彼、「緑谷出久」はオールマイトに憧れていた。
彼が
だから、「僕もオールマイトの様なヒーローになる!」という溢れんばかりの大きな夢を持った。
「諦めたほうが良いね」
そう医者に面と向かって言われた冷たく無慈悲な言葉は受け入れ難かった……。出久の母が困惑した表情をする。
「奥さんは第四世代ですね?“個性”の方は…」
引「わ、私はちょっとしたもの“引きつける”くらいで、夫は火ィ吹きます」
「今でも信じられませんよ。そんな個性からこんな…
『化け物』。出久は更にショックを受ける。
ーーーー
出久が初めて個性を発現したのは、幼稚園でのことだった。
ある日、かっちゃんこと「爆豪勝己」とその取り巻きにヒーローごっこでまた敵役をやらされ、地面に押し倒された時だ。悔しさと、誰にも助けてもらえない絶望感から、出久の体は本人の意思とは無関係に震えだした。
次の瞬間、彼の全身を覆うように、まるで皮膚が硬質な甲羅に置き換わるかのように、白く、ゴツゴツとした鱗状の皮膚が噴き出した。手足は太く筋骨隆々となり、指先には鋭利な四本の爪が突き出す。頭部には、特徴的な骨質の角が形成され、普段の愛らしい顔は、獰猛で肉食恐竜のそれへと変貌した。
変身するその姿を見た園児たちと先生は、悲鳴すら上げられずに固まった。
そして、出久の口から放たれたのは、小さな子供のものとは思えない、全身を震わせるほどの超低周波の咆哮だった。
「ーーーーーーー!!!!」
それは、遊び場の窓ガラスを震わせ、砂場の山を一瞬で崩壊させるほどの音圧だった。その咆哮に、かっちゃんも取り巻きも、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
数分後、個性が収まり、泣きじゃくる普通の出久が残ったが、園児たちの心には、目の前で「怪物」が誕生したというトラウマだけが深く刻み込まれた。
「か、怪獣だ…!」
それ以来、誰も出久に近づこうとしなくなった。
ーーーーー
医師は手に持った資料、つまり出久の遺伝子構造を示す解析図を忌々しそうに見つめた。
「彼の発現した個性には、ティラノサウルス、ヴェロキラプトル等の多種多様な恐竜と更にアマガエルやコウイカ、マムシの遺伝子が混ざっている形跡があります。いわば「ハイブリッド」」
「まさか、映画だけの産物かと思ったけど実物が存在したとは…個性とはわからんものだ……」
彼は再度、出久に目を向ける。
「よく聞くんだ。君の“個性”は世にも恐ろしい《インドミナス・レックス》だ」
『インドミナス・レックス』。「ジュラシック・ワールド」に登場する
性格は極めて残忍で凶暴。生物の虐殺を娯楽として愉しむ。
正に敵の為の“個性”。
出「超かっこいいヒーローさ、僕も…なれるかなぁ…」
それを知った出久は絶望の眼差しで涙をボロボロと流していた。彼の指さす画面にはこれまでインドミナス・レックスによる非情の数々が映し出されていた。
引「ゴメンね出久…ゴメンねぇ……」
引子は絶望している息子を泣きながらも抱きしめる事しかできなかった…。
ーーーーー
時は流れ、折寺中学校。
先生「えーおまえらも三年ということで!!本格的に将来を考えていく時期だ!!今から進路希望のプリントを配るが皆!!!だいたいヒーロー科志望だよね」
「「「ハーイ!」」」
テンション高く個性を剥き出しにしながら返事をするクラスメイト。するとー。
勝「せんせえ―――!『皆』とか一緒くたにすんなよ!」
勝己が相手を見下す様な偉そうに口を開いた。
勝「俺はこんな“没個性”共と仲良く底辺なんざ行かねー」
コレに一人を除くクラスメイトからのブーイングが始まる。
先生「あー確か爆豪は…『雄英高校』志望だったな」
その瞬間、ブーイングがピタリと止み、クラスメイトの目が見開いた。
「国立の!?今年偏差値79だぞ!!?」
「倍率も毎度ヤベーんだろ!?」
勝「そのザワザワがモブたる所以だ!模試じゃA判定!!俺は
勝「俺はオールマイトをも超えて俺はトップヒーローと成り!!必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ」
机の上に土足で乗っちり独演会する勝己。全くヒーロー志望とは思えない。
だが…上には上がいた。
先生「緑谷も…雄英志望…だったな……」
その瞬間、クラス全体がざわめきから一転、一気に凍りつき、張り詰めた静寂に包まれた。教師の顔は青褪め、緑谷出久の個性について口にすること自体を恐れているかの様に視線を出久からすぐに逸らした。
勝己の顔から一瞬にしてふざけた笑みが消えた。彼は表情を硬くし、出久を静かに、そして鋭く睨みつける。
勝「デク…」
周りのモブ生徒たちは、恐怖と畏敬がないまぜになった目で出久を見た。
「いや、絶対無理だろ…あんな個性が雄英に受かるわけねぇよ。だって、
「そうだよ、普通に考えて危なすぎる。雄英はヒーローを育てる場所だ。あいつの個性は、災害か、最悪の
彼らの本音は小さな声ながらも教室に響いた。
彼らにとって、緑谷出久は憧れの対象でも、見下す対象でもない。彼はいつ何時、その恐ろしい「個性」を暴発させるか分からない、座っているだけで息苦しいほどの『恐怖の象徴』だった。それは幼稚園、小学校でも変わる事はなかった考え…。
普段の出久が内気で大人しいただの普通の少年であるからこそ、そのギャップが余計に恐ろしいのだ。
教師は、生徒たちのひそひそ話を聞きながら、冷や汗を拭った。
先生(勘弁してくれ…。あの個性の実技試験の時、試験官は全員無事だったのか?そもそも、雄英があの個性を取るなんて、正気の沙汰じゃない…!もしこの教室で暴走でもしたら、私は、私はどうなってしまうんだ…!)
教師は震える手で、進路希望調査のリストを強く握りしめた。彼の心には、教育者としての責任感よりも、目の前の怪物の卵への純粋な恐れしかなかった。
そんな中、爆豪勝己は立ち上がり、ゆっくりと出久の机に近づいた。
勝「別に構わねぇよ。お前がヒーローになろうが、なるまいが」
彼だけが唯一、化け物の個性を宿している出久に変わらずに関わってくれる人物。
勝己は静かな教室の隅々まで響き渡るほどの、鋼のような決意に満ちていた。
勝己は出久の目をまっすぐに見据える。その目は最強を目指す者のみが持つ獰猛な闘争心だった。
勝「…俺は、誰よりも強くなって、お前のその化け物の力なんか、絶対に超えてやる!」
それは、圧倒的な「力」を秘めたデクを、自分の純粋な「力」と「信念」でねじ伏せようとする、最強のヒーローを目指す者同士の、魂を揺さぶる宣戦布告だった。
勝己「見てろデク。お前は《平和の象徴》になれない。成るのは俺だ!!!」