彼は破壊された建物のトンネルを猛スピードで突っ切り、その先に広がる次の試験会場との境界線に恐ろしい光景を発見した。
インドミナス・レックスは残りの受験生たちを羊の群れのように、一直線に追い立てていた。
彼の目的は、受験生を食べることだけではない。彼らを別の試験会場との仕切り壁へと誘導することだった。
逃げ惑う受験生たちは、バラバラに逃げようと試みるが、インドミナス・レックスの狡猾な知性がそれを許さなかった。彼は、巨大な身体を用い地面に叩きつけ、土砂と瓦礫を巻き上げて退路を断った。
その間に、抵抗を試みる者たちがいた。
「このままじゃ殺される!やめろ、このバケモノ!」
個性を発動しインドミナス・レックスに投げつける受験生達。しかし、その攻撃はワン・フォー・オールのエネルギーを纏う白い鱗には、火花を散らすのが精一杯だった。
インドミナス・レックスは、抵抗する者たちを最も優先度の高い獲物と見なした。
彼は、抵抗する受験生たちの群れに突っ込み、凶悪な大口を開けた。
ゴグッ!ザグリ!
受験生たちの身体は、喰われ、骨が砕ける甲高い音と共に剛腕でへし折られた後、一瞬で彼の顎に飲み込まれた。彼らの血と体液が、インドミナス・レックスの白い装甲を赤黒く汚し、彼の喉元を膨らませる。
彼は、食べるという行為が、獲物たちの絶望を増幅させ、恐怖による制御を強めることを知っていた。
遂に生き残った受験生たちは別の試験会場との境にある分厚いコンクリートの壁へと追い詰められた。
必死に壁を破壊しようと“個性”の攻撃や素手で叩きつける者もいれば、結局は、麗日お茶子と飯田天哉を含む数名の受験生達は壁に背をつけ、来るべき終わりを待つしかなかった。
突っ込んでくるインドミナス・レックスはその巨大な体にワン・フォー・オールの緑色の電流を最大出力で集中させた。
オールマイトは、その意図を理解し、激しい焦燥感に駆られた。
AM「(マズイ!奴は、OFAの力で、この壁を破壊し、次の試験会場で虐殺を始めるつもりだ!)やめろ!緑谷少年!!」
オールマイトは、「救う」ことではなく、「止める」ことに全力を注ぎ、渾身の一撃をインドミナス・レックスの巨体目掛けて放った。
AM「TEXAS SMAAAAASH!!」
オールマイトの拳から放たれた強大な風圧は、音速を超えてインドミナス・レックスに迫った。
「……」ニタァ…
一瞬、インドミナス・レックスがこちらを見て笑った気がした…。
奴はそれを待っていたと言わんばかりに、寸前で俊敏に体を捻った!
ドォオオオン!!!
オールマイトの渾身の一撃は、インドミナス・レックスをわずかに掠めただけで、その余波が受験生たちを追い詰めていた壁に直撃した。
壁は、コンクリートの破片を撒き散らしながら、完全に吹き飛ばされた。
オールマイトの力が白い悪魔の新たな狩り場への逃走経路を、図らずも開通させてしまったのだ。
「あ…」
壁が破壊されたことで、生存本能が再燃した数名の受験生たちはその開いた通路へと一目散に逃げ出した。
作戦が成功したインドミナス・レックスは、満足げな、勝利の咆哮を上げる。彼の口元には、まだ生々しい血肉がこびりついている。
「グルルルルル!!」
彼は、逃げ惑う獲物たちと、新たな獲物たちを求めて、その破壊された壁の通路を、獰猛な勢いで追跡していった。
オールマイトは、自らの手で愛弟子の暴走を助長してしまったことに、全身の力が抜けていくのを感じた。
AM「やめろ、緑谷少年!!!」
白い悪魔は、崩壊した壁の穴をくぐり、次の試験会場、第3試験会場へと、さらなる殺戮のために足を踏み入れた。その先には、彼の獲物である、爆豪勝己を含む、何も知らない受験生たちが待っていた。
ーーーー
PM『逃げろお前等ーー!!これは試験じゃねえ!!マジで死ぬぞ!プロヒーローの指示に従って避難をするんだ!!!』
突然の事に戸惑う受験生達。中には「これも試験なのか?」と楽観視してる者もいた。
だが勝己だけは確信を持っていた…。
勝(まさか、デク…!)ギリィ…。
その時だった!
ドォオオオン!!
