「おかわり!」
元気よく言って理子は空になった茶碗を差し出した。にこにこと笑う理子を少し驚いたように見つめ、沙雪が物言いたげに優一郎を見る。理子の前で食事をしていた優一郎が苦笑をして頷くと、沙雪は理子の手から空っぽの茶碗を受け取った。
「大盛りですか?」
また。少し心配そうに沙雪が訊ねる。理子はうん、と元気よく頷いてずずず、と味噌汁を啜った。
ここに来て一つ、もの凄くありがたかったことがある。それは。
「食い放題! ああ、幸せ」
理子は感動してうんうんと頷いた。あれで由梨佳と多輝はごく普通の家族を演じたがっていたから、理子はあの二人の前では普通の子供が食べるほどの食事しかとっていなかったのだ。足りない分は学校の行き帰り、それに水輝のいるあの空間で補っていたのだ。
「これまでは、我慢してらしたんですか?」
大きな釜を開け、茶碗にご飯を盛りながら沙雪が言う。理子はうん、と頷いて揚げたての海老フライを箸でつまんだ。
「どうしても我満出来ない時は買い食いとかしてたんだけど、でもやっぱり足りなくて」
学校の行き帰りに食べた安いハンバーガーのことを思い出して理子はため息を吐いた。限られたお小遣いの中で腹を満たそうとすると、どうしても質より量を取らざるを得なかった。
「あの、私の料理、いかがでしょうか?」
ご飯を山盛りにした茶碗を出しながら沙雪がおずおずと訊ねる。理子はにこにこと笑って茶碗を受け取った。
「美味しいっ。ママよりちょっと落ちるけど、でも十分よ」
上機嫌で言って理子は揚げたてコロッケを皿に取り分けた。箸で割るとほんわかと湯気が立ち上る。
「味付けなどで、ご不満な点がありましたらお申し付けください」
「特に不満はないけど、このくらいの薄さがちょうどいいから、味はあんまり濃くしないでくれると嬉しいなっ」
満面に笑みを浮かべて言ってから理子はコロッケを口に運んだ。
学校の給食は大好きだった。学校では給食を残す子供も多く、理子は密かに彼らにおかずを分けてもらったりしていたのだ。が、あまり度を超すと可憐なイメージが崩れてしまう。だから理子は欲しいのをぐっと我慢して、給食はお代わりはしなかった。
ああ、幸せ。そう言いながら食事をする理子を見つめて優一郎が苦笑をする。視線を感じて理子は何となく優一郎を見た。
「何でパパはあんまり食べないの?」
理子は不思議に思ってそう訊ねた。優一郎の前に並んでいるのは一人前の食事だけなのだ。
「もう、充分食べたし。理子は育ち盛りだから」
二人は理子の部屋で向き合って食事をしていた。にっこりと笑った優一郎を見つめ、理子は何となくふうんと呟いた。特に優一郎の体調が悪い訳ではないのだろう。顔色は普通だし、と呟いてから理子ははっとした。
「も、もしかしてパパ、理子のこと大食いだと思ってる……?」
ちょっと羽目を外しすぎてしまっただろうか。だが、ここから出られない以上、腹を満たそうと思うと素直にお代わりを要求するしかない。理子は不安を覚えて上目遣いに優一郎を見た。
「あの! 料理の量は優一郎さまに事前に指定いただいています」
しゃもじを片手に持った沙雪が戸惑った顔をして言う。ということは、と呟いて理子はうろんな眼差しで優一郎を見た。
「もしかして、理子が買い食いしてたの、知ってたの?」
「由梨佳さん達に任せた以上。教育方針に文句をつけるわけにはいかなかったからね」
「こっそり陰でハンバーガーとか食べてたの、見てたのね?」
じろりと優一郎をねめつけて理子は低い声で訊ねた。そうしつつも理子の箸は忙しく料理を口に運んでいる。あっという間に茶碗を空にした理子は、またお代わりと茶碗を沙雪に差し出した。
「はい。どうぞ」
空の茶碗の代わりにご飯を山盛りにした茶碗を沙雪が理子の手に乗せる。どうやら先に用意してくれていたようだ。ありがと、と笑顔で礼を言ってから理子はまたご飯をかき込みはじめた。
「ぱーぱー? 質問に答えて」
楽しそうに笑う優一郎を上目遣いに睨んで理子は低い声で答えを要求した。
「気付いてなかったのか。理子。君には鈴というヒューマノイドを護衛につけていたんだ」
「えっ!? 鈴ちゃんって、同じ学校の児童じゃなかったの!?」
理子は驚きに目を丸くして問い掛けた。何だか危なっかしい女の子がしょっちゅう現れるものだから、理子はてっきり同じ小学校に通う児童だと思ったのだ。だから理子は鈴が転んで怪我をしたりしないよう、一緒に手を繋いで登下校をしていたのだ。確かにしょっちゅう一緒にいたから、鈴は理子が買い食いをしていたことを知っているだろう。
「彼女は優秀なエージェントだからね」
「鈴ちゃんってよく電車でも痴漢にあったりしてたの。だから理子、いけないことをする痴漢のおじちゃんとかにおしおきを」
すらすらとそこまで語ってから理子は口を噤んだ。思い出せば鈴は危なっかしいことばかりしていた気がする。何かと言えばすぐに天井に昇りたがるし、塀などを見てもよじ登ったりする。止めても聞かないものだから、理子は必要に応じて鈴を失神させていた。
理子は誰かに似て大食いですw