「ーーーーーーー!!!!」
その咆哮は破壊的な音圧と共に広場の空気を震わせた。
それは、喜び、興奮、そして純粋な殺戮の衝動が混ざり合った、生物の根源的な恐怖を呼び起こす音だった。
広場にいた全ての受験生たちは、その圧倒的な存在と咆哮に、思考回路を完全に断たれた。恐怖は極限に達し悲鳴を上げることすらできずパニックで硬直した。彼らの脳裏には、「もう逃げられない」、「ここで死ぬ」とい
う絶望だけが焼き付いた。
お茶子は、その光景に、もはや泣くことすらできず、絶望で眼を見開いたまま、口から微かな泡を漏らした。天哉は、全身を震わせながら、「生徒を…守らねば…」という義務感と、「インドミナス・レックスの知性」への恐怖で、身動きが取れなくなっていた。
受験生たちの悲鳴と硬直の波の中で、『イレイザーヘッド』こと「相澤消太」だけは、冷静に動いた。彼は、目を大きく見開き、インドミナス・レックスの個性を消すべく、《抹消》を発動させた。
イレイザーヘッドの視線が、怪物の真っ赤な瞳を捉えた――
ーその瞬間、インドミナス・レックスは、既に先手を打っていた。
グンッ!!
怪物はワン・フォー・オールで強化された尻尾を恐ろしい速度で振り上げた。そして、破壊された巨大なコンクリートの床の破片を、まるでダーツの矢のように、イレイザーヘッド目掛けて射出した。
ヒュ…――ドォーン!!
圧倒的な質量と速度を持つ破片は、イレイザーヘッドが体勢を整える間もなく、彼に直撃!
消「グアッ…!」
短く苦悶の声を漏らしたイレイザーヘッドの体は、内臓が破裂するような衝撃を受け、折れた骨の音と共に、そのまま吹き飛ばされた。彼は、血を吐きながら、受験生たちの背後の壁に叩きつけられ、意識を失ってしまった。
抹消という希望は、インドミナス・レックスの狡猾な策略によって、瞬時に打ち砕かれた。
「イレイザーヘッドがやられた! ヒーローが…!あの化け物には勝てない!」
「もう抵抗しないで! 抵抗したら、あのグチャグチャになった人たちみたいに…!」
プロヒーローの希望の光が消え、受験生たちは完全なる絶望の中で白い悪魔の次なる一撃を待つしかなかった。施設全体が、肉体的な惨劇と精神的なトラウマの集合体となって、イレイザーヘッドを無力化したインドミナス・レックスは逃げ場のない獲物たちに向かって、ゆっくりと、残忍な喜びを露わにして、踏み込み始めた。
その時だった!最後の希望としてセメントスが立ち上がった!
セメントスはインドミナス・レックスの巨大な足元から“個性”《セメント》を噴出させ、巨体を拘束し始めた。
セメ「ここで止める! これ以上生徒達に、そして
しかし、インドミナス・レックスはセメントスのセメントが固まり始めるのを嘲笑うかのように拘束をOFAの力で激しく破壊しながら周囲の受験生を蹴散らし、その肉塊を踏みにじった。
ミッドナイトの《眠り香》やエクトプラズムの《分身》が怪物の注意を引こうとするが、持ち前の頭脳とOFAで強化された嗅覚と力を持つインドミナス・レックスには全く効かなかった。
13号や駆けつけようとする他の雄英教師、プロヒーローたちも奴のワン・フォー・オールで強化された力とスピード、そして知性の前に為す術がなかった。
彼らが個性を発動させる隙を与えることなく怪物は巨大な爪や尻尾で叩き潰し、その体は地面に叩きつけられては、血を流し、気を失っていった。怪物を止めることは、誰にもできなかった。
奴は逃げ惑う受験生を尻尾で薙ぎ払い、コンクリートの床に叩きつける事でセメントスを「受験生の救出」と「怪物の拘束」の板挟みに追い込んだ。
「来ないで! 踏まないでくれ!死にたくない!!」
セメントスは、受験生の悲鳴を聞き、更に“個性”を発動した。セメントスは隆起した厚いコンクリートの壁を次々と広場の外縁に生成し、時には広場の地面を陥没させて深い溝を作り、怪物の動きを制限し追い込んでいった。
後少しといった所で…セメントスの動きが止まった…!
