オールマイトが愛弟子の裏切りと悪意に打ちのめされ、膝をつきかけたその瞬間、黄色い閃光が飛来した。
グラ「ボサッとするな!オールマイト!!」
満身創痍グラントリノが自分の体にムチを打ちながら“個性”を最大限に発動させ、超高速でインドミナス・レックスの目眩しとなる攻撃を繰り出した!
その攻撃に続いて、爆豪勝己も、激しい憎悪を込めて動いた。
勝「止まれデクゥゥゥ!!!」
勝己は最大限に熱量を高めた爆破をインドミッド・レックスの顔面へと集中させた。
勝己:「何勝手に乗っ取られてんだぁ?エ!! テメェは俺が倒すんだ!逃げんじゃねぇ!」
勝己は、ライバルへの執着と事態への怒りで理性を保ち、絶えず攻撃を続ける。彼の爆破は、白い装甲に黒い焦げ跡を刻み、インドミナス・レックスの注意を強制的に引きつけた。
勝己の攻撃で一瞬の隙が生まれた。正気を取り戻したオールマイトは、師と弟子の協力を無駄にはしない。
AM「CAROLINA SMAASH!!」
オールマイトは、ワン・フォー・オールの力を込めたクロスチョップ渾身の一撃を、インドミナス・レックスの側面に叩き込んだ。
ドォオオオォン!!
白い巨体は地鳴りと共に吹き飛ばされた!
受験生たちから再び歓声が上がる。
しかし、その歓声は一瞬で掻き消えた。
インドミナス・レックスは吹き飛ばされた直後、ワン・フォー・オールの力で空中で体勢を立て直した。そして、その俊敏な動きで避難経路の陰に身を潜めていた二人の女子受験生を巨大な鉤爪で掴み上げた。
「ケロ…ッ!?」
「ひ…やめ…!」
掴まれたのは「蛙吹梅雨」と「耳郎響香」だった。
インドミナス・レックスは未だ口の中で噛み続け、血と体液で汚れた芦戸と切島を顎に挟んだまま新たに二人を両手の鉤爪で捕まえた。
勝「人質って訳かよ…!クソが!」
勝己は憎悪に満ちた唸りを漏らした。人質を巻き添えにする事は彼のヒーローとしての信念が許さない。
AM「ッッ!!(これでは迂闊に動けない!)」
オールマイトは弟子に最も非道な手を使われた事に激しい怒りを覚えた。
それだけではない!インドミナス・レックスは最も血の惨劇が濃い場所すなわち負傷して動けない受験生たちの集団の中心へと、その巨体を静かに移動させた。
インドミナス・レックスは、その巨大な肉体と、四人の人質、そして周囲に広がる負傷者たちを盾として利用し、オールマイトと勝己の行動を完全に制限した。
インドミナス・レックスの咆哮が響く。その声には、「動けば全員を殺す」という冷酷な警告が込められていた。
「来ないで!これ以上、動かないで! 助けなくていい!あんな化け物に殺されるくらいなら、ここで死ぬ…」
「もういい… 早くこの悪夢を終わらせて…!」
オールマイトと勝己はインドミナス・レックスという名の「絶対悪」が英雄の良心をチェス盤の駒として利用しているという絶望的な状況を前に歯噛みするしかなかった。
インドミナス・レックスが四人の人質と負傷者を盾にオールマイトと勝己を膠着状態に追い込んだその時ー!
施設の外壁の穴から、凄まじい炎の奔流と共に、もう一人の巨人が飛び込んできた。
エンデヴァーだ!No.2ヒーローである彼は、事態の異常性を察知し、最速で現場に急行したのだ。彼の全身は、燃え盛る炎に包まれている。
AM「エンデヴァー!奴は人質を—!」
エン「分かってる!だったら奴の気を逸らせればいいだけだ!!」
エンデヴァーは問答無用でインドミナス・レックスの横腹目掛けてー。
エン「ジェットバーン!!」
炎をジェット噴射させ、最大出力の炎を拳撃叩きつける!
同時にグラントリノが超高速で炎の熱から身を守ろうとしたインドミナス・レックスの脚に強烈なタックルを見舞った。
ドォン!ズガン!
