このエピソードで七章は終わりです。
「なっ、なに!?」
理子は悲鳴を上げて耳を押さえた。どこかから甲高い耳障りな音が聞こえてくる。理子は身体を丸めて衝撃に耐えた。
「理子。向こうの世界で見た大樹を覚えているかい?」
何故か床が振動しているのに優一郎は平然と立っている。慌てて耳から手を外し、理子は頷いてみせた。
「銀龍神は、天の城と冥界とを結ばなければならない存在だ。だけど、このままでは安全に行き来できないよね?」
「それは……そうかも知れないけど」
それとこれがどう関係するのだろう。理子は考えを巡らせつつも優一郎を伺った。相変わらず床は大きく揺れていて、下手をすると乗り物酔いでも起こしそうなくらいだ。なのに優一郎はやっぱり平然と立っている。
「理子。想像して、根は冥界の門に届き、天の城まで届く大樹の姿を」
言われて理子は脳裏に大きな樹を思い描いた。それは凄いかも知れない、とぼそりと呟く。すると間を置いて優一郎が言った。
「あと、エレベータくらいあってもいいよね。便利だから」
「パパ! それは理子がエレベーターに気付かなかったから、厭味のつもり!? そりゃあ、あのエスカレーターは極悪だと思うけど!」
ぐるぐると、一体いつまで回るのかと言いたいくらいに長い螺旋状のエスカレーターのことを思い出して理子はうっ、と口許に手を当てた。最初は楽しい気分で乗っていた理子も、辿り着く頃には乗り物酔いを起こしていて真っ青になっていたのだ。歩いているうちに実はエレベーターがあったらしいことに気付いた。あの大きな樹の中でのことを思い出して理子はしかめ面で優一郎を見上げた。
「だからこそ、無いと困るよね? 理子が、理子自身のために作る通路なんだし」
「う、うん。それはそうかも」
理子は何となくそう答えて頷いた。だがそれとこれが一体、どう繋がるのだ。理子は難しい顔をして考え込んだ。が、すぐに口許を押さえて呻く。どうもこの揺れはまずい。ううう、と呻く理子を優一郎が困ったような顔で見る。
「理子。集中して、求めるんだ。理子のための通路としての大樹を」
「ううううう」
気持ち悪い。吐きそう。こんなぐらぐら揺れるの嫌。理子、車とかにも弱いのに。そんなことを思いながら理子は何とか優一郎に言われたものを想像しようとした。が、どうしても地面の揺れが気になってしまう。
不意にその場の空気が揺れる。何事かと目を見張って顔を上げた理子は、唐突に現れた複数の女の姿に息を飲んだ。年頃もまちまちだし、着ているものもばらばら、なのに女たちはタイプは違うがそれぞれがとても美しい容姿をしていた。
「おやまあ……お忙しい方ですなあ。早く行けと仰ったかと思えば、呼び寄せてみたり」
女たちの先頭に立っていたのは、さっき見た薄絹の女だった。手にした扇子を口許に当てて女がほほほ、と笑ってみせる。
「僕が補償としていただいたのは、根だけだったはずなんですけど」
そう言って優一郎はにっこりと笑う。すると女はまたほほほ、と笑ってみせた。
「根を千切られては麗は生きられませぬぞよ」
「もう一度、先ほどの質問をしてよろしいでしょうか?」
そう言ってにっこりと優一郎が笑う。吐き気を堪えて口許を押さえつつ、理子はパパってちょっと意地悪かも。と心の中で呟いた。
「ほほほ。愚問よの。麗は王なくしては生きられぬ故」
「私たちはあのお方の許でしか生きられません」
麗が言った後、別の女が進み出て小声で言う。その目は優一郎を鋭く睨んでいた。目には涙が浮かんでいる。
「全ての方がそうですか?」
「聞くまでもないわいなあ」
のんびりとした口調で言って先頭の女が振り返る。すると背後にいた女たちが頷いた。
「では、空の主よ。さらばじゃ」
妖艶に笑った女が告げるとその場にいた女たちの姿が一瞬で弾けて消える。最後に残った女がほほほ、と笑いを残して塵となって消え失せる。その途端、地面の揺れはぴたりと納まった。
「え……なんで?」
女たちが消えた場所を見つめ、理子は小声で呟いた。
「僕は地上の王の侵犯に対して、正当な要求を出しただけだ。それに対して地上の王は彼女達を見捨てることを選び、彼女達は地上の王に殉じることを選んだ」
それだけだよ。優一郎は静かな表情で女たちが消えた場所を見つめていた。理子は恐る恐るでその場に立ち上がった。