セメ「そ…そんな……」
いつの間にか、広場の周囲にはセメントスが自ら作り出した、高さ十メートルにも及ぶ厚いコンクリートの壁が完成していた。そして、壁の外側には、誰も乗り越えられないほどの深い谷が受験生たちを囲んでいたのだ!
インドミナス・レックスは隆起し、陥没するセメントの障害を破壊し、躱し続け、セメントスの狙いが成功していると錯覚させたと同時に態と彼を挑発し、「受験生たちが逃げられないように」彼自身の個性で自分たちを閉じ込めるように仕向けたのだ。
セメントスは受験生たちの唯一の逃げ場を自らの手で完全に断ち切っていた事に気づかぬ内にこの冷酷な怪物に嵌められていた。
インドミナス・レックスは、広場という名の「密室の屠殺場」が完成したのを見て、満足げな咆哮を上げた。
セメントスは、生徒たちの悲鳴と、自分が作った壁を見て、恐るべき真実にようやく気づいた。
セメ「マズイ! 私が…逃げ道を…!」
彼は、最後の力を振り絞り、壁に通路を作ろうと個性を一点集中させるが—
インドミナス・レックスは、もう彼の目の前にいた。
壁の完成とセメントスの気づきの一瞬のタイムラグを、獰猛な捕食者は絶対に見逃さない。
インドミナス・レックスは、白い装甲を血で光らせながら、巨大な顎を勢いよく開いた。
ガチャンッ!
セメントスの上半身は、OFAで強化された顎によって…。
バキグシャアァァァ…!!
一瞬で噛み砕かれた。プロヒーローの装甲は音を立てて砕け散り彼の肉体は瞬時に液体状に変形した。
グチャリと、肉と骨が潰れる、生々しく濡れた音が響き渡り、セメントスは断末魔の叫びすら上げられず、その場に血肉の塊となって崩れ落ちた。
インドミナス・レックスは目の前の英雄を無残に噛み砕いた後、血塗れの口元を歪ませ、密室の地獄で逃げ場を失った受験生たちを見下ろした。
「先生が…! 食べられた…頭が潰れた…」
「もう駄目だ! ここは檻だ!死ぬしかない! 誰か…殺してくれぇぇえ!」
広場はセメントスの行動不能によって、逃げ場のない、完全な地獄となった。
轟音と血飛沫が支配する中、生きたまま食われるという直前の恐怖に晒された者はある意味では幸せだった。それ以外の、白い巨体に踏み潰され、叩き潰された者たちの末路は、あまりに凄惨だった。
ドシン!グチャッ!
下半身を巨大な足で踏み潰された受験生は、骨の砕ける鈍い音と共に、激痛と内臓の圧迫に顔面を蒼白にしながら、絶望的な断末魔を上げる。
彼らの体は既に半分以上が潰されており、激しい苦痛に苛まれながら、徐々に、しかし確実に命の炎が消えていくのを待つしかなかった。
全身を尻尾や爪で強打された者たちは、内臓の損傷によって口から血を吐き、激しい痛みの中で意識を保つことができず痙攣しながら倒れていた。
広場は、血の海となり、肉と骨の破片が散乱する「死の実験場」と化していた。
インドミナス・レックスは、獲物兼玩具の集まりを血祭りに上げながら、獲物を無差別に蹂躙していた。その中で、一人の少女「芦戸三奈」が絶望的な抵抗を試みていた。
三奈は自身の個性《酸》を広場の地面と周囲に撒き散らし、ぬかるみと腐食の帯を作り出すことで、怪物の足止めを試みた。さらに、彼女は最後の防御手段として、自身の体から、喰われた時に敵がダメージを負うほどの濃度の酸を、皮膚の表面から滲み出させた。
三「来ないで!来ないでよぉ!!」
彼女の抵抗とは真逆にインドミナス・レックスはゆっくりと三奈の周りを歩きだす。
その時、一人の少年が彼女を守る為に決死の覚悟で飛び出してきた。
鋭「芦戸に近づくなぁぁ!!」
切島鋭児郎は自身の個性《硬化》で全身の皮膚を極限まで硬質化させ、血の涙を流しながら、インドミナス・レックスの側面に向かって渾身の拳を叩き込んだ。
ゴツッ
乾いた音だけが響き渡った。鋭児郎の硬化は奴の白鱗の装甲にはビクともしなかった。彼の拳はまるで鋼鉄の壁にぶつかったかのように、激しい衝撃で痺れた。
インドミナス・レックスは邪魔者の出現に苛立ちの唸りを上げた。
グアァ…!