炎と衝撃によって、インドミナス・レックスは一瞬、怯んだ! 奴は熱と不意を突かれた物理的な衝撃に唸り声を上げた。
この千載一遇の隙をオールマイトは見逃さなかった!
彼はワン・フォー・オールの力を一点集中させ、光速のスピードで人質へと向かった。
オールマイトは凶悪な顎から解放された激しい苦痛に呻く三奈と鋭児郎を瞬時に解放し、鉤爪に掴まれていた梅雨と響香を同時に抱きかかえて一気に安全なエリアへと離脱した。
しかし、救出された四人の状態は凄惨を極めていた。
三奈と鋭児郎は顎に噛まれた傷が全身の骨格にまで達しており、生体活動がギリギリで保たれているのが奇跡だった。彼らは、肉体的な崩壊を前に既に意識を失っていた。
そして蛙吹梅雨。オールマイトの腕に抱かれた彼女の右足はインドミナス・レックスの鉤爪によって完全に潰され、もはや形を成しておらず、足首から先が失われていた。
彼女は、ショックと失血で白目を剥いていた。
響香も、鉤爪に掴まれた腕が筋肉断裂を起こし、身体中から血を流していた。
人質を失った怒りに駆られたインドミナス・レックスは英雄達、特にオールマイトとエンデヴァーに対して、最も嫌悪し、最も心を折る方法で報復した。
彼は攻撃の矛先をオールマイト達が守ろうとした地面に横たわる負傷者と死体へと向けた。
インドミナス・レックスは獰猛な咆哮を上げながらワン・フォー・オールの緑色の電流を極限まで足元に集中させ、巨大な足を生きたまま悶え苦しむ負傷者や既に事切れた死体の上に何度も何度も叩きつけた。
ズシャ!ズシャ!ドム!
奴は既に死んでいる受験生の顔面を踏みつけ、その頭部をメロンのように潰した。内臓が破裂し、骨が砕ける、耳障りな音が炎の轟音に混じって響き渡る。
彼の巨大な足は血と肉塊でドロドロになり、アスファルトに新たな血の模様を描き出した。
下半身を潰され、まだ意識があった負傷者は、インドミナス・レックスの体重によって内側から圧迫され、吐血と絶叫と共にゆっくりと死を迎えた。
「やめろ! 汚い!死んだ人を侮辱するな! ああ…体が潰れていく…!」
「畜生! 私達が何をしたっていうんだ!こんな死に方、あんまりだ!!」
オールマイトとエンデヴァーは「死者への尊厳」すら踏みにじる、悪魔の所業を前に、激しい憤怒と戦慄に駆られた。彼らは、
オールマイトとエンデヴァー、そしてグラントリノと勝己を加えた英雄側の戦力はワン・フォー・オールとインドミナス・レックスのハイブリッドと化した白い悪魔との激闘を繰り広げていた。
オールマイトとエンデヴァーの強大な攻撃は、奴の白い装甲に深い傷を負わせるが、OFAによる生命力とインドミナス・レックスの瞬時の自己修復能力によって一瞬で傷が塞がってしまう。
勝己の爆破も、装甲を黒焦げにするのが精一杯だった。
その戦場に満身創痍ながらもミッドナイトが姿を現した。彼女は、個性の《眠り香》を広範囲に放ちながら、鞭でインドミナス・レックスの片足に激しく巻きつけた。
MN「お遊びは終わりよ。坊や!!」
同時に、セメントスが個性を最大限に発動させ、セメントをインドミナス・レックスの足元から急速に硬化させ、巨体を拘束し始めた。
プレゼント・マイクも咆哮に対抗すべく個性で大音響を放つが、ワン・フォー・オールで強化されたインドミナス・レックスの原始的な咆哮には敵わなかった。
しかし、その一瞬の連携は、時間の猶予を生んだ。
その隙を見計らってサー・ナイトアイが僅かに生き残った、錯乱状態の受験生達を安全な通路へと急いで避難させた。
インドミナス・レックスは、捕食対象が奪われることに激しい怒りを示した。セメントの拘束をOFAの力でミシミシと破壊し始める。
「ーーーー!」
彼が避難する受験生へと攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、グラントリノが超高速で彼の進行方向を塞ぎ、強烈なタックルで巨体を押し戻した。
インドミナス・レックスは、抵抗する英雄たちに憎悪を込めて、全身のワン・フォー・オールの力を爆発させた。
「ーーーーー!!!!!」
その咆哮と共に、彼の白い装甲は、さらなる進化を見せた。
エン「此奴、炎が効かなくなってるだと!!?」
エンデヴァーが放った高熱の炎はインドミナス・レックスの装甲を焦がす事は不可能になっていた。恐らくワン・フォー・オールの力とインドミナス・レックスの力が作用して耐炎という新たな防御機構へと発達していたのだ!
