※この作品はR-18です。

僕の制御不能なヒーローアカデミア   作:龍座

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14話 TDLと得たもの

相澤に促され、重い足取りで向かった先は、雄英高校が誇る巨大な屋内訓練施設「体育館γ」だった。

 

重厚な防音扉が開くと、そこには広大な空間と、あらゆる地形をシミュレート可能な最新鋭の設備が広がっていた。

 

消「ここは『トレーニング(T)の台所(D)ルーム(L)』。……通称、『TDL』だ」

 

(((TDLはマズそうだ!!)))

 

世界的に有名な某夢の国と全く同じ略称。

 

殺伐とした地獄の入学初日に、あまりにも不釣り合いで、かつコンプライアンス的に危うい響き。

 

勝己、焦凍、目蔵、踏影は眉ひとつ動かさず状況を受け入れていたが、残りの面々は、心の中で盛大なツッコミを禁じ得なかった。

峰田(夢の国どころか、俺らにとっちゃ『Too Dead Land(捕まったら最後)』の略にしか聞こえねーよ!!)

 

相澤は生徒たちの内心の動揺など露知らず、淡々と話を続けた。

 

消「お前たちにはここで徹底的な個性特訓をしてもらう。……言ったはずだ、過酷な道になると。通常のカリキュラムに加え、放課後、休日、すべてをこの特訓に注ぎ込んでもらう。一種の部活動だと思え」

 

すると消太の目に落ち込む出久が映る。

 

消「緑谷」

出「……」

消「緑谷!」

出「ハ、ハイ!?」ビクッ

消「除籍された彼奴等の事を考えてるのか?」

 

出久を悲しげな表情で頷いた。

 

除籍を宣告された元クラスメイトたちが呪詛の言葉を吐き、憎悪に歪んだ顔でグラウンドを去っていく。その背中を見送る緑谷出久の心は、ナイフで削られるような痛みに支配されていた。

義足の音、過呼吸の喘ぎ、それらすべてが、自分が引き起こした「地獄」の証だった。

 

出「…僕のせいで…僕があんなことをしたから、皆は…!僕さえいなければ、彼らはヒーローになれたはずなのに!僕が…僕がみんなの人生を壊したんだ!!」

 

出久は地面に膝をついた。彼の瞳からは、自責の念に駆られた涙が溢れ出す。

 

しかし、相澤消太の反応は冷徹だった。

 

消「顔を上げろ、緑谷……あれは彼奴等の自業自得だ。恐怖に飲み込まれ、私情で仲間を排除しようとする者に、人命を預かる資格はない……それに、お前には絶望している暇などないぞ」

 

消「後悔してるんなら焦れ。そして、死に物狂いでその《インドミナス・レックス(個性)》を使いこなせ。それが今、お前に出来る贖罪だ」

 

冷たい言葉だが彼なりに励ましてるのだろう…。

一先ず出久の心は少しくらいはマシにはなったと思う。

 

消「緑谷。お前はまず、『怪物』の出力を1%刻みで制御する訓練だ。少しでも暴走の兆候が見えれば、俺が即座に抹消し、爆豪が爆破で強制停止させる。……死ぬ気で来い。さもなければ、本当に死ぬことになる」

 

勝「ハッ、上等だ。その化け物の首、いつでも吹き飛ばしてやるよ」

踏「闇を飼い慣らすための聖域か。……望むところだ」

焦「……」

 

焦凍は静かに、しかし熱い闘志を宿した瞳で出久を見つめる。

 

出久は、まだ震える右手を強く握りしめた。相澤の言う通り、止まっている暇はない。この力が「人を生かす力」に変わるまで、何度でも地獄を潜り抜ける覚悟を決めたのだった。

 

除籍された者たちの「呪い」を背負い、残された9名による、血と汗とそして「白い悪魔」との共生を目指す地獄の特訓が、この「TDL」で幕を開けた。

 

ーーー

 