理子を見逃す約を取れるかと思ったけど、甘かったね。優一郎がそう呟く。理子はどう言うべきか判らず、黙って優一郎に近付いた。腕にいつものようにしがみついてみる。
「パパ。帰ろ」
「貰った根を捨てるわけにもいかない。理子は必要ない? 天の城とか見てみたいとは思わない?」
「理子、わかんない」
理子は優一郎の腕にしがみついたまま俯いた。何故か優一郎の腕をつかむ手が震えるのが判る。どうしてだろう、と考えて理子はふと気付いた。理由は判らないが何故か涙が出て止まらないのだ。
声を殺して泣く理子を優一郎が静かに見つめる。
「理子、ごめん。傷つけた? 僕の行ったこと気に入らないと思った?」
気遣う声で優一郎が話しかける。理子は泣き声が漏れるのを必死で我満して首を横に何度も振った。
消えた女たちが命に刻んできたものが見えた。彼女たちは一心にあれを愛していた。踏みつけにされても、見限られても、理子がばい菌と呼ぶあの立城を愛していたのだ。
それがこんな風にあっけなく消えてしまう。だが彼女たちは決して立城を恨んでおらず、また優一郎を憎んでもいなかった。それが理子にはとても切なく感じられたのだ。
何度も深呼吸をして、理子は袖で涙を拭った。
「大丈夫。理子、平気だよっ」
呼吸を整えてから理子はぱっと顔を上げて優一郎に微笑みかけた。
「どうする? 僕が根を使うなら違う用途になるけど」
鈴で可能だったんだから、なんとかなるだろうし。そう言いながら優一郎は少し不安そうな顔をして理子を見つめた。理子は優一郎の腕にしがみついてうん、と頷いた。
「理子は飛べるようになるから平気。だからそれはパパが使って」
「わかった。それじゃあ戻ろうか……」
そう言って優一郎がその場から転移しようとする。が、何故か優一郎は展開しようとした力を戻した。
「いや、ここを副拠点として貰っておいてもいいか」
茜さんの別邸の地下がこんなふうになってるのを放置しておくのは問題ありそうだし。そう続けて優一郎が口許に手を当てる。それを聞いた理子は血相を変えて喚いた。
「えええ!? ここ!? 嫌よ! だってくさいもん!」
それまでの消沈した様とは一転し、理子は元気に叫んだ。
「わかった。臭い匂いは元から絶とうね」
にこやかな笑みを浮かべて優一郎がぱちんと指を鳴らす。すると薄暗い洞穴だった部屋の様子が一変した。でこぼこの壁が消え、変わりに見慣れた研究所のような壁が現れる。床が崩れ、不気味に開いていた入り口が崩れて落ちる。瞬く間にその場は近代的な建物になった。
「あっ、凄い! ほんとに匂い、消えちゃった!」
理子ははしゃいだ声を上げて喜んだ。
「地下鉄も建設しないとね」
「パパ、穴掘り名人だね!」
理子は優一郎の腕にぶら下がってにこにこと笑った。すると優一郎が少し複雑そうな顔をする。だが理子はそのことに気が付かず、上機嫌で歩き出した。
七章終了です。
ちょうど3月も終わりですね!
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○吉良優一郎
違う世界に飛ばされてあれこれ中。
異世界転生ではないので念のためw
理子といちゃいちゃしたい年頃。
○池田理子
多分まだ苗字は変わっていない。
でも優一郎と違う世界で冒険中。
○立城(別のとこの方)
水輝(別のとこの方)を好きすぎて偽物は要らん、と思ってる。
落っこちてきた沙耶を保護していた。
○沙耶
立城の子供を産んだ後に立城(別のとこの方)に保護された。
違う世界であれこれ見て開き直ったところ。
○池田水輝
青いとこで好き放題にいちゃいちゃ中。
佑とのシーンが多い。
実は奈月ともやりまくっているのだが。
でもそっちは人に見せるつもりはないぽい。
○吉良瀬佑
水輝と一緒なので幸せなのだろうと思われ。
水輝を子供扱いしたりしている。
○吉良瀬奈月
今回は総一郎さんに呼ばれて違う世界で研究のお手伝いをした。
桜も一緒である。
○桜
奈月と一緒なら他は割とどーでもいいと思っている。
今回は覗く形になってしまったので理子にどつかれた。
大抵、誰かにどつかれている。
○吉良瀬立城
水輝が思い通りにならないのでイラッている。
麗を始めとする使い魔を調教したりしている。
優一郎に使い魔をかなり潰された。
○重森葛葉
かなり前に書いたので(略
和也の妹。