拘束を破壊し、エンデヴァーの炎を無効化した白い悪魔は唯一の狩りの対象である避難する受験生たち目掛けてワン・フォー・オールを全身に纏わせ、凄まじい速度で突っ込んだ!
「もう駄目だ! 逃げられない!あいつの目、殺意しかない!」
「お母さん! 私はここで死ぬの!?お願い、やめて!」
英雄たちの努力は、全て徒労に終わろうとしていた。
凄まじい速度で迫るインドミナス・レックス。避難する受験生まで、あと数十メートル。
その殺戮の進路に、一人の少年が立ちはだかった。
出久の幼なじみ「爆豪勝己」だ。
彼は全身から轟音と共に爆発を噴出させ白い悪魔の前に立ち塞がった。
ワン・フォー・オールを纏い、殺戮の衝動を加速させたインドミナス・レックスが爆豪勝己目掛けて突進!
AM「逃げるんだ!爆豪少年!!」
エン「死にたいのか!!?」
オールマイトやエンデヴァーは勝己に逃げるよう促すが勝己は断固として動かなかった。
幼稚園で出久の変身を見た時、勝己は他の子と同様、恐怖に飲まれていた。
下に見ていた相手が、何やっても駄目なデクの中に世にも恐ろしい化け物を宿している事に戦慄し、涙が滲み出ていた。
しかし、数時間経ち、その夜。恐怖は変化し、それは彼の心の中でふつふつと煮えたぎり始めた。
「怒り」だ。
誰もが避けるその中心でポツンと縮こまる出久に勝己は腹立たしく感じた。
あのデクが圧倒する“個性”を持っていた。デクに不覚にも恐怖してしまった。
己の“個性”を恐れ、殻に閉じこもる幼馴染。幼馴染の“個性”に恐怖してしまった事による敗北。
その両極端の怒りが勝己はどうしても許せなかった。
結果として勝己は自分の身体を追い込んだ。必ず、
勝「いい加減、目を覚ませよ…デク」
勝己は迫りくる白い悪魔の顔面目掛けて、爆破の熱量を極限まで高めた渾身の一撃を放った。彼の爆破は攻撃であると同時に長年のライバルに向けた最後の訴えだった。
勝「お前はヒーローになるんだろうが!!!! 俺が倒す最高のヒーローに!!」
その刹那ー!
ズ…ズザザザーー…!
インドミナス・レックスの動きが、一瞬だけ、本当に一瞬だけ、完全に止まった。
その一瞬の静止……。それは理性の欠片が本能を打ち破った奇跡の瞬間だった。
その隙を見逃さなかったのは満身創痍で激痛に耐えながら、ただ、この時を待っていた《イレイザーヘッド》だった。
消太は内臓の損傷と全身の打撲の激痛を歯を食いしばって耐え、最後の力で、インドミナス・レックスの巨体目掛けて跳躍した!
シュッ!
相澤の捕縛布が白い悪魔の太い首元に正確に巻き付き、彼はそのまま巨体の背中へとしがみついた。
身の危険を察知したインドミナス・レックスは再び理性を失い必死で暴れ出した! 彼は、相澤を引き剥がそうと、地面に体を叩きつけ、壁に擦り付けようとする。
「ーーーーーーー!!!」
しかし、相澤は個性の抹消が成功するまで絶対に離さないという鋼の意志で捕縛布に全体重を預けた。
そして、相澤の瞳が、赤い光を最大限に輝かせた。
“個性”《抹消》発動!!