怪物は防御を放棄し、切島の体を巨大な爪で捕らえた。
鋭児郎はもがくも解くことができず、その体全体が怪物の握力で圧縮されるのを感じた。
そして、インドミナス・レックスは、個性を全開で発する鋭児郎を巨大な顎を広げ…。
ガブッ!グシャアァァァァァ!!!
硬化された切島の体は、白鱗の鋭利な歯によって、一瞬で噛み砕かれた。硬化の個性も、二つの最強の個性の複合による破壊力の前では無力だった。
骨と硬質化した皮膚が砕け散る凄まじく生々しい音が響き、鮮血と肉片が、インドミナス・レックスの口から勢いよく噴き出した。
怪物は、噛み砕いた切島の下半身の肉塊を、まだ獲物が生きていることを察知したかのように、次の悪辣な一手に使った。
インドミナス・レックスは、ワン・フォー・オールを尻尾に集中させ、切島の無惨な肉塊を、ゴルフボールのようにフルスイングで打ち出した。
ドォン!!
緑色の雷光を纏った切島の肉塊は、凄まじい速度で、芦戸三奈の全身に直撃した!
ベチャッ!ドサッ!
三奈は親友の血と肉、そして凄まじい衝撃に押し潰され、悲鳴を上げる間もなく二人諸仲良く大きく吹き飛ばされた。
三奈と鋭児郎は全身の骨が折れ、体の半壊状態でありながらも、奇跡的に、かろうじて心臓が動いているだけの状態で生きていた。更に最悪な事に、彼女の体から滲み出ていた濃酸が鋭児郎の体を溶かし、その結果あり得ないことに二人が一体化してしまった。
二人は永遠に消えない痛みと地獄の惨状の中で彼らは数刻の命を繋ぎ止めていた。
デステ「止めろーー!!何としてもこれ以上の被害を出させるなーー!!!」
今度は閉じ込められたプロヒーローであるMt.レディ、シンリンカムイ、デステゴロの三人が残された受験生を守るために動いた。
シンリンカムイとデステゴロは生存者たちの絶望の悲鳴を背に受けながら、インドミナス・レックスへと突撃した。
デステゴロは、肉弾戦で白い怪物の注意を引くべく、剛腕で装甲に激しい連撃を加える。シンリンカムイは、個性《樹木》を一斉に展開させ、インドミナス・レックスの巨体を絡め取り、動きを封じようと試みた。
インドミナス・レックスは、邪魔な英雄たちを煩わしげに感じていた。
彼は、全身にOFAの電流を爆発的に集中させ、デステゴロの肉弾を風圧で吹き飛ばし、シンリンカムイの樹木を瞬時に引きちぎった。
「ーーーー!」
シンリンカムイは、引きちぎられた樹木の破片と共に床に叩きつけられ、デステゴロは壁際まで吹き飛ばされ、吐血して身動きが取れなくなった。
その隙に、Mt.レディが動く。彼女の個性《巨大化》が発動し、体躯が膨れ上がり、20メートルにまで巨大化した。
Mt.レディは、巨大な拳をセメントスが作った、広場を囲む厚いコンクリートの壁へと叩きつけ、破壊を開始した。
ドォン!ズガァン!
コンクリートの壁は、Mt.レディの圧倒的な質量の前では脆い粘土のようだった。崩壊した壁の隙間から、外の光が一筋差し込み、受験生たちの心に一瞬の希望を灯した。
「出られる! 助かった!Mt.レディありがとう!」
インドミナス・レックスは、吹き飛ばしたプロヒーローたちから視線を一瞬外し、巨大化するMt.レディへと注意を向けた。
すると、自身の装甲を纏うOFAの緑色の電流を見て、インドミナス・レックスは一瞬、動きを止めた。
「………」
それは、怪物の「知性」がワン・フォー・オールの力と肉体との連動について何らかの理解を深めた瞬間だった。
その直後、奴は突如として、Mt.レディに向かって突っ込んでいった!
体格差はMt.レディの方が圧倒的に有利であり、常識的に考えればインドミナス・レックスの肉弾戦は不利だ。しかし、怪物は迷わなかった。
Mt.レディは、巨大な手で迫りくる怪物を掴もうと身構える。
その刹那、インドミナス・レックスの脚に集中していたワン・フォー・オールの電流が一際強く眩い緑色に輝くと…。
ドォン!!