「TDL」の広大な空間は、瞬く間に各々の限界を突破するための「修練場」へと変貌した。

相澤の冷徹な監視のもと、生き残った9名は、文字通り「血と汗と胃液」を撒き散らしながら、ヒーローとしての最低条件である「個性の底上げ」に挑む。

 

勝己はドラム缶に張られた45度以上の熱湯に両腕を深く突き入れた。熱によって汗腺を強制的に抉じ開け、爆発の源泉である「ニトロのような汗」を限界まで分泌させる。ふやけ、真っ赤に腫れ上がった掌を空にかざすと同時に、鼓膜を劈く爆音を連発した。

 

勝「足りねぇんだよ!!もっと出ろ!!クソデクをブッ殺すための火力が、こんな程度で足りるかよ!!」

 

肉が焼けるような異臭を漂わせながら、彼はさらなる爆発の規模を求めて絶叫する。

 

焦凍は壁一面を巨大な氷塊で埋め尽くしていた。ただ凍らせるのではない。より速く、より鋭く、絶対零度に近い温度を維持しながら、その「密度」を極限まで高める訓練だ。周囲の空気が凍りつき、彼の右半身は霜で白く染まる。凍傷寸前の激痛を無視し、彼は静かに、しかし冷酷に氷を生成し続けた。

 

目蔵は相澤が放つ不規則なターゲットに対し、《複製腕》を高速で展開。耳、口、目を瞬時に増殖させ、多方向からの情報を処理しながら正確に叩き潰す。肉が盛り上がり、骨が組み変わる生々しい音が絶えず響く。

 

踏陰はセメントスが急造した「光の射さない人工洞窟」。その闇の底で、暴走する《黒影(ダークシャドウ)》と対峙していた。

 

踏「鎮まれ黒影…!!グワアァァァ!!」

 

洞窟内からは、黒影が岩壁を削る凄まじい音と、常闇の苦悶の声が響き渡る。闇に呑まれそうになる意識を繋ぎ止め、彼は悪魔を飼い慣らそうとしていた。

 

優雅は何度も《ネビルレーザー》を放出し続けていた。腹部を貫くような激痛と下痢の予感に悶絶し、白目を剥きながらも「輝き」を止めない。

 

力道は山積みの砂糖菓子を口に詰め込み脳が焼け付くような糖分の過剰摂取の中で、筋力増強の限界時間を一秒でも延ばそうと咆哮する。

 

口司は叫んだ。喉から血が滲むほどの発声練習を繰り返し、《生き物ボイス》の伝播距離を物理的に拡大させるために。

 

実は最も壮絶だった。頭皮から《モギモギ》を千切り続け、頭皮は裂け、鮮血が顔を伝う。しかし、彼は泣きながらも手を止めない。「血が出ない、鋼のような頭皮」を手に入れるまで、彼は自らを傷つけ続けた。

 

凄まじい熱気と怒号が飛び交うTDLの片隅に急遽作られた室内で、出久だけは微動だにせず座っていた。

 

彼は、意識を内面へと向けていた。

 

血管を流れるOFAのエネルギー。そして、その奥底に潜み、隙あらば肉体を突き破ろうとする「インドミナス・レックス(白い悪魔)」の鼓動。

 

出(静かに……もっと静かに……。暴れようとするな。僕の一部になれ……)

 

彼の周囲だけ、空気が重く澱んでいる。時折、彼の右腕の皮膚が、生き物のようにピクリと波打ち、白い鱗が覗いては消える。

 

それは、暴発寸前の爆弾を抱えながら、その導火線を素手で握りしめているような、極限の精神集中だった。

 

消「…………」

 

相澤は、生徒たちの地獄のような努力を黙って見つめていた。

除籍した者たちの恨み、社会からの白眼視、そして体内の怪物。

それらすべてを跳ね除けるには、この「地獄」を日常にするしかなかった。

 

ーーー

 

夕闇迫る雄英高校の校舎外。TDLでの「地獄の特訓」を終えた出久と勝己は、極限まで追い込まれた肉体を引きずるようにして歩いていた。

 