相澤の《抹消》が、ワン・フォー・オールとインドミナス・レックスという二重の凶悪な個性に直撃した。
インドミナス・レックスの全身を覆っていた緑の電流は瞬時に消え去り、白い装甲は音を立てて崩壊し始めた。
巨大な肉体はまるでゴム風船がしぼむように激しく暴れながら元の姿へと戻っていく。
巨大な白い肉塊がみるみるうちに縮小し、最後に残ったのは血と汗、泥と瓦礫にまみれた一人の痩せ細った少年の姿だった。
緑谷出久。
彼は、激しい個性の反動と肉体の疲弊によって意識を失い、その場で倒れた。
出久の体は白い怪物の爪によって上半身は衣服を完全に引き裂かれ、その華奢な上半身は傷だらけの裸になっていた。下半身は最初の暴走で着用していたボロボロのジャージズボンだけが辛うじて残っていた。
消太もまた、激しい肉体の疲弊と致命的な損傷によって意識を失い、出久の傍らに倒れた。
インドミナス・レックスが消え去り、緑谷出久というただの少年に戻った事で地獄絵図と化した施設に一瞬の、しかし重苦しい静寂が訪れた。
ミッドナイトは眠り香の個性と鞭の全力の抵抗で全身の力を使い果たし、激しい呼吸を繰り返しながら震える声で呟いた。
MN「これで…終わったの…?」
プレゼント・マイクは、個性を過剰使用した喉を抑え、冷や汗を流しながら、安堵と恐怖がないまぜになった表情で言った。
PM「俺、マジで三途の川が見えた…地獄のBGMが聞こえてた…」
意識を失い、血と泥、そして無数の死体の血で汚れた床に倒れ伏す出久の姿。その細い体には、殺戮を繰り返した怪物の面影は微塵もない。
雄英教師の面々とプロヒーロー達は、全身の疲労と最悪の事態を何とか食い止めたという安堵、そして愛弟子が引き起こした惨劇への途方もない罪悪感に苛まれながら、その小さな体を見つめるしかなかった。
しかし、その静寂を切り裂いたのは生き残った受験生たちの濁った、憎悪に満ちた叫びだった。彼らは、肉体的な痛み以上に精神的な地獄のトラウマに支配されていた。
「何してんだよ…オールマイト」
その言葉を皮切りに…。
「殺せよ… 何で放置してんだ!その化け物を殺せ!」
「オールマイト、アンタは平和の象徴なんだろ!? だったら早くその化け物を殺してくれよ! 俺たちの地獄を終わらせてくれ!」
「とっととコイツを殺せ!! 俺の友達は内臓を食われたんだぞ!コイツを生かしておく意味なんてどこにある!」
受験生達の感情が爆発。インドミナス・レックスの足元で下半身を潰され、地獄の激痛に耐えていた者の叫びは、悲痛を極めた。
「こいつのせいで俺の脚が!! もう動かない!俺の未来を返せ! 殺せ!今すぐ、地獄に落とせ!」
「「「殺せ!殺せ!殺せ!」」」
生き残った受験生達から一斉に殺意の混じった罵声が、倒れた出久の体に集中した。彼らの目には、出久の姿ではなく、白い悪魔の残像だけが映っていた。
プロヒーローたちが、彼らの叫びを前に言葉を失い、動けない中で、一人の少年が、怒りを込めて彼らの前に立ちはだかった。
勝「うるせぇッ! 何も知らねぇモブが騒ぐな!!!」
勝己は彼の全身は爆破の熱で蒸し暑く、憎悪に満ちていたがその瞳は真実を見ていた。出久を擁護したのではない。彼はデクというライバルの苦悩と力を最も近くで見ていた者として、その存在を他者に汚されることを許さなかった。
勝「デクを殺すのは、この俺だ! テメェらモブの指図なんざ、聞くかよ!」
彼の叫びは周囲の憎悪の叫びを一時的に鎮静化させた。
こうして、雄英高校の入試実技試験は大量の負傷者と死者、そして永遠に消えないトラウマを残して終わりを迎えた。
白い悪魔が英雄の良心を弄び、希望を絶望へと叩き壊したこの凄惨な一日は、プロヒーローの歴史、そして雄英高校の暗部に、血文字で刻まれることとなった。
これがこの世に、そして雄英高校に今もなお残る「東の雄英地獄絵図物語」ある。