自身の体重と速度を全て乗せ、驚異的な高さへと飛び上がった!
それは、インドミナス・レックスがワン・フォー・オールの「溜め」と「放出」を完璧に制御した瞬間だった。
彼は、巨大化したMt.レディの顔の高さまで一気に到達する。
Mt.レディが驚愕に目を見開く中、インドミナス・レックスは空中で体を捻り、OFAの力を最大出力で集中させた鋼鉄のような尻尾を、Mt.レディの顔に思いっきりぶちかました!!
バキィイイイイイイン!!
尾の衝撃は音速を超え、分厚い肉体と巨大化した顔面に直接叩きつけられた。
Mt.レディは脳が揺れる激しい衝撃と共に鼻梁と眼窩の骨が粉砕される凄まじい音を立てた。大量の血と砕けた眼球が顔面から噴き出し、広場の床へと滝のように降り注いだ。
Mt.レディは耐えきれない激痛と視界の崩壊により、巨大化した体を制御できなくなり、呻き声と共に広場へと崩れ落ちた。
このままだったら受験生たちは全員圧死していたところだったが、Mt.レディが倒れる直前で“個性”《巨大化》が解除された。
ズシャァ…!
肉体は元のサイズに戻り、彼女は大量の鮮血と壊れた顔の骨を地面に撒き散らしながら倒れ伏した。
そして、無残な顔になった彼女の首を…。
ブチ…。
噛みちぎった。
グラ「貴様…貴様ァァァァァァ!!!!」
怒りに呑まれたグラントリノが一気に突っ込んできた!
あまりの速さに奴の視界が追いついておらず攻撃を与える事に成功していた。
それでもインドミナス・レックスは観察を止めなかった。
足の裏の噴出口から空気を噴射。
短時間なら空を飛ぶことも可能。
空気の勢いが強くなる直前に…
その瞬間、インドミナス・レックスの頭に打開策が浮かび上がった!
グラントリノがジェットによる超高速の蹴りを発動し一気にインドミナス・レックスに急接近する。
バチ…バチバチ……。
すると、インドミナス・レックスの身体を緑色の電流が奔り出した。グラントリノの蹴りがぶつかろうとした…
その直前、奴は一気に吸いー。
「ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
奴は全力の咆哮を放った!!
グラ「グ…ッ、ウォオオオ…!!!」
咆哮は衝撃波となり、それと同時にワン・フォー・オールの電流が周囲に放たれた!
グラ「ガハ…ッ!」
グラントリノは奴の咆哮は直撃した事で思い切り吹き飛ばされ壁に激突した!
呼吸で強くなるのなら空気を吐き出させれば良い。呼吸さえさせなければ“個性”は発動しない。
何より、この一撃は老いぼれの身体には負担がデカい…。
プロヒーローたちの連続した敗北。そして目の前で繰り広げられた凄惨な光景は、受験生たちに逃げ場のない、純粋な絶望を深く植え付けた。
「もう、誰も勝てない…あんな…誰も助けてくれない!」
「殺してくれ! 早く殺してくれ!いや、あの壁を壊せば…!」
受験生たちは、生存本能の最後の足掻きとして無意味だと知りながらもセメントスが作ったコンクリートの壁を叩きつけ、壊そうと無力な力を込めていた。その絶望的な行動は檻に閉じ込められた獣と何ら変わらなかった。インドミナス・レックスはゆっくりと獲物へと歩いていく…。
その中で、一人の少年が、苦し紛れの、しかし勇気ある行動に出た。
範「くそっ! やれることをやるしかねぇだろ!」
「瀬呂範太」だ。彼は壁際で震える仲間の惨状を見てこのままでは全滅するという切迫感から個性を発動させた。
インドミナス・レックスの動きを封じる為に両肘部から“個性”《テープ》を放ち、その白い装甲目掛けて数本の粘着質のテープを連続で放った!
ワン・フォー・オールの電流を纏うインドミナス・レックスの装甲にテープがくっつき、物理的な効果は皆無だったが粘着質のテープが絡みつく事で奴の足を止め、妨害が成立した。
だがしかし、その結果、奴が少しキレた…。
インドミナス・レックスは、無理やり剥がしたテープを睨みつけた後、冷たい殺意を範太に向け、咆哮を上げた。
「ーーーーーー…!!!」
鬱陶しいテープを放った張本人、範太へと白い巨体が静かに、そして確実に近づいていった。
範太は自分の行動が怪物の注意を引きつけてしまったことに顔面を蒼白にさせたが、テープを連続で発射して必死に抵抗した。
インドミナス・レックスは鬱陶しいテープを躱し、振り払いながら接近し範太の体を地面に叩き付けた!
