※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


新婚旅行中なのに 2

「えっと、あの、はじめまして。わたし、奈月と申します」

『見たか! 我が発明! どこでも扉の力を! これぞ科学の力! これぞ科学の勝利!』

 

 扉を開けた向こうに立っていた奈月がぺこりと頭を下げる。それと同時に電話では総一郎がわーわーと喚く。理子はにっこりと笑って電話に向かって言った。

 

「おとといきやがれ?」

 

 可愛らしい声で言って理子はぶつん、と電話を切った。それから、と息を吐いて奈月を指差す。

 

「奈月さん。理子のこと忘れた? はじめましてって、それはどうかと思うの」

「いえ、あの、立派になられて、その、本当に佑さんそっくりでえっと」

 

 扉の向こう側に立ったまま、奈月がそう言う。その瞬間、理子の中でぶつん、と何かが切れた。

 

「似てませんっ」

 

 理子は電話を放り出し、腕組みをしてつんとそっぽを向いた。

 

「ごめんなさいっ」

 

 その場に硬直して奈月が慌てて謝る。理子は唇を尖らせたまま、ちらりと奈月を見やった。奈月は今にも泣きそうな顔をしている。

 

「えっと、奈月さんってお料理とか得意?」

「あっ、はい!」

 

 にっこりと笑って奈月が頷く。きっとそうだろうと思った。何しろ奈月は手におたまを持っていて、エプロンをかけている。そして扉の隙間に見える光景はキッチンだ。

 

「理子にごちそうしてくれたら許してあげるっ」

 

 一転してにこにこと笑って理子は言った。

 

「それでは、えっと……あった」

 

 扉を超えて部屋に入ってきた奈月がそう言いながら小走りに理子の前を過ぎる。部屋の隅にあった小さなちゃぶ台に奈月が駆け寄る。

 

「なーんだ。理子、奈月さんの手作りの料理をおなかいっぱい食べようと思ったのにー」

 

 理子は足をぶらぶらさせながら不服を唱えた。

 

「あの、畳の上に直接置くわけにはいかないと思います」

「えっ、食べさせてくれるの!?」

 

 だが奈月は手におたまを持っているだけで、料理はどこにもない。理子は目を輝かせてから首を傾げた。

 

「では少々お待ちくださいね」

 

 ちゃぶ台を開き、畳に置いてから奈月が扉の中に駆け戻る。理子が行った方が早くない? そんなことを理子が考えている間に奈月が料理の乗った盆を手にして戻ってくる。手際よくちゃぶ台に皿を並べ始めた奈月を見つめ、理子は笑顔で訊ねた。

 

「ねえ奈月さん。何で実体化してるの?」

「総一郎さんに呼ばれたんです。鏡を使える人材が必要だって」

「ふうん」

 

 呟くように返事をしてから、理子はちゃぶ台に近付いた。

 

「でも、あそこで奈月さんってあの人とか先生と同じ、むき身の魂の状態だったよね? もしかしてあの人も、そんな風に実体化出来るの?」

 

 理子はありがたくちゃぶ台の前に座り、箸を取り上げた。並んでいるのは和食だ。

 

「わかりません。ただ、器さえなんとかなれば可能だと思います。器を再生するには充分な力も既にもってらっしゃるし」

 

 困ったような顔をして、奈月が胸に空になった盆を抱える。いただきます、と行儀良く挨拶をして理子は凄まじいスピードでご飯を食べ始めた。

 

「器、ないんだ?」

 

 煮付けの魚を箸で器用に分け、ほぐした魚の身を口に放り込み、白いご飯をかきこむ。そうしながら空いた箸で今度はたくあんを取り上げ、ご飯にのせたところで山菜の炊き合わせをつつく。理子は目にも留まらぬ速さであっという間に奈月の用意してくれた食事を平らげた。

 

「お代わり用意しました」

 

 にっこりと笑って奈月がまた新しく理子の目の前に料理を一人前並べてくれる。理子はありがとう、と笑顔で礼を言ってまた食事を始めた。

 

「理子、おなかぺこぺこだったの!」

 

 食欲が満たされる幸せに浸りながら、理子は慌ただしく食事を続けた。理子が食事を平らげるたびに奈月が新しくまた一人前の料理を用意してくれる。それを数回ほど繰り返したところで、鏡の扉から一人の男がひょっこりと顔を覗かせた。

 

「あの、姫様? 吉良博士がお呼びですが」

 

 理子は箸を咥えて立ち上がり、もの凄い勢いで扉に駆け寄った。え、と声を上げた男の顔面に回し蹴りを叩き込む。

 

「誰が理子の裸を見ていいって言ったの!? え!? 奥歯がたがた言わすぞ、ごら!」

 

 扉の向こうに吹っ飛び、壁にめり込んだ男に向かって理子は怒声を張り上げた。

 

「理子さん。それではわたし、いったん戻りますね」

 

 ぺこりとお辞儀をした奈月が慌ただしく扉の向こうに戻っていく。壁にめりこんで目を回している男を起こし、奈月が扉の中の景色から消える。ほどなく、その場に今度は別の男が姿を見せる。

 

「うむ。理子くん。つい感極まってしまい先ほどは失礼した。科学者としてあるまじき態度、深くお詫びしたい」

「きゃああああああああああああああああああ!」

 

 唐突に現れた男が深々と頭を下げるのを余所に、理子は全身を震わせて悲鳴を上げた。もしかしたら本能が働いて、相手を攻撃しなかったのかも知れない。が、その時の理子はそんなことは考えず、胸を腕で隠して悲鳴を上げながらその場にしゃがみ込んだ。

 

「うむ? こ、これは失礼した。奈月くん! 服を持って来たまえ」

「ちょっと待てこら!」

 

 低い声で言って理子は扉の前から去ろうとした男の腕をがしりとつかんだ。せりふの内容と、声から考えると多分、この男が総一郎なのだろう。

 

「理子! どうした! 何があった!」

 

 血相を変えた優一郎が部屋に転移してくる。だが傍に現れた優一郎を余所に、理子は不敵に笑って言った。

 

「理子の裸をタダ見で逃げようたあ、ふてえやからだ! 神妙にお縄につけ!」

 

 いつか見た、ビデオディスクのことを思い出しながら理子は剣呑に総一郎に言った。

 

「面目ない」

 

 総一郎が目を閉じて深々と頭を下げる。くくく、と悪人顔を作って笑ってから、理子は改めて総一郎と優一郎を見比べた。扉のこちらと向こうで対面した二人は、何やら複雑な顔をしている。




理子は裸なのですがエロっぽくないのでエロシーンはないと思います。
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