※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンは……あ。
ラストにちょこっとBL風味のがあります!
ちょっとだけでそれっぽいと書いてあるだけですけども!


ほーむらーーーん!

『水輝さんっ! こっち!』

『あー?』

 

 佑に呼ばれて水輝はのろのろと顔を上げた。佑が身軽にベッドを飛び降り、ソファの方に向かっていく。見えないソファの前には大きな水鏡が出しっぱなしになっている。水輝はよいしょ、と身体を起こし、奈月と一緒に鏡に近付いた。

 

『優一郎の奴、戻って来てるわ。多輝のところに直行すると思ったのに……』

 

 おしおきのほうを先にするなんて、珍しいわね。先に水鏡の前に腰掛けていた佑が言う。鏡の中には不気味な赤い巣穴が映っていた。水輝は佑の横に腰掛けてから指を鳴らした。すると乱れていた佑の服が元通りになり、水輝の身体にも服がまとわりつく。

 

『奈月。悪いが経過報告を頼む。それと……ごめん、お茶飲みたい』

 

 そう言って水輝は奈月を拝む真似をした。

 

『はい、えっと』

 

 あたふたと周囲を見回してから、奈月は頷いて空間の隅に向かって駆け出した。

 

『とりあえず、お茶煎れてきます』

『紅茶でよろしくなー』

 

 離れていく奈月に向かって声をかけてから、水輝は水鏡に目を戻した。

 

『一触即発か。おお、速い』

 

 あっという間に優一郎の薙刀が克人を縦に真っ二つにしてしまう。水輝は素早く鏡に映る者たちを観察した。優一郎と克人、それに理子。もう一人知らない女が居る。

 

『斬ったの? 優一郎が? うそっ??』

『覚悟決めたら迷わないって言ったのはお前だろう? ほーん……あれ、真也のか』

 

 水鏡の中で唯一見覚えのない女を見つめ、水輝は口の中で呟いた。そうしている間にも優一郎と会話をした女がその場から姿を消す。

 

『真也……さん?』

 

 不思議そうな顔をしてしばし黙した佑があ、と声を上げる。

 

『おじさまの弟さん? どうしてそれが関係が……?』

『さっきの女、あれは真也の力を分けたもんなんだよ』

 

 そう言って水輝は深く背もたれに寄りかかった。水鏡の中では優一郎が克人の亡骸に寄り、中から力を引っ張り寄せている。

 

『何をするつもり?』

『そりゃ、優一郎に訊いてくれ……あ。奈月、ここに座れ』

 

 手際よく二人分の紅茶を用意してくれた奈月に手招きをし、水輝は自分の右側を指差した。左には佑が座り、右に奈月が腰掛ける。両手に花、と呟いて水輝は水鏡にまた目を戻した。

 

『ほーむらんですか?』

 

 奈月が不思議そうな顔をして首を傾げる。優一郎が寄せた克人の力は虹色の珠となり、それは巣穴の壁を突き抜けて見えなくなってしまった。それを見た水輝はひくひくと頬を引きつらせた。

 

『わたしにって、まさかここに!?』

 

 慌てた声を上げて佑が忙しなく周囲に目を向け、警戒心露わな顔をする。落ち着けと声を掛けてから水輝はティカップを取り上げた。深々と息を吐いてから紅茶を啜る。

 

『優一郎が使った宝珠がなあ……。あいつも無茶しやがる』

 

 虹色の珠は優一郎に撃たれて時を超えたのだ。

 

『……!』

 

 驚いたように息を飲み、佑が食い入るように水鏡を見る。水輝は静かにティカップを傾け、いれたてのお茶を注意深く啜った。

 

『ちょっと……これ、誰? ほんとに優一郎なの?』

『他に誰だって言うんだよ。あー、ややこしいことになってきたなあ』

 

 ため息混じりに言ってから水輝は奈月に目をやった。戸惑った顔をしている奈月を促し、総一郎の許で何があったのかを話してもらう。どうやらあっちで総一郎と優一郎は接触をしたらしい。

 

『総一郎さんは、話はついたから、もう大丈夫だって……おっしゃってました。桜さんを礎樹にする必要も無くなったって……』

『そうか。神籬にするにはちょっと性格がそぐわないしなー……』

 

 独り言のように呟いて水輝は目を細めた。予想通り、優一郎の許に複数の女が現れ、その場で命が消える。

 

『まあ、葛葉が生きてたんなら問題なかっただろう。しかししぶといな、あの女も』

 

 そう呟いて水輝は紅茶を啜った。一緒に出されていたビスケットを口に放り込み、茶を飲み干す。すると奈月がタイミングよく水輝のカップにお代わりを注ぐ。

 

『木様っ! なぜ、わたくしとの約定をっ!』

『おお?』

 

 唐突に檻から聞こえてきた桜の声に水輝は軽い驚きの声を上げた。

 

『あのな。ふるくさーいお前との約定なんぞ、すっかり無効になってんだよ。あんまりうるせえと、まじで神籬にすんぞ、てめえ』

 