凄まじい轟音と共に、隣接する街区との境の巨大な壁が、まるで豆腐のように一瞬で崩壊した。巻き上がったコンクリートの粉塵と、砕け散った鉄筋が、試験会場の空気中に舞い上がる。
その崩壊した穴から、血と泥にまみれた受験生たちが、絶叫を上げながら雪崩れ込んできた。彼らの顔は、極限の恐怖に歪んでいた。
天「逃げろ!早く逃げろぉぉ!」
天哉が、個性をフル回転させながら必死に叫ぶ。
そして、その受験生たちの背後から、白い悪魔が姿を現した。
勝「
緑色の雷光を纏い、巨大な影を落とすその姿は試験会場の受験生たちにとって、非現実的な、巨大な恐竜の化け物以外の何物でもなかった。
「何だあれ!?」
「あれも仮想敵!?すごいリアルなCGだぞ!」
「やっぱりな!しかも、馬鹿でかい!ポイントも高そうだな!」
インドミナス・レックスの凶悪な外見と、突如としての出現は、多くの受験生たちに「新手のゼロポイントヴィラン」だと錯覚させた。彼らは、ヴィランを破壊することでヒーローの資格を得るという試験の目的に思考が囚われ、目の前の怪物が「生きた、人を喰らう存在」であるという事実を、一瞬にして理解できなかった。
「よっしゃああ!最高の獲物だ!」
数人の受験生が、高得点を狙おうと、それぞれの個性を発動させながら、白い悪魔に向かって勇敢にも突っ込んでいった。だが、彼らの「ヒーローとしての意気込み」は、白い悪魔の前に無力な山羊の叫びでしかなかった。
グシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
その突撃は、一瞬にして地獄の光景へと変わった。
インドミナス・レックスは、突進してくる獲物たちを、ただの一瞥で狩りの対象として認識した。彼はワン・フォー・オール無しでの剛腕の右腕を横薙ぎに一閃した。
シュウッ…ザシュッ!
先頭を走っていた受験生は、硬質な爪によって上半身が腹部から斜めに断ち切られ、内臓が路面にぶちまけられた。
後ろにいた受験生数名は、その体から噴き出した血飛沫を浴びながら、恐怖で足を滑らせた。
さらに別の受験生は、インドミナス・レックスの巨大な顎によって頭部を噛み砕かれ、脳漿と骨片が周囲のアスファルトに飛び散った。
その一瞬の出来事で、「仮想敵」という錯覚は、完全に打ち砕かれた。
数秒前まで「最高の獲物」だと興奮していた受験生たちは、無残な肉塊と化し、地面を赤黒く染めた。
素でこの威力。正に白い悪魔…。
「ひ…ひいぃぃぃぃぃ…」
絶叫が、静寂を破った。
パニックが試験会場全体を覆い尽くした。受験生たちはヴィランを倒すことを忘れ、己の命を守るために無差別に逃げ惑い始めた。
そのパニックの中、転倒した者は、背後から迫る怪物の足音に恐怖し「もう助からない」と悟った。
白い悪魔は、新たな狩場で、新鮮な獲物の悲鳴という「喜びの調べ」を聞きながら、殺戮の道楽を再開した。
インドミナス・レックスは二つ目の試験会場に突入した後も、その冷徹な狩りの作戦を続行した。
奴は、ワン・フォー・オールの力と知性を組み合わせ、新たな犠牲者たちを、次の試験会場へと繋がる誘導路へと追い立てていった。
受験生たちは、肉塊と血の海を横目に、パニックと本能でただ走るしかなかった。
「そこを曲がれ!あそこなら建物が崩れてない!」
「後ろを見るな!奴はまた擬態するぞ!」
インドミナス・レックスは、威圧的な咆哮と、時折繰り出す鉤爪の薙ぎ払いで、逃げ惑う群衆をまとめて一つの方向へと押しやった。彼の腹は、既に最初の試験会場での捕食によって不自然に膨らんでいるにも関わらず、その捕食衝動は収まらない。
その群衆のパニックの中、一人の少女が、自分の個性を頼りに、極限の恐怖に耐えていた。
「葉隠透」。彼女は《透明》の個性を最大限に活かすため、衣服を全て脱ぎ捨て、血と瓦礫で汚れた地面に身を縮こまらせて、じっと息を潜めていた。
透(見えない…見えないはず! 奴は、私に気づいていない…)
インドミナス・レックスが巨大な足音と共に彼女の潜伏場所を通り過ぎた時、葉隠の心に一瞬の安堵が走った。
透(ハァ…ハァ…い、行った…)
その安堵の瞬間こそが、捕食者の待ち望んでいた隙だった。
突然、葉隠透のいた場所の地面が激しく揺れ、インドミナス・レックスの巨大な顎が、隠れていた空間目掛けて開かれた。
ベチャッ!