そして、尋常でなない痛みにより動けない範太を掴むと…。
大きく開いた大顎で範太の右腕に容赦なく噛み付いた!
バキッ!
鋭い歯が、皮膚、筋肉、そして骨を一瞬にして噛み砕き…。
ブチブチブチ…!!
そのまま噛みちぎった!瀬呂の右腕は肩口から肘にかけて、無惨に噛みちぎられ、大量の鮮血が噴水のように噴き出した。
範「ア…アアアアアアアァァ!!!」
彼の叫びは、肉体的な激痛と、自分の右腕が消滅したという絶望的な現実に対する本能的な悲鳴だった。
インドミナス・レックスは、噛み千切った右腕の肉塊を口の中で弄ぶと、次に、瀬呂の左腕に狙いを定めた。
インドミナス・レックスが瀬呂の左腕に顎を向けた、そのまさに刹那—。
シンリンカムイが、吹き飛ばされたにも関わらず、最後の力を振り絞り、個性《樹木》を再度発動させた。
引きちぎられた右腕を食われようとする瀬呂と、インドミナス・レックスの顎の間に、巨大な樹木の枝が間一髪で割り込んだ。
ガチャン!バキバキ…!
樹木は直ぐに破壊されたがインドミナス・レックスがその拍子に彼を手放した事で瀬呂の左腕を間一髪で守った。
範太は出血多量で意識が朦朧とする中、失った右腕の断面を見て再び激しい嘔吐に見舞われた。
邪魔をされた事で怒り狂うインドミナス・レックスは邪魔な樹木の枝をワン・フォー・オールの力で激しく引きちぎり…。
ドン!!
シンリンカムイの体を硬いコンクリートの床に叩きつけた後シンリンカムイを掴み上げー。
ブチブチブチィ!!!
上半身と下半身を大顎で引き裂いた!!
プロヒーローたちの最後の抵抗は、全て粉砕された。
逃げ場のない広場に、意識のある受験生たちの悲痛な断末魔が響き渡る。彼らは、死を確信し、最後の言葉を吐き出した。
「お父さん、お母さん… ごめんなさい。私、ヒーローになれなかった… こんなところで、食われるなんて…!肉が引き裂かれるなんて…イヤだ!」
「オールマイト!! あんたは一体何をしてるんだ! 俺たちが殺されそうになってると言うのに!地獄に落ちろ! 畜生…俺は死ぬんだ!」
彼らの悲鳴と呪詛は、屋外でも響き渡り、恐怖を際立たせた。
インドミナス・レックスは絶望的な叫びを上げる受験生の一人に直ぐ様、食らいついた。
ガリッ!という生々しい音が響き、少年の胸部が顎によって粉砕された。
しかしその瞬間、インドミナス・レックスの獰猛な目に、一瞬の「飽き」の色が浮かんだ。
彼はセメントス、そして試験会場で既に多くの獲物を噛み砕き、捕食していた。その結果、怪物の空腹を満たされ、その食欲を一時的に飽和状態に達させていたのだ。
インドミナス・レックスは、噛み砕いたばかりの受験生の肉塊を、そのまま口から吐き捨てた。
ベチャ…。
胸部が潰れ、臓器が露出した肉塊が広場の床に転がる。
彼は、既に口に入れた獲物を飲み込むのではなく、ただ噛み砕くだけ噛み砕いたら、そのまま無造作に捨てたのだ。
広場の床には、セメントスの肉塊、吐血した英雄たち、そして噛み砕かれ、汚いもののように捨てられた受験生の無残な残骸が、新たな惨状として積み重なっていた。
「吐き気が…! 肉が…飛び散ってる…まるで生ゴミだ…」
インドミナス・レックスは、噛み砕いた人間の肉を捨てることで、その場に残された生存者たちに、「お前たちの命は、もう食べる価値すらもない」という、最も胸糞の悪い絶望を叩きつけた。
奴は新たな犠牲者を見定めようと獰猛な視線を向けたその時、広場の隅から一人の少年が、震える体を必死に制御して、勇気を振り絞った。
「口田甲司」だ。彼はあまりの惨劇に極度の恐怖に襲われながらも唯一、自分にできることを実行しようとした。
口田:「あ… 暴れ狂う竜よ、止まりなさい!」
その瞬間、インドミナス・レックスの巨体が受験生たちを見下ろす体勢のまま、ピタリと動きを止めた。
広場に、沈黙が流れた。
セメントスの肉塊、Mt.レディの首のない体と分断されたシンリンカムイの身体そして瀬呂範太の失われた右腕。全ての地獄を前に、怪物が止まったという現実は、生存者たちにとって一瞬の、甘い幻影を与えた。
生徒の一人が、安堵の溜息を漏らした瞬間、歓声がわき上がった。
止まった! 助かった!やったぞ!!
