爆豪勝己の宣戦布告のような言葉を胸に、出久は折寺中学校からの帰路についていた。
出(かっちゃんに「平和の象徴になれない」って言われたけど…)
頭の中で幼稚園以来誰もが抱く自分への「恐怖」と、幼馴染が持つ「闘争心」が激しくぶつかり合っていた。
勝己は別れ際、いつものように爆発を伴う威嚇はしなかったが、静かに、しかし威圧的な言葉を吐き捨てていた。
勝『ウジウジしてる暇があるならとっとと個性の特訓に回せ!!あの化け物の力を制御できなきゃお前は、一生俺の足元にも及ばねぇんだよ。デク!』
出久は重い足取りで歩きながら、胸中で自問する。
出「僕は…ヒーローになれるのかな……?人を救いたいだけなのに、僕の力は人を傷つけるためにあるみたいだ…」
その時、排水溝から不気味な音が響いた。
ヘドロ「Mサイズの…隠ミノ…」
悪臭とともに、ヘドロでできた巨大な塊が噴き出し、出久を包み込んだ。
出「ん”ーっん”ー!!」
ヘドロ「大丈ー夫。身体を乗っ取るだけさ。落ち着いて。苦しいのは約45秒…直ぐに楽になるさ」
ヘドロヴィランの体が出久の口と鼻を塞ぐ。もがく出久の視界が暗転し始め、本能的な恐怖が意識を支配する。
出「ん”ーーー!!!」
ヘドロ「掴めるわけないだろ流動的なんだから!!!」
死の恐怖に直面した瞬間、出久の制御の箍が外れかけた。彼の全身の細胞が、緊急事態に対応するかのように激しく活性化し始める。
出(まずい、体が熱い!変身が…)
首筋にあの硬質な白鱗が浮き上がりかけ、腕の筋肉が異常な膨張を見せ始めた瞬間!
ドォン!!
全てを吹き飛ばすような爆音と共にマンホールが吹き飛び、その中から一人の巨漢が現れた。
「もう大丈夫だ少年!!」
AM「私が来た!」
《平和の象徴》オールマイトだった!
AM「TEXAS…SMASH!!」
彼の登場によりヘドロヴィランは彼の出す風圧一瞬で撃退され、出久は九死に一生を得た。
そして、憧れの声を聞いた出久は意識を手放した。
ーーーーー
AM「へい!へい!」ペペペペペペ
頬を超高速で叩かれた出久が目を覚ます…。
AM「へッ…あ、良かったーーー!!」
出「トぁあああ!!?」
AM「元気そうで何よりだ!!いやあ悪かった!!敵退治に巻き込んでしまった。いつもはこんなミスしないのだがオフだったのと慣れない土地でウカれちゃったかな!?」HAHAHA
AM「しかし、君のおかげさありがとう!!!無事詰められた!!!」
出久(オールマイト!!!本物…本物だ!!生だとやっぱり画風が全然違う!!!)
出「そうだ!サイっサイン!どっか…あっこのノートに…してあるー!!!」
ノートを開くとでかでかとオールマイトのサイン!
出「わあああ〜!!!ありっありがとうございます!!!家宝に!!!家の宝に!!」
オールマイトは出久のその顔を見た時、彼の特殊な“個性”について噂で聞いていたことを思い出した。
AM(この少年が、あの…恐ろしいハイブリッド個性を持つという…)
雄英教師陣の間でも彼の個性は「凶悪すぎる」、「入学させるべきではない」と議論の的になっていた。
普段の姿からは想像もつかない、破壊と殺戮の本能を持つ怪物の噂。
オールマイトの脳裏に、その変身後の姿の資料が一瞬でフラッシュバックした。
出久は震える声で、意を決して問いかけた。それは、彼が何年も抱え続けてきた、重い問いだった。
出「化け物の“個性”でもヒーローは出来ますか!?