 低く不機嫌な声で水輝は檻に向かって言った。

 

『ですがっ! 青龍王、我が妹たちが……』

『使い魔は基本的に使い捨てられるから使い魔って呼ばれてんだよ。てめえの頭は一体、いつの時代で止まってやがる』

 

 仏頂面で剣呑に言い、水輝は静かにカップを傾けた。水鏡に映る二人の周囲に近代的な建築物が現れる。くそ、好き放題しやがって、と水輝はカップの中に毒づいた。

 

『ちょっと、ここまでやる?』

 

 怒りを露わにして佑が口の中で呟く。お前が怒るなよ、と笑って水輝は佑の頭を撫でた。

 

『仕方ねえなあ……。おい、今日の翠のミルクの時間はそろそろか?』

 

 水輝はゆらりと立ち上がって佑に訊ねた。

 

『あれ、翠? 翠っ!?』

『取り込み中のところ、失礼する』

 

 不意にその場の空気が揺れ、翠色の光が現れた直後、そこに青年の姿にまで成長した翠が現れた。その頭には大きなたんこぶが一つ出来ている。

 

『直撃か』

 

 水輝は苦笑をして翠に言った。すると翠がごく僅かに眉を寄せる。どうやら優一郎が撃ったあの珠が翠の頭にクリーンヒットしたらしい。

 

『貴様のだろう?』

『あんたねー、母親に向かって貴様はないでしょう!』

 

 尊大に言った翠に佑がヒステリックな声で言い返す。そんな二人を笑いながら、水輝は少しソファから離れた。軽く腕を振ると手の中に青い宝珠が現れる。その場で軽くジャンプしながら、水輝は手の中で変じた刀を肩に乗せた。

 

『翠はちょっと妙な動き方をするからなあ……覚えてりゃいいが……』

 

 ぶつぶつと口の中で呟いて水輝は空間の端に移動した。軽く刀を振ると空間の端が広がり、青い空間そのものが広くなる。

 

『おい、翠。準備運動だ。相手しろ』

 

 だが翠は水輝を無視し、足早に奈月に近付いた。虹色の珠を佑に放った翠が戸惑った顔をする奈月にいきなり抱きつく。

 

『何してるてめえ!』

 

 一瞬で翠に駆け寄り、水輝はその後頭部をぶん殴った。

 

『なぜ殴る?』

『おれの奈月に抱きつきやがるからだ! いいからさっさと離せ!』

 

 怒声を上げて水輝は翠の身体を引っ張った。

 

『えっと、あの、翠さん! その……』

 

 奈月は翠に抱きつかれて真っ赤になっている。翠はだが何故か奈月から手を離そうとしない。苛々しながら水輝は離せ、と喚いて翠の頭をつかんで揺すった。

 

『つっ』

 

 小さな声を漏らして翠が頭のこぶを押さえてうずくまる。すると奈月が慌てた声をあげて翠の傍に屈んだ。

 

『翠さんっ!』

『ざまみろ。これに懲りたら奈月に抱きつくなよ』

 

 胸を張って水輝は鼻で笑った。そんなやり取りをする三人の傍で、佑が一人で頷く。

 

『うん。わかった。えいっ!』

 

 佑の手からふわりと浮いた珠が虹色の光を放ち、その場に小さな妖精のような女の子が現れる。翠をいたぶるのを中断し、水輝は不思議に思いながら佑に近付いた。

 

『なんだ。それ』

 

 そう言いながら水輝は指でつんつんと虹色のそれをつついた。

 

『この娘は清香よ。ほら、水輝さんにご挨拶しなさい』

 

 佑が促すと清香と呼ばれたそれがぺこりと頭を下げる。水輝は清香をつつく手をぴたりと止め、うろんな目で佑を見た。

 

『あんまり言いたくないが、その名前には聞き覚えがあるんだが……』

『……?』

 

 怪訝そうな顔をして佑が首を傾げる。まあいいか、と呟いてから水輝はくるりと振り返った。そこには頭を押さえて呻く翠と、それを慰める奈月が居る。水輝はため息を吐いてから翠の背を鞘入りの刀でどついた。

 

『おい。てめえが駄目なら順を出せ。身体を動かさないと話にならんだろうが』

 

 おらおら、と言いながら水輝は鞘で何度か翠の背を突いた。

 

『む』

 

 顔をしかめて呟いた翠が、いかにも面倒そうに腕を上げる。その直後、青い空間に甘ったるい声が響いた。水輝は歯を軋らせて声のする方を見た。ベッドに現れた順が身悶えしながら喘いでいる。

 

『おまえらなあ……』

『あ? またお前らか!』

 

 順をせっせと犯していた和也が目を吊り上げて怒鳴る。水輝はうろんな目でベッドの二人を見てから深々とため息を吐いた。




翠はマイペースなので水輝はいつも振り回されてます。
いつの時代もなので水輝自身もある程度は諦めがついているとは思います。
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