これで…これで助かった!!
甲司もまた、全身の力が抜け、安堵の表情を浮かべた。自分の声が、あの怪物に届いたのだと信じ
ズシャ…。
奴の右腕が甲司の小さな体を目にも止まらぬ速さで薙ぎ払った。
甲司は衝撃で内臓を破裂させなが、数回、床に叩きつけられ、跳ね上がった後、壁際で動かなくなった。彼の全身は原型を留めず、骨が複雑に折れ曲がっているのが生々しく見て取れた。
インドミナス・レックスは「制御不能の王」。それが例え、口田の“個性”《生き物ボイス》であろうと縛る事は出来ない…。最初から無駄だった。
それどころか、遠くに飛ばされ、動かなくなった口田の姿を見たインドミナス・レックスの中に「一体、彼奴は何がしたかったんだ?」という疑問だけが残った。
だが、その疑問すら飽食と殺戮の衝動に支配された怪物の頭には、長く留まることはなかった。
インドミナス・レックスはすぐにその疑問を忘れ、広場という檻の中で再び、獲物への獰猛な視線を向け、殺戮の行動を再開するのだった。
広場に新たな絶望のが現れる中、極度の恐怖に震えながらも、一人の少年、「峰田実」が生き残るための最後の賭けに出た。
実「ウワァァーーーーーーー!!!!」
彼は小さく丸まった体を必死に隠しながら、個性《モギモギ》を発動させた。彼の頭から引き抜かれた強烈な粘着力を持つボールが、インドミナス・レックスの足元の床に次々と叩きつけられた。
インドミナス・レックスは、新たな獲物へと歩を進めようとしたその時、足元にあった、異様な粘着性を持つボールに気付いた。
インドミナス・レックスは、人間を遥かに超える知性と、原始的な警戒心から、そのボールが何らかのトラップであることを瞬時に理解した。彼は、忌々しげにモギモギのボールから足を離し、一歩、二歩と距離を取った。
インドミナス・レックスは、単純な粘着性の罠に自ら嵌るほど愚かではなかった。彼は、OFAという膨大な力を遠距離攻撃に転用することを即座に決断した。
彼は、全身のワン・フォー・オールの力を右足に集中させ…。
ドォン!!
OFAの爆発的な衝撃が、広場のコンクリートの床を激しく踏みつけることで伝達され、床から巨大な瓦礫の塊が次々と跳ね上がった!
インドミナス・レックスは、それらの瓦礫をワン・フォー・オールを纏った尻尾で正確に叩きつけ、超高速の「瓦礫の散弾」へと変えて、受験生たちの集団目掛けて打ち出した!
ヒュンッ!!ドガガガガ!!
瓦礫の散弾は、音速に近い速度で広場を横切り、峰田実にも直撃した。
グシャッ!という鈍い音と共に峰田の小さな身体にも辺り、瓦礫の強烈な質量によって全身の骨格が粉砕された。
彼は、自らの個性で一瞬の猶予を得たにも関わらず、遥かに残酷な方法で戦闘不能にされたのだ。
しかし、真の地獄はここからだった。
周囲に散弾した無数の瓦礫の破片が多数の受験生たちに容赦なく直撃した!
