※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


同じモノがたくさん 1

 軽い電子音を立てて扉が開く。沙耶は眉を寄せてため息を吐いた。

 

「樹の中にエレベーターって変だろ。それに」

 

 額を押さえて呻き、沙耶はちらりと目の前の光景を見た。立城がゆっくりと車椅子を押してエレベーターから降りる。

 

 そこにはまるでビルの中のような景色が広がっていた。違うのは窓がないことくらいだろうか。白い廊下や壁は病院を連想させる。床に硬質な材が使ってあるのか、立城が歩く足音が周囲に響く。

 

「効率を考えて樹の中に作られているだけですから」

「いや、まあ……別にいいけど」

 

 これが立城が見せたいと言っていたものなのだろうか。そんなことを思いながら沙耶は周囲を伺った。どうやら樹の幹の内側に沿って作られているらしく、廊下は緩やかなカーブを描いている。

 

 ふと、沙耶は妙なものを見つけて目を細めた。

 

「あれ? エスカレーター?」

「はい。ここには螺旋状にエスカレーターもつけられています」

 

 そう説明しながら立城が微笑みを浮かべる。二人はエスカレーターの降り口を横目に過ぎ、廊下を進んでいった。しばらく進んだところで立城が足を止める。すると傍にあったドアから一人の男が姿を現した。白衣を身に着けた男を見た沙耶は驚きに目を丸くした。

 

「何だ。また来たのか」

「ごめんなさい。お邪魔でしたか?」

「わたしは構わないがな。来ても意味はないぞ」

 

 淡々と喋る男の姿は沙耶の記憶にある翠そっくりだった。男が立城から視線をずらし、沙耶をじっと見る。沙耶は何となくその視線に耐えられず、黙って俯いた。

 

「時空が捻れている。早く戻すことだな」

「ええ、判っています」

 

 男はそれだけ会話してから二人の横を過ぎ、廊下の向こうに消えた。それを見送ってから立城がじゃあ行きましょうか、と微笑む。沙耶は訝りに眉を寄せてドアを指差した。

 

「ここ、何かあるのか?」

「はい。見せたいものはこの中です」

 

 そう答えて立城がドアを開ける。ドアの向こうは真っ暗だった。廊下側からさし込んだ光が辛うじてドアの向こうにも通路があることを示している。こちらの廊下にそう形で作られているらしい通路の向こうは暗くて何があるか見えない。

 

「行きましょう」

 

 そう声を掛けて立城がゆっくりと車椅子を押す。さっきとは違い、金属製の通路を進むうちに目が利かなくなり、周りのものが見えなくなる。沙耶は緊張に顔を強ばらせ、車椅子の肘掛けを握りしめた。

 

「明かりを点けますね」

 

 しばらく進んだところで立城が言う。沙耶は息を詰めてその時を待った。

 

 不意に目の前に仄かに明かりが灯る。青い光が一つ、また一つと灯っていく。沙耶は驚愕に目を見張り、思わず口許を押さえた。こみ上げてきたものを何とか堪え、肩で息を吐く。

 

 何階層も突き抜けた巨大な円筒状のフロアがそこにあった。そのフロアの外周に沙耶と立城の居る通路は設えてあった。

 

「な、んだよ、あれ」

 

 沙耶は苦しさを堪えて低い声で訊ねた。円筒状のフロアを埋め尽くしているのは透明な筒状の入れ物だった。上下に金属製の留め金がついたそれが、視界を覆っている。数え切れないほどに重ねられたその筒の中には人の身体の一部が入っている。沙耶の目の前には丁度、青い液体に眼球が浮いている入れ物があった。

 

「これが、この世界の水輝です」

 

 車椅子の背後に立つ立城が静かな声で言う。沙耶ははっと目を見張って慌てて振り返った。通路に張り出した手すりに近付き、無数の入れ物を見つめて立城が微かな笑みを浮かべる。

 

「この世界では、欲しい人のところに水輝が配されます。ほら、また」

 

 そう立城が呟いた直後、フロアに不気味な音が響き渡った。映画の上映を報せるブザーに少し似ている。耳に障るその音が鳴り終わると同時に、青く光る筒状の容器の中身が一つ、また一つとどこかに吸い込まれていく。そして何もなくなった筒にはまた、青い液体がゆっくりと満ちていく。

 

 眼球、髪の毛、指、耳。細かい部品はこの大きなフロアの底で一つの形になり、その後に運ばれるという。沙耶は何度も深い息を吐き、こみ上げてくる吐き気を必死で堪えた。

 

 何もなかった青い液体の中に小さな青い光が生まれ、それが増殖し、少しずつ形になっていく。沙耶はしばらく無言で筒の中を見つめていた。

 

「出産直後のやつに見せるもんじゃねえな……」

「ごめんなさい、不快ですか?」

「ったりまえだろうが。何だってこんなもん」

 

 呆れた顔をしてため息を吐き、沙耶は静かに立ち上がった。立城の横に並んでからまじまじと筒状の入れ物を見つめる。

 

「クローンか?」

「出来上がる水輝は紛れもない本物ですから、コピーやクローンとは違うかも知れません」

 

 そう答えて立城が微笑みを浮かべる。

 

「この世界の青の女王とは、水輝の集合体のことを意味します。個体の名称ではないんです」

「じゃあなにか? 渚や佑や奈月のところに一人ずつ奴がいるってことか?」

 

 まさかな、と笑いながら沙耶は訊ねた。すると立城がやけにあっさりと頷く。

 

「そうです。佑さんと奈月さんは二人で一人の水輝を求められましたから、配されたのは一人ですが、渚さんのところにも、優子さんのところにも、そして龍神以外の方のところにも水輝は配されていますよ」

 

 求める者の数だけ水輝は量産される。そしてこの世界は安定を保っている。立城は淡々とそのことを語った。

 

「何で……そんなことに?」

 

 苦しさに胸を押さえながら沙耶は訊ねた。すると立城がそっと微笑んで首を傾げる。座った方がいいですよ、と促されて沙耶は大人しく車椅子に戻った。

 

「わたしが一時的な眠りについた後、話し合いの場が持たれました。何度も彼らは話し合い、そして水輝を分けることにしました」

「分ける?」

 

 訝りを覚えて沙耶は訊き返した。だが、さっき確かに立城は言ったのだ。配される水輝はコピーやクローンではない。それなら分けるという表現はおかしいのではないか。沙耶は思ったままに訊ねた。すると立城が苦笑する。

 

「ここで作られる水輝は全て本物です。魂をコピーしているのですから」

 

 そう言って立城がゆらりと腕を上げ、正面を指差す。

 

「このたくさんの筒の中央にそれがあります。それは力を通過させ、幾つもの器を作り、そこに魂をコピーします」

「それって……」

「源、とでも言った方がいいかも知れませんね。考えることもなく、何かを感じることもなく、ひたすらに魂をコピーし、器を形成する……」

 

 そこまで言ってから立城は手を下ろして手すりにもたれかかった。沙耶は立城をじっと見つめ、渇き切った喉から声を絞り出した。

 

「じゃあなんであんたのところにはいない?」

「何故でしょうね」

 

 寂しそうな微笑みを浮かべて立城が答える。少しの間だけ沙耶を見つめてから立城は正面に視線を戻した。光の粒が筒の中で絡み合い、少しずつ身体の部品を作っていく。




立城という名前が複数あってややこしいいい!(今さら
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