出久の右腕は、侵食を無理やり抑え込んだ反動で黒ずみ、細かく痙攣している。勝己もまた、両腕に包帯を巻き、熱を帯びた掌を冷ますように苛立たしげな足取りだった。

 

その時、背後から駆け寄る小さな足音と声が響いた。

 

「緑谷!待てよ、一緒に帰ろうぜ!」

 

振り返ると、そこには実を先頭に、踏陰、優雅、力道、口司等の姿があった。さらにその後方から、静かな威圧感を放つ障目蔵と、氷のような眼光を宿した焦凍が歩み寄ってくる。

 

出久は、反射的に身体を強張らせた。彼らにとって自分は、かつて入試会場で死の恐怖を植え付けた「化け物」そのものであるはずだ。

 

出「……え、あ……みんな……?」

 

出久の喉から、かすれた声が漏れる。彼は伏せ目がちに、恐る恐る、しかしずっと胸に溜まっていた問いを口にした。

 

出「……どうして……? 僕は、君たちを殺しかけたんだよ。君たちの友達や、受験生を、あんなに……僕を見て、怖くないの……? 憎くないの……?」

 

その問いに、クラスメイトたちは足を止めた。一瞬の沈黙。出久は、再び罵倒や石が飛んでくるのではないかと身構えた。

だが、口を開いた実の言葉は、出久の予想を根本から覆すものだった。

 

実「……そりゃあ、最初は死ぬほど怖かったさ。今だって、お前のその右腕がピクって動くだけで、心臓が口から飛び出しそうになる。」

 

峰田は、震える手で自分の頭に巻かれた包帯を触りながら、真っ直ぐに出久を見上げた。

 

実「でもよ、あの個性把握テストの時……お前、泣きそうな顔しながら必死に自分を抑えてただろ。怪物に身体を乗っ取られそうになっても、『まだやれる』って相澤先生に食い下がって……。」

 

砂藤が隣で力強く頷く。

 

力「ああ。俺たちは見たんだ。お前がその“個性”を楽しんでるんじゃなくて、一番その“個性”に苦しめられてる……お前も、あの怪物の『被害者』なんだってな。」

 

常闇が腕を組み、静かに、しかし深い響きのある声で言葉を継いだ。

 

踏「闇を抱えぬ者などいない。だが、己を喰らおうとする深淵の化け物と真っ向から対峙し、他者を守るために制御しようとするその魂……我らには、それが**『かっこいい』**と映ったのだ。」

 

障子目蔵が、大きな複製腕を一房、出久の肩に優しく置いた。その体温が、震える出久の心に伝わる。

 

目「緑谷。お前は確かに惨劇を起こした。だが、そこから逃げずに雄英に来た。お前の苦闘を、俺たちは否定しない。」

焦「…………」

 

焦凍は、何も言わなかった。しかし、その視線にはもはや「外敵」を見るような鋭さはなく、自分と同じように「親から、あるいは運命から呪われた力」を持つ戦友を見るような、静かな共鳴が宿っていた。

 

優雅と口司も緑谷に笑顔で頷いた。

 

出久の瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。

社会から、親族から、そして除籍された元クラスメイトたちから「悪」として断罪され続けてきた彼にとって、彼らの言葉は枯れ果てた心に注がれる慈雨だった。

 

出「あ……ありがとう……みんな……ありがとう……っ!」

 

勝「ケッ、湿っぽぇんだよ!!」

 

勝己が毒づきながらもその場を立ち去ろうとはせず、一団の先頭を歩き出す。

 

勝「……さっさと歩け、デク。明日も訓練が待ってんだ。モブどもに置いていかれんじゃねぇぞ」

 

夕焼けに染まる通学路。かつて「地獄の王」と呼ばれた少年は、今、彼を「仲間」と呼ぶ者たちと共に、初めて一歩を踏み出した。それは、血塗られた運命を塗り替えるための、本当の意味での入学式だったのかもしれない。

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