穏やかに寝息を立てる理子の髪を優しく撫で、優一郎は微笑みを浮かべた。腕の中で眠る理子をしばし眺めてみる。どうやら理子も満足したようだ。
眠った理子を起こさないように静かにベッドを出てから優一郎は手早く服を身に着けた。優一郎と理子には広い部屋が割り当てられた。この屋敷の主は、この世界の空の主である女性だ。名前は吉良優子というらしい。
そっと部屋を出たところで理緒が駆けてくる。優一郎は微笑みを浮かべて理緒に手を振ってみせた。
「理子さん、落ち着きましたか?」
不安そうな顔をして理緒が言う。優一郎と一緒にベッドに入るまで、理子は随分と荒れていたのだ。急に知らない世界に入ったこともあるだろうが、どうやら本当の原因はお預けを食らいっぱなしになっていたかららしい。
「ええ。ちょっと精神的に参っていたんだと思います」
少し意味は違うかも知れないが、広い意味では間違っていない。そう思いながら優一郎は答えた。すると理緒がなるほど、と頷く。
「そうですよね。焦らされたままで放置されると、身体だけでなく心も辛いですし」
納得顔で言う理緒を見つめ、優一郎はひくりと眉を震わせた。だがそんな優一郎の表情の変化には気付かなかったのだろう。理緒が手を叩いてそうだ、と言う。
「ママが……えっと、優……一郎さんを、案内するようにって」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
「はい!」
嬉しそうに笑って頷き、理緒がこっちですと歩き始める。広々とした廊下を進みながら優一郎は何気なく周辺の気配を伺った。不思議なほどこの世界の気配は落ち着いている。
「ママの研究所は地下にあるんです」
少し前を行く理緒がそう言って振り返る。優一郎は理緒に頷いてみせた。この屋敷を含め、辺り一帯はどうやら特殊な結界に覆われているようだ。
「空の主は空の主なわけか」
「空の主とは、別名、殻の主、その名はまた空間を現すとも言われていますね」
そちらでは違うんですか? と理緒が不思議そうな顔をして振り返る。
「なるほど」
「え? 理緒、何か変なこと言いました?」
優一郎の微笑みをどういう意味にとったのか、理緒が不安そうな顔をして言う。それから理緒はつらつらとこの世界の構造を大まかに話してくれた。
この世界には魔は存在しない。龍神は四柱を中心に行動しているのだという。その支えとなっているのは天空の王、地上の女王、青の女王、そしてもう一人が空の主と呼ばれる存在だ。
「あっ、お母さん!」
話の途中で理緒がぱっと明るい顔をして駆け出す。その先に居た女性が困ったような顔をして理緒を出迎える。その女性の顔立ちは水輝にそっくりだった。
「優一郎さん! 紹介しますね! 理緒のお母さんです」
嬉しそうに笑って理緒がその女性の手につかまる。女性はぺこりと優一郎に頭を下げてみせた。
「こんにちは。水輝ともうします」
「こんにちは」
にっこりと笑ってから優一郎は理緒に目をやった。
「ママの他にお母さんがいるんだ?」
「あ、う、ええと……」
真っ赤になって理緒がもじもじと指を絡め合わせる。それを見ていた水輝と名乗った女性がまあ、と微笑む。
「理緒、恥ずかしがることはないのよ。優子さんが大好きなんでしょう?」
優しい声音で言って水輝が理緒の頭を撫でる。その言葉遣いも態度も、優一郎の知る水輝とは全く異なっている。理緒は真っ赤になって恥ずかしそうにしつつも、水輝の質問にうん、と頷いた。
「お客様に失礼のないようにしてね。それでは、わたしはこれで」
微笑みを浮かべて優一郎に頭を下げ、水輝がその場から離れていく。
「水輝さん」
「はい?」
優一郎が呼び止めると水輝が不思議そうな顔をして振り返った。理緒が戸惑いの目でそんな水輝と優一郎とを見比べる。優一郎は少し離れていた水輝に歩み寄り、腕をとって抱きしめた。水輝が驚いた声を漏らして目を見張る。唇を寄せる優一郎を拒みもせず、水輝はされるがまままになっていた。水輝の背中を撫でながら、優一郎は深い口づけをした。水輝が優一郎の腕の中でびくんと身体を竦め、掠れた声を漏らす。水輝がくたりと身体の力を抜いたところで、優一郎は水輝の腿を足で左右に開かせた。
「あっ、だめ、佑さん……理緒の前で……」
うっとりとした顔をして水輝が小声で言う。水輝の胸を弄りながら、優一郎は周囲に目をやった。水輝の胸を弄りつつ、じりじりと壁際に移動する。
「あ、あの、優一郎さん……?」
それまで黙っていた理緒がおずおずと声をかけてくる。
「どうしたの? 何か問題でも?」
水輝に壁に手をつかせて腰を突き出させたところで優一郎は振り返った。すると理緒が困ったような顔をして頭をかく。
「あの……お母さんは……いいんですけど……見つかったら……お父さんが……ものすごく……怒ると、思います」
とても言いにくそうにして理緒が言う。
「お父さんって佑?」
「はい……」
にっこりと笑った優一郎とは対照的に、理緒は可哀想なくらいに怯えて青ざめている。
「それはちょっと。怖いね。水輝さん、魅力的だったから、つい粗相をしてしまってごめんなさい。この事は内密に」
そう言ってにっこりと笑って優一郎は水輝から離れた。荒い息をついていた水輝がくたりと床に沈む。理緒が恐怖に歪んだ顔をしてそんな水輝と優一郎とを見比べる。
愉快な世界にきている優一郎の冒険ですw