仲良く布団に転がった優一郎を理子がそうするのが当たり前、という顔をして両腕にしっかりと抱きしめる。理子の胸に抱かれながら優一郎はほっと安堵の息を吐いた。さっきまで感じていた緊張がゆっくりと解けていくのが判る。
理子が総一郎に触れたあの時、言いようのない怒りと焦りがこみ上げた。だが優一郎は何とか平静を装おうとした。ここで取り乱してはいけないと自分に必死で言い聞かせた。
だが、総一郎に理子が連れていかれてしまう、と感じた瞬間、優一郎は我を忘れた。理子を連れて逃げることしか考えられなかった。優一郎は特に目的地も決めずに乱暴にその場から転移した。
「いいこいいこ。ふふ。何だか理子、ママになった気分」
優しく優一郎の頭を撫でながら理子がそんなことを言う。優一郎はそんな理子の胸に顔を寄せて微笑みを浮かべた。自分がどうして冷静で居られなくなるのか、その理由を優一郎は知っていた。優一郎は幼い頃からずっと総一郎に対してコンプレックスを抱いていたのだ。
欲しいものを全て取られているような気がした。周囲からは総一郎のように立派な科学者になるようにと無言で求められた。いつも総一郎と比較され、ある時は身代わりにされ、そんな日々を送るうちに優一郎の心には黒い、言いようのない暗い感情が芽生えたのだ。
寂しさともそれはよく似ていた。本当の家族でないと判ったあの時、優一郎はそのことを喜んだ。これで呪縛から漸く逃れられる。そう思った。かねてから欲しいと思っていた由梨佳をこれで手に入れることが出来る。そのために学んだヒューマノイド工学だ。
だが由梨佳の実態を見た優一郎は失望した。由梨佳に憧れを抱くあまりに理想化していたのだ。そんな自分の心の動きに気付いた時、優一郎はヒューマノイドに何故自分が拘るのか、その理由に気が付いてしまった。
負けたくなかった。総一郎に。総一郎を超えられれば、きっと自分の本当の価値が見出せる。
欲しかった斎姫も手に入れた。由梨佳も間接的にではあるが手に入った。多輝も、そして呉羽も、欲しいと思っていたものを全て手に入れたつもりだった。
心にずっと落ちていた黒く暗い影のことを優一郎は静かに話していた。理子は優一郎の頭を優しく撫でながら黙って話を聞いている。
「どうやっても負けたくない。今から考えるとバカみたいだけど、確かにそう思ってたんだ。人生に勝ち負けなんて決められないのにね」
「うん」
そっと頷いて理子が優一郎の身体を両腕に強く抱きしめる。優一郎はその感触にほっとして話を続けた。
多輝を手に入れた時、これでやっと落ち着けるのだと思った。もう、総一郎を気にすることもなく、心の陰もきっとなりを潜めるに違いない。そう思っていた。
だが現実は違っていた。多輝は確かに一緒にいると楽しいし、なくしたくないと思う。多輝のことは可愛くて仕方なくて、だから護りたいと思う。だが、多輝と一緒にいるはずなのに優一郎は何故か寂しさも覚えていたのだ。
日常的な話をするのならいい。多輝は頭はさほど悪くはないし、こちらの言うこともよく理解してくれる。優一郎が指示すれば二つ返事で魔を倒しにも行くし、恥ずかしがりながらもあの衣装を身に纏って魔法少女の真似事をしてくれる。身体は優一郎が望めば機械仕掛けのものにもなるし、少し離れていたい時には生身にもなる。
だが、こと龍神や世界の仕組みについての話になると、多輝はさっぱり理解してくれないのだ。機体に直に情報をインプットしても、根気よく教えても、多輝は優一郎の話を理解してくれない。まるで頑丈な鍵でもかけられているかのように、多輝は話を理解しようとしなかった。
最初は優一郎も根気よく多輝に話をしようとしたのだ。だがそういう時、多輝は必ずヒステリーを起こして話を中断させる。可愛さ故に優一郎はそんな多輝に無理強いをすることが出来なかった。だから多輝は未だに表面的なことしか理解していない。
もちろん、優一郎の心の陰も多輝は知らない。結局、多輝が優一郎のプロポーズを断ったのも、その辺りに原因があるのだろう。
「以前は何が何でも理解するべきだ、そのほうが多輝にとっても良い、と思っていたけど今は違う。知ることによって苦痛を感じたり、責任が生じる事も、世の中にはあるからね」
「多輝は偶像だもの。人の願いが具現化したものだから」
そっと言葉を紡いで理子が優一郎の髪を指で撫でる。優一郎はその感触に目を細めた。
何でこんな名前にしたのか、自分でも判らない!w
エピタイは自分に判りやすいものにしました。