顎は、裸で縮こまっていた葉隠透の小さな体を、一瞬で捕らえた。牙が肌に食い込む感覚と、血が流れ出す生々しい感覚が、透明な少女の全身を襲った。
擬態していたのだ。
インドミナス・レックスはとっくに赤外線でとっくに気づいていた。その時に自身のカモフラージュ能力を使い、地面の瓦礫と一体化するように完全に姿を消していた。彼は、受験生を追い立てるフリをしながら、見えない獲物が安心する瞬間をゆっくりと待ち構えていたのだ。
血の様な真っ赤に爛々と輝くインドミナス・レックスの瞳が、宙を舞う「透明な獲物」を、明確に捕らえていた。彼の視覚が、擬態によって変化した体温や空気の僅かな歪みを捉えていたのか、あるいは純粋な捕食本能がそうさせたのか、それは分からない。
透「キャアァァァァァァァーーーーー!!!!」
捕食される本能的な恐怖が彼女の喉から魂を絞り出すような絶叫を引きずり出した。
インドミナス・レックスは、捕らえた葉隠透の体を、まるで遊び道具のように、そのまま巨大な体躯を使って上空へと放り投げた。透明な体が、宙を舞う。
その姿は見えず、悲鳴だけが聞こえる。不可視の恐怖が受験生等を一層絶望に突き落とした!
そして、白い怪物は、落下してくる獲物目掛けて、巨大な大口を再び開いた。このまま、葉隠透は、無残な肉塊として、怪物の腹の中へと消える運命だった。
その瞬間ー!
ドガァァン!!!
突然の爆発で奴は一瞬怯んだ。
その結果、インドミナス・レックスの捕食から解放された透だが今度は地面が近づいていた。そのまま叩きつけられると思いきや彼女の体が空中でフワリと包まれた。
インドミナス・レックスの前に勝己現れる。
そこに現れたのは……。
勝「目ぇ覚ませクソナード!!!」
AM「もう大丈夫だ!」
勝己とオールマイトだ!
彼はこの会場でデクが怪物へと変貌したという事実に誰よりも早く気づき、その残虐な狩りを怒りと憎悪に満ちた瞳で追い続けていた。
勝己は全霊の力を右手に込めて最大出力の爆破を獲物を喰らおうと大口を開けたインドミナス・レックスの比較的装甲の薄い目元目掛けて放った後、オールマイトが彼女を救出したのだ!
白い悪魔は狩りが一時的に中断されたのと獲物を奪われた怒りで、緑色の電流を全身に走らせながら、白い牙を剥き出しにした。その視線は、「平和の象徴」と、「最高のライバル」の二人を次のターゲットとして、明確に捉えた。
勝己が間を開けずに先制攻撃を仕掛けた!
勝「
勝己が放つ高威力の閃光がインドミナス・レックスの目を潰す!
AM「SMASH!!!!」
オールマイト奴の顎にアッパーを仕掛けた!
剛腕の振り払いが迫るがオールマイトは奴の両腕を掴んだ!
勝「
その隙に一点に集中させた爆破の光線がインドミナスを貫いた!
「ーーーーーーーー!!!」
インドミナス・レックスの身体に徹甲弾と榴弾砲着弾の攻撃の激痛もダメージが与えられ、奴は悲鳴に近い咆哮を挙げた!
爆豪勝己の最大出力の爆破とオールマイトの完璧な防御と救出が、インドミナス・レックスの動きを一時的に止めさせた。
勝己は、グラントリノの指導で爆破の精度と熱量が飛躍的に向上しており、その攻撃はワン・フォー・オール強化型の白い装甲にも無視できない衝撃を与えた。
オールマイトはグラントリノ譲りの機動力を駆使し、インドミナス・レックスの猛攻を避けながら、強烈な一撃を与え続ける事で怪物の動きを制限させていた。
AM「私はここで、君を止めなければならない!緑谷少年!」
オールマイトの圧倒的なパワーと、勝己の破壊的な精密攻撃の連携は、インドミナス・レックスを追い詰めていく。白い装甲に黒焦げの跡が増え、動きが鈍り始めた、その時だった。
インドミナス・レックスは、再び異様な咆哮を上げ、悶え苦しむように暴れ始めた。
「グルアアアアァ!アアアアァ!」
彼は激しい苦悶の声を上げ、両の巨大な爪で自らの顔を掻きむしりながら、地面をのたうち回るように暴れ出した。鋭い爪が硬質な顔の装甲を深く抉り、そこから新たな鮮血が噴き出す。それは、まるで出久の理性が、怪物の本能を内部から破壊しようと戦っているかのような光景だった。
オールマイトは、その一瞬の隙を見逃さなかった。これが、緑谷少年の最後の抵抗だと信じ、トドメの打撃を放つことを決意する。
AM「緑谷少年!君の努力は無駄にしない!!」
二人は弟子を…ライバルを
AM「DETROIT SMAAASH!!!」
勝「
二人の渾身の一撃が、苦悶するインドミナス・レックスの巨体に炸裂した。
ドォオオオン!!!
