※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


葛葉は葛葉でもあっちのではなくて

 ふと、誰かの足音が聞こえてくる。沙耶ははっとして音のする方を見た。開きっぱなしのドアを超えた誰かがこちらに向かってくる。金属製の通路を歩いている誰かの姿を見止めた沙耶は眉を寄せた。黒ずくめの格好をした知らない少女が歩いてくる。年頃は中学生くらいだろうか。

 

「何だあれ」

「わたしがお呼びしたんです」

 

 それまで沙耶と戯れていた立城が急に真顔になって言う。少女は通路の途中で何故か大きく迂回し、こちらに近付いてくる。二人がいる所に歩み寄った少女は、真っ黒いコートの内側に手を入れ、何かを取り出した。

 

 一枚の巻き紙が少女の手に握られている。少女は紙を留めていたリボンを解き、開いて沙耶たちの方に紙の表面を向けた。

 

「管理局第三支部所属、葛葉と申します。この度は支部員の不手際で大変なご迷惑をおかけしたことをお詫びします」

 

 感情のない声で淡々と言った葛葉が手にしていた紙を丸めてコートの中に戻す。どうやらその紙は葛葉の身分を示すものだったらしい。が、書いてある字は沙耶には読めなかった。

 

 葛葉は顔に包帯を巻いている。片目を覆う格好で巻かれた包帯が痛々しい。よく見ると葛葉の手や足にも包帯は巻き付いている。

 

「ご苦労様です」

 

 そう言って立城が頭を下げる。いえ、と首を振った葛葉は次に沙耶に目を転じた。

 

「これより十五分後にゲートが開きます。速やかに着地点をお選び下さい」

「は? ええと、おれか?」

「はい」

 

 感情のない顔をして葛葉が頷く。どうやら自分がこの世界に紛れているために出てきたらしい。

 

「ちょおっと待ったー!」

 

 唐突に知らない声が響く。沙耶は驚きに身を竦め、慌てて声のした方を見た。さっき葛葉が迂回した辺りに、今度はまた別の知らない少女が立っている。頭にタオルを巻き、枝をさした少女がもの凄い勢いで駆けてくる。そんな少女から少し遅れて誰かが立ち上がる。どうやら二人は通路に身を伏せていたらしい。

 

「優一郎……!?」

 

 沙耶は通路に身を起こした二人目の人物を見止めて息を飲んだ。優一郎は静かな足取りでこちらに向かっている。その間にさっき叫んだらしい少女が勢いよく駆けてくる。

 

「その人、戻しちゃうの!? 理子たちじゃなくて!?」

 

 少女が葛葉に向かって喚く。どうやらこの少女は理子という名前らしい。そのことに気付いた沙耶は真っ青になった。理子というのは確か、水輝と佑の娘だったはずだ。そのことを沙耶は前に立城から聞いていたのだ。

 

「いえ、あなた方にも勿論お戻り頂きます。着地点をお選び下さい」

 

 理子に迫られた葛葉が淡々と言う。それを聞いた沙耶ははっと息を飲んだ。どうやらここに紛れていたのは自分だけではなかったらしい。

 

「駄目だよ! その人を戻しちゃったら、理子また狙われるもん!」

「どういう意味だ」

 

 聞き捨てならない、と沙耶は言葉を挟んだ。すると理子がびしりと沙耶を指差す。

 

「理子を触媒にして! ばい菌はあの人を呼び戻すつもりなのっ! あんたと混ぜるために!」

「混ぜる……ちょっと待て。そのばい菌ってのは立城のことか?」

 

 どうやら理子がいうあの人というのが、水輝のことを指しているのだということは判った。だがばい菌というのはどうだろうか。

 

「ばい菌はばい菌だもん! あーもう、訊き返さないでよっ! 思い出すだけでもの凄くむかむかするんだから!」

 

 理子は佑にとても似ている。そして水輝の面影もある。見た目は絶世の美少女なのに、理子は行儀悪くその場で地団駄を踏んでいる。その様を見つめ、沙耶は何となくため息を吐いた。

 

 ゆっくりとした足取りで歩いていた優一郎が近付いてくる。それを見止めて沙耶は緊張に身を強ばらせた。多分、ここに沙耶を送り込んだのは優一郎だ。優一郎は腕組みをしてつんとそっぽを向いた理子の傍で足を止めた。

 

 でもどうして優一郎も頭にタオルを巻いて枝をさしているのだろう。沙耶は緊張に身をかたくしつつもそのことがやけに気になった。

 

「着地点は選べるんですね。わかりました」

「ですが、他の次元はご遠慮下さい。一昨日未明、巨大な次元震が発生し、ゲートが幾つか破壊されました」

 

 優一郎の言葉に頷きつつ、葛葉が言う。沙耶は戸惑いを顔に浮かべて二人を見比べた。優一郎が葛葉に頷き、理子に向き直る。

 

「理子は僕と同じでいいよね? 先生に習った業。余裕があって、使えるようなら使って」

「え? ええと……? 判ったけど今?」

 

 理子が眉を寄せて優一郎を見つめる。沙耶は答えに迷って唇を噛んだ。

 

「決めたら迷うな。全力で」

「うん、判った」

 

 理子が緊張した顔をして頷く。そんな二人を見ていた葛葉が、今度は沙耶に目を移す。

 

「どちらに致しますか?」

「立城の……ところ」

 

 しばしためらってから沙耶は小声で言った。了解しました、と葛葉が頷く。それから葛葉はまた二人に目を戻した。

 

「お二方はどちらに致しますか?」

「克人くんの、ところへ」

 

 にっこりと笑って優一郎が言う。了解しました、と葛葉が頷く。それから葛葉は立城に向き直った。

 

「この度の件は追って詳細を報告します。くれぐれも……」

「判っていますよ」

 

 穏やかな声音で答えて立城が微笑む。葛葉はじっとそんな立城を見つめてから順繰りに他の三人を見回した。

 

「私事になりますが」

 

 そう前置きしてから葛葉は何故かぺこりとお辞儀をした。

 

「私は無事でいると兄にお伝えしては頂けませんか?」

「了解しました。確かに伝えます」

 

 にっこりと笑って優一郎が言う。沙耶は眉を寄せて訝りの目で葛葉を見た。頭を上げた葛葉がありがとうございます、と言って少しだけ口許を緩める。どうやら本人はそれで笑っているつもりらしい。

 

「兄って?」

 

 片手を上げて言った沙耶の声と理子の声が被る。葛葉は沙耶と理子を見比べて感情のない顔をして言った。

 

「兄は重森和也と申します」

「あー……」

 

 沙耶は思わず納得の声を漏らして頷いた。見ると理子も同じように頷いている。なるほど、確かに和也の妹というなら納得も出来る。かたく感情のない葛葉を見つめて沙耶はしきりに頷いた。

 

「それではゲートを開きます」

 

 そう言って葛葉がコートの中から何かを取り出す。一体、どこにそんなものが入っていたというのか、葛葉はコートの中から巨大な黒い鎌を引っ張り出した。軽々と両手に鎌を握った葛葉が少し四人から離れたところで振り返る。

 

 漆黒の鎌が空気を裂く。その瞬間、沙耶の視界は揺れて弾けた。視界が弾ける寸前、立城が微笑みを浮かべて手を振っているのが見えた。




エピタイで言い訳してますけど!w
何度も言いますけど書いたのは20年以上前なのでー!!
いろいろ突っ込みはナシの方向でお願いします!
判んない人は放置でダイジョブです!
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