化け物の“個性”でもあなたみたいになれますか?」
その言葉を聞いた瞬間、オールマイトは胸を締め付けられる思いがした。憧れのヒーローに、自らの存在価値を問う、切実な問い。
オールマイトは、あえて真剣な表情を崩さずに、出久の個性の本質に触れる説明を始めた。
AM「少年…噂は聞いてるよ。《インドミナス・レックス》…遺伝子工学が生んだ、複数の凶悪な特性を併せ持つ、現代科学が生んだ最も危険な力の一つだと。
獲物を殺すことを楽しむ残忍な本能と狡猾な知能。君が人から恐れられるのも無理はない…それは、破壊と殺戮に特化した個性なのだから」
出久は俯いた。その言葉は医師やクラスメイトから浴びせられてきたものと同じだった。
出「…やっぱり…」
だが次の瞬間、オールマイトは出久の肩を力強く掴みその巨大な瞳でまっすぐに見据えた。
彼の表情は、一瞬の迷いもなく、圧倒的な肯定の光を放っていた。
AM「しかし!少年!よく聞きたまえ!」
オールマイトの声は響き渡るような力強さがあった。
AM「個性とは、君という『人間』の体の一部だ!ただの体の一器官、手足と同じ!生まれた時から備わっていた、君という存在の一部なのだ!」
AM「君がその個性に恐れを抱き、それを『自分ではない何か』、『制御不能な怪物』だと認識している限り、永遠にその力に怯えることになる!」
オールマイトは、出久の心に直接語りかけるように、強く断言した。
AM「君は、その力が『破壊』に特化しているという。ならば、それを『救済』に転じる道を、血反吐を吐いてでも見つけ出すのがヒーローではないかね!?」
凶悪な個性だからこそ、それを抑え込み、人を救うことに使えた時、君は誰よりも強い意志を持つヒーローになれる!個性とは体の一部だ!制御出来ないわけがない!
問題は、君がその力を憎むか、それとも受け入れ、ねじ伏せるかだ!君の心は…どこにあるんだ、少年!」
出久の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。それは、自分の力を呪う涙ではなく、初めて自分の「個性」を真っ向から肯定され、「ヒーローになれる」道を示された喜びの涙だった。
出「…僕の心は…ヒーローになりたいです…オールマイト!」
その瞬間、出久の胸の中に自分の「個性」に対する恐怖ではなく、「制御して見せる」という強い決意が生まれた。
オールマイトの言葉は彼の心を深く突き動かしたのだった。
ーーーーー
オールマイトから「制御できない個性などない」という力強い言葉をもらい、緑谷出久は希望に満ちて家路を急いでいた。
出(オールマイトが言ってくれた…!僕の個性でも、ヒーローになれるって!この力をねじ伏せて、絶対ヒーローになってやる!)
心の中で決意を新たにしたその時、すぐ先の路地裏から、大勢の野次馬と、プロヒーローたちの怒鳴り声が聞こえてきた。
「火力が強すぎて近寄れねぇ!」
「狭い場所じゃ、個性を使ったら周りの被害がデカすぎる!」
その混乱の中心を覗き込んだ出久の目は、凍り付いた。
巨大なヘドロの塊が、一人の少年を包み込み、もがき苦しませている。その顔は、他でもない
出「かっ、かっちゃん!!?」
プロヒーローたちは、爆発的な個性の炎とヘドロの粘性、そして狭い路地という状況に足止めされ、誰も動こうとしない。
出(誰も動かない…!あのままじゃ、かっちゃんが…!)
出久の脳裏に、医師の冷たい宣告、クラスメイトの恐れの目、そしてオールマイトの熱い言葉が交錯する。
AM『個性とは体の一部だ!制御出来ないわけがない!』
出久の体が、本能的に動いていた。彼は野次馬を掻き分け、プロヒーローたちの静止の声すら無視して、ヘドロヴィランへと向かって駆け出した。
「馬鹿ヤローー!!止まれ!!止まれ!!」
プロヒーロー《デステゴロ》が叫ぶが、もう遅い。
ヘドロに顔を埋められ、意識が朦朧とし始めた勝己は、その姿に気が付いた。
(デク…なんでお前が…!来んな…!)
出久は、制服のバッグをヘドロヴィランの目に向かって投げつけた。一瞬ひるんだ隙に、ヘドロに近づき、勝己を掴む。
出「かっちゃん!」
勝「デク…離せ!テメェなんかに…!」
ヘドロヴィランが出久の体にも絡みつき、その体を締め付けた。再び死の恐怖が全身を襲い、個性の暴発の予兆が始まる。
勝「や、やめろ…まだ…制御できねぇのに…!」
全身の筋肉が白鱗の下で激しく膨張し始め、出久の体が急速に変貌していく。このままでは、ただ引き剥がすだけでなく、ヘドロに巻き込まれた勝己まで巻き添えで傷つけてしまう。
その時、出久の口から、掠れた、しかし確かな言葉が漏れた。
出「…君が、救けを求める顔してた」
それは、恐怖と混乱に満ちた勝己の顔、そしてそれを前に動けないヒーローたちを見た、出久の純粋な「ヒーローになりたい」という魂からの叫びだった。
「ーーーーーー!!!!」
制御は、完全に利かなくなった。