュペーパー、ウェットティッシュ。これらも回収。
食品コーナーにも目を向けると、まだいくつか商品が残っていた。
栄養ドリンク、カロリーメイト、チョコレート、飴玉。保存が効くものばかりだ。カケルは迷わずそれらを掴み取り、バックパックに押し込んでいく。
「これで……かなりの量になったな」
バックパックはずっしりと重くなっていた。
だが、まだ余裕はある。もう少し探せば、さらに物資が見つかるかもしれない。カケルは店の奥、バックヤードの扉へと目を向けた。
「あそこも、確認しておくか」
扉に近づき、ノブを回す。
ギィ……と音を立てて、扉が開いた。中は狭い倉庫になっており、段ボール箱が積まれている。ライトがないため薄暗いが、窓からわずかに光が差し込んでいた。
カケルは中に入り、段ボールの中身を確認し始めた。
一つ目の箱――トイレットペーパー。必需品だ。二つ目の箱――ミネラルウォーターのペットボトル。
これも貴重。三つ目の箱――レトルト食品の詰め合わせ。当たりだ。
「これは大収穫だな……」
カケルは、それらの箱を引きずり出し、店の入口近くに運んだ。
一度に全ては持ち帰れない。後でまた取りに来るか、あるいは少女に手伝ってもらうか。
「よし、これだけあれば当分は……」
そう言いかけた時、カケルはふと気づいた。
少女ゾンビが、店の片隅で何かを見つめている。彼女が立っているのは、雑誌コーナーの前だった。棚には、ファッション雑誌や漫画雑誌が並んでいる。
「何を見てるんだ?」
カケルが近づくと、少女は一冊の雑誌を手に取っていた。
それは、若い女性向けのファッション雑誌だった。表紙には、華やかなドレスを着たモデルが微笑んでいる。少女は、その表紙をじっと見つめていた。
「お前、これが気になるのか?」
少女は何も答えない。
ただ、雑誌を抱きしめるように胸に抱えた。大切なものを見つけたかのように。
「生前の記憶、かな」
カケルは、そっと呟いた。
彼女も、かつては普通の女子高生だったのだろう。こうした雑誌を読み、おしゃれを楽しんでいたのかもしれない。
その欠片が、まだ彼女の中に残っているのだ。
「持って帰るか? それ」
少女は、小さく頷くような仕草を見せた。
「分かった。じゃあ一緒に持って帰ろう」
カケルは、バックパックを背負い直した。
重い。だが、これだけの物資を手に入れられたのだから、文句は言えない。
「帰るぞ。また来れば、残りも回収できる」
少女は雑誌を抱えたまま、カケルの後をついてきた。
二人は、ドラッグストアを後にし、拠点へと向かった。