瓦礫の弾丸は、受験生たちの身体を容易に貫き、骨を砕き、内臓に被害を与えた。彼らの肉体は爆発的なエネルギーによって引き裂かれ、広場に新たな血の噴水を巻き起こした。
受験生達に更にコンクリートの破片によって無残に殺され続けるという死に方が追加された。広場は血と泥と瓦礫が入り混じった、真の地獄と化し始めていた。
大量のモギモギを瓦礫をぶつけたりワン・フォー・オールで陥没させ、地面に埋めた後、残った受験生の元へと向かう。
すると、一人の女子受験生が衝撃の余波で地面を転がり怪物の目の前へと滑り込んできた。
麗日お茶子。
彼女は全身の打撲と目の前で起きた地獄のショックで既に半失神状態だった。
瓦礫の破片や周囲の血にまみれながら彼女は白い悪魔の巨大な足元で辛うじて意識を繋ぎ止めていた。
インドミナス・レックスは、新たな獲物に視線を落とした。
恐怖は、麗日お茶子の声を完全に奪っていた。彼女の口は無言のまま開閉し、助けを求めることも、悲鳴を上げることも出来なかった。
麗日お茶子(あ…ああ… やだ…食べないで… 父ちゃん…母ちゃん… 助けて…いやだ!)
そして、麗日お茶子とインドミナス・レックスの目が合った。
澄んだ瞳に宿る純粋な恐怖と、白い怪物の血に飢えた瞳が交差した瞬間、彼女の極度の緊張と恐怖が身体の制御を完全に失わせた。
麗日お茶子の下半身から、熱い液体と濃密な異臭が、一気に噴き出した。
彼女は、失禁と失便を同時に漏らしたのだ。
インドミナス・レックスは、その生理的な臭気に、一瞬、不快感を覚えた。
大岩を両腕で掴み上げると、未だ呆然としている麗日お茶子の小さな体目掛けて、無造作に、しかし確実に思い切り振り下ろした。
ドゴォオオン!!
麗日お茶子は、巨大な岩石の質量と衝撃によって、その存在を完全に押し潰された。岩石の下から、噴水のように鮮血と体液、そして砕かれた肉の塊が四方八方へと飛び散った。
岩石は麗日の身体を直撃し、彼女の胴体は瞬時に圧壊し、顔面は、苦悶と絶望の表情を刻んだまま、血と泥と排泄物まみれて、岩の下敷きとなった。
岩の下。麗日お茶子は巨大な瓦礫に押し潰されながらも、まだ息があった。
岩石は彼女の上半身を圧壊させたが、内臓を破裂させつつも、心臓を瞬時に止めるほどの直接的な破壊は避けていた。彼女は、体中から血と汚物を滲ませながら、岩の下で生きていたのだ。
意識は朦朧とし、痛みは全身を支配していたがそれが死ぬ事には繋がらなかった。
お茶「ア…グ… (潰れた声)(死な…ない… どうして… 殺して… 痛い…痛い… お父さん…お金… ゴフ…ごめん…な…さ…い…)」
死ねなかった事が彼女にとって最大の不運。彼女は意識が途切れるまで自らが引き起こした汚穢物と飛び散った肉片、そして自身の肉体の崩壊という地獄の現実の中で息絶えるまで苦しみ続けることになった。
インドミナス・レックスは行動を再開し、ゆっくりと受験生に近づくと、受験生達が一人、二人とこちらに近づいてきた。彼等はもはや逃げる気力すら失って精神崩壊した受験生たちだ。
インドミナス・レックスはその巨大な足で次々と、諦めた者、地面に這いつくばる者の上に容赦なく振り下ろした。
ズズン…グシャ…。
踏まれた受験生は内臓が潰れ、骨が折れるという激しい苦痛に全身を痙攣させたが、怪物は即死させるほどの力を込めなかった。
「ゴ…ア…ア… 」
受験生は肺が潰れたのか…息ができなかった
彼らは巨大な足の裏で圧迫され、内臓と呼吸器がゆっくりと機能停止していくという、最も苦しい方法で息絶えていった。
広場には、生殺しにされた者たちの「長い断末魔」が途切れ途切れに響き渡った。
インドミナス・レックスは、壁際で既に恐怖に慣れ、飽き飽きした受験生たちの悲鳴を聞くことに飽きたのか、そろそろ全員殺そうと再び動くも…。
動きが突如として止まった。
圧倒的脅威を目の当たりにした人間の行動は素直なもので…。
ある者は逃げたい一心で負傷者を踏みつけ、その上を駆け抜けた。足が動かない者は、インドミナス・レックスの足元へと他者を突き飛ばし、生贄にしようと狂気の形相で押し出し合い…。