凄まじい衝撃波が試験会場全体を揺るがし、血と泥にまみれたインドミナス・レックスの体は、瓦礫と粉塵を巻き上げながら、遥か遠くのビル群の方向へと、勢いよく吹き飛ばされていった。
周囲の受験生たちから、安堵と勝利の歓声が響き渡る。オールマイトは、その歓声を聞きながら、通信機器を操作した。
AM「他の教師陣!私が吹き飛ばした!その隙に、全ての受験生を指定された場所に避難させてくれ!特に怪我人の治療を急げ!」
オールマイトは勝利の余韻に浸りながらもこの会場の受験生たちを避難させるべく、冷静に指示を出し始めた。そして、この場にいた全員の避難が完了した。
AM(コレでもう安心だ。しかし、まさかこの様な結果を生み出してしまうとは…済まない緑谷少年…君の手を汚させてしまった……)
オールマイトの中に後悔が現れる、しっかりと責任を取ることを決め、避難誘導を再開する。
オールマイトが勝己の方を見ると…。
何故か勝己だけは気を抜いていなかった…。
AM「爆豪少年も避難を…」
勝「おかしい…」
彼は吹き飛ばされた緑谷出久について疑問が残っていた。
AM「何がだい?爆豪少年。君のおかげで緑谷少年を無力化できた。あとは教師陣に任せて、避難するんだ」
勝己「何が、だと?…元はデクだ。あんな所で簡単に諦める奴じゃねぇ」
勝己はそう言うと奴が吹き飛ばされた方向へと向かっていった。追いかけるオールマイトと共にその場所に向かうと…。インドミナス・レックスが吹き飛ばされた先の瓦礫の山に
勝「い…ねぇ…畜生ッ!そういう事か!!」
勝己は、全身から力が抜けたような表情で、地面に拳を叩きつけた。
オールマイトは、その異常な反応に、事態の深刻さを悟り、勝己の元へと駆け寄った。
AM「どうした!?爆豪少年!」
勝己は、憎悪と後悔の念に満ちた目でオールマイトを睨みつけた。
勝「デクは…最初からこれが狙いだったんだ!!」
勝己は、憎しみを込めた声で、地獄の真相をオールマイトに突きつけた。
勝「個性で苦しんでいたのも全部演技だったんだよ!!」
勝己の絶叫が、オールマイトの胸に突き刺さった。
AM(演技…だと!?)
インドミナス・レックスは「ワン・フォー・オールで強化されたオールマイトの一撃」と「爆豪勝己の行進の一撃」を「自身が意図した次の狩場への移動手段」として利用したのだ。
自らの暴走と苦痛を欺瞞に使い英雄の力を逆手に取った狡猾な作戦!。
勝「油断して全力で遠くに吹き飛ばすのをワザと待っていたんだ!!それで俺達が油断してる隙に奴は…いや、まさか…あのクソナードだったら絶対に考える」
すると、勝己の顔がこれまでに無いほどに歪んだ。
勝「デクは……
その刹那二人の頭に最悪のシナリオが浮かび上がった。
インドミナス・レックスは態と吹き飛ばされた事で安心した受験生達はプロヒーロー等の指示の元に避難を始める。
当然、彼等は一箇所に集められる。
何て極めて高度で残虐な策略!!
刹那二人は“個性”を全力で使い、出久を追いかけていった!
ーーーーーーー
生き残った受験生たちは、試験会場の奥深くにある、一時的な避難場所として指定された広場に集められていた。
そこには、全ての会場からから避難してきた受験生たちが恐怖と混乱の中で身を寄せ合っていた。彼らの多くは、血と泥にまみれ、顔にはトラウマの影が色濃く浮かんでいた。
広場の周囲を、雄英教師とプロヒーローが個性を警戒しながら、受験生たちを落ち着かせようとしていた。
その時、オールマイトからの緊急の無線連絡が負傷しながらも活動していた13号のヘルメットに届いた。彼の声はかつてないほどの焦燥と緊迫感に満ちていた。
AM『13号!受験生達を連れて急いで離れるんだ!!』
13号は、突如の指示に驚き、辺りを見回した。
13「どうしましたか!?オールマイト!受験生はまだ動揺しています!」
AM『最初から全部私達は奴の手のひらの上で踊らされていたんだ!!今、緑谷少年は――』
オールマイトの無線が、衝撃的な事実を伝えようとした、その刹那。
ズドーン!!
AM『そっちに近づいている!!』
広場の片隅にある巨大な建物の壁が、ワン・フォー・オールの凄まじい破壊力によって、内側から一瞬で粉砕された。粉塵とコンクリートの破片が爆発的に広場へ噴き出す。
「ーーーーーーーーーーー!!!!!!」
無線が途切れた時には白い悪魔が破壊された壁の穴から、地獄の使者のようにその姿を現していた。