「テメェが死ね! 俺はまだヒーローになるんだ! 身代わりになれ!」
「やめてくれ! 誰か助けて! お願い!殺さないで、あいつを食って!」
ある者は地面に這いつくばって、汚物にまみれながら、神や親に許しを請うように泣き叫ぶ者。そして、絶望のあまり自らの頭を壁に叩きつけ、頭蓋骨を砕いて、自ら人生を終わらせる者。
「もう無理だ…助からない…英雄なんて、最初からいなかったんだ!」
それを一言で表すなら、「醜い」…。
インドミナス・レックスはこの人間の極限での振る舞いを見て新たな興味を抱いた。恐怖が理性を凌駕し、本能的な醜さを露呈させる様は彼の「知性」にとって予測不能な「面白いゲーム」だった。
それが少し面白かったのか、インドミナス・レックスは、殺戮の衝動を一時的に抑え、もう少し狩りを楽しむことにした。
ーーーーーー
オールマイトと爆豪勝己は、インドミナス・レックスの恐るべき策略に気づくと個性の力を限界まで開放し、地獄と化した避難施設へとフルスピードで急行した。
彼らの心臓は、愛弟子とライバルの本能的な殺人衝動、そして無数の犠牲者の存在によって、激しく打ち鳴らされていた。
そして、彼らが崩壊した外壁を乗り越えて、施設の中へと飛び込んだ時、二人が見た光景は、想像を遥かに超えるものだった。
そこは、もはや生命が存在する場所ではなかった。
血の海と化した床。壁には飛び散った血の飛沫や肉片が生々しく貼り付いている。
施設全体が、獣の排泄物のような血腥い臭気と、焼けるような酸の刺激臭で満たされていた。
形を成していない者は鉤爪や顎によって無造作に引き裂かれぐちゃぐちゃとなり、肉と骨の集合体が瓦礫のように積み重なっている。
あり得ない方向に曲がっている者は脊椎や四肢が体幹に対して90度以上捩じ曲がり、まるで壊れた人形のように異様な姿勢で死体が横たわっていた。
まだ生きて逃げ惑ってる者は血を流しながら、錯乱状態で出口を探して叫ぶ受験生。彼らの足は、滑る血液に取られ、パニックが逃走をより困難にしていた。
そして、最も悲惨なのは、生き残った者たちの間で繰り広げられる、自己保身という名の裏切りだった。
「い…行かないでくれ… 救けてくれ…」
「離せ!私の個性は回復系じゃないんだ! 離せぇぇ!!」
一人の比較的軽傷の受験生が、足元にしがみつく血だらけの負傷者を引き剥がそうと、脚で何度も何度も蹴りつけていた。
その騒ぎを聞きつけたインドミナス・レックスは、悠然と近づくと。
奴は両方を巨大な顎で一気に飲み込んだ。
次にオールマイトと勝己の視線は中央に固定された。
インドミナス・レックスは、酸が消えた芦戸と、肉塊となった切島を前に、残酷な饗宴を繰り広げていた。彼は、二人が死なない程度の力加減で、ゆっくりと時に思い切り、しかし、意図的に彼らの肉体を噛み砕いていた。時折吐き出しては再度、口の中に放り込んだ。
三奈「ギ…アアアアアァァ!!! やめ…痛い! 殺して…お願い、殺してぇぇぇ!!!」
鋭児郎「ヤメ…ロ…芦戸ォ……ーーーー!!!」
三奈と鋭児郎は、既に肉塊となりかけていたが、わずかな生命の火が残っていた。インドミナス・レックスは、彼を噛み締めることで、その絶望的な苦痛を二人に見せつけていたのだ。
勝己はその光景を前に憎悪に満ちた目で真実を叫んだ。
勝「畜生…! やっぱり全部演技だったんだ!」
インドミナス・レックスは獲物たちに「逃げられるチャンス」や「倒せるチャンス」の偽の希望を与えることで、それに引っかかる弱い者を無慈悲に潰す。そして、その絶望をプロヒーローにも共有させ、心の隙を突く。
奴は、受験生とプロヒーローの「救済への渇望」という希望を利用する事でより大きな絶望を作り出し、その感情の起伏を道楽として楽しんでいたのだ。
オールマイトの顔からは安堵の色が完全に消え去り、無力感と激しい怒りが混じり合った。
AM(緑谷少年! 君は…ヒーローの心を…どこに捨ててしまったんだ…